色違いタイプ統一縛りニキのポケ界転生日記   作:霜月ルイ

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chapter:31 うちのメラルバが太陽になった件。

 

「メラッ! メラッ!」

 

「かえで! あと三回!」

 

「メラァッ!」

 

 朝の庭に、小さな炎が弾けた。

 

 白い毛並み。

 丸っこい身体。

 頭から伸びた五本の角。

 そして、通常個体とは違う金色がかった美しい体色。

 

 我が色違いのメラルバ、かえで。

 本日も元気に修行中である。

 

「よし! 今日はここまで!」

 

「メラッ!」

 

 かえでが嬉しそうに駆け寄ってきた。

 

 その身体を受け止める。

 ほんのり温かい。

 ……ああ、天然の湯たんぽ。

 

 冬場の人権ポケモンである。

 

 ただし、本人が興奮すると普通に熱くなる。

 以前、うっかり抱きしめたまま寝かけたところ、パジャマが焦げそうになりました。

 

 火の取り扱いには十分注意しましょう。

 

 ……いや、取扱説明書みたいに言うな。

 

 ♦

 

 十二歳になった俺は、相変わらずポケモンたちとの修行を続けていた。

 

 ムーちゃんは頼れる相棒。

 しずくは立派なオニシズクモへ進化。

 モスもバサギリになり、毎日岩斧を振り回している。

 

 ルージュは……まあ、元気だ。

 昨日は俺の髪に花粉で王冠を作っていた。

 やめろ。

 

 そしてフェリヤ。

 今もバトルには参加していないが、以前よりずっと穏やかに暮らしている。

 

 俺が隣に座っても、すぐには離れなくなった。

 触れ合えるわけではない。

 

 けれど、あのカンムリ雪原で出会った頃を思えば、本当に大きな変化だ。

 さて、そんな我がパーティーで、現在唯一の進化前ポケモン。

 

 それが、かえでである。

 メラルバの進化は遅い。

 

 ゲームで言えば、ウルガモスへ進化するのはレベル59。

 ……59ですよ、59。

 

 普通のポケモンなら、とっくに最終進化していてもおかしくない段階である。

 だが、そのぶん進化したときの感動も大きい。

 

 何より、ウルガモスは俺の大好きなポケモンだ。

 いつか、あの美しい羽を広げる日が来る。

 

 そう思うだけで胸が躍る。

 

 ……とはいえ。

 

「かえで、疲れてない?」

 

「メラッ!」

 

「そっか。じゃあ、今日はゆっくり休もう」

 

 焦らせるつもりはない。

 進化のためだけに、無理なバトルを繰り返す必要もない。

 

 かえでが自分のペースで強くなれば、それでいい。

 

 そう考えるようになったのには、ちゃんと理由がある。

 

 以前のかえでは、強そうな相手を見るとすぐに飛び出していた。ヨロイ島でアブリーを助けたときだってそうだったし、練習中にモスの素振りへ割り込もうとしたこともある。

 

 けれど、最近は違う。相手が近づくと、まず俺の方を見るようになった。俺が合図を送るまで待って、何が危険なのか確かめようとする。

 

 この前なんて、俺が「もう一回」と言うより先に、自分から休憩場所へ戻って水を飲んでいた。

 

 ……素晴らしい。

 かえで、ちゃんと休むことを覚えたんだな!

 

 まあ、その横ではモスが岩に斧を振り下ろしていたんですけどね。先輩、君ももう少し休もう?

 

 強くなるって、ただ技の威力が増えることじゃない。自分の身体と相談して、次の一歩を選べるようになることでもあるのだろう。

 

 ……それに。あの子が小さな身体で頑張っている姿も、俺は大好きなのだから。

 

 ♦

 

 その日の午後。

 

「リン! 今日はちょっと本格的にやってみない?」

 

「本格的に?」

 

 俺に声をかけてきたのは、ルリナ姉さんだった。

 

 場所はバウタウン郊外の水辺。

 いつもの練習場である。

 

「ええ。最近、みんな随分と強くなったでしょう?」

 

「うん!」

 

「だから今日は、少し強い相手との連携を練習しましょう」

 

 そう言って、ルリナ姉さんがボールを取り出した。

 

「お願い、カジリガメ!」

 

「ガメェッ!」

 

 現れたのは、大きなカジリガメ。

 

 硬そうな甲羅。

 鋭い牙。

 そして、ずっしりとした体格。

 

 ……ほう。これは、なかなか。

 

「姉さん、結構本気じゃん」

 

「ふふっ。もちろん手加減はするわよ。でも、油断しないでね?」

 

 ……うむ、恐ろしいことを笑顔で言う人だ。

 

 ただし、俺も望むところ。

 

 今日の練習は、ムーちゃん、モス、しずくを中心とした連携戦。

 ルージュとかえでは待機。

 フェリヤは少し離れた場所で、本人の好きなように過ごしている。

 

「よし、みんな! 始めるぞ!」

 

 ♦

 

「モス! 左から回り込んで!がんせきアックス!!」

 

「バサァッ!」

 

「カジリガメ、アクアブレイク!」

 

 ――バシャァッ!

 

「バサッ!?」

 

 モスが大きく後退した。

 

 ……くっ。

 

 やっぱり、みず技は厳しい。

 

 バサギリはむし・いわタイプ。

 

 相性だけなら、かなり不利な相手である。

 

「ムーちゃん! カバーお願い!」

 

「グソッ!」

 

 ムーちゃんが大きな身体で割って入る。

 水流を受け止め、モスが下がる時間を作った。

 

 ……よし。

 いい連携だ。

 

 ところが。

 

「カジリガメ、もう一度!」

 

「ガメェッ!」

 

 今度は角度を変えて水撃が飛んでくる。

 

「しずく! あの水を止めて!」

 

「オニシズッ!」

 

 しずくが大きな水泡を揺らし、アクアブレイクを受け止めた。

 しかし、カジリガメの勢いは強い。

 三匹が連携しても、なかなか攻め込めない。

 

 ……なるほど。

 これが、経験の差か。

 

 こちらが一手を考える間に、ルリナ姉さんは次の行動を準備している。

 

 技の選択も的確。

 ポケモンとの呼吸も合っている。

 

 ……強いな。

 ジムリーダーを目指す人間は、やっぱり違う。

 

「リン! どうする?」

 

 ルリナ姉さんが問いかける。

 

 俺は、三匹の様子を確認した。

 まだ戦える。

 しかし、かなり消耗している。

 

 このまま続ければ、無理をさせることになるかもしれない。

 

「……一回、下がろう!」

 

 俺が指示を出そうとした、そのときだった。

 

「……メラッ!」

 

 足元から、小さな声が聞こえた。

 

 ♦

 

「……かえで?」

 

 振り返る。

 そこには、小さなメラルバが立っていた。

 

「メラッ!」

 

 かえでは、カジリガメを見つめている。

 

 そして、一歩前へ出た。

 

 ……え?まさか。

 

「かえで、戦いたいの?」

 

「メラッ!」

 

 力強い返事。

 しかし、俺はすぐには頷けなかった。

 

 相手はカジリガメ。

 みず・いわタイプ。

 

 メラルバにとっては、非常に相性の悪い相手だ。

 ……正直、危険である。

 

 相性表を頭の中で開けば、嫌でもわかる。みず技はもちろん、いわ技まで飛んできたら洒落にならない。

 

 今のかえでが強くなったのは知っている。でも、強くなったからといって、苦手な攻撃を受けても大丈夫なわけではないのだ。

 

 俺はルリナ姉さんへ目を向けた。姉さんも状況を理解したらしく、カジリガメを一度下がらせてくれる。

 

「技の威力は抑えるわ。かえでちゃんが怖がったら、すぐ終わりにしましょう」

「うん。俺も、無理だと思ったら止める」

 

 かえでも、俺たちのやりとりをじっと聞いていた。自分から前に出たいと言ったからには、できることをやってみたいのだろう。

 

 でも、その勇気を無茶に変えていいわけじゃない。そこは俺が気をつけないとな。

 

「かえで、無理しなくていいんだよ?」

 

 俺はしゃがみ込み、目線を合わせた。

 

「今の相手は強い。かえでは、まだ――」

 

「メラッ!」

 

 かえでが、俺の言葉を遮った。

 

 小さな身体。

 短い脚。

 それでも、その目はまっすぐ前を向いていた。

 

 ……ああ、そうか。

 この子は、昔からそうだった。

 

 ヨロイ島で初めて出会った日。

 自分よりずっと大きなサイドンを相手に、小さなアブリーを守ろうとした。

 

 無謀なくらい勇敢で。

 誰かを助けるためなら、真っ先に飛び出してしまう。

 

 ……でも、今のかえでは違った。

 勝手に飛び込まない。

 

 俺の前で立ち止まり、返事を待っている。

 自分一匹で戦おうとしているんじゃない。

 俺と一緒に戦おうとしてくれている。

 

「……そっか」

 

 俺は、ゆっくりと立ち上がった。

 

「姉さん!」

 

「なに?」

 

「かえでが、戦いたいって!」

 

 ルリナ姉さんは少し驚いたあと、優しく頷いた。

 

「わかったわ。危なくなったら、すぐに止めるからね」

 

「うん!」

 

 俺は、かえでを見た。

 

「……よし。頼むぞ!」

 

「メラァッ!!」

 

 ♦

 

「かえで! まずは相手の動きを見て!」

 

「メラッ!」

 

 カジリガメが、水辺を踏みしめた。

 

 強い水流が迫る。

 

「右へ!」

 

 かえでが小さな身体を動かし、水流をかわした。

 

 ……よし。

 

 焦らない、突っ込まない。

 ちゃんと俺の指示を聞いてくれている。

 

「今だ! いとをはく!」

 

「メラッ!」

 

 白い糸が飛び、カジリガメの足元へ絡みつく。

 

「ガメッ!?」

 

 動きが一瞬止まった。

 

 ……いいぞ!

 

「かえで! そのまま――」

 

 次の指示を出そうとした、その瞬間だった。

 

 ――ぱぁっ。

 

「……え?」

 

 かえでの身体が、光り始めた。

 

 白い毛並みが輝く。

 小さな身体を包む、不思議な光。

 

 ……待て。

 

 これは。

 

「リン!」

 

 ルリナ姉さんの声が響いた。

 

「かえでちゃん、進化するの!?」

 

 ついに。

 ついに、この瞬間が。

 

 光の中で、かえでの身体が変化していく。

 

 小さな脚が伸びる。

 丸かった身体が、すらりとした姿へ変わる。

 

 そして。

 背中から、大きな羽が広がった。

 

 美しい色彩。

 太陽の光を受け、輝く鱗粉。

 

 その周囲には、暖かな熱が満ちていく。

 

 俺は、息を呑んだ。

 

 小さなメラルバ。

 毎朝、庭で一生懸命練習していた。

 

 何度も転んだ。

 強い相手に挑もうとして、俺に止められたこともあった。

 それでも、諦めなかった。

 

 少しずつ技を覚え、少しずつ動きを磨いてきた。

 

 ……そして今。

 その努力が、形になろうとしている。

 

「……かえで」

 

 光が、ゆっくりと収まった。

 

 そこにいたのは。

 六枚の大きな羽を広げた、美しいポケモン。

 金色の輝きを帯びた、色違いのウルガモス。

 

「……ウルガァァッ!」

 

 力強い鳴き声が、青空へ響いた。

 

 ……ああ、綺麗だ。

 まるで、本当に。

 

 小さな太陽が、生まれたみたいだった。

 

 ♦

 

「……かえで!」

 

 俺が名前を呼ぶと、ウルガモスが振り向いた。

 

「ウルガッ!」

 

 その声は、以前よりずっと力強い。

 

 でも、俺にはわかった。

 あの小さなメラルバと、同じ声だ。

 

「……大きくなったな」

 

 思わず、笑みがこぼれる。

 かえでが、ゆっくりと羽を動かした。

 

 暖かな風が頬を撫でる。

 

 ……ああ。もう、抱きかかえられる大きさじゃないんだな。

 少しだけ寂しい。

 

 でも、それ以上に。

 

「……進化、おめでとう」

 

 胸がいっぱいだった。

 かえでは、嬉しそうに鳴いた。

 

 そして、俺の周囲をゆっくりと一周する。

 

 かえでは以前のように俺へ飛びつこうとして、一度動きを止めた。今の大きな身体で勢いよく近づけば、俺が倒れてしまうことに気づいたのかもしれない。

 

 それからゆっくりと羽を畳み、俺の目線に合わせるように身体を低くした。

 

 ……ちょっと待って。

 

 そんな優しいことされたら、こっちの涙腺が危ないんですけど!?

 

 俺が手を伸ばすと、かえでは熱を抑えた羽の端をそっと近づけてきた。指先に伝わる温かさが、昔抱き上げた小さなメラルバの体温と重なる。

 大きな羽が、陽の光を受けて輝いた。

 

「ふふっ。すごく綺麗ね」

 

 ルリナ姉さんが微笑む。

 カジリガメも、満足そうに鳴いていた。

 

 結局、模擬戦はそこで終了となった。

 勝敗はつかなかった。

 

 でも、そんなことはどうでもよかった。

 今日。俺は、かえでの成長を見届けることができた。

 

 それだけで、十分だった。

 

 ♦

 

 その日の夜。

 

 我が家では、ささやかな進化のお祝いが開かれた。

 

「かえで、進化おめでとう!」

 

「ウルガッ!」

 

 ママンが用意してくれた、ポケモン用の特別なご飯。

 

 パパンも、嬉しそうにかえでを眺めている。

 

「いやぁ、立派になったなぁ」

 

「でしょ!」

 

「これで、全員が最終進化したのか?」

 

「うん!」

 

 ……そう。

 

 ムーちゃん。

 しずく。

 ルージュ。

 モス。

 かえで。

 そしてフェリヤ。

 

 六匹全員が、ついに最終進化の姿となった。

 

 ……まあフェリヤだけは、最初から進化しないポケモンなんですけどね。

 そこは気にしない。

 

「グソォッ!」

 

 ムーちゃんが、かえでの近くへ寄っていく。

 そして、大きな前脚で優しく身体を撫でた。

 

「ウルガッ!」

 

 かえでも嬉しそうに鳴く。

 しずくは、いつも通り水泡をぷるぷるさせている。

 ルージュは、かえでの大きな羽の周りを楽しそうに飛び回っていた。

 

「アブリッ!」

 

「ウルガッ!」

 

 ……おい、ルージュ。

 花粉はかけるなよ?

 

 お祝いの席で大惨事になるからな?

 モスは、少し離れたところで誇らしげに頷いている。

 

「バサッ!」

 

 ……うむ。

 

 まるで、後輩の成長を喜ぶ先輩のようだ。

 

 そして、フェリヤはいつもの窓際にいた。

 

 ♦

 

 俺は、ふとそちらへ視線を向けた。

 

 フェリヤは、かえでを見つめていた。

 

 大きな羽。

 暖かな光。

 楽しそうに鳴く仲間たち。

 

 その光景を、静かに眺めている。

 

 ……そして。

 ほんの一瞬。

 

 フェリヤが、両手を小さく合わせた。

 

 ぱち。

 

 ぱち。

 

 ……え?

 今の……拍手?

 

 俺は、思わず目を瞬かせた。

 フェリヤは、すぐに手を下ろした。

 

 そして、何事もなかったかのように窓の外へ視線を戻す。

 

 ……ああ、そっか。

 

 あの子も。

 かえでの進化を、喜んでくれているのかな。

 

 ……いや。本当のところは、わからない。

 ただ、そうだったら嬉しいと思った。

 

 俺は、何も言わなかった。

 フェリヤの名前も呼ばない。

 

 拍手していたことを、誰にも話さない。

 もし俺が騒げば、きっとフェリヤは居心地が悪くなるだろう。

 

 そんなことは、もうわかっている。

 

 だから。俺は、そっと笑った。

 

 それだけだった。

 

 ♦

 

 夜。

 

 みんなが眠ったあと、俺は自分の部屋で図鑑を開いていた。

 そこには、新しく登録された姿。

 

 色違いウルガモス。

 ニックネーム、かえで。

 

 ……うん。

 

 格好いい。

 綺麗。

 

 そして、何より。

 あの小さなメラルバが、ここまで成長したのだ。

 

 それが、たまらなく嬉しかった。

 ポケモンの進化は、ただ姿が変わるだけじゃない。

 

 一緒に過ごした時間。

 積み重ねてきた努力。

 そして、本人が前へ進もうとする気持ち。

 

 そんなものが、全部詰まっているのだと思う。

 

「……かえで」

 

 俺は、小さく呟いた。

 

「本当に、おめでとう」

 

 窓の外には、月が浮かんでいた。

 

 今日の昼間に見た、あの輝き。

 小さな太陽のような姿。

 きっと、一生忘れないだろう。

 

 そして。

 フェリヤが見せた、あの小さな拍手も。

 

 ……うん。

 まだまだ、知らないことばかりだ。

 

 でも、少しずつ。

 俺たちは、ちゃんと一緒に成長している。

 

 そう思えた夜だった。

 




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