シンオウ地方の中央にそびえる不夜城――トバリシティ。
その一角に潜むギンガ団の本拠地は、街の華やかな電飾の裏側に隠された、冷徹な鉄とコンクリートの要塞だった。
ユクシーを取り戻すため、ヒカリとポッタイシは正面突破ではなく、裏手から伸びる厳重なセキュリティエリアへと足を踏み入れていた。
幾重にも張り巡らされた電子ロック、次々と襲い来るサイボーグめいた下っ端たちの群れ、そして幾度となく浴びせられる容赦ない攻撃。
「くっ……!」
連戦の疲労と冷たい空気が、ヒカリたちの体力を容赦なく削り取っていく。
トバリの暗い回廊を駆け抜ける最中、外壁の窓の向こう、夜空を切り裂くように奔る激しい爆発と閃光が走った。
あの冷徹な破壊のリズムを、ヒカリは知っていた。――アストだ。
彼は彼で、アジトの外周や防衛システムを単身で叩き潰し、組織の主力を釘付けにしている。言葉はなくとも、その圧倒的な破壊の余波が、ヒカリの背中を無理やり前へ押し出していた。
(アストさんが外を引き受けてくれてる……! なら、私は私で中枢を叩くだけだ……!)
だが、最奥の実験区画に到達したヒカリたちの前に立ち塞がったのは、幹部サターンだった。
「よくここまで辿り着いたものだね。だが、実験の邪魔はさせない」
サターンの繰り出すドクロッグとユキカブリの連携が、狭い通路で猛威を振るう。
疲弊しきったポッタイシは、ドクロッグの容赦ない「どくづき」を受け、ついに床に叩きつけられてしまった。
「ポッタイシ……っ!」
ヒカリが駆け寄り、その体を抱き起こす。毒に侵され、意識が薄れゆく相棒の目には、しかし消えかけた炭火のような強い光が宿っていた。
守られるだけの存在でいることはもうご免だ。もっと強くなり、この理不尽な世界を自らの足で歩むという強い意志が、トレーナーとポケモンの間で激しく共鳴する。
「立てる……? 一緒に行こう、私たちの未来へ……っ!」
ヒカリの叫びに応えるように、ポッタイシの体が眩い蒼白の光に包まれた。
傷だらけの小柄な体躯がぐっと引き延ばされ、気高い気魄とともに鋭い鋼の翼と堂々たる体躯へと組み変わっていく。
光が弾けた時、そこに立っていたのは、もう頼りないポッタイシではなかった。
頭部を覆う重厚な冠と、冷徹に光る鋼の鋭い翼を持つ孤高の王者――エンペルトへの覚醒進化だった。
「……ッシャア!」
エンペルトが放った圧倒的な水と鋼の気魄(ラスターカノン)が、周囲の空気を凍てつかせ、サターンのポケモンたちをまとめて吹き飛ばす。
その一撃の重みと圧倒的な気高さに、サターンは顔色を失って後ずさった。
「なんだ、この進化のエネルギーは……っ!」
「私たちの絆を、舐めないで!」
迷いのないヒカリの号令に合わせ、エンペルトの鋭い鋼の翼が閃く。
一瞬の交錯の末、サターンの切札はついに沈黙し、アジトの中枢システムは完全に制圧された。
戦いが静まり返った広大な区画で、ヒカリは深く息を吐き出し、見違えるほど頼もしくなった相棒の背中にそっと手を添えた。
外からはまだ、アストの戦いを示すかのような微かな地鳴りが響いている。
自分の足で立ち、己の意志で新たな力を手に入れたヒカリは、ユクシーが囚われているさらなる深部へ向けて、迷うことなく歩き出すのだった。