第一幕 鴉は尸魂界に生きる
第一部 死して、なお
第3話 己を映すもの
真央霊術院。
死神を志す者が、斬術、白打、歩法、鬼道をはじめとする基礎を学ぶ場所。
そして。
護廷十三隊へ入るための、最も一般的な道でもある。
「ここか」
門の前で、イタチは足を止めた。
流魂街で暮らした三年間。
何度も名前を聞いた。
調べられる範囲では調べた。
それでも。
外から得られる情報には限界がある。
斬魄刀。
鬼道。
死神の戦闘技術。
霊力の扱い。
知らないものが、この先にある。
それだけで。
ここへ来る理由としては十分だった。
◇
入学試験。
「次、うちは イタチ!」
「はい」
名前を呼ばれ、前へ出る。
試験官が紙へ視線を落とした。
「流魂街出身。年齢は……」
そこで止まる。
「分かりません」
「分からない?」
「尸魂界へ来てから三年です」
「ああ、そういうことか」
試験官は慣れているらしい。
それ以上は聞かなかった。
「では霊力を測る。そこへ手を」
指示された器具へ触れる。
言われた通り、霊力を流す。
「…………」
試験官が器具を見る。
眉を寄せた。
「……おかしいな」
隣にいた試験官も覗き込む。
「反応がほとんどない」
「故障か?」
「いや。さっきまでは正常だった」
「もう一度やってみるか」
その会話を聞いて。
イタチは自分の内側へ意識を向けた。
そして。
「ああ……」
原因に気づいた。
「すみません」
「ん?」
「もう一度、お願いできますか」
「構わないが……」
「普段から霊圧を抑えるようにしていました」
「……霊圧を?」
「はい」
流魂街で霊力の扱いを覚えてから。
外へ余計な力を漏らさないようにすることは、いつしか習慣になっていた。
元々。
気配や力を不用意に晒さないことには慣れている。
加えて。
「その方が、腹が空きにくい気がして……」
「…………」
「…………」
二人の試験官が黙った。
「……それで抑えてたのか?」
「はい」
流魂街で暮らす以上、食料は無限にあるわけではない。
霊力を大きく動かした日は、明らかに空腹が強くなる。
ならば。
普段から余計な消耗を避けるのは当然だと思っていた。
「今、解きます」
「あ、ああ」
イタチは器具へ手を置き直した。
意識していた抑制を解く。
霊力が。
静かに、身体の内から広がった。
器具が反応する。
「――っ」
先ほどまでほとんど動かなかった測定値が、一気に跳ね上がった。
「…………」
試験官が黙る。
隣の試験官も器具を凝視している。
「……かなり多いぞ」
「ああ」
「この年で、これか……?」
イタチは測定器を見る。
次に。
二人の反応を見る。
(……これでも多いのか)
本人の感覚では。
前世で最も力を扱えていた頃には、まだ遠い。
三年前。
この世界で目覚めた直後と比べれば、身体も霊力も大きく成長した。
それでも。
まだ成長の途中だと感じている。
だが。
目の前の二人にとっては。
今の自分でも、十分に多いらしい。
尸魂界における基準を。
イタチはまだ知らない。
これは覚えておいた方がいい。
「もういい。十分だ」
「はい」
再び霊圧を抑える。
器具の反応が落ちた。
試験官がその様子を見て。
もう一度、イタチを見る。
「……お前、それだけ細かく調整できるのか?」
「三年間、練習しましたので」
「…………そうか」
「はい」
「次へ行ってくれ」
「分かりました」
一礼し、その場を離れる。
その背後で。
「……なあ」
「何だ」
「お前、あそこまで霊圧を抑えられるか?」
「…………」
少し間があった。
「いや。無理だな」
「だよな」
「しかも、あれが普段の状態なんだろ?」
「ああ。言われるまで本人も忘れてたくらいにはな」
「……三年練習した、か」
「霊力量も多いが……制御はそれ以上かもしれんな」
そんな会話が聞こえた。
イタチは振り返らなかった。
自分にとっては。
必要だったから身につけただけのことだった。
◇
実技。
走力。
身体能力。
基本的な霊力操作。
簡単な筆記。
どれも問題はなかった。
ただ。
「……妙だな」
実技担当の教官が呟いた。
イタチは視線を向ける。
「何がでしょう」
「お前、本当に正式な訓練を受けたことはないのか?」
「この世界ではありません」
「この世界では?」
「はい」
教官が眉を寄せる。
「……まあいい」
受験者の経歴など様々なのだろう。
深く追及されることはなかった。
「木剣を取れ」
斬術の簡単な適性を見るらしい。
イタチは並べられた木剣を一本取った。
握る。
重さを確認する。
長さ。
重心。
反り。
前世で使っていた忍刀とは違う。
だが。
刀であることに変わりはない。
「構えろ」
「はい」
正面。
教官が木剣を構える。
「打ち込んでこい」
イタチは一歩踏み込んだ。
振る。
教官が受ける。
次。
角度を変える。
受けられる。
三撃目。
教官の木剣が動く前に軌道を変えた。
「っ」
止める。
木剣の先端が、教官の喉元にあった。
「…………」
「…………」
周囲が静かになる。
イタチは木剣を下ろした。
「続けますか」
「いや」
教官が答える。
「もういい」
「分かりました」
木剣を戻す。
歩き出す。
その背後。
「経験なし?」
「嘘だろ」
「いや、本人は『この世界では』って……」
「何だそれ」
少し騒がしくなっていた。
◇
入学は認められた。
成績上位者を集めた組。
それがイタチの所属する教室になった。
初日。
教壇に立った教官が、生徒たちを見渡す。
「ここへ来た以上、お前たちは死神を目指すことになる」
「霊力が高いだけでは死神にはなれん」
「刀が振れるだけでも駄目だ」
「鬼道だけ使えても駄目だ」
黒板へ文字が書かれる。
斬。
拳。
走。
鬼。
「斬術」
「白打」
「歩法」
「鬼道」
「これらを総称して――斬拳走鬼と呼ぶ」
イタチは文字を見る。
斬術。
刀。
白打。
体術。
歩法。
移動術。
鬼道。
術。
一見すれば。
忍の訓練と似ている。
だが。
同じではない。
それが面白かった。
◇
最初に違いを強く感じたのは、歩法だった。
「瞬歩は、ただ速く走る技術ではない」
教官が訓練場に並んだ生徒たちを見渡す。
「霊力を脚へ集中させて身体能力を高め、地面を蹴る。それだけなら、速く走っているのと大差はない」
イタチは静かに聞く。
「瞬歩では、霊力そのものを移動のために使う」
教官が一歩前へ出た。
「口で説明するより、見た方が早い」
姿勢を落とす。
次の瞬間。
姿が消えた。
「――!」
生徒たちから声が上がる。
十数メートル先。
教官が立っていた。
「今のが瞬歩だ」
「速っ……」
「全然見えなかったぞ」
「走ってないよな……?」
周囲が騒めく。
イタチは何も言わなかった。
速い。
だが。
自分の知る瞬身とは違う。
瞬身の術。
チャクラによって身体能力を瞬間的に活性化させ。
その一瞬だけ大きく引き上げられた身体能力をもって、超高速で移動する術。
極端に言えば。
動いているのは、あくまで術者自身の肉体だ。
だが。
今の教官の動きには、それとは異なるものがあった。
「…………」
消える直前。
足元で霊力が動いた。
身体を強化しただけではない。
霊力そのものが。
移動に使われている。
(……瞬身とは違う)
同じように。
一瞬で距離を詰める。
結果だけを見れば似ている。
だが。
そこへ至る過程が違う。
「もう一度見せる」
教官が元の位置へ戻る。
イタチは、その足元を見る。
より正確に確認する必要がある。
瞳へ力を込めた。
黒い瞳が。
紅へ変わる。
三つの勾玉が、その中に浮かび上がった。
教官が構えようとして。
ふと、動きを止めた。
「……うちは」
「はい」
「お前、その眼はどうした?」
その言葉で。
生徒たちも教官の視線を追った。
「眼?」
「……赤い」
「何だ、あれ……?」
教官の実演へ向いていた視線が。
次々とイタチへ集まっていく。
黒かったはずの瞳は紅く染まり。
その中には、三つの勾玉のような模様が浮かんでいた。
ざわめきが広がる。
イタチは一瞬だけ考えた。
写輪眼について説明する必要はない。
「体質です」
「体質?」
「はい。集中した時など、時々眼が紅くなることがあります」
教官がイタチの眼を見る。
「……その模様もか?」
「はい」
「痛みは?」
「ありません」
「視界がおかしくなったりは?」
「今のところ問題ありません」
「身体に負担は?」
「特には」
「そうか……」
教官はしばらく紅い瞳を見ていた。
珍しいとは思っているのだろう。
だが。
本人に痛みもなく。
視界にも問題がない。
授業を中断する理由はない。
「分かった。何か異常があればすぐに言え」
「はい」
教官が生徒たちへ向き直る。
「ほら、お前らも見るのはそっちじゃない。今からもう一度やるぞ」
慌てて。
生徒たちの視線が教官へ戻る。
それでも。
何人かはまだちらちらとイタチを見ていた。
イタチは気にしなかった。
「今度は霊力の使い方を意識して見ろ」
教官が構える。
足元へ霊力が集まる。
イタチの写輪眼が、その流れを追う。
脚。
足裏。
そこまでは。
瞬身と大きく変わらない。
だが。
その先。
足裏へ集められた霊力の一部が、身体の外へ出た。
(……外へ)
地面との間。
そこに。
一瞬だけ霊力が留まる。
足場。
いや。
それだけではない。
移動する先へ向けて。
細く。
霊力が伸びる。
道を作るように。
「――」
教官が消えた。
今度は見えた。
地面を強く蹴り。
脚力だけで身体を前へ押し出しているのではない。
足元に作った霊力の足場。
そして。
移動する方向へ伸ばした霊力。
その二つを使い。
身体そのものを、一気に前へ運んでいる。
(押し出すだけではない)
前へ。
引かれている。
だから。
地面を蹴る力だけに依存しない。
教官が十数メートル先に現れる。
「今のが瞬歩だ」
教官が全員へ向けて言う。
「今すぐ分からなくてもいい。まずは身体で覚えていく」
足元を指す。
「霊力を足元へ集める」
次に。
移動する先を示した。
「進む方向を定め、霊力で身体を運ぶ」
「力任せに地面を蹴るんじゃない。そこを勘違いするな」
イタチは紅い眼のまま、教官を見る。
やはり。
瞬身とは違う。
瞬身は。
瞬間的に身体能力そのものを引き上げる。
その肉体で。
自ら超高速で移動する。
一方。
瞬歩は。
霊力そのものを移動へ利用する。
似ている。
だが。
根本が違う。
◇
やがて。
生徒たち自身が試す番になった。
「最初から瞬歩を完成させようとするな」
教官が説明する。
「まず足裏へ霊力を集めろ」
生徒たちが従う。
「次に、それを身体の内側だけで止めるな」
教官が自分の足元を示す。
「外へ出して、足場を作る」
一人の生徒が首を傾げた。
「足場って……地面があるのにですか?」
「今はそう思っておけ。できるようになれば意味が分かる」
イタチは黙って聞いていた。
自分が見たものと一致する。
「その足場へ身体を乗せる。そして――」
教官が前方を示す。
「進みたい方向へ霊力を通す」
「最初は短くていい。一歩先で十分だ」
一人ずつ試す。
霊力が散る。
足場を作れない。
身体だけが前へ出る。
バランスを崩す。
「だから走るな!」
「す、すみません!」
「霊力で運べと言ってるだろ!」
何人かが転ぶ。
イタチはその様子も見る。
成功だけではない。
失敗も参考になる。
「次。うちは」
「はい」
前へ出る。
「お前も最初は一歩だ」
「分かりました」
イタチは足元へ意識を向けた。
霊力を集める。
これは難しくない。
流魂街で三年間。
自分の内にある力を扱う訓練は続けてきた。
問題は。
ここから。
足裏から霊力を外へ出す。
薄く。
地面との間へ。
(足場……)
固める。
そして。
前方へ。
霊力を伸ばす。
先ほど教官が作ったものを思い出す。
写輪眼で見た流れ。
同じように。
繋ぐ。
「――」
動く。
だが。
「っ」
想定よりも身体が前へ出た。
数メートル先。
イタチは片足を地面につき、姿勢を立て直す。
「…………」
距離は出た。
だが。
今教わった瞬歩とは違う。
「うちは」
「はい」
「身体を使いすぎだ」
教官がイタチの足元を指した。
「お前も自分で前へ出ようとしすぎている」
「…………」
「さっき言っただろう。身体を速く動かすんじゃない」
教官が自分の足元へ霊力を集める。
「霊力で身体を運ぶんだ」
「はい」
「お前は足場は作れている。進む方向にも霊力を通せている。そこまでは悪くない」
だが。
教官は続ける。
「その上で、自分の身体まで前へ出そうとしている。それじゃあ瞬歩の感覚は掴めん」
「……なるほど」
イタチは自分の足を見る。
指摘されて理解した。
無意識だった。
身体を高速で移動させる。
そう考えた瞬間。
前世で幾度となく使った動きが出た。
瞬身の術。
チャクラによって身体能力を瞬間的に活性化させ、その肉体そのものを高速で移動させる。
その感覚を。
無意識に持ち込んでいた。
(結果が似ている分、引きずられるか)
「もう一度お願いします」
「ああ。今度は速く動こうとするな」
「はい」
「足場を作る。進む方向へ霊力を通す。そこまでできたら――」
教官が前方を示す。
「身体は霊力に任せろ」
「分かりました」
位置へ戻る。
今度は。
自分から身体を加速させない。
足裏へ霊力を集める。
外へ出す。
足場を作る。
前方へ霊力を通す。
そして。
身体を乗せる。
「――」
景色が流れた。
一歩。
数メートル。
先ほどより遅い。
だが。
今度は着地が乱れない。
「そうだ」
教官が頷いた。
「今の方がいい」
「はい」
「速さは後からついてくる。まずは今の感覚を覚えろ」
「分かりました」
イタチは自分の足を見る。
まだ粗い。
教官のものと比べれば。
霊力の足場も。
進むための道も。
無駄が多い。
だが。
先ほどよりは、分かる。
瞬身とは違う。
自分の知らない移動の仕方。
だからこそ。
きちんと身につけてみたいと思った。
この技術を習得すれば。
今までよりも、さらに動けるようになるかもしれない。
「もう一度やっても?」
教官が少し呆れた顔をした。
「……もう一度だけだ。他の奴らもいるからな」
「はい」
イタチは再び構えた。
知らない技術を。
一つずつ。
自分のものにするために。
◇
鬼道は、さらに興味深かった。
「術式を構築し、霊力を現象へ変換する」
教官が説明する。
「詠唱は、その術式を安定させるためのものだ」
イタチは聞く。
印ではない。
チャクラの性質変化とも違う。
言葉。
術式。
霊力。
それらを組み合わせて現象を作る。
「質問があります」
「何だ、うちは」
「詠唱を省略した場合、なぜ威力が低下するのでしょうか」
「術式の構築が不完全になるからだ」
「では、術式そのものを完全に理解していれば?」
教官が止まった。
「……何?」
「詠唱は術式を構築するための補助なのでしょうか。それとも、詠唱そのものが術式の一部なのでしょうか」
「…………」
「もし前者なら、術式を完全に理解した状態で内部的に構築すれば――」
「待て」
止められた。
「はい」
「初日だ」
「はい」
「まず詠唱を覚えろ」
「分かりました」
イタチは素直に頷いた。
教官はなぜか疲れた顔をしていた。
◇
白打。
これは比較的分かりやすかった。
拳。
蹴り。
投げ。
関節。
身体操作。
前世で最も馴染みのある分野の一つだ。
ただし。
霊力の使い方が違う。
身体能力そのものを高める。
瞬間的に脚へ流す。
打撃へ乗せる。
だが。
イタチには少し扱いづらかった。
「……力が逃げる」
拳を見る。
霊力を拳へ集め。
打つ。
できないわけではない。
だが。
チャクラを使っていた頃ほど自然ではない。
むしろ。
脚へ流した方が馴染む。
速度。
踏み込み。
回転。
そこから身体そのものの力を打撃へ伝える。
こちらの方がいい。
「面白いな」
できない。
だから。
学ぶ意味がある。
◇
そして。
斬術。
「うちは」
「はい」
「刀は投げるな」
「はい」
「蹴るな」
「はい」
「相手の腕を取って投げるな」
「はい」
「これは斬術の授業だ」
「理解しています」
「出来ていないから言ってるんだ!」
教官の声が訓練場へ響いた。
周囲から笑いが漏れる。
イタチは木剣を拾った。
「ですが、刀を振ることだけが戦闘ではありません」
「それはそうだが今は斬術を学べ!」
「分かりました」
「本当だな?」
「努力します」
「不安になる返事をするな!」
どうやら。
忍としての癖は、思っていた以上に強いらしい。
◇
授業が始まって、しばらく。
イタチは一つの結論を出していた。
面白い。
知らないことが多い。
前世の技術がそのまま使える分野もある。
まったく通用しない部分もある。
似ているからこそ違いが分かるものもある。
何より。
死神の技術は、それぞれが独立しているようで繋がっている。
霊力。
その扱い方一つで。
斬術も。
白打も。
歩法も。
鬼道も変わる。
ならば。
一つずつ理解すればいい。
時間はある。
少なくとも。
以前のように、明日死ぬことを前提に生きる必要はない。
◇
その日。
教室へ入ったイタチは、机の上に置かれたものを見た。
刀。
まだ何の特徴もない。
簡素な刀だった。
「今日から、お前たちには浅打を貸与する」
教官が告げる。
「浅打?」
誰かが呟いた。
「すべての死神が持つ斬魄刀。その原型だ」
教室の空気が変わった。
イタチも。
刀を見る。
「お前たちはこれから、この浅打と共に生活する」
「寝る時も」
「食事の時も」
「訓練の時もだ」
「己の霊力を注ぎ」
「己の魂を写し取らせる」
教官が続ける。
「やがて浅打は、お前だけの斬魄刀となる」
自分の魂を。
刀へ写す。
「…………」
イタチは浅打へ手を伸ばした。
柄を握る。
その瞬間だった。
音が消えた。
「――――」
教室が。
遠ざかる。
視界が黒く染まった。
◇
次に足が地面へ触れた時。
そこは。
見覚えのある場所だった。
「……これは」
夕暮れ。
石畳。
電柱。
並ぶ家々。
そして。
赤と白の団扇。
うちはの家紋。
イタチは動かなかった。
知っている。
忘れるはずがない。
うちは一族の居住区。
だが。
誰もいない。
静かだった。
血もない。
死体もない。
ただ。
人だけが消えている。
「…………」
幻術。
そう考えた。
だが。
違う。
もっと深い。
外から何かを見せられている感覚ではない。
自分の内側へ落ちたような――。
「兄さん」
声。
イタチの身体が止まった。
ゆっくり。
振り返る。
そこに。
一人の少年が立っていた。
黒髪。
黒い瞳。
まだ幼い顔。
見間違えるはずがない。
「……サスケ」
少年が笑った。
それは。
まだ何も失っていなかった頃の。
兄を見つけるたびに嬉しそうに駆け寄ってきた。
幼い弟の笑顔だった。
「ずっと待ってたんだよ」
イタチは何も言えなかった。
一歩。
少年が近づく。
「どうしたの?兄さん?」
「…………」
違う。
サスケではない。
分かっている。
自分の弟は生きている。
この世界にいるはずがない。
ならば。
目の前の存在は。
「お前は誰だ」
少年が頬を膨らませた。
「兄さんひどいよ」
「…………」
「僕のこと、分からないの?」
声も。
表情も。
仕草も。
あまりにも似ている。
だが。
サスケではない。
それだけは分かる。
「……分からない」
だから。
正直に答えた。
少年は少しだけ寂しそうな顔をした。
そして。
笑う。
「じゃあ」
風が吹いた。
黒い羽根が舞う。
一枚。
二枚。
やがて。
視界を覆うほどの黒。
その中で。
少年の声だけが聞こえた。
「教えてあげる」
世界が黒に染まる。
「僕の名前は――」
◇
「うちは?」
声。
イタチは目を開いた。
教室。
机。
周囲の生徒。
教官。
すべて戻っている。
「大丈夫か?」
「……はい」
どれほど時間が経った。
確認する。
ほとんど経っていない。
数秒。
いや。
それ以下かもしれない。
手を見る。
まだ浅打を握っている。
「どうした?」
「いえ」
イタチは刀を見る。
先ほどまで。
ただの刀だった。
だが。
今は違う。
分かる。
名前も。
そこにいる存在も。
そして。
その刀が。
何を望んでいるのかも。
イタチは静かに目を伏せた。
「……そうか」
誰にも聞こえない声で呟く。
刀の奥から。
どこか嬉しそうな少年の声がした気がした。
まだ。
その名を口にする必要はない。
イタチは浅打を腰へ差した。
知らないことばかりだと思っていた世界で。
また一つ。
知らなかったものと出会った。
イタチの能力について
病気無しで前世とは違いデバフがかかってない状態。
NARUTO世界の死後に尸魂界に転生。
当然ながら原作知識は無し。
全能力を通してNARUTO全盛期(21歳)に向けて成長比例して力を取り戻していく。
年齢相応の強さ。
(前世での15歳:中忍試験合格、暗部に入隊)