どうやら金はあるらしい   作:おずわるどー

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【2025/26・第03話】残される者たち

 ダニエル・マーサーが家を出たのは、いつもより二十分ほど早い時間だった。

 

 玄関で靴紐を結んでいると、キッチンから妻が声をかけてきた。

 

「今日は遅くなる?」

 

「分からない。新しい監督と話すことになってる」

 

「何を?」

 

「来季のことだろうな」

 

 妻はそれ以上聞かなかった。代わりに、テーブルの上に置いてあった車の鍵を取って渡してくれた。

 

 マーサーは三十二歳になっていた。ブリストル・アスレティックに入団して九年。移籍してきた当時は、試合に出られるならどこでもよかった。チャンピオンシップのクラブに拾ってもらえたことが嬉しく、最初の契約書に署名するときには手が震えたものだった。

 

 今では主将を任され、スタジアムの売店では自分の名前が入ったユニフォームを見かける。

 

 だが、契約は来年の六月で切れる。

 

 新しいオーナーが来た。

 

 新しい監督が来た。

 

 大金を使って若い選手を集めるらしい、という話も聞こえている。

 

 マーサーは車のエンジンをかけた。

 

 自分が二十三歳だった頃、三十二歳のセンターバックを見て何を思っていただろう。

 

 経験がある。頼りになる。

 

 それから、もう長くはない。

 

 おそらく、そんなところだった。

 

 練習場の駐車場へ着くと、見慣れた小型車が一台、先に止まっていた。

 

 ルイス・ハーパーの車だった。

 

 ハーパーは二十歳。クラブの育成組織で育ち、昨季ようやくトップチームで十二試合に出場した。先発は三度だけ。本人はもっと試合に出たいと考えているし、マーサーもそれを知っていた。

 

「おはようございます」

 

 ハーパーが声をかけてきた。

 

「早いな」

 

「面談なんで。遅れたくなくて」

 

「俺もだ」

 

 二人は建物へ向かった。

 

 ハーパーはいつになく口数が少なかった。普段なら、昨夜見た試合の話や、新しいスパイクの話をしてくる。今日は廊下に入るまで、何も言わなかった。

 

「緊張してるのか」

 

 マーサーが尋ねると、ハーパーは笑った。

 

「まあ、ちょっと」

 

「別に取って食われるわけじゃないだろ」

 

「そうですけど。新監督、若い選手をたくさん獲るって聞いたんで」

 

「俺は年寄りをたくさん獲るって聞きたいね」

 

 ハーパーが吹き出した。

 

 マーサーはそのまま歩いた。

 

 自分も同じように不安だとは、わざわざ言わなかった。

 

 *

 

 エドワード・ヘイルが最初に話したのは、主将のマーサーだった。

 

 マーティン・コールも同席している。会議室の机には三本の水が置かれ、窓の向こうでは用具係が練習用のマーカーを並べていた。

 

「昨季の試合は、すべて見ました」

 

 ヘイルが言った。

 

「全部ですか」

 

「はい」

 

「大変だったでしょう」

 

「いえ。参考になりました」

 

 マーサーは少し笑った。

 

 昨季のブリストルは、昇格を争うには勝点が足りず、残留を心配するほど悪くもなかった。勝てそうな試合を落とし、負けそうな試合で引き分ける。何かが決定的に悪いわけではないが、どこか足りない。

 

 選手にとっても、歯がゆい一年だった。

 

 ヘイルはパソコンで映像を再生した。

 

 昨季のアウェーゲーム。相手の右サイドから長いボールが入り、マーサーが中央から外へ引っ張り出される。相手のフォワードは先に落下地点へ入り、マーサーが身体を寄せるより早くボールを収めた。

 

「この場面ですが」

 

 ヘイルが言いかけたところで、マーサーは画面を指した。

 

「右サイドバックが戻れてないんですよ」

 

 映像を戻すと、確かにそうだった。

 

 ブリストルの右サイドバックは、攻撃参加した直後にボールを奪われていた。マーサーはその背後を埋めるために走り、中央から離れている。

 

「ここで俺が出ないと、相手はそのまま前を向く。だから行ったんです」

 

「分かります」

 

「で、出たら出たで、真ん中が空く」

 

 マーサーは椅子に背中を預けた。

 

「去年は、ああいうのが多かったですね」

 

 ヘイルは何も言わず、もう一度映像を見た。

 

 その沈黙が、マーサーには少し意外だった。

 

 新監督というものは、たいてい自分の考えを説明したがる。特に若い監督はそうだ。古いやり方を変える、もっと攻撃的になる、選手には高い強度を求める。似たような言葉を、マーサーはこれまで何度も聞いてきた。

 

 ヘイルは画面を止め、別の試合を開いた。

 

 今度はゴール前の守備だった。相手のクロスに対し、マーサーが先に身体を入れて競り勝つ。クリアした後も、味方の位置を確認しながらラインを押し上げていた。

 

「こういうプレーは、今季も必要です」

 

 ヘイルはそう言って、ホワイトボードへ向かった。

 

 そこには3-1-4-2の磁石が並んでいた。

 

「中央のセンターバックとして考えています」

 

「真ん中ですか」

 

「ええ」

 

 マーサーは布陣を眺めた。

 

 両側のセンターバックは、相手がサイドへ出てきたときに広い範囲を守らなければならない。自分の足が以前ほど速くないことは、誰よりも本人が分かっている。中央でラインを管理する役割なら、経験を生かせるかもしれない。

 

「先発ですか」

 

 マーサーは尋ねた。

 

「競争になります」

 

 ヘイルの返事は早かった。

 

 マーサーはコールへ目を向けた。

 

「センターバックも獲るんですね」

 

「検討してる」

 

「何人?」

 

「まだ決まってない」

 

「なるほど」

 

 マーサーは両手を膝の上に置いた。

 

 九年間、このクラブでプレーしてきた。怪我を抱えたまま試合に出たこともある。若い選手が失敗したときには、代わりに記者の前へ出たこともある。

 

 それでも、新しい監督が来れば、また一から競争が始まる。

 

 理屈は分かる。

 

 分かることと、面白いと思うことは違った。

 

「俺は、まだ試合に出たいです」

 

 マーサーが言った。

 

「もちろんです」

 

「若い選手の面倒を見るのは構いません。でも、それだけのために残るつもりはない」

 

 ヘイルは頷いた。

 

「そのつもりで考えています」

 

 マーサーは監督の顔を見た。

 

 表情からは、どこまで本気なのか分からなかった。

 

「それと、一つだけ」

 

「何でしょう」

 

「このリーグは、映像で見るよりずっと荒いですよ」

 

 コールが少し笑った。

 

 マーサーは続けた。

 

「冬場のアウェーなんか、ピッチが重くて、パスがまともに転がらないこともある。相手の九番がずっと身体をぶつけてきて、後半になったら二人目まで入ってくる。そういう試合でも、同じサッカーをやるんですか」

 

 ヘイルは窓の外へ目を向けた。

 

 雨上がりの練習場は、ところどころ色が濃くなっていた。

 

「そのときにできるサッカーをします」

 

「なるほど」

 

「ただ、できることを増やしたいんです」

 

 マーサーはそれ以上聞かなかった。

 

 会議室を出ると、廊下でハーパーとすれ違った。

 

「どうでした?」

 

「普通だよ」

 

「何か言われました?」

 

「真ん中で使うかもしれないってさ」

 

「いいじゃないですか」

 

「そうなるといいけどな」

 

 マーサーは肩を軽く叩いてやった。

 

「お前も、言いたいことは言ってこいよ」

 

 *

 

 ハーパーの面談は、マーサーより長くなった。

 

 昨季の十二試合。そのうち先発は三試合。ヘイルはすべての出場場面を確認していた。

 

 ハーパーは攻撃的なミッドフィールダーとして育てられてきたが、トップチームでは中央の二列目や、守備的な位置で使われることもあった。本人はどこでも出るつもりだったし、実際にそう伝えてきた。

 

 ただ、試合に出ると、つい難しいパスを選んでしまう。

 

 目立ちたいからだった。

 

 ボールを奪い、前を向き、誰も気づいていないコースへパスを通す。そういうプレーを一度成功させれば、次の試合でも使ってもらえるのではないか。ベンチに座り続けた若者がそう考えるのは、無理もなかった。

 

 ヘイルは昨季のホームゲームを再生した。

 

 ハーパーが中央でボールを受け、右足で縦パスを狙う。味方のフォワードは動き出していたが、相手センターバックが先にコースへ入った。

 

 ボールを奪われ、相手のカウンターが始まる。

 

 ハーパーは走って戻ったものの、相手のパスはすでに中央を通過していた。

 

「これ、覚えていますか」

 

「はい」

 

「なぜ、前へ出したんですか」

 

 ハーパーは画面を見た。

 

「通ると思ったので」

 

「本当に?」

 

 責めるような言い方ではなかった。

 

 ハーパーは少し考えた。

 

「……通したかったんです」

 

 コールは机の上でペンを転がした。

 

 ヘイルは映像を数秒戻した。

 

「ここで左へ預けていたら、次はどうなったと思います?」

 

 ハーパーは画面に身を寄せた。

 

 左には味方のサイドバックがいた。相手の右サイドハーフは、中央を警戒して内側へ寄っている。

 

「左から運べたかもしれません」

 

「そうですね」

 

 ヘイルはそこで再生を止めた。

 

「前へのパスが悪いわけじゃありません。ただ、急ぐ必要がない場面もあります」

 

 ハーパーは頷いた。

 

 自分でも分かっていたことだった。

 

 昨季の終盤、途中出場した試合でパスミスをした後、ベンチから大きな声で名前を呼ばれた。その後はボールを受けるたび、次に何をすべきか考えるより先に、失敗しないことを考えていた。

 

 それでも、何かを見せなければ次はない。

 

 そう思うと、また難しいプレーを選んでしまう。

 

「今季は、どこで使うつもりですか」

 

 ハーパーが尋ねた。

 

「インサイドハーフです」

 

 ヘイルはホワイトボードの二つの位置を指した。

 

「どちらでもできるようになってほしい」

 

「攻撃的な方ですか?」

 

「両方とも攻撃に参加します。ただし、守備でもかなり走ってもらいます」

 

 ハーパーは少し安心した。

 

 自分の得意な位置がなくなるのではないかと心配していたからだ。

 

「出場機会はありますか」

 

「あります」

 

 ヘイルはそう言った後、少し間を置いた。

 

「ただ、保証はできません」

 

 ハーパーは頷いた。

 

 保証がないことくらい、最初から分かっていた。

 

 それでも、監督が自分の映像を見てくれている。昨季、何度も繰り返した失敗について、理由を聞いてくれている。

 

 それは悪くない始まりだった。

 

 面談が終わり、ハーパーが廊下へ出ると、マーサーはすでに練習場へ向かっていた。

 

 ハーパーは窓からその背中を見た。

 

 三十二歳の主将は、スタッフと何かを話しながら、ゆっくりと芝生の上を歩いていた。

 

 自分はまだ二十歳だ。

 

 時間はある。

 

 だが、マーサーのように九年もこのクラブでプレーできるかどうかは、誰にも分からなかった。

 

 *

 

 午後の面談には、ジェームズ・ウォードが来た。

 

 二十九歳の右サイドの選手だった。

 

 昨季はリーグ戦三十八試合に出場し、チームの中でも出場時間が長い。足が特別速いわけではないが、上下動を惜しまない。試合の終盤になっても相手を追いかける姿勢は、コールも高く評価していた。

 

 問題は契約だった。

 

 ウォードの契約は来年の六月で満了する。代理人からは、二年の延長と給与の引き上げを求める連絡が来ていた。

 

 コールは本人が座るのを待ち、契約書の話を切り出した。

 

「代理人とは話してる。希望も聞いた」

 

 ウォードは頷いた。

 

「どうなりそうですか」

 

「まだ決めてない。監督の考えも聞きたい」

 

 ヘイルは、昨季の映像を見せた。

 

 ウォードが右サイドでボールを受け、相手サイドバックを引きつける。中央の味方へ預けた後、すぐに縦へ走り直す。折り返しのボールが入り、ウォードは低いクロスを送った。

 

 ゴールにはならなかったが、いい攻撃だった。

 

「こういう走り方は、今季も必要です」

 

 ヘイルが言った。

 

「ただ、守備ではもっと後ろまで戻ってもらうことになります」

 

「ウイングバックですか」

 

「はい」

 

 ウォードは布陣を見た。

 

 昨季は右サイドハーフとしてプレーしていた。後ろにはサイドバックがいた。新しい布陣では、自分の背後にいるのは右センターバックになる。

 

 それだけでも、仕事はかなり変わる。

 

「守備の練習は必要ですね」

 

「そうですね。プレシーズンで確認します」

 

「走るのは平気です」

 

 ウォードは言った。

 

「でも、相手の左ウイングと一対一になる場面は増えますよね」

 

「増えると思います」

 

「だったら、最初からその練習をやりたいです。試合で急にやれと言われても、たぶん難しい」

 

 ヘイルは頷いた。

 

 コールはそのやり取りを聞きながら、ウォードの資料に目を落とした。

 

 二十九歳。契約満了まで一年。

 

 今季の働き次第では、来年以降も十分に戦力になる。ただ、クラブがこれからどれほどの規模で補強を進めるのか、コール自身にも見通せていない。

 

 長期契約を結べば、選手には安心が生まれる。

 

 同時に、クラブには責任が生まれる。

 

「契約の件だけどな」

 

 コールが言った。

 

「今の段階では、一年の延長を考えている。基本給は現状維持で、出場数に応じたボーナスをつける形だ」

 

 ウォードの表情が少し変わった。

 

「二年は難しいですか」

 

「今すぐは約束できない」

 

 ウォードは水のボトルに手を伸ばしたが、蓋を開けなかった。

 

「代理人とは、二年で話してたんです」

 

「聞いてる」

 

「子どもが、来年から学校なんですよ」

 

 コールは頷いた。

 

 ウォードには小さな子どもが二人いる。クラブのイベントに家族で来たとき、コールも会っていた。

 

「引っ越すなら、早めに決めたいんです。残れるなら残りたいですし」

 

 ウォードは淡々と話した。

 

 年俸の額だけではない。

 

 家を買うか、借り続けるか。子どもをどこの学校へ通わせるか。家族にとって、契約の一年は短くない。

 

 コールは机の上で手を組んだ。

 

「分かってる。だから、今ここで返事を急がせるつもりはない。代理人とも続けて話す」

 

 ウォードは少し考え、頷いた。

 

「お願いします」

 

 面談が終わった後、コールはしばらく契約書の資料を見ていた。

 

「どう思います?」

 

 ヘイルが尋ねた。

 

「選手としては必要だ。ただ、二年後にどこまで使えるかは分からん」

 

「本人は残りたそうでしたね」

 

「そうだな」

 

 コールは資料を閉じた。

 

 新しいオーナーは、世界に知られる若い選手を三人、できれば五人欲しいと言っている。

 

 だが、クラブにいるのは、未来のスター候補だけではない。

 

 契約満了が近いベテランもいる。

 

 試合に出たい若者もいる。

 

 家族の生活を考えながら契約を待つ選手もいる。

 

 その全員が、明日から同じ練習場へ集まる。

 

 *

 

 夕方、九人目の面談が終わった。

 

 ヘイルは選手一覧を広げ、午前中に書いた評価を見直した。

 

 二十七人のうち、今日話したのは九人。

 

 四人の評価に手を入れた。

 

 マーサーは中央センターバックの有力候補として残す。ハーパーはインサイドハーフの競争に加える。ウォードは右ウイングバックとしてプレシーズンで試す。

 

 映像だけでは分からなかったことが、いくつもあった。

 

 マーサーは、足が遅くなったことを自分で理解していた。そのうえで、守備の配置について具体的な意見を持っていた。

 

 ハーパーは、技術が足りないからパスを失うわけではなかった。出場機会の少なさが、判断を急がせていた。

 

 ウォードは、新しい役割を嫌がらなかった。むしろ、必要な練習を早く始めたいと考えていた。

 

 ヘイルはペンを置いた。

 

「どうだった?」

 

 コールが尋ねた。

 

「思っていたより、話せました」

 

「そりゃよかった」

 

「マーサーは、いい主将ですね」

 

「そうだよ」

 

 コールは即答した。

 

「だから九年もいる」

 

 そのとき、コールの携帯電話が鳴った。

 

 ボーンベリーFCからだった。

 

 朝に届いていた問い合わせへの返答らしい。

 

 コールは画面を確認し、電話に出た。

 

 話は短かった。

 

 クルーニーについて、現時点では売却もローンも考えていない。プレシーズンでの評価が終わるまでは、起用計画も変わらない。

 

 昨日、電話で聞いた内容と同じだった。

 

「分かった。ありがとう」

 

 コールは通話を終えた。

 

「クルーニーですか」

 

 ヘイルが尋ねる。

 

「ああ。今のところ動かない」

 

「そうですか」

 

「八月にもう一度聞く。それまでは別の候補も見よう」

 

 ヘイルは頷いた。

 

 コールは携帯電話を机に置いたが、すぐにまた通知が届いた。

 

 今度はオーナーの秘書からだった。

 

 明日の午後、スタジアム拡張についての会議を開きたいという。

 

 コールは画面を見つめた。

 

「どうしました?」

 

 ヘイルが尋ねる。

 

「明日、オーナーが来る」

 

「補強の話ですか」

 

「いや。スタジアムだ」

 

 ヘイルは窓の外を見た。

 

 レッドクリフ・グラウンドの古い客席が、夕方の光の中に並んでいた。約二万七千人を収容するスタジアム。ブリストルの人々にとっては長年親しんだ場所だが、オーナーの構想するクラブには小さすぎるらしい。

 

「もう拡張するんですか」

 

「少なくとも、話はしたいそうだ」

 

 コールは椅子から立ち上がった。

 

「補強の電話もまだ山ほどあるのにな」

 

 ヘイルは机の上の選手一覧を揃えた。

 

「明日の午前は、残りの面談ですね」

 

「そうだ。午後はオーナーの会議」

 

「分かりました」

 

 コールは鞄を持ち、会議室の扉へ向かった。

 

 廊下へ出る前に振り返ると、ヘイルはまだ座っていた。

 

「帰らないのか?」

 

「少しだけ、映像を見直します」

 

「マーサーのか?」

 

「ハーパーです」

 

 コールは頷いた。

 

「遅くなるなよ」

 

 扉を閉めると、廊下は静かだった。

 

 選手たちはすでに帰り、清掃スタッフが遠くで掃除機をかけている。壁には昨季のチーム写真が掛かっていた。

 

 コールはその前で足を止めた。

 

 写真には、今日面談した選手たちも写っている。

 

 主将のマーサーは中央に立ち、ハーパーは後列の端にいた。ウォードは前列で、隣の選手と肩を組んで笑っている。

 

 来年の写真に、このうち何人が残っているだろう。

 

 その答えを出すのも、自分の仕事だった。

 

 コールは再び歩き始めた。

 

 スタジアムの外へ出ると、雨は完全に上がっていた。西の空には細い夕焼けが見える。

 

 駐車場の向こうでは、赤い横断幕が風に揺れていた。

 

 新しい時代が始まる。

 

 その言葉を口にするのは簡単だった。

 

 だが、クラブが変わるということは、そこにいる人間の暮らしも変わるということだった。

 

 コールは車の鍵を取り出した。

 

 明日も、忙しくなりそうだった。

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