BLEACH ~No Future Worth Your Ruin~ 作:冬冬✻
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みんな嫌いや
どいつもこいつも簡単に切り替える
それが信じられへん
けど、ウチはそんなウチが一番嫌いや
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瀞霊廷の遥か上。
雲海よりも、さらに高い場所。
地上からは決して望むことのできない空間に、巨大な建造物が浮かんでいた。
その一角。
一人の女性が、目の前に広がる景色を眺めていた。
「……いやあ」
女は思わず笑った。
「随分と高いところまで来たもんだねえ」
曳舟桐生。
つい先日まで十二番隊隊長を務めていた女性である。
彼女の目の前には、見慣れない四つの人影が立っていた。
一人は、立派な黒髭を蓄えた、僧形の大男。
一人は、天を突くようなリーゼントの男。
一人は、長い黒髪を垂らし、背に幾本もの絡繰の腕を従えた女。
そしてもう一人は、派手なサングラスを掛けた、褐色の肌の男だった。
「かっかっか! よう来たのう、曳舟!」
最初に口を開いたのは、僧形の大男だった。
その声は、辺り一帯に響き渡るほど大きい。
「今日からはおんしも、ここに住まうことになる。遠慮はいらんぞ!」
「はっはっは! 遠慮するにも、これじゃ何から遠慮すりゃいいのか分からないねえ」
曳舟が笑うと、リーゼントの男が口を挟んだ。
「おいおい、まだ何も見せてねえじゃねえか。驚くのはこれからだぜ」
「騒がしいのう。もう少し落ち着いて出迎えることはできぬのかえ」
背に腕を従えた女が、呆れたように呟く。
すると、派手なサングラスの男が両手を広げた。
「Hey!
せっかくの新入りなんだぜ!?
もっと派手に迎えてやろうYO!」
サングラスの男は世にも奇妙な口調で
大袈裟なポーズを取りながら言う。
背に腕を従えた女は、リーゼントの男から
サングラスの男へ目線を移動させ、冷たい目つきで見つめる。
「……お主もじゃ」
「Oh……手厳しいねェ!」
曳舟はそのやり取りを見て、とうとう吹き出した。
「はっはっは!
こりゃあ、退屈しなさそうだね!」
僧形の男が満足そうに頷いた。
「うむ! その意気じゃ!」
「それにしても……」
曳舟は、もう一度辺りを見渡した。
見たこともない建造物。
果ての見えない雲海。
そして、その向こうに聳える、さらに巨大な宮殿。
先程まで自分がいた尸魂界とは、まるで別の世界のようだった。
「これから、ここで新しい仕事をすることになるんだねえ」
「そういうことじゃ」
僧形の大男は、ゆっくりと背後へ振り返った。
「さて、まずはお主の新しい居場所を見せてやろうかのう」
「頼むよ」
曳舟も歩き出そうとしたその時、
その足がふと止まる。
「…………」
雲海の下。
そこには、もう姿形は見えないが、確かに瀞霊廷がある。
つい先日まで自らが居た場所、
護廷十三隊、十二番隊。
今頃、その十二番隊にも新しい隊長が来ているはずだ。
夜一が推薦したという、少し変わった男。
確か、浦原喜助という名だったか。
聞くところによれば、腕は確からしい。
それに、彼女が選んだ人間であれば、そう悪い人物でもないだろう。
ただ――。
「……あの子は、どうしてるかねえ」
曳舟は小さく呟いた。
頭に浮かんだのは、そばかすのある小柄な少女。
口が悪くて、気が強くて。
それでいて、誰よりも寂しがり屋な女の子だった。
「……今頃、新しい隊長に噛みついてるんだろうねぇ」
『なんで、こんなんがウチの隊の新隊長やねん!!』
容易に想像できる光景に、曳舟は思わず笑った。
きっと、すぐには受け入れられないだろう。
けれど、あの子にはあの子の人生があり、
いつまでも自分が傍にいてやれるわけじゃない。
「曳舟よ、どうした?」
先を歩いていた大男が振り返った。
「いや、何でもないよ!」
曳舟は笑顔で返した。
そして最後にもう一度だけ、遥か下方へと目を向ける。
元気でおやりよ。ひよ里ちゃん。
今度こそ、彼女は自らの進むべき方へ歩き出した。
***
一方、その頃。
瀞霊廷の一番隊では、新隊長就任式が終了していた。
大広間から出てきた隊長たちが、迎えの隊士と合流している。
柊も平子の姿を探していた。
その時だった。
「周介!!」
聞き慣れた声に振り返る。
すると、小柄な女性がこちらへ歩いて来ていた。
顔にはそばかす。
そして、その表情は見るからに不機嫌だった。
十二番隊副隊長、猿柿ひよ里である。
「アンタ、そこのアホと知り合いなんやってな!!」
「……浦原さんのこと?」
「せや!! 何であんなのがウチの隊の新隊長やねん!!」
「いや、俺に言われても……」
「何や、その反応!!」
柊は困ったように笑う。
正直なところ、決めたのは自分ではないから
決めた人たちに言ってくれと少し思った。
「まあ、浦原さんも悪い人じゃないと思うけど」
「何やと!? アンタまであいつの味方するんか!?」
「そういうわけじゃないけど…」
その時だった。
「いやァ、ありがとうございます、柊サン」
突然、背後から聞いたことのある声がした。
振り返ると、そこには本日の主役が立っていた。
浦原喜助。
真新しい隊長羽織を身に纏い、後頭部を掻きながら笑っている。
「久しぶりッスねェ」
「お久しぶりです。浦原さん。
隊長就任、おめでとうございます」
「いやァ、ありがとうございまス」
「そんなん祝わんでええわ!!」
ひよ里が横から怒鳴った。
浦原は少し困ったように笑う。
「参りましたねェ……」
柊はその二人を眺めていた。
曳舟桐生。
ひよ里が母のように慕っていた、前十二番隊隊長。
その後任として突然現れたのが、彼だった。
ひよ里がすぐに受け入れられないのも無理はない。
「まあ、でも……」
「何や、周介」
ひよ里が怪訝そうな目つきで柊を睨む。
「浦原さんとひよ里なら、何だかんだ上手くやれそうな気はするけど」
「はァ!?」
ひよ里が目を剥いた。
「何でそうなんねん!!」
「いや、何となくだけど」
「何となくで言うな!!」
「いやァ、ボクとしてはありがたいッスけどねェ」
浦原は笑った。
「それに、柊サンがそう言ってくれるなら、少し安心できまスよ」
「そうですか?」
「ええ」
その時、横から別の声が飛び込んできた。
今度の声はとても聞き覚えのある声だった。
「やっぱお前もそう思うか、周介」
振り返ると、そこには平子が立っていた。
「平子隊長。いつから居たんですか?」
「ひよ里がお前に絡む前からや」
「……それ、最初からじゃないですか」
「せやな」
平子は楽しそうに笑った。
「俺もな、喜助ならひよ里と上手くやれると思うとんねん」
「へえ。何でです?」
平子はその瞬間、少しだけ真剣な顔つきになった。
「そら、アイツが人の顔色伺うん、あんまし上手いように見えんからやな」
「……?」
柊は首を傾げた。
ひよ里も同じようにキョトンとした顔で平子を見ていた。
しかし、浦原だけは少し思うところがあったのか、笑みを薄くした。
「まあ、一番は周介と似たようなヤツなら、ひよ里とも上手くやれるやろってことや」
平子は再びニヤリと笑った。
「お前ら両方、右向け言うたら『左に何かあったらどうします?左も見れるようにしません?』とか聞いてきそうやんけ」
「ああ、それはありそうッスねェ」
浦原が頷く。
「柊サンなら確かに言いそうでス」
それを聞いた柊は思わず、ツッコミを入れる。
「いや、浦原さんのことも言われてますよね?」
「……あ、そうでしたね」
浦原がとぼけた顔で認める。
そして、そのやり取りを見ていた平子は盛大に吹き出していた。
「はっはっは!! やっぱり似とるわ、お前ら!!」
「どこがですか……」
柊は呆れたように言った。
「何じゃ、随分楽しそうじゃのう」
そこへ、よく通る声が響いた。
褐色の肌に、紫がかった髪。
猫のような瞳を持つ女性が、こちらへ歩いて来ていた。
二番隊隊長、四楓院夜一。
「あ、夜一さん。こんにちは」
「おお、柊か。久しぶりじゃのう」
「お久しぶりです。夜一さんは、相変わらず元気そうですね」
「かっかっか! お主も相変わらずの言いようじゃの」
「たぶん平子隊長の影響ですよ」
「それはありそうじゃ」
夜一が深く頷く。
「なんでやねん」
平子本人は不満そうに口を挟んだ。
夜一はそれを見て、再び笑い出す。
「ところで喜助」
「はい?」
「新しい隊はどうじゃ?」
「そうッスねェ。まだ分からないことばかりでして」
「ふむ。まあ、せいぜい苦労することじゃな」
「推薦した本人がそれ言いまス?」
「かっかっか! 儂が推薦したんじゃ。それくらい覚悟してもらわんとのう」
浦原は困ったように笑った。
ひよ里は相変わらず不機嫌そうだったが、先程よりは少し落ち着いていた。
柊はそんな様子を見ながら思う。
何だかんだ、二人は上手くやっていけるんじゃないだろうか。
少なくとも、相性が悪いわけではなさそうだ。
「ほな、そろそろ帰るで」
平子が声をかけた。
「はい」
「惣右介も、そないなとこ突っ立っとらんでこっち来いや」
少し離れた場所で待っていた藍染が、静かに歩み寄ってくる。
「はい、平子隊長」
平子はその顔を見て、少し首を傾げた。
「お前、全然話入って来んかったな」
「そうでしたか?」
「喜助のこと苦手なんか?」
藍染は一瞬だけ目を見開いた。
しかし、すぐに穏やかな笑みを浮かべる。
「いえ。皆さん、とても楽しそうにしていましたので」
「……ほう」
「それに、お話自体は聞こえていましたよ」
平子はほんの一瞬だけ目を細めて呟く。
「……そうか」
しかし、それ以上は何も言わなかった。
その表情は、すぐにもとの軽いものに戻っていた。
「ほな、帰ろか」
そう言って、平子が前を向いたほんの一瞬のことだった。
藍染は、その背中へ静かに視線を向けた。
「…………」
眼鏡の奥で、目が僅かに細められる。
そして。
その口元に、誰にも気づかれない笑みが浮かんだ。
第2話 HELLO AND FAREWELL 完
第2話をお読みになっていただき、ありがとうございました。
今回の巻頭詩は、猿柿ひよ里をイメージして書いてみました。
母親のように慕っていた曳舟桐生との別れと、新たに隊長となった浦原喜助との出会い。
そんなひよ里の複雑な心情を表現できていればと思います。