また、当時の時代背景に即した臨場感を出すため、読者によっては不快に感じられる言葉や表現が登場する場合があります。
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第1話 1948年6月、扶桑の横須賀にて①
魔法と科学が共存する世界。
魔女たちが箒にまたがって空を飛び、その下では鋼鉄の巨人が大地を踏みしめて進む時代。
それは、私たちの知る歴史ではない。けれど、どこかの宇宙ではあり得たかもしれない、地球の物語である。
――
――
1918年。
大戦――のちに第一次世界大戦と呼ばれることになる巨大な悲劇は、静寂と重苦しい沈黙の中で幕を下ろした。
この戦争によって、一千万もの若い命が冷たい大地に葬られた。人類が自らの手で生み出した、最悪の災厄。人々が初めて経験した世界大戦の恐怖は、到底言葉で言い表せるものではなかった。
その恐怖の中から生まれた虚無感、絶望、そして怒りは、やがて一人の男の扇動によって、邪悪な帝国を育む土壌となった。しかし、大戦後の厭戦気分が世界を覆う中、いかなる列強も軽々しく動こうとはしなかった。総力戦というものが何を意味するのか、すでに身をもって知っていたからだ。
1939年。
ヒトラー率いるナチス・カールスラントが、ファシズムの旗印のもとポーラントへ侵攻したことをきっかけに、世界は再び大戦の戦火に包まれた。
ヒトラーはヨーロッパ全土を支配する野望を抱き、オラーシャ連邦に侵攻した。一方、アジアではカールスラントのナチス政権と手を結んだ枢軸国の扶桑皇国が、その影響力を拡大していった。これを警戒したリベリオン合衆国は、扶桑に対する制裁に踏み切る。戦争を継続するうえで不可欠な石油の供給を断ったのだ。
だが、扶桑は退かなかった。すでにアジア大陸の大国シンと交戦中であったにもかかわらず、リベリオン軍が駐留する真珠湾を爆撃したのである。
こうして、太平洋戦争が始まった。
1939年から1943年に至るまで、およそ四年間。枢軸国と連合国は、数千万もの人々を死へと追いやった。人類は自分たちの手で引き起こした惨禍に恐れおののき、一日も早く戦争が終わることを願いながら、日々を生きていた。
そして、1943年。
ナチス・カールスラントがスターリングラードで敗北し、枢軸国に滅亡の兆しが見え始めた頃。
黒海の青空に、『それ』は現れた。
上空を覆い尽くす暗雲。不気味に荒れ狂う稲妻。まるで空そのものに根を張ったかのような、異様な形。
そして、その中から現れた『何か』。
それは、人類すべてを標的として、排除し始めた。
連合国であろうと、枢軸国であろうと、地図にすら載らない小さな国であろうと――。
人々に悲鳴を上げさせ、混乱を生み出すことこそが望みであるかのように、そいつらが放つ赤い光線は人間の亡骸を蒸発させ、大地を焼き払い、空を切り裂いた。
ある者は、それらを神と呼んだ。
ある者は、それらを怪物と呼んだ。
そして今日、それらはこう呼ばれている。
ネウロイ。人類の敵、と。
その存在によって、人類から思想や理念が消え去ったわけではなかった。ただ、それらを掲げて争っているだけの時間が、あまりにも足りなくなったのだ。
何より重要なのは、交渉も降伏も通用しない、この共通の敵を相手に生き延びること。そのために昨日の敵は今日の味方となり、兵器の研究開発はかつてないほど加速した。
ウィッチと呼ばれる、魔法力を操る少女たちの力を借りることから、人間のように二本の脚で歩く戦車に至るまで。人類は生き残るために知恵を絞り、持てる技術のすべてを注ぎ込んだ。
そして、ついに希望が見えた。
箒に乗って空を飛んでいたウィッチたちは、ストライカーユニットと呼ばれる翼に両脚を預け、大空へと舞い上がった。
馬にまたがり、戦車に乗り込んで戦場を駆けていた兵士たちは、モビルスーツと呼ばれる鋼鉄の機動戦士に身を託し、大地を進んだ。
空と大地。炎と鋼鉄。血と愛が、一つに絡み合う時代。
遠ざかるプロペラの音の向こうで、大地を揺るがす足音の合間に、潮風に散っていく船の汽笛とともに、運命の車輪はついに回り始める。
ネウロイと人類との戦争が始まって、早くも五年。
夏の訪れが近づく、リベリオン占領下の扶桑。
1948年の横須賀にて――。
――
――
ボオオオオォ――ン。
重々しい汽笛の音が港に響き渡った。港にいた軍人たちは慌ただしく行き交い、入港する船を迎えようとしていた。
それは、東南アジア戦線の激戦地の一つ、『ナム』で六か月間戦い続け、ようやく帰還した兵士たちを乗せた、USSトーマス・ジェファーソンだった。
船が岸壁に着き、係留索を取って接岸を終えると、ほどなくして数百人の男たちがタラップを下りてきた。八日ぶりに、再び陸地を踏みしめたのである。
照りつける太陽の下、夏の気配が色濃くなっていたが、海風はまるで彼らを歓迎するかのように、涼しく吹き抜けていった。
海兵隊員の大半は、陸に上がれたことを喜んでいた。正確には、ジャングルのない文明の地へ戻ってこられたことを喜んでいたのだ。
ナムにいた頃は、毎日のように雨と蚊に悩まされ、それでも歯を食いしばって戦い続けてきた。しばらくはジャングルも森も見たくないと思うほどだった。
だからこそ、ほんの数年前まで敵として戦っていた扶桑の土地であっても、彼らは喜んで足を踏み入れることができた。ジャングルはないし、蚊だって我慢できる程度にしかいないのだから。
もちろん、全員がそうだったわけではない。
「六か月もジャングルでクソみたいな目に遭って、やっと帰ってきたと思ったらチョッパリどもの国かよ――!」
金髪、茶髪、黒髪の海兵隊員たちの間から、短く刈り込んだ黒髪の少年が声を張り上げた。
その容貌は、周囲のリベリオン人たちと比べると明らかに異質だった。何しろ、誰がどう見ても東洋人だったからである。
「陸に降りて最初の一言がそれか?」
その背後から、同じく黒髪の東洋人がHBTキャップを目深にかぶってついてきた。不満げな視線を向けられると、少年は唇を尖らせ、顔をそちらへ向けた。
「なんでよりによってここなんだよ。韓(ハン)ならすぐ隣じゃねえか。なのに、どうしてわざわざここで休まなきゃいけねえんだ?」
「俺に聞くなよ。船の行き先を決めるのは俺たちじゃなくて司令部の指示だろ? 文句があるなら、紙にでも書いて司令部宛てに送れ。一週間ほど営倉にぶち込まれれば、ここが天国だって分かるさ」
「ひでえよ、ヒジカたん! 自分は故郷に帰ってきたからって、俺の気持ちは無視かよ!」
「お前がしょっちゅう奇行に走らなけりゃ、俺だってもっと優しくしてやるよ!」
ヒジカたんと呼ばれた少年、土方圭助(ひじかた・けいすけ)は、アイアンの振る舞いに声を荒らげた。
アイアンは妙な悲鳴を上げて天を仰ぐと、続いて船から降りてきた一行に向かって声をかけた。
「隊長、隊長からも何とか言ってくださいよ! 隊長だって、ここで休むくらいなら韓で休んだほうがよっぽど気が楽でしょ? 扶桑にはいい思い出なんかないんだし」
「おい、お前、隊長にまでそんな口を――!」
「確かにな」
コンクリートの地面に軍靴を下ろしながら近づいてきた男が、落ち着いた低い声で口を開いた。
眉のあたりまで伸びた茶色の巻き毛。くすんだ緑色の瞳。鋭い顎の線とこけた頬。そして、口元の左側を斜めに走る一本の傷痕が印象的な男だった。
リベリオン人というよりは、ロマーニャ人――ラテン系に近い顔立ち、と言ったほうがしっくりくる。
Tシャツの上から、部隊章と少尉の肩章が付いた野戦ジャケットを羽織り、ジッパーを半ばまで開けている。背後には、黒人ともう一人の東洋人、二人の部下を連れていた。
「バカンスを過ごしたいって話なら、アイアンの言うとおり、扶桑より韓の釜山か蔚山に行くほうがよかっただろうな。嫌な記憶を呼び起こされることもなく、気楽に足を伸ばして昼寝でもできるだろうし」
「やっほ~☆」
「そんな……」
アイアンがはしゃぎ、対照的に土方は沈んだ顔をする。
だが、続く言葉は、二人の表情を一変させた。
「だが、俺たちはバカンスに来たわけじゃない。ヨーロッパ戦線に再配置される前に、休養を取るために来たんだ。クソったれなジャングルから少しでも離れて、熱病に苦しまずに飯を食って休める場所なら、扶桑だろうが韓だろうが構わん」
「それでもどうしても韓に行きたいってんなら、今から泳げば済州島くらいには着けるだろうよ、アイアン」
そう言われたアイアンは、身震いしながら舌を出した。
「ひどいっすよ! 俺がカナヅチだって知ってるくせに!」
「分かってるなら黙って扶桑で休め。俺たちは遊びに来たんじゃない。作戦前の休養に来たんだ」
アイアンはため息をつき、両手を持ち上げた。結局、扶桑で休むという事実を受け入れ、降参したらしい。
傍らでそれを見ていた土方が、小さく笑った。
「隊長も、あんまり肩肘張らないでくださいよ。半年もジャングルで腐ってたんですから、ここにいる間くらい、ゆっくり休まないと」
「同感。隊長はきちんと休むべき。たとえ、ここが扶桑でも」
「アイアンの言うことは放っておいて、サンダーソン軍曹とチェイニー伍長の言うとおりです」
そう言って、土方は再び隊長に向き直った。
「隊長も、扶桑にいる間はゆっくりしてください」
「ふん」
男は呆れたように、そんなつもりはないと言わんばかりに鼻を鳴らすと、自分の小隊員たちに告げた。
「とにかく、これから二週間ほど横須賀に滞在する。その間、各自体調を整え、休養と身の回りの整備を済ませておけ。酒を飲もうが女に会いに行こうが構わんが、問題だけは起こすな。俺は宿舎の近くからほとんど離れないつもりだ。何かあれば探しに来い」
「「「「ラジャー」」」」
男がうなずくと、部隊の事務を担当する下士官が人員点呼のために隊員たちを集合させた。
彼の小隊も他の隊員たちに混じって点呼を受け、まもなく下士官が彼を呼んだ。
「アマダ少尉! ウィリアム・アマダ少尉――!」
その声を受けて、男――ウィリアム・アマダが一歩前に出て、答えた。
「ウィリアム・アマダ少尉以下、第08MS小隊、五名全員集合完了」
第08MS小隊。
それが、ウィリアムと彼の部下たちを指す部隊名だった。
――
1948年6月5日。
6月3日、ナムから帰還した海兵隊員たちに対して、人員確認や宿舎の割り当てなど、各種の事務手続きが行われた。それらがすべて片づくと、兵士たちには数日間の休息が与えられた。
二日間の事務手続きの間も外出は制限付きで認められていたが、今度は休暇に近いものだった。
海兵隊員たちはジャングルを抜け出し、半年ぶりに訪れた夢のような休暇を楽しもうと市街地へ繰り出した。
ある者は酒場に向かい、ある者は店を見て回り、またある者は、早くも女性を口説こうと熱のこもった視線を送っていた。
ウィリアム・アマダと彼の小隊は、ジープに乗って市街地の入口へやって来た。
ハンドルを握っていた土方が手慣れた様子で車を停めると、待ってましたとばかりにアイアンが真っ先に飛び降りた。
「よっしゃあ! ヒジカたん、何か食いに行こうぜ! せっかく貰った給料、ここで使わないとな!」
「さっき朝飯食ったばっかりだろ? また何を食う気だよ?」
「軍のメシと、外で金払って食うメシが同じ味なわけないだろ? 扶桑で食い倒れの旅ってのはちょっとアレだけど、どうせ滞在することになったんだ。腹いっぱい食っていこうぜ! ほらほら、行こう!」
「ちょっ、待て! おい、引っ張るな!」
「おい、アイアン、土方! 隊長にどこへ行くかくらい――」
「いい」
ウィリアムは、土方を連れて街へ入ろうとするアイアンを呼び止めかけたサンダーソンの胸を、手の甲で軽く叩いて制した。
「久しぶりの陸だ……楽しませてやれ。ただ、面倒を起こさないか、少し見張っておいてくれ」
「アイアンがいる以上、それが一番難しいと思いますが」
「同感」
チェイニーがサンダーソンの隣でうなずいた。
その言葉にはウィリアムも反論できなかったのか、ため息をつき、顎をさすった。
「とりあえず、お前たち二人も街で休んでこい。俺はあとで合流する」
「宿舎にお戻りになるんですか?」
「いや、少し歩くつもりだ。十二時頃には宿舎に戻っているだろう。俺のことは気にせず、それぞれ自由に過ごせ」
「解散」
そう告げて立ち去るウィリアムを、サンダーソンとチェイニーは敬礼して見送った。
入口から離れながらふと振り返ると、ある屋台の前でアイアンと土方が言い争っているのが見えた。
「半年もナムで腐って、帰ってきて最初に食うのが麺かよ!? せめて飯を食おうぜ!」
「仕方ないだろ! 俺はもう腹いっぱいだし、軽く食べられそうなのは、ここの中華そばくらいしかないんだから!」
「向こうにリベリオン軍向けのハンバーガーを売ってる店があっただろ! だったらそっちにしようぜ! 俺は扶桑の食い物なんか食わねえからな!」
「これは中華そばだって! シンから伝わってきた料理だよ!」
「でも扶桑で扶桑人が売ってんだろ! だったら扶桑の食い物じゃねえか!」
「おい、若いの! ほかのお客さんが逃げちまうから、食うのか食わねえのか、さっさと決めてくれ!」
屋台の主人の声を背に、ウィリアムは市街地から遠ざかっていった。
一方、街へ入っていくほかの海兵隊員たちは、すれ違うウィリアムをちらりと見て、ひそひそと言葉を交わした。
「見ろよ、『狂犬(マッド・ドッグ)』が街を出ていくぞ。街には噛みつき甲斐のあるものがなかったらしいぜ?」
「さすがは扶桑上陸戦の英雄様だ。俺たちみたいな下っ端の海兵隊員と一緒に飯を食うには、格が違うってか?」
「おいおい、その辺にしとけ。聞かれて、牙で噛み殺されでもしたらどうするんだ?」
「うげっ! 狂犬病にはかかりたくねえなぁ~」
ほかの海兵隊員たちの嫌味は、ウィリアムの耳にもはっきり届いていた。
だが、彼は慣れきっているかのように無視し、そのまま歩き続けた。
この場所を訪れるのは初めてではないらしく、迷うことなく道を選び、足を進めていく。
向かう先は、最初から決まっていた。
「……まだ残っていたか」
海岸の片隅に置き去りにされた、M4ジャンボ・シャーマンの残骸を見て、彼はつぶやいた。
砲弾による焼け焦げた跡が今なお残り、真っ黒に焼けた車体には錆まで浮いている。何年も経ったというのに、この戦車の残骸は、まだここを去るつもりがないようだった。
そのジャンボ・シャーマンの周りや車体の上には、何人かの子供たちが集まって戦争ごっこをしていた。
子供たちは、どこからか手に入れた軍服を適当に羽織っていた。扶桑海軍のものと、リベリオン海兵隊のものが入り交じっている。
「ブウーン、ブウーン! 戦車前進! ネウロイに向けて主砲発射――!」
「次は僕が車長をやるからね!」
「えー、僕もやりたいよー!」
少し離れた場所から遊ぶ子供たちを眺めていたウィリアムの口元に、自然と笑みが浮かんだ。
だが、同時に何ともやりきれない気持ちにもなった。
戦争の残骸の上で、子供たちが戦争を遊びにしているのだから。
「あ、見て! リベリオンのおじさんがこっち見てる!」
「やばいよ! 戦車に入るなって怒りに来たんだ! 逃げろー!」
ウィリアムの視線に気づいた子供たちは、慌てて戦車から下り、逃げ出した。
ウィリアムは追いかけようともせず、再び歩き始めた。
崖沿いを歩き、そのまましばらく山道を登った。
崖の岩肌には、銃弾の跡がそこかしこに残っていた。これもまた、扶桑上陸戦の置き土産だった。流れ弾が風を切り、山の中まで飛び込んできたのだ。
「ふぅ……」
ウィリアムは弾痕を指先でなぞりながら、しばし物思いに沈んだ。
望んでいなくとも、上陸戦の痕跡は何度も彼を過去へと引きずり戻す。
まるで、一度はまれば抜け出せない沼のように。
今も耳の奥には、あの上陸戦の音が鮮明に残っていた。
戦車の履帯が回る音。着弾する砲弾の音。扶桑軍兵士たちの悲痛な叫び。
そして、そんな彼らに向かって、頼むから降伏してくれと叫んだ、自分自身の声。
『クソッ、頼むから降伏しろってんだよ――ッ!!!』
目を閉じれば、つい昨日のことのように蘇ってくる。
扶桑上陸戦だけではない。ガダルカナル、ニューギニア、ニューブリテン、ペリリュー、沖縄での戦いも、そのすべてが。
そうした傷は、簡単に消えるものではなかった。
「……今は、平和なのか……?」
ウィリアムは自分に問いかけるようにつぶやいた。
平和だと言うなら、確かに平和なのかもしれない。
少なくとも、海岸が血で染まった扶桑上陸戦の頃や、ネウロイの猛攻にさらされ、今なお激戦の続くヨーロッパと比べれば。
だが、周囲が平和だからといって、それがそのまま彼自身の平穏になるわけではないらしい。
そう考えても、胸の奥の息苦しさは消えなかった。
「そろそろ十二時か……戻るとするか」
いつの間にか正午が近づいていた。ウィリアムは宿舎へ引き返そうと、踵を返しかけた。
もし、その頭上で木の枝が揺れ、葉が落ちてこなければ、そのまま帰っていたことだろう。
「……ん?」
足元に舞い落ちてきた木の葉を見て、ウィリアムは視線を下げた。
葉が落ちること自体は、別段おかしなことではない。時期の違いこそあれ、葉はいずれ落ちるものなのだから。
「うわああああああっ――!」
「うおっ――!?」
だが、木の葉が落ちてきた直後に、学生服姿の少女の悲鳴まで聞こえてくるとなれば、話は別だ。
顔を上げた瞬間、真上から少女が落ちてくるのが見えた。
ウィリアムは面食らいながらも、とっさに両腕を差し出して受け止める姿勢を取った。
次の瞬間、軽い衝撃とともに両腕に重みがかかった。
ウィリアムは、腕の中に落ちてきた少女を確かめた。
「何だ……!? いったい、お前は――」
そして少女と目が合った瞬間、言葉を失った。
海から拾い上げた、きらきらと輝く美しい茶色の巻き貝のような瞳。
どこまでも澄み切った、まるで人の心の奥まで見通してしまいそうな、優しく透明な眼差し。
ウィリアムは何も言えないまま、しばらくその瞳を見つめていた。
「あの……すみません……」
「ん……? ああ、すまない」
腕の中の少女が口を開いて、ようやく我に返った。
ウィリアムがそっと少女を下ろすと、地面に立った彼女は彼を見上げ、丁寧に頭を下げた。
「ありがとうございます。受け止めてくださって」
「いや……それより、どうして落ちてきたんだ?」
「それは――」
「にゃあ!」
少女の胸元から、一匹の猫が顔を覗かせて鳴いた。
顔つきからしても体の大きさからしても、まだ成猫にはなっていない子猫だった。
少女はその子猫をそっと撫でながら、答えた。
「この子が木に引っかかっていたんです。それで、助けてあげようと思って」
「危ないことを……。大人を呼ぶべきだったな。落ちたらどうするつもりだったんだ?」
「でも、こうして無事ですから。もちろん、あなたが受け止めてくださったおかげですけど……。あの、失礼ですが、お名前は……?」
「ウィリアム。ウィリアム・アマダだ」
「ありがとうございます、ヤマダさん!」
「『ヤマダ』じゃない。『アマダ』だ」
「あっ、アマダさん」
照れくさそうに言い直す少女を見て、ウィリアムは小さく鼻を鳴らし、周囲を見回した。
親が一緒にいるのではないかと思ったのだ。しかし、見渡したところ、親らしい人影は見当たらない。
「親御さんは? ほかに誰か一緒じゃないのか?」
「あ、友達と一緒にいたんです。あの上にいたんですけど――」
「芳佳ちゃああああん――!」
噂をすれば影、とはよく言ったものだ。
少女の友人が慌ただしく山道を駆け下り、彼女のもとへ走ってきた。
芳佳と呼ばれた少女は、近づいてくる友人に手を振り、自分の居場所を知らせた。
「みっちゃん!」
「芳佳ちゃん、心配したんだから! 木に登ったと思ったら、いきなり落っこちちゃって……」
「えっ、この人は?」
みっちゃんと呼ばれた少女は、芳佳のそばにいるウィリアムへ目を向けた。
芳佳と違い、その目には幾分か警戒の色があった。無理もない。どう見ても一般人には見えない、大柄なリベリオン人が友人のそばに立っていたのだから。
「あっ、怖がらなくて大丈夫だよ。この人が受け止めてくれたの」
「こ、この人が?」
「うん! だから、この子も無事だったんだよ」
黒い子猫を抱いたまま、芳佳はそう言った。
みっちゃんが改めてウィリアムを見たときには、警戒心もいくらか和らいでいた。しかし、それでもなお彼から距離を置きたそうなのは変わらなかった。
「お前たち、こんなところで何をしてるんだ?」
「学校が終わって、帰る途中だったんです。歩いていたら、この子が木に引っかかっていて」
「あの、芳佳ちゃん。早く帰ろうよ。おじいちゃんも待ってるだろうし……」
「あ、うん。とにかく、もう一度お礼を言わせてください。ありがとうございました、アマダさん」
「芳佳ちゃん、早く……!」
みっちゃんは芳佳の手を引き、急いでウィリアムから離れようとした。
どうやら彼の存在が、かなり居心地悪く、威圧的に感じられたらしい。
「ちょっ、美千子(みちこ)、落ち着いて……!」
芳佳は子猫を胸に抱いたまま、美千子に手を引かれて山を下りていった。
下りていく間も、彼女は何度かウィリアムのほうを振り返り、感謝の言葉を口にした。
ウィリアムは遠ざかる二人を見送りながら、軽く手を上げて応えた。
このときはまだ、二人とも知らなかった。
二人の縁が、ただのすれ違いでは終わらないことを。
――
――
ストライクウィッチーズ × 機動戦士ガンダム
空と大地のワルツ
はじめまして。ハーメルンでは初めての投稿になります。
作品紹介欄をご覧になってお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、私は海外に住んでおり、GPT(ChatGPT)の力を借りて日本語に翻訳しながら投稿していく予定です。
至らない点も多いかと思いますが、どうか温かく見守っていただければ幸いです。