BLEACH ~No Future Worth Your Ruin~   作:冬冬✻

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第5話 THE MISCHIEVOUS BLACK CAT

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妹人かわいや 狼蜂

鋭き針をば 隠し持ち

誰にも負けぬと 胸を張る

黒猫ひと声 呼びかけりゃ

針も忘れて 駆け寄りぬ

 

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二番隊隊舎。

その門の前で、一人の青年が立ち止まっていた。

五番隊三席、柊周介。

彼は先程から、手元の書状と目の前の門を交互に見つめていた。

 

「……何だろう」

 

書状の差出人は、四楓院夜一。

二番隊隊長であり、隠密機動の総司令官でもある人物だ。

 

柊とは以前から面識があり、時折こうして声を掛けられることもあった。

しかし、今回は少し様子が違った。

送られてきた書状には

ただ一言。

 

『儂のところへ来い』

 

それだけである。

 

「……俺、もしかして何かやらかした?」

 

思わず呟いた。

 

最初は何かの間違いかと思った。

しかし、五番隊まで書状を届けに来た隊士に聞いてみたが、夜一からの指示はただこれを渡してこいとのことだったらしい。

 

仕方なく平子に事情を説明すると、

 

『夜一さんから呼ばれとる?

ほな、行った方がええんとちゃうか。

行かんかったら後で何されるかわからんで。

あと、帰りにトリートメント買ってきてや。

今日、15時に特売らしいねん』

 

と、随分あっさり送り出されてしまった。

トリートメントに至っては、自分で買いに行ったらどうですか?と突っぱねたくなった。

しかし、断ったら、ほぼ確実に仕事を放って買いに行くだろうと考え、やむなく引き受けたのである。

 

「……まあ、15時なら間に合うでしょ」

 

そう結論づけ、門をくぐった。

 

***

 

時は少し前に遡る。

二番隊隊舎の一角では、数名の隊士が立ち話をしていた。

 

「……また、あいつか」

 

「何がだ?」

 

「砕蜂だよ。先程の訓練でも、俺たちにあれこれ指示を出してきただろう」

 

「ああ……」

 

一人が、声を潜める。

 

「夜一様に気に入られているからといって、随分偉そうじゃないか?」

 

「どのみち、実戦では役に立たない若い女のくせに、でしゃばりやがって…」

 

「まあ、四楓院家に仕える者だからな。俺たちとは立場が違うんだろうさ。立場が」

 

くつくつと笑い声が漏れた。

 

その時だった。

 

「……何か問題があるのか」

 

背後から声がした。

 

振り返った隊士たちの表情が、一瞬にして固まった。

そこには、小柄な女性が立っていた。

黒髪に、鋭い眼差し。

若くして隠密機動の任務に携わる少女、

砕蜂である。

 

「いや、その……」

 

「先程の訓練について、不満があるのなら直接言え」

 

「…………」

 

「指示に誤りがあったのなら改める。だが、必要な指示であったのなら従ってもらう。それだけだ」

 

砕蜂は、淡々と言った。

声を荒らげることはなかった。

それがかえって、隊士たちを黙らせた。

 

「……失礼しました」

 

一人が頭を下げた。

他の者も次々とそれに続く。

砕蜂は暫く彼らを見つめていたが、やがて小さく息を吐いた。

 

「次の任務に備えろ。以上だ」

 

そう言い残し、その場を離れた。

 

背後から、再び小さな声が聞こえてきた。

本人たちも意識しているのだろう。

何を言っているのかまでは聞き取れない。

しかし、あまり好意的なものでないことは分かった。

 

「…………」

 

砕蜂は歩みを止めなかった。

隠密機動に所属してからというもの、

そうした言葉を向けられることは日常茶飯事であった。

 

女だから。

若いから。

夜一様のお側にいるから。

 

理由はいくらでもある。

 

最初の頃こそ、その言葉の暴力に

心を痛めた時もあった。

だが、今となっては

他の者にどう思われようと構わない。

己の役目を果たすこと。

 

そして、この身の全てを懸けて

夜一様にお仕えすること。

それ以上に重要なものなど、砕蜂にはなかった。

 

***

 

「夜一さん、失礼します」

 

「おお、来たか柊!」

 

障子の向こうから、明るい声が返ってきた。

柊が部屋へ入ると、そこには夜一が座っていた。

いつもと変わらぬ愉快そうな笑みを浮かべながら。

 

「お久しぶりです」

 

「うむ。久しいのう。まあ、座れ」

 

「はい」

 

勧められるままに腰を下ろす。

そして、早速本題を切り出した。

 

「それで、今日はどうしたんですか?」

 

「ん?」

 

夜一は眉を寄せて首を傾げる。

 

「書状をいただいたので。

もしかして、俺、何かやらかしました?」

 

それを聞いた夜一は思わず吹き出した。

 

そして、至極当然のように言った。

 

「別にお主が何かしたから呼んだわけではないぞ。単に暇じゃったから呼んだだけじゃ」

 

「…………」

 

柊は暫く黙った。

 

「……はい?」

 

「暇じゃった、と言うたのじゃ」

 

「いや、それは聞こえましたけど……」

 

「何じゃ、聞こえておったのか。

固まっておるから仕事のしすぎで壊れたのかと思うたぞ」

 

「いや、話をそらさないでください。

それに、俺が壊れたんだとしたら夜一さんのせいってことになりますよ……」

 

夜一は声を上げて笑った。

 

「かっかっか! 相変わらずじゃのう、柊!」

 

「俺、これでも仕事の途中で来たんですけど」

 

「平子は何と言うておった?」

 

「行ってこいって言ってました。

行かなかったから後でどうなるかわからんって」

 

「最もな意見じゃな」

 

「あなたが肯定しないでくださいよ…」

 

柊は頭を抱える。

夜一はそんな柊の苦悩などお構いなしに、

楽しそうに笑っていた。

そして、卓上の茶を手に取って言った。

 

「まあよいではないか。たまには仕事など忘れて、儂の話し相手になれ」

 

「それなら、最初からそう書いてくれればよかったのに」

 

「それでは来んだろう?」

 

「……行きませんね」

 

「そういうことじゃ」

 

「……なるほど」

 

柊は頷いた。

 

「相変わらずの性格ですね」

 

「よく分かっておるではないか!」

 

「褒められている気がしませんよ……」

 

そのやり取りを聞きながら、部屋の端で黙っている者がいた。

 

砕蜂である。

 

夜一の少し後ろ。

いつでも命令に応じられる位置に、姿勢よく控えている。

 

砕蜂は目の前の青年を見つめた。

柊周介、五番隊の三席。

隊務で平子と共に二番隊を訪れて来た際に

初めて会って以来、たまに言葉を交わす。

 

そして、砕蜂から見た柊の印象は

何かと妙なところに気づく男、というものであった。

 

他の者が聞き流すような言葉に、思いもよらぬ疑問を口にすることがある。

実際に、巡回経路についての話し合いで

初めて二番隊に訪ねてきた際も、

若いながら平子と夜一の気づかぬ部分を指摘していた。

 

そして何より、夜一によく揶揄われている。

現に、今も目の前で夜一に遊ばれていた。本人はそれに困り果てているようだったが。

 

こうした事情によって、砕蜂からすると、柊周介という人物は、どうにも掴みどころのない者となっていた。

 

もっとも、悪い男という印象があるわけではない。ただ、特別に親しいわけでもなかった。

 

「そういえば夜一さん」

 

「何じゃ?」

 

「浦原さん、十二番隊には慣れましたかね」

 

「どうじゃろうな」

 

「ひよ里は相変わらずっぽいですし、少し大変そうだなって」

 

夜一は愉快そうに笑った。

 

「かっかっか! まあ、簡単にはいかんじゃろうな」

 

「やっぱりそうですか」

 

「じゃが、喜助なら何とかするじゃろう。あやつは好きで人の上に立つものではないが、

任されたからにはそれをやり遂げようとする。そういう男じゃ。昔からな」

 

「夜一さんがそう言うなら、大丈夫そうですね」

 

「じゃろう?」

 

柊は頷く。

 

「俺も、浦原さんならそのうちひよ里とも、上手くやれるようになると思います」

 

「ほう?」

 

夜一が興味深そうに呟く。

 

「少なくとも、あの人はひよ里の言うことをあしらって終わりってわけでは、なさそうだと思うので」

 

「そうじゃのう。あやつはひよ里の言うこと全て真面目に聞いた結果、逆に怒鳴られるかもしれぬな」

 

「ああ……ありそうですね」

 

二人は顔を見合わせて笑った。

 

「それにしても、平子の方はどうじゃ?」

 

「平子隊長ですか?」

 

「うむ。相変わらずか?」

 

「相変わらずですね」

 

柊は少し考えてから続けた。

 

「この前なんて、ローズさんから借りたレコードを聴き終わるまで浦原さんの隊長就任式に行かないとか、駄々こねてましたよ」

 

「ほう!相変わらずのてきとうっぷりじゃな。あやつは!

それで、お主はどうした?」

 

「総隊長に報告しますって言いました」

 

夜一が吹き出した。

 

「かっかっか!そりゃあ平子でも慌てたじゃろう!」

 

「ええ。灰になったらどうすんねんって慌ててました。

だから、平子隊長が居なくなっても、

そのレコードと蓄音機に隊長羽織を掛けて

隊首会に出すので大丈夫ですよって」

 

「はっはっは! お主、そこまで言うたのか!」

 

「平子隊長があんまり嫌がるので、つい」

 

「全く……お主と平子は、どちらが年上なのか分からんのう!」

 

「いや、それは明らかに平子隊長でしょ?」

 

「そういう話ではないわ!」

 

夜一は楽しそうに笑い続けた。

柊も、つられて笑う。

そんな二人を、砕蜂は黙って見ていた。

 

正直、何がそこまで面白いのかは分からない。隊長が式典を欠席しようとするなど、規律上問題がある。ましてや総隊長を脅しに利用するなど冗談でもどうかと思う。

 

しかし、夜一が楽しそうにしている。

ならば、自分が口を挟む必要はない。

そう考え、再び視線を落とした。

 

その時だった。

 

「そういえば、砕蜂さんはどう思います?」

 

不意に、声が飛んできた。

 

「……何?」

 

砕蜂は思わず顔を上げた。

柊がこちらを見ている。

 

「平子隊長みたいな人、どう思います?」

 

「…………」

 

しばしの沈黙。

 

「……くだらん」

 

砕蜂は短く答えた。

 

「そもそも、隊長が式典を欠席しようとすること自体、論外だ。私に聞くな」

 

「……まあ、そうですよね」

 

柊は苦笑した。

 

「分かっているなら聞くな」

 

「いや、実際のところ、砕蜂さんならどう答えるのかなって、ちょっと気になったので」

 

「…………」

 

砕蜂は眉を寄せた。

どうにも調子の狂う男だ。

この男は怒ろうにも、タイミングを掴みづらい。

 

夜一は、そんな二人を見て口元を緩めていた。

 

「まあよいではないか、砕蜂」

 

「夜一様?」

 

「お主もこちらへ来て、話に交ざれ」

 

夜一からの想定外の誘いに慌てて返す。

 

「い、いえ! 私はここで控えておりますので!」

 

「何じゃ。儂と話をするのは嫌か?」

 

「そ、そのようなことは決して!」

 

砕蜂は思わず、強く否定してしまう。

 

「ならば決まりじゃな!」

 

夜一は満足そうに頷いた。

 

砕蜂は、一瞬言葉を失った。

 

「…………」

 

断れるはずがなかった。

いや、別に話に交ざること自体が嫌なのではない。寧ろ、夜一と話ができることは

砕蜂にとっては嬉しいことであった。

ただ、問題は話の内容だった。

なぜ、自分までそのようなくだらない話をしなければならないのか?

それだけが、納得のいかない部分であった。

 

そう思いながらも、砕蜂は夜一の側へ移動した。

柊は少し横にずれて場所を空ける。

 

「どうぞ、砕蜂さん」

 

「……ああ」

 

短く答え、腰を下ろした。

夜一はそんな二人を眺めながら、何やら楽しそうにしていた。

 

 

 

第5話 THE MISCHIEVOUS BLACK CAT

 




今回の巻頭詩は、砕蜂をイメージして、少し古風なわらべ歌のような雰囲気にしてみました。

今回は『悪戯好きの黒猫』というタイトルの通り、夜一を中心としたお話です。

何かと柊を振り回す夜一と、そんな二人のやり取りに困惑する砕蜂。

普段は生真面目な砕蜂ですが、夜一の前では少し違った一面を見せてくれます。

そんな三人の掛け合いを楽しんでいただければ幸いです。
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