チャンピオン シロナの幼馴染   作:あいはーと

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エピローグ.1


09 雪解けの足音

テンガン山の麓へと続く静けさに包まれた道。

ヒカリを一足先に麓のポケモンセンターへと送り出し、完全な静寂がふたりを包み込んだ時だった。

 

「……はあ」

 

アストが短く息を吐き出すと同時に、その隣を歩いていたシロナが、ふっと糸が切れたようにアストの胸元へと身体を預けてきた。

 

「……シロナ?」

 

「疲れたわ……ほんとうに」

 

チャンピオンとしての完璧な面も、鋭い眼光もそこにはない。アストのコートの胸元に顔を埋め、力を抜いて甘えるように身を寄せる、ただの『一人の女性』としてのシロナがそこにいた。

 

アストは呆れたような、けれど心底愛おしそうな吐息を漏らすと、迷わずシロナの細い腰に腕をまわし、引き寄せるように強く抱きしめた。コート越しにも伝わってくる彼女の体温と、柔らかい髪の香り。世界の存亡をかけた激闘を終え、互いが無事にここにいるという確かな実感が、胸を満たしていく。

 

「お前が一番無理しただろ。前衛でギラティナの圧力を全部受け止めてたんだからな」

 

「ふふ、でも……あなたが後ろを完璧に固めてくれていたでしょう? だから私、少しも怖くなかったわ」

 

シロナはアストの胸の中から顔を上げると、革手袋をすっと外し、素手でアストの頬を優しく包み込んだ。凍てつく山の風に晒されていた指先は、少し冷たくなっている。

 

「……手、冷たいぞ」

 

「あなたが温めてくれるでしょう?」

 

少し悪戯っぽく微笑むシロナの瞳に、アストは降参したように目元を緩めた。頬に触れる冷たい手の上に自分の大きな手を重ね、包み込むようにして温める。そのままゆっくりと顔を近づけ、彼女の冷えた唇に、静かで熱いキスを落とした。

 

重ねられた唇から伝わるのは、互いの体温と、言葉にならない深い愛着。

一度引き離された唇が、名残惜しそうに何度か小さく触れ合う。

 

「……ん、アスト……」

 

「シロナ。……無事でよかった」

 

「ええ……あなたもね」

 

甘く吐息を漏らしながら、シロナはアストの首筋に腕を回し、さらに深く身体を寄せてくる。

少し離れた雪道では、ガブリアスとサーナイト、そしてマニューラが、気を利かせるように静かに背を向け、ふたりの密やかな時間を邪魔しないよう見守っていた。

 

「ねえ、アスト。あの少女が……ヒカリちゃんがチャンピオンロードを抜けて、私のところへ辿り着くまで」

 

シロナはアストの胸に頬を寄せたまま、どこか愛おしそうに呟く。

 

「もう少しだけ、こうしてふたりだけの時間を過ごせるかしら」

 

「……当たり前だろ。いくらでも付き合う」

 

アストはシロナの頭を優しく撫で下ろし、その髪に深く口づけを落とした。

 

過酷な狂乱の夜が明け、シンオウの空に静かな朝焼けが差し込み始めていた。

世界の危機を乗り越えた二人を包むのは、どこまでも穏やかで、甘い冬の光だった。

 

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