色違いタイプ統一縛りニキのポケ界転生日記   作:霜月ルイ

19 / 20
chapter:18 色違い三匹との共同生活、難易度高すぎ問題。

 我が家には現在、三匹のポケモンがいる。

 

 一匹目。

 色違いグソクムシャ、ムーちゃん。

 見た目は歴戦の武士。中身は甘えん坊。

 

 二匹目。

 色違いシズクモ、しずく。

 小さくて可愛くて、好奇心旺盛なマイペース娘。

 

 そして三匹目。

 色違いフェローチェ、フェリヤ。

 

 圧倒的美貌。

 圧倒的素早さ。

 圧倒的潔癖。

 ついでに、俺への好感度は絶賛測定不能。

 

 ……いやぁ。

 パーティーの統一感、タイプ以外に存在しなくない?

 

 全員むしタイプ。

 全員色違い。

 

 共通点、以上。

 

 性格?

 バラバラです。

 

 生活習慣?

 バラバラです。

 

 コミュニケーション?

 一匹だけ未実装です。

 

 これもう、共同生活という名の異種族交流会だろ。

 しかも主催者は六歳児。

 

 責任者を出せ!……俺だったわ。

 

 ♦

 

「ムーちゃん! しずく! あさごはん!」

 

「グソッ!」

 

「シズッ!」

 

 朝。

 俺が声をかけると、ムーちゃんとしずくが揃ってやってきた。

 

 正確には、ムーちゃんの大きな前脚にしずくが乗っている。

 ……最近、これが標準装備になっている。

 

 グソクムシャ専用シズクモ輸送サービス。

 

 料金無料。

 安全運転。

 乗り心地抜群。

 しかも運転手がやたらと優しい。

 

 サービス精神の塊である。

 

「しずく、おりられる?」

 

「シズッ!」

 

 しずくが前脚から飛び降りようとする。

 しかし、ムーちゃんが慌てて身体を低くした。

 

「グソッ!」

 

「シズ?」

 

 ……あ。なるほど。

 

 高いところから飛び降りたら危ないってことね。

 ムーちゃん、完全にお姉ちゃんじゃん。

 

 俺は思わず頬を緩めた。

 

「ムーちゃん、やさしいねぇ」

 

「グソォッ!」

 

 褒められたムーちゃんが、嬉しそうに俺へ抱きついてきた。

 

「ぐえっ!」

 

 お姉ちゃん、俺への配慮もお願いします。

 体重差を考えよう。

 

 六歳児の耐久種族値、そんなに高くないんですよ。

 

 ♦

 

 食事の時間にも、二匹の仲のよさは発揮される。

 

「シズッ!」

 

「グソ?」

 

 しずくが、ムーちゃんのお皿を覗き込んでいる。

 どうやら、そちらのきのみが気になるらしい。

 

 するとムーちゃんは、自分の分から一つ選び、しずくのお皿へそっと転がした。

 

「シズッ!」

 

「グソッ!」

 

 尊すぎる。

 こんなの毎朝見せられたら、俺の情緒が保たない。

 

「ママン! みて! ムーちゃんが!」

 

「はいはい。しずくちゃんに分けてあげたのね」

 

「おねえちゃんしてる!」

 

「ふふっ。本当に優しい子ね」

 

 ママンも笑っている。

 

 ……ああ、平和だ。

 やっぱりポケモンとの暮らしって最高だな。

 

 なお、この幸せな朝食風景には、一匹だけ参加していないポケモンがいる。

 

「……フェリヤ?」

 

 少し離れた部屋の入り口。

 そこに、フェリヤが立っていた。

 

 相変わらず美しい。

 そして相変わらず、こちらへ近づこうとしない。

 

「フェリヤも、ごはんたべる?」

 

「…………」

 

 無言。

 

「きのみ、あるよ?」

 

「…………」

 

 視線だけが、俺の手元へ向けられる。

 

 ……おっ。

 食べたいのか?

 

「もっていこうか?」

 

 俺が立ち上がると。

 

 すっ。

 

 フェリヤが一歩下がった。

 

 ……はい、拒否られました。

 まだ近づくなということですね。

 

 了解であります。

 

「……じゃあ、いつものところにおいとくね」

 

 俺はフェリヤ専用のお皿にきのみを盛り、部屋の前の決められた場所へ置いた。

 そのまま離れる。

 

 フェリヤは、こちらが十分に距離を取ったことを確認してから、静かにお皿へ近づいていった。

 

 これでいい。

 少なくとも、ちゃんと食べてくれるようにはなった。

 

 それだけでも、雪原にいた頃と比べれば大きな進歩だ。

 

 ……とはいえ。

 同じ屋根の下で暮らしているのに、食事の受け渡しが非接触配送方式なんですが?

 

 俺、宅配業者だったっけ。

 

 ♦

 

 午後。

 俺は庭で、ムーちゃんとしずくの遊び相手をしていた。

 

「しずく、こっち!」

 

「シズッ!」

 

 小さな水桶を用意すると、しずくが勢いよく飛び込んだ。

 

 ぱしゃん!

 

 水泡がぷるぷる揺れる。

 

「シズー!」

 

「おお! たのしそう!」

 

 しずくは水の中を泳ぎ回り、時折こちらへ顔を出した。

 ムーちゃんは桶の隣にしゃがみ込み、その様子をじっと見守っている。

 

 ……完全に監視員である。

 しずくが桶の縁へ登ろうとすれば、前脚を差し出す。

 

 少し離れた場所へ歩こうとすれば、危なくないか確認するようについていく。

 お姉ちゃん、働き者すぎる。

 

「ムーちゃん、そんなにしんぱいしなくてもだいじょうぶだよ?」

 

「グソ……」

 

 ……あ、ちょっと不安そう。

 

 そうだよな。

 ムーちゃんは元々、怖がりな子だ。

 

 大切なしずくに何かあったらと思うと、心配なのだろう。

 

 でも。

 

「しずくも、じぶんでできることあるからね!」

 

「……グソ?」

 

「こまったときに、たすけてあげよ!」

 

 ムーちゃんが少し考え、頷いた。

 

「グソッ!」

 

 ……うん、そうそう。

 守ることと、何もかも代わりにしてあげることは違うからな。

 

 ……ん?なんか俺、ちょっと保護者っぽくない?

 六歳児なのに。

 

 前世の精神年齢も合わせたら大人だけど。

 ……いや、考えるのやめよう。

 

 ややこしくなる。

 

 ♦

 

「……フェリヤ!」

 

 俺は、少し離れた窓際にいるフェリヤへ声をかけた。

 

「いっしょにあそばない?」

 

 フェリヤは庭を一瞥した。

 

 桶の中ではしゃぐしずく。

 それを見守るムーちゃん。

 そして、満面の笑みで手を振る俺。

 

 ……どうだ?

 楽しそうだろう?

 参加したくなってきただろう?

 

「…………」

 

 フェリヤは、静かに顔を背けた。

 

 ……あっはぁ~い。

 解散、勧誘失敗です。

 

 俺は、その場にしゃがみ込んだ。

 

「……おれ、なにかきらわれることした?」

 

「シズ?」

 

 しずくが首を傾げる。

 

「グソ?」

 

 ムーちゃんも首を傾げる。

 

 誰も答えを知らない件について。

 

 いや、まあ。

 嫌われていると決まったわけじゃない。

 

 まだ信用されていないだけかもしれない。

 でも、ここまで徹底して距離を取られると、さすがに気になる。

 

 元世界一位の俺が、ポケモン一匹の気持ちすら読めない。

 ……バトルなら得意なのになぁ。

 

 相手の行動を読むのも。

 勝ち筋を探すのも。

 積み重ねてきた経験には自信がある。

 

 だけど、フェリヤとの間に必要なのは、勝つことじゃない。

 

 ……難しいな、これ。

 

 ♦

 

 そんなある日のこと。

 俺は、ちょっとした発見をした。

 

 フェリヤの食事が終わったあと、部屋へ食器を取りに行ったときである。

 

「……あれ?」

 

 お皿がない。

 

 いや、正確にはいつもの場所に、ない。

 

 慌てて周囲を探す。

 

 すると。

 

「あっ!」

 

 棚の端に、使い終わった食器が綺麗に並べられていた。

 大きさごとに分けられ、向きまで揃っている。

 水の器も、きちんと隣に置かれていた。

 

 ……何これ。

 ホテルの朝食会場?

 

「……フェリヤが、やったの?」

 

 少し離れた場所にいたフェリヤへ尋ねる。

 

 返事はない。

 しかし、こちらをちらりと見た。

 

 ……ふむ。

 少なくとも、否定する様子はない。

 

 それに、ママンもイエッサンも、まだ片づけには来ていない。

 つまりフェリヤが自分で並べた可能性が高い。

 

 ……おお、なるほど。

 潔癖なだけじゃない。

 整理整頓も好きなのか。

 

 前世の知識では、フェローチェが汚れを嫌うことは知っていた。

 でも、この子が食器の向きまで揃えるなんて知らなかった。

 

 ……いや、攻略サイトにそんな情報、載ってるわけないんだけど。

 俺は並んだ食器を見つめた。

 

 ……こういう発見を、一つずつ増やしていけばいいのかな。

 

「……フェリヤ、ありがと!」

 

 声をかける。

 

 フェリヤは、何も言わなかった。

 ただ、俺が食器を持ち上げる様子をじっと見ていた。

 

 ……ん?なんだろう。

 何か気になる?

 

 俺は食器を持ち直し、台所へ向かった。

 そのとき。

 

 フェリヤの視線が、俺の指先へ移った気がした。

 ……指?

 

 ……あ。さっき、しずくと遊んでたから、少し濡れてるかも。

 もしかして、それ?

 

 衛生管理チェック、常時発動型なんですかね!?

 

 ♦

 

 翌朝。

 俺は、一つの決意を胸に掃除道具を手に取った。

 

 ……そう。

 

 フェリヤのために、もっと綺麗な環境を作るのである。

 

 床を拭き。

 机を拭き。

 棚の埃を取り。

 最後に、窓際までしっかり掃除。

 

 ……完璧。

 

 これはもう満点でしょう。

 

「ママン! おそうじおわった!」

 

「あら、ありがとう。よくできたわね」

 

 よし!ママンからも高評価!

 これならフェリヤも、きっと満足してくれるはず。

 

「フェリヤ! みてみて!」

 

 俺は、綺麗になった部屋を指差した。

 

「ぴかぴか!」

 

 フェリヤが、ゆっくりと室内へ入ってきた。

 

 床を見る。

 棚を見る。

 窓を見る。

 

 ……おっ。

 確認してくれている。

 

 どうだ?

 どうなんだ?

 

 フェリヤ先生!

 今回の出来栄えは!

 

 フェリヤが、窓際へ近づいた。

 

 そして。

 

 棚の上に置いてあった布を手に取る。

 

 すっ。

 

 きゅっ。

 

 きゅっ。

 

 あれ、拭いてる?

 俺がさっき掃除した場所を?

 

 フェリヤは、何も言わずに棚を拭き直した。

 

 続いて窓枠。

 さらに机の端。

 最後に、俺が見落としていた小さな埃を取り除く。

 

 追試、開始されました。

 

「……フェリヤ?」

 

「…………」

 

「……おれのそうじ、あかてん?」

 

 無言。

 

 フェリヤは淡々と作業を続ける。

 

 ……いや、待って。

 そんなに駄目だった?

 

 ママンからは褒められたんだけど?

 フェリヤ先生、採点厳しすぎません?

 

「……もしかして」

 

 俺は、思わず呟いた。

 

「衛生観念に努力値252振りですか?」

 

 フェリヤは、ちらりと俺を見た。

 そして、再び机を拭き始めた。

 

 回答なし。

 

 でも、なんとなくわかった。

 フェリヤの清潔基準。

 俺の想像より、はるかに高い。

 

 これ、掃除検定一級でも足りないのでは?

 

 ♦

 

 結局、その日の掃除はフェリヤの手によって仕上げられた。

 

 俺は、その様子を少し離れた場所から眺めていた。

 

 相変わらず、フェリヤは俺に近づかない。

 名前を呼んでも、ほとんど反応しない。

 一緒に遊んでくれるわけでもない。

 

 ……でも。

 今日、少しだけ新しいことを知った。

 

 フェリヤは、食器を綺麗に並べる。

 埃を見つけるのが得意。

 そして、掃除については一切妥協しない。

 

 ……うん。

 昨日よりは、ほんの少しだけ詳しくなれた気がする。

 

「……フェリヤ」

 

 俺は、小さく笑った。

 

「また、おそうじおしえてね」

 

 返事はなかった。

 フェリヤは、使い終わった布を綺麗に畳み、元の場所へ戻した。

 

 ……ああ、そうか。

 仲良くなるって、何も一緒にバトルすることだけじゃないんだ。

 

 同じ家で暮らして。

 相手の好きなものを知って。

 苦手なことを知って。

 少しずつ、距離を縮めていく。

 

 ……そういうことなんだろう。

 

 そのとき。

 

「シズッ!」

 

「グソッ!」

 

 廊下から、ムーちゃんとしずくが顔を出した。

 

 しずくは今日も、ムーちゃんの前脚に乗っている。

 

 ……平和だなぁ。

 

 俺は二匹へ手を振った。

 

「ムーちゃん! しずく!」

 

 そして、フェリヤを見る。

 

 ……いつか。

 フェリヤも、この輪の中に入ってくれたらいいな。

 

 そう思った。

 

 ……なお、その直後。

 

「シズッ!」

 

 しずくが勢いよく俺の部屋へ飛び込んできた。

 

 ぷるんっ。

 水泡から、小さな水滴が飛ぶ。

 

 ぽたっ。

 綺麗になった床に、一滴。

 

 フェリヤが、ゆっくりと振り返った。

 

 ……あ、これはまずいっす。

 

「……しずく?」

 

「シズ?」

 

「……にげろ」

 

 第二回・大掃除、開幕。

 

 ちなみに俺も、しっかり参加させられました。

 

 ……なんでや。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。