第一幕 鴉は尸魂界に生きる
第一部 死して、なお
第6話 知るほどに
二年目。
変わったことがある。
「うちは」
「はい」
「お前はこっちだ」
「分かりました」
教官が指したのは。
他の生徒たちとは。
少し離れた場所だった。
「今日は通常の実技には参加しなくていい」
「はい」
「代わりにこれをやれ」
渡された紙を見る。
「…………」
鬼道。
そこに書かれていたのは。
すでに授業で扱った術だった。
「復習でしょうか」
「違う」
教官が。
嫌そうな顔をする。
「お前が去年から聞いていたことだ」
「詠唱についてですか」
「そうだ」
紙を指す。
「術式を分解して考えてみろ」
「…………」
「ただし」
「はい」
「勝手に発動するな」
「分かりました」
「絶対だぞ」
「はい」
「……何でお前の返事はこんなに不安になるんだ」
イタチは。
紙へ目を落とした。
言葉。
霊力。
術式。
それぞれが。
どのように繋がっているのか。
知りたかったものが。
そこにある。
◇
鬼道は。
面白い。
それが。
二年目になって。
より強くなった。
詠唱は。
単なる言葉ではない。
定められた言葉によって。
術式を。
外側から順番に組み上げていく。
形。
方向。
性質。
規模。
それらを。
一つずつ。
完成へ近づける。
「…………」
紙の上に。
線を書く。
一つ。
もう一つ。
繋ぐ。
「うちは」
「はい」
「何をしている」
「整理しています」
「何をだ」
「術式を」
「…………」
教官が紙を見る。
「これは何だ」
「自分で分かりやすいように書き換えました」
「書き換えるな」
「発動はしていません」
「そういう問題じゃない」
「…………」
「何で初めて見る術式を勝手に自分用へ翻訳してるんだ」
「その方が理解しやすいので」
「…………」
教官が。
紙を見る。
しばらく。
黙る。
「……間違ってはいない」
「ありがとうございます」
「褒めてない」
「そうですか」
「だが」
指が。
一か所を示す。
「ここは違う」
イタチが見る。
「ここで霊力を固定するのは、形を保つためだけじゃない」
「では」
「次へ進むための土台でもある」
「…………」
なるほど。
線を。
一本加える。
「こうですか」
「そうだ」
「ありがとうございます」
「…………」
「何でしょうか」
「いや」
教官が。
ため息をついた。
「去年、残るって言った理由が少し分かった」
◇
知れば。
試したくなる。
だから。
場所を借りた。
「本当にやるのか」
「はい」
「まず普通にやれ」
「分かりました」
標的。
距離。
周囲に人はいない。
教官だけが。
少し離れて立っている。
イタチが。
指を向ける。
「破道の一――衝《しょう》」
霊力が放たれる。
標的が揺れる。
「次」
「はい」
同じ術。
今度は。
詠唱を口にしない。
頭の中で。
組み上げる。
順番。
形。
霊力。
流れ。
固定。
「…………」
指先へ。
霊力が集まる。
放つ。
標的が。
揺れた。
「…………」
教官が。
黙る。
イタチも。
標的を見る。
「威力が落ちています」
「そうだな」
「構造は崩れていません」
「……そうだな」
「なら」
「待て」
「はい」
「今度は何だ」
「詠唱を省略しても構造そのものを完成させられるのであれば、威力低下の原因は――」
「一度に一つにしろ」
「…………」
「お前はすぐ次へ行こうとする」
「すみません」
「謝るくらいなら今日はここまでだ」
「もう一度だけ」
「駄目だ」
「…………」
「その顔をしても駄目だ」
「分かりました」
「本当に分かってるか?」
「はい」
教官が。
眉間を揉んだ。
◇
回道についても。
通常の授業だけでは。
足りなくなった。
「今日は腕だ」
「はい」
「骨折を伴っている」
訓練用の義体。
表面には。
傷。
その下。
骨が。
不自然な位置へずれている。
「治してみろ」
「はい」
手をかざす。
写輪眼。
傷を見る。
その奥。
霊力の流れ。
構造。
異常。
淡い光が。
手元へ集まる。
「…………」
傷口を。
閉じる。
「止めろ」
光が消える。
「何が悪かった」
問われる。
イタチは。
義体を見る。
「先に骨を戻すべきでした」
「そうだ」
「傷だけ閉じれば、内部の処置が難しくなる」
「そういうことだ」
教官が。
腕を示す。
「見えるものだけ治すな」
「はい」
「回道は傷を消す術じゃない」
「…………」
「相手を生かすための技術だ」
イタチは。
その言葉を。
静かに聞いた。
「もう一度やります」
「ああ」
骨。
血管。
傷。
霊力。
順番を考える。
何を。
先にするべきか。
どこまで。
自分にできるのか。
それを。
判断する。
◇
昼。
食堂。
「うちは」
「何だ」
「お前、最近どこにいるんだ?」
「学院だが」
「それは知ってる」
「なら、何を聞いている」
「授業終わったら消えるだろ」
「図書室か訓練場にいる」
「毎日?」
「大体は」
「…………」
向かいの生徒が。
呆れた顔をする。
「お前さ」
「ああ」
「せっかく一年余分に残ったんだから、もうちょっと遊べば?」
「遊ぶ?」
「そう。街行ったり」
「必要なものがあれば行く」
「そうじゃなくて」
「…………」
「遊びに行くんだよ」
「何をするんだ」
「そこからかよ」
周囲から。
笑い声が上がる。
「甘味屋とか」
イタチの箸が。
僅かに止まった。
「…………」
「今、反応したな」
「していない」
「しただろ」
「気のせいだ」
「団子好きだったよな?」
「嫌いではない」
「それ好きな奴の言い方だろ」
「…………」
「今度行こうぜ」
少し。
考える。
「分かった」
「来るの!?」
「誘ったのはお前だろう」
「いや、断ると思ってた」
「なぜ誘った」
「…………」
「…………」
「お前、たまに面倒臭いな」
「そうか」
「そうだよ」
◇
その日の夕方。
数人で。
学院近くの甘味処へ行った。
「うちは」
「何だ」
「お前、意外と食うよな」
「霊力を使う為の栄養補給だ」
「三皿目だぞ」
「まだ三皿だ」
「まだ?」
「…………」
団子を。
一つ食べる。
甘い。
源三の家で。
初めて食べた時を思い出す。
「うまいか?」
「ああ」
「すげえ素直」
「聞かれたから答えただけだ」
「普段もそれくらい分かりやすければな」
「意味が分からない」
「そういうところだよ」
笑い声。
イタチは。
団子をもう一つ取った。
悪くない。
こういう時間も。
◇
夜。
精神世界。
「兄さん!」
「何だ」
「今日は遅かった!」
「ああ」
「何してたの?」
「団子を食べていた」
「…………」
濡れ鴉が。
固まった。
「僕は?」
「何がだ」
「僕のは?」
「…………」
「兄さんだけ食べたの?」
「現実の食べ物をここへ持って来られるとは思えない」
「ずるい!」
「そう言われても困る」
「僕も食べたい!」
「…………」
「兄さん!」
「分かった」
「本当!?」
「ここが俺の記憶を再現しているなら」
周囲を見る。
「試してみる」
「やった!」
「期待はするな」
「うん!」
返事だけは。
非常に良かった。
◇
そして。
精神世界での修行も。
続いていた。
始解。
その扱いは。
以前より。
遥かに安定している。
霊力の消費。
維持。
出力。
身体への負担。
少しずつ。
理解していく。
だが。
濡れ鴉が教えるものは。
それだけではなかった。
「兄さん」
「何だ」
「もっと先があるよ」
ある日。
濡れ鴉が言った。
「先?」
「うん」
少年が。
刀を見る。
「今の僕より」
夕暮れ。
黒い羽根が。
風に乗る。
「もっと深いところ」
「…………」
「兄さんなら、行けるよ」
イタチは。
黙って刀を見る。
始解。
その先。
学院で。
斬魄刀について学んでいる。
だから。
何を意味しているのか。
予想はついた。
「卍解か」
「うん」
濡れ鴉が。
笑った。
「やってみる?」
「…………」
イタチは。
少し考える。
「まず」
「うん!」
「始解を完全に安定させる」
「えー!」
「順番だ」
「兄さんならできるって!」
「できることと、やるべきことは違う」
「…………」
濡れ鴉が。
頬を膨らませる。
「慎重すぎる」
「以前も聞いたな」
「だってそうだもん」
「そうか」
「そうだよ」
だが。
イタチも。
興味がないわけではなかった。
むしろ。
知りたい。
斬魄刀とは。
どこまで。
自分の魂を形にするものなのか。
その先に。
何があるのか。
鬼道
初めましての為、一から習得。
正しい術式(詠唱・型)・詠唱の意味・ルール・種類を知らない。
制御能力は写輪眼もあり、作中最高クラスの資質。
皆が色の無い鉛筆で想像で絵を描く中1人色鉛筆でやってるヤバいやつ。
描けるものと色の種類と適切な色の使い方まで知ったら理論上どんな絵(鬼道)でも描けちゃう。
忍術用の色は使えない為、使用不可。
何故でしょうね?…笑