『2度目の鴉は死神として生きる』   作:時泥棒

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第4話

第一幕 鴉は尸魂界に生きる

 

第一部 死して、なお

 

第4話 夕暮れの向こう

 

 その日の夜。

 

 イタチは寮の自室で、机の上に置いた浅打を見ていた。

 

「…………」

 

 昼間と変わらない。

 

 柄。

 

 鍔。

 

 鞘。

 

 どこにでもある刀。

 

 教官の説明によれば。

 

 浅打とは、まだ何者でもない刀だ。

 

 持ち主が霊力を注ぎ。

 

 共に過ごし。

 

 魂を写し取らせることで。

 

 やがて。

 

 その者だけの斬魄刀となる。

 

 通常ならば。

 

 それには時間がかかる。

 

 だが。

 

 イタチには、すでに分かっていた。

 

 この刀の中には。

 

 いる。

 

「…………」

 

 柄へ手を伸ばす。

 

 触れる。

 

 昼間のように。

 

 意識が突然引き込まれることはなかった。

 

 ならば。

 

 こちらから行けばいい。

 

 目を閉じる。

 

 呼吸を整える。

 

 意識を。

 

 自分の内側へ沈めていく。

 

 前世でも。

 

 精神を集中させ、自分自身の内面へ意識を向けることはあった。

 

 だが。

 

 これは少し違う。

 

 もっと深く。

 

 もっと自然に。

 

 最初からそこへ続く道が、自分の中に存在しているような感覚。

 

 音が。

 

 遠ざかる。

 

     ◇

 

 夕暮れ。

 

 石畳。

 

 並ぶ家々。

 

 軒先に掲げられた。

 

 赤と白の団扇。

 

 うちは一族の居住区。

 

「…………」

 

 やはり。

 

 同じ場所だった。

 

 だが。

 

 今度は突然放り込まれたわけではない。

 

 周囲を見る余裕がある。

 

 誰もいない。

 

 それでも。

 

 廃墟ではなかった。

 

 家々は。

 

 イタチの記憶にある姿のまま残っている。

 

 血も。

 

 争った跡も。

 

 何もない。

 

 ただ。

 

 人だけがいない。

 

「兄さん!」

 

 声に振り返る。

 

 少年が走ってきた。

 

「来てくれたんだ!」

 

「ああ」

 

「遅いよ」

 

「昼間にも会っただろう」

 

「ちょっとだけじゃん」

 

「そうだな」

 

 少年がイタチの前で止まる。

 

 やはり。

 

 似ている。

 

 幼い頃のサスケに。

 

 だが。

 

 サスケではない。

 

 それはもう分かっている。

 

「兄さん」

 

「何だ」

 

「僕の名前、覚えてる?」

 

「ああ」

 

 昼間。

 

 確かに聞いた。

 

 言葉としてだけではない。

 

 その名が。

 

 自分の内側へ刻まれたように。

 

「濡れ鴉《ぬれがらす》」

 

「うん!」

 

 少年が嬉しそうに笑った。

 

 風が吹く。

 

 黒い羽根が一枚。

 

 二人の間を舞う。

 

「それが僕の名前」

 

 濡れ鴉。

 

 自分の斬魄刀。

 

 イタチは改めて少年を見る。

 

「一つ聞きたい」

 

「何?」

 

「なぜ、その姿なんだ」

 

「この姿?」

 

「ああ」

 

 濡れ鴉は自分の身体を見る。

 

 それから。

 

 不思議そうに首を傾げた。

 

「分からない」

 

「…………」

 

「気づいたら、こうだったよ」

 

「そうか」

 

「嫌?」

 

「いや」

 

 即答だった。

 

 濡れ鴉が笑う。

 

「よかった」

 

 その笑顔も。

 

 よく似ていた。

 

「斬魄刀は、持ち主の魂を写したものだと聞いた」

 

「うん」

 

「なら、お前も俺なのか」

 

 濡れ鴉は少し考えた。

 

「兄さんだけど、兄さんじゃない」

 

「…………」

 

「僕は僕だよ」

 

「そうか」

 

「うん」

 

 答えになっているようで。

 

 なっていない。

 

 だが。

 

 不思議と納得できた。

 

 イタチは周囲を見る。

 

「ここは」

 

「兄さんの中だよ」

 

「俺の?」

 

「うん」

 

「なら、なぜここなんだ」

 

「それは僕にも分からない」

 

 濡れ鴉が笑う。

 

「でも、ここだけじゃないよ」

 

「…………?」

 

「こっち!」

 

 突然。

 

 手を取られた。

 

 そのまま。

 

 引っ張られる。

 

「どこへ行く」

 

「いいから!」

 

 少年に連れられ。

 

 うちはの居住区を進む。

 

 曲がる。

 

 見覚えのある道。

 

 そして。

 

 開けた場所へ出た。

 

「…………」

 

 足が止まる。

 

 そこにあったのは。

 

 うちは一族が使っていた訓練場だった。

 

 標的。

 

 木々。

 

 手裏剣の痕。

 

 記憶にあるものと。

 

 ほとんど変わらない。

 

「ここもあるのか」

 

「うん!」

 

 濡れ鴉が走っていく。

 

 そして。

 

 置かれていた手裏剣を手に取った。

 

「兄さん!」

 

「…………」

 

「教えて!」

 

 イタチは手裏剣を見る。

 

「何をだ」

 

「手裏剣術!」

 

「…………」

 

「僕も兄さんみたいにやりたい!」

 

 その言葉に。

 

 一瞬。

 

 遠い記憶が重なる。

 

 手裏剣。

 

 標的。

 

 幼い弟。

 

 兄を見る目。

 

「兄さん?」

 

「……分かった」

 

「本当?」

 

「ああ」

 

 濡れ鴉の顔が明るくなる。

 

「まず投げてみろ」

 

「うん!」

 

 構える。

 

 投げる。

 

 手裏剣が飛ぶ。

 

 標的へ。

 

 刺さる。

 

 中心からは。

 

 かなり遠い。

 

「どう?」

 

「悪くない」

 

「本当?」

 

「初めてならな」

 

「じゃあ、次は?」

 

「構えから直す」

 

「うん!」

 

 イタチは濡れ鴉の手を見る。

 

「力を入れすぎるな」

 

「こう?」

 

「もう少し抜け」

 

「こう?」

 

「ああ」

 

 手首。

 

 指。

 

 肩。

 

 姿勢。

 

 一つずつ。

 

 教える。

 

 濡れ鴉は。

 

 驚くほど楽しそうに聞いていた。

 

     ◇

 

「兄さん!」

 

「何だ」

 

「見て!」

 

 三枚。

 

 手裏剣が飛ぶ。

 

 一枚目。

 

 二枚目。

 

 三枚目。

 

 それぞれ。

 

 標的へ刺さった。

 

「どう?」

 

「さっきよりいい」

 

「やった!」

 

「だが、二枚目で肩が上がっている」

 

「えっ」

 

「三枚目は手首を使いすぎだ」

 

「…………」

 

「もう一度だ」

 

「うん!」

 

 落ち込むかと思ったが。

 

 むしろ。

 

 嬉しそうだった。

 

 イタチは。

 

 少しだけ。

 

 目を細めた。

 

     ◇

 

 それから。

 

 イタチは気づいた。

 

 この世界は。

 

 うちはの居住区だけではない。

 

 道を進めば。

 

 木ノ葉の里がある。

 

 見覚えのある通り。

 

 建物。

 

 火影岩。

 

 さらに。

 

 里の外へ出ることもできた。

 

 広い演習場。

 

 森。

 

 川。

 

 岩場。

 

 自分が。

 

 かつて訪れた場所。

 

 知っている場所。

 

 記憶している場所。

 

 それらが。

 

 どこまでも。

 

 この世界に広がっていた。

 

「…………」

 

 川辺に立つ。

 

 水が流れている。

 

 風が吹く。

 

 木々が揺れる。

 

 あまりにも。

 

 よくできている。

 

「兄さん」

 

「何だ」

 

「今日はここでやろうよ」

 

「何をだ」

 

「修行!」

 

「…………」

 

 濡れ鴉は。

 

 いつの間にか苦無を持っていた。

 

「手裏剣はどうした」

 

「今日は苦無!」

 

「昨日は手裏剣だったな」

 

「うん!」

 

「そうか」

 

 イタチは苦無を一本取る。

 

「なら、まず構えからだ」

 

「うん!」

 

 濡れ鴉が笑う。

 

 その日から。

 

 精神世界へ入る度に。

 

 修行へ誘われるようになった。

 

     ◇

 

 もっとも。

 

 本来の目的を忘れたわけではない。

 

「兄さん」

 

「何だ」

 

「今度は僕の番」

 

 うちはの訓練場。

 

 濡れ鴉が笑う。

 

「教えてもらったから」

 

 黒い羽根が舞う。

 

「今度は僕が教える」

 

「何をだ」

 

「僕の使い方」

 

 イタチは黙る。

 

 濡れ鴉の表情が。

 

 少しだけ変わった。

 

 幼い少年のまま。

 

 だが。

 

 斬魄刀として。

 

 確かに。

 

 そこにいる。

 

「僕の名前、知ってるでしょ?」

 

「ああ」

 

「なら」

 

 濡れ鴉が笑う。

 

「呼んで」

 

 イタチは腰を見る。

 

 いつの間にか。

 

 そこには刀があった。

 

 鞘へ手をかける。

 

 抜く。

 

 夕陽を。

 

 刀身が反射する。

 

 分かる。

 

 名前だけではない。

 

 もう一つ。

 

 言葉がある。

 

 誰かから教えられたわけではない。

 

 それでも。

 

 知っている。

 

 刀を握る。

 

 息を吐く。

 

「纏え――」

 

 霊力が。

 

 刀へ流れ込む。

 

「濡れ鴉《ぬれがらす》」

 

 瞬間。

 

 黒い羽根が。

 

 視界を覆った。

 

     ◇

 

「…………」

 

 イタチは目を開いた。

 

 自室。

 

 机。

 

 灯り。

 

 浅打。

 

 すべて。

 

 元のまま。

 

 刀へ触れる。

 

 だが。

 

 先ほどまでとは。

 

 明らかに違う。

 

 分かる。

 

 呼べる。

 

 現実でも。

 

 名を呼べば。

 

 刀は応える。

 

「…………」

 

 試してみるべきか。

 

 そう考え。

 

 すぐにやめた。

 

 ここは寮だ。

 

 周囲には。

 

 他の生徒もいる。

 

 何より。

 

 まだ。

 

 自分自身が理解していない。

 

 未知の力を。

 

 人のいる場所で試す理由はない。

 

 ならば。

 

 まずは。

 

 知る。

 

 目を閉じる。

 

 再び。

 

 意識を内側へ沈めた。

 

     ◇

 

「え?」

 

 濡れ鴉が目を丸くした。

 

「もう戻ってきたの?」

 

「ああ」

 

「現実で使わないの?」

 

「まだ使わない」

 

「なんで?」

 

「何ができるのか、正確に理解していない」

 

「僕は分かってるよ」

 

「俺が分からない」

 

「…………」

 

 濡れ鴉が頬を膨らませる。

 

「兄さん、慎重すぎるよ」

 

「そうかもしれないな」

 

「…………」

 

濡れ鴉が。

 

じっと見る。

 

「じゃあ」

 

「何だ」

 

「ここではいっぱい使ってもいい?」

 

「ああ」

 

 瞬間。

 

 顔が明るくなった。

 

「分かった!」

 

「だが…」

 

「うん?」

 

 イタチは。

 

 少し考える。

 

「まずは」

 

 視線を。

 

 濡れ鴉の足元へ向けた。

 

「手裏剣術の続きだ」

 

「やった!」

 

     ◇

 

 それから。

 

 学院での生活が続いた。

 

 朝。

 

 起床。

 

 授業。

 

 訓練。

 

 食事。

 

 座学。

 

 自主鍛錬。

 

 就寝。

 

 そして。

 

 精神世界での修行、斬魄刀訓練も行われた。

 




イタチの霊力量
隊長格10人分(隊長格の量として1人分で卍解を1時間維持出来るものとする)
資質:全盛期の本人(2人分)+写輪眼(????の眼)所有によるもの(8人分)

写輪眼について本人は知らず元々あったものとして違和感なく受け入れている。
そもそも????の存在について知らないから考えもしない。
一部有識者達があれはもしかして…?的な察してる感じになっていく。

????:本作では四肢や臓腑だけではなく眼まで抉られてる可哀想な人…。
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