BLEACH ~No Future Worth Your Ruin~ 作:冬冬✻
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この名に誇りを纏うことが
私の生まれた証
ならば、いつの日か
あの気高い桜の木のように
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五番隊隊舎、隊長室。
「平子隊長、来ましたよ」
障子の外から柊が声をかける。
「入ってええで」
待ってましたと言わんばかりの即答で平子が応じる。
「……?」
あまりの返事の速さに柊は一瞬嫌な予感がしたが、すぐに切り替えた。
柊が障子を開けると、平子が何かを持ったまま待ち構えているのが見えた。
「で、何ですか?用って」
「これ、俺の代わりに持ってってや」
平子は手に持った封筒を柊に差し出した。
「いいんですけど、誰に渡す書類ですか?これ」
「六番隊の
「蒼純さんに?」
「せや」
「わかりました。六番隊に持っていっておきます」
「あー、それなんやけどな」
平子が後ろめたそうに視線を逸らした。
勿論、柊はそれを見逃すはずもなく、
部屋に入る前の、あの嫌な予感を思い出した。
「どうしました?」
「蒼純副隊長な、今は屋敷におるらしいねん」
「屋敷って、朽木邸に?」
平子がコクリと頷く。
柊は聞き間違いであることを祈って、もう一度聞く。
「…朽木邸に?」
平子は一瞬黙ったあと、
もう一度ゆっくりと頷く。
「………え」
柊は一瞬固まった。
そしてそのまま思考の海にダイブして行った。
まず、六番隊に書類を持っていくのはわかる。
それくらいの他隊との交流はよくある。
そして相手が副隊長であることも、
自分の役職を考えれば珍しくはない。
だが、
問題はその次だ。
なぜ、朽木邸に三席の自分が行くことになっているのだろうか。
そして、柊は当然の質問を平子へ投げた。
「平子隊長が行けばいいんじゃないですか?」
平子はそれを聞いて暫く目を瞑っていたが、
突然呟いた。
「周介、俺は今な、めっちゃ忙しいねん。
そらもう飯も食えへんぐらい忙しいんや」
「何でそんなに忙しいんですか?」
「新しく手に入れたコイツを聴き終わらなあかんのや」
そう言った平子は、いつの間にか一枚のレコードを手に持っていた。
「………」
「周介?」
「…はい、何でしょう?」
「怒っとる?」
「いえ、別に。
ただ、後で沢山働いてもらいますからね?」
柊はその顔に笑みを浮かべながら答えた。
「おう…」
平子はその時、数時間後の自分の運命を悟った。
***
朽木家。
四大貴族の一角であり、
それはそれは立派な屋敷を構えている。
そして柊は"何故か"その門の前にいた。
「………で、どうするんだろう」
柊は貴族の生まれではない。
当然ながら、このような立派なお屋敷に住んでいた経験も無く、ここからどうすればよいかを考えていた。
その時、男性が一人柊の元へ駆け寄って来た。
「失礼ですが、どちら様でしょうか」
見たところ、朽木邸の門番のようだ。
柊はこの人に話を通せばいいかと思い、
懐から書類の入った封筒を見せる。
「五番隊三席の柊周介と申します。朽木蒼純副隊長に、平子隊長からお預かりした書類を届けに参りました」
「五番隊の柊三席様ですね。少々お待ちください」
そう言って門番は屋敷の奥へと姿を消した。
***
程なくして、屋敷から一人の老人が出てきた。
「お待たせいたしました。五番隊の柊三席でいらっしゃいますね」
「はい。柊周介です。平子隊長より、蒼純副隊長に書類を届けるよう頼まれまして」
「承っております。私、朽木家の
「これはご丁寧に。よろしくお願いします」
「蒼純様にお取り次ぎいたします。どうぞ、こちらへ」
清家に案内されるままに柊は屋敷の門を潜り抜けた。
ようやく、柊の任務の1歩目が完了したのである。
屋敷の敷地内に入ると、柊はその広さに思わず立ち止まってしまった。
「広いな…」
それを聞いた清家は
柊の方へ振り返り、口を開く。
「皆様、屋敷を初めて訪ねられました際は
同じことを口にされます」
「やっぱり、そうなんですか?」
「ええ、平子隊長様が訪ねられた際も、それはそれは驚かれておりました」
「ああ、なんとなく想像つきます…」
屋敷へ入る平子。
その目が大きく見開かれ、一言。
『なんで、自宅が隊舎よりも広いねん!』
そんな想像をしながらも、柊は屋敷を進んでいく。
暫く廊下を歩いていると、屋敷の庭から
風を切るような音が聞こえてきた。
柊がその音の方へ視線を向けると、
そこには木刀を振り下ろす、一人の少年の姿があった。
とても綺麗な立ち姿。
木刀の振り方も無駄が少なく、三席の自分からしても、つい見入ってしまう。
そんな美しさがあった。
そんな柊の姿を見た清家は
柊の視線の先へ同じように顔を向けて
語り出した。
「あちらは、白哉坊っちゃまにございます。
蒼純様の御子息にあられまして、いずれ
朽木家当主を継ぐ御方で御座います」
「蒼純さんの…」
それを聞いた柊はその少年の顔をよく見てみる。
するとその面立ちは蒼純によく似ており、
血の繋がりを感じさせるものがあった。
「似てますね」
「蒼純様に、でございますね?」
「はい。蒼純さんがあれくらいの齢の頃は
あんな感じだったのかなって少し思いました」
清家はそれを聞くと静かに目を閉じた。
そして昔を思い出すかのように口にした。
「あの頃の蒼純坊っちゃまと白哉坊っちゃまは
確かによく似ておられますな。私も白哉坊っちゃまがご成長なさっていく度にそれは感じております」
「なんだか、桜みたいですね」
「桜、で御座いますか?」
「はい。彼の後ろに美しくも気高く並ぶ桜の木によく似ているなって思いまして。
それに、桜の
清家も白哉を暫く見つめた後、
頷きながら口にした。
「確かに、そうかもしれませんな」
その時、白哉が自分を見ている清家と柊の存在に気づいた。
そして、白哉は柊へ視線を向け何やら考えているようだった。
しかし、すぐに視線を戻し木刀を再び振り始めた。
『熱心だな』
柊は白哉の様子を見ながらついそんなことを考えたのだった。
***
屋敷の廊下を歩いていた清家が足を止めた。
柊もそれに合わせて足を止め、目の前の障子を見つめる。
「蒼純様、信恒に御座います。
五番隊の柊三席をお連れ致しました」
信恒がそう口にすると
中から穏やかな声が返ってきた。
「ありがとう、信恒。
柊三席、中へどうぞ」
それを聞き、柊は障子に手を掛ける。
「失礼します」
柊が障子を開けると、中には
落ち着いた雰囲気の男性が座っていた。
「柊三席、遥々ご苦労様です。
私の身体が弱いばかりに、申し訳ない」
「いえ、気にしないでください。
蒼純さんにはいつもお世話になってるので」
彼の名は朽木蒼純。
朽木白哉の父にして
現六番隊副隊長である。
「信恒から話は聞いています。本日は平子隊長の代わりに参ったのですね」
「はい。これを渡して欲しいと頼まれまして」
そう言った柊は懐から書類の入った封筒を取り出し、蒼純に手渡した。
「ありがとうございます。本来なら私が伺うべきだったのですが、ここまで足を運んでいただくことになってしまうとは…」
そう言った蒼純の顔は見るからに申し訳無さそうだった。
それを見た柊は思わず口を開く。
「そんなに気に病まないでください。
今日ここに来れて良かったと思うこともありましたので」
「良かったこと、ですか?」
「はい」
蒼純は少し驚いたように目を丸くしたが、
すぐに口元を緩め、普段の落ち着いた表情に戻っていた。
「それは良かった。
客人が満足して帰られることは、朽木家の者としても嬉しい限りです」
「ええ、本当に良かったです」
そう口にした柊の表情は
とても穏やかで、花の
優しかった。
蒼純もそんな柊を見て、良かったこととは何かすぐに気がついた。
「白哉ですかね?」
柊は蒼純の思わぬ言葉に、驚きを隠せなかった。
「どうして、わかったんです?」
驚く柊を見つめながら、蒼純は
ふと口元を緩める。
「なんとなく、ですかね…
柊三席の表情を見ていたら本当になんとなく浮かんだだけです」
「なんとなく、ですか」
「はい。別に人の心を読む力など
私にはありませんから」
決して驕らない。
そんな彼の姿を見て、相変わらずの人だなと
そう考える。
「じゃあ、そういうことにしておきます」
柊は口ではそう言いながらも
蒼純がなんとなくで答えたわけでは無いことを悟っていた。
朽木蒼純、身体が弱く表に立って戦闘をすることはない。
しかし、思慮深くよく人を見ている。
柊が平子に連れられて初めて彼と会った際も
そうであった。
あの時は何を言われたっけか…
『柊君は人をよく見ているのですね。
自身のことも同じように見ることができれば、きっと今より多くを救える者になられます』
確か、そんなことを言われた。
あの時はその言葉の意味がよくわからなかった。そして、今も理解出来てはいない。
だが、あの時の蒼純の言葉と就任式の日に藍染に言われた言葉が妙に重なって見えた。
暫くして蒼純が立ち上がり、柊に声をかけた。
「柊三席、白哉に会っていきませんか?」
「白哉君に?」
「ええ、あの子に足りないものを柊三席は持っているように思うので、少し話をしていただければと…」
そう口にした蒼純の表情が、内心を見抜かれたときの自身の表情と同じだということを、柊は未だ知らなかった。
「はい。俺も少し話してみたかったので、ぜひ」
それを聞いた後、蒼純は障子を開けて
柊の方へ振り向きながら言った。
「では、行きましょう」
柊も頷きながら、立ち上がり部屋を出る。
***
柊と蒼純が庭に出ると、白哉は相変わらず木刀を振っていた。
その音は変わらず鋭い風切り音を鳴らしている。
「白哉、少しいいかい?」
突然声をかけられた白哉は少し困惑した顔を見せたが、すぐに素振りをやめてこちらへ来た。
「父様、どうされましたか?」
「白哉に紹介したい人がいてね」
そう言った蒼純は左手を柊へ向ける。
白哉もそれを見て自然と柊の方へ視線を移していた。
「彼は柊周介君。五番隊の三席の方だよ」
「五番隊の三席…」
「ああ、私もいつもお世話になっていてね。
今日も私の身体を気遣ってここまで足を運んで下さったんだ」
それを聞いた白哉は柊を見つめながら、
何かを考えていた。
しかし、すぐに姿勢を正し、お辞儀をした。
「父がお世話になっております。
朽木白哉と申します」
「こちらこそ、初めまして。
五番隊三席の柊周介と申します」
こうして柊と白哉は初めての言葉を交わした。
「それで、父様は何故、柊三席を私に?」
そう言った白哉は怪訝そうな顔を浮かべて
蒼純に問いかけていた。
柊もその顔を見て、まあ当然のことだろうと感じていた。
彼からすれば、知らない五番隊の三席をいきなり紹介されたとしても不思議に思うだろう。
しかし、蒼純はそんな白哉に思わぬ言葉をかけた。
「親心というものかな」
「親心、ですか?」
「ああ、白哉の稽古もお父様に任せきりで、
普段あまり父親らしいことをしてあげられてないからね」
蒼純は少し申し訳なさそうに白哉に言った。
白哉は白哉で、そんな父の様子を見て
同じように申し訳なさそうだった。
「確かに、爺様は私に剣を教えてくださっています……
しかし!!父様も私にこの名を付け、
人として何を大切にするべきかを
教えてくださいました!!!」
その言葉を受けて蒼純は
少し目を見開いた。
「白哉…」
柊はそんな二人の様子を見ながら、
四大貴族と言えど、父と子の繋がりは
他と同じ、暖かいものなのだと感じたのであった。
「白哉君は、何を大切にするべきだと思う?」
突然の問いに白哉は驚いた様子を見せたが、
蒼純はそれが来ることを期待していたかのように柊を見つめていた。
「私は……
私は、誇りを守ることこそが最も大切なことだと思う。」
誇りを守ること。
彼らしい答えだ。
「誇りを守るか…
確かに大切なことだね」
それを聞いた白哉は少し納得のいかない表情を浮かべながら柊に問いかけた。
「今の柊三席の言葉…
まるで誇りよりも優先すべきことがあると
言っているように聞こえるが。
柊三席は逆に何を守るべきだと考える」
「俺が守るべきと思うものか…
そうだね、俺も確かに誇りを守ることは
とても大切だって思ってるよ。
俺たち、死神には特にね」
「ならば…!」
「でも、何を誇りとするかも、人によって違うような気はするんだ。
白哉君はたぶん、家の誇りや、死神の誇り。そう言った物が大切なんじゃないかな?」
「当然だ。朽木家の者として、それらを誇りとせずに何を誇る!!」
そう言った白哉の表情は、先程よりも険しかった。
「それも一つの答えなんじゃないかな。
蒼純さんだってきっと同じように朽木家としての誇りを大切に生きてると思う。
ただ、俺はそうじゃない。
俺にとっての地位や名誉は……まあこの三席って肩書きなんだろうけど、
俺は誇りを守るためならそんなもの捨てたって構わないと思ってる」
その言葉を聞いた白哉は、心底理解ができないという顔を浮かべている。
「勿論、この肩書きの責任はあると思ってるし、白哉君の背負う物ほど、大層な物でないことも理解してるよ。
ただ、それよりも、もっと身近な物を守りたい。
家族や仲間、それにここで生きる人たち、
世界から見たら小さいかもしれないけど
俺はそれを守りたい」
蒼純は静かに二人の会話を聞いていた。
その心が、今何を映しているのか。
それは彼自身にしかわからない。
「柊三席、貴殿にこの名の重みなど、
分かるまい」
白哉は吐き捨てるように言った。
しかし、柊は表情を変えずにただ答えた。
「わからないよ。
俺がその重みを知ることは、どう足掻いてもできない。
でも、それでいいんじゃない?
他人だからこそ見えることも、きっとあるんじゃないかな。
少なくとも俺は一つの絶対的で完璧な答えよりも、不確かでも色んな物が存在する方がよっぽど生きてるって気がするな」
柊自身、自分が何を言っているのか
完全に理解しているわけではない。
しかし、その心に嘘もなかった。
「貴殿の考えと私の考えでは、相容れぬようだな」
「そうかもね。でも全てがそうとは限らないんじゃないかな?噛み合うことも噛み合わないこともある、それが人じゃない?」
それを聞いた白哉は少し黙った。
目を閉じて何かを考えている。
若い彼なりに、必死なのだろうということが
柊にも伝わっていた。
暫くして蒼純が口を開いた。
「白哉、何も今すぐに答えを出す必要はないんだ。答えはこれから生きていく上で探していけばいい」
そう言われた白哉は閉じていた目を見開き
父の方へ視線を向けた。
「父様…」
「白哉、私にも柊三席とお前のいうことのどちらが真の正しさかはわからない。
だから私もまだそれを探す道の途中なんだ」
「父様でも?」
「ああ、きっとお父様でもその答えはすぐに出せるものではないはずだよ。
だからこそ、私たちは日々生きて
自分と向き合っていく。
それが……いや、それしか私たちにはできないから精一杯それをやるのだろうね」
「自分と向き合う…」
そう呟いた白哉の表情からは、
先程までの険しさが少し抜け落ちていた。
そして、蒼純はそのまま柊の方へ向き直る。
「柊三席、申し訳ない。
あの子も、あの子なりにこの家の名と向き合うために必死なのでしょう。
ただ、未だ未熟故に少し答えを急ぐ癖があるようで」
「いえ、気になさらないでください。
それに俺はあれくらいの齢の頃に、
あそこまでしっかりと考えてなかったので
凄いと思いますよ。本当に」
そう言った柊は感心した表情で
白哉を見つめていた。
***
白哉との話を終えた柊と蒼純は
少し離れた場所から白哉の鍛錬を眺めていた。
先程の話が彼に何かしらの影響を与えたのか、剣先の速度はさらに増していた。
その風切り音には、聞く者の胸を打つような力強さが加わっていた。振り下ろされる木刀の一太刀も、先程までより鋭さを増している。
暫くすると庭の向こうから隊長羽織を着た
一人の老人が歩いてきた。
「おお、頑張ってるようじゃな。白哉」
声の主は六番隊隊長の朽木
蒼純の父であり、白哉の祖父である。
その声に気づいた白哉は、顔を明るくして声の方へ振り返った。
「爺様!屋敷に戻られたのですね」
「うむ。少々用が出来てな」
「用、ですか?」
「ああ、お前に客じゃ。白哉」
「私に?」
そう言った白哉は心底不思議そうな顔をしていたが、その顔が崩れるのもすぐ後のことだった。
突如白哉の顔に奇妙な感触が走る。
膨らんだ死覇装が白哉の右の横顔を押していたのだ。
その瞬間白哉の表情が、先程の困惑した顔から一変して不快そうなものへと変化した。
「おのれ…っ!!」
白哉は木刀で瞬時に右側の空間を薙ぎ払った。
しかし、先程までそこにあったはずのものは
もう消えており、その剣は空を切ってしまう。
「出たな、化猫!!!」
そう言った白哉の視線は白哉の間合いから少し離れた位置に立つ死神へと向けられていた。
「はっはっは!!
化猫とはご挨拶じゃな、白哉坊」
そこには二番隊隊長、四楓院夜一が立っていた。
「何故、貴様がここに居る!!」
「折角、遊びに来てやったというのに釣れないのう」
夜一は心底楽しそうな顔をしている。
「黙れ!!誰が貴様に遊びに来て欲しいと頼んだ!!
そもそも朽木家次期当主たる私に、遊びなど必要ない!!!」
「果たして、そうかのう?
お主はどう思う、柊」
突然の夜一の問いかけに柊は少し驚きながら
答える。
「え?俺に聞くんですか?」
「柊という名の者がお主以外にこの場におるか?」
「いないですね」
「じゃあそういうことじゃ」
だからどういうことなんだよと思いながらも柊は真面目に考え出す。
白哉に遊びが必要か否か。
確かに立派な朽木家当主になろうと努力している。
だが、果たしてそれだけでいいのだろうか?
先程の蒼純も言っていた、今すぐに決めずとも良いということ。
それはつまり、どんな当主になるかも
未だ決める必要は無いということではないだろうか?
そう考えた柊の次の言葉は自然と決まっていた。
「白哉君。
今すぐに、時間の全てを未来のために捨てなくてもいいんじゃない?
先ずは今を大事にしてみるのも大切なんじゃないかな」
それを聞いた夜一はニヤリと笑い頷いた。
「お主もそう思うんじゃな、柊」
当の白哉本人は当然ながら納得はしておらず、相変わらず不機嫌そうな顔をしている。
「白哉よ。お主の腕前、久しぶりに見てやるかのう」
そう言った夜一は瞬時に姿を消し、白哉の背後に回っていた。
そしてそのまま白哉の髪を束ねていた髪紐を
解き、引いた。
「貴様ッ!!」
再び白哉は剣で背後を薙ぎ払ったが、
夜一は既に屋敷の塀の上に移動していた。
「はっはっは、おなごに髪紐を奪われるとは朽木家の将来が思いやられるのう」
夜一は髪紐を持った手を大きく振りながら
白哉を揶揄っていた。
柊はそれを見ながら、
『この人やっぱり性格悪いな』
とそう思った。
「…そこを動くなよ、四楓院夜一…!!!」
そう言った白哉の姿は、普段とは違い、年相応に怒る少年そのものだった。
「悔しかったら、取り返してみせい。
白哉坊!!」
そう言い放って夜一は姿を消した。
「待てッ!!四楓院夜一!!」
そう叫んだ白哉の声は、
相手には届かず空を切った。
それを見た柊は珍しく子供らしい表情を見せた白哉に少し驚くのと同時に、今は未だこれでいいんじゃないかなと、そう思っていた。
そして柊はそれを表には出さずに白哉に声をかける。
「白哉君」
「何だ!!柊三席!!」
「俺と一緒に、夜一さんに一泡吹かせてみない?」
「何を馬鹿な!!」
それを聞いた白哉は最初、不愉快そうにしたが、柊の顔が至って真剣なことに気が付くと、白哉もそれに応じるように表情を変えた。
「何か…策があるのか?」
「うん。ちょっとね」
二人は静かにお互いを見つめ合っていた。
そして風に揺られた桜の花弁が
その間を通り抜けていく。
***
その頃、四楓院夜一は少し離れた
立っていた。
風に死覇装を靡かせながら愉しそうに呟く。
「さて、そろそろかのう…」
その直後、夜一を挟み込むように
二人の人影が母屋の上に現れた。
左側には柊周介、右側には朽木白哉。
二人は夜一を間に挟み、少し離れた場所からその動きをうかがっていた。
「遅かったのう、白哉坊。
それに柊も」
「勘違いするな。
貴様にわざと逃げる猶予を与えてやっただけだ!!」
「猶予とな。
それで、儂を捕らえる算段はついたのか?」
夜一は柊の方へ視線を向けながら言った。
柊も少し不敵な笑みを浮かべながら返す。
「どうでしょうね。
それは見てからのお楽しみってことで」
それを聞いた夜一は心底愉しそうに笑い出す。
「ああ、そうじゃな。では捕まえてみい。二人とも」
今ここに、柊と白哉の共闘の幕が開けたのである。
初めに動いたのは白哉だった。
瞬歩で夜一に急接近する白哉の姿は
元の位置から一瞬にして消え去った。
それに合わせるように夜一は後ろに瞬歩で後退する。
一方、柊は夜一が移動するよりも前に、
既に自らの左側、つまり夜一の後退した方向と同じ方向に走り出していた。
夜一も勿論それに気づいている。
しかし同じ方向に進んだことには理由があった。
柊は走り出す直前に縛道を夜一の前方へと放っていた。
詠唱破棄の縛道であり、本来の戦闘では
さして決め手にはならない。
しかし、こと追いかけっこにおいてはその一瞬が命取りとなる。
そのため、夜一は必然的に後退することとなった。
「やるのう。二人とも」
夜一は二人の緻密な連携を
嬉しそうに褒める。
「その余裕、直ぐに崩してくれる」
そう言った白哉は夜一の元いた位置まで来ると直ぐに身体を90度旋回させ、後退する夜一を目がけて走り出した。
後方には柊、前方からは白哉、完璧な挟み込み。
しかし、これだけで捕えられるほど夜一は甘くなかった。
夜一は直ぐに左側に進路を変えるために
右脚を軸足として、屋根を強く蹴った。
その時夜一は柊が斬魄刀を抜いていることに気づく。
「まさか…お主」
夜一がそう呟いたのも束の間、
柊は解号と共に斬魄刀を振り上げる。
「
その瞬間、柊の刃から刃先の方向へ
風圧が飛んでいく。
柊周介の斬魄刀、風切。
刃の斬撃軌道上に風圧を飛ばす。
射程を短くするほど威力が増し、反対に射程を長くするほど威力が落ちる。
勿論、今回の風切の風に殺傷力は無い。
しかし、その分、飛距離と風の面積を広げることで、一種の風の壁のようなものを出現させたのである。
夜一はそれを見てすぐさま左脚を屋根に突き立て上空へと高く飛び上がった。
「やるのう、二人とも。しかし、これならどうじゃ」
流石の瞬神による瞬歩。
その移動スピードと距離は凄まじく、
白哉や柊が一息で追いつけるものでは無かった。
しかし、夜一は上空に移動しながらあることに気づく。
柊と白哉は夜一の方など見ず、お互いに
前へと全力で走っていたのである。
***
時は遡り、柊と白哉が夜一を追っているときの会話。
「白哉君。
今言った流れで事が進めば、おそらく夜一さんは全力の瞬歩で上空へと飛ぶ」
「そうかもしれぬな。しかし、柊三席。
あの化猫の全力の瞬歩を上空で捕らえることができるのか?」
「そう、そこが最大の問題。少なくとも俺も白哉君も夜一さんの瞬歩とはスピードと距離が違いすぎる」
「ならば、作戦にならぬではないか!」
「確かに、このままじゃそうかもしれないね。
でも、俺たちは"二人"いる。なら一人で追いつけないことは作戦を失敗にする要因とは限らないよ」
それを聞いた白哉は少し表情を変える。
真剣な眼差しで語る柊の言葉に何かを感じ取ったのだろう。
「ではどうする?」
一拍置いて、柊が口を開く。
「俺の風に君を乗せる」
***
時は再び現在へ。
お互いにぶつかり合うのでは無いかという
勢いで同じ地点目がけて走る二人。
柊は風切を握り直して振り上げる構えを取り、白哉は姿勢を低くして足に力を溜めていた。
そしてとうとう、二人が先程まで夜一が立っていた場所まで辿り着いた瞬間。
柊は上空の夜一目がけて風切を構える。
そして白哉は何と、その風切の刀身の腹に足を乗せたのであった。
「行くよ白哉!!」
「来い!!」
二人が言葉を交わした直後、柊の腕に一気に力が込められる。
「風切!!」
そう叫んだ柊は、風切を一気に振り抜いた。
それと同時に白哉も風切から瞬歩で上空へと飛ぶ。
すると風切から放たれた風は白哉を上空へと押し出すようにとてつもない勢いで吹き抜けて行った。
白哉もまた、その勢いに乗って普段の数倍のスピードで夜一目がけて移動していく。
そうして夜一の持つ髪紐へ、白哉の手が届く
その瞬間、夜一は身体を捻りながら空中を回転し、白哉の腕を避けた。
そしてそのまま白哉の背後に回りこみ、その背を足場に地面へと瞬歩で移動する。
白哉は背を足場にされたことで体勢を崩し、
そのまま地面へと落下してしまう。
それを見た柊は一瞬の迷いもなく白哉の落下地点へ瞬歩で向かい、落ちてくる彼を受け止めた。
その手に抱えられた白哉は不機嫌そうな顔で柊に叫ぶ。
「柊三席!!
何故あの化猫の方へ走らなかった!!
今、向こうへ走れば髪紐を奪えたはずだ!!!!」
白哉の顔は悔しさを露わにして柊へ向けられている。
しかし、柊は悔しさなど全く無さそうに
返した。
「良かった」
その思わぬ返答に白哉は一瞬固まった。
「何!?
良かっただと?」
「うん。白哉君に怪我がなくて良かったよ」
それを聞いた白哉は理解できないという顔で
柊を見ていた。
「勝負に負けた。
それなのに良かっただと?」
その言葉を受けた柊は、優しい表情で
口を開く。
「確かに、勝負には負けちゃったね。
それは悔しいかもしれない」
「なら!!」
「でも、ここで君を怪我させるくらいなら、
俺は喜んで負け犬になるよ。」
白哉は驚きで目を大きく見開きながら柊を
見つめる。
そして、先程までとは打って変わって、
静かに問いかけた。
「それが貴殿の誇りか…」
「…そうかもしれないね。
まあ、誇りなんて大層な物かは分からないけど、俺にとって勝負に勝つ名誉よりも
そっちの方が大切なんだと思う」
「そうか……」
白哉の表情からは、先程までの悔しさが少しだけ薄らいでいるように見えた。
そして静かに笑った。
「柊三席…
変わっているな、貴殿は」
「よく言われる」
二人の間には、勝負のことなどもはや
消え去っている様だった。
夜一はいつもと違い、
口元を緩め、落ち着いた表情でそれを見ていた。
暫くして夜一が口を開く。
「それにしても、お主ら仲が良いのう。
まさか、お姫様抱っことは」
それを聞いた白哉は顔を真っ赤にしながら
叫んだ。
「柊!!貴様、いつまで抱えているつもりだ!!
早く降ろせ!!!!」
「あ、ごめん。
完全に忘れてた」
柊が白哉を降ろすと、白哉は夜一へと向き直った。
「今回は貴様の勝ちだ…だが、次は同じようには行かぬと思え!!」
「ほう…
それは楽しみじゃな」
そう言った夜一は白哉へ向けて髪紐を飛ばした。
そして、瞬歩で二人の目の前から消え去った。
柊と白哉は暫く、その場所を見ていたが
やがて互いの方へ向き直る。
「カッコつけたこと言っちゃったけど、
負けちゃったね…
ごめんね、白哉君」
柊は少し申し訳なさそうな顔をしながら、
白哉へ謝った。
しかし、白哉は鼻を鳴らして答えた。
「そもそも、空中で奴を取り逃したのは私だ。
別にお前のせいではない」
そしてそのまま少し小さな声で続けた。
「それと、お前は私よりも遥かに年上だろう。
別に白哉でよい。柊」
柊はその言葉を聞いて、少し目を丸くしたが、直ぐに口元を緩めて微笑んだ。
「うん。そうだね、白哉」
二人の間には今度は風は吹かなかった。
***
蒼純たちの元へと戻った白哉は申し訳無さそうに頭を下げた。
「爺様、父様。
申し訳ございません。
朽木家の名を傷つけてしまいました」
それを見た蒼純は
すぐに笑みを浮かべながら
白哉へ語りかけた。
「勝負には負けたかもしれないけど、
何かを得たようだね。
なら、次にそれを活かせればいいんじゃないかな」
その言葉はとても優しい色をしていた。
「それに、新たな友人を得られたのであれば、
父としてはそれ以上に嬉しいことなどないよ」
「なっ!?」
白哉は予想外の言葉を受けておもわず
固まった。
「見ていたのですか父様!?」
「いや、ここに戻ってきた夜一殿に聞いたんだ。白哉が新たな友を得たようだぞとね」
そう言いながら、蒼純の視線は柊の方へと向いた。
「ああ、なるほど…
まあ、そうですね」
直ぐに肯定する柊に白哉は不愉快そうに
言う。
「柊!!お前まで何故肯定している!!!!」
地に落ちていた桜の花弁が風に吹き上げられ、上空高く舞い上がる。
それは、陽射しと重なりその光の中へ消えていった。
***
夜一は自室に戻ると愉快そうな顔をしながら
椅子に腰掛けた。
それを見た1人の少女が、不思議そうに夜一へと問いかける。
「夜一様、何か有意義な事でもございましたか?」
「ん?そうじゃな。
とても愉快なことならあったかのう。
お主も連れて行けば良かったかもしれぬな、
砕蜂よ」
少女は不思議そうに首を傾げたが、
直ぐに表情を戻し、答えた。
「この砕蜂は、夜一様が満足なさったのであれば、それで充分にございます」
彼女の名は砕蜂。
隠密機動に属し、夜一に忠誠を誓った
少女である。
第2話 Cherry Blossoms in the Breeze 完
第2話をお読みいただきありがとうございます。
今回は、若き日の白哉と柊の出会いを描いてみました。
実は、当初は二人を少し会話させてみようと思っていただけなのですが、気がつけば随分と長いお話になってしまいました(笑)
原作では描写の少ない蒼純や清家についても、原作の設定を手がかりに、自分なりに人物像を考えながら執筆しています。
第1話とは少し雰囲気の異なるお話になりましたが、楽しんでいただけたなら幸いです。
よろしければ、感想などもお聞かせいただけると嬉しいです。