九月十二日、金曜日。
ノースブリッジの映像で、相手の右サイドの選手は、何度も内側へ走っていた。
左のオコンネルが外へ出れば、その背中へ入る。中に残れば、外の選手が前へ運ぶ。
ヘイルは映像を止めた。
「ここを、三人で受け渡します」
エリス、ハーパー、オコンネルを順番に見た。
ヴォルフは横で頷いたが、少し後に別の映像を開いた。
ノースブリッジがボールを失った直後だった。
前線の選手が、すぐに相手のアンカーへ戻る道を閉じる。サイドの選手は、外へ逃がすパスを追う。
「こちらが奪った後も、見ておきたいです」
彼が言った。
ヘイルは頷いた。
ブアリへ最初のパスをつけられれば、相手の圧力を外せる。
その次に、左右のインサイドハーフが受ける。
いつもの出口だった。
ノースブリッジは、その出口へ先に立っていた。
*
練習では、相手役へ同じ寄せ方をさせた。
ブアリが中央で受け、右へ身体を向ける。
カールンは、相手の中盤の背中へ立っている。
パスを通そうとすると、道が細い。
後ろへ戻した。
マーサーが外へ出す。
フェンウィックからウォードへ。
相手役が寄り、タッチラインの近くへ追い込む。
ウォードが中央へ返すと、ブアリが受けた。
今度は前を向けた。
ヘイルは、そこで少し安心した。
同じ形を、試合でも作れるはずだった。
ヴォルフは、相手役の選手へ近づいた。
「戻す瞬間、もう少し内側を消せますか」
選手が頷く。
再開後は、ウォードからの戻しが通らなかった。
ヘイルは時計を見た。
開幕から数週間で、練習の説明は増えている。明日のために全部を修正しようとすれば、身体を休める時間がなくなる。
「最後は、長く出しても構いません」
彼は全員へ伝えた。
それが、十分な代案になっていたかは、まだ分からなかった。
*
同じ日に、プライスが再びトップの練習へ参加した。
相手役の右インサイドハーフとして入る時間があった。
カールンが向かいにいる。
初めて近くで見ると、ボールの置き方は、自分が考える場所より半歩遠かった。届きそうだと思って足を出すと、その先へ動く。
一度、完全に抜かれた。
次は足を出さず、前へ向く道を塞いだ。
カールンは横へ渡した。
プライスは、その場で止まりかけた。
後ろから、ヴォルフの声が来た。
「次も動け! ノア、止まるな!」
カールンが動き直している。
プライスは追い、どうにかパスコースへ戻った。
ボールは別の場所へ出た。
勝った、とは思わなかった。
ただ、一回抜かれなかった後も、仕事は終わらなかった。
休みに入ると、カールンが水を飲みながらこちらを見た。
「ノア?」
プライスは頷いた。
「レナルト」
「知ってる」
思わず答えると、相手が笑った。
「さっき、二回目は足を出さなかったね」
「出したら抜かれたので。もう、出したくなくて」
「だよね。出してくれたら、もう一回行けたのに」
プライスも少し笑った。
同じ年齢だった。
しかし、同じ一つの席を、今すぐ争っているわけではなかった。
相手の足元の技術を見て、遠いと思う。
その相手が、自分が何をしたかを見ていたことは、覚えておきたかった。
*
九月十三日、土曜日。
ノースブリッジのスタジアムで、最初に変わったのは音だった。
ブリストルが後ろへ戻すと、ホームの客席が一斉に声を上げる。
前へ出ろという声ではない。
そこへ追い込めという声だった。
佐々木がマーサーから受け、右へ出した。
フェンウィックへ相手が走る。
ウォードは外にいた。
パスが来る前に、相手の左サイドの選手が中央から外へ寄った。
ウォードはボールを止め、内側へ戻そうとした。
ブアリへの道に、相手の足があった。
もう一度、後ろへ。
フェンウィックは、すでに寄せられていた。
長く蹴る。
クルーニーが競ったが、頭へ当てるだけになった。
下には相手の中盤が二人いた。
ブリストルは、攻撃を始める前に、また守ることになった。
*
十三分、先制された。
カールンが少し下りて受ける。
相手が背中から来る。左足へ置いて外そうとすると、もう一人が前へ足を出した。
奪われた。
カールンは追った。
しかし、相手はボールを足元へ持たず、一度で横へ渡した。
ブアリが出る。
その背中へ、相手の攻撃的ミッドフィールダーが入った。
フェンウィックは外へ寄っていた。
マーサーが前へ出た。
その脇を通された。
佐々木が距離を詰めたが、逆側へ流し込まれた。
〇対一。
カールンは中央で立ち、両手を膝へ置いた。
ヘイルはタッチラインで名前を呼んだ。
若者が顔を上げる。
「レナルト、顔を上げて! 近いパスから続けよう!」
カールンは頷いた。
ただ、近いところへ出す相手も、相手チームには見えていた。
*
ハーパーは左でボールへ近づいた。
エリスから受け、右足で中央へ向く。
相手の中盤が待っていた。
後ろへ戻す。
次はブアリが近づいた。
二人が低い場所へ集まると、ウルンの前に人がいなくなった。
ウルンも下りた。
クルーニーだけが、三人の守備者の間に残った。
ヘイルはウルンへ前に残るよう指した。
ヴァレンティが隣へ来た。
「全員、助けに来ています。そこへ全員下がったら、エリだけ前です」
ヴァレンティが前線を指した。
「ジャンを残しましょう。相手が前へ出るのを、一回止めたい」
ヘイルは頷いた。
何度も練習で話したことだった。
だが、目の前でボールが出てこなくなると、選手は自分から助けに行く。その一つ一つは、怠けた判断ではなかった。
助けようとして、全体が低くなる。
そのままでは、長いボールの先へ入る選手も減っていく。
*
ハーフタイム、ロッカールームは静かだった。
ヘイルは映像を一本だけ見せた。
クルーニーが頭へ当てた後、周りには誰もいない。
「ここへ、近づく選手を決めます」
ウルンへ向き直った。
「エリが競る間、下りるのを待ってください。横へ落ちるボールを拾いたい」
ハーパーには、左から中央へ入りすぎないよう伝えた。
相手が中へ集まるなら、その外で受ける。
カールンには、受ける前に前を向けるかを確かめ、背中を向けているときは最初のパスを短くするよう話した。
ヴォルフが守備の距離を確認した。
マーサーは、止まった映像の中央を指した。
「ここ、俺の前に二人いる。ベン――アイユブ。一回、下へ戻ってくれ。お前まで前へ出たら、俺も出るしかない」
ブアリはすぐには答えず、画面の左端を見た。
「戻ります。ただ、ここで残ると、相手の中盤は前を向けます。ルイスが外にいる間は、僕一人で両方へ行けない」
「前、向かせていい。そいつが持ってる間に、俺たちが詰める。後ろへ通されるよりましだ」
ヘイルが映像を少し戻した。
「そこは、僕の整理が足りませんでした。後半は、ルイスが外へ出ているとき、アイユブは中央を残してください」
「分かりました。奪いに行くのは、ルイスが中へ戻ってからですね」
「ええ。相手が後ろ向きで――いや、まず、その条件で揃えましょう」
ヘイルは言葉を切り、前線の配置へ移った。
マーサーがブアリへ、手を低く出した。若者が合わせる。
「呼び間違えた。悪いな」
「聞こえました」
「どっちの名前が」
「両方です。後の方で戻ります」
マーサーの口元が動いた。
「そうしてくれ」
ブアリはタオルを畳んだ。前へ出ずに待つ時間も、自分が決める仕事に入っていた。
*
後半の最初、ブリストルは一度だけ相手を越えた。
佐々木が中央へ出さず、クルーニーの右側へ長く蹴る。
クルーニーが競り、ウルンが拾った。
相手の中盤は後ろへ走る。
ウルンが前を向き、左のハーパーへ渡した。
エリスが外を上がる。
相手が開いた。
ハーパーは中央へ入れた。
クルーニーが足を出し、シュートを打った。
キーパーが弾いた。
ウルンが詰めたが、守備者が先に外へ出した。
アウェーの客席が声を上げた。
できる。
その感覚は、一度戻った。
しかし、ノースブリッジは次から、競り合うクルーニーの脇へ中盤を残した。ウルンが拾う場所を先に埋める。
同じ道は、二度目には狭くなっていた。
*
六十八分、コーナーキックから二点目を失った。
相手は手前へ二人を走らせた。
マーサーがそちらを見る。オコンネルは中央の相手へ身体を寄せた。
後ろから、一人が入ってきた。
佐々木が出かける。
中央で味方と相手が重なった。
手は、届かなかった。
頭で落とされたボールを、ゴール前で押し込まれた。
〇対二。
佐々木は倒れたまま、一度芝生へ手をついた。
立ち上がると、マーサーがボールを持っていた。
二人は何も言わず、目を合わせた。
誰が触るはずだったのか、すぐには一人に決められない場面だった。
その後、エル・マリとショーを入れた。
左の外から仕掛ける回数は増えたが、点にはならなかった。
終了の笛が鳴ると、ノースブリッジの選手たちは互いに肩を抱いた。
ブリストルの選手は、客席へ歩いた。
勝つための道を、その日の相手に消された試合だった。
*
ロッカールームで、カールンは靴紐をほどくのに時間がかかった。
強く締めすぎたわけではない。足元を見ていれば、誰かと目を合わせなくて済んだ。
最初の失点は、自分が取られたところから始まった。
ハーパーが隣へ座った。
「最初、俺が寄りすぎた」
カールンは靴紐を引いた。
「別に。取られたの、僕だし」
「いや、戻す場所がなかったろ。お前が取られたから全部それ、って話じゃない」
二人は、少し黙った。
誰かが悪くなかったと言えば、すべてが消える話ではない。カールンには、取られずに戻せたかもしれない判断があった。
ハーパーにも、助けるつもりで近づき、相手まで中央へ呼んだ場面があった。
「二人でも、抜けると思った。いつもなら、あそこへ置けば……」
カールンは膝の上で指を動かした。途中でやめた。
「相手が、もう一人待ってた」
「見たって。見えなかったんじゃない。見えてたのに、行けると思ったんだよ」
ハーパーは頷いた。
自分も、通ると思ったのではなく、通したくて出したパスがあった。
ヘイルにその違いを聞かれたことを、覚えていた。
「次、戻せるところにいるから」
ハーパーが言うと、カールンは顔を上げた。
「また近すぎたら、出せないよ」
「分かってるよ。だから、俺も直すって言ってるんだろ」
二人は、ようやく少し笑った。
カールンは靴を脱いだ。
ヴァレンティが近づき、明日は回復を優先すると伝えた。
「取られた分を、今夜走って返す必要はありません」
カールンは顔を上げた。
「走ろうとは思ってない」
「なら、映像も今夜は終わり。十回見ても、さっきの一球は戻りません。月曜、一緒にやるよ」
カールンは膝の上の携帯電話を伏せた。
何回見れば、次の試合でうまくいくかを、今は数えられなかった。
*
帰りのバスで、クルーニーは自分がボールへ触った場面を見返した。
競る。落ちる。相手が拾う。
何度も同じだった。
「あんなに来ないなら、俺も下りればよかった?」
ウルンは首を振った。
「君まで来たら、前は誰?」
「でも、触れなかったじゃん。競って、取られて、また走って。ずっとそれ」
「分かってる。僕も下りすぎた。君まで戻ってきたら、今度は出すところがなくなる」
クルーニーは画面を止めた。
監督から聞いたことが、自分ではなく相棒の口から戻ってきた。
今日は待っても、ボールが来なかった。
それでも、待つことが間違いだとは限らない。
「次は、もう少し近くで拾う」
ウルンが言った。
「もう少し? 全部来てよ」
「それなら全部競り勝って」
クルーニーは何か言いかけ、息を吐いた。二人とも、画面の同じ場所を見ていた。
前の席では、ブアリがイヤホンを外し、マーサーへ何か話しかけていた。
六番を着ていても、まだ聞くことはある。
クルーニーは携帯電話を閉じ、椅子へ頭を預けた。
*
佐々木は、帰ってからコーチへ連絡した。
二失点目のクロスについて、出る判断を確かめたかった。
返信には、映像を用意するとあった。同時に、今日すぐに結論を出さないよう書かれていた。
佐々木はグローブを袋から出し、乾かすために広げた。
ベルが得意とする場面で、また失点した。
そう考えると、次は自分が外れるのではないかと、先に気持ちが動いた。
しかし、ヘイルはまだ次の選考を決めていない。自分の中で比較を始めても、あのボールの高さや相手の進路は変わらなかった。
映像を一度だけ開き、ボールが蹴られる前を見た。
相手の選手が二人、中央へ走り始めている。
誰がそこへ来るかを、味方とどこまで確認できていたか。
コーチへ、聞きたいことを二つ送った。
それから画面を閉じた。
*
スタッフの部屋で、ヘイルはヴォルフとヴァレンティへ練習計画を示した。
月曜日に、中央で相手の寄せ方を変えるメニューを入れたいと言った。
ヴァレンティは、前線の距離を先に確認したいと答えた。
ヴォルフは、二失点目のセットプレーを別に扱う必要があると話した。
三つとも必要だった。
全部を長くやる時間はない。
ヘイルは、いつものように自分が最後に順番を決めようとして、手を止めた。
「僕が話していない時間で、二人に何を見てほしいかも決めましょう」
ヴォルフが頷いた。
「攻撃の練習中、私は失った後の距離を見ます」
「守備の練習では、奪った後の受け手を見ます」
ヴァレンティが続けた。
ヘイルはノートへ書いた。
一つの失敗を、三つの説明にして選手へ渡す必要はない。
スタッフが先に、同じ場面を一緒に見なければならなかった。
最後に、コールから届いた連絡を開いた。
セットプレー指導に詳しいコーチについて、話せる相手がいるという。
ヘイルは映像を一度閉じた。
負けた夜に人を呼べば、すべてが直るとは思わない。
ただ、直すために必要な人を探せることは、このクラブの強みだった。
候補者に、まず最近の数試合を見てもらってほしい。
そう返信した。
*
翌朝、コールはアル=ラシードから電話を受けた。
オーナーは、試合を最後まで見ていた。
「あれほど中央を閉じられたら、監督はどうするつもりだ」
最初の質問は具体的だった。
コールは、スタッフが出口の作り方と前線の距離を見直していると答えた。
「その説明は、本人から聞こう。次の定例でいい。今、呼び出す話ではないぞ」
アル=ラシードは言った。
「選手を替えろと言っているんじゃない。あの相手に、次は何をするつもりか。それを聞かせてほしい」
「伝えます」
コールは答えた。
敗戦の朝に電話があれば、現場ではそれだけで意味を推測する人間が出る。だから、何を求められたかを、正確に監督へ伝えなければならなかった。
「専門のコーチについても、候補を見ています」
「必要な仕事があるなら、進めてくれ。ただし、何を担当させるかを先に決めるんだろう」
「ええ。その順番です」
コールは、八月に確認した権限表を思い出した。
監督へ任せることと、オーナーが何も聞かないことは違う。
同じように、結果を説明することと、毎回の選考に承認をもらうことも違った。
電話を終え、ヘイルへ要件を送った。
次の定例で、相手の対策への対応を説明してほしい。選考への指示はない。
監督からは、分かりました、と戻ってきた。
続けて、整理したい映像が三本あると届いた。
コールは予定表を開き、財務と採用の確認とは別に、その時間を取った。
負けた翌日にも、決めておいた窓口は使えた。