どうやら金はあるらしい   作:おずわるどー

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【2025/26・第20話】道を消される

 九月十二日、金曜日。

 

 ノースブリッジの映像で、相手の右サイドの選手は、何度も内側へ走っていた。

 

 左のオコンネルが外へ出れば、その背中へ入る。中に残れば、外の選手が前へ運ぶ。

 

 ヘイルは映像を止めた。

 

「ここを、三人で受け渡します」

 

 エリス、ハーパー、オコンネルを順番に見た。

 

 ヴォルフは横で頷いたが、少し後に別の映像を開いた。

 

 ノースブリッジがボールを失った直後だった。

 

 前線の選手が、すぐに相手のアンカーへ戻る道を閉じる。サイドの選手は、外へ逃がすパスを追う。

 

「こちらが奪った後も、見ておきたいです」

 

 彼が言った。

 

 ヘイルは頷いた。

 

 ブアリへ最初のパスをつけられれば、相手の圧力を外せる。

 

 その次に、左右のインサイドハーフが受ける。

 

 いつもの出口だった。

 

 ノースブリッジは、その出口へ先に立っていた。

 

 *

 

 練習では、相手役へ同じ寄せ方をさせた。

 

 ブアリが中央で受け、右へ身体を向ける。

 

 カールンは、相手の中盤の背中へ立っている。

 

 パスを通そうとすると、道が細い。

 

 後ろへ戻した。

 

 マーサーが外へ出す。

 

 フェンウィックからウォードへ。

 

 相手役が寄り、タッチラインの近くへ追い込む。

 

 ウォードが中央へ返すと、ブアリが受けた。

 

 今度は前を向けた。

 

 ヘイルは、そこで少し安心した。

 

 同じ形を、試合でも作れるはずだった。

 

 ヴォルフは、相手役の選手へ近づいた。

 

「戻す瞬間、もう少し内側を消せますか」

 

 選手が頷く。

 

 再開後は、ウォードからの戻しが通らなかった。

 

 ヘイルは時計を見た。

 

 開幕から数週間で、練習の説明は増えている。明日のために全部を修正しようとすれば、身体を休める時間がなくなる。

 

「最後は、長く出しても構いません」

 

 彼は全員へ伝えた。

 

 それが、十分な代案になっていたかは、まだ分からなかった。

 

 *

 

 同じ日に、プライスが再びトップの練習へ参加した。

 

 相手役の右インサイドハーフとして入る時間があった。

 

 カールンが向かいにいる。

 

 初めて近くで見ると、ボールの置き方は、自分が考える場所より半歩遠かった。届きそうだと思って足を出すと、その先へ動く。

 

 一度、完全に抜かれた。

 

 次は足を出さず、前へ向く道を塞いだ。

 

 カールンは横へ渡した。

 

 プライスは、その場で止まりかけた。

 

 後ろから、ヴォルフの声が来た。

 

「次も動け! ノア、止まるな!」

 

 カールンが動き直している。

 

 プライスは追い、どうにかパスコースへ戻った。

 

 ボールは別の場所へ出た。

 

 勝った、とは思わなかった。

 

 ただ、一回抜かれなかった後も、仕事は終わらなかった。

 

 休みに入ると、カールンが水を飲みながらこちらを見た。

 

「ノア?」

 

 プライスは頷いた。

 

「レナルト」

 

「知ってる」

 

 思わず答えると、相手が笑った。

 

「さっき、二回目は足を出さなかったね」

 

「出したら抜かれたので。もう、出したくなくて」

 

「だよね。出してくれたら、もう一回行けたのに」

 

 プライスも少し笑った。

 

 同じ年齢だった。

 

 しかし、同じ一つの席を、今すぐ争っているわけではなかった。

 

 相手の足元の技術を見て、遠いと思う。

 

 その相手が、自分が何をしたかを見ていたことは、覚えておきたかった。

 

 *

 

 九月十三日、土曜日。

 

 ノースブリッジのスタジアムで、最初に変わったのは音だった。

 

 ブリストルが後ろへ戻すと、ホームの客席が一斉に声を上げる。

 

 前へ出ろという声ではない。

 

 そこへ追い込めという声だった。

 

 佐々木がマーサーから受け、右へ出した。

 

 フェンウィックへ相手が走る。

 

 ウォードは外にいた。

 

 パスが来る前に、相手の左サイドの選手が中央から外へ寄った。

 

 ウォードはボールを止め、内側へ戻そうとした。

 

 ブアリへの道に、相手の足があった。

 

 もう一度、後ろへ。

 

 フェンウィックは、すでに寄せられていた。

 

 長く蹴る。

 

 クルーニーが競ったが、頭へ当てるだけになった。

 

 下には相手の中盤が二人いた。

 

 ブリストルは、攻撃を始める前に、また守ることになった。

 

 *

 

 十三分、先制された。

 

 カールンが少し下りて受ける。

 

 相手が背中から来る。左足へ置いて外そうとすると、もう一人が前へ足を出した。

 

 奪われた。

 

 カールンは追った。

 

 しかし、相手はボールを足元へ持たず、一度で横へ渡した。

 

 ブアリが出る。

 

 その背中へ、相手の攻撃的ミッドフィールダーが入った。

 

 フェンウィックは外へ寄っていた。

 

 マーサーが前へ出た。

 

 その脇を通された。

 

 佐々木が距離を詰めたが、逆側へ流し込まれた。

 

 〇対一。

 

 カールンは中央で立ち、両手を膝へ置いた。

 

 ヘイルはタッチラインで名前を呼んだ。

 

 若者が顔を上げる。

 

「レナルト、顔を上げて! 近いパスから続けよう!」

 

 カールンは頷いた。

 

 ただ、近いところへ出す相手も、相手チームには見えていた。

 

 *

 

 ハーパーは左でボールへ近づいた。

 

 エリスから受け、右足で中央へ向く。

 

 相手の中盤が待っていた。

 

 後ろへ戻す。

 

 次はブアリが近づいた。

 

 二人が低い場所へ集まると、ウルンの前に人がいなくなった。

 

 ウルンも下りた。

 

 クルーニーだけが、三人の守備者の間に残った。

 

 ヘイルはウルンへ前に残るよう指した。

 

 ヴァレンティが隣へ来た。

 

「全員、助けに来ています。そこへ全員下がったら、エリだけ前です」

 

 ヴァレンティが前線を指した。

 

「ジャンを残しましょう。相手が前へ出るのを、一回止めたい」

 

 ヘイルは頷いた。

 

 何度も練習で話したことだった。

 

 だが、目の前でボールが出てこなくなると、選手は自分から助けに行く。その一つ一つは、怠けた判断ではなかった。

 

 助けようとして、全体が低くなる。

 

 そのままでは、長いボールの先へ入る選手も減っていく。

 

 *

 

 ハーフタイム、ロッカールームは静かだった。

 

 ヘイルは映像を一本だけ見せた。

 

 クルーニーが頭へ当てた後、周りには誰もいない。

 

「ここへ、近づく選手を決めます」

 

 ウルンへ向き直った。

 

「エリが競る間、下りるのを待ってください。横へ落ちるボールを拾いたい」

 

 ハーパーには、左から中央へ入りすぎないよう伝えた。

 

 相手が中へ集まるなら、その外で受ける。

 

 カールンには、受ける前に前を向けるかを確かめ、背中を向けているときは最初のパスを短くするよう話した。

 

 ヴォルフが守備の距離を確認した。

 

 マーサーは、止まった映像の中央を指した。

 

「ここ、俺の前に二人いる。ベン――アイユブ。一回、下へ戻ってくれ。お前まで前へ出たら、俺も出るしかない」

 

 ブアリはすぐには答えず、画面の左端を見た。

 

「戻ります。ただ、ここで残ると、相手の中盤は前を向けます。ルイスが外にいる間は、僕一人で両方へ行けない」

 

「前、向かせていい。そいつが持ってる間に、俺たちが詰める。後ろへ通されるよりましだ」

 

 ヘイルが映像を少し戻した。

 

「そこは、僕の整理が足りませんでした。後半は、ルイスが外へ出ているとき、アイユブは中央を残してください」

 

「分かりました。奪いに行くのは、ルイスが中へ戻ってからですね」

 

「ええ。相手が後ろ向きで――いや、まず、その条件で揃えましょう」

 

 ヘイルは言葉を切り、前線の配置へ移った。

 

 マーサーがブアリへ、手を低く出した。若者が合わせる。

 

「呼び間違えた。悪いな」

 

「聞こえました」

 

「どっちの名前が」

 

「両方です。後の方で戻ります」

 

 マーサーの口元が動いた。

 

「そうしてくれ」

 

 ブアリはタオルを畳んだ。前へ出ずに待つ時間も、自分が決める仕事に入っていた。

 

 *

 

 後半の最初、ブリストルは一度だけ相手を越えた。

 

 佐々木が中央へ出さず、クルーニーの右側へ長く蹴る。

 

 クルーニーが競り、ウルンが拾った。

 

 相手の中盤は後ろへ走る。

 

 ウルンが前を向き、左のハーパーへ渡した。

 

 エリスが外を上がる。

 

 相手が開いた。

 

 ハーパーは中央へ入れた。

 

 クルーニーが足を出し、シュートを打った。

 

 キーパーが弾いた。

 

 ウルンが詰めたが、守備者が先に外へ出した。

 

 アウェーの客席が声を上げた。

 

 できる。

 

 その感覚は、一度戻った。

 

 しかし、ノースブリッジは次から、競り合うクルーニーの脇へ中盤を残した。ウルンが拾う場所を先に埋める。

 

 同じ道は、二度目には狭くなっていた。

 

 *

 

 六十八分、コーナーキックから二点目を失った。

 

 相手は手前へ二人を走らせた。

 

 マーサーがそちらを見る。オコンネルは中央の相手へ身体を寄せた。

 

 後ろから、一人が入ってきた。

 

 佐々木が出かける。

 

 中央で味方と相手が重なった。

 

 手は、届かなかった。

 

 頭で落とされたボールを、ゴール前で押し込まれた。

 

 〇対二。

 

 佐々木は倒れたまま、一度芝生へ手をついた。

 

 立ち上がると、マーサーがボールを持っていた。

 

 二人は何も言わず、目を合わせた。

 

 誰が触るはずだったのか、すぐには一人に決められない場面だった。

 

 その後、エル・マリとショーを入れた。

 

 左の外から仕掛ける回数は増えたが、点にはならなかった。

 

 終了の笛が鳴ると、ノースブリッジの選手たちは互いに肩を抱いた。

 

 ブリストルの選手は、客席へ歩いた。

 

 勝つための道を、その日の相手に消された試合だった。

 

 *

 

 ロッカールームで、カールンは靴紐をほどくのに時間がかかった。

 

 強く締めすぎたわけではない。足元を見ていれば、誰かと目を合わせなくて済んだ。

 

 最初の失点は、自分が取られたところから始まった。

 

 ハーパーが隣へ座った。

 

「最初、俺が寄りすぎた」

 

 カールンは靴紐を引いた。

 

「別に。取られたの、僕だし」

 

「いや、戻す場所がなかったろ。お前が取られたから全部それ、って話じゃない」

 

 二人は、少し黙った。

 

 誰かが悪くなかったと言えば、すべてが消える話ではない。カールンには、取られずに戻せたかもしれない判断があった。

 

 ハーパーにも、助けるつもりで近づき、相手まで中央へ呼んだ場面があった。

 

「二人でも、抜けると思った。いつもなら、あそこへ置けば……」

 

 カールンは膝の上で指を動かした。途中でやめた。

 

「相手が、もう一人待ってた」

 

「見たって。見えなかったんじゃない。見えてたのに、行けると思ったんだよ」

 

 ハーパーは頷いた。

 

 自分も、通ると思ったのではなく、通したくて出したパスがあった。

 

 ヘイルにその違いを聞かれたことを、覚えていた。

 

「次、戻せるところにいるから」

 

 ハーパーが言うと、カールンは顔を上げた。

 

「また近すぎたら、出せないよ」

 

「分かってるよ。だから、俺も直すって言ってるんだろ」

 

 二人は、ようやく少し笑った。

 

 カールンは靴を脱いだ。

 

 ヴァレンティが近づき、明日は回復を優先すると伝えた。

 

「取られた分を、今夜走って返す必要はありません」

 

 カールンは顔を上げた。

 

「走ろうとは思ってない」

 

「なら、映像も今夜は終わり。十回見ても、さっきの一球は戻りません。月曜、一緒にやるよ」

 

 カールンは膝の上の携帯電話を伏せた。

 

 何回見れば、次の試合でうまくいくかを、今は数えられなかった。

 

 *

 

 帰りのバスで、クルーニーは自分がボールへ触った場面を見返した。

 

 競る。落ちる。相手が拾う。

 

 何度も同じだった。

 

「あんなに来ないなら、俺も下りればよかった?」

 

 ウルンは首を振った。

 

「君まで来たら、前は誰?」

 

「でも、触れなかったじゃん。競って、取られて、また走って。ずっとそれ」

 

「分かってる。僕も下りすぎた。君まで戻ってきたら、今度は出すところがなくなる」

 

 クルーニーは画面を止めた。

 

 監督から聞いたことが、自分ではなく相棒の口から戻ってきた。

 

 今日は待っても、ボールが来なかった。

 

 それでも、待つことが間違いだとは限らない。

 

「次は、もう少し近くで拾う」

 

 ウルンが言った。

 

「もう少し? 全部来てよ」

 

「それなら全部競り勝って」

 

 クルーニーは何か言いかけ、息を吐いた。二人とも、画面の同じ場所を見ていた。

 

 前の席では、ブアリがイヤホンを外し、マーサーへ何か話しかけていた。

 

 六番を着ていても、まだ聞くことはある。

 

 クルーニーは携帯電話を閉じ、椅子へ頭を預けた。

 

 *

 

 佐々木は、帰ってからコーチへ連絡した。

 

 二失点目のクロスについて、出る判断を確かめたかった。

 

 返信には、映像を用意するとあった。同時に、今日すぐに結論を出さないよう書かれていた。

 

 佐々木はグローブを袋から出し、乾かすために広げた。

 

 ベルが得意とする場面で、また失点した。

 

 そう考えると、次は自分が外れるのではないかと、先に気持ちが動いた。

 

 しかし、ヘイルはまだ次の選考を決めていない。自分の中で比較を始めても、あのボールの高さや相手の進路は変わらなかった。

 

 映像を一度だけ開き、ボールが蹴られる前を見た。

 

 相手の選手が二人、中央へ走り始めている。

 

 誰がそこへ来るかを、味方とどこまで確認できていたか。

 

 コーチへ、聞きたいことを二つ送った。

 

 それから画面を閉じた。

 

 *

 

 スタッフの部屋で、ヘイルはヴォルフとヴァレンティへ練習計画を示した。

 

 月曜日に、中央で相手の寄せ方を変えるメニューを入れたいと言った。

 

 ヴァレンティは、前線の距離を先に確認したいと答えた。

 

 ヴォルフは、二失点目のセットプレーを別に扱う必要があると話した。

 

 三つとも必要だった。

 

 全部を長くやる時間はない。

 

 ヘイルは、いつものように自分が最後に順番を決めようとして、手を止めた。

 

「僕が話していない時間で、二人に何を見てほしいかも決めましょう」

 

 ヴォルフが頷いた。

 

「攻撃の練習中、私は失った後の距離を見ます」

 

「守備の練習では、奪った後の受け手を見ます」

 

 ヴァレンティが続けた。

 

 ヘイルはノートへ書いた。

 

 一つの失敗を、三つの説明にして選手へ渡す必要はない。

 

 スタッフが先に、同じ場面を一緒に見なければならなかった。

 

 最後に、コールから届いた連絡を開いた。

 

 セットプレー指導に詳しいコーチについて、話せる相手がいるという。

 

 ヘイルは映像を一度閉じた。

 

 負けた夜に人を呼べば、すべてが直るとは思わない。

 

 ただ、直すために必要な人を探せることは、このクラブの強みだった。

 

 候補者に、まず最近の数試合を見てもらってほしい。

 

 そう返信した。

 

 *

 

 翌朝、コールはアル=ラシードから電話を受けた。

 

 オーナーは、試合を最後まで見ていた。

 

「あれほど中央を閉じられたら、監督はどうするつもりだ」

 

 最初の質問は具体的だった。

 

 コールは、スタッフが出口の作り方と前線の距離を見直していると答えた。

 

「その説明は、本人から聞こう。次の定例でいい。今、呼び出す話ではないぞ」

 

 アル=ラシードは言った。

 

「選手を替えろと言っているんじゃない。あの相手に、次は何をするつもりか。それを聞かせてほしい」

 

「伝えます」

 

 コールは答えた。

 

 敗戦の朝に電話があれば、現場ではそれだけで意味を推測する人間が出る。だから、何を求められたかを、正確に監督へ伝えなければならなかった。

 

「専門のコーチについても、候補を見ています」

 

「必要な仕事があるなら、進めてくれ。ただし、何を担当させるかを先に決めるんだろう」

 

「ええ。その順番です」

 

 コールは、八月に確認した権限表を思い出した。

 

 監督へ任せることと、オーナーが何も聞かないことは違う。

 

 同じように、結果を説明することと、毎回の選考に承認をもらうことも違った。

 

 電話を終え、ヘイルへ要件を送った。

 

 次の定例で、相手の対策への対応を説明してほしい。選考への指示はない。

 

 監督からは、分かりました、と戻ってきた。

 

 続けて、整理したい映像が三本あると届いた。

 

 コールは予定表を開き、財務と採用の確認とは別に、その時間を取った。

 

 負けた翌日にも、決めておいた窓口は使えた。

 

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