新チャンピオン就任を祝う「シンオウ戴冠記念祭」。
コトブキシティの特設ステージには凄まじい数の観衆と報道陣が詰めかけ、フラッシュの光が絶え間なく焚かれていた。
黒いフォーマルドレスに身を包んだシロナは、マイクを前に凛とした笑みをたたえている。
その完璧な立ち振る舞いはまさに王者の風格そのものだったが――インタビューが始まった途端、雲行きが怪しくなり始めた。
「シロナ新チャンピオン! 改めて、史上最年少での戴冠おめでとうございます! 最後のドサイドン戦、あの鮮やかな勝機を見出したきっかけは何だったのでしょうか!?」
レポーターが興奮気味にマイクを向けると、シロナはふっと表情を柔らかくして頷いた。
「ありがとうございます。……あの勝機を見出せたのは、アストのおかげなんです」
「……えっ、アスト選手……ですか?」
「ええ。私に先立って挑戦した彼が、命を削るような戦いでドサイドンの装甲に完璧な傷をつけてくれたからこそ、私とガブリアスは迷わずそこを撃ち抜くことができました。彼の諦めない強さと戦術があったからこそ、今の私があるんです」
シロナの熱弁に、レポーターは一瞬気圧されつつも笑顔で頷いた。
「な、なるほど! 前挑戦者のアスト選手の功績も大きかったと。では、チャンピオンとして今後どのようなシンオウリーグを作っていきたいですか?」
「それについても、アストとよく話しているんです」
「……またアスト選手ですか?」
「はい。アストは私以上にポケモンの心に寄り添うのが上手で……特に影を背負ったポケモンたちの支援制度について、旅の途中からずっと二人で語り合ってきたんです。彼の思慮深さと優しさには、いつも助けられていて……あ、あと彼が淹れてくれるココアもすごく美味しくて」
ステージ袖で控えていたアストは、思わず「おい……!」と口元を覆って顔を伏せた。
となりに並ぶ四天王やリーグ関係者たちが、ニヤニヤとした視線をアストへ一斉に向け始める。
(シロナ……頼むから公式インタビューだってことを思い出してくれ……!)
アストの祈りも虚しく、シロナの「アストトーク」は止まらない。
どんな質問をされても、すべて「アストが」「アストと」「アストのおかげで」へと帰結していく。
あまりの熱弁ぶりに、レポーターも最初は困惑していたものの、ふと何かに気づいたように目を輝かせ、意地悪く口元を緩めた。
華やかな舞台の真ん中で、レポーターが踏み込んだ質問を投げかける。
「……あの、シロナチャンピオン。差し支えなければお伺いしたいのですが……そこまでお話に出てくるアスト選手とは、もしかして……お付き合いされているのでしょうか?」
全国に生中継されている大舞台。
その直球すぎる問いかけに、それまで堂々としていたシロナの動きがピタリと止まった。
「っ……!」
瞬間、白皙の頬がカァッと真っ赤に染まる。
不意を突かれた恥ずかしさに、シロナはわずかに目を泳がせ、どう返したものかと小さく息を呑んで思考を巡らせた。
――だが、次の瞬間。
シロナはふと、ステージ袖で頭を抱えかけているアストの方へと視線を向けた。
自分を心配そうに見つめている、その愛おしい姿。
その瞳と目が合ったとき、シロナの頬の赤みはそのままに、迷いがスッと消えていった。隠す必要なんてない。あいつとの歩んできた日々も、想いも、すべて本物なのだから。
ふっと柔らかく微笑み、シロナは迷いのない瞳でマイクにまっすぐ向き合った。
「――はいっ!」
ストレートでどこか誇らしげな可愛さすら宿った返答が、会場のスピーカーから響き渡る。
「……っ!!???」
会場が一瞬、静まり返った。
そして次の瞬間、割れんばかりの歓声と、プレス陣の爆発的なフラッシュの嵐が巻き起こる。
「「「えぇぇぇぇぇーーーっ!?!?」」」
「はい、じゃないだろ『はい』って……!」
ステージ袖で完全にノックアウトされたアストは、あまりの直球すぎる公開告白に両手で顔を覆い、真っ赤になりながら天を仰いだ。
だが、その指の隙間から見えたステージの上のシロナは、恥ずかしそうに頬を染めながらも、どこか満足げに、嬉しそうにふにゃりと笑っていた。
(……本当に、敵わないな)
呆れと、それを遥かに上回る愛おしさに胸を打たれながら、アストは深く息を吐き、眩い光の中ですらりと立つ新チャンピオンに向けて、静かに温かな拍手を送るのだった――。