第一章 王都の小市民
### 第一話 世界最強の十八歳
アルト・レインは、十八歳にして人生の目標を達成していた。
安定した収入。
住み慣れた街。
気軽に食事ができる行きつけの店。
それから、できれば週に二日程度の休日。
最後の一つだけは、まだ達成できていない。
しかし、概ね満足していた。
冒険者としては最高位の白金級。
貯蓄もそれなりにある。
大きな借金もない。
何より、王都リューデンは治安が良かった。
衛兵は仕事をしているし、役所の手続きも比較的まともだ。多少の不満はあるものの、街の人々は穏やかに暮らしている。
アルトは、そういう環境が好きだった。
自分の知らないところで偉い人たちが難しいことを考え、社会をきちんと動かしてくれる。
素晴らしいことである。
自分が何かをする必要がないのだから。
ただし、最近一つだけ問題があった。
周囲の大人たちが、あまり休ませてくれないのである。
*
「金貨四百枚だ」
「……四百ですか」
「不満か?」
「いえ、不満というほどでは……」
冒険者ギルド本部、総長室。
アルトは革張りの椅子に座り、目の前の依頼書を見つめていた。
依頼内容は、古竜ヴァルグリムの討伐。
北方の山岳地帯に住み着き、周辺の街道を荒らしているらしい。
古竜。
数百年以上を生きた竜種の総称であり、国家が軍を動かしても討伐できるとは限らない災厄級の魔物である。
その討伐報酬が、金貨四百枚。
決して安くはない。
むしろ、一般的な冒険者なら一生遊んで暮らせる金額だ。
しかし。
「……前に討伐した古竜は、五百枚だったんですけど」
アルトは控えめに言った。
向かいに座るギルド総長、バルド・グランツが眉を上げる。
「前回は帝国との共同依頼だったからな。今回は王国単独だ」
「ああ……」
「予算が違う」
「なるほど」
アルトは頷いた。
予算が違う。
それなら仕方ない。
いや。
仕方なくはないのでは?
アルトは少し考えた。
「……あの、四百五十枚とかは?」
「四百二十」
「……四百四十」
「四百三十」
「……じゃあ、それで」
アルトは頭を下げた。
バルドは満足そうに頷いた。
「よし。頼んだぞ」
「はい」
アルトは依頼書を受け取った。
そして、総長室を出た。
廊下を歩きながら、少しだけ後悔した。
(……もう一回くらい交渉すればよかったかな)
金貨十枚。
大金である。
それだけあれば、食堂の定食を何百回も食べられる。
しかし、バルドは自分よりずっと年上だ。
冒険者としての大先輩でもある。
あまり無理を言うのも申し訳ない。
アルトはそう考えていた。
なお、バルドはこの時点で、あと金貨七十枚程度なら上乗せするつもりだった。
もちろん、アルトは知らない。
*
「アルト先輩!」
階段を降りたところで、明るい声が響いた。
振り向くと、栗色の髪を揺らした少女が駆け寄ってきた。
リーナ・ベル。
十七歳。
銀級冒険者。
アルトより一年遅れてギルドに登録した後輩である。
「おはようございます!」
「あ、おはよう」
「今日もお仕事ですか?」
「うん。北の方まで」
「えー! また一人で?」
「まあ、そうだね」
リーナは頬を膨らませた。
「先輩、たまには私も連れていってくださいよ」
「いや、今回はちょっと危ないから」
「またそれ!」
「ごめん」
アルトは申し訳なさそうに笑った。
リーナは、いつも元気だった。
明るく、人懐っこく、誰とでもすぐ仲良くなる。
そして、妙に距離が近い。
「ねえ、先輩」
「うん?」
「今度のお休み、空いてます?」
「……休み?」
「はい!」
リーナはにっこり笑った。
「新しくできたお菓子屋さん、一緒に行きません?」
「お菓子屋さん?」
「中央通りの、あのお店です!」
アルトは思い出した。
最近できた高級菓子店。
店先に並んだ焼き菓子は美味しそうだったが、値札を見て入店を断念したことがある。
「……あそこ、高くない?」
「えー、先輩なら余裕じゃないですか!」
「いや、余裕かどうかと、買いたいかどうかは別で……」
「じゃあ、先輩は私と一緒に行くの、嫌なんですか?」
「えっ」
アルトは固まった。
リーナが少し悲しそうな顔をした。
「……そうなんですね」
「いや、違う違う!」
アルトは慌てて首を振った。
「嫌じゃないよ! 全然!」
「本当ですか?」
「うん!」
「じゃあ、決まりですね!」
リーナは笑った。
そして、アルトの腕に抱きついた。
「楽しみにしてます!」
「……っ!」
アルトの身体が硬直した。
近い。
非常に近い。
女の子というものは、こんなに簡単に人に抱きつくものなのだろうか。
いや、リーナは昔からこうだった。
しかし、慣れないものは慣れない。
「……じゃ、じゃあ、また」
「はい!」
リーナは満足そうに手を振った。
アルトはぎこちなく手を振り返した。
そして、彼女の姿が見えなくなってから、ようやく息を吐いた。
「……びっくりした」
心臓が、少し速く動いていた。
古竜と戦う前より、よほど緊張している。
*
「……お前、相変わらずだな」
背後から声がした。
アルトは振り向いた。
赤髪の女性が立っていた。
セラ・ヴァレンタイン。
二十九歳。
白金級冒険者。
王国でも有数の剣士であり、アルトにとっては十年以上年上の先輩だった。
「……セラさん」
「見てたぞ」
「……何をです?」
「リーナとのやり取りだ」
「ああ……」
アルトは少し恥ずかしくなった。
「……変でした?」
「変というか、見事に転がされてたな」
「……そうなんですか?」
「そうだ」
セラは呆れた顔をした。
「お前、あいつにどれだけ奢ってる?」
「……えっと」
アルトは少し考えた。
「そんなに多くないと思いますけど」
「先月は?」
「……四回くらい?」
「十分多いだろ」
「……そうですか」
アルトは肩を落とした。
セラはため息をついた。
そして、少し笑った。
「まあ、いい。それよりアルト」
「はい?」
「今日は何の仕事だ?」
「古竜討伐です」
「……ほう」
セラの目が変わった。
「ヴァルグリムか?」
「はい」
「いいな」
セラは笑った。
その笑みは、先ほどまでとは違っていた。
獲物を見つけた猛獣のような笑みだった。
「私も行く」
「……え?」
「久しぶりに、まともな相手と戦えそうだ」
「いや、でも……」
「何だ?」
「……報酬、分けるんですか?」
セラは一瞬、黙った。
そして、大声で笑った。
「ハハハハ! 相変わらずだな、お前!」
「……すみません」
「安心しろ。金はいらん」
「……本当ですか?」
「ああ。私は戦えればそれでいい」
アルトは少し安心した。
それなら、別に構わない。
「……じゃあ、一緒に行きます?」
「当然だ」
セラは嬉しそうに笑った。
*
王都の北門。
アルトとセラは、街道を歩いていた。
「……ところでアルト」
「はい?」
「お前、最近ちゃんと鍛えてるか?」
「……鍛える?」
「ああ」
「いや、特には」
セラは眉をひそめた。
「……本当に?」
「はい」
「……腹立つな、お前」
「すみません」
アルトは反射的に謝った。
セラは苦笑した。
「謝るな。褒めてるんだ」
「……そうなんですか?」
「ああ」
セラは剣の柄を撫でた。
「お前は、本当に才能の塊だ」
「……ありがとうございます」
「私が十年かけて身につけた技を、お前は一度見ただけで真似る」
「いや、さすがに一度じゃ無理ですよ」
「……そうか?」
「はい。実際に何度か受けないと」
セラは黙った。
そして、ため息をついた。
「……やっぱり腹立つな」
「すみません……」
アルトは肩を落とした。
*
灰燼山脈。
古竜ヴァルグリムは、山頂で翼を広げていた。
漆黒の鱗。
六枚の翼。
巨大な角。
千年を生きた古竜。
その威容は、まさに災厄そのものだった。
『……人間か』
ヴァルグリムが低く唸った。
目の前には、二人の人間が立っていた。
一人は赤髪の女剣士。
もう一人は、まだ少年の面影を残す青年。
『我が縄張りに、何用だ』
アルトは頭を下げた。
「冒険者ギルドから来ました」
『……冒険者?』
「はい。最近、商隊を襲っていると聞きまして」
『それがどうした』
「できれば、やめてもらえませんか?」
ヴァルグリムは笑った。
『……愚かな』
巨大な口が開く。
『人間風情が、我に命令するか!』
「いや、命令じゃなくてお願いなんですけど……」
アルトは困った顔をした。
その隣で、セラが笑った。
「……いいな」
「……セラさん?」
「素晴らしい」
セラの瞳が輝いていた。
「これほどの魔力、久しぶりだ」
「……あの」
「アルト」
「はい?」
「先にやらせろ」
「……え?」
「私が先に戦う」
アルトは少し考えた。
別に構わない。
セラは強い。
古竜相手でも、十分に戦えるだろう。
「……分かりました」
「よし!」
セラは剣を抜いた。
そして、笑った。
「さあ、始めようか!」
*
戦闘は、激しかった。
セラの双剣が閃く。
ヴァルグリムの爪が大地を抉る。
衝撃波が山頂を揺らし、岩盤が砕け散った。
セラは笑っていた。
「ハハッ!」
剣が走る。
古竜の鱗に、浅い傷が刻まれる。
『……小癪な!』
ヴァルグリムが咆哮した。
巨大な尾が振るわれる。
セラは跳躍した。
空中で身体を捻り、双剣を交差させる。
斬撃。
衝撃。
ヴァルグリムの首元に、深い傷が走った。
『……ぐっ!』
古竜が後退する。
セラは着地した。
「……いいぞ」
楽しそうだった。
非常に楽しそうだった。
アルトは少し離れた場所で、その戦闘を眺めていた。
(……上手いなぁ)
セラの剣は、相変わらず見事だった。
特に、左右の剣の使い分けが巧妙だ。
右で攻め、左で守る。
しかし、次の瞬間には役割が入れ替わる。
その切り替えが、ほとんど見えない。
(……なるほど)
アルトは感心した。
そして、少しだけ真似してみた。
右手に剣。
左手には何もない。
しかし、身体の重心を変えるだけで、左右の攻防を切り替える感覚は応用できる。
(……ああ、こういうことか)
アルトは小さく頷いた。
*
戦闘開始から十分。
セラの表情が変わった。
「……っ!」
ヴァルグリムの魔力が膨れ上がる。
四属性の魔法陣が展開された。
炎。
雷。
氷。
風。
すべてが同時に収束する。
『……消し飛べ!』
セラは剣を構えた。
避けられない。
いや、避ければ背後の山麓へ攻撃が流れる。
受けるしかない。
「……面白い!」
セラは笑った。
そして、全力で剣を振り抜いた。
四属性の奔流と、双剣の斬撃が激突した。
轟音。
閃光。
大地が揺れる。
セラの身体が後方へ吹き飛んだ。
「……っ!」
地面を滑る。
膝をつく。
口元に、わずかな血が滲んだ。
しかし、笑っていた。
「……いいな」
セラは立ち上がろうとした。
その時だった。
「……セラさん」
アルトが声をかけた。
「……何だ?」
「そろそろ、代わります?」
セラは振り向いた。
そして、笑った。
「……ああ」
双剣を鞘に収める。
「頼む」
「はい」
アルトは頷いた。
そして、前へ出た。
*
『……次は貴様か』
ヴァルグリムが唸った。
「はい。よろしくお願いします」
アルトは頭を下げた。
古竜は、目の前の青年を見つめた。
先ほどの女剣士とは違う。
魔力は平凡。
構えも平凡。
しかし。
何かがおかしい。
『……貴様、何者だ』
「冒険者です」
『……そうか』
ヴァルグリムは翼を広げた。
『ならば、死ね!』
巨大な爪が振り下ろされた。
アルトは剣を合わせた。
衝撃。
大地が震える。
アルトの身体が、わずかに後退した。
「……おお」
感心した。
力が強い。
しかも、爪の使い方が上手い。
単に振り下ろすだけではない。
爪の角度を変え、剣を滑らせるようにしている。
アルトは、しばらくその攻撃を受け続けた。
*
セラは、少し離れた場所で戦闘を眺めていた。
「……相変わらずだな」
アルトが押されている。
しかし、危険ではない。
古竜の攻撃を受け、捌き、時には後退する。
だが、その動きには余裕がある。
そして。
少しずつ、変わっていく。
最初は、ただ受けていた。
次に、受け流すようになった。
さらに、爪の軌道を利用して、古竜の体勢を崩し始めた。
「……盗んでるな」
セラは笑った。
アルトの才能。
それは、単なる身体能力ではない。
戦いながら、相手の技術を吸収する。
そして、自分のものにする。
しかも、本人はそれを特別なことだと思っていない。
「……本当に、腹立つ男だ」
セラは楽しそうに呟いた。
*
戦闘開始から十五分。
ヴァルグリムは、恐怖を覚えていた。
『……何故だ』
爪が通じない。
尾が通じない。
魔法が通じない。
いや。
正確には、通じなくなっていく。
最初は、確かに青年を押していた。
それが、徐々に変わった。
今では、攻撃するたびに自分の体勢が崩される。
『……貴様、何をした』
「……え?」
アルトは首を傾げた。
『何故、我の攻撃が通じぬ!』
「いや、まあ……」
アルトは少し困った顔をした。
「慣れたので」
ヴァルグリムは絶句した。
慣れた。
千年を生きた古竜の攻撃に。
十五分で。
『……ふざけるな!』
魔力が膨れ上がった。
先ほどとは比較にならない。
山頂が崩れ始める。
セラの表情が変わった。
「……アルト!」
「はい」
「それは、まずいぞ!」
「……ですよね」
アルトはため息をついた。
このままでは、周囲に被害が出る。
仕方ない。
少し本気を出そう。
*
アルトが剣を構え直した。
それだけだった。
しかし。
ヴァルグリムは、動けなくなった。
『……な』
何かが変わった。
青年の魔力が増えたわけではない。
殺気が膨れ上がったわけでもない。
ただ。
自分が、既に斬られているような感覚があった。
未来ではない。
現在でもない。
まるで、斬られるという結果だけが先に存在しているような。
理解できない感覚。
『……何だ、それは』
アルトは答えなかった。
剣を振る。
一閃。
ヴァルグリムの巨体が、静かに崩れ落ちた。
魔法陣が消える。
魔力が霧散する。
そして、山頂には静寂だけが残った。
*
「……終わりました」
アルトは剣を鞘に収めた。
セラは、しばらく黙っていた。
「……アルト」
「はい?」
「今の、何だ?」
「……今の?」
「最後の一撃だ」
「ああ……」
アルトは少し考えた。
「……普通に斬りましたけど」
セラは眉をひそめた。
「……嘘つけ」
「いや、本当ですよ」
「……本当に?」
「はい」
セラは、しばらくアルトを見つめた。
そして、笑った。
「……まあ、いい」
双剣を鞘に収める。
「いつか、見せてもらうぞ」
「……何をです?」
「お前の、本当の力をな」
アルトは少し困った顔をした。
「……いや、別に隠してるわけじゃないんですけど」
「分かってる」
セラは笑った。
「だからこそ、面白い」
*
その日の夕方。
アルトはギルドへ戻っていた。
「……ただいま戻りました」
受付嬢ミリアが顔を上げた。
「あ、アルトさん! お帰りなさい!」
「はい。討伐終わりました」
「早かったですね!」
「まあ、近かったので」
アルトは魔石を差し出した。
ミリアはそれを受け取った。
そして、顔を引きつらせた。
「……これ、古竜の?」
「はい」
「……すごいですね」
「いやぁ、それほどでも」
ミリアは深いため息をついた。
「……相変わらずですねぇ」
アルトは少し照れた。
その時だった。
「……アルト先輩!」
リーナが駆け寄ってきた。
「あ、リーナ」
「お帰りなさい!」
「ただいま」
「無事でよかったです!」
リーナは嬉しそうに笑った。
そして、アルトの腕に抱きついた。
「……先輩、今度のお休み、空いてますよね?」
「……え?」
「約束したじゃないですか! お菓子のお店!」
「ああ……」
アルトは思い出した。
高級菓子店。
銀貨数枚のケーキ。
少し高い。
しかし、約束してしまった。
「……うん。大丈夫だよ」
「やった!」
リーナは嬉しそうに笑った。
その様子を、セラが少し離れた場所から眺めていた。
「……おい、リーナ」
「……はい?」
「そいつ、今日古竜を倒してきたんだぞ」
「知ってますよ?」
「……少しは休ませてやれ」
「えー! でも、約束したんですよ!」
セラはため息をついた。
「……お前な」
リーナは頬を膨らませた。
「セラ先輩こそ、アルト先輩を独り占めしてるじゃないですか!」
「……何?」
「今日だって、一緒に行ったんですよね?」
「ああ」
「ずるいです!」
「……は?」
セラは眉をひそめた。
アルトは、二人を交互に見た。
「……えっと」
何だろう。
少し空気が悪い。
喧嘩だろうか。
どうすればいいのだろう。
アルトは少し考えた。
そして。
「……じゃあ、今度は三人で行きます?」
二人が同時に振り向いた。
「「は?」」
アルトは固まった。
何か、間違えたらしい。
*
その夜。
王宮では、緊急会議が開かれていた。
「……古竜ヴァルグリムが討伐された」
宰相エドガーが報告書を読み上げる。
「討伐者は、アルト・レイン」
軍務卿が頷いた。
「……やはり、あの男か」
「しかし、問題はそこではありません」
エドガーは続けた。
「帝国から、正式な外交文書が届きました」
報告書を机に置く。
「アルト・レインの帝国への招聘を希望する、と」
部屋の空気が変わった。
「……何?」
「条件は、帝国伯爵位。年金金貨一万枚。帝都の屋敷。軍務義務なし」
沈黙が流れた。
「……馬鹿な」
軍務卿が呟いた。
「それでは、何の義務もなく国家の最高戦力を養うということではないか!」
「そういうことです」
エドガーは頷いた。
「帝国は、アルト・レインを手に入れるためなら、それだけの価値があると判断したのでしょう」
誰も言葉を発しなかった。
そして、宰相は静かに続けた。
「……問題は、本人がどう考えるかです」
*
一方、その頃。
アルトは自宅で家計簿をつけていた。
「……うーん」
今日の報酬。
金貨四百三十枚。
悪くない。
しかし、もう少し交渉できた気もする。
「……次は、もう少し頑張ろう」
アルトは頷いた。
そして、ふと思い出した。
「……あ」
リーナとの約束。
高級菓子店。
そして、セラの不機嫌そうな顔。
「……何で怒ったんだろう」
アルトは首を傾げた。
少し考えた。
しかし、分からなかった。
「……まあ、明日謝ろうかな」
そう決めて、家計簿を閉じた。
世界最強の冒険者。
その戦闘能力は、人類の歴史上でも最高峰。
しかし、女性の機嫌を取ることについては、まったくの素人だった。
そして、そのことが。
今後、彼の平穏な生活を、少しずつ騒がしくしていくことになる。
――第一話 完。