どうやら金はあるらしい   作:おずわるどー

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【2025/26・第21話】向こう側の九番

 九月十五日、月曜日。

 

 ヘイルは選手を集める前に、ノースブリッジ戦の最初の映像を、スタッフだけで見た。

 

 ウォードが外で受ける。

 

 内側への道が閉じ、後ろへ戻す。

 

 フェンウィックが追い込まれ、長く蹴る。

 

 クルーニーが触るが、誰も拾えない。

 

「ここで、ルイスを下げたいと思いました」

 

 ヘイルは言った。

 

 ヴァレンティが首を振った。

 

「下げるなら、下げる瞬間を決めたいです。先にそこへいれば、相手の中盤も来ます」

 

「アイユブが受けた後に?」

 

「その前でもいい。ただ、相手が外へ走ってから」

 

 ヴォルフは、ボールを持っていない側を指した。

 

「逆側は、下げないでください。奪われた後に戻る人も必要ですが、全員下がれば、相手が前へ出るだけです」

 

 ヘイルは頷いた。

 

 左のインサイドハーフが一時的に低い位置へ入り、アンカーの横へ顔を出す。

 

 三人の後ろ、その前に二人。前方には、左右のウイングバック、右インサイドハーフと二人のフォワードが残る。

 

 攻撃時に3─2─5に近い配置を取るのは、最初から考えていた。

 

 だが、誰が、いつ二人目になるかが曖昧だった。

 

 言葉では説明していたことを、相手の動きと結びつけ直す必要があった。

 

 *

 

 練習の最初、ハーパーはブアリの横へ下りた。

 

 相手役がついてくる。

 

 ブアリが左へ渡すと、二人とも同じ方向を向いて受けることになった。

 

 前へ出せない。

 

 ヴァレンティは止めず、外へ戻させた。

 

 次にオコンネルが持つ。

 

 相手の右サイドの選手がエリスへ出る。

 

 その瞬間、ハーパーが内側へ下りた。

 

 相手の中盤は、エリスへ行くべきかハーパーについていくべきか、一度迷った。

 

 ブアリが先に受ける。

 

 ハーパーが、その左へ入る。

 

 パスが来たときには、身体を中央へ向けられた。

 

 ウルンが相手の中盤の背中へ動く。

 

 ハーパーは縦へ出した。

 

 ウルンが返す。

 

 今度は、ハーパー自身が前へ走る。

 

 クルーニーが守備者を引きつけていた。

 

 右からカールンが入ってくる。

 

 ハーパーは自分で打たず、逆側へ渡した。

 

 カールンのシュートが、ゴールへ入った。

 

 練習が切れたところで、ハーパーはブアリへ近づいた。

 

「早く来すぎない方が、受けやすいな」

 

「僕も、外を見る時間ができる」

 

 ブアリは答えた。

 

 隣に誰かが立つだけで安心するわけではなかった。

 

 必要な瞬間に来ると分かれば、先に別の場所を見られた。

 

 *

 

 守備の練習では、ヴォルフがマーサーとブアリへ同じ場面を確認させた。

 

 アンカーの前へ相手が下りる。

 

 ブアリが出る。

 

 その背中へ別の相手が走る。

 

 マーサーが前へ出たくなる。

 

 そこで、ヴォルフが止めた。

 

「二人とも前へ行っています。空くのは、同じ中央です」

 

 マーサーはブアリを見た。

 

「お前が出たら、俺がそこへ行くしかないだろ」

 

「僕は、ダンが後ろへいるつもりで出ています。それで二人とも動くなら、先に条件を決めたいです」

 

 ブアリが答えた。

 

 二人は、少しだけ笑った。

 

 どちらも、相手がいることを前提にしていた。

 

 ヴォルフは、ブアリが出る条件を、相手の身体の向きと、近いインサイドハーフの位置で整理した。

 

 出られないときは、相手を後ろ向きのまま持たせる。

 

 マーサーは、その間に後ろの距離を詰める。

 

「全部、取りに行かなくていい。相手が後ろを向いているなら、まず中央を残す」

 

 ヴォルフが言った。

 

「同じ場所へ、二人で行かない」

 

 ブアリは頷いた。

 

 最初の面談で、ヘイルから聞いた役割は大きかった。

 

 その大きな役割を、今は小さな条件に分けてもらっていた。

 

 任されていないのではなく、実行できる形に変えているのだと、少しずつ分かってきた。

 

 *

 

 九月十六日の午後、マーク・ドイルはヴォルフと映像を見た。

 

 アンカーとして入ったカップ戦だった。

 

 相手のフォワードが下りると、自分も出る。背中へ走る選手をハーパーが追い、中央に受ける相手はいなくなった。

 

 しかし、次にボールを奪ったとき、ハーパーが低い場所にいるため、前へ出すパスがなかった。

 

「守れた後、誰に渡したいですか」

 

 ヴォルフが尋ねた。

 

「近くにいれば、ルイス。でも、彼が戻りすぎてる」

 

「なら、あなたが出る距離を少し変える方法もある」

 

 ドイルは画面を見た。

 

 自分が二歩で止めるところを、三歩出ている。その分だけハーパーが後ろへ引かれていた。

 

 守備的な位置でプレーした経験はある。

 

 ただ、今季の一人の底では、自分の位置が、左右の選手の仕事へすぐにつながる。

 

「一応、聞きますけど。俺にも、アイユブみたいに足元で外せって話ですか?」

 

 ドイルが聞くと、ヴォルフは首を振った。

 

「今できる形で、前へ渡してほしい。近くへ戻して、もう一度受けてもいい」

 

 ヴァレンティが隣の椅子へ来た。

 

「あなたが入る日は、ルイスを一度近くへ置けます。右は高く残す。全部、同じにする必要はありません」

 

 ドイルは頷いた。

 

 新しい補強が終わってから、自分の名前が先発表に出る回数は減っていた。

 

 その一方で、任される場所は一つ増えた。

 

 その説明がなければ、ただ穴を埋めるための選手になったと感じたかもしれない。

 

 今は、自分が入る場合の周りの動きまで、一緒に考えてもらっていた。

 

 *

 

 翌日の練習で、ドイルはブアリの代わりに中央へ入った。

 

 ハーパーが一度近づき、ボールを受けて返す。

 

 相手がその短い交換へ寄ったところで、ドイルは左へ出した。

 

 エリスが運び、ウルンへつける。

 

 クルーニーが走った。

 

 シュートは外れたが、攻撃は続いた。

 

 ヴァレンティは、そのまま次を始めた。

 

 ブアリは外から見ていた。

 

 相手を足元で外さず、近い味方へ渡して動かす。

 

 ケンドールにもあった選択だった。

 

 ブアリは、ドイルが戻した先を見た。自分なら持ち直した場所で、ボールはもう隣へ移っていた。

 

 ドイルが給水へ戻ると、ブアリは尋ねた。

 

「ルイスに戻したところ、先に左を見ていましたか」

 

「一回見たよ。マット、もう前へ行く顔してたから」

 

「出る顔?」

 

「ボールを見るより、前を見てた。あいつは、そういうとき走る」

 

 ブアリはピッチの左を見た。

 

 数字や映像の中にはなかった言い方だった。

 

 次に同じ側へ出すとき、足だけでなく、顔も一度見てみようと思った。

 

 *

 

 九月十七日、プライスとバレットがトップチームの一部練習へ参加した。

 

 バレットにとっては、初めてだった。

 

 クルーニーが隣を歩いている。

 

 自分より三つ年上で、身体はずっと大きかった。

 

 クルーニーは、バレットがフォワードだと聞くと、どこへ欲しいかと尋ねた。

 

「どっちでも。足元も、裏も欲しいです」

 

 クルーニーは笑った。

 

「俺も最初、それ言った。監督に『いつ?』って聞かれるぞ」

 

「いつ?」

 

「いつ足元で、いつ走るの、って。先に決めとけよ。俺、答える前に練習始まったから」

 

 バレットは頷いた。

 

 最初のパスで、自分は裏へ行った。

 

 ボールは足元へ来た。

 

 戻る途中で、相手役のフェンウィックが先に触った。

 

 大きく当たられたわけではなかった。

 

 それでも、肩の位置を変えられただけで、ボールへ行く道がなくなった。

 

 クルーニーは横から見ていた。

 

「もう一本やろう!」

 

 クルーニーはボールを戻した。

 

「足じゃなくて、相手の肩。そっちを先に見て。走るのは、その後!」

 

 バレットは頷いた。

 

 自分の得意な動きの前に、まだ何かがあった。

 

 *

 

 休みの時間、ハーパーはプライスへ尋ねた。

 

「中央、やってるんだって?」

 

「少しです。アンカーも」

 

「俺より先に、いろいろやってるな」

 

 プライスは首を振った。

 

「いやぁ、全然です。右でできてたことまで、変になって」

 

「そりゃ、場所が替わったからな。俺もそうだったよ」

 

 ハーパーは笑った。

 

「俺も、左へ来てから一回、全部遅くなった」

 

「でも、点取ってました」

 

「あれは、サイードが中へ来て、ジャンが戻してくれたから」

 

 プライスは、その場面を思い出した。

 

 ハーパーだけが左へ動いて得点したわけではない。

 

 周りの動きも変わっていた。

 

「でも、ここへ来たら、何か一個見せないと。前に出して、抜くとか。それがないと、もう呼ばれない気がして」

 

 プライスが言うと、ハーパーは少し黙った。

 

 昨季の自分と、よく似た言葉だった。

 

「受けやすいところへ来てよ。それなら、俺がお前へ出せる」

 

 ハーパーはピッチへ目を戻した。

 

「毎回、俺まで抜こうとしなくていいって。味方なんだからさ」

 

 プライスは頷いた。

 

 午後の練習で、最初のパスを急がず、ハーパーへ戻した。

 

 次に受けたときは、相手が少し離れていた。

 

 前へ出した。

 

 それは、さっきより短く、通りやすいパスだった。

 

 *

 

 その翌日、ベルはアカデミーへ戻ったバレットへ、トップの練習で通らなかったパスを見せた。

 

 走り出すのが早く、受ける場所へ来たときには、もう相手の背中より前にいた。

 

「ここで、相手は何を見ていた」

 

「ボールです」

 

「なら、肩の後ろへ残れたな」

 

 バレットは頷いた。

 

 クルーニーが言ったことが、映像とつながった。

 

 プライスにも入ってもらい、ゆっくり同じ形を作る。パスを出す側が一度顔を下げたら、走るのを待つ。前を向いたとき、もう一度相手の位置を見る。

 

 最初は、止まりすぎていた。

 

 次は、一歩だけ待てた。

 

 相手役のモリスが振り返る前に、横から出た。

 

 ボールが来た。

 

 ゴールへ蹴った後、バレットは振り返った。

 

「今、待った! ノア、見えた?」

 

「見えたよ。手まで上げてたじゃん」

 

 プライスが答えた。

 

 ベルはノートへ短く記録した。トップで言われた言葉を、こちらの選手同士でも使えるようになった。

 

 次に上へ参加するときは、同じ質問へ、違う答えを返せるかもしれなかった。

 

 *

 

 九月十九日、金曜日。

 

 コールは、アッシュフォードから戻った書類を確認した。

 

 コリンズの移籍に関する最後の事務処理だった。

 

 翌日には対戦する。

 

 送り出した選手の名前を、対戦相手の分析資料で見るのは、いつも少し奇妙だった。

 

 相手の前線の九番。

 

 ヘイルはその映像を見ながら、何度も頷いていた。

 

「下りた後に、ちゃんと入り直していますね」

 

「君が教えたんだろう」

 

「元からできましたよ。僕が見つけたみたいに言わないでください」

 

 コールは笑った。

 

 監督は、相手がどうやってボールを受けるかを説明した。

 

 マーサーは、下りるコリンズへついて出すぎないよう確認する。

 

 ブアリには、足元へ入る前の道を消してほしい。

 

 止めるべき相手として見ると、良さがもっとはっきりした。

 

 誰かを獲得したことで、簡単に不要になった選手ではなかった。

 

 *

 

 九月二十日、土曜日。

 

 コリンズは、レッドクリフ・グラウンドのアウェー用の入口へ入った。

 

 間違えそうにはならなかった。

 

 しかし、いつもより建物の奥行きが違って見えた。

 

 職員が挨拶し、ロッカールームを案内する。

 

 短い廊下の先で、ウォードに会った。

 

「契約、やっと決まったんだって?」

 

 コリンズが手を出した。

 

「ああ。そっちは、出てるか?」

 

「出てる。今日も」

 

「今日は、少し遠慮しろよ」

 

「お前もな」

 

 ウォードは本当にそう思った。

 

 ただ、今日は点を取ってほしくなかった。

 

 二人は握手し、反対の部屋へ入った。

 

 *

 

 試合が始まると、コリンズはブアリの前へ下りた。

 

 相手がこちらを見た。

 

 コリンズは左へ半歩ずれ、センターバックから受ける道を探す。

 

 ブアリも動いた。

 

 パスは出なかった。

 

 次は、コリンズがもっと低く下りた。

 

 ブアリは追わなかった。

 

 マーサーも出ない。

 

 アッシュフォードの中盤が持ったまま、外へ渡した。

 

 コリンズは振り返った。

 

 この前までなら、そこへ二人来ることもあった。

 

 今日は、一人が出るのを待ち、もう一人が残っている。

 

 自分が覚えたチームも、去った後に動いていた。

 

 *

 

 前半二十八分、ブリストルが先制した。

 

 左のオコンネルから、ブアリへ。

 

 相手の中盤が外へ寄る瞬間、ハーパーが低い位置へ顔を出した。

 

 ブアリは短く渡す。

 

 ハーパーは前を向き、ウルンへ縦につけた。

 

 ウルンが右へ流れる。

 

 カールンが中央から外へ動き、ウォードがその横を上がった。

 

 三人の間で相手が迷う。

 

 カールンからウォードへ。

 

 ウォードは低く蹴ると見せ、相手の足が出た瞬間、もう一歩内側へ入った。

 

 そのまま打った。

 

 ボールはキーパーの足の横を抜けた。

 

 一対〇。

 

 ウォードは走りかけ、タッチラインの近くで客席を見た。

 

 家族のいる方角が、正確に分かったわけではない。

 

 それでも、そちらへ手を上げた。

 

 契約後、最初のホームでの得点だった。

 

 *

 

 コリンズは後半、二度シュートを打った。

 

 一度目はマーサーが足へ当てた。

 

 二度目は佐々木が低く止めた。

 

 キーパーは、ブリストルで一緒に試合をしたことのない新しい顔だった。

 

 ボールを止めた後、すぐにオコンネルへ出す。

 

 アッシュフォードが前へ戻る間に、ブリストルは外から進んだ。

 

 コリンズは追いかけながら、あの短い一歩を映像で見たことを思い出した。

 

 相手にすると、戻る距離が長くなった。

 

 七十三分、クルーニーが二点目を決めた。

 

 ウルンが手前へ下りる。相手のセンターバックがついてきた。

 

「ジャン! 出して!」

 

 クルーニーが、少し待ってから斜めに走る。

 

 パスが届く。

 

 コリンズは自陣から見ていた。

 

 走る前に、相手の肩を見ていた。

 

 教えたことも、教わったことも、自分がいなくなった後に残る。

 

 クルーニーはキーパーの逆へ決めた。

 

 二対〇。

 

 そのまま、試合が終わった。

 

 *

 

 コリンズは、ホームの客席へ一度だけ手を上げた。

 

 拍手が来た。

 

 負けた後には、少し受け取りにくい音だった。

 

 それでも、無視はできなかった。

 

 クルーニーが近づいた。

 

「交換する?」

 

 シャツを指している。

 

 コリンズは笑った。

 

「お前が点を取ったから、欲しいんだろ」

 

「違うよ。いや、点は取ったけど。そうじゃなくて」

 

 クルーニーが言い直すと、コリンズは笑ってシャツの裾を引いた。

 

「分かってる。冗談だよ」

 

 コリンズはシャツを脱ぎ、渡した。

 

 自分の名前の入った別の色を、クルーニーが受け取る。

 

 赤いシャツは、汗で重かった。

 

 ヘイルは少し離れた場所で待っていた。

 

「二本、危なかったです」

 

 監督が言うと、コリンズはゴールの方を見た。

 

「そういう日は、ベンチで言われる方が楽ですね。今日は、点にならなかったんで」

 

「あそこへ入るのは、やはり上手かった」

 

「褒めるなら、次に対戦してからにしてください。次は、入れますよ」

 

 ヘイルは笑い、頷いた。

 

 その言葉を、今度は対戦相手として聞いた。

 

 *

 

 九月二十三日、プライスへ再び評価が渡された。

 

 トップの練習では、まだボールを持った後に止まる場面がある。

 

 一方で、受ける前に相手を動かすことは増えている。

 

 次は、左右の足で最初のパスを変えられるようにする。

 

 リードは、その紙を本人へ渡した。

 

「年末に、もう一度、上の年代の試合へ入れるか判断する」

 

 プライスは顔を上げた。

 

「トップ……ですか?」

 

「まず、U21だ。どちらへ進むにしても、今の年代でできることを増やしてほしい」

 

 少し期待が大きくなりすぎていたと、プライスは気づいた。

 

 それでも、次に向かう場所は示された。

 

 ロッカールームへ戻ると、バレットが待っていた。

 

「どうだった?」

 

「左足、使えって」

 

「トップの話は?」

 

「まず左足だって。あとU21。順番、いろいろあるらしい」

 

 二人は笑った。

 

 バレットは靴を手に持った。

 

「じゃあ、俺も受ける。右ばっかりだと、向こうに読まれるし」

 

 プライスは頷いた。

 

 次の段階へ進む話は、結局、明日の練習へ戻ってきた。

 

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