九月十五日、月曜日。
ヘイルは選手を集める前に、ノースブリッジ戦の最初の映像を、スタッフだけで見た。
ウォードが外で受ける。
内側への道が閉じ、後ろへ戻す。
フェンウィックが追い込まれ、長く蹴る。
クルーニーが触るが、誰も拾えない。
「ここで、ルイスを下げたいと思いました」
ヘイルは言った。
ヴァレンティが首を振った。
「下げるなら、下げる瞬間を決めたいです。先にそこへいれば、相手の中盤も来ます」
「アイユブが受けた後に?」
「その前でもいい。ただ、相手が外へ走ってから」
ヴォルフは、ボールを持っていない側を指した。
「逆側は、下げないでください。奪われた後に戻る人も必要ですが、全員下がれば、相手が前へ出るだけです」
ヘイルは頷いた。
左のインサイドハーフが一時的に低い位置へ入り、アンカーの横へ顔を出す。
三人の後ろ、その前に二人。前方には、左右のウイングバック、右インサイドハーフと二人のフォワードが残る。
攻撃時に3─2─5に近い配置を取るのは、最初から考えていた。
だが、誰が、いつ二人目になるかが曖昧だった。
言葉では説明していたことを、相手の動きと結びつけ直す必要があった。
*
練習の最初、ハーパーはブアリの横へ下りた。
相手役がついてくる。
ブアリが左へ渡すと、二人とも同じ方向を向いて受けることになった。
前へ出せない。
ヴァレンティは止めず、外へ戻させた。
次にオコンネルが持つ。
相手の右サイドの選手がエリスへ出る。
その瞬間、ハーパーが内側へ下りた。
相手の中盤は、エリスへ行くべきかハーパーについていくべきか、一度迷った。
ブアリが先に受ける。
ハーパーが、その左へ入る。
パスが来たときには、身体を中央へ向けられた。
ウルンが相手の中盤の背中へ動く。
ハーパーは縦へ出した。
ウルンが返す。
今度は、ハーパー自身が前へ走る。
クルーニーが守備者を引きつけていた。
右からカールンが入ってくる。
ハーパーは自分で打たず、逆側へ渡した。
カールンのシュートが、ゴールへ入った。
練習が切れたところで、ハーパーはブアリへ近づいた。
「早く来すぎない方が、受けやすいな」
「僕も、外を見る時間ができる」
ブアリは答えた。
隣に誰かが立つだけで安心するわけではなかった。
必要な瞬間に来ると分かれば、先に別の場所を見られた。
*
守備の練習では、ヴォルフがマーサーとブアリへ同じ場面を確認させた。
アンカーの前へ相手が下りる。
ブアリが出る。
その背中へ別の相手が走る。
マーサーが前へ出たくなる。
そこで、ヴォルフが止めた。
「二人とも前へ行っています。空くのは、同じ中央です」
マーサーはブアリを見た。
「お前が出たら、俺がそこへ行くしかないだろ」
「僕は、ダンが後ろへいるつもりで出ています。それで二人とも動くなら、先に条件を決めたいです」
ブアリが答えた。
二人は、少しだけ笑った。
どちらも、相手がいることを前提にしていた。
ヴォルフは、ブアリが出る条件を、相手の身体の向きと、近いインサイドハーフの位置で整理した。
出られないときは、相手を後ろ向きのまま持たせる。
マーサーは、その間に後ろの距離を詰める。
「全部、取りに行かなくていい。相手が後ろを向いているなら、まず中央を残す」
ヴォルフが言った。
「同じ場所へ、二人で行かない」
ブアリは頷いた。
最初の面談で、ヘイルから聞いた役割は大きかった。
その大きな役割を、今は小さな条件に分けてもらっていた。
任されていないのではなく、実行できる形に変えているのだと、少しずつ分かってきた。
*
九月十六日の午後、マーク・ドイルはヴォルフと映像を見た。
アンカーとして入ったカップ戦だった。
相手のフォワードが下りると、自分も出る。背中へ走る選手をハーパーが追い、中央に受ける相手はいなくなった。
しかし、次にボールを奪ったとき、ハーパーが低い場所にいるため、前へ出すパスがなかった。
「守れた後、誰に渡したいですか」
ヴォルフが尋ねた。
「近くにいれば、ルイス。でも、彼が戻りすぎてる」
「なら、あなたが出る距離を少し変える方法もある」
ドイルは画面を見た。
自分が二歩で止めるところを、三歩出ている。その分だけハーパーが後ろへ引かれていた。
守備的な位置でプレーした経験はある。
ただ、今季の一人の底では、自分の位置が、左右の選手の仕事へすぐにつながる。
「一応、聞きますけど。俺にも、アイユブみたいに足元で外せって話ですか?」
ドイルが聞くと、ヴォルフは首を振った。
「今できる形で、前へ渡してほしい。近くへ戻して、もう一度受けてもいい」
ヴァレンティが隣の椅子へ来た。
「あなたが入る日は、ルイスを一度近くへ置けます。右は高く残す。全部、同じにする必要はありません」
ドイルは頷いた。
新しい補強が終わってから、自分の名前が先発表に出る回数は減っていた。
その一方で、任される場所は一つ増えた。
その説明がなければ、ただ穴を埋めるための選手になったと感じたかもしれない。
今は、自分が入る場合の周りの動きまで、一緒に考えてもらっていた。
*
翌日の練習で、ドイルはブアリの代わりに中央へ入った。
ハーパーが一度近づき、ボールを受けて返す。
相手がその短い交換へ寄ったところで、ドイルは左へ出した。
エリスが運び、ウルンへつける。
クルーニーが走った。
シュートは外れたが、攻撃は続いた。
ヴァレンティは、そのまま次を始めた。
ブアリは外から見ていた。
相手を足元で外さず、近い味方へ渡して動かす。
ケンドールにもあった選択だった。
ブアリは、ドイルが戻した先を見た。自分なら持ち直した場所で、ボールはもう隣へ移っていた。
ドイルが給水へ戻ると、ブアリは尋ねた。
「ルイスに戻したところ、先に左を見ていましたか」
「一回見たよ。マット、もう前へ行く顔してたから」
「出る顔?」
「ボールを見るより、前を見てた。あいつは、そういうとき走る」
ブアリはピッチの左を見た。
数字や映像の中にはなかった言い方だった。
次に同じ側へ出すとき、足だけでなく、顔も一度見てみようと思った。
*
九月十七日、プライスとバレットがトップチームの一部練習へ参加した。
バレットにとっては、初めてだった。
クルーニーが隣を歩いている。
自分より三つ年上で、身体はずっと大きかった。
クルーニーは、バレットがフォワードだと聞くと、どこへ欲しいかと尋ねた。
「どっちでも。足元も、裏も欲しいです」
クルーニーは笑った。
「俺も最初、それ言った。監督に『いつ?』って聞かれるぞ」
「いつ?」
「いつ足元で、いつ走るの、って。先に決めとけよ。俺、答える前に練習始まったから」
バレットは頷いた。
最初のパスで、自分は裏へ行った。
ボールは足元へ来た。
戻る途中で、相手役のフェンウィックが先に触った。
大きく当たられたわけではなかった。
それでも、肩の位置を変えられただけで、ボールへ行く道がなくなった。
クルーニーは横から見ていた。
「もう一本やろう!」
クルーニーはボールを戻した。
「足じゃなくて、相手の肩。そっちを先に見て。走るのは、その後!」
バレットは頷いた。
自分の得意な動きの前に、まだ何かがあった。
*
休みの時間、ハーパーはプライスへ尋ねた。
「中央、やってるんだって?」
「少しです。アンカーも」
「俺より先に、いろいろやってるな」
プライスは首を振った。
「いやぁ、全然です。右でできてたことまで、変になって」
「そりゃ、場所が替わったからな。俺もそうだったよ」
ハーパーは笑った。
「俺も、左へ来てから一回、全部遅くなった」
「でも、点取ってました」
「あれは、サイードが中へ来て、ジャンが戻してくれたから」
プライスは、その場面を思い出した。
ハーパーだけが左へ動いて得点したわけではない。
周りの動きも変わっていた。
「でも、ここへ来たら、何か一個見せないと。前に出して、抜くとか。それがないと、もう呼ばれない気がして」
プライスが言うと、ハーパーは少し黙った。
昨季の自分と、よく似た言葉だった。
「受けやすいところへ来てよ。それなら、俺がお前へ出せる」
ハーパーはピッチへ目を戻した。
「毎回、俺まで抜こうとしなくていいって。味方なんだからさ」
プライスは頷いた。
午後の練習で、最初のパスを急がず、ハーパーへ戻した。
次に受けたときは、相手が少し離れていた。
前へ出した。
それは、さっきより短く、通りやすいパスだった。
*
その翌日、ベルはアカデミーへ戻ったバレットへ、トップの練習で通らなかったパスを見せた。
走り出すのが早く、受ける場所へ来たときには、もう相手の背中より前にいた。
「ここで、相手は何を見ていた」
「ボールです」
「なら、肩の後ろへ残れたな」
バレットは頷いた。
クルーニーが言ったことが、映像とつながった。
プライスにも入ってもらい、ゆっくり同じ形を作る。パスを出す側が一度顔を下げたら、走るのを待つ。前を向いたとき、もう一度相手の位置を見る。
最初は、止まりすぎていた。
次は、一歩だけ待てた。
相手役のモリスが振り返る前に、横から出た。
ボールが来た。
ゴールへ蹴った後、バレットは振り返った。
「今、待った! ノア、見えた?」
「見えたよ。手まで上げてたじゃん」
プライスが答えた。
ベルはノートへ短く記録した。トップで言われた言葉を、こちらの選手同士でも使えるようになった。
次に上へ参加するときは、同じ質問へ、違う答えを返せるかもしれなかった。
*
九月十九日、金曜日。
コールは、アッシュフォードから戻った書類を確認した。
コリンズの移籍に関する最後の事務処理だった。
翌日には対戦する。
送り出した選手の名前を、対戦相手の分析資料で見るのは、いつも少し奇妙だった。
相手の前線の九番。
ヘイルはその映像を見ながら、何度も頷いていた。
「下りた後に、ちゃんと入り直していますね」
「君が教えたんだろう」
「元からできましたよ。僕が見つけたみたいに言わないでください」
コールは笑った。
監督は、相手がどうやってボールを受けるかを説明した。
マーサーは、下りるコリンズへついて出すぎないよう確認する。
ブアリには、足元へ入る前の道を消してほしい。
止めるべき相手として見ると、良さがもっとはっきりした。
誰かを獲得したことで、簡単に不要になった選手ではなかった。
*
九月二十日、土曜日。
コリンズは、レッドクリフ・グラウンドのアウェー用の入口へ入った。
間違えそうにはならなかった。
しかし、いつもより建物の奥行きが違って見えた。
職員が挨拶し、ロッカールームを案内する。
短い廊下の先で、ウォードに会った。
「契約、やっと決まったんだって?」
コリンズが手を出した。
「ああ。そっちは、出てるか?」
「出てる。今日も」
「今日は、少し遠慮しろよ」
「お前もな」
ウォードは本当にそう思った。
ただ、今日は点を取ってほしくなかった。
二人は握手し、反対の部屋へ入った。
*
試合が始まると、コリンズはブアリの前へ下りた。
相手がこちらを見た。
コリンズは左へ半歩ずれ、センターバックから受ける道を探す。
ブアリも動いた。
パスは出なかった。
次は、コリンズがもっと低く下りた。
ブアリは追わなかった。
マーサーも出ない。
アッシュフォードの中盤が持ったまま、外へ渡した。
コリンズは振り返った。
この前までなら、そこへ二人来ることもあった。
今日は、一人が出るのを待ち、もう一人が残っている。
自分が覚えたチームも、去った後に動いていた。
*
前半二十八分、ブリストルが先制した。
左のオコンネルから、ブアリへ。
相手の中盤が外へ寄る瞬間、ハーパーが低い位置へ顔を出した。
ブアリは短く渡す。
ハーパーは前を向き、ウルンへ縦につけた。
ウルンが右へ流れる。
カールンが中央から外へ動き、ウォードがその横を上がった。
三人の間で相手が迷う。
カールンからウォードへ。
ウォードは低く蹴ると見せ、相手の足が出た瞬間、もう一歩内側へ入った。
そのまま打った。
ボールはキーパーの足の横を抜けた。
一対〇。
ウォードは走りかけ、タッチラインの近くで客席を見た。
家族のいる方角が、正確に分かったわけではない。
それでも、そちらへ手を上げた。
契約後、最初のホームでの得点だった。
*
コリンズは後半、二度シュートを打った。
一度目はマーサーが足へ当てた。
二度目は佐々木が低く止めた。
キーパーは、ブリストルで一緒に試合をしたことのない新しい顔だった。
ボールを止めた後、すぐにオコンネルへ出す。
アッシュフォードが前へ戻る間に、ブリストルは外から進んだ。
コリンズは追いかけながら、あの短い一歩を映像で見たことを思い出した。
相手にすると、戻る距離が長くなった。
七十三分、クルーニーが二点目を決めた。
ウルンが手前へ下りる。相手のセンターバックがついてきた。
「ジャン! 出して!」
クルーニーが、少し待ってから斜めに走る。
パスが届く。
コリンズは自陣から見ていた。
走る前に、相手の肩を見ていた。
教えたことも、教わったことも、自分がいなくなった後に残る。
クルーニーはキーパーの逆へ決めた。
二対〇。
そのまま、試合が終わった。
*
コリンズは、ホームの客席へ一度だけ手を上げた。
拍手が来た。
負けた後には、少し受け取りにくい音だった。
それでも、無視はできなかった。
クルーニーが近づいた。
「交換する?」
シャツを指している。
コリンズは笑った。
「お前が点を取ったから、欲しいんだろ」
「違うよ。いや、点は取ったけど。そうじゃなくて」
クルーニーが言い直すと、コリンズは笑ってシャツの裾を引いた。
「分かってる。冗談だよ」
コリンズはシャツを脱ぎ、渡した。
自分の名前の入った別の色を、クルーニーが受け取る。
赤いシャツは、汗で重かった。
ヘイルは少し離れた場所で待っていた。
「二本、危なかったです」
監督が言うと、コリンズはゴールの方を見た。
「そういう日は、ベンチで言われる方が楽ですね。今日は、点にならなかったんで」
「あそこへ入るのは、やはり上手かった」
「褒めるなら、次に対戦してからにしてください。次は、入れますよ」
ヘイルは笑い、頷いた。
その言葉を、今度は対戦相手として聞いた。
*
九月二十三日、プライスへ再び評価が渡された。
トップの練習では、まだボールを持った後に止まる場面がある。
一方で、受ける前に相手を動かすことは増えている。
次は、左右の足で最初のパスを変えられるようにする。
リードは、その紙を本人へ渡した。
「年末に、もう一度、上の年代の試合へ入れるか判断する」
プライスは顔を上げた。
「トップ……ですか?」
「まず、U21だ。どちらへ進むにしても、今の年代でできることを増やしてほしい」
少し期待が大きくなりすぎていたと、プライスは気づいた。
それでも、次に向かう場所は示された。
ロッカールームへ戻ると、バレットが待っていた。
「どうだった?」
「左足、使えって」
「トップの話は?」
「まず左足だって。あとU21。順番、いろいろあるらしい」
二人は笑った。
バレットは靴を手に持った。
「じゃあ、俺も受ける。右ばっかりだと、向こうに読まれるし」
プライスは頷いた。
次の段階へ進む話は、結局、明日の練習へ戻ってきた。