色違いタイプ統一縛りニキのポケ界転生日記   作:霜月ルイ

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chapter:11 マックスダイ巣穴、なんかバグってません?

 全国のポケモントレーナーの皆様。

 突然ですが、皆様はゲームでバグに遭遇したことがあるだろうか。

 

 例えば、壁の中に埋まるNPC。

 突然消滅する野生ポケモン。

 明らかにおかしな挙動をする敵キャラクター。

 あるいは、何の前触れもなく始まる謎のイベント。

 

 そういうものに遭遇したとき、皆様はどうするだろう。

 

 普通の人なら、ゲームを再起動するかもしれない。

 運営に問い合わせる人もいるだろう。

 

 だが、俺は違う。

 とりあえず見に行く。

 

 だって気になるじゃん!?

 原因不明の現象とか、隠しイベントの匂いしかしないじゃん!?

 

 ……まあそれが許されるのは、あくまでゲームの中での話。

 

 現在、六歳児として絶賛二周目の人生を謳歌している俺には、一つ大きな問題があった。

 

 この世界、セーブもロードもできないのである。

 ……やっぱりクソゲーでは?

 

 いや、世界そのものは最高なんだけどさ。

 せめてオートセーブくらい実装してくれません?

 

 ♦

 

 カンムリ雪原にあるおばあちゃんの家に滞在して、数日が経過した。

 雪国での生活にも、少しずつ慣れてきた今日この頃。

 

 朝起きて、温かいご飯を食べて。

 おばあちゃんのお手伝いをして。

 パパンと一緒に、村の近くを散歩する。

 実に平和な日々である。

 

 ……なお。

 

「ムーちゃん、さんぽいくよ!」

 

「……グソ」

 

 暖炉の前から動こうとしない、巨大な甲冑武者が一匹。

 

 ……おい、相棒。

 

 君はいつから暖炉の番人になったんだ。

 

「ムーちゃん?」

 

「グソ……」

 

「おそと、いいてんきだよ?」

 

「……グソ」

 

 ムーちゃんが窓の外を見た。

 そこには、真っ白な雪景色。

 そして、風に揺れる木々。

 

 ……うむ、実に美しい。

 

 だが、ムーちゃんは再び暖炉へ向き直った。

 拒否の意思、強すぎませんか?

 

「リンちゃん。ムーちゃんは寒いのが苦手なんだろう?」

 

 おばあちゃんが笑いながら声をかけてきた。

 

「うん。でも、ちょっとはうごかないと……」

 

「無理に連れていかなくてもいいんじゃないかい?」

 

「……それもそうか」

 

 確かに。

 本人が嫌がっているのに無理やり連れ出すのは、よろしくない。

 マスタード師匠にも言われたことだ。

 

「じゃあ、ムーちゃんはおるすばんね!」

 

「グソッ!」

 

 返事早っ。

 いつもより元気じゃん。

 

 まったく……まあ、かわいいから許す。

 

 ♦

 

 さて。

 この数日間、フリーズ村では少々妙な噂が広がっていた。

 

 発端は、マックスダイ巣穴である。

 

 カンムリ雪原に存在する、巨大な地下空間。

 ダイマックスエネルギーが集まる特殊な場所であり、珍しいポケモンが発見されることもある。

 前世の俺も、何度となくお世話になった場所だ。

 

 特にダイマックスアドベンチャー。

 あれは本当に時間泥棒だった。

 伝説ポケモンの色違いを狙い、延々と周回する日々。

 

 出ない。

 

 出ない。

 

 出ない。

 

 ようやく光ったと思ったら、目当てじゃない。

 物欲センサー、お前だけは絶対に許さない。

 

 とまあ、そんな思い出深い場所なのだが。

 どうやら最近、様子がおかしいらしい。

 

「……また調査員さんが来てるねぇ」

 

 ある日の昼下がり。

 おばあちゃんと一緒に村の商店へ買い物に行くと、店先に数人の大人たちが集まっていた。

 

 皆、何やら難しい顔をしている。

 

「昨日も光ったんだって?」

 

「ああ。いつもの赤い光じゃなかったらしい」

 

「計測器もおかしな数字を出したそうだよ」

 

「……何か危ないポケモンでもいるのかねぇ」

 

 ……ん?ちょっと待って。

 

 今、なんて?

 

 光った?計測器?

 おかしな数字?

 俺の中の色違い廃人センサーが、ピクリと反応した。

 

 ……いや、色違いとは関係ないかもしれないけど。

 こういう話、気になるじゃん?

 

「おばあちゃん!」

 

「なんだい?」

 

「あのひとたち、なにのおはなししてるの?」

 

「マックスダイ巣穴のことだろうねぇ」

 

「……なにかあったの?」

 

「詳しくはわからないけど、最近調査員さんたちが忙しそうなんだよ」

 

 ……ふむ、なるほど。

 

 これは、少し調べる必要がありそうですな。

 

 俺はさりげなく、大人たちの会話に耳を傾けた。

 

「それがさ、昨日の観測で妙な影が映ったらしいんだ」

 

「影?」

 

「ああ。ものすごく速くて、何が何だかわからなかったって」

 

 ……速い影ねぇ?

 

「しかも、計測器が反応したと思ったら、すぐに消えたらしい」

 

「機械の故障じゃないのか?」

 

「それが、別の機械でも同じことが起きたんだと」

 

 何それ。

 

 通常と違う光。

 異常なエネルギー。

 ものすごく速い影。

 そして、突然消える計測反応。

 

 それ、絶対に何かのイベント始まってるやつじゃん!!

 

「……リンちゃん?」

 

「……はっ!」

 

 おばあちゃんが、俺の顔を覗き込んでいた。

 

「どうしたんだい? ずいぶん真剣な顔をして」

 

「……なんでもない!」

 

 危ない危ない。

 思わず顔に出てしまった。

 

 俺は平静を装いながら、おばあちゃんの手を握った。

 

 ……しかし。

 頭の中では、一つの可能性がぐるぐると回っていた。

 

 カンムリ雪原。

 マックスダイ巣穴。

 異常なエネルギー。

 そして、謎の高速移動体。

 

 まさか……ウルトラビーストだったりしない?

 

 ♦

 

 その日の夕方。

 

 俺は、家族会議を開催した。

 議題はもちろんマックスダイ巣穴である。

 

「ママン!」

 

「なあに?」

 

「おばあちゃん!」

 

「なんだい?」

 

「パパン!」

 

「おう!」

 

 よし、全員集合。

 

 これより、第一回マックスダイ巣穴調査計画会議を開始する!

 

「マックスダイすあな、みにいきたい!」

 

「駄目よ」

 

 ……はい?

 まだ議題の説明すら終わっていないんですが?

 

「ママン! まだなにもいってない!」

 

「行きたいって言ったでしょう?」

 

「……うん」

 

「危ない場所には行きません」

 

 開始三秒で否決されたんですが?

 これが母親という存在の判断速度なのか。

 S種族値、いくつあるんですかね?

 

「おばあちゃん! ちょっとだけ!」

 

「駄目だよ」

 

「ひゃくメートルだけ!」

 

「駄目」

 

「じゃあ、ごじゅうメートル!」

 

「値切るんじゃありません」

 

 完敗。

 おばあちゃん、強すぎる。

 これは完全に上位互換のママンでは?

 

 何その鉄壁の防御力。

 突破方法が見当たらないんですが!?

 

「パパン!」

 

「……なんだ?」

 

「パパンなら!」

 

「いや、父さんも駄目だと思うぞ」

 

 味方、ゼロ。

 詰みである。

 

 いや、待て。まだ諦めるには早い。

 俺は前世で数多の不利対面を覆してきた男。

 

 ここから逆転する方法だって――

 

「リン」

 

 ママンが、俺の目を見た。

 

「何か起きているかもしれないから、調査員さんたちが調べているのよ?」

 

「……うん」

 

「そんな場所に、まだ六歳のリンを連れていけると思う?」

 

 ……ぐぬぬ、ド正論。

 しかも、言い返せない。

 

 確かに危険かもしれない場所へ、わざわざ子供が近づく理由なんてない。

 

 前世ならリセットできた。

 でも、今は違う。

 

 もし怪我をしたら、ママンもパパンも悲しむ。

 ムーちゃんだって、きっと心配するだろう。

 

「……わかった」

 

「……リン?」

 

「むりにいかない」

 

 俺がそう言うと、ママンは少し驚いたような顔をした。

 そして、優しく頭を撫でてくれる。

 

「……うん。いい子ね」

 

 ……へへっ、まあね。

 

 これでも一年以上、マスタード師匠の下で修行してきた男である。

 自分の好奇心だけで、周りに迷惑をかけるわけにはいかない。

 

 ……ただ、気になるものは気になる。

 どうにかならないものか。

 

「……ああ、そうだ」

 

 そのとき、おばあちゃんが手を叩いた。

 

「調査員さんのお話を聞くだけなら、できるかもしれないねぇ」

 

「ほんと!?」

 

「うん。おばあちゃんの知り合いが、調査のお手伝いをしているんだよ」

 

 ……おお。

 

 おばあちゃん、……あなたが神か。

 

「もちろん、危ない場所には入れないよ?」

 

「うん!」

 

「それに、お話を聞けるかどうかも、向こうの都合次第だからね」

 

「わかった!」

 

 よし。完全勝利とはいかないが、情報収集の機会を得た。

 これは大きい。

 

 ポケモンバトルでも、情報は重要なのである。

 

 相手の手持ち。

 技構成。

 持ち物。

 そして、行動パターン。

 

 情報があれば、対策も立てられる。

 

 ……まあ、今回はバトルするわけじゃないんですけどね。

 

 ♦

 

 翌日。

 

 俺はおばあちゃんとパパンに連れられ、村の近くに設置された調査員たちの臨時詰め所を訪れていた。

 

 ちなみに、ムーちゃんも一緒である。

 

「ムーちゃん! きょうはちょっとおべんきょうだよ!」

 

「グソ?」

 

「へんなことが起きてるらしいから、しらべるの!」

 

「……グソ」

 

 ちょっと不安そうだなぁ。

 そりゃそうだよな。

 

 未知の現象なんて、ムーちゃんにとっては怖いものだろう。

 

 俺は、そっとその前脚を撫でた。

 

「だいじょうぶ! あぶないところにはいかないから!」

 

「グソッ!」

 

 よし、納得してくれたらしい。

 

 ……ちなみに、俺たちがいるのは、あくまで村の安全区域。

 巣穴の中へ入るわけではない。

 そこはちゃんと約束を守っている。

 

 六歳児、成長しました。

 

 ……まあ、少しだけ残念ではあるんだけどね。

 

 だってマックスダイ巣穴だぞ?

 前世だったら、即突入してた場所だぞ?

 

 いや、やめよう。

 今は我慢だ。

 

「……あら?」

 

 詰め所に入ると、一人の女性がこちらへ歩いてきた。

 

 白い上着を羽織り、手には書類の束。

 いかにも研究者といった雰囲気である。

 

「もしかして、おばあちゃんのお知り合い?」

 

「ああ、そうだよ。久しぶりだねぇ」

 

 どうやら、おばあちゃんとは顔なじみらしい。

 

「こちら、孫のリンちゃん。それから息子のコウジ」

 

「初めまして。リンです!」

 

「あら、ご丁寧にどうも!」

 

 女性が笑った。

 

「私はマックスダイ巣穴の調査をしているの。よろしくね、リン君」

 

「よろしくおねがいします!」

 

 ……ふむ。

 

 第一印象、良好。

 

 よし。ここから、さりげなく情報を引き出すとしよう。

 

 ……と、思ったのだが。

 

「それにしても、立派なグソクムシャね!」

 

「ムーちゃんです!」

 

「ムーちゃん?」

 

「はい!」

 

「……可愛い名前ねぇ」

 

 あれ、なんだろう。

 このやり取り、最近何度もやっている気がする。

 もはや定型文では?

 

 ムーちゃんはムーちゃん。

 名前が可愛いことに、何か問題でも?

 

 ……ないよね?

 

 うむ。

 

 ならよし。

 

 ♦

 

「……それで、リン君はマックスダイ巣穴に興味があるの?」

 

「はい!」

 

 俺は元気よく頷いた。

 

「なんか、へんなことが起きてるってきいた!」

 

「……あら、よく知ってるわね」

 

「おばあちゃんから!」

 

 ……うん、嘘は言っていない。

 全部を話しているわけでもないけど。

 

「実はね、最近ちょっと不思議な現象が観測されているの」

 

 女性は、机の上に置かれた資料を一枚取り出した。

 

「普段のダイマックスエネルギーとは、少し違う反応が出ているのよ」

 

 ……ほう。

 

 来たな、重要情報。

 

「どんな?」

 

「そうねぇ……説明が難しいんだけど」

 

 女性は、少し考えてから答えた。

 

「普段は一定の範囲で変化するはずのエネルギーが、突然大きく跳ね上がるの」

 

「……うん」

 

「でも、その直後には反応がほとんど消えてしまうのよ」

 

 …………。

 

 ……反応が消える?

 

「きかいがこわれたんじゃないの?」

 

「最初はそう思ったんだけどね。別の装置でも同じ現象が起きているの」

 

 ……なるほど。

 機器の故障ではない可能性が高い、と。

 

 俺は頭の中で情報を整理した。

 

 異常なエネルギー。

 突然現れて、消える反応。

 普段とは違う発光現象。

 

 ……ふむ。

 これだけなら、ダイマックス関連の異常という可能性も十分ある。

 

 だが。

 

「……あとね」

 

 女性が、少し声を落とした。

 

「実は、妙な影も観測されているの」

 

 ……来た、それだ。

 

「かげ?」

 

「ええ。巣穴の奥に設置してあるカメラに、何かが映ったのよ」

 

「ポケモン?」

 

「それが、わからないの」

 

 わからない?

 

「すごく速く動くの。映ったと思った次の瞬間には、もう画面の外にいるのよ」

 

 速い。

 異常に速い。

 しかも、正体不明。

 

 俺の脳内で、あるポケモンの姿がちらついた。

 

 細長い身体。

 異常な素早さ。

 そして、ウルトラビースト。

 

 ……いや。

 

 まだ決めつけるのは早い。

 速いポケモンなんて、いくらでもいる。

 それに、映像が不鮮明なら別の可能性だってある。

 

 ……だけど。

 

 もし、あの光が本当にウルトラホールだったとしたら。

 

「……おねえさん」

 

「ん?」

 

「それって、ダイマックスのポケモンなの?」

 

 女性は少し考えた。

 

「……今のところ、わからないわ」

 

「おおきかった?」

 

「ううん。少なくとも、巨大なポケモンには見えなかったわね」

 

 ……おや?

 

 大きくない?

 高速移動?

 エネルギー異常?

 

 ……これはますます怪しい。

 イベントフラグ、立ってません?

 

 いや、まだ早い。

 落ち着け俺。

 ここで勢いだけで答えを決めつけるのは、対戦廃人として三流である。

 

 情報は多角的に見るべきだ。

 相手の選出を一匹決め打ちして、裏から苦手なポケモンが出てきたときの絶望感。

 

 俺は何度も味わってきた。

 

 ……いやぁ、懐かしい。

 もう二度と味わいたくないですね。

 

 ♦

 

「……あの!」

 

 俺は、思い切って質問することにした。

 

「おねえさん、ウルトラホールってしってる?」

 

 ……しーん。

 

 あれ?

 急に静かになった。

 

 女性が、目を丸くしている。

 パパンも、俺の顔を見ている。

 

 ……やべ。もしかして、六歳児が口にするには専門的すぎた?

 

「……リン君?」

 

「はい!」

 

「ウルトラホールって、どうして知ってるの?」

 

 来た、この質問。

 今世に転生してから、もう何度目になるだろう。

 

 だが安心してほしい。

 俺には、長年使い続けてきた万能の言い訳がある。

 

「……ポケモンがすきなので!」

 

 完璧だ。

 百点満点、模範解答。

 

 前世の記憶を隠すうえで、これ以上便利な言葉があるだろうか。

 

 いや、ない。

 Q.E.D.

 

「……そ、そうなの?」

 

「はい!」

 

 女性が困惑している。

 

 ……うむ。

 当然の反応である。

 しかし、俺がポケモンについて異常に詳しいことは、すでに家族の間では周知の事実。

 

 パパンに至っては、もはや何も言わなくなっている。

 

「……こいつ、昔からこうなんです」

 

 パパン。その説明、雑すぎません?

 まあ、間違ってはいないけどさ。

 

「ウルトラホール……アローラ地方で研究されている、異次元につながる空間の裂け目のことね?」

 

「うん!」

 

 ……おっ、知ってた!

 

「どうして、それが関係あると思ったの?」

 

 さて、ここからが問題である。

 

 俺は一瞬、前世の記憶を整理した。

 

 ウルトラホール。

 ウルトラビースト。

 異次元から現れるポケモン。

 通常とは異なるエネルギー。

 ……そして、カンムリ雪原。

 

 だが、確信はない。

 原作ゲームとこの世界が、完全に同じとは限らないのだから。

 

「……えっとね」

 

 俺は少し考えてから答えた。

 

「ふつうとちがうひかりがでて、へんなポケモンがいるなら、べつのせかいからきたのかなって!」

 

 女性は、しばらく黙っていた。

 

 そして。

 

「……なるほど」

 

 ……ん?なんか思ったより真剣に受け止めてくれてる?

 

「確かに、そういう可能性もあるわね……」

 

 女性が資料へ視線を落とした。

 

「ウルトラホールの発生例について、もう一度調べてみる必要があるかもしれないわ」

 

 おお、採用された。

 

 六歳児の仮説が採用されたぞ!

 

 やったぜ。

 ……いや、喜んでいいのか?

 

 もし本当にウルトラホールなら、かなり大変なことになる可能性もあるわけで。

 単純に喜べる話ではない。

 

 ……ふむ。

 これは少々、慎重になる必要がありそうだ。

 

「……リン」

 

 隣にいたパパンが、小さな声で話しかけてきた。

 

「お前、本当にどこでそんな知識を覚えてきたんだ?」

 

 またその質問?

 

 パパン。

 

 そろそろ慣れよう?

 

「……ポケモンがすきなので!」

 

「……それは知ってる」

 

 …………。

 

 ですよね。

 

 ♦

 

 それから、調査員のお姉さんはもう少し資料を見せてくれた。

 

 もちろん、一般の人間にも公開できる範囲のものだけである。

 

 難しい数字や専門用語もたくさんあった。

 しかし、前世の知識がある俺にとっては、興味深いものばかりだった。

 

 特に気になったのは、エネルギー反応の変化。

 通常のダイマックスエネルギーとは、明らかに違う動きが観測されているらしい。

 

 しかも、反応が現れる時間帯も一定ではない。

 

 朝、昼、夜。

 まるで、何かが勝手に出入りしているかのような……。

 

 ……ん?出入り?

 

 もし本当に、ウルトラホールが開いているのだとしたら。

 そこから何かが出てくることも、あり得るわけで。

 

 いやいや……考えすぎかもしれない。

 

 でも、あの異常な速さの影。

 もし、それがウルトラビーストだったとしたら……。

 

 ……待てよ。

 前世で、俺がよく使っていたむしタイプのウルトラビースト。

 

 あの、とんでもない素早さを持つポケモン。

 

 フェローチェ?

 

 ……いや、さすがに早計だ。

 

 何の証拠もない。

 そもそも、フェローチェがこの場所に現れる保証なんてない。

 

 原作では出会えたからといって、今世でも同じとは限らないのだ。

 

 ……だが。

 もし、本当にフェローチェがいたとしたら。

 

 俺の中の色違い廃人が、全力で目を覚まし始めていた。

 

 色違いフェローチェ……。

 

 ……いや待て、落ち着け。

 まだ色違いどころか、フェローチェかどうかすらわからない。

 

 ここで期待しすぎるのは危険だ。

 色違い厳選で一番怖いのは、根拠のない期待。

 期待した分だけ、出なかったときのダメージが大きい。

 

 ……うん、よく知ってるとも。

 前世で何度も経験しましたからね。

 

 物欲センサー、ほんと滅びてほしい。

 

 ♦

 

「……さて」

 

 しばらくして、調査員のお姉さんが資料を片づけ始めた。

 

「リン君、今日はこのくらいにしておきましょうか」

 

「……はーい!」

 

「ふふっ。ずいぶん熱心だったわね」

 

「ポケモン、だいすきなので!」

 

「それはよくわかったわ」

 

 女性が笑う。

 

 ……うむ。

 どうやら、俺のポケモン愛は十分に伝わったらしい。

 

「ただし、絶対に一人で巣穴へ近づかないこと。いい?」

 

「はい!」

 

「お父さんやおばあちゃんの言うことも、ちゃんと聞くのよ?」

 

「はい!」

 

 なんだろう。

 最近、大人たちから同じことを言われ続けている気がする。

 

 俺、そんなに信用ない?

 

 でも今回は、本当に無茶をするつもりはない。

 

 だって、あのマスタード師匠から教わったんだぞ。

 知識だけで動くのではなく、目の前の状況をちゃんと見ること。

 それが大切なのだと。

 

 ……よし、今日は情報収集だけで十分。

 これ以上は調査員さんたちに任せよう。

 

「……ムーちゃん、かえろっか!」

 

「グソッ!」

 

 ムーちゃんも元気よく返事をした。

 

 おばあちゃんも、パパンも、安心したように笑っている。

 

 ……うむ、実に平和な一日であった。

 

 さあ、帰ったらおばあちゃんの美味しいご飯が待っている。

 

 今日は何かな。

 シチューかな、それとも鍋かな。

 寒い日の温かい料理って、最高なんだよなぁ。

 

 ……そんなことを考えながら、俺が出口へ向かおうとした。

 

 そのときだった。

 

 ――ピピッ。

 

 ……ん?

 

 どこかで、小さな電子音が鳴った。

 

 振り向くと、調査員のお姉さんが机の上の端末を見つめていた。

 

「……あれ?」

 

 女性の表情が変わる。

 

 ……ん?

 

 何かあった?

 

「……また反応が?」

 

 女性が、慌てて別の端末を操作する。

 

 画面には、何やら細かい数字が表示されていた。

 

 そのうちの一つが、急激に変化していく。

 

「……嘘」

 

 ……え?

 

 お姉さん?

 

 なんか、顔が怖いんですけど?

 

「……巣穴内部のエネルギー反応、急上昇……?」

 

 ……おや?

 

 これはもしかして、さっき話してた異常現象?

 

「……そんな。昨日の数値を超えてる……!」

 

 女性が、慌てて通信機を手に取った。

 

「こちら臨時詰め所! 巣穴内部で異常な反応を確認! 現地班、応答してください!」

 

 おいおい、ちょっと待って。

 なんか、急に雰囲気変わってない?

 さっきまで和やかにお話ししてたよね?

 どうして突然、緊急事態みたいになってるの?

 

 ……いや緊急事態なんだろうけど。

 

「……リン」

 

 パパンが俺の肩に手を置いた。

 

「おばあちゃんと一緒に、外へ出よう」

 

「……うん」

 

 俺は素直に頷いた。

 ムーちゃんも、俺の隣にぴったりと寄り添っている。

 

「グソ……」

 

 ……怖がってる。

 

 ムーちゃんの身体が、少しだけ強張っていた。

 

 俺は、その大きな前脚をそっと握った。

 

「……だいじょうぶだよ」

 

「グソ……?」

 

「パパンも、おばあちゃんもいるから」

 

 ムーちゃんが、ゆっくりと頷いた。

 

 ……うん。

 

 俺たちは、無茶をしない。

 何かあったら、ちゃんと大人たちの指示に従う。

 

 ……そのはずだった。

 

 ――ピピピピピッ!!

 

 ……え?

 

 突然、部屋中に大きな警報音が鳴り響いた。

 

『警告。異常エネルギー反応を検知』

 

『警告。巣穴内部の観測データに異常を確認』

 

 ……は?

 

 いやちょっと待て!なんか本格的にバグってません!?

 

 調査員たちが慌ただしく動き始める。

 

「現地班と連絡が取れません!」

 

「観測カメラは!?」

 

「映像、復旧します!」

 

 女性が端末を操作する。

 画面が一瞬暗くなり、次の瞬間、巣穴内部と思われる映像が映し出された。

 

 薄暗い洞窟。

 赤く輝く鉱石。

 そして、その奥に漂う奇妙な光。

 

 ……あれ?

 

 あの光。

 昨日、窓から見たものと……。

 

「……映像、拡大できますか!?」

 

 調査員の一人が叫んだ。

 画面が切り替わる。

 青紫色の光が、洞窟の奥でゆっくりと揺らめいていた。

 

 ……いや、それどう見ても普通のダイマックスエネルギーじゃないだろ。

 

「……ウルトラホール?」

 

 俺が小さく呟いた、その瞬間。

 

 ――バチッ!!

 

 画面が激しく乱れた。

 

 そして。

 

『警告。未確認の高速移動体を検知』

 

 …………。

 

 ……え?

 

『警告。観測区域内に、未確認の生体反応』

 

 …………。

 

 ……おい。

 

 それ、完全にイベント開始の合図じゃん!!

 

 調査員のお姉さんが、顔色を変えて通信機を握りしめた。

 

「……全員、現地班の安全確認を最優先! 周辺住民への注意喚起もお願いします!」

 

 そして、俺たちへ向き直る。

 

「コウジさん! おばあちゃん! すぐに安全な場所へ移動してください!」

 

「……わかりました!」

 

 パパンが俺の手を握る。

 

 おばあちゃんも頷いた。

 

 ムーちゃんが、俺たちを守るように前へ出る。

 

 俺は、最後に一度だけ画面を見た。

 

 乱れた映像。

 青紫色の光。

 そして、その奥を横切った――

 

 白い、何か。

 

 ……え?

 

 今の……いや、まさか。

 

 ……そんな。

 

 俺は思わず息を呑んだ。

 

 そのとき、詰め所の外から、ひときわ大きな警報音が響き渡った。

 

 ――ウゥゥゥゥゥ!!

 

 あの~運営さん?

 俺、ただおばあちゃんの家に遊びに来ただけなんですが?

 まだ六歳なんですが?

 そんな俺に、いきなり高難易度イベントをぶつけてくるのは、さすがにどうかと思うんですよ。

 

 ……いや、マジで、推奨レベル絶対に間違えてるでしょ!?

 

 ♦

 

 こうして。

 

 平和だったはずのカンムリ雪原に、得体の知れない異変が起ころうとしていた。

 

 その正体が何なのか。

 

 このときの俺は、まだ知る由もなかった。

 

 ……ただ一つ、はっきりと言えることがある。

 

 この世界、隠しイベントの発生条件がガバガバすぎる。

 

 勘弁してくれ、ほんとに。




今日は書き溜めから何話か投稿します。
よかったら、お気に入り、★、感想お願いします。

投稿三日くらいで思ったより反響があってうれしく思います。
今後ともお付き合いいただけますと幸いです。

感想も一つ一つ大切に読ませていただいております。
また、まとまった機会に返していこうと思いますので、たくさんのご感想お待ちしております。
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