モブ中生の僕でも冒険者になればマンモーネから抜け出せますか?   作:タカリ

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四枚目:マンドラゴラ(ハリポタで絶叫をあげながらウネウネ動くアレ)

 10万円が無駄になった。

 

「【零落せし存在】、恐るべし……」

 

 世界中の研究所の職員が大量の予算を使って、それでも解除方法が判明しない【零落せし存在】。

 僕は解除方法を見つけた気になっていただけで、本当は何も分かっていなかった。

 

「はぁ……」

「……?」

 

 マンドラゴラが首を傾げている。どうして僕が落ち込んでいるのか分からないんだろう。

 ここでマンドラゴラのせいだ、なんて言えるはずもない。

 

「これから休憩時間とかにマンドラゴラを呼ぶと思うからよろしくね」

「……!」

 

 『アルラウネの実』をプレゼントした効果か、やる気に満ち溢れている。【人見知り】のマンドラゴラと親しくなれたと思えば10万円も惜しくないかな。いややっぱり惜しいけど。

 

「あ、そうだ。二人ともこれやってみる?」

「なんですか?」

「……?」

「さっきお店で買ったんだけど、ちょうどいいかなって」

 

 リュックから取り出したのは店長の店で購入した訓練道具。『知恵の輪』と『間違い探しクイズ』だ。

 これは魔道具でもなんでもない普通の商品なんだけど、『知恵の輪』は罠解除に必要な手先の器用さと空間認識能力を、間違い探しクイズは罠発見に必要な観察力を鍛えられるらしい。

 もちろんこれだけですぐにスキル生えるわけじゃないけどね。それでも準備は無駄にならない。

 

「ご主人様、間違いが分かりました!」

「……???」

「ベルは見つけるの得意だね。マンドラゴラはもう少しがんばってみようか」

「……!」

 

 これ以降、探索中はマリーとベル、休憩中はベルとマンドラゴラを使うことが増えた。

 Fランク迷宮で一度に呼び出せるカードは2枚までという制限がある。

 早く4枚まで呼び出せるEランク迷宮に挑みたいけど、やっぱり当初の予定通りGW明けになりそうだ。

 

 *

 

 4月28日、木曜日。

 明日の昭和の日からGWが始まる。

 僕はすぐに帰り支度を終えて教室を出ようとした。だけど、そんな僕を一人の女の子が呼び止めた。

 

「天川。冒険者になったって本当?」

「……柊」

 

 柊美月。昔は仲の良かった、元幼馴染。

 他のクラスメイトならいくらでも誤魔化せるのに、こいつだけは誤魔化せない。誤魔化したくない。

 

「……本当だよ。ちょっと前から冒険者やってる」

「ふうん」

 

 柊の目がとても冷たい。

 

「私のお兄ちゃんは迷宮で殺されたのに。天川は冒険者、始めたんだ」

「……もう行くから」

 

 柊とこれ以上話したくない。僕は逃げるように教室を後にした。

 

 柊美月の兄、柊太陽。

 美月と一緒によく遊んでくれた頼れるお兄さんは3年前に亡くなった。

 僕の父が太陽さんを冒険者に誘ったから死んだ。

 それだけは疑いようのない事実だった。

 

 *

 

「どうしたんですか、マスター?」

「ううん、なんでもない……」

 

 明日の攻略に備えて今日もFランク迷宮に泊まる。

 マリーの柔らかい毛皮に埋もれていると、暖かさと穏やかな鼓動を感じられて落ち着く。

 

 迷宮。

 父が死んだのも、太陽さんが死んだのも、全て迷宮のせいだ。

 でも迷宮がなかったら、アンゴルモアが起きていなかったら父と母は出会わなかっただろう。僕は生まれていなかった。

 

 だけど、迷宮がなければカードもない。マリーたちもいない。

 僕がマリーたちと出会えたのは迷宮があったお陰だ。

 

 だからだろうか。迷宮の中をこんなに居心地よく感じてしまうのは。

 家にいる時より、母に会っている時より、こうしてマリーたちと過ごしている時間の方が何倍も大切に感じてしまう。

 

「マスター? もう眠ったみたいですね。……おやすみなさい、どうかいい夢を」

 

 優しい温もりに包まれながら、懐かしい夢を見た気がした。

 

 *

 

 GW中盤。

 

「そろそろみんなに慣れてきたみたいだし、マンドラゴラも戦闘に参加してみようか」

「……!」

 

 GWで連日迷宮に泊まり込み、マリーやベルと過ごす時間が増えたお陰だろう。ついにマンドラゴラを実戦投入することを決めた。

 

「マンドラゴラが【絶叫】で複数に状態異常をばら撒けるようになったら強いからね。コンビネーションも試してみたいし、いろいろやってみよう」

「……!!!」

 

 ベルの霊格再帰は温存したいので最初のコンビはマリーと組ませる。Dランクのマリー一人でも敵をなぎ倒せるけど、まずは初戦闘のマンドラゴラの補助に回ってもらおう。

 

「それで、マンドラゴラに大事な話があるんだ」

「……?」

「これから戦闘になるけど、正直マンドラゴラの戦闘力は心許ない」

 

 マンドラゴラの戦闘力は40。Fランクカード並だ。もしかしたら事故が起こるかもしれない。

 

「だから、万が一マンドラゴラがロストした時に復活できるように、名前をつけたいんだ。受け取ってくれるかな?」

「!!!!!」

 

 マンドラゴラが大喜びしてくれた。これならもっと早く名付けしてもよかったかもしれない。

 

「それじゃあ名前をつけるよ。君の名前はクロエ。これからよろしくね。――えっ!?」

 

 僕がマンドラゴラにクロエと名付けた途端、急に頭上の草が大きく茂った。

 髪のように垂れ下がっていた草が大量に伸びてマンドラゴラの体を隠し、さらに見る見るうちに大きな蕾が膨らんで、花が咲いた。

 

【種族】アルラウネ(クロエ)

【戦闘力】150(初期125+25)

【先天技能】

 ・幸福の未来を語る者:知られざる未来や秘密を語り、持ち主に幸運をもたらす存在。マスターへの好感度で出力増減。

 ・神秘の花:古来より魔術や錬金術の素材として使われてきた神秘の力を帯びている。一部状態異常の付与成功率アップ。

 ・中等状態異常魔法

【後天技能】

 ・零落せし存在→霊格再帰(CHANGE!)

 ・人見知り→メスガキ(CHANGE!):親しい者を弄ぶことに喜びを覚える。信頼する相手と行動を共にする際にプラス補正。魅了、挑発の成功率アップ。

 ・初等攻撃魔法(NEW!):簡単な攻撃魔法を使用可能。

 ・絶叫

 

「これは、霊格再帰? まさか……!」

 

 どうしてこのタイミングで霊格再帰に至ったのか。僕は直前の行動を思い出した。

 もしかしたら霊格再帰には『キーアイテム』だけじゃなくて、『名付け』も条件に含まれているのかもしれない。

 

「クロエちゃん、新たな姿で新登場! これからずっとよろしくね、ショウ!」

 

 満面の笑みでクロエが抱き着いてきた。

 【幸福の未来を語る者(アルラウネ)】。

 カードに刻まれたその言葉が、なぜかとても印象に残った。

 

 *

 

 その後、数分でマンドラゴラに戻ったけど、やはり姿かたちが変わっている。ベルの時と同じように、ミニアルラウネの姿になっていた。

 

【種族】マンドラゴラ(クロエ)

【戦闘力】90(初期65+25)

【先天技能】

 ・絶叫

 ・初等状態異常魔法(NEW!)

【後天技能】

 ・霊格再帰

 ・メスガキ

 ・初等攻撃魔法

 

「ショウ、早速モンスターと戦いに行きましょう!」

 

 クロエが僕の手を取り走り出した。

 

「マスター、クロエさん! 先に行かないでください!」

 

 マリーが慌てて僕たちの後を追いかける。

 マリーもベルも大人しいタイプだったので新鮮で、楽しそうに笑うクロエの姿に僕も一緒に笑いだしてしまった。

 

 *

 

 GW最終日、5月5日の木曜日。

 この日、ついに僕たちはFランク迷宮の10回目の攻略に成功した。

 

「ふふん、わたしにかかればざっとこんなものよ!」

 

 前衛で無双するマリーと状態異常で敵を撹乱するクロエのコンビネーションはなかなかのものだった。霊格再帰で無双してご機嫌である。

 Eランクの主、コボルトが消えるとガッカリ箱が出てきた。

 

「みんなお疲れ。カードのドロップはないみたいだね」

 

 Eランクのカードドロップ率は5%。10回攻略中にブラウニーのカードを手に入れた僕はこれでも運がいい方だろう。

 もっと高ランクになるとどうなってしまうのか……今から恐ろしい。

 

「それでガッカリ箱の中身は……え? こっちもガッカリ箱?」

 

 箱の中から手のひらサイズの箱が出てきた。ビックリだ。

 

「あ、これが噂の【宝箱】か!」

 

・宝箱:両てのひらに乗る程度の小さな宝箱。開けると中にカード化されたアイテムが入ってる。宝籤のアイテム版。「ガッカリ箱の中にさらにガッカリ箱が入ってた……」by冒険者。

 

 ガッカリ箱から出てくるアイテムは人間の背丈くらいの大きさまでならそのまま出てくる。全身鎧とかもそのまま出てくるので担いで持ち帰るのは大変だ。それより大きいアイテム、馬車や船など巨大なアイテムの場合はカードされているという仕様になっている。

 

 カード化されていないアイテムを後からカード化する場合はギルドに持ち込んで依頼しないといけなくて、1回100万の手数料を取られることになる。

 だから、最初からカード化した状態でアイテムが手に入る点は嬉しいんだけど。

 

「この宝箱、カード化したポーションとかも出てくるんだよね……」

 

 装備のカードなんかが出てきたら大当たりだけど、定価1万のローポーションのカードなんていうハズレも普通に出てくる。むしろ外れの方が圧倒的に多い。

 そんな微妙な宝箱だけど、ギルドの買取金額はなんと100万。破格の金額だ。

 

「ショウ、その宝箱わたしが開けていい?」

「クロエが?」

 

 正直、この宝箱から価値のある物が出てくる可能性は低い。ギルドに売った方がお得だと思う。

 でも僕が自力でゲットした最初の一個だし、売らずに開けてみたい気持ちはあった。宝籤とか福引って当たるわけがないって分かってるのについつい期待しちゃうよね。

 

「わかった、いいよ。クロエが開けて」

「わーい! ありがとうショウ!」

 

 ほんの少しだけ期待を込めてクロエに渡す。どうせハズレなんだろうけどね。

 宝箱を受け取ったクロエがすぐに蓋を開けた。中にはカードが一枚。ネットに書いてあった情報通りだ。

 

「これは……ふぅん、なるほどね」

「え、何が当たったの? ポーションじゃないの?」

「ふふーん、はいこれ、あげる! さすがわたしね!」

「ええっ!? なにこれ!?」

 

 クロエが差し出したカードには『武骨で古めかしいハンマー』が描かれていた。

 

 *

 

【ヘファイストスの槌(仮)】

 ・???




【Tips クロエ】
 霊格再帰2枚目。紆余曲折あったものの無事にアルラウネにランクアップした。
 【人見知り】が【メスガキ】に変化したのはそれだけ仲間たちに心を開いた証拠。

 【幸福の未来を語る者】はアルラウネに霊格再帰している時しか効果を発揮しない。

 ちなみに一般的に低ランクのカードほど懐きやすく、高ランクのカードほどプライドが高いと言われている。


【Tips 柊美月】
 主人公が迷宮に籠っている理由その①。幼馴染は負けヒロイン。
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