モブ中生の僕でも冒険者になればマンモーネから抜け出せますか? 作:タカリ
5月12日、木曜日。
Fランク迷宮を10回踏破したので二ツ星冒険者への昇格試験を申請した。明日の夜からEランク迷宮の攻略が始めて、土日で最後まで攻略するつもりだ。
そして、それに合わせてミカのロスト復活用貯金も貯まっていた。昇格試験がミカの復活の場になるだろう。
全て順調だった。二ツ星試験。6年ぶりのミカとの再会。逸る気持ちを抑えながら、僕は家に帰ってきた。
「ショウか。帰ってきたんだな」
「……義父さん。ただいま」
玄関を開けると、ちょうど奥の部屋から出てきた義父と鉢合わせしてしまった。
「また明日も迷宮に泊まるのか?」
「……うん。泊りがけじゃないと攻略できないから」
「そうか。仕事は順調なのか? 無理はしてないか? あまり根を詰めすぎるんじゃないぞ?」
「まあ、それなりに大変だけど、問題ないよ」
二ツ星昇格試験のことは言わない。この人に何も教えるつもりはない。
「大丈夫。ちゃんと約束通り家には迷惑かけないから。……登録料とカード代も、もう少ししたら返すよ」
「いや、それは親としての当然の勤めだ。ショウが自分のために使いなさい」
「……そう」
冒険者登録をする時に必要なDランクカードをくれた
そして、僕が冒険者になることを心配して反対していた母を説得し、登録料の10万円を出してくれたのも義父だった。
その時に義父と約束した。僕に対する支援はこれが最初で最後。母から金銭援助を受けたり、Dランクカードを失ったり、僕が諦めた時にはすっぱりと冒険者を辞めると。
義父はまるで僕の味方みたいに振舞っているけど、知っている。
彼はわざとデメリットスキル持ちのカードを僕に渡すように義叔父に頼んだんだ。
義叔父がまともに戦闘できない【臆病】なルーパを僕に渡したのは義夫の依頼だった。その後、謝礼としてこっそり大金を義叔父に渡している場面を僕は見た。
冒険者になった僕が挫折して諦めるように。登録料を用意したのも、母を説得したのも、全部そのためだった。
義父は本当は迷宮も冒険者も嫌いなんだろう。義叔父とだってお金を受け渡しいた場面以外でまともに会話しているところを見たことがない。
うちには父が遺したいくつかのカードや魔道具があったのに、義父が母を説得して全て売り払ってしまった。僕が将来冒険者になったら譲ってくれると父が言っていたものも、全てなくなった。
そして義父は、僕が名付けしたカードを、マリーのカードとミカのソウルカードまで僕から取り上げようとした。
『これからは亡くなったお父さんの代わりに、私がショウくんとショウくんのお母さんを守るよ』
私が君たちを守るから、亡くなったお父さんが遺したカードは必要ない。そう言ってカードを取り上げようとした義父から必死にマリーとミカのカードを守った。
あの時の義父の顔を僕は一生忘れない。
思い通りにならないことに苛立ち、憎々しげに僕を睨む義父。
あの瞬間、僕は『義父が守るべき家族』から弾き出されたのだと悟った。
*
その夜、明日への期待や不安、帰ってきた時に会話した義父のこと、学校や将来のことを考えていたらなかなか寝付けなかった。
『――』
そんな時に思い出すのがミカだった。
第二次アンゴルモアの最中、普段と違う様子に落ち着かない僕を膝枕して、優しく頭を撫でてくれた。
何年経ってもあの手の感触を覚えている。思い出す。
『――もうすぐ会えるね、ショウくん』
まるで今もミカがすぐ隣にいるような気がして、ぐっすりと眠ることができた。
*
翌日。全財産を持って『最安の殿堂』へ。
「じゃあこれ、エンジェルのカード。確認してね」
「おお……!」
店長から渡されたエンジェルのカードを震える手で受け取った。
200万。迷宮の踏破報酬と、モンスターが落とした魔石と、Fランクカードの山を全て費やして手に入れたミカを復活させるためのカード。週末やGW中の泊まり込みがなかったらもっと時間がかかっていたはずだ。
それでもついに手に入れた。6年間ずっとこの時を待ち続けていた。
ミカのソウルカードを取り出して二枚のカードを重ねると、復活用のカードが溶けるように消えて色が戻った。ちゃんと本物だった。
「店長、ありがとうございます! さっそく迷宮に行ってきます!」
「気をつけてね。またおいで」
「はい!!!!」
逸る気持ちを抑えきれず、店を出てすぐに駆けだした。
目指すは二ツ星昇格試験の場、Eランク迷宮だ。
まずはマリー。
「やっとミカさんと再会できるんですね。嬉しいです」
尻尾をフリフリ喜びを表しているけど、一番Fランクモンスターを狩ってくれたのが彼女だ。
時には僕を安全地帯に残して一人(一匹?)で狩りにいくこともあった。安全地帯は内部から外部へ支援したり攻撃したりしない限り消滅することはない。だから僕が休んだり食事したり寝ててもカードたちだけで狩りを続けることはできる。
そして、ミカの復活資金を稼ぐためにずっとずっと頑張ってくれていた。
【種族】ルーパ(マリー)
【戦闘力】185(初期120+成長65)
【先天技能】
・母なる狼
・集団行動
【後天技能】
・母性:守護者、献身の盾、良妻賢母を内包する。
・気配察知
・生還の心得
・かくれんぼ
・奇襲(NEW):攻撃時、相手に気づかれていない場合ダメージにプラス補正
・孤軍奮闘(NEW):周囲に味方がおらず、一人で戦闘する場合にプラス補正。状態異常に対する耐性が上昇。
次にベル。
「き、緊張します……!」
ミニシルキー状態のベルは初めて会うミカに緊張しているみたいだ。そんなに身構えなくても大丈夫だろうけどね。
初等家事魔法が目当てで買ったけど、彼女がいたお陰で僕は大いに助けられた。
週末やGW中の迷宮泊で余裕を持って攻略ができたのは彼女のお陰だ。ベルがいなかったらとっくに体調を崩していただろう。
そして、【霊格再帰】の存在。マリーとミカのカード以外は何も持っていない、味方もいない僕が唯一得ることができたアドバンテージ。
ベルの存在が僕に冒険者としての希望を抱かせてくれた。
【種族】ブラウニー(ベル)
【戦闘力】125(初期70+成長30+25(霊格再帰))
【先天技能】
・下級家妖精
・初等状態異常魔法
【後天技能】
・零落せし存在
・メイドマスター:メイド、下級収納、秘書、教導、演奏、舞踏、武術、服飾家、庇う、育児スキルを内包する。
・忠誠
・集団行動(NEW!)
・育児(NEW!)→メイドマスターに統合
最後にクロエ。
「エンジェルね~。でもわたしのランクアップ先のアルラウネより安いし~? まあお手並み拝見って感じ~?」
クロエは口ではそう言いつつソワソワしている。人見知りが残っているのか、メスガキが対抗心を燃やしているのか。まあ二人ともいい子だから問題ないだろう。
クロエを購入したのは【零落せし存在】の実験としてだった。
最初は上手くいかず、やっぱり一筋縄ではいかないな、と思って諦めていたところに【霊格再帰】したので驚いた。彼女が引き当てた【ヘファイストスの槌】もあるし、うちのメンバーの意外性ナンバーワンはクロエかもしれないね。
性格も人見知りだったのがメスガキに代わって僕をよくからかうようになったし……。でも、ムードメーカーとしてみんなを盛り上げてくれることに感謝しているよ。
【種族】マンドラゴラ(クロエ)
【戦闘力】110(初期65+成長20+霊格再帰25)
【先天技能】
・絶叫
・初等状態異常魔法
【後天技能】
・霊格再帰
・メスガキ:性技を内包する。
・初等攻撃魔法
・舞踏(NEW!)
・性技(NEW!)→メスガキに統合
そして、最後に。
「ミカ」
色が戻ったミカのカードを手に名前を呼ぶと、6年前の思い出の中からそのまま抜け出したかのような、彼女の姿があった。
「……ショウくん」
「ミカ……」
やっと会えた。またミカとこうして再会できた。
思わず涙ぐんでしまった。
だけど。
「ショウくん……!」
「ミカ? ……どうしたの?」
なぜか、ミカの様子がおかし――
「なんでミカお姉ちゃんって呼んでくれないの!?」
――はい?
「え? 6年ぶりの再会なのに、そこ?」
「大事なことなの! ミカはショウくんのお姉ちゃんなんだもん! ミカお姉ちゃんって呼んで!」
「えぇ……」
おかしいなぁ。ミカってこんな性格だったっけ……?
「僕の記憶の中のミカはもっとまじめで、包容力があって、優しかったはず……」
「やだやだやだー! 『ミカお姉ちゃん❤』って呼んでくれなきゃやだああああ!!!」
【種族】エンジェル(ミカ)
【戦闘力】77(初期120ー50(零落)+7(成長))
【先天技能】
・天使
【後天技能】
・零落せし存在
・乙女心→姉なるもの(CHANGE!):心の中に姉を飼っている証。弟に対する行動にプラス補正。たまに反抗する。狂化状態でも暴走状態とならずに自らの意思で狂化を解除できる。狂化、追跡、育児を内包する。
(狂化:戦闘を終了するまで暴走状態となり徐々に生命力が減っていく代わりに、全ステータスが三倍となる)
・育児→姉なるものに統合
【固有技能】
・守護天使(NEW!):
(守護者:状態異常に対する耐性が上昇。特定の行動時に大きなプラス補正)
――これが僕とミカが「ミカお姉ちゃん!!!」……ミカお姉ちゃんが再会するまでの冒険の記録。
【Tips ミカお姉ちゃん】
Tipsすら浸食する大いなる姉天使。
6年前、当時小学校一年生だったショウに「ミカおねえちゃん」と言われた瞬間に不治の病にかかった。
お姉ちゃんと呼ばれると大いなる包容力を持った完璧な姉になるが、呼ばれないと駄々っ子と化す。
固有スキルの【守護天使】は本来エンジェルが持っているはずがない、ありえない専用装備化スキルである。
【Tips ソウルカード】
マスターが死ぬと契約しているカードは消滅(ロスト)する。
ほとんどカードはマスターの死と同時にソウルカードも消滅するが、マスターの蘇生の可能性が僅かでもあればソウルカードが消えずに残る場合がある。
ロストしてソウルカードの状態になっても、カードはマスターの状況を把握できる。そのことを知る者は非常に少ない。