モブ中生の僕でも冒険者になればマンモーネから抜け出せますか? 作:タカリ
ミカを加えてついにメインカードが4枚揃った。
Dランク エンジェル(ミカ) 戦闘力77(初期120ー50(零落)+7(成長))
Dランク ルーパ(マリー) 戦闘力185(初期120+成長65)
Eランク ブラウニー(ベル) 戦闘力125(初期70+成長30+25(霊格再帰))
Eランク マンドラゴラ(クロエ) 戦闘力110(初期65+成長20+霊格再帰25)
こうして並べてみると零落スキルの影響で戦闘力がー50されているミカと、霊格再帰で+25されているベルとクロエの差がよくわかる。
ミカは【固有技能】に【守護天使】という聞いたことのないスキルを覚えていたので、装備化スキルで3人の補助をしてもらおうかと考えた。戦闘力の1/4が加算されるので+19。マリーの戦力は200の大台を超えて前衛の主軸としてして実に頼もしい。
そう思っていたんだけど。
「ドッカーン☆」
ミカの繰り出したアッパーカットでEランクのゾンビが空のお星さまになった。……ゾンビの【不死】スキルをミカの【天使】が無効化したのは分かるけど、それにしたって強すぎる。
ゾンビとミカの戦闘力にそこまで差はないはずだ。
「もしかして【狂化】使ってる?」
【狂化】スキル。ステータスが3倍になる代わりに戦闘終了まで暴走状態になり徐々に生命力が減っていくという諸刃の剣。
だけどミカは【姉なるもの】という意味不明なスキルの効果で暴走状態にならず、いつでも【狂化】を解除できる。
「え、えへへ……?」
「いや、笑って誤魔化しても無駄だから」
ステータス3倍というのは戦闘力3倍とほぼ同じ意味だと言われている。元々の戦闘力77×3=231。祝福を受けたマリーも超えるけどさぁ……。
「ねえ、ミカ。うちのパーティに回復魔法を使えるメンバーがいないから、あまり無理しないでほしいんだけど」
「つーん」
「ミカ……」
「ぷいっ」
子供か。
見た目だけは綺麗なお姉さんなのに、残念過ぎる。
「ミカお姉ちゃん、うちの面子だと回復魔法が使える仲間がいないし、心配だから無理しないでほしいんだ」
「わかったよショウくん! ショウくんに心配かけない範囲でお姉ちゃんがんばるね!」
「いや、ミカお姉ちゃんには後衛から援護に回ってほしいんだけど……」
「大丈夫、お姉ちゃんに任せて!」
「だめだこりゃ……」
ミカが気合を入れて元気いっぱいに前を向く。罠探知と解除のためにベルが先頭にいるけど、ミカはすぐ隣で最前線を歩いている。
Eランク迷宮の罠に即死するような危険な罠はないとはいえ、生命力も減っているはずだし不安で仕方ない。
僕とミカの会話を聞いていたクロエが楽しそうに笑いながら寄ってきた。
「大変ね~、あの天使様。ショウの言うこと何にも聞いてないじゃない」
「まあ、久し振りだから張り切り過ぎているんだと思うけど……。大怪我する前に落ち着いてほしいかな」
「そ~お? それならわたしにいい考えがあるんだけど~」
「いい考え?」
「うふふ、教えなーい! 楽しみに待ってなさい♪」
上機嫌なクロエに何回聞いても教えてくれなかった。
ただ、「後のお楽しみよ♪」と答えるだけだった。
*
金曜に放課後からEランク迷宮に入り、罠の解除に時間を食ったものの翌日の土曜の夜には13階まで攻略できた。
この迷宮が何階まであるのか分からないけど、多くてもあと2~3階くらいだと思う。まさか昇格試験で20階まであるような深い迷宮に潜らせれることはないと思いたい。
「それじゃ、そろそろやりましょうか!」
13階の安全地帯でベルの作った夕食を食べてまったりしていたところで、クロエが僕のリュックから一枚のカードを取り出した。
ギルドの鑑定名は【ヘファイストスの槌】。
クロエが宝箱から引き当てたカードだった。
「クロエ、まさか!?」
「そのまさかよ。ミカは【狂化】の使い過ぎでヘロヘロだし、私たちだって疲れてる。今このカードを使わないでいつ使うのよ?」
「それは、そうだけど……」
「じゃ、そういうことで♪ いくわよー! えいっ!!!」
カード化を解除したクロエが大きな槌を両手で振りかぶり、思い切り地面に叩きつけた。
ゴゴゴゴゴ……!!
わずかな地震と共に、槌で叩いた箇所が凹んでいき……そこから
【ヘファイストスの槌(テルモピュライの湯)】
・12の試練を乗り越えた英雄ヘラクレスの疲れを癒すために、女神アテナがヘファイストスに頼んで作ってもらった温泉。ヘファイストスが槌で思い切り地面を叩いた際に温泉が噴き出したという。
この槌を持って地面を叩くと温泉が噴き出し、お湯に浸ると強力な回復効果と活力増強効果を得られる。噴き出した湯は一時間ほどで消えて元の地面に戻る。
「さあショウ! あなたも疲れているんだし、しっかり体を休めましょうね!」
「うわあっ!? なんでもう脱いでいるの!?」
「何言ってるのよ、温泉に入るんだから脱いで当然じゃない」
どういう理屈か分からないけど一瞬で服を脱ぎ捨て裸になったクロエが僕の服に手をかけた。
「待ってください、クロエさん!」
「ベル!」
「なぁに、ベル? まさか止めるつもり?」
救世主ベル! 信じていたよ!!
「ご主人様のお召し物を脱がすのはメイドの務めです! わたしが脱がします!!」
「ベル!? お前もか!?」
この裏切者おおおおおおお!!!
*
――カードはマスターに危害を加えることはできない。悪意のないじゃれつきなどもできない。
だが、マスターの入浴の補助で衣服を脱がすのは、危害ではない……!
「嘘だ!!!」
なんだよそれ! そんな抜け道知りたくなかったよ!!
「でも気持ちいいでしょ~?」
「この温泉は素晴らしいです!」
「くっ……!!」
クロエとベルの二人がかりで服を脱がされ、温泉に放り込まれたけど、実際に凄く気持ちいい温泉だったので何も言えなかった。
マリーの背中に乗せて貰ったり、ミカの装備化スキルを試したりしたけど、それでも何時間も迷宮の中を歩くのは疲れる。
その疲労が体の中から温泉へ溶けて消えていき、代わりに火山の熱のようなエネルギーが注ぎ込まれるのを感じる。
「あぁぁぁぁ……」
最高。
「ふふん、落ちたわね。口では嫌だ嫌だと言っていたくせに体は正直じゃない」
クロエの生意気な口も気にならない。
このカードを当ててから今まで、なにかと理由をつけて使用を避けて来たけど、こんな気持ち良さを知ってしまったら止められないよ……。
「さあミカさん! ミカさんも一緒に入りましょう! とっても気持ちいいですよ!」
「ふぇっ!? ベルちゃんっ!? ショウくんと一緒にお風呂っって!? ちょ、ちょっと待って、まだ心の準備が……」
「問答無用ー!! いくわよベル! 【霊格再帰】!」
「はい、【霊格再帰】です!」
「きゃあああああ!!」
今日はまだ霊格再帰を使ってなかった二人が同時にDランクに成長してミカに襲い掛かる。
ミカが疲れが溜まっていたのは本当みたいであっさり捕まってしまったけど――その前に僕は目を逸らした。
Dランク、シルキーとアルラウネにランクアップした二人は……温泉から飛び出したからか裸だった。
「あれれ~? どうしてショウは今目を逸らしたのかしら~?」
ビクッ!
いつの間にか、メスガキに背後を取られていた!?
「ご主人様。ご主人様ならご遠慮なく、どうぞご自由になさってくださいませ」
ご自由にって!? ベルの言い方がいつになる艶やかだった。
「あわわ、あわわわ……! ショウくんが、ショウくんが大人に……!?」
そしてミカは全く頼りにならなかった! ポンコツ守護天使ー!!!
「ふふふ、さあショウ! 堪忍して大人しくなさい!」
「ご主人様……どうぞこちらへ……」
「あわわわわわわわわ……!!」
騒がしい一団から少し離れた場所で、マリーはゆっくりとお湯に浸り寝落ちしそうになっていた。
*
翌日。
気持ちいい温泉でスッキリした僕たちは、さっそく朝から攻略を進めて昼過ぎには最下層の15階に到着した。
このまま挑むか、それともクロエとベルの霊格再帰のクールタイムが終わるまで待つか相談したけど、クールタイムが終わるまで待つことで意見が一致した。
今回の主はDランク。しかも主補正として迷宮から様々な強化を受けている強化個体だ。幸いにも時間はまだ十分になるし、焦らずにこちらの体勢を整えよう。
待っている間に14階に逆戻りしてEランクモンスターを狩り、クールタイムが終わったら温泉に入って万全の状態に整えてから主に挑んだ。温泉が強すぎる。
そして挑んだEランク迷宮の主だったけど、さすがにDランクカード4枚の猛攻には耐えられず、最後は狂化ミカの攻撃に倒れた。
「あ、ショウくん。カードドロップしたよー」
「え、嘘! 本当に落ちたの!?」
「うん! ほら!」
ミカが掲げたカードには、しっかりとDランクの【エンプーサ】の絵が描かれていた。
*
「ふ~ん、エンプーサね~。使うの?」
クロエの『男ってこういうのが好きよね』という生ぬるい目。ベルの『わかっていますよ』というほほえましいものを見るような目、ミカの『お姉ちゃんは反対です!』と不満そうな目。
「……いや、今いるメンバーで4枚揃っているし、売却してみんなの強化に回そうかな」
「え、売っちゃうの? でも本当は使いたいんじゃないの~?」
からかってくるクロエを適当にいなす。
そりゃまあ、興味が全くないわけじゃないけど、クロエと被っているからいいかな、と。クロエは一人で十分です。
*
二泊三日のEランク迷宮踏破。
Dランクカードのエンプーサのカードに加えてEランクで出現した女の子インプのカード、さらに他にEランクカードを何枚か手に入れることができた。ガッカリ箱の中身は安い魔道具だったけど、今回は大当たりの結果だった。
もちろん二ツ星昇格試験も合格。これで僕も二ツ星冒険者だ。
ギルドで手続した後、家に帰るかどうか少し考えて……僕はまたEランク迷宮に戻ってきた。
母にはもしかしたら攻略が長引くかもしれないと言っておいたから、月曜の朝に帰っても問題ないだろう。
みんなが好きなお菓子をダンジョンマートで大量に購入してからダンジョンの中へ。
「みんな、お疲れさま! Eランク迷宮の踏破記念に今夜はパーティだよ!」
「わたしこれもーらい!」
真っ先にクロエが自分の分を確保し。
「お茶を淹れますね」
ベルは家事魔法で全員のお茶を用意し。
「マスター、ありがとうございます」
自分で袋を開けられないマリーのために袋を開けてあげて。
「ねえねえショウくん、どのお菓子が美味しいの? おすすめは?」
初めてみるお菓子の数々を前に目を輝かせるミカと一緒にお菓子を選びながら、楽しい迷宮の夜は更けていった――。
【Q&A】
Q.おすすめのお菓子はどれ?
A.もちろんロールケーキさ!!! おかわりもいいぞ!!!
【第一章 終】【Tips】ヘファイストスの槌(テルモピュライの湯)
・【ヘファイストスの金槌】と違って鍛冶に関する効果はなく、戦闘力補正もない、完全に温泉を沸かせるためだけの魔道具。
疲労回復に効果があり簡単な怪我や体調不良は治る。大怪我や病気には効果が薄い。
売れば数千万の値が付くが、マヨイガなど似たような効果がある異空間カードの下位互換として扱われているのでそれほど高くはない。
実は火山、建築、温泉の権能を持っているカードが使うとフィールド全体を温泉に変えられる【フィールド改変魔道具】の一種である。
【Tips】エンプーサのカード
本当に売られた。
【Tips】義父
主人公が迷宮に籠っている理由その②。家よりも迷宮の方が心安らぐ。