ビジュ最強上司がクズだったので死体をオークションに出品したら妙にモチベの高い奴が釣れた話 ~【人類の危機を手軽に演出する為に酷使されがちな正体不明の色々なアレ】と一緒に頑張るドヤ顔ダブル英雄生活~ 作:没ネタ敗者復活戦
バトル要素のあるファンタジーやSF作品では、障害物として『謎の敵性種族』が大量に出てくるのがお決まりである。
連中は実に便利だ。何せ人類の危機を演出したい時は無尽蔵に湧かせられ、メインキャラ達を活躍させたい時は豪快に退場させられる。
奴らさえ倒せば一件落着。人間相手の戦争と違って葛藤を抱く必要もなく、討伐後は純粋な達成感だけを噛み締められる……シンプルな『敵』と『戦う理由』そのもの。
もしかすると、閉塞した社会で生きる人類は皆、心の何処かでそういう存在を求めていたのかもしれない。英雄願望。理不尽に形があって欲しいという祈り。だから、きっと……。
──『本物』が現れてしまったのだろう。
「ショキカ……!」
「あら、いけませんわ、ロドル様。上司に
柔和な微笑み。彼女はそんな優しい笑顔のまま、これまで数多くの人類の敵……【空標】を殺戮してきた。
「お前……自分が何してんのか分かっとるんか!? いつも俺にやっとるパワハラや嫌がらせとは訳が違う!! 今度こそ人類が滅びるんやで!?」
「滅びませんわ。人類も空標も、あたしがきちんと管理して差し上げます」
「……!」
話にならない。俺の前に立つ金髪の上司は、空標などよりよほど恐ろしい存在に思えた。
「……今すぐ、実験を中止せぇ。これは最後通牒や。ボンクラの俺は何も気付かんかった。そういう事にしたる」
良いのか。良いわけがない。だが。
「頼む、ショキカ……! 俺に恩人の妹を撃たせんといてくれ……!」
「……結局、最期まで『姉様の妹』としてしか見てくれませんのね、ロドル様は」
彼女の口から溜め息が溢れた。
「どうして? どうして? どうして? 同じ顔と体の双子ですのよ? むしろ、入院続きだった姉様よりもあたしの方が発育は良いはずですわ。なのに、どうして……」
ショキカの得意分野は長距離狙撃。こんな狭い倉庫で本領は発揮できない。それに後方支援を担当していた俺は、彼女の戦闘スタイルを嫌と言うほど熟知している。
俺が絶対的に有利なはずだ。
「あたしは人類貢献度『第1位』。すなわち、誰よりも多くの空標を殺してきた女。ふふ、この期に及んで甘さを捨てられない貴方に、面白い事を教えて差し上げましょう」
「はっ、隙だらけや。死に晒せ」
俺の纏うEOの放った砲撃が躱される。いつの間にか、ショキカもEOを纏っていた。
「宣言してからでなければ殺人に踏み切れないところが、甘さだと言っているのです」
「遺言くらいは聴いたろうと思っただけや」
「では、遠慮なく。……ロドル様、昨日も飽きずに姉様のお見舞いに行かれましたわね?」
「あぁん? 不幸な事故で昏睡状態になった幼馴染を見舞いに行って何が悪いねん。お前と違うて俺には人並みの感情があるんやぞ」
「あらあら、とても貴方らしいお答えですわ。ですが……ねぇ、ロドル様」
彼女は可愛らしく小首を傾げる。
「あれ、本当に事故だと思います?」
「…………………………は?」
「ふふ、ふふふ……」
絶世の美貌を持つ怪物が微笑んだ。まるで悪戯を告白する少女のように、自慢げに。
「昔からずっと姉様の存在が目障りでしたの」
──その日、俺は人としての倫理を捨てた。
◆
「やりましたわ、御主人様。連鎖攻撃でベストスコア更新です。やはり、人権のない存在を虐殺するのはスカッとしますね」
束の間の休憩時間。仮眠を貪ろうと自室に戻れば、戦闘用ボディスーツを着た美女が笑顔で俺を出迎えた。彼女の左手には最新モデルのゲーム機が握られている。
「おーい、部屋番号を間違えとんで、ショキカ? ここは俺の寝室や。ついでに言うなら、そのゲーム機も……」
「ええ、有り難くお借りしております」
桃髪ポニーテールの『ショキカ・セットアップ』がゲーム機をくるくると丸め、ペン状にしてボディスーツのポケットに納めた。どうやら借りパクする気満々らしい。
「それと部屋番号も間違えてはいませんわ。御主人様に抱いて貰おうと思って、先程から待機していたんですもの」
「何や、ハニートラップかいな」
「……? いえ、貴方の事が好きだから肌を重ねたいだけですが? 何故、あたしが最愛の御主人様を罠にかける必要があるのでしょう?」
ショキカは心底不思議そうに言った。こうも真っ直ぐ見詰められると、何だか自分の方が的外れな事を言ってるような気分になる。
「今日はこの後、出撃予定が入っとるやろ? お前と遊んどる余裕はないねん」
「むぅ……仕方ありません。お楽しみは夜に残しておきますわね。命懸けの戦闘を終えた後の方が、人間のオスの生殖欲求は燃え上がると聞きますし」
大人しく引き下がるような台詞とは裏腹に、ショキカは俺の腕を掴んでベッドに押し倒す。
華奢な体躯に見合わない怪力。肩に食い込む人間離れした力加減に、やはり彼女は『人外』なのだと強く実感させられた。
「では、手早くキスだけでも済ませましょう。こちらも相応に期待していたので、ベロチューくらいはして頂かないと困ります」
「困るって、何や……」
「業務中も御主人様に対するムラムラで頭が一杯になってしまう、という意味ですわ。作業効率の観点でも、これは望ましくありません」
彼女の整った顔が近付いてくる。フィギュアや彫刻作品のような、どの角度から切り取っても画になってしまう美貌。
「そら、キスしても解決せぇへん問題やろ」
「少なくとも、熱烈に舌を絡め合わせた記憶を思い出す事で、御主人様を独占しているという優越感と安堵を味わう事ができます」
「……ちなみに、断ったらどうなるんや?」
「ショックのあまり、今日の『興行』で事故が起きてしまうかもしれませんね。せっかく人類復興の兆しが見えてきた矢先なので、あたしはとても悲しいです」
「恐喝やないかい」
そして、口だけの脅しで終わるとは限らないのがショキカの厄介なところだ。彼女にとって、一般人の命に交渉カード以上の価値はない。
何せ、彼女の『中身』は無限に湧き続ける敵性種族……【空標】の1体だから。
「貴方が悲劇を回避したいのなら、あたしをしっかり満足させる事ですわ。空標としての本能を忘れるくらい、この心身にメスの喜びを刻み付けてくださいまし」
ショキカの虚ろな瞳が熱を帯びて潤む。
「愛しい愛しい御主人様。貴方に命じられればあたしは靴でも指でも舐めて差し上げましょう。無論、唇でも……」
ちゅ、と唇が重なった。急に力が抜けたショキカの体を反射的に抱き締める。
「危ないなぁ。しゃんと立ちぃや」
「……すみません。御主人様との口付けに興奮して、何秒か意識が飛んでいました」
「相変わらず、積極的に押してくる癖に信じられんくらいウブやな……」
正体を知っても撫でたくなるような愛嬌はある意味、彼女最大の武器と言えるかもしれない。美人ボディの『元の持ち主』……あのパワハラ上司とは大違いだ。
「撫でても良くってよ?」
「頭の中を覗かんでくれ」
「覗いてはいません。何となく思念の波長を感じ取れるだけですわ。あたしは情報の受信と送信に長けた『指揮個体』ですから。貴方は誰よりもよく知っているでしょう?」
桃髪の空標は俺の懐に体を滑り込ませる。
「──狂言英雄『ロドル・コンシール』。あたしの愛しい
◆
スポーツ格闘技と実際の殺し合いは全くの別物です。だから、身の危険を感じたら素直に逃げましょう。
俺が昔通っていたジムのトレーナーはそう言っていた。とても正しい指導だ。
レーダーに映る【空標】の群れに規則性はない。蛙のように跳ねている奴もいれば、駒のように回転している奴もいる。膝丈くらいの小型もいれば、巨木を思わせる大型もわんさか。
こんな多様性の塊みたいな連中に教科書通りの戦術が通用するわけもなく。焦ってチャージせずに主砲を乱射する馬鹿やビビって逃げだす新米傭兵は戦場の風物詩だ。
「どっちも穴だらけの偏った布陣やなぁ……」
殺し合いの緊張感は人間の視野を狭める。戦場で冷静に練習以上のパフォーマンスを発揮できるのは一部の熟練兵か……この戦いが作為的な『プロレス』だと知っている俺だけ。
「第3世代EO【泥蛇】。空油コンビナート防衛ミッションに参加させて貰うで」
エフェクター・オーガン。略して、『EO』。拳銃感覚で流通するようになった特殊武装は、俺ら傭兵の必需品である。
第六次エネルギー革命でお馴染みの【空油】を燃料とした、いわゆるパワードスーツ。装着者の思念に呼応するソレは従来の兵器とは一線を画す性能を誇り、瞬く間に戦場の主役となった。
ただし、欠点もある。EOの出力を極端に上げようとした場合、人間の無意識がブレーキをかけてしまうのだ。公道でアクセルをベタ踏みできる狂人はなかなかいない。
結果として、空標との戦いで活躍できる人物像は以下のようになる。
自分の感情を制御できず、躊躇なく周囲に当たり散らせるクズ。挫折や失敗の責任を他者に押し付け、何処までも自己を正当化できるカス。そんな腐った連中が現代の『英雄』ってわけだ。
「おうおう、派手にドンパチやっとるわ。流れ弾で空油コンビナートが壊れたらマズい、とか……まぁ、考えんのやろなぁ」
自分の手柄しか頭にない高ランク傭兵達に呆れつつ、眼球に染みる薬液の感触に顔を顰める。動体視力強化目薬。要するにドーピングだ。
俺には他の高ランク帯ほど頭のネジを飛ばす才能がない。馬鹿火力を引き出せないからには、スマートな立ち回りが求められる。精密に、大胆に、迅速に。
「ふぅ……」
EOは俺の体の一部。神経、血管、筋肉。末端まで全て繋がっている。そう信じろ。何千回と繰り返してきた自己暗示を心の中で復唱した。
「さぁて、人類側の防衛ラインは押され気味。そろそろ俺らの出番やで、
愛機の肩からワイヤーを射出する。戦場に似つかわしくない鮮やかな原色が、隠れて空油コンビナートに侵入しようとしていた小型の空標を弾き飛ばした。傭兵達がざわつく。
「あ、あんたは……!」
「嘘だろ……到着が早すぎる……! あの人の拠点からは相当な距離があるぞ!」
「読んでたってのか!? こんな前兆のない奇襲を……!!」
俺のEOは外見こそ地味な量産型だが、戦い始めれば誰よりも目出つ。それはとある奇妙な武器を好んで使う為に他ならない。
多数のカラフルな旗が繋がったワイヤー。自在に硬度を変えられる特注の旗は、使い方次第で壁にも刃にもなる。
「【
ワッと戦場が沸いた。一部の高ランク傭兵は不機嫌そうに黙り込んでいるが、概ね歓迎されている。
「──死出の旅路、派手に飾ったる」
俺は姿勢を崩した空標を万国旗で絡め取り、至近距離からの砲撃で胴体を吹き飛ばした。ワイヤーを移動にも最大限活用し、1人で最終防衛ラインの穴を塞いでいく。
「相変わらず、半端ねぇ機体捌きだ! 旧型のEOだろ!? どうなってやがる!!」
「凄ぇ……! ロドルさんが後ろにいるだけで、戦いやすさが段違いだぜ!!」
そんな折、別行動中のショキカからのテレパシーが頭に響いた。
『次は右側から揺さぶりをかけます。座標を送るので直ぐに向かってくださいまし。それと、例の新型空標が御主人様に照準しておりますわ』
「毎度、おおきに。確か新型は足先から熱線を出すんやったなぁ。まぁ、予備動作は全部暗記しとるから楽勝で避けられるけどな。ちゃちゃっと瞬殺して、ギャラリーを盛り上げたろか」
清々しいまでの八百長。敵性種族と内通している俺はワイヤーを伸縮させ、お膳立てされた戦場を迷いなく飛び回る。
「──ここからは
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