色違いタイプ統一縛りニキのポケ界転生日記   作:霜月ルイ

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chapter:28 二度目の卒業、今度はちゃんと修行した。 

「ムーちゃん! 正面から受けなくていい! 右へ回って!」

 

「グソッ!」

 

「コジョンド、追うんじゃ!」

 

「ジョンドッ!」

 

 道場のバトルコートに、激しい足音が響いた。

 ムーちゃんの白い装甲を、コジョンドの長い腕がかすめる。

 

 鋭い一撃。

 だが、ムーちゃんは慌てなかった。

 

 身体を捻り、相手の攻撃を受け流す。

 

「よし! そのまま距離を取ろう!」

 

「グソッ!」

 

 ……うん。いい感じだ。

 

 以前のムーちゃんなら、驚いて俺のところへ戻ってきただろう。

 それが今では、ちゃんと相手を見て、自分で動けるようになった。

 

 俺も、無理な攻撃を命じなくなった。

 勝てる場面でも、危険なら引く。

 仲間の状態を見て、作戦を変える。

 

 ……そう。現在、俺たちは。

 二度目の卒業試験、真っ最中なのである!

 

 ♦

 

 ヨロイ島へ戻ってきてから、約一年。

 俺は十歳になった。

 

 初めてこの島へ来たときは、まだ小さな子供だった。

 ……いや、今も十分子供なんですけどね。

 

 ただ、あの頃とは随分と状況が違う。

 

 手持ちは六匹。

 全員色違い。

 全員むしタイプ。

 

 そして、全員と同じように戦えるわけではない。

 ムーちゃんは相変わらず甘えん坊だが、いざというときは頼れるお姉さん。

 

 しずくはマイペースながら、少しずつ技を使えるようになった。

 ルージュは自由奔放。最近は花粉を振りまく前に周囲を確認するようになった。

 

 ……確認するだけで、振りまくのはやめないんですけど。

 

 モスは相変わらずの戦闘狂。

 ただ、交代の指示を聞いてくれる機会が増えた。

 かえでも、危険な相手に突っ込む前に、一度こちらを見るようになった。

 

 そして、フェリヤ。

 彼女だけは、今もバトルに参加していない。

 

 でも、以前ほど遠くにはいない。

 最近では、俺たちの練習を眺めたり、同じ縁側で休んだりすることもある。

 

 ……それだけ。

 だけど、俺にとっては大きな変化だった。

 

 ♦

 

「リンちゃん! まだまだいくぞい!」

 

「望むところ!」

 

 師匠の声で、意識をコートへ戻す。

 今日の卒業試験は三対三。

 

 俺が選んだのは、ムーちゃん、モス、ルージュ。

 しずくとかえでは、観客席から応援してくれている。

 

 そしてフェリヤは、少し離れた日陰。

 本人が選んだ場所で、静かにこちらを見ていた。

 

「ムーちゃん! 一度戻って!」

 

「グソッ!」

 

 ムーちゃんが頷き、俺のところへ下がってくる。

 以前の俺なら、まだ戦えるからと続投させていただろう。

 

 だが、今は違う。

 ムーちゃんの呼吸が少し荒い。

 無理に続ける必要はない。

 

「次はモス!」

 

「ストライッ!」

 

 鋭い鎌を持つストライクが、勢いよく飛び出した。

 

 ……こいつ。

 相変わらず出番になるとテンション高いな。

 

 嬉しそうに鎌を構えている。

 

「モス、焦るなよ!」

 

「ストライッ!」

 

 ……返事はいい。

 さて、問題は実際に聞いてくれるかどうか。

 師匠のコジョンドが踏み込む。

 

「今じゃ! とびひざげり!」

 

 鋭い蹴りが迫る。

 モスが迎え撃とうとした。

 

 ……以前なら、ここで正面からぶつかっていた。

 

「モス! 上に避けて!」

 

「ストライッ!」

 

 羽を広げ、一気に跳び上がる。

 コジョンドの蹴りが空を切った。

 

「今だ! アクロバット!」

 

 ――ザシュッ!

 

「ジョンドッ!」

 

 鋭い一撃が決まり、コジョンドが後退する。

 

「いいぞ、モス!」

 

「ストライッ!」

 

 モスが鎌を掲げた。

 

 ……うん、まだちょっと突っ込みたそうだけど。

 今のは、ちゃんと俺の指示を聞いてくれた。

 

 それが嬉しかった。

 

 ♦

 

 試合は、その後も一進一退だった。

 ルージュの素早い動きで相手を翻弄し、ムーちゃんで攻撃を受け止める。

 

 モスは勝負に熱くなりかけたものの、今度は自分から一度距離を取った。

 完璧な連携ではない。

 

 指示が遅れることもあるし、予想外の行動だって起きる。

 

 それでも。

 みんなが、俺の声を聞こうとしてくれている。

 

 そして俺も、みんなの様子を見るようになった。

 やがて最後の攻防が終わり、師匠が手を上げた。

 

「そこまでじゃ!」

 

 ……ふぅ。

 

 終わった。

 

「ありがとうございました!」

 

「グソッ!」

 

「ストライッ!」

 

「アブリッ!」

 

 俺たちは、師匠とポケモンたちへ頭を下げた。

 勝敗は、師匠の勝ち。

 

 ……いやぁ、強い。本当に強い。

 十歳の俺が、そう簡単に勝てる相手ではない。

 

 最後の攻防で、俺はルージュが空いた間合いへ入れると思った。ところが師匠は、俺がルージュへ視線を向けた瞬間に次の交代を読んでいたらしい。コジョンドが一歩ずれただけで、こちらの狙っていた軌道が塞がれた。

 

 何というか、対戦の奥行きが違う。

 

 前世なら「択負けした」で片づけたかもしれない。でも今は、相手の姿勢や仲間の呼吸まで見えている。その情報を拾い切れていないのが悔しかった。

 

 それでも、ムーちゃんが疲れたときには無理に続投させなかったし、モスも俺の声を聞いて距離を取れた。勝てなかった試合にも、できるようになったことがある。

 

 ……師匠、次はもう少しいい勝負をしてみせますからね。

 

 しかし。

 

「ほっほっほ! よいバトルじゃったぞ、リンちゃん!」

 

 師匠は、とても嬉しそうに笑っていた。

 

 ♦

 

「ところで、リンちゃん」

 

「はい?」

 

「今日はフェリヤちゃんを使わんかったのう?」

 

 ……あぁ、その質問か。

 俺は少し離れた場所にいるフェリヤを見た。

 

 彼女は、いつものように静かに座っている。

 

「……うん」

 

「どうしてじゃ?」

 

 どうして、か。

 理由は簡単だった。

 

「まだ、本人が戦いたいって言ってないから」

 

 師匠は、何も言わなかった。

 

「フェリヤが強いのは知ってるよ。すごく速いし、きっとバトルでも活躍できると思う」

 

「うむ」

 

「でも、だからって無理に戦わせたくない」

 

 俺は、もう一度フェリヤを見る。

 

「いつか一緒に戦ってくれたら嬉しい。でも、今はまだ、そのときじゃないんだと思う」

 

 師匠は、静かに目を細めた。

 

 そして。

 

「……ほっほっほ」

 

 優しく笑った。

 

「立派になったのう、リンちゃん」

 

 師匠の声は、普段の冗談めいた調子より少しだけ柔らかかった。

 

 俺は足元の砂を見た。勝負に負けて悔しいはずなのに、それ以上に、ちゃんと見てもらえていたことが嬉しい。

 

 フェリヤが戦わなかったのは、決して戦力を忘れていたからではない。あの子が望んでいないからだ。その判断も、今日の試験の一部だったのだと思う。

 

 ……え?今ので?

 

「昔のちみなら、きっとフェリヤちゃんをどうやって戦わせるか、考えておったじゃろうな」

 

「……うん」

 

「じゃが今は、戦わせないという選択ができる」

 

 師匠が、俺の頭を撫でた。

 

「それも、トレーナーに必要な強さじゃよ」

 

 なんだろう。

 胸の奥が、少しだけ熱くなった。

 

 俺は前世で世界一位になった。

 勝つための知識なら、誰にも負けない自信があった。

 

 だけどこの世界でポケモンと暮らして、初めてわかったことがたくさんある。

 

 強さだけじゃ、足りない。

 勝利だけでも、足りない。

 相手が何を望んでいるのか。

 何を怖がっているのか。

 

 それを知ろうとすることが、何より大切なのだ。

 

「……師匠」

 

「なんじゃ?」

 

「俺、少しは成長できたかな?」

 

「ほっほっほ! もちろんじゃ!」

 

 師匠は、力強く頷いた。

 

「リンちゃん。二度目の修行、卒業じゃ!」

 

「……やった」

 

 思わず、拳を握った。

 

「やったぁぁぁ!!」

 

「グソォッ!」

 

「シズッ!」

 

「アブリッ!」

 

「ストライッ!」

 

「メラッ!」

 

 みんなが、嬉しそうに鳴いた。

 

 ……うん、嬉しい。

 すごく嬉しい。

 

 でも。俺は、フェリヤを見た。

 彼女は何も言わない。

 

 ただ、こちらを見ていた。

 

 ……まだ、終わっていない。

 フェリヤとの関係は、これからも続いていく。

 

 だからこそ卒業は終わりじゃない。

 

 俺は、そう思った。

 

 ♦

 

 卒業が決まった日の夕方。

 道場では、ささやかなお祝いが開かれた。

 

「リン君、本当にお疲れさま!」

 

「ミツバさん、ありがとう!」

 

「今度は六匹も連れて来たから、賑やかだったわね」

 

「……お世話、たいへんだった?」

 

「とっても、ね」

 

 すみません。

 そこは、本当にすみません。

 

 何しろ、ルージュは花粉を振りまくし。

 モスは庭の木に斬りかかるし。

 かえでは熱くなりすぎるし。

 しずくはムーちゃんの後を追いかけるし。

 

 ……うん。

 我がパーティー、問題児しかいないのでは?

 

「でも、みんな良い子だったわよ」

 

 ミツバさんが笑う。

 

「また帰っておいでね」

 

「うん! 絶対!」

 

 その隣では、ハイドが待っていた。

 

「リン、卒業おめでとう!」

 

「ありがとう、ハイド!」

 

「また一緒に研究しようね!」

 

「もちろん! 次は新しいボールも作りたい!」

 

「実は、考えてるレシピがあって……」

 

「マジ!?」

 

 ……おっと。

 

 これは聞き捨てならない。

 

「どんなやつ!?」

 

「まだ内緒!」

 

「ええっ!?」

 

「次に来たときのお楽しみ!」

 

 くっ、この発明少年。

 

 人の好奇心を刺激するのが上手すぎる。

 

「……絶対だぞ!」

 

「うん、約束!」

 

 俺たちは笑い合った。

 

 ♦

 

 そして、出発の日。

 

 道場の前には、師匠とミツバさん、ハイドが並んでいた。

 

「リンちゃん。これからどうするんじゃ?」

 

「バウタウンに帰って、もっと修行する!」

 

「ほうほう!」

 

「それで、いつかジムチャレンジに出る!」

 

 師匠が、嬉しそうに頷いた。

 

「そのときは、推薦の相談にも乗ってやるぞい」

 

「本当!?」

 

「ほっほっほ! もちろんじゃ!」

 

 ……よし、心強い。

 

 ガラル地方のジムチャレンジは、誰でも簡単に出られる大会ではない。

 推薦が必要になる。

 

 だから、師匠の言葉はありがたかった。

 

「師匠! 次はジムチャレンジの時にお願いね!」

 

「ほっほっほ! 楽しみにしとるぞい!」

 

 俺は、大きく手を振った。

 ムーちゃんたちも、元気よく鳴く。

 

 ……さあ、帰ろう。

 そう思って歩き出した、そのときだった。

 

「ああ、そうじゃ!」

 

 師匠が、俺を呼び止めた。

 

「リンちゃんに渡しておきたいものがあるんじゃった」

 

「……ん?」

 

 振り返る。

 師匠は、懐から小さな箱を取り出した。

 

「ほい。卒業祝いじゃよ」

 

「……なにこれ?」

 

 箱を開ける。

 

 中には、不思議な輝きを放つ小さな石が収められていた。

 

 虹色の光。

 複雑な模様。

 

 そして。

 どこかで見たことのある、その形。

 

 ……え?

 

「キーストーンといってのう。カロス地方で使われる、ちょっと珍しい石なんじゃ」

 

「……キーストーン?」

 

「そうじゃよ」

 

「……メガシンカの?」

 

「おお! 知っとったか!」

 

 ちょ、ちょっと待って。

 待ってください師匠。

 

「師匠ぉぉぉぉ!!」

 

「ほっほっほ! 落ち着くんじゃ!」

 

「無理!! 落ち着けない!!」

 

 いや、そりゃ無理でしょ!?

 キーストーンだぞ!?

 メガシンカだぞ!?

 バトル中にポケモンがさらなる姿へ変化する、あのロマンの塊だぞ!?

 

 しかも本物!

 現物!!

 十歳で!?

 

 ちょっと待て。

 俺の人生、イベント報酬が豪華すぎません!?

 

「ほっほっほ! 相変わらず反応が大きいのう!」

 

「だって師匠! これ、すごいやつだよ!?」

 

「そうじゃなぁ」

 

「……でも、メガストーンは?」

 

「それは、まだないぞい」

 

 あ、ふーん。

 そうですよね。

 さすがにセットではないですよね。

 

 ……でも、キーストーンだけでも十分すぎる。

 俺は、石をそっと持ち上げた。

 虹色の輝きが、掌の中で揺れる。

 

 ……綺麗だな。

 

「リンちゃん」

 

 師匠の声が、少しだけ真剣になった。

 

「この石はのう。強いポケモンを、ただ強くするための道具ではないんじゃよ」

 

「……うん?」

 

「メガストーンがあっても、それだけでは足りん。トレーナーとポケモンが、互いを信じて心を重ねることが大切なんじゃ」

 

 俺は、隣にいるムーちゃんを見た。

 

「グソ?」

 

 ムーちゃんが、不思議そうに首を傾げる。

 

「ちみとムーちゃんが、本当に心を重ねたとき。そのときに初めて、意味を持つものなんじゃ」

 

 ……そうか。

 

 メガシンカ。

 それは、単純なパワーアップではない。

 ポケモンとトレーナーの絆があってこそ、成立するもの。

 俺がこの島で学んできたことと、深く繋がっている。

 

「……師匠」

 

「なんじゃ?」

 

「ありがとう」

 

 俺は、キーストーンを大切に箱へ戻した。

 

「いつか、ムーちゃんと一緒に使えるようになりたい」

 

「ほっほっほ! その日を楽しみにしとるぞい!」

 

 ……うん、俺もだ。

 

 もし、いつかムーちゃんに合うメガストーンが見つかったら。

 そのときは、彼女と相談してみよう。

 

 もちろん、無理に使わせるつもりはない。

 だって、この石を使えることよりも。

 

 ムーちゃんが、俺と一緒にいてくれることのほうが大切だから。

 

 ♦

 

 こうして。

 俺の二度目のヨロイ島修行は、幕を閉じた。

 

 九歳で始まった修行。

 十歳で迎えた卒業。

 六匹の色違いむしポケモン。

 そして、新たに手に入れたキーストーン。

 

 ……本当に、いろいろあったな。

 

 フェリヤは、まだ俺を完全には信用していない。

 それでも、以前より少しだけ近くにいてくれるようになった。

 

 俺は、それだけで嬉しかった。

 いつか、あの子が自分から、一緒に戦いたいと思ってくれる日が来るのだろうか。

 

 今は、まだわからない。

 でも、その日が来たら。

 今度こそ、ちゃんと応えられるトレーナーでいたい。

 

「……さて!」

 

 俺は、道場へ向き直った。

 

「師匠! ミツバさん! ハイド!」

 

 三人が、こちらを見る。

 

「また来るね!」

 

「ほっほっほ! いつでも待っとるぞい!」

 

「気をつけて帰るのよ!」

 

「リン! また研究しようね!」

 

「うん!」

 

 そして、最後に。

 

「あと、ハイド!」

 

「なに!?」

 

「新しいオシャボのレシピ、よろしく!!」

 

 ハイドが、少しだけ呆れた顔をした。

 

「……そっちも忘れないんだね」

 

「当たり前だろ!!」

 

 ……いや、当然である。

 

 修行は修行。

 オシャボはオシャボ。

 

 どちらも俺の人生には欠かせないものなのだ。

 ……その会話を聞いていたミツバさんから。

 

「次に来たときも、お手伝いはちゃんとしてもらうからね」

 

 と念を押されました。

 

 

 師匠からはキーストーン、ミツバさんからは家事の継続契約をいただきました。

 

 卒業祝いの格差がすごい。

 

 ……でも。

 そんなマスター道場が、俺は大好きだった。

 

 またいつか、ここへ帰ってこよう。

 

 そのときには、きっと。

 

 今より少しだけ、立派なトレーナーになっているはずだから。

 

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