色違いタイプ統一縛りニキのポケ界転生日記   作:霜月ルイ

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chapter:27 師匠、ウッウロボ禁止って聞いてません!

「リン、見てよ! ついに完成したんだ!」

 

「……ハイド」

 

「うん!」

 

「……これは、まさか」

 

「そう! ウッウロボの新しい管理システムだよ!」

 

 神はいた。

 しかもヨロイ島にいた。

 

 俺は今、猛烈に感動している。

 何しろ目の前には、以前よりさらに改良されたウッウロボ。

 素材の投入履歴を記録し、過去の生成結果を確認できるようになったらしい。

 

 素晴らしい。

 実に素晴らしい。

 ぼんぐりを大量投入して、何が出てきたか一つずつメモしていた日々とはおさらばである。

 

「ハイド! これ、さっそくためしていい!?」

 

「もちろん! 今日は新しい組み合わせも――」

 

「二人とも?」

 

 聞き覚えのある声。

 

 そして、背筋に走る謎の緊張感。

 振り返ると、そこには満面の笑みを浮かべたミツバさんが立っていた。

 

「研究を始める前に、何かすることがあったんじゃないかしら?」

 

「…………」

 

「…………」

 

 俺とハイドは顔を見合わせた。

 

「……修行?」

 

「そうね」

 

「……研究は?」

 

「修行が終わってからね」

 

 ウッウロボ、使用制限付きコンテンツだった件。

 

 おかしい。

 俺はこの島へ修行に来たはずなのに。

 なぜ一番楽しみにしているものが、毎回報酬枠に設定されているのだろうか。

 

 ……いや。

 修行に来たからか。

 

 ぐうの音も出ない。

 

 ♦

 

 ところで皆様。

 俺には、前世から得意としていたものがある。

 

 ポケモンバトル。

 色違い厳選。

 そして、効率化だ。

 

 厳選に必要な時間を計算し、最短手順を組み立て、無駄な操作を削る。

 そうして浮いた時間で、さらに厳選する。

 

 ……何?

 浮いた時間で休めって?

 色廃にそんな発想はありません。

 

 そして今。

 この能力を使うときが来た。

 

「……よし!」

 

 俺はノートを開いた。

 

 題して。

 

 『リン式・修行最適化計画』

 

 目的は単純。

 修行をきっちり終わらせる。

 

 そして、ウッウロボの研究時間を確保する。

 ただし、修行の質は落とさない。

 つまり、同じ時間でより多くの成果を得ればいいのだ。

 

 ……完璧。

 俺、天才では?

 

 さっそく時間割を作成する。

 

 朝五時、起床。

 ……サイトウちゃんとの早朝練習に慣れた成果である。なお、寝起きの良さは別問題だ。

 六時半、掃除。

 七時、朝食。

 八時、基礎鍛錬。

 

 九時、野外修行。

 十時、ぼんぐり採取。

 十一時、ポケモンの観察。

 十二時、昼食。

 十三時――

 

「……あれ?」

 

 俺は鉛筆を止めた。

 

 野外修行とぼんぐり採取。

 これ、同時にできるのでは?

 

 というか、散歩とポケモン観察も一緒にできる。

 

 ……ふむ。

 これは。

 

 ひょっとして。

 大幅な時間短縮が可能なのでは!?

 

 ♦

 

「師匠ぉぉぉ!!」

 

「ほっほっほ! 朝から元気じゃのう、リンちゃん!」

 

 翌朝。

 俺はマスタード師匠のところへ駆け込んだ。

 

 手には、昨夜作った計画表。

 自信作である。

 

「師匠! これみて!」

 

「ほう? なんじゃなんじゃ?」

 

「しゅぎょうの、じかんわり!」

 

 師匠が紙を受け取る。

 そして、書かれた内容を眺めた。

 

「……ほうほう」

 

「このルートなら、さんぽとぼんぐりひろいとしゅぎょうを、どうじにできる!」

 

 俺は地図を指差した。

 

「しかも、むしポケモンのかんさつもできる!」

 

「……またぼんぐりかの?」

 

「いっせきさんちょう!」

 

「四つあるようじゃが?」

 

「いっせきしちょう!」

 

「増えたのう」

 

 しまった。

 勢いで盛ってしまった。

 

「それでのう、リンちゃん」

 

「なに?」

 

「この道、往復でどれくらいかかるんじゃ?」

 

「……さんじゅっぷん!」

 

「普通に歩けば一時間ほどじゃぞ?」

 

 ……あ。

 

「……はしれば!」

 

「しずくちゃんは、ついてこられるかの?」

 

 俺はムーちゃんの前脚に乗ったしずくを見た。

 

「シズ?」

 

 確かにしずくはまだ小さい。

 ムーちゃんに乗っていれば移動できるが、それではムーちゃん自身の負担になる。

 

「……じゃあ、よんじゅっぷん!」

 

「途中で休憩も必要じゃのう」

 

「……ごじゅっぷん」

 

「ポケモンの観察もするんじゃろ?」

 

「……いちじかん」

 

 あれ?おかしいな。

 どこで計算が狂った?

 

「ほっほっほ! 効率を考えるのはよいことじゃ」

 

 師匠は笑いながら、計画表を返してくれた。

 

「じゃが、急いで歩いたら、見えるものも見えなくなるぞい」

 

「……うぅ」

 

「それに、身体を休めるのも修行のうちじゃよ」

 

 ……なるほど。

 休憩時間を削れば効率が上がると思っていたけど、そう単純じゃないらしい。

 

 前世のゲームではボタンを押せば回復できた。

 しかし、現実の身体にそんな便利機能はない。

 

 ……くっ。

 現実世界、仕様が細かい。

 

「それで、師匠」

 

「なんじゃ?」

 

「ぼんぐりひろいは、していい?」

 

「ほっほっほ! 本当に好きじゃのう!」

 

 師匠が大笑いした。

 

 俺の計画表を覗き込んでいたムーちゃんが、しずくを抱えたまま小さく首を傾げている。

 

 ああ、そうか。ムーちゃんにとっては、俺の予定どおりに歩くことより、しずくが安心して移動できることの方が大切なんだよな。フェリヤにも、その日の気分や疲れ具合がある。

 

 全部を同じ時間割にはめ込もうとした時点で、俺の最適化計画は片手落ちだったらしい。

 

 ……くっ。効率化にも、相手の都合というパラメータがあるのか。現実のシミュレーション、奥が深すぎる。

 

「ちみは成長しとるのか、しとらんのか、わからん子じゃなぁ」

 

 失礼な。

 俺は成長しております。

 

 身長も伸びたし、ポケモンも六匹になったし。

 何より、ぼんぐりを拾う手際なんて以前の倍くらい速いんですよ?

 

 ……成長の方向性、これで合ってる?

 

 ♦

 

 結局、俺の効率化計画は一部だけ採用された。

 

 午前中はポケモンとの野外修行。

 道中でぼんぐりを見つけたら、必要な分だけ採取してもいい。

 ただし、フェリヤが同行する場合は、彼女のペースを優先する。

 

 疲れたら休む。

 無理に予定を詰め込まない。

 

 ……うん。

 

 まあ、妥当だな。

 

「ムーちゃん! しずく! ルージュ! モス! かえで!」

 

「グソッ!」

 

「シズッ!」

 

「アブリッ!」

 

「ストライッ!」

 

「メラッ!」

 

 五匹が揃って返事をした。

 そして、少し離れたところにはフェリヤ。

 

 今日は俺たちと一緒に歩くらしい。

 ……おっ嬉しい。

 

 ただし、本人には何もお願いしない。

 師匠との約束である。

 

 フェリヤがどう過ごしたいのかを、もっと知ること。

 そこは忘れちゃいけない。

 

 さて、出発だ!

 

 ♦

 

 二時間後。

 

「……つかれた」

 

「グソ……」

 

 俺は道場の縁側に座り込んでいた。

 隣には、同じく疲れた様子のムーちゃん。

 

 その前脚では、しずくが気持ちよさそうにくつろいでいる。

 ……君だけ元気だな?

 

 ルージュは花畑で遊び回り、モスは野生ポケモンとの軽い練習に夢中。

 かえでは途中で転びかけたしずくを助けようとして、逆にムーちゃんに救助されていた。

 

 そしてフェリヤは、最後まで自分の歩く場所を選びながらついてきた。

 ……うん。

 

 それぞれにとって、いい時間だったと思う。

 ただし。

 

「リン君!」

 

 ミツバさんが顔を出す。

 

「お昼を食べたら、食器のお片づけをお願いね!」

 

「……はい」

 

「それから午後は、道場のお掃除もあるわよ!」

 

「……はい」

 

 あれ、ウッウロボは?

 俺の研究時間、どこいった?

 昨日立てた計画では、もう少し余裕があるはずだったんだけど。

 

 ……なるほど。

 計画に家事を入れ忘れていた。

 

 痛恨のミス。

 

 現実のタスク管理、難易度高くない?

 

 ♦

 

 それでも、午後の修行と当番を終えたあと。

 ようやく俺は、ハイドの研究室へたどり着いた。

 

「ハイドぉぉ!」

 

「リン! お疲れさま!」

 

「やっと、けんきゅうできる!」

 

「うん! 今日は新しい記録機能を試そう!」

 

 ……ふっふっふ。

 待ちに待った研究時間である。

 

 室内には改良されたウッウロボ。

 その横には、色ごとに分類されたぼんぐりや、実験用の材料が並んでいた。

 以前の研究室より、ずいぶん整っている。

 

 ……いや、整っている?

 

「……ハイド」

 

「ん?」

 

「このへん、けっこうちらかってない?」

 

 俺が指差した先には、机の端に積まれた工具。

 棚には使い終わった容器。

 

 床の隅には、細かな材料の破片が落ちている。

 

「えっ? そうかな?」

 

「……うん」

 

「どこに何があるか、ぼくは全部わかるよ?」

 

 ……出た、片づけられない人間の常套句。

 いや、俺も人のこと言えないんだけど。

 

 自分の部屋で何度ママンに怒られたことか。

 ……しかしフェリヤが来たら、間違いなく嫌がりそうだ。

 

「……ハイド、まずおそうじしない?」

 

「えー!? 研究時間が減っちゃうよ!」

 

「でも、フェリヤが――」

 

 そのときだった。

 

 ――カタン。

 

 小さな音がした。

 

「……ん?」

 

 振り返る。

 研究室の入り口に、フェリヤが立っていた。

 

 フェリヤ?

 どうしてここに?

 

「……フェロ」

 

 フェリヤは室内を見回した。

 

 そして。

 

 ぴたりと視線が止まる。

 机の上に放置された、汚れた工具。

 

 これは、非常に嫌な予感。

 フェリヤは、ゆっくりと机へ近づいた。

 

 俺とハイドが見守る中、工具を一つ手に取る。

 

 そして。

 

 すっ。

 

 布で汚れを拭き取った。

 続いて、別の工具。

 

 きゅっ。

 

 さらに、容器の位置を揃え始める。

 

 ……えぇ。何してるの?

 

「……リン」

 

 ハイドが、小声で話しかけてきた。

 

「……うん」

 

「あの子、何してるの?」

 

「……そうじ」

 

「……え?」

 

「……そうじしてる」

 

 なんということでしょう。

 

 ウルトラビースト。

 UB02 BEAUTY。

 異世界からやってきた、圧倒的な素早さを誇るポケモン。

 

 現在。

 研究室の整理整頓を担当しております。

 

 いや、何その才能?

 

 戦闘以外の適性が高すぎるんですが?

 

 ♦

 

 フェリヤの動きは、実に正確だった。

 

 工具を大きさごとに並べる。

 容器の向きを揃える。

 汚れた部分を丁寧に拭き取る。

 ただし、ウッウロボ本体には触れない。

 

 危険なものと、そうでないものを見分けているのだろうか。

 

 ……いや。

 勝手にそう決めつけるのはよくないな。

 

 単純に、汚れが気になっただけかもしれない。

 

 何にしてもすごい。

 俺とハイドが二人で片づけるより、明らかに手際がいい。

 

「……フェリヤ」

 

 俺は、思わず名前を呼びかけた。

 

 しかしそこで口を閉じた。

 

 ……そうだった。

 今は、無理に関わろうとしない修行中。

 

 フェリヤが自分から何かをしているなら、邪魔をしないほうがいい。

 俺は、静かにその様子を見守った。

 

 やがて。

 

「……フェロ」

 

 フェリヤが、最後の工具を机へ置いた。

 

 そして、部屋の中を一度見回す。

 

 完璧。

 まるで新品の研究室である。

 

「……すごい」

 

 ハイドが呟いた。

 

「……うん」

 

 俺も頷く。

 

 すると、フェリヤがこちらを見た。

 ほんの一瞬。

 

 俺とハイドの顔を、順番に眺める。

 

 そして。

 何も言わず、研究室を出ていった。

 

「……ハイド」

 

「……うん」

 

「……いまの、みた?」

 

「見た」

 

「……フェリヤ、じぶんからきてくれた」

 

「そうだね」

 

 俺は、綺麗になった机を見つめた。

 二年前。フェリヤは、俺が近づくだけで距離を取っていた。

 

 同じ部屋にいることさえ、難しかった。

 

 それが今。

 自分から研究室へ来て。

 

 俺たちの目の前で、何かをして。

 そして、自分の意思で出ていった。

 

 小さなことかもしれない。

 単に汚れが気になっただけなのかもしれない。

 

 それでも俺にとっては、嬉しい出来事だった。

 

 ♦

 

「……ハイド」

 

「……なに?」

 

「……フェリヤ、けんきゅうチームにはいってくれた?」

 

 ハイドが、俺を見た。

 

 それから、綺麗になった工具を見つめる。

 

「……片づけに来ただけじゃない?」

 

 夢を壊さないでくれ!!

 いや、わかってるよ!?

 俺だって、それくらいわかってる!

 

 でもさ!

 ちょっとくらい期待したっていいじゃん!

 もしかしたら、研究に興味があるのかもしれないし!

 

「でもリン」

 

「……なに?」

 

「フェリヤのおかげで、研究しやすくなったのは確かだよ」

 

 確かに?

 

 工具は整理され、机も綺麗になった。

 

 これなら、材料の確認も進めやすい。

 

「……じゃあ、おれたちもがんばろう!」

 

「うん!」

 

 俺たちは顔を見合わせた。

 

 そして、ウッウロボの前へ向き直る。

 

 ……よし。

 研究再開だ!

 

 その瞬間。

 

「リンくーん! ハイドー!」

 

 研究室の外から、ミツバさんの声が響いた。

 

「お夕飯の時間よー!」

 

 俺は時計を見た。

 研究室へ入ってから、すでに結構な時間が経っている。

 

 掃除を見守り、感動し、ハイドと話しているうちに。

 気づけば、夕食の時間。

 

 今日の研究成果は?

 

「……ハイド」

 

「……うん」

 

「……ウッウロボ、うごかした?」

 

「……まだ」

 

 研究時間、掃除だけで消滅しました。

 

 おかしい……こんなはずでは。

 完璧な効率化計画を立てたはずなのに。

 何なら、昨日より研究できていないんですが?

 

「ほっほっほ!」

 

 いつの間にか、研究室の入り口にマスタード師匠が立っていた。

 

「リンちゃん、今日もよい修行になったようじゃのう!」

 

 ……師匠。

 

 何を言っているんですか。

 俺、ウッウロボを一回も動かしてないんですよ?

 

 すると師匠は、綺麗に整理された机を眺めて笑った。

 

「じゃが、フェリヤちゃんの新しい一面は見つかったんじゃろ?」

 

 俺は、もう一度机を見た。

 フェリヤが自分から研究室へ入ってきたこと。

 

 俺たちがいる場所で、落ち着いて行動していたこと。

 そして、何も求められずに、自分の意思で片づけをしたこと。

 

 ……うん、確かに。

 今日の修行としては、大きな収穫だったのかもしれない。

 

 それに、改めて考えれば、フェリヤは俺たちの研究のために掃除をしたわけじゃない。何が気になってあの部屋へ来たのか、本当のところはわからない。

 

 便利だからといって、明日も片づけを頼むのは違うだろう。研究室を汚した俺たちが、自分で片づければいい話だ。

 

 ……ハイド、今度から工具を元の場所へ戻そうな。いや俺もなんだけどね。

 

「……師匠」

 

「なんじゃ?」

 

「……フェリヤのこと、ちょっとしれた!」

 

「ほっほっほ! それはよかったのう!」

 

 まあ、いいか。

 研究は明日でもできる。

 

 でも、今日のフェリヤの行動は、今日しか見られなかったものだから。

 

 ……ただし。

 俺は一つだけ、師匠に確認しておきたいことがある。

 

「……師匠」

 

「うむ?」

 

「……あしたは、ウッウロボつかってもいい?」

 

「修行とお手伝いが終わったらのう!」

 

 師匠、そこはもう少し融通利かせてくれません!?

 こうして、俺の修行効率化計画は見事に失敗した。

 

 ただ、フェリヤの観察日記には、新しい一行が追加された。

 

『フェリヤは、ちらかったものを、じぶんからかたづけることがある』

 

 ……うん。今日は、これで十分。

 

 なお、ハイドからは翌日。

 

『掃除専用ウッウロボって作れないかな?』

 

 と相談されました。

 

 ……お前、母親に怒られる未来しか見えないぞ。

 

 




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