色違いタイプ統一縛りニキのポケ界転生日記   作:霜月ルイ

31 / 32
chapter:30 パパンのお土産で進化計画が狂った件。

 

「リンー! 帰ったぞー!」

 

「パパン! おかえり!」

 

 玄関から聞こえた声に、俺は勢いよく立ち上がった。

 仕事でシンオウ地方へ出張していたパパンが、三日ぶりに帰ってきたのである。

 

 久しぶりの再会。

 感動の親子対面。

 当然、俺は真っ先にこう尋ねた。

 

「お土産は!?」

 

「……もう少し父親との再会を喜んでくれないか?」

 

「おかえりパパン! 大好き! お土産は!?」

 

「順番を変えただけじゃないか!」

 

 仕方ない。

 シンオウ地方ですよ?

 

 シンオウ地方。

 ポケモンの歴史と伝説が山ほど残る、あのシンオウ地方ですよ?

 ポケモン廃人として、期待するなというほうが無理な話である。

 

「ははっ。ちゃんと買ってきたぞ」

 

「やった!」

 

 パパンは旅行鞄を開き、中から小さな箱を取り出した。

 

 ……お?

 随分と厳重な包装だな。

 

 お菓子ではなさそう。

 何だろう。

 

 珍しい進化の石とか?

 それとも、シンオウ限定のポケモングッズ?

 

「向こうでお世話になった研究者さんから、特別に買わせてもらったんだ。珍しい鉱物らしいぞ」

 

「こうぶつ?」

 

「ああ。昔のポケモンの進化について調べる研究で使われていたものだそうだ」

 

 パパンが箱を開ける。

 中には、黒っぽい鉱物が収められていた。

 

 表面はざらざらとしていて、光を受けると鈍い輝きを放っている。

 

 ん?ちょっと待って。

 この形。この色。

 それに、進化研究?

 

 もしかして。

 

「パパン……これ、なんていう石?」

 

「確か、くろのきせき……だったかな」

 

 ……。

 

 はあああああああ!?

 

 ♦

 

「パパン!!」

 

「うおっ!?」

 

「これ! ストライクがバサギリに進化できるやつ!?」

 

「……え?」

 

「くろのきせき!! 昔で言うヒスイ地方の!!」

 

 俺は、興奮のあまり箱を指差した。

 

 くろのきせき。

 

 かつてシンオウ地方がヒスイ地方と呼ばれていた時代。

 その土地に存在した特殊な鉱物。

 

 そして何より。

 ストライクをバサギリへ進化させるための道具である!

 

 バサギリ。

 むし・いわタイプ。

 両腕に巨大な岩の斧を持つ、武骨で勇ましいポケモン。

 

 ストライクには、ハッサム以外にも進化先が存在する。

 それがバサギリなのだ。

 

「……お前、本当に何でも知ってるな」

 

 パパンが、感心半分、呆れ半分といった顔をする。

 

「でも、よく手に入ったね!?」

 

「ああ。研究に協力した縁で、特別に販売してもらえることになってな。普通はなかなか手に入らないそうだ」

 

「すごい!」

 

「なかなか見つからないものらしいぞ」

 

「うん! めっちゃ貴重!」

 

 ……いやぁ、パパン。

 

 やるじゃないか。

 これはもう、お土産どころの騒ぎではない。

 

 将来への投資。

 進化の選択肢。

 

 そして、何よりロマン。

 ありがとう、パパン!

 

 あなたは最高の父親です!

 

「……そんなに喜んでもらえるとは思わなかったよ」

 

「大喜びだよ!」

 

 俺は箱を抱え、大きく頷いた。

 

 ……ただし。

 その直後、重大な問題に気づいてしまった。

 

 ♦

 

「……困った」

 

「グソ?」

 

 自分の部屋に戻った俺は、机に向かって頭を抱えていた。

 隣では、ムーちゃんが心配そうに首を傾げている。

 

 その横には、立派に成長したオニシズクモのしずく。

 大きくなっても相変わらずムーちゃんにべったりである。

 

「ムーちゃん、どうしよう」

 

「グソ?」

 

「進化先が、二つになっちゃった」

 

 そう。

 問題はそこなのだ。

 

 俺は今まで、モスをハッサムへ進化させるつもりでいた。

 

 ハッサム。

 むし・はがねタイプ。

 

 赤い装甲。

 巨大なハサミ。

 優秀な耐性と高い攻撃性能。

 

 しかも、メガシンカまで存在する。

 

 ……最高。文句なし。

 

 しかし、バサギリも捨てがたい。

 

 むし・いわタイプ。

 重厚な身体。

 両腕の岩斧。

 荒々しい戦闘スタイル。

 そして、色違いの独特な配色。

 

 ……いやぁ。

 格好いいんだよなぁ、バサギリ。

 

 ハッサムとは違う方向性の格好よさがある。

 

 俺は二枚の図鑑資料を机に並べた。

 

 右がハッサム。

 左がバサギリ。

 どっちもいい。

 

 …………選べない。

 

 進化先の分岐とか、オタクの優柔不断を刺激するのやめてくれません!?

 そもそもハッサムにはメガシンカがある。

 

 師匠からもらったキーストーンも、将来使ってみたい。

 けれどバサギリは、また別の魅力がある。

 

 ……くっ。

 俺が二人いれば、両方育てるのに。

 

 いや、待て。

 そもそも大事なことを忘れていないか?

 

「……あ」

 

 俺は、机の上の資料を見つめた。

 

 進化するのは俺じゃない。

 モスだ。

 

 だったら。

 本人に聞けばいいじゃないか。

 

 ♦

 

「モスー!」

 

「ストライッ!」

 

 庭で鎌の素振りをしていたモスが振り返った。

 相変わらず、見事な構えである。

 

 最近はルリナ姉さんとの練習にも参加していて、技の扱いがさらに上達していた。

 

「ちょっと相談があるんだけど、いい?」

 

「ストライ?」

 

 俺はモスの前に、二枚の資料を広げた。

 

「モスには、進化先が二つあるんだ」

 

「スト?」

 

「一つはハッサム。むし・はがねタイプになる」

 

 まず、右の資料を見せる。

 

「身体が鋼みたいに硬くなって、鎌が大きなハサミになる。守りも強くなるんだ」

 

「ストライ……」

 

 モスが、興味深そうに資料を覗き込んだ。

 そして、ハッサムのハサミをじっと見つめる。

 

 ……お、気になるらしい。

 

「もう一つは、バサギリ」

 

 今度は左の資料を差し出した。

 

「むし・いわタイプになって、腕が岩の斧になるんだよ」

 

「……ストライ?」

 

「そう! 斧! めちゃくちゃ格好いいだろ!」

 

 モスの目が、わずかに見開かれた。

 ……あれ?反応が違う。

 

 ハッサムを見たときより、明らかに食いつきがいい。

 

「ストライッ!」

 

 モスが、自分の鎌を持ち上げた。

 それからバサギリの資料を見て、もう一度鎌を眺める。

 

 ……なるほど。

 気になるんだな。

 

「でも、よく考えてね」

 

 俺は二枚の資料を並べ直した。

 

「どっちも強いけど、戦い方は変わるんだ。得意なことも、苦手なことも違う」

 

 モスは黙って聞いていた。

 

「今のままでいるのも、もちろんいいよ」

 

 進化は、義務じゃない。

 しずくだって、自分で進化するまでずっとシズクモだった。

 

 だからモスにも、自分で決めてほしい。

 

「どっちがいい? それとも、まだストライクでいたい?」

 

 モスは、二枚の資料を見比べた。

 

 しばらく考えているようだった。

 

 ハッサム。

 バサギリ。

 そして、自分の鎌。

 

 やがて。

 

「……ストライッ!」

 

 モスが、一枚の資料へ鎌の先を向けた。

 

 俺は念のため、もう一度ハッサムの資料を指差した。鋼のハサミも、硬い装甲も、十分に魅力的だ。モスがどちらを選んでも、俺は全力で応援するつもりだった。

 

 けれど、モスの鎌は揺れなかった。

 

 むしろ、バサギリの岩斧を示すように、資料のすぐ脇にあった小石を軽く叩いてみせる。

 

 ……うん。そこまで答えがはっきりしているなら、もう迷う必要はないな。

 

 ……お?そっちか。

 

「……バサギリ?」

 

「ストライッ!!」

 

 力強い返事。

 続いて、モスは庭の岩へ向き直り、鎌を構えた。

 

 ――ザンッ!

 

 岩の表面に、鋭い傷が走る。

 それから、もう一度バサギリの資料を見る。

 

 ……ああ。

 そういうことか。

 

 モスは昔から、鎌を使った力強い戦い方が好きだった。

 素早さだけに頼らず、相手と真正面からぶつかり合うことを好む。

 そんなモスにとって、岩の斧は魅力的なのかもしれない。

 

「……そっか」

 

 俺は笑った。

 

「じゃあ、バサギリになろう!」

 

「ストライィッ!」

 

 モスが嬉しそうに鎌を掲げた。

 

 ……うん、決まりだ。

 

 俺の好みだけで決めるところだった。

 

 危ない危ない。

 

 師匠に知られたら、また説教されるところだったな。

 

 ♦

 

 その日の午後。

 進化の準備を整え、俺たちは庭に集まっていた。

 

 ムーちゃん。

 しずく。

 ルージュ。

 かえで。

 そして、少し離れた場所にはフェリヤ。

 

 みんなが見守る中、モスが俺の前に立っている。

 

「モス、準備はいい?」

 

「ストライッ!」

 

 ……よし。

 

 俺は、くろのきせきを取り出した。

 

 黒く輝く、不思議な鉱物。

 パパンがシンオウ地方から持ち帰った、特別なお土産。

 

 モスが、そっと鎌を近づける。

 

 石に触れた、その瞬間。

 

 ――ぱぁっ!

 

「……おおっ!?」

 

 強い光が広がった。

 モスの身体が、白い輝きに包まれる。

 

 背中の羽が変化し、腕が大きくなっていく。

 鋭かった鎌は、さらに重厚な形へ。

 岩のような質感を持つ、巨大な斧へと姿を変えていく。

 

 ……すごい。

 

 目の前で、ストライクが。

 あのモスが、進化している。

 

「ストライィィッ!!」

 

 響き渡る鳴き声。

 

 そして。進化の光が、ゆっくりと収まった。

 

 そこに立っていたのは。

 

 重厚な身体。

 深い緑がかった色違いの装甲。

 そして、両腕に備わった巨大な岩斧。

 

「うおおおおお!! バサギリかっけぇぇぇ!!」

 

 俺は、思わず叫んだ。

 

 いやいやいや!!

 何これ!?

 めちゃくちゃ格好いい!!

 

 ストライクのときも十分格好よかったけど!!

 バサギリ、迫力ありすぎるだろ!!

 存在感が完全に歴戦の武将なんですが!?

 

「バサァッ!!」

 

 モスが、力強く鳴いた。

 

 それから、両腕の斧を掲げる。

 

 ――ゴッ!

 

 風が唸った。

 

 おお、すげぇ。

 ただ腕を動かしただけなのに、この威圧感。

 かっこよすぎる。

 

「モス!!」

 

「バサッ!」

 

「進化おめでとう!!」

 

 俺が笑うと、モスも嬉しそうに鳴いた。

 ムーちゃんたちも大喜びだ。

 

「グソォッ!」

 

「オニシズッ!」

 

「アブリッ!」

 

「メラッ!」

 

 ルージュは早速モスの頭に乗ろうとしていたが、岩斧が怖かったのか途中で引き返してきた。

 

 ……うん、その判断は正しい。

 モスさん、今は興奮してるからな。

 

 それにしても。

 

「……モス、どう?」

 

「バサッ!」

 

 モスが、大きく頷いた。

 

 そして、自分の斧をじっと見つめる。

 その姿は、どこか誇らしげだった。

 

 ……よかった。

 本当に、よかった。

 

 モス自身が選んだ進化。

 それを、こうして一緒に喜べることが嬉しかった。

 

 ♦

 

「いやぁ、すごかったな!」

 

 夕方。

 

 庭でモスの姿を眺めながら、パパンが笑った。

 

「まさか本当にバサギリになるとは」

 

「俺も感動した!」

 

「モスも嬉しそうだし、よかったな」

 

「うん!」

 

 ……いやぁ、最高のお土産だった。

 ストライクの進化先を選べるなんて、夢にも思わなかった。

 

 しかも色違いバサギリ。

 サファリボール入り。

 

 ……うむ。

 オシャボ厨としても、大満足である。

 

「……ところでパパン」

 

「ん?」

 

 俺は、ふと思った。

 

 くろのきせき。

 今では非常に珍しい鉱物。

 

 進化研究に使われていた特別な道具。

 しかもシンオウ地方から持ち帰ったもの。

 

 ……これ、もしかして。

 

「……あの石、いくらしたの?」

 

 パパンの表情が、固まった。

 

 ……ん?

 

「……パパン?」

 

「…………」

 

「……いくら?」

 

「……リン」

 

 パパンが、ゆっくりと俺の肩へ手を置いた。

 

 そして。

 

「……ママには内緒な」

 

 ……あ~なるほど。

 

 理解した。

 これ、絶対に高いやつだ。

 

「……把握した」

 

「頼むぞ、リン」

 

「任せて、パパン」

 

 俺たちは、固く握手を交わした。

 男同士の約束。

 

 親子の絆。

 そして、家庭の平和を守るための秘密協定。

 

 ……よし。

 これで問題なし。

 

 そう思っていた。

 数時間前までは。

 

 ♦

 

「……コウジさん?」

 

 夕食後。

 

 リビングに、ママンの静かな声が響いた。

 

「……はい」

 

「シンオウで買ってきた、あの石のことなんだけど」

 

 嫌な予感。

 

「購入したときの明細、旅行鞄に入っていたわよ?」

 

 パパン、証拠隠滅失敗。

 

 しかも、購入明細とは。

 

 そんなものを堂々と鞄へ入れておくから!

 

「……それで?」

 

 ママンが、にっこり笑った。

 

「どうして、こんなに高いものを相談なしで買ったのかしら?」

 

 パパン、沈黙。

 俺、沈黙。

 

 ムーちゃん、そっと後退。

 しずく、ムーちゃんの後ろへ移動。

 ルージュ、天井付近へ避難。

 かえで、物陰へ退避。

 モス、何が起きているのかわからず首を傾げる。

 フェリヤは、最初から安全圏の窓際にいた。

 

 おい、みんな。

 薄情じゃない?

 トレーナーが危機に瀕してるんですけど?

 

「……リン?」

 

「……はい」

 

「あなたも知っていたのね?」

 

 ……いやですね、金額は知らなかったんですが。

 でも、内緒にする約束はした。

 

 これは、どう考えても共犯判定。

 

「……パパン」

 

「……なんだ」

 

「……すまん」

 

「……父さんこそ、すまん」

 

 俺たちは、静かに頷き合った。

 

 そして。

 

「二人とも、そこに座りなさい」

 

「「……はい」」

 

 親子揃って、正座。

 

 完璧な連携である。

 まさか、ポケモンバトル以外でここまで息が合うとは。

 

「コウジさん。珍しいものを息子にあげたい気持ちはわかるわ」

 

「……ああ」

 

「でも、金額の大きな買い物は、ちゃんと相談してほしいの」

 

「……すまなかった」

 

「それからリン」

 

「はい」

 

「パパが内緒にしようって言ったら、止めてあげなさい」

 

「……はい」

 

 正論、あまりにも正論。

 反論の余地が存在しない。

 

 ……しかし。

 俺には、一つだけ言いたいことがある。

 

「……ママン」

 

「なに?」

 

「……モス、すっごく喜んでたよ?」

 

 ママンは、庭にいるモスを見た。

 

 大きな岩斧。

 堂々とした体格。

 嬉しそうに素振りを続ける姿。

 

 それを見て、少しだけ表情を和らげた。

 

「……それは、よかったわね」

 

 ……これはもしかして?

 

「でも、それとこれとは別よ」

 

 はい、駄目でした。

 

 情に訴える作戦、失敗。

 

 ♦

 

 こうして。

 我が家に、新たな色違いポケモンが誕生した。

 

 色違いバサギリ、モス。

 元ストライク。

 

 戦うことが大好きで、強い相手を求める勇敢なポケモン。

 進化しても、その性格は変わらない。

 むしろ、巨大な岩斧を手に入れたことで、以前よりさらに張り切っている。

 

 ……いやぁ。

 これからの修行が楽しみだな。

 

 新しい技も覚えたいし。

 ルリナ姉さんとも練習したい。

 

 いつか、モスと一緒にジムチャレンジへ挑む日が来たら。

 きっと、すごく頼もしい仲間になってくれるだろう。

 

「……モス!」

 

「バサッ!」

 

「これからもよろしくな!」

 

「バサァッ!」

 

 力強い返事。

 

 ……うん、いいねぇ。

 最高だ。

 

 ちなみに。今回の一件で、我が家には新たなルールが追加された。

 

 『高額なお土産を買うときは、必ず事前に相談すること』

 

 ……いや、普通じゃん。

 むしろ、今まで明文化されてなかったのが不思議なくらいである。

 

 そしてパパンからは、こっそりとこう言われた。

 

「……リン」

 

「ん?」

 

「次からは、ちゃんと相談しような」

 

「……うん」

 

 パパン、俺たち今回ちょっと反省しよう。

 

 でもくろのきせきを買ってきてくれたことには、本当に感謝している。

 

 だって、モスがあんなに嬉しそうなんだから。

 

 ……まあ次からは、ママンに相談してからにしよう。

 

 家庭内の平和も、トレーナーには必要な能力なのである。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。