チャンピオン シロナの幼馴染   作:あいはーと

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幕間:頂の夜、氷刃の絆

テンガン山の中腹。荒れ狂う吹雪を避けるように逃げ込んだ洞窟の陰で、トランシーバーのノイズが途切れ途切れに響いていた。

 

『――トバリから移動したのね、アスト。怪我はない?』

 

スピーカー越しに届いたシロナの声は、いつになく硬い。

アストは壁に背を預け、冷え切った指先で通信機を握り直した。

 

「ああ……だが、トバリでアカギの計画を止めることはできなかった」

 

短い沈黙が流れる。街の混乱、そしてギンガ団のアジトに残された、アカギの異質なまでの執念の痕跡。その敗北の重みが、冷気とともに胸に押し寄せる。

 

「奴らの目的地はテンガンざんの頂、やりのはしらだ。間違いなく、ギンガ団の最終計画が始まる。……シロナ、そっちは?」

 

『リーグ側の応援と警備の手配を急がせているわ。私もすぐテンガンざんへ向かう。……アスト、絶対に一人で無茶はしないで』

 

「分かってる。山頂の手前で合流しよう」

 

通信を切り、アストは深く息を吐き出した。

アカギを止められなかった焦燥と、これから始まる壊滅的な決戦への重圧。心臓の鼓動が嫌な早さで打っている。

 

その時、洞窟の奥からカサリと乾いた足音が聞こえた。

 

姿を現したのは、ニューラだった。

かつての雪原で、役に立たないと切り捨てられ、死を待つだけだったボロボロのポケモン。あのとき、自分と同じ「壊れた刃」の匂いがして、血を流しながら無造作に抱き上げた。

 

アストが連れている手持ちの中でも、ニューラは一番一筋縄ではいかない奴だった。トレーナーを信用せず、ただ己の鋭い爪だけを頼りに生きてきた意地が、まだどこかに残っていた。

 

「……すまん、ニューラ。寒かったろ」

 

アストは荷物から毛布を取り出し、自分ではなくニューラの肩へと差し出した。

ニューラは眉をひそめ、不快そうにその手を払いのける。人間の生ぬるい同情など要らない、と言いたげに。

 

だが、アストは怒りもせず、自分の膝を抱え、薄暗い足元に視線を落とした。

 

「……俺も昔は、自分の傷を隠して、冷たい道具になろうとしてた。お前を拾ったあの時も、実は自分の影に怯えてただけかもしれないな」

 

アストの低い呟きに、ニューラがピクリと耳を動かす。

 

「でもな……明日、山頂で何が起きても、俺はお前を捨て駒にはしない。お前が俺を信用しなくてもいい。あの雪の日から、俺はもう……お前を一人ぼっちにはしないって決めたんだ」

 

それは命令でも、綺麗事の慰めでもなかった。

ただのひとりの不器用な人間として、過酷な道を共にしてきた仲間に向けた、偽りのない本音だった。

 

その言葉を聞いた瞬間、ニューラの脳裏に、あの日の記憶がよぎる。

血を流しながら自分を抱き上げた冷たい手の温もり。自分を道具としてではなく、ひとつの「命」として真っ直ぐに引き受けてくれた男の背中。

 

こいつは自分の保身のためでも、強さの証明のためでもなく――あの雪の日からずっと、同じ痛みを背負って走ってくれていたのだと、ニューラは急に腑に落ちた気がした。

 

ニューラの中で、ずっと氷のように固まっていた「人間への疑心」が、音を立てて崩れ去る。

 

ニューラは黙って歩み寄ると、アストの差し出した毛布を自分の爪で乱暴に押し返す代わりに、その冷え切った手に、自分の鋭い爪を傷つけないようそっと、しかし強く重ね合わせた。

 

「……ニューラ?」

 

その瞬間、重ねられたニューラの身体から、眩いほどの蒼い光が溢れ出した。

 

夜の闇を裂くその光の中で、ニューラのシルエットが引き締まり、より鋭く、気高く変化していく。

伸びた手足、頭部に伸びる漆黒の羽飾り、そして闇に映える鮮やかな紅。

 

光が収まったとき、そこに立っていたのは、迷いを完全に捨て去ったマニューラだった。

 

マニューラは静かに振り返ると、鋭い爪をシャキンと鳴らし、ニヤリと不敵に口元を歪めた。

「あの雪の日から、お前の背中は俺が守る」と言わんばかりの、力強い相棒の笑みだった。

 

アストは目を見開き、やがて胸の底から湧き上がる熱いものを感じながら、口元を緩めた。

 

「……ああ、頼むぞ、相棒」

 

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