ビジュ最強上司がクズだったので死体をオークションに出品したら妙にモチベの高い奴が釣れた話 ~【人類の危機を手軽に演出する為に酷使されがちな正体不明の色々なアレ】と一緒に頑張る曇り顔ダブル英雄生活~ 作:没ネタ敗者復活戦
とりあえず彼女が死んだら「あ、打ち切り展開入ったな」と察して貰って間違いないと思います。
クーデレこそが至高と思う方は
どんなにジリ貧な状況でも、明確な被害が出るまでは『上手く行っている』と勘違いするのが人間という生き物だ。
まず、俺達のような傭兵が
その戦果に応じて、『
このシステムが機能し始めてから、空標による被害は最小限に抑えられている。多くの一般民衆は柄の悪い傭兵の横暴に顔を顰めながらも、現状の維持を望んでいるはずだ。
しかし、現場に……とりわけ最前線に出てみると、また違った構図が見えてくる。
「僕はこう結論付けた。空標は……減らない」
長い前髪で両目を隠した女性『ヒキツギ・セットアップ』はきっぱりと断言した。殺風景な病室に桃色の髪だけが彩りを与えている。
「奴らは常に全体数が一定以上となるように調整されている。倒せば倒すほど新たな個体が生まれてきてしまうんだ」
「ははぁん、イカれ傭兵連中が狩りまくっても一向に数が少のうならんのは、そういうカラクリかいな。ほんなら、滅ぼすのは不可能やんけ」
「いや、絶滅させる方法はあるぞ? 奴らの繁殖と活動には【空油】が関わっている。切っても切り離せない関係だ。おそらく世界中の空油を枯渇させれば、空標も絶滅するだろう」
「阿呆か。エネルギー資源が枯れてもうたら、人間社会の方が先に壊滅するやろ」
ヒキツギがくすりと笑った。
「はは……勿論、現実的な解決策ではないさ。あくまで仮定の話であって、実際にそれで空標が死に絶えるとも限らない。だが、人類が何か大きな手を打つべき段階にある事は確かだ」
「今のままやと駄目なんか? お前の妹を筆頭に空標狩りが得意な傭兵は幾らでもおるで? 多少の被害は出るやろうけど、Lランク帯はバケモン揃いや。空標がなんぼ増えても……」
「ドル君。キカの下で働いている君なら、最前線の異変に気付いているはずだ」
俺は口を閉じる。
「空標の中から突然変異個体が現れる頻度は高まりつつある。死と再誕のサイクルが早まり、自然淘汰が加速した結果だな。殲滅能力の高い兵器の登場が、皮肉にも連中の『進化』を促してしまった」
「……EOは数え切れんほどの命を救っとる。あれが開発されとらんかったら、俺もあの時に死んどった。未来の事は知らんけど、今を生きる人間を護る為には必要な武器や」
「ドル君は優しいな。それでも、僕は責任を取らないといけない。──EOの開発者として」
最前線を知る者の多くは肌で感じている。
大量の死者が出るほどではないが、徐々に狭まりつつある生存圏。奪われる拠点と資源。進化した空標がいずれ人類の手に負えなくなる予兆。
その上で、『都合が良い』と考える者が大半を占めていた。
狡兎死して走狗烹らると言うように、敵がいるからこそ傭兵は社会に必要とされる。人類の危機? 好き放題に暴れても許されるという事だし、最悪の場合は一般人を見捨てて逃げれば良い。
そう考える連中にとって、未来を憂うヒキツギの思想は煙たいはずだ。優れた頭脳を持つ彼女が何か行動を起こせば、既得権益に執着する勢力から命を狙われるだろう。
そして、病弱な彼女に身を護る術はない。
「ええから、お前は大人しくしとき、ツギ。せっかく、心臓の方も回復してきたところやろ? 俺が貸した金も返さん内に無理してポックリ逝かれたら困るで」
冗談めかして言う。ぶっちゃけると、返済を受け取らずに躱しているのは俺の方なのだが。
少しでも借りを残していれば、責任感の強い幼馴染は死に急がないだろう。そんな、一種の願掛けのようなモノだった。
「ああ……何もできないのは歯痒いな。キカほどの運動能力は望まないけど、せめて子供が産めるくらい健康な体が欲しかった」
「ツギ……。せや、その天才的頭脳で新しい治療法とか発明したらどうや?」
「簡単に言わないでくれ。そんな画期的なアイデアが浮かんでたら、僕はとっくに退院してるさ」
それは、彼女が昏睡状態に陥る前、最後に行った会話であり。
──『ヒキツギ・セットアップ』という人間が吐いた、最後の嘘だった。
◆
「テッメ……ヒキ女! 第1位の姉だからって、調子乗ンなって言ってンの!!」
銀髪の女傭兵『ネクリン・ヴォロン』がドンと壁を殴る。通行人達が怯えたように目を逸らした。
ネクリンの恫喝は堂に入っている。黒マスクの上のギョロリとした三白眼は鋭く、薬物中毒者と連続殺人鬼を足してウイスキーで割ったような狂気が宿っていた。
「それは僕の台詞だ。早くソレを返したまえ。他人のEOを盗むのは御法度だぞ」
ヒキツギの視線は長い前髪に隠れてよく分からないが、ネクリンの持つ紙袋の中身について言及しているに違いない。
EOは全身に纏うとパワードスーツになるが、普段時はケープのような形状にして肩にかける事が可能だ。無論、その状態なら畳んで隠す事もできる。
「ダッル。証拠でもあるわけ? ないなら、私様を不愉快にさせた罪で即刻死刑なンだけど?」
「目撃証言がある。君が更衣室で他の傭兵のロッカーを漁っていたと……」
「へぇ、目撃者? 名前教えてよ。ソイツ、後で半殺しにしとくから」
ネクリンは悪びれる様子もなく、ヒキツギの着ている白衣の襟元を乱暴に掴み、彼女の体を引き倒した。
「ぁ……!」
「ンで? だったら、どうすンの? 力なき人間に発言権はない、ってのが傭兵の掟なンだけど」
ネクリンがEOを展開する。
「命乞い、してみたら?」
両腕の砲口を顔に向けられてもヒキツギは臆さず、ゴム手袋に包まれた手で中指を立てた。
「第6世代EO。それも特注カスタム済みか。最高級品だな。……使い手以外は」
「ウッザ。死んで」
まともな精神を持つ人間は癇癪1つで人を撃たない。撃てない。しかし、それを躊躇わないからこそ高ランク帯の傭兵なのだ。
「アッハ……! 砲殺脳汁ヤッベ……♡」
「やめとき」
俺のEOから放たれた万国旗が砲口を塞ぎ、ネクリンの機械腕を捻り上げる。
「ムッカ……! マジ台無しじゃん! そンなに死にたきゃ、アンタを先に殺し……!」
「おう、やってみろや」
「……ッ! ロドル・コンシール……!」
俺の機体を見て、ネクリンが後ずさった。
「最上位同士、再起不能になるまでやり合うても構わんで? 火力が高いだけのラグジュアリー級はハイエンド級を並べれば代替できる。お前なんか幾らでも代えが利く存在やねんから」
俺は常人に過ぎない。ただ、傭兵稼業を営む中でイカれ野郎の真似をするのは上手くなった。
「まだまだ、お洒落したい年頃やろ? 俺の旗で飾り付けたろか?」
「……バッカらし。……帰る」
ネクリンの小柄な体と長い銀髪が遠ざかっていく。読み通りだ。他者から舐められる事が何より嫌いな彼女は、負ける可能性がある喧嘩はやらない。
俺はハッタリが成功した事に安堵しつつ、ヒキツギの頬を引っ張った。
「何しとんねん、阿呆ツギ」
「にぇくりぃんがわるひ」
「そういう事を言うてんとちゃうわ。何で俺に助けを求めんかったんか訊いてんのや」
「……ドル君に、迷惑かけたくなくて……」
しゅんと肩を落とす。そんなヒキツギを見て、俺は手を引っ込めた。
「ごめん。少し浮わついてたみたいだ。病気も治って、妹も改心してくれて、僕にとって夢みたいな出来事が続いてたから」
「……阿呆。そんなん、夢ってほどのもんとちゃうわ。こっから始まるんや。お前の夢は」
「そう……かな。はは、君がそんなロマンチックな台詞を言うなんて意外だぞ。流石、人類の希望と呼ばれる英雄君は一味違うな」
「しばくぞ、お前」
「ふひゃー」
幼馴染とふざけ合いながら、道を歩く。俺の望んでいた世界がここにある。
「あ、ドル君! 今、僕の胸に触ったな!」
「手ぇが当たっただけや。お前、無駄にデカい癖にトロいから邪魔やねん」
「嘘だ。絶対キカと大きさ比べてた……」
「被害妄想やめぇや。あと、お前の方が運動不足な分ボリュームは上やから安心しい」
「やっぱり比べてるじゃないか!!」
絡んでくるヒキツギの『鼓動しない』胸を腕に感じながら、俺は静かに空を見上げた。
◆
「実は我々【空標】も一枚岩ではないのですわ。人間に所属や人種による差別があるように……お分かりかしら?」
次回の『興行』について企画会議をしている最中、ショキカが唐突に語り出す。
「まぁ、あんだけ見た目が多種多様やったら、それなりに軋轢もあるやろうけど……お前みたいな一部の『指揮個体』を除いて、大抵の空標は本能のままに暴れるだけなんやろ?」
人類の敵などと言われているが、要するに畑を荒らす害獣と同じだ。
矛先がインフラを支える【空油】に向いているから結果的に争う必要が出てくるだけで、連中に悪意があるわけではない。
「その指揮個体が問題なのです。いつもやっているように、通常個体はあたし達の命令に従います。勿論、完全に支配できるわけではありませんが……」
「八百長を演じさせるには充分、やな」
「ええ。ただ、問題は指揮個体の命令が複数バッティングしてしまった時ですの。御主人様にも分かりやすく言いますと、指揮個体にも権限の格差があるのですわ」
下位権限、中位権限、上位権限。基本的にこの3つに分かれており、操れる個体数と命令の強さに差があるそうだ。
「お前は?」
「中位権限ですわ」
「つまり……アレか? このタイミングでそれを話題にしたっちゅう事は、中位……もしくは上位権限持ちの指揮個体と遭遇する可能性がある、と?」
「ご名答」
ショキカがペイントツールを起動し、ゴチャゴチャとした勢力図を描き始める。うへぇ……また徹夜で暗記地獄かいな。
「何や、この『叔父様♡』って。お前ら空標に血縁関係の概念はないやろ」
「いえ、全員が空油で稼働しているので、ある意味では皆家族と言えますわ。それと、この方には幼い頃、よく遊んで貰ったので……」
「おい! 殺しづらいわ!」
「……? あたしが過去にお世話になったとして、御主人様とは無関係ではありませんこと?」
駄目だ。人間と価値観が違い過ぎる。多分、コイツに共感能力というヤツはない。他の指揮個体はどうか知らんけど。
「上位権限持ちは非常に強力ですが、付け入る隙はあります。人間の遊ぶゲームでも、ハンデを付けた側が必敗とはならないでしょう?」
「要は戦略とアドリブ次第っちゅう事かいな」
「お得意ですわよね、アドリブ」
「やらんで済むなら、やりたないけどな。俺は凡人や。お前に助けられた時から、贅沢を言える立場やないと覚悟しとる」
例え、それが悪魔の契約だとしても。俺は『狂言英雄』の役を降りない。身の丈に合わない運命にしがみついてやる。そう決めた。
「またまた、ご謙遜を……。あたしは大好きですわよ、ロドル様の機転と演技」
「お前に褒められてもしゃあないわ」
ショキカの美貌で褒められても、俺にはパワハラの前振りにしか思えない。
「つれない方♡ メスには優しく接さないと駄目ですわよ、御主人様。姉様なんて、貴方と会う前は毎回おめかししてるのに……」
「勝手に他人のプライベートをぶち撒けんなや」
「おや、少し嬉しそうですわね?」
こういう揶揄い方をしてくるのは人間以外の種族も共通なのか。俺は面倒になって話題を換える。
「やかましいっちゅうねん。ちなみに、やけど……お前が殺した上司も、やっぱり上位権限持ちやったんか?」
「いいえ、あのクズはもっと上ですわ。最上位権限、とでも言いましょうか。何せ、あたし達【空標】をこの世に生み出した源泉の1体……」
ショキカの瞳。生前も死後もずっと虚ろな両目に、珍しく感情に似たモノが垣間見えた。
「──【真祖】でしたから」
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