BLEACH ~No Future Worth Your Ruin~   作:冬冬✻

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第6話 Bee Seen

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私の全てを貴方に

見返りなど求めてはいない

ただ貴方の傍にいることが

私の全てとなるのだから

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「それにしても、柊」

 

夜一が唐突に口を開いた。

 

「はい?」

 

「お主、砕蜂とは何度か顔を合わせておるじゃろう?」

 

「まあ、そうですね」

 

「ならば、こやつが普段どんなことをしておるか、知っておるか?」

 

「……いや、あまり詳しくは知らないですね」

 

柊は隣の砕蜂へ目を向けた。

 

「隠密機動のお仕事をされているのは知っていますけど」

 

「そうじゃろう、そうじゃろう」

 

夜一は満足そうに頷いた。

 

「ならば、儂が少し教えてやろうかのう」

 

「夜一様?」

 

砕蜂が顔を上げる。

その声には、僅かな困惑が混じっていた。

 

「何じゃ、砕蜂」

 

「そのようなお話を、わざわざ柊にする必要は……

そもそも、柊も私の話を聞きたいわけではないでしょう…」

 

「柊よ、聞くか?」

 

「まあ、俺は聞いてみたいです」

 

「だそうじゃぞ、砕蜂」

 

「しかし……!」

 

「まあ、よいではないか」

 

夜一は楽しそうに笑った。

 

砕蜂は頭を抱えた。

なぜ夜一様は自分の話をしたがるのか。

なぜ柊はわざわざ自分の話を聞こうとするのか。

砕蜂には、理解できなかった。

 

そんな砕蜂の悩みを全く気にせずに

夜一は語り出した。

 

「そもそも、こやつはなかなかの努力家でな」

 

夜一は実に楽しそうな様子で続けていく。

 

「一度始めたことは、なかなか途中で投げ出そうとせん。儂がもうよいと言うても、納得するまで続けようとすることがある」

 

「へえ……」

 

柊は興味深げにそれを聞いていた。

 

「以前も、歩法の訓練で上手くいかぬところがあったらしくてのう。月の下、ひとりで繰り返しておった」

 

「夜一様! そのお話は……!」

 

「かっかっか! 何じゃ、事実じゃろう?」

 

「それは、そうですが……」

 

砕蜂は口ごもった。

実際に、その時のことを自分も覚えている。

夜遅くまで歩法の鍛錬を行っていると

夜一がやってきて、できるようになるまで

つきあってくれたのであった。

 

「それに、任務の準備も丁寧じゃ。儂が出向くと分かれば、必要なものを先回りして揃えておることもある」

 

「……なるほど」

 

柊は、興味深そうに話を聞いていた。

夜一はさらに続ける。

 

「じゃが、こやつの一番面白いところは、そこではない」

 

「そうなんですか?」

 

「うむ」

 

夜一は砕蜂へ視線を向けた。

 

「儂が何か危ないことをしようとすると、真っ先に止めに来よる。

ひどく慌てた様子でな」

 

「……当然です!」

 

砕蜂は即座に答えた。

 

「夜一様の身に何かあれば、私は!!」

 

「ほれ、この通りじゃ」

 

夜一は笑った。

 

「儂が大丈夫じゃと言うても、なかなか引き下がらん。時には儂にまで意見してきよる」

 

「それは、夜一様の御身を案じてのことで……!」

 

「分かっておる、分かっておる」

 

夜一は愉快そうに頷いた。

 

「じゃがのう、砕蜂」

 

「はい?」

 

「お主、儂が大丈夫と言うておる時くらいは、もう少し信用してくれてもよいのではないか?

儂が弱いと思うとるのか?」

 

「そ、それとこれとは話が別です!」

 

「かっかっか!冗談じゃ!」

 

柊は二人のやり取りを黙って見ていた。

夜一はどこまでも楽しそうだ。

一方の砕蜂は、真剣そのものである。

夜一の言葉に反論こそしているものの、その態度には一切の迷いがなかった。

 

「……ふうん」

 

柊は小さく呟いた。

 

砕蜂は、その声を聞いて僅かに眉を寄せた。

 

***

 

砕蜂は、あまり落ち着かなかった。

自分のことを他人の前で話されるのは、どうにも居心地が悪い。

柊が自分のことをどう思っているのか、砕蜂は知らない。

しかし、他の隊士たちと同じように考えていても不思議ではない。

そう考えていた。

 

女のくせに。

若いくせに。

夜一様に気に入られているだけ。

 

これまで数え切れないほどに、そんな言葉を言われてきた。

奴らは、たとえ実力を示したところで、それを素直に認めるわけではない。

常に自分の粗を探し、何か一つ失敗すれば、やはり女だからと嗤われる。

何かを成し遂げても、夜一様の後ろ盾があるからだと言われる。

 

自分が嘲笑を受けようが気にはしない。

しかし、夜一様にお仕えする以上、

自分が笑われれば、夜一様の名まで汚してしまう。

だからこそ、砕蜂は努力してきた。

 

「…………」

 

砕蜂は、柊を横目で見た。

彼は、何も言わずに、ただ黙って話を聞いていた。

その表情からは、相変わらず何を考えているのかが読み取れない。

 

……どうせ、この男も。

 

そんなことを考えながら、早くこの時間が終わればいいとそう思っていた。

 

***

 

「……というわけじゃ」

 

夜一が話を締めくくった。

 

「こやつは少々頑固なところもあるが、儂にとっては実に頼もしい存在でな」

 

「夜一様……!」

 

砕蜂は思わず顔を上げた。

夜一は笑っている。

しかし、その言葉には冗談めいた調子だけではない、彼女からの確かな信頼が感じられた。

 

それが、砕蜂には何よりも嬉しかった。

 

「…………」

 

ふと、柊の方へ視線を移す。

彼は、先程から黙ったままだった。

 

「……?」

 

何かを考えているようにも見える。

だが、砕蜂にはその頭の中までは見えなかった。

夜一もそれに気づいたらしく、声をかける。

 

「どうした、柊?」

 

「……あ、いえ」

 

柊は顔を上げた。

 

「何じゃ、何か気になることでもあったか?」

 

「いや、そういうわけじゃないんですけど」

 

柊は少し考えてから、ゆっくりと口を開いた。

 

「……かっこいいなって思いまして」

 

「…………」

 

一瞬。

 

部屋が静まり返った。

 

「……ほう?」

 

最初に反応したのは夜一だった。

その口元が、ゆっくりと吊り上がる。

 

「かっこいい、とな?」

 

「はい」

 

柊は頷いた。

 

「…………は?」

 

砕蜂は思わず声を漏らした。

 

この男は一体、何を言い出すのだ。

 

夜一は、いよいよ楽しそうに笑い始める。

 

「かっかっか! それはまた、随分と面白い感想じゃのう!

儂も流石にそう来るとは思わんかったぞ」

 

「そうですか?」

 

「うむ! お主もそうじゃろう、砕蜂?」

 

「な……!」

 

砕蜂は眉間に皺を寄せて柊を睨んだ。

 

「何を適当なことを言っている!」

 

「はい?」

 

「世辞などいらん!私を揶揄っているつもりか!」

 

それを聞いた柊は、首を振って表情を変えずに返した。

 

「いや、別にからかってないですよ」

 

「ならば、何故そのようなことを言う!」

 

砕蜂の声が少し強くなった。

柊は、暫く彼女を見つめていた。

そして、少し不思議そうに首を傾げる。

 

「……何でですかね」

 

「貴様……!」

 

「いや、ちゃんと理由はあるんですけど」

 

柊は苦笑した。

 

「何て言ったらいいんだろう……」

 

そう呟き、少しだけ考え込んだ。

その間、砕蜂は黙っていた。

夜一も、今度は口を挟まなかった。

 

やがて柊は、ゆっくりと話し始めた。

 

「俺は、誰かへの忠誠のために、自分の全てを捧げるってことが、簡単なことには思えなくて」

 

「…………」

 

「もちろん、誰かを大切に思うことはありますよ。自分より優先したいと思うことだって、あるかもしれないです」

 

柊はそこで一度、言葉を区切った。

 

「でも、その人のために生きようって決めて、それをずっと貫くっていうのは……」

 

少し考えてから、続ける。

 

「少なくとも、今の俺にできるかどうかは分からないです」

 

砕蜂は、何も言わなかった。

いや、言えなかった。

 

「だから、砕蜂さんはすごいなって」

 

「…………」

 

「いや、すごいっていうのも少し違うかな……

なんか随分偉そうですよね。

気に触ったら謝ります」

 

その言葉には、少なくとも嘘は感じなかった。大袈裟に褒めようとしているわけでもない。ましてや、相手の機嫌を取るために、無理に言葉を捻り出したようにも見えなかった。

 

ただ、自分が感じたことを、できる限り言葉にして伝えた。

それだけのように思えた。

 

「……ただ、だからこそ」

 

柊は砕蜂を見た。

 

「俺は、砕蜂さんが少し羨ましくなりました」

 

「…………」

 

砕蜂は、彼を見つめた。

 

こいつは一体、何を言っているんだ?

 

羨ましい?

 

自分が?

 

夜一様に仕えることを、自分で選んだのは確かだ。

そのために努力してきたことも事実だ。

だが、それを羨ましいと言われたことなど、これまで、一度もなかった。

 

「……貴様」

 

ようやく声が出た。

 

「本気で……言っているのか?」

 

「え?」

 

「今の話だ……」

 

柊は少し目を瞬かせた。

そして、当然のように頷いた。

 

「はい。本気ですけど」

 

「…………」

 

あまりにも、あっさりとした返答に、

砕蜂は思わず言葉を失う。

 

もっと何か言うつもりだった。

貴様に私の何がわかると、

そう言い返そうと思っていた。

 

しかし。

 

柊は、何も、理解したふりをしていたわけではなかった。

自分には、できるかわからないと、

ただそう言ったのだ。

 

その上で、自分の決意を、かっこいいと言った。

 

「…………」

 

砕蜂は、視線を落とした。

どう答えればよいのか、分からなかった。

 

***

 

「……なるほどのう」

 

不意に、夜一の声が響いた。

 

「夜一さん?」

 

「いやな、柊。

お主、なかなか見る目があるではないか、とそう思うてな」

 

「そうですか?」

 

「うむ。儂の自慢の部下じゃからのう」

 

夜一は満足そうに頷く。

 

「…………!」

 

砕蜂が何か言いかけた、その時だった。

 

「あ」

 

柊が突然声を上げた。

 

「……ん?」

 

夜一が顔を向ける。

 

「どうした?」

 

「……そういえば」

 

柊は、何かを思い出したように額へ手を当てた。

 

「平子隊長に頼まれてた用事、すっかり忘れてました。今って何時ですか?」

 

砕蜂が答える。

 

「14時42分だ」

 

それを聞いた柊は頭を抱える。

 

「あと18分……」

 

夜一は暫くその様子を眺めていた。

 

そして。

 

「……ぷっ」

 

とうとう吹き出した。

 

「かっかっか!お主、忘れておったのか!」

 

「はい。完全に」

 

「全く、お主らしいのう!」

 

「いや、つい話に夢中になっちゃって」

 

柊は苦笑しながら立ち上がった。

 

「すみません、夜一さん。そろそろ戻らないと」

 

「うむ。まあ、よい。今日は付き合わせて悪かったのう」

 

「いえ、楽しかったですよ」

 

「そうかそうか!」

 

夜一は愉快そうに笑った。

柊はそのまま、砕蜂へ顔を向けた。

 

「砕蜂さんも、ありがとうございました」

 

「……何?」

 

砕蜂はなぜお礼を言われたのかわからないという顔をしていた。

 

「今日はお話できてよかったです」

 

砕蜂は、少しだけ眉を動かした。

 

「……私は、別に大した話などしていない」

 

「そうですか?」

 

柊は首を傾げた。

 

「俺としては、色々聞けてよかったですけど」

 

「…………」

 

「じゃあ、また」

 

そう言って、柊は二人に頭を下げた。

 

「失礼します」

 

障子が閉まる。

 

やがて、廊下を歩く足音が遠ざかっていった。

 

***

 

「…………」

 

砕蜂は、閉じられた障子を見つめていた。

そして、夜一はそんな彼女を横目で眺める。

 

「……ふむ」

 

「……夜一様?」

 

砕蜂が不思議そうに首を傾げる。

 

「いやあ、良かったのう、砕蜂」

 

「……何がでしょうか?」

 

「何が、とな?」

 

夜一はにやりと笑った。

 

「かっこいいと思います、と言っておったのう」

 

「……っ!」

 

砕蜂の顔が、僅かに強張った。

 

「な、何を仰いますか!」

 

「だから、かっこいいと思います、と言っておったのう」

 

「夜一様!!」

 

「最終的には羨ましいとまで言うておったのう」

 

「お、おやめください!」

 

砕蜂はとうとう顔を赤くした。

夜一はそれを見ながら声を上げて笑い出した。

 

「かっかっか! 何じゃ、そんなに怒ることもなかろう!」

 

「怒ってなどおりません!」

 

「ほう? ならば、なぜそんな顔をしておる?」

 

「そ、それは……!」

 

砕蜂は言葉に詰まった。

夜一は楽しそうに彼女を眺めていたが、やがて少しだけ笑みを和らげた。

 

「……まあ、しかし」

 

「……?」

 

「柊は、ああいう男じゃ」

 

「…………」

 

砕蜂は夜一を見た。

 

「思ったことを、そのまま口にしよる。妙なところに気が回るくせに、ああいったところには無頓着な男じゃ」

 

夜一は小さく笑った。

 

「それに、損得勘定で動く人間でもあるまい。

実際、お主を褒めたところで、あやつに何か得があるわけでもなかろう?」

 

「…………」

 

確かに、そうだった。

柊は五番隊の三席。

自分に取り入ったところで、何か特別な利益があるわけではない。

 

夜一様に気に入られようとしていたのだとしても、柊であれば、他にいくらでも方法はあるだろう。

 

そもそも、あの男は。

褒めた直後に、平子からの頼まれ事を思い出して、すぐ帰ってしまった。

あれでは取り入った意味などない。

 

「…………」

 

思い出すと、何とも言えない気分になった。

そして、夜一は、そんな砕蜂の様子を楽しそうに眺めていた。

 

「どうじゃ、砕蜂」

 

「……何でしょう」

 

「柊も、なかなか面白い男じゃろう?」

 

「…………」

 

砕蜂は暫く黙った。

そして、小さく息を吐く。

 

「……変わった男だとは思います」

 

「ほう?」

 

「ですが、それだけです」

 

「かっかっか! そうかそうか!」

 

砕蜂は、すぐに話を切り替えようとして

仕事の話を振る。

 

「……夜一様。そろそろ次のお仕事の準備を」

 

「うむ。そうじゃな」

 

夜一は立ち上がった。

 

「では、行くとするかのう」

 

「はい!」

 

砕蜂も立ち上がり、夜一の後ろへと続く。

その足取りは、いつもと変わらない。

夜一様のお側に仕え、その御身を守る。

それが自分の役目であり、全てである。

 

それは、何も変わってはいない。

 

ただ。

ふと、先程の青年の顔が頭に浮かんだ。

 

『かっこいいなって思いまして』

 

「…………」

 

砕蜂は、少しだけ目を伏せた。

 

自分のことを、あのように言う者がいるとは思わなかった。

それも、夜一様とは違う立場の人間が。

 

自分と同じものを目指しているわけでも、

同じ覚悟を持っているわけでもない。

 

むしろ、自分にはできるか分からないと、あっさり認めてしまうような男だ。

 

だが、彼は、自分の忠誠を笑わなかった。

自分の決意を、軽いものとして扱わなかった。

だからといって、それだけで信用できるというわけではない。

 

あの男のことなど、自分はまだほとんど知らないのだから。

 

しかし。

少なくとも。

 

「……砕蜂?」

 

前を歩く夜一が振り返った。

 

「どうした? 置いていくぞ?」

 

「はっ! 申し訳ありません!」

 

砕蜂は慌てて歩き出した。

 

夜一は一瞬だけ不思議そうな顔をしたが、すぐに楽しそうに笑った。

 

砕蜂は、夜一の後を追いながら思う。

 

柊周介。

 

五番隊三席。

 

夜一様がよく揶揄っている、少し変わった死神。

 

これまでは、ただそれだけの人物だった。

 

掴みどころのない、妙な男…

 

だが、話していて悪い気はせんかもな。

 

そう考えて砕蜂は夜一のもとへ駆けて行った。

 

***

 

一方、その頃、柊は特売の争奪戦で手に入れたトリートメントを抱えていた。

 

「結局、俺って今日何しに来たんだ…?」

 

 

 

第6話 Bee Seen 完

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