モブ中生の僕でも冒険者になればマンモーネから抜け出せますか? 作:タカリ
迷宮の主ハイコボルトが倒れて消えていく。
自分と同じEランクの下位モンスター、コボルトを無限召喚する手強い敵だったが、こっちの手札は2枚。Dランクの雌狼ルーパと同じくDランクの
「ご主人様、こちらが報酬です」
「うん、ありがとう」
【種族】シルキー(ベル)
【戦闘力】180(初期120+成長35+25(霊格再帰))
【先天技能】
・中級家妖精:人間の代わりに家事をしてくれる妖精。……が、迷宮内では家などないためいまいち使いどころは不明。メイド、高等家事魔法を内包。
(メイド:メイドに必要な技能を収めている。料理、清掃、性技、礼儀作法を内包)
(高等家事魔法:高度な家事魔法を習得している。家事魔法は攻撃能力を持たないが、家の中でできることに不可能はない)
・使用人召喚:Eランクモンスター・ブラウニーを召喚する。無限召喚型。
・中等状態異常魔法
【後天技能】
・霊格再帰
・メイドマスター:メイド、下級収納、秘書、教導、演奏、舞踏、武術、服飾家、庇うスキルを内包する。
・忠誠
【後天技能】
【霊格再帰】。【零落せし存在】から変化したこのスキルは一時的にEランクのブラウニーをDランクのシルキーへランクアップするという強力無比なスキルだった。一週間前、ロストから復活させたベルに初めて使ってもらった時には心底驚いたよ。
しかも【零落せし存在】の時にデメリットとなっていた戦闘力のマイナス(Eランクだと25)が【霊格再帰】になったことでプラスに転じ、いくつかの先天技能と後天技能まで使えるようになった。【メイドマスター】なんて覚えていてびっくりしたよ。
メインカードには使えないうんこっこスキルの筆頭が、実は誰も知らない最強のスキルだった、なんて漫画やアニメみたいなことが起こってしまった。
「嬉しい誤算だけど、他の人に知られないようにしなくちゃね」
家族に相談する? ギルドに報告する? 店長にこっそり教えてみる?
そんなことはしない。絶対に。
誰かに教えたが最後、ベルを無理やり取り上げようとする人間が現れてるかもしれない。研究のためのモルモットにされたり、監視や監禁をされるかもしれない。
僕の平穏な生活――ミカやマリー、ベルたちカードの仲間と一緒に冒険者を続けるという夢を考えたら、余計な波風は立てたくない。
誰にも教えず、誰にも知られず、僕が強くなるためにこっそりと利用しよう。
お金がなくて仲間もいない僕にとって、この秘密だけが上に上がるための唯一の武器なんだから。
幸いなことに【零落せし存在】スキルの変化条件はほぼ確定していた。
ベルに聞いてみたらシルキーの【白い絹の服】を貰った時に『私の中の欠けている部分が埋まった気がしました』と答えたんだ。
その話を聞いて、僕はこう推測した。
①【零落せし存在】は上位のカードの『何かが欠けた存在』
②『欠けたものを埋める』ことで元の霊格に復帰する
③おそらく『モンスターからドロップする魔道具』が鍵になっている
この条件でほぼ確定だと思う。
ただ、他の研究者や冒険者たちも同じことをしている。【零落せし存在】を解除する方法を見つけるために世界中で似たような実験がされて、全て失敗したという研究結果も出ていた。
だから『他の研究者たちと僕たちの違い』がどこかにあるんだと思う。それが分かれば、全ての零落カードを霊格再帰させることができるようになるはずだ。
「ミカの霊格再帰はアークエンジェル(Dランク)かプリンシパリティ(Cランク)で間違いないと思うから、キーアイテムを用意するのは楽なんだけど……。やっぱり様子見かな」
ミカはDランクの零落エンジェルだから、ミカを復活させて霊格再帰の実験をすることもできる。でも、もしも霊格再帰に何かしらのデメリットが存在していたらと思うと、ぶっつけ本番で試すのは怖い。
ベルの様子を見た限りではデメリットや副作用はなさそうだけど、何が起こるか分からないんだから慎重になるべきだ。先に他のカードで試してみるべきだろう。
ミカ復活用の資金はGWの連休中に稼ぐ。『殿堂(最安の殿堂の略)』の店長が200万で用意してくれるって約束してくれた。きっととんでもないクソスキルが山盛りのカードなんだろう。それでもロスト復活に使えれば構わない。
「とはいえ、先に霊格再帰の実験だね。『殿堂』で良さそうな零落カードがあったら買って、なかったら他のショップを見て回ろう」
*
ダンジョンから脱出後、『殿堂』に向かった僕は壁に貼られたカードリストを見ながら悩んでいた。
発見した【零落せし存在】のカードは3枚。
Eランク 陰摩羅鬼 【零落せし存在】【閉ざされた心】【狂化】 2万
→ランクアップ先:死霊系か妖怪系? 候補が多い
Eランク ゾンビ 【零落せし存在】【運動音痴】【音痴】 2万
→ランクアップ先:グール? キーアイテムはおそらく【グールの爪】、安い
Dランク ヨモツシコメ 【零落せし存在】【物理強化】【性技】 50万
→ランクアップ先:火雷大神が最有力? キーアイテムもCランクなので高額
「うーん……」
見事なまでに不人気カードが揃っている。
見た目。ホラー系、腐った死体、見るのも悍ましい。連れ歩きたくない。
スキル。先天技能のランクダウンに合わせて後天技能も使いにくそうなスキルが多い。
「ヨモツシコメ……Dランクカードが50万なんて大安売りもいいところなんだけど、さすがにこれはちょっとなぁ」
普通なら最低100万はするDランクカードが、なんと驚がくの50万円。
ビックリするほど安いけど、このヨモツシコメはなんと【零落せし存在】の影響で眷属召喚を使えなくなっていた。
ヨモツシコメは本体の戦闘力の高さに加えて、眷属としてDランクのヨモツイクサを無限召喚できるのが売りだ。『見た目は最悪だけどCランク並に強い、最強のDランクカード』と言われている。
その長所が崩壊している。戦闘力も下がって眷属召喚もできないなら大幅値下げも止む無しだろう。元々見た目が酷すぎて人気がないカードだし。
一応、霊格再帰できれば失っていたスキルも使えるようになるはずだし、他にもスキルを覚える可能性はあるけど、そこまでしてヨモツシコメを使いたくないなぁ。
ヨモツシコメを候補から除くとして、残るは陰摩羅鬼とゾンビ。
陰摩羅鬼は死霊系か妖怪系にランクアップ可能だけど、候補が多くてキーアイテムを揃えるのが大変だから除外。
ゾンビのランクアップ先は順当に考えてグールだと思う。だけどグールも使いにくい、臭いと言われているカードなので除外。
「結局全滅かぁ……」
さすが『最安の殿堂』。売れ残っているのは本当に不人気カードばかり。
2万円で買えたベルは幸運だったね。
「やあ、ショウくん。またカードを増やすのかい?」
「あ、店長。安くて使いやすそうなカードがあるかなって思ったんですけど、いつもどおり変なカードばっかりですね」
50万のヨモツシコメを指差しながら、隣に並んで立つ店長に答えた。
さっきまで他のお客さんの相手をしていたけど、僕が悩んでいるうちに他のお客さんは帰ったみたいだ。
「このカードは戦闘力だけならちゃんとDランクだよ。ほら」
戦闘力140。【零落せし存在】で50も下がっているのにシルキー(戦闘力120)より高い。元々の戦闘力がそれだけ高いってことだ。
とはいえ。
「肝心の眷属召喚が使えないんじゃ厳しいです」
「だよねー」
店長も本気で勧めていたわけじゃないんだろう。乾いた笑いをこぼした。
*
「そういえば店長。欲しい道具があるんですけど」
「道具?」
【零落せし存在】にすっかり気を取られていたけど、そういえば他にも買うものがあった。
「カードに【罠解除】を覚えさせられる練習用の道具ってあります?」
「ああ、うちにもいくつかあるけど、もしかしてブラウニーに?」
「はい。Eランク迷宮の攻略で使えるように罠要員に育てようと思います」
「なるほどねぇ。メインは運用は厳しいけどサブ要員なら、か。ブラウニーは手先も器用で適性が高いからいい選択だと思うよ」
実際は戦闘力の増加もあったし、今後もベルをメインで使っていくつもりなんだけど、霊格再帰については誰にも話さないと決めている。だからサブ要員として育てるつもりだと店長に説明した。
次のEランクから迷宮内に罠が出てくるので罠要員を用意したかったし、ちょうどいい。
「ショウくんがあのカードを大事にしてくれているなら僕も嬉しいよ。おまけつけちゃうね」
「いいんですか! ありがとうございます!」
訓練道具を買うと店長が本当におまけをつけてくれた。その辺のコンビニで売ってる普通の飴だったけど、後でみんなで食べよう。
*
『殿堂』を出た後、市内の他のカードショップを回った。
普通のカードショップは良いスキルがついた売れそうなカードしか店頭に置いていないけど、頼めば在庫リストを見せてくれる店もある。
その中でもEランクで最安値のカードを探す。安いってことは強力なデメリットスキルを持っているってこと。【零落せし存在】を探すなら安い順でソートするのが一番だ。
そうして何件もカードショップを回って、ついに良さそうなカードを見つけた。
6万円
【種族】マンドラゴラ
【戦闘力】40(初期65-25)
【先天技能】
・絶叫:大声を上げて敵を怯ませる。低確率で精神状態異常を付与。
【後天技能】
・零落せし存在
・人見知り:見知らぬ他者に警戒心を抱いている。懐きにくく、慣れない相手と行動を共にする際にマイナス補正。
Eランクのマンドラゴラ。先天技能【絶叫】は広範囲に低確率で精神異常をばら撒くスキルだけど、近くで使うとうるさすぎるという不人気スキルだ。ダメージを受けたり状態異常をくらうことはないけど、ただ単純にうるさい。
本当ならもう一つ【初等状態異常魔法】のスキルがあるはずだけど、そっちは零落の影響で欠けていた。
後天技能の【人見知り】は読んで字のごとく。初対面の相手がいるとぎこちない、本調子が出ないというデメリットスキル。固定メンバーで迷宮に挑んでいる時は問題ないけど、新しいカードを増やしたり、他の人とパーティを組む時には注意した方がいいだろう。
まあ、他の人とパーティを組む予定なんてないんだけどね。
しかし、このスキル構成で5万円か。『殿堂』でこのカードを売ってたら2万くらいで買えたんじゃないかな。やっぱり『最安の殿堂』は貧乏冒険者の強い味方だ。
まあ、それでもEランクカードの相場の10万よりだいぶ安い。6万円は本来ならFランクカードの値段だ。
零落せし存在の影響で戦闘力が40まで下がっているし、一つ下のFランクと同等扱いされているのかもしれない。
目当てのカードが見つかったので、自分だけが零落カードの本当の価値を知っているという優越感を隠しながら、なるべく平静を装ってカードショップを出た。
次は魔道具を扱っているお店へ向かう。
マンドラゴラのランクアップ先の予想はしている。Dランクのアルラウネだ。
Dランクでも最も人気の高い女の子カードの一つで、『Dランクのエルフ』の異名を持つ、相場も1000万以上の超高額カードとなっている。
ドロップアイテムは『アルラウネの実』。伝説だと媚薬の効果があると言われているけど、実際には精力剤のような効果らしい。値段は10万。
零落マンドラゴラのカードと『アルラウネの実』を持って、僕はダンジョンに戻った。
*
「初めまして、マンドラゴラ。僕は天川翔。君のマスターだよ」
「……」
カードから出てきたのは人型の根っこ。辛うじて顔に見える部分に凹凸があるけど、表情はよく分からない。頭頂部に草が生えていて葉っぱが髪の毛みたいに垂れ下がっていた。
なんどか話しかけてみるけど返事はなかった。反応も薄いし、これが【人見知り】なのかな。
「飴あるけど食べる? ……食べれる? それとも水かミルクがいい?」
「……ピクッ」
ブラウニーとも一緒にお菓子を食べて仲良くなったからね。
マンドラゴラが好みそうなものを並べると、ミルクを手に取った。飴はお気に召さなかったみたい。ふむふむ。
一瞬、マリーを呼び出してマリーのミルクを……と考えたけど、思いとどまる。僕は毎日飲んでいるので感覚がマヒしてしまったけど、少々ハードルが高いだろう。
代わりにベルを呼んだ。
「ベル。お茶会をするからセットしてくれるかな?」
「はい! わかりました!」
ベルはシルキーの時はお淑やかなお姉さんメイドなんだけど、ブラウニーの時は元気で一生懸命なメイドさんになる。
最初はちっちゃいから少し不安だったけど、【メイドマスター】は伊達じゃない。お茶も料理も全部パーフェクトだ。
マンドラゴラが戸惑っている間にキャンプ用の椅子とテーブルをセットすると、ミルクをカップに注いでテーブルに置いた。マンドラゴラの席だ。
座るように促すと、渋々席につく。
「実はマンドラゴラと仲良くなるために特別なプレゼントを用意したんだよ」
「……?」
「喜んでくれると嬉しいんだけど。ほら、これ! どうかな?」
「……!!!」
リュックから『アルラウネの実』を取り出した瞬間、反応はまさに劇的だった。
それまで興味なさそうに「もう帰りたい……」という雰囲気を全身から出していたマンドラゴラの視線が実に釘付けになる。まあ顔は凹凸だけで眼はないんだけど。
僕が実を渡すと、おそるおそる受け取って、僕の顔を見た。「本当に貰っていいの?」と言っているみたいだ。
「マンドラゴラへのプレゼントだから。遠慮なく使っていいよ」
「……!!!」
大喜びでマンドラゴラが『アルラウネの実』を使った。
そして――何も起きなかった。
「あれ?」