斯くして彼ら彼女らの青春ラブコメは終わり、また新たな青春ラブコメが始まる。 作:枕魔神
由比ヶ浜視点です。
『……チョコ、渡せてよかったですね』
『うん』
『そして……イベント、大変でしたね』
『あはは、いなばんすっごく頑張ってくれてたもんね』
『もう、いっときはチョコは食べたくないです……』
『あ……』
『どうかしました? ガハマ先輩?』
『いや、いなばんの分のチョコもあるんだけど、もう食べれな『いいえいただきます』食い気味だ!?』
『食べます。ください。食べますから』
『そ、そんなに欲しいの?』
『はい』
『なんか目がキラキラしてる!? そ、そんなたいしたものじゃないし、何ならいなばん試食しまくってるでしょ!?』
『それはそれ、これはこれなので』
『な、なら……はい、どうぞ』
『っありがとうございますガハマ先輩。嬉しいです』
◇
卒業式も、その後の打ち上げもつつがなく終わって、家族と一緒にお祝いのケーキを食べて、ゆっくりお風呂に浸かって、あとは寝るだけ。
ベッドに入って、今日一日の事を色々と思い返していたあたしは、
「うぅ~ん」
今日発覚した新事実に、悩ましい声を漏らしていた。何なら打ち上げの時も、ご飯の時も、お風呂の時ですらも、ずっとずっと放課後の出来事の事で頭がいっぱいだった。たぶん今、ここ数ヶ月で一番悩んでいる、大学受験より悩んでる。
やっと長年の悩みのタネに一区切りをつけた矢先に、今度はすっごい悩みが降って湧いたからだ。
原因は言わずもがな、いなばんこと稲葉一朗太のせいである。
『ガハマ先輩ってどうやったら堕ちます?』
「うがぁあ!」
真剣なあの時の彼の顔を思い出して、むず痒くて枕に顔を押し付けて叫んだ。
いなばん。
稲葉一朗太くん。
あたしにとって一番の後輩。
かれこれ中学の頃からの付き合いで、ずっとあたしを慕ってくれて、優しくて、年下なのに何処か謎の頼り甲斐がある自慢の後輩。
そのいなばんからあたしは今日、告白された。
『中学の時から好きですガハマ先輩。僕、どうやったらガハマ先輩と付き合えますかね?』
「ッーー!」
先程からずっと不意に思い出しては、言葉にならない叫び声が漏れる。
打ち上げの時や家に帰ってからも、みんなの前ではいつもの様子に徹していた自分を褒めてあげたい。
「いなばんめぇ……」
デリカシーという言葉をわかった上で無視するあの後輩の事だ、きっとあえてあのタイミングで言ったに違いない。
そう長年の経験から察して、あたしは一人、恨み言を呟いた。
本当に予想外だった。彼の言っていることが理解できた時は、もうビックリしすぎて乙女にあるまじき大声を出したくらいだ。
彼から告白されるだなんて、そんな事、想像したことも無かったのだ。
「だってなぁ……」
────
──────
『ガハマ先輩、比企谷さんの事好きですよね。』
『ふぇ!?』
『答えはハイかイエスでお願いします。』
『それ実質一択だよね!?』
『そういうのいいんで、で、どうなんです?』
『い、いきなりなんだし!』
『いや、そうなら俺なりに応援やらアシストをしようかなと』
『へ?』
『俺、ガハマ先輩には幸せになって欲しいんで』
──────
────
「まさかそんな提案をしてきた子が、あたしの事が好きだなんて思わないよぉ!」
過去の事を思い返して、あたしは更に頭を抱えた。
いなばん、あの時もデリカシーとかなかったなと思い返して、また一つ文句が言いたい事が増えた。
告白された今だから、まぁ、いなばんならそんな事もやりそうかもと思えるけど、面倒くさいあたしの恋を全力で応援してくれてたあの子が、あたしに好意を向けているだなんて思えるはずがないよね。
しかもゆきのんより超鉄仮面だし、絶対に誰も分かってなかったと思う。人間観察が得意なヒッキーだって知らなかったんじゃないかな。
幸せになって欲しいから手伝う。
そう宣言したいなばんは、本当に色々あたしの手助けをしてくれた。
それとなくヒッキーをデートに誘うあたしに助け舟を出してくれたり、料理の特訓に付き合ってくれたり、色んな悩みも相談も聞いてくれた。
もはや献身的なまでに、彼はあたしの恋路を応援してくれていた。
そんなあたしの恋路を全力応援してくれた、彼とは別の意味で大切な彼からの告白。
本気で予想外だったその告白に、あたしは、それはもう大いに頭を悩ませてしまう。
これが他の男の子だったら、申し訳ないけど、きっとここまで悩まない。勇気を出してくれたんだなとは思うかもしれないけど、付き合うことは絶対にない。だって、彼ら彼女ら以上に大切にしたいと思える人じゃないと、相手にも失礼だと思うから。
しかしだ、あたしが奉仕部に入る前からあの教室の一員で、中学時代からの後輩で、おそらく一番あたしの話を聞いてくれた彼だけは、例外である。
全く意識したことは無かったし、男の子というより弟みたいだと思っていた。だけどそれでも大切なあたしの後輩。
「本気の目、してたな……」
そう思い出して、火が着いたようにボッと顔が赤くなる。誰に見られているわけでも無いのに、あたしは隠すように再びボフッと枕にダイブした。
「うぅ……困るなぁ」
そう、困ってしまう。長年の想いに一区切りを付け、大学から心機一転前を向いて頑張ろうって矢先のこれだ。狙ってやったと言うのなら相変わらず彼は策士だ、おかげであたしの頭の中は彼の事でいっぱいである。
タイミングとか色々あれだったし、そうじゃなくても人生一番の大失恋の後だったし。
まだ、彼とちゃんと付き合う想像ができなかったから、ちゃんと考えてた上で、あたしは彼の思いに『ごめんね』と答えた。
しかしだ、その後のいなばんの返答があたしの一番の悩みのタネで、
────
──────
『まぁ、ですよね』
『ですよね!?』
『とりあえず了解です。また時期を見計らって告白します』
『全然諦めてない!?』
『負け確した後も粘ったどっかの誰かさんを見てるので、その根性は尊敬して見習おうかと』
『負け確とか言うな!』
──────
────
そう、これなのだ。いなばん、全然めげない。
元々メンタルが超強い事は知ってたけど、まさか真剣に傷つける覚悟で断ったあたしの言葉を『まぁ、ですよね』の一言で済ませるとは思っても見なかった。相変わらず読めない後輩だと思う。
きっと彼は今後、事あるごとに告白をしてくるだろう。自意識過剰だとは思うけれど、なぜだかそんな気がする。それは中学の頃からの付き合いによる確信だった。
諦めないと宣言したのなら、きっといなばんはあたしが折れるか、新しい恋をするまで諦めないんだろう。
本当に不意の告白で心臓バクバクで、死にそうになっていたのに。これから先ずっとあんな感じなら、あたしの心臓は壊れてしまうかも知れない。
普通に文字に起こしたら、振られたら相手につきまとうヤバい人だけど、彼はあたしがちゃんと拒絶したらやめてくれるのは知っているし、何より、あたしは彼の真剣な告白を受けて、嫌じゃなかった。むしろ……
「嬉しかったな……」
そう、嬉しかったんだ。
今まで誰に告白されても、ピンとこないし、何なら気まずくなるから少し嫌なまであったのに、彼に好意を伝えられて、あたしは嫌どころか、本当に嬉しかった。こんな事は初めてだった。
だから困る、本当に困ってしまう。
いなばんは良い子だ、それはあたしも胸を張って主張する。きっと彼女になった子にも優しいし、大切にしてくれる。それも間違いない。
しかし、しかしだ。あたしは今日まさに大失恋をしたばかりなのだ。その直後に慕ってくれる年下の男の子から告白されて、はいお願いしますと頷くのはかなり乙女的にNGだし、すっぱり割り切ったと言っても、まだ流石に失恋を引きずっている今の状態で付き合うのは、いなばんに失礼すぎる。
だから付き合えない。まだ付き合いたくない。
しかし彼は多分絶対諦めない。
頭の中で彼の事がぐるぐる回る。本当に凄いタイミングで告白してくれたものだ。本来ならゆっくり傷を癒して、前を向いて次の恋を探そうっていうステップをすべてふっ飛ばされたみたいな感じがする。
次会う時、どんな顔をすれば良いのだろう。きっと今までみたいにはいかない。変わらずに弟みたいに接してはいけない。男の子として始めて意識しだした彼に、あたしはどう接すればいいのだろうか。悩みに悩んで知恵熱が出そうだ。
きっと、こんなに頭を悩ませるあたしとは違って、件の彼はいつもどおり飄々とした態度でやって来るのだろう。そう思うとまた少しだけ腹がたった。
「ズルいなぁ、いなばん」
本当に色々とズルい男の子だ。そもそも告白した後に、あたしが罪悪感を抱かないよう、『アシストに関しては俺がしたくてしたことなんで、俺に悪いとかとか考えたら怒りますよ』と先手を打って来たのもそうだ。
ずーっと支えてくれて、隣にいてくれて、弟ポジションだと思っていたのに、まさかここに来て大どんでん返しをされるとは思ってなかった。
「絶対に色々とわざとだ……」
タイミングも、今までそういう気配をあたしに察知させなかったのも。多分色々と狙ってやってそうだなと察せたあたしは、再びいなばんめぇと恨み言を一人ごちた。そのタイミングで、机に置いていた携帯の着信音が突如鳴り響く。
ビクッと肩を震わせて、まさかと思い恐る恐る確認すると、そこにはいなばんの四文字。
「いなばん、タイミングぅ」
一瞬悩んで、だけど出ない選択肢は無くて、確認してから3コールであたしは彼の着信に出た。
「も、もしもし?」
極めて普通の声を装って、でも少しつっかえながら絞り出した。
「あ、ガハマ先輩?」
耳元で予想通りの飄々とした声がスピーカー越しに聞こえる。淡々としつつ、何処か柔らかい彼の変わらぬ声に、やっぱりと苦笑い。そして少しだけホッとした。
のも束の間だった。
「今週デートしましょ、予定は合わせますんで」
思ったよりもっと彼は本気みたいで、あたしの悩みのタネは次々に植えられていくのであった。
◇
翌日。ガンガンくるいなばんの猛攻に、もういよいよ頭がパンク寸前だったあたしは、耐えきれずに優美子と姫菜をカラオケに呼び出していた。
ヒッキーとの結末と、その後のいなばんの話と、あたしの気持ちの話を一通り聞いて、何処か呆れた様子で優美子は溜め息を吐く。
「結局、結衣はどうしたいん?」
「……分かんない」
「けど、結衣はイナオをフッたんでしょ?」
「うん……」
「ならそれで終わりじゃね? イナオなら結衣がやめろって言ったら止まるでしょ」
「そうだけどさぁ〜」
それができたら苦労はしない。あたしは結局、いなばんの告白が嫌ではなかったし、完全に拒絶するには、あたしの中でいなばんは大きな存在過ぎる。そこが一番の悩みなのだ。
頭を抱えて唸るあたしに、優美子は足を組みながら「あーしはイナオの事はよく知らないけどさ」と前置きして口を開いた。
「イナオ普通に良いやつじゃん、結衣に懐いてて従順だし」
いなばん、よくあたしをからかってくるから従順かどうかは分からないけど、懐いてくれてるってのと、良いやつって評価はそのとおりだと思う。
あんまり接点ないはずなのに、優美子からの評価は高いんだよね、いなばん。
「あーし的には結衣を任せても良いんだけど、結衣的に何が駄目だったん?」
「駄目って事はないけど……」
「けど?」
「だからって付き合うのは違くない?」
優しいとかカッコいいとか、他の条件がどうとか、勿論それも大切な要因だとは思うけれど、もっと根本的な所が一番大事だとあたしは思う。
「自信を持って好きって言えないのに、付き合うのは、いなばんに失礼だし、あたしはしたくない」
「イナオなら、それも含めてオッケーしそうじゃん」
「うん、だからだよ」
あたしの言う事なら何でも聞いちゃう困った後輩の事だから、今の中途半端なあたしでも彼は受け入れてくれるかも知れない。だからこそ、あたしはちゃんと彼に向き合わなければならないんだ。
「結衣さ、難しく考えすぎじゃない?」
「……そう、なのかな?」
そうでしょ、と優美子は言葉を続ける。
「好きじゃないって言うけどさ?」
「うん」
「そもそも結衣、あんた男以前に人としてイナオのこと好きでしょ」
それは……
「うん、好き」
いなばんはあたしにとって、あの二人と同じくらい大切な人で好きな人だ。それは間違いなく自信を持ってて言えたから、迷いなく即答した。
すると、さっきまでの真剣な表情を解いて、しらっとした目を此方に向ける優美子。そして長い長い溜息の末、
「なら付き合えばいいじゃん」
そう言い捨てた。
「そうかもだけど! 色々と複雑なんだよぉ!」
「ヒキオの時は言わなかったけどさ……いや、ヒキオの時より面倒くさくなってるか」
「面倒っ!?」
親友から投げつけられた面倒くさい女という評価に、うっすら自覚していたこともあって言葉が詰まる。
そんな二の句が継げないあたしに助け舟を出したのは、今までずっと黙って話を聞いていた姫菜だった。
「まぁまぁ優美子、それが出来たら結衣も相談してないって」
「でも、姫菜も正直思ったっしょ?」
「それはそうだけど。人には人のペースがあるからね〜」
カラリとストローでオレンジジュースを混ぜて姫菜は呟く。
「私は、結衣がしたいようにすればいいと思うな」
「はぁ? あーしら、それが分からないって相談されたんじゃん」
「うん、そうだけど。実際、結衣がどうしたいか決まってないならアドバイスできなくない?」
納得いかないと小首をかしげる優美子に、姫菜はだってさと説明を続けた。
「付き合いたいや、付き合いたくないって相談内容ならいくらでも手伝えるけどね、それすら分からないんだから口出しするのは変だし、頑張れって応援しか出来ないよね?」
「……そうだね、それはあーしもそう思う」
「だから結衣はまず、自分がどうしたいかをはっきり言える様にならないと」
「あたしが、どうしたいか……」
「そう、分からないなら分かるまで考えるべきだと思う。自分の気持ちがあやふやなままできた関係は、いざ何かあった時に脆いから。きっとそれはお互いの為によくないと思うんだよね」
「……うん」
「一番大切なのは結衣の気持ちだよ」
真剣な姫菜の言葉に、あたしの手が自然と胸へと向かう。そして、あたしの気持ちを、あたしは一体どうしたいのかを問いかけてみる。
いなばんはあたしの大切な後輩で、あたしに「好き」と告白してくれた男の子。鉄仮面で、直球小僧で、優しくて、真面目なのに結構おちょける男の子。
あたしは、彼とどんな関係を結びたいのだろう。
告白されて戸惑った。
けど、嬉しかった。
大切で、「大好きな後輩」。
けど、まだ「好きな男の子」とは言えない。
これからも一緒にいて欲しい。
けど、まだ付き合いたくない。
何処か矛盾を腹んだそんな思考がぐるぐる巡る。
真剣に考えてみたけれど、やっぱりこんな短い時間じゃ答えなんて見つからない。
それでも……
「……まだ分からないけど、ちゃんと考えたい」
時間がかかってしまうかも知れない。
それでも、そうしないと、彼のくれた思いに答えることはできないから。
「うん、命短し恋せよ乙女とは言うけれど、私たち、まだまだ若いんだから焦んなくて良いんだよ」
はっきりしない回答だったけど、あたしのその答えに、姫菜は満足そうに頷いた。
「けど待たせちゃうのは、いなばんに悪いな……」
中学の頃からと言う事は、少なくとも三年以上片思いしてくれてるいなばんを、これ以上待たせることに、少し罪悪感が芽生える。
「いなばん、待ってくれるかな……」
「イナオなら、問題ないっしょ」
あたしの呟きに、優美子があっけらかんと、まるで何も心配なんかしていない声色でそう返した。
「……そう、かな?」
「そうでしょ。アイツなら、結衣が事情を話して『待て』したらいくらでも待つくらいするって」
「優美子の言うとおり! 稲葉くんなら余裕で数年単位で待ってくれるって! この際だから思いっきり悩んじゃえば良いんじゃない?」
二人の割と失礼であんまりな発言に、あたしは確かに、まるで忠犬ハチ公みたいだもんねと、納得してしまった。
『まぁ、気長に待ちますよ』
そうサラっと言ってのけるいなばんの姿は、想像に難くない。
「いなばんなら、本当にずっと待ってそうだよね……」
「よくできた後輩だし」
「健気だよね〜」
「けど、流石に数年も待たせるわけには行かないからさ、出来るだけ早く答えを見つけるよ」
「うん、よーやく良い顔になったじゃん」
そう言って、優美子が笑った。
「あたし、ちゃんといなばんを好きになりたい」
きっと今なら、いつものあたしでいなばんに会えると思う。
そしたら、彼の知らない一面を知っていこう。
「弟みたいな後輩」としか見ていなかった彼を、ちゃんと一人の男の子として見ていこう。
胸を張ってこの気持ちに答えが出せるように、あたしは、そう決意を呟いた。
すると、優美子は赤い顔であたしから目をそらし、姫菜は何故かニヤニヤしている。
「え、なに?」
「まぁ、その様子ならすぐに答え見つかるよ、ねぇ優美子」
「確かに」
「え!? なんで分かるの!?」
疑問に思ってそう尋ねると、優美子が本日何度目かの溜め息を吐いた後に、
「結衣、あんたさっき、ちゃんと好きになりたいって言ったの気づいてる?」
と、さっきあたしが呟いた決意を指摘する。
……あ。
理解して、ピシッと固まるあたし。
「うんうん、青春だよねぇ」
ニヤニヤしている姫菜。
みるみる内に、顔に熱がこもっていく。
指摘されて気がついた、あたしが言ったのって、その、つまり……
「告白、受ける前提で話してるじゃん」
「ちがっ!」
「? ちがうの?」
ちが、ちがぁ…………。
「違く、は……。ない、けど……」
「「けど?」」
「な、何かそれ恥すぎるし! 忘れて!!」
顔から火が出るほど熱くて、パタパタと手で顔を仰ぐ。グイッと火照った身体を冷ますように、炭酸の若干抜けたコーラを飲み干した。
そんなあたしの慌てた姿を見て、優美子と姫菜は、
「「……はぁああ」」
二人揃って、再び大きな溜め息を吐いた。
「あーし、週末のデートで結衣が堕ちるに一票」
「私もそっちに賭けるから成立しないよ?」
「まだ付き合わないし!!」
勝手に人の色恋を賭け出した二人に、堪らずあたしはツッコミを入れた。
しかし、二人はどこ吹く風で、
「そこでまだって、言うあたりがさー」
「結構絆されてるの、結衣、気づいてる?」
と、更に痛い所を突いてくる。
そんな時だった。
ポケットに入れてた携帯から、メールが届いたと知らせが届く。
「…………」
あたしは嫌な予感しかしなかった。しなかったけど、ここで確認しないのは何か負けた気がしたから、渋々、恐る恐るメールを確認する。
【from】いなばん
【件名】デートの件について。
『こちらでもプランは用意しておりますが、何か行きたいものや食べたいものがあれば、教えてください。考慮します。P.S 初デート、楽しみにしてます。好きです』
嫌な予感は的中していた。
「…………」
「……顔、真っ赤じゃん」
「やるね~、稲葉くん」
本当に本当にさぁ、いつももいなばんはさぁ!
「いつもいつも、タイミングが悪すぎるっ!!」
きっと今もお馴染みの無表情で過ごしている、うらめしい後輩に向けての文句を力一杯叫んだあたしは、優美子と姫菜に笑われながら、心の底からここがカラオケ店で良かったと思うのだった。
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