チャンピオン シロナの幼馴染   作:あいはーと

16 / 16
04 キッサキの氷柱と、湖畔の落日

凍てつく吹雪を抜け、ヒカリとポッタイシは何とかキッサキシティの街並みにたどり着いた。

寒さと緊張で強張った体をポケセンの温もりでほぐし、万全の準備を整えたヒカリが向かったのは、街の北西にそびえるキッサキジムだった。

 

床一面が滑らかな氷で覆われた特殊なジム。

雪深い217番道路でアストと出会い、そこで自らが示した「逃げない意志」――あの経験を経て、ヒカリの心には迷いは消えていた。

 

「ポッタイシ、行くよ……!」

 

ジムリーダー・スズナの繰り出すユキメノコやユキカブリといった猛攻に対し、ポッタイシは鋭い水流と鋼の気魄で一歩も引かずに渡り合う。氷の上で足を取られながらも、ヒカリの的確な指示とポッタイシの粘り強さが噛み合い、最後は激しい交錯の末にスズナの切札を押し切った。

 

「……参ったね。あんたたちの目は、すごく真っ直ぐだ」

 

スズナから手渡された氷のジムバッジ。それはヒカリにとって、単なる7つ目の勲章ではなく、自身の覚悟が本物であるという確かな証だった。

 

しかし、その勝利の余韻に浸る間もなく、シンオウ地方全体を揺るがす異常がヒカリを襲う。

エイチ湖の方向から、空気を凍てつかせるような禍々しい波動と、爆発音が響き渡ったのだ。

 

「え……今の音……?」

 

嫌な予感に駆られ、ヒカリはすぐさまエイチ湖へと急行した。

湖畔に到着したヒカリが目撃したのは、信じられない光景だった。結界の張られていたはずの湖の中心で、ギンガ団の幹部・ジュピターの放つポケモンたちが、湖の守護神である伝説のポケモン「ユクシー」を圧倒し、拘束しようとしていたのだ。

 

すでに駆けつけていたジムの挑戦者であるライバル・ジュンが、血だらけになりながらも歯を食いしばって立ち上がろうとしている。

 

「くそっ……なんだよこいつら……っ!」

「ジュンくん!」

 

ヒカリが叫びながら飛び込み、ポッタイシを繰り出す。だが、先ほどのジム戦で消耗している上、相手は組織の幹部。実力差は歴然だった。

 

「おや、また一匹の虫が寄ってきたか。……邪魔をするな」

 

ジュピターが冷酷に命じると、スカタンクの強力な「はどうだん」が放たれた。

まともに直撃を受けたポッタイシが激しく吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。

 

「ポッタイシ……っ!」

 

ヒカリが駆け寄り、我が身を挺して相棒を庇う。だが、ユクシーはついにギンガ団の特殊な装置に捉えられ、悲鳴を上げる間もなく上空へと連れ去られてしまった。

 

「待って……! 返してよ……!」

 

ヒカリは震える足で立ち上がり、手を伸ばそうとするが、冷たい風がその無力さを嘲笑うように吹き抜けるだけだった。

すべてが終わった静寂の中、ヒカリは泥と雪にまみれた地面に膝をつき、自分の無力さに涙を流した。

 

(守れなかった……。私たちが強くならなきゃ、何も救えない……っ!)

 

悔しさと絶望に押しつぶされそうになったその時、地面に転がっていたギンガ団の下っ端の通信機から、激しい雑音とともに途切れ途切れの焦燥した声が漏れ聞こえた。

 

『――こちら第3小隊! 湖畔南側のルートで足止めを受けている!』

『なんだと!? 相手は警察か!?』

『ち、違う……黒いコートの男だ! 一体なんなんだあの強さは……青いサーナイト一匹に全隊破砕された……ガッ……ツゥー……』

 

雑音の奥から響いたのは、聞いたこともないほど冷徹で圧倒的な破砕音だった。

 

「これ……」

 

ヒカリはハッと息を呑み、通信機を見つめた。

自分たちがジュピターに叩きのめされ、絶望に伏していたまさにその裏で、本来ここへ雪崩れ込んでくるはずだった膨大な増援を、単身で叩き潰していた男がいる。

 

あの吹雪の217番道路で、冷たく「邪魔をするな」と吐き捨てて去っていった男の姿が脳裏に蘇る。

彼はヒカリを助けに来たわけでも、甘い言葉をかけに来たわけでもない。ただ、自分の戦いを淡々とこなし、結果的に背後に迫る脅威をすべて切り伏せていたのだ。

 

(あの人が背中を守ってくれていたから……私たちは、ここまで来られた……)

 

口では突き放しながらも、誰も見ていない影の場所で、誰にも知られず敵の刃をすべて引き受けてくれている男の背中。

それは「守ってもらうための優しさ」ではなく、「お前は前を向け」と言葉なき背中で突き放す、あまりにも不器用で圧倒的な生き様だった。

 

その生き様に触れたとき、ヒカリの胸の奥で、頼るためではない――自立するための火が激しく燃え上がった。

 

(誰かに守ってもらうための強さじゃない。……私自身の足で立ち、私の意志で、この世界を守るんだ……!)

 

ヒカリは涙を力強く拭い、ボロボロになりながらも自分を見つめ返すポッタイシの手を取って立ち上がった。

もはや迷いはない。

奪われたものを取り戻し、そしてあの無骨な背中にいつか追いつくため、ヒカリは自らの足で、トバリシティのギンガ団本拠地へと歩き出す。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

宵の弓月(作者:“妄蛇”蛇)(原作:BLEACH)

BLEACHに霊王の欠片持ち、仮面の軍勢、夜一さんの弟、夕四郎の兄な盛り盛り四楓院転生オリ主を突っ込んでみた話。▼推敲作業、文章チェックで生成AIを使用。


総合評価:42/評価:-.--/連載:5話/更新日時:2026年10月25日(日) 21:05 小説情報

双白の花(作者:心ここにあらず)(原作:BLEACH)

原作では悲しい別れになってしまった松本乱菊と市丸ギン…この2人の中にもう1人幼馴染が居たら…あの時乱菊を助けられたんじゃ…ギンが愛染を相手に1人で立ち向かわなくても良いんじゃないか。▼そう言う思いを書き詰めた作品です。オリ主モノで恋愛描写も有るかもです!苦手な人は回れ右です!またBLEACHの知識で知らないこともあるかと思います。どんどん指摘して無知な私めに…


総合評価:360/評価:9/連載:16話/更新日時:2026年07月30日(木) 07:16 小説情報

Skybound Ace 【Redux】(作者:心ここにあらず)(原作:ハイキュー!!)

▼この作品はリメイク版です!▼ハイキューの世界にリエーフの幼馴染的な主人公を交えたお話です。生まれもった環境もポテンシャルも全てを兼ね備えた主人公がどのように原作キャラたちと交え成長していくのかをご覧ください!⚠︎リエーフは幼馴染であるが同じ高校に進むとは言ってない…ウシワカとか大王様とか宮城には個性的な人たちがいるからそっちと絡ませたいです!


総合評価:219/評価:7.75/連載:15話/更新日時:2026年07月11日(土) 07:12 小説情報

ダンボール戦機 転生した少年の物語(作者:フュー)(原作:ダンボール戦機)

▼これは、手のひらサイズの小型ロボットを操る少年達の世界に転生した1人の少年の物語である。▼


総合評価:25/評価:-.--/連載:2話/更新日時:2026年07月15日(水) 22:45 小説情報

あべこべ▽(作者:nalnalnalnal)(原作:ゆるキャン△)

あべこべな世界で平穏なキャンプをしたい。


総合評価:570/評価:8.62/連載:2話/更新日時:2026年08月29日(土) 16:24 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>