Simulation of the Simulacra → SALVATION PARADOX ← さあ、答え合わせに行こうか   作:ゼノリカの名もなき宣教師

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センエース編一章の幕開けです!



一章 センエース編 憑依したのは最強の神様
1話:最強神(笑)が憑依している


 

 夜、菜月昴はコンビニに買い物に出かけた。

 

 別に、特段欲しかったものがあったわけでもない。

 

 ただし、ココアを飲んだコップは、流し台に置きっぱなし。

 

 洗うのが面倒だった。

 

 まあ、明日の自分が洗えばいい。

 

 そんなことを考えて家を出て、そのまま歩く。

 

 疲れたと思っても、そのまま歩く。軽い筋トレ代わりである。

 

 どこへ向かうのかも、何をしたいのかも、特に決めていなかった。

 

 ただ、歩いていた。

 

『お前、コップは洗って出かけろよ。あと、夜に出かけるな。親御さんが心配するだろ。常識的に考えて』

 

「黙れ」

 

『いや、だってお前。帰ってきたらココアの跡がこびりついているぞ。あれ、地味に落ちにくいんだからな』

 

「うっせえ」

 

 夜の住宅街に、昴の声が響いた。

 

 おっとと、口を触り、つぐむ。

 

 ……誰もいない。

 

 当然だ。こんな時間に、好き好んで出歩く人間などそうそういない。

 

 昴は周囲を確認してから、ため息をついた。

 

 一見すると、一人で会話をしているように聞こえるだろう。

 

 しかし、違う。

 

 これは間違いなく、昴の中に潜む第二の何かとの会話だった。

 

 いや。

 

 第二の何か、と呼ぶと語弊があるか。

 

 昴の人生には、コイツがつきものだった。

 

 物心ついた頃から、ずっと。

 

 何かを相談するわけでもない。

 

 人生を変えるような助言をくれるわけでもない。

 

 ただ、そこにいる。

 

 昴が笑えば笑い、怒れば茶化し、落ち込めば余計な一言を付け加える。

 

 本人は自分のことを時たま『最強神』だとも言っているが、怪しいものだ。

 

 いや、怪しいというか、ほとんど信じてないけど。

 

 確かに、これまでから多少有能そうなのは認めるが、それで神がどうこうを信じるのは完全に頭がイカれている奴である。

 

 でも、それを本人も自覚して言っているだろうから、手に負えない。

 

 名前は閃壱番(センエース)。閃光のセンが苗字で、名は壱番でエースと読むらしい。

 

 やはり、とんでもないキラキラネームだ。

 

 そして、

 

 自称、最強神。

 

 他称、脳内に住み着いた何か。

 

 ……他称といっても、昴以外に知っている人間はいないが。

 

「天は自ら助くる者を助く、だっけか……」

 

 ふと、そんな言葉が口から漏れた。

 

「まあ、それなりに頑張ってる方だと思うし、天も向こうから来そうなもんだが……」

 

 自分の人生をどうにかしたい。

 

 今の自分を変え『続けたい』。

 

 そう思っているのは確かだから。

 

 正直、今の人生にそこまでの不満はない。『親父の息子』としても、自分にできることはしていると自認してるし、『自分自身』も、別に、嫌いじゃない、向上心もある。

 

「それにしても、お前って本当に何者なんだ?結局、ここまでよくわからないだが」

 

『あらあら、そういう言い方はダメでザマスよ、人に聞く時は大きな声で! はい! 復唱!』

 

「く、口調が鬱陶しい……」

 

 いつものやり取り。

 

 いつもの茶番。

 

 いつもの、変わらない夜。

 

 昴はコンビニで買った袋を持ち直した。

 

 中身はスナック菓子とカップラーメン。

 

 もちろん、自分の金だ。バイトして貰った給料。

 

 学校行って、勉強して、運動して、バイトして……

 

 その繰り返し。まあ、悪い生活ではない。

 

 今のところ、後悔とかもない。

 

 だが、それは向こうから押し寄せた。

 

 ――  EVENT SWITCH 001 ON  ――

 

「は?」

 

 脳裏に、その言葉が響いた。

 

 直後。

 

 世界が弾けた。

 

 視界が白く染まったわけではない。

 

 身体が浮いたわけでもない。

 

 ただ、目の前の景色が、そこにあったという事実ごと入れ替わった。

 

 暗い道路。

 

 街灯。

 

 コンビニの看板。

 

 遠くを走る自動車の音。

 

 それらが、一瞬で消えた。

 

 代わりに広がっていたのは、青い空だった。

 

 途方もない雲が流れている。

 

 強く光る太陽が眩しい。

 

 心地の良い風が吹いている。

 

 生きている土の匂いがした。

 

 そして、目の前を。

 

 トカゲのような生き物が、馬車を引いて通り過ぎていった。

 

「…………ぁ?」

 

 昴は、しばらく動けなかった。

 

 頭が理解を拒んでいる。

 

 視界に映るものは認識できている。

 

 しかし、それらを現実として処理できない。

 

 トカゲ。

 

 馬車。

 

 石畳。

 

 見慣れない建物。

 

 聞き慣れない言葉。

 

 そして、見上げるほどに広い空。

 

「…………」

 

『言っておくが、俺のせいじゃないからな』

 

「…………」

 

『まずは異世界転移おめでとう。くだらない世界からおさらばできてよかったな』

 

「……」

 

 昴は、自分の頬をつねった。

 

 痛い。

 

 もう一度つねった。

 

 やっぱり痛い。

 

「……夢じゃ、ねえ」

 

『夢なら、流石にもうちょいマシな状況を用意するだろうな』

 

「……マジか」

 

 心臓がうるさい。

 

 口角が勝手に上がる。

 

 笑いが込み上げてくる。

 

 だって、そうだろう。

 

 異世界。

 

 魔法。

 

 冒険。

 

 モンスター。

 

 剣と魔法のファンタジー。

 

 ただし、出てくるのは当然の考え。

 

「俺が主人公だあああぁぁぁぁ!!!!」

 

『おい』

 

「え? なに? 人が異世界転移でひゃっほいしてる時にそんな冷血漢みたいな声をだなーー」

 

『まずは、身体の確認をしろ』

 

「……は?」

 

『安全確認だ。身体に異常はないか。持ち物はどうなっている。財布、携帯、その他諸々。まずはそれを確認しろ』

 

「……あ、ああ」

 

 センエースの声が至極冷静だったから、

 

 そのせいで、少し動揺していたスバルの頭も少しずつ冷えていく。

 

 言われた通りに、身体を確認する。

 

 頭。

 

 首。

 

 肩。

 

 腕。

 

 胴体。

 

 脚。

 

 どこにも異常はない。

 

 服装も、コンビニに出かけたときのままだ。

 

 ポケットにはガラケーと財布。

 

 手には買い物袋。

 

「……い、異常なし」

 

『よし。次だ』

 

「次?」

 

『情報収集。言語、通貨、治安、食料事情、宿泊施設、働き口。可能なら、支配体制と法制度も確認しておけ』

 

「待て待て待て。お前、この状況に、異世界転移に慣れすぎだろ!」

 

『慣れてねえよ。俺はただ、最低限の危機管理をしているだけだ』

 

「あのー、普通はもっとこう、テンション上がるくない?チート能力とか、冒険者ギルドとか、魔法とか……」

 

『そういうのは生き延びてから考えろ』

 

「……」

 

『まともな生活保護があるとは思えん世界だ。言語が違う可能性もある。金が使える保証もない。身分証明書が通用する可能性はずっと低い。お前は今、身一つで異世界に放り出された高校生の……いや、今は高校生ですらない無職のガキだ』

 

「言い方!」

 

『事実だろうが』

 

「ぐぬぬ……!」

 

『まずは情報を集めろ。働ける場所があれば探せ。無理なら、飲み水と食料、休息できる場所を確保する。スラム街で生き延びる案も用意しておけ。自分の価値を行動で証明して、最低限の生活基盤を手に入れるんだ』

 

「……あ、ああ」

 

 とんでもなく、この状況に慣れ親しんでいる。

 

 スバルは、センエースに対して、少しだけ頼もしさを覚えた。

 

 もっとも。

 

「……だ、だが、チートとか期待してもいいよな? だよな?」

 

『さあな』

 

「おい」

 

『案外、お前に与えられたチートは俺でした、ってオチかもしれんぞ』

 

「……ははっ。んな、お前が……?」

 

『この最強神たる俺がいるってことは、十分チートだ。世の中、チート物の作品はたくさんあるが、その中でも随一でやばいチート持ちだぞ、お前は』

 

「自分で言うな!」

 

 スバルは頭を抱えた。

 

 しかし、センエースの言う通りに動くことにした。

 

 少なくとも、今のところは。

 

 ☆

 

 幸い、言葉は通じた。

 

 文字については、まだ確認できていない。

 

 通貨もわからない。

 

 だが、道行く人々の会話は理解できたし、こちらの言葉も通じているようだった。

 

「幸い、どうやら、言葉は通じるみたいだな……」

 

『よかったな。このまま、いい感じに俺たちにとってのご都合主義が続けば最高なんだが』

 

「お前は、ただ運がよかったってだけじゃ済ませられねえのか?」

 

『知らねえよ。たまたまじゃねえ可能性もあるってだけだ』

 

「例えば?」

 

『この世界の創始者が日本語を使っていたから、そのまま言語を流用しました、って可能性も捨てきれない』

 

「どこまで壮大に考えてんだよ」

 

『ただの世界を作るのなんて、俺からしたら一時間もかからずできる。超巨大世界を作れと言われたら、まあ三日くらいはかかるが……』

 

「はいはい、神様ですねー」

 

『それに、そこに生命を生み出せと言われたら無理だな』

 

「……は?」

 

 思わず、スバルは聞き返した。

 

『箱(世界)を作るのと、生命を作るのは別の話だ。細胞、組織、組織間のつながり、血管、神経、脳……生命を形作る要素は無数にある。どこが欠けても駄目だし、ありすぎても駄目なんだよ。パッケージなしで生命を作るのは、俺でも不可能な偉業だ』

 

「……ふーん」

 

『何だ、その反応』

 

「いや。嘘なら嘘で、生命まで生み出せるって言った方が神様らしいぜ?」   

 

 そんなことを言い合っているうちに、スバルは路地裏へと足を向けていた。

 

 大通りは人通りが多く、落ち着かない。

 

 少し休んで、それから行動を考えよう。

 

 そんな、実に安易な判断だ。

 

『……おい』

 

「ん?」

 

『そんなところで休んでいると、輩に襲われるぞ。すぐさま警備が行き届いているところにーー』

 

「いやまあ、そうだけど、少しぐらい俺の自由にさせろ!」

 

『お前が痛いと、俺も痛いんだよ。痛い目見たくないの!』

 

「神が何言ってんだ!」

 

『神だって痛いのいやなんですぅー!』

 

「……でも、お前どっかで死んだって言ってなかったか?」

 

『言ったが?』

 

「だったら痛みぐらい慣れるだろ。普通に考えて」

 

『それが神も人間も、嫌なもんは嫌なんだよ』

 

「へー、でも、無限転生っていうチートを持っているんだっけ?」

 

『まあ、アレをチートと言うかは俺の中で絶賛賛否があるな。無い方がマシに思えてくるぐらいのクソ能力だ』

 

「これまでで何回死んだの?」

 

『ん? これまでで、97回の老衰、2回の戦闘。合計99回』

 

「99回!?」

 

『うるせえ』

 

「いや、うるせえじゃねえよ! 99回って何だよ! 老衰97回って何だよ! お前、何回人生やり直してんだよ!」

 

『いちいち数えるな。面倒くせえ』

 

「いや、数えてんのお前ぇ!」

 

 スバルは額を押さえた。

 

「……というか、だからお前、自分の年齢を200億9900歳って言ってたのかよ。謎が解けたぜ……いや、待て。それじゃあ残りの200億はどこから生えてきたんだ? というか、神だったら老いない設定とかあるんじゃないか?」

 

『俺の場合は特殊でな……』

 

「特殊で済ませるな!俺が言いたいのは、もっとさ、嘘をつくにしても設定固めた方がいいってこと……」

 

『そう言っている余裕はないみたいだぜ?』

 

「……あ?」

 

 そのときだった。

 

「なーんか、ぶつぶつ言ってるよ、アイツ」

 

「状況がわかってないんだろ。教えてやればいいんじゃないか」

 

「おっ、強制エンカウント発生か!?」

 

 スバルの顔が、ぱっと輝いた。

 

「これは俺の初めてのチートが火を吹く場面だぜ!」

 

『逃げな』

 

「は? なんでだよ。相手は三人組だし、衆寡敵せずともいうが、だからこそ燃えるんだろうが!」

 

『勝てねえから言ってんだよ』

 

 センエースの声は、いつになく冷たかった。

 

『多少鍛えてるだけの、一切の格闘術も習ってねえ冴えないパンピーが、でけえ男を含む三人組に勝てるわけねえだろうが。アホか。それに、敵が刃物を持ってねえ可能性がどこにある? 首を絞めねえ可能性がどこにある? 銃刀法が機能しているかどうかもわからねえ世界でーー』

 

「ど、毒舌っ!」

 

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