色違いタイプ統一縛りニキのポケ界転生日記   作:霜月ルイ

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chapter:6 ウッウロボは悪魔の発明だと思うの。

 ヨロイ島にやってきて、もうすぐ一か月が経とうとしていた。

 最初は四歳児にして島流しとか、どんな人生だよと思っていた俺だが、いざ暮らしてみれば意外と悪くない。

 

 飯は美味い。

 景色は綺麗。

 ポケモンはそこら中にいる。

 

 そして何より、マスタード師匠という最高の指導者がいる。

 

 いやぁ、充実しておりますなぁ!

 

 ちなみにパパンは、俺が道場での生活に慣れた頃にバウタウンへ帰っていった。

 別れ際には「ミツバさんの言うことをちゃんと聞けよ」と何度も念を押されたが、失礼な話である。

 

 俺を誰だと思っている。

 前世では世界一位にまで登り詰めた男だぞ?

 四歳児とはいえ、分別くらい――

 

「リンちゃーん! 廊下は走っちゃダメよー!」

 

「はーい!」

 

 まあ、多少はしゃぐこともある、人間だもの。

 

 さて、肝心の修行についてだがこちらも順調である。

 

「ムーちゃん! 右に回って!」

 

「グソッ!」

 

「そうそう! そのままシェルブレード!」

 

「グソォッ!」

 

 白い装甲を纏ったムーちゃんが、水の刃を振り抜く。

 道場の練習用の的に、見事な一撃が決まった。

 

「おおっ! いいぞい、リンちゃん!」

 

「えへへ!」

 

「ムーちゃんも、少しずつ落ち着いて動けるようになっとるのう!」

 

 師匠が嬉しそうに笑う。

 

 うむ、実に素晴らしい。

 

 以前のムーちゃんは、相手が動くだけで身を縮めてしまうことがあった。

 

 だが最近は、怖くなったら俺を見るようになった。

 俺が「大丈夫」と言えば、その場で踏ん張ってくれることもある。

 

 もちろん、無理はさせない。

 怖いものは怖い。それは仕方ない。

 

 大切なのは、怖いときにどうするか。

 そして、俺たち二人でどう乗り越えるかだ。

 

 ……いやぁ、俺も成長したもんだ。

 

「じゃあリンちゃん、次は体力作りじゃ!」

 

「はい!」

 

「一礼野原を三周してくるんじゃよ!」

 

「……はい?」

 

 …………。

 

 あの、師匠?

 この広大な草原を三周?

 

 俺、四歳なんですけど?

 

「ほっほっほ! もちろん無理のない範囲でよいぞい!」

 

 そう言って笑う師匠。

 

 ……なるほど、これが元チャンピオンの修行。

 

 まったく、恐ろしい世界だぜ。

 

 ♦

 

 そんなある日のこと。

 午前中の修行を終えた俺は、ムーちゃんと一緒に道場の中を探検していた。

 

 いや、別にサボっているわけではない。

 

 午後の修行まで少し時間があるので、施設内を見学しているだけである。

 社会科見学というやつだ。

 

「ムーちゃん、こっちには何があるんだろうな?」

 

「グソ?」

 

 道場の奥へ進む。

 すると、どこからか奇妙な音が聞こえてきた。

 

 ガコンッ。

 

 ウィィィン。

 

 ガガガガガッ!

 

 ……ん?

 何だ、この音。

 

 明らかに何かの機械が動いている。

 

 いや、それにしても。

 妙に聞き覚えがあるような……。

 

 俺は音のする部屋を覗き込んだ。

 そこには、工具や部品が山積みになった机。

 

 何やら難しそうな設計図。

 

 そして、その中央に鎮座する――

 

 巨大なウッウの形をした機械。

 

 

 ……このフォルム、そしてこの絶妙に間抜けな顔。

 

 そして、何かを飲み込んで吐き出しそうな構造。

 

 これ……。

 

「ウッウロボじゃねぇかぁぁぁ!!」

 

「うわっ!?」

 

 俺の叫び声に、机の向こうにいた少年が飛び上がった。

 

「び、びっくりした! 誰!?」

 

「あっ、ごめん!」

 

 少年は俺より少し年上に見える。

 手には工具を持ち、頬には黒い油のようなものが付着していた。

 

「君、もしかして新しく来た子?」

 

「うん! リンです!」

 

「ああ、父さんが言ってた! ぼくはハイド。よろしくね!」

 

 ハイド。

 

 キタコレ!!

 

 ウッウロボの生みの親!

 

 発明少年ハイド君である!

 

「よろしく、ハイド!」

 

「うん! それで、どうしたの?」

 

「これ!」

 

 俺はウッウロボを指差した。

 

「このきかい、ハイドがつくったの!?」

 

「そうだよ! まだ試作品だけどね!」

 

 少年は得意げに胸を張った。

 

「四つの材料を入れると、別の道具を作れるんだ!」

 

 もちろん知ってるとも!

 前世でお世話になりまくったからな!

 

 ただし、あれは危険な代物だった。

 なぜなら、ある種の人間にとっては、無限に時間を吸い取る悪魔の機械だからである。

 

 そのある種の人間とは?

 

 もちろん、俺のことだ。

 

「……ハイド」

 

「ん?」

 

「これ、ぼんぐりもいれられる?」

 

「え? ぼんぐり?」

 

「うん!」

 

「どうして?」

 

「ぼんぐりから、ボールつくれる?」

 

「……試したことないけど」

 

 ……なるほど、試したことがない。

 

 つまり、できないとは言っていない。(屁理屈)

 

「よし、やろう」

 

「えっ?」

 

「いまからやろう」

 

「え、ちょっと待って!?」

 

「ぼんぐりはどこにある!?」

 

「君、目が怖いよ!?」

 

 ふっ、ハイド君。

 

 君はまだ知らない。

 その機械の真の恐ろしさを。

 

 そして。

 目の前の四歳児が、どれほどのオシャボ廃人であるかを。

 

 ……ようこそ、沼の入り口へ。

 

 ♦

 

 こうして俺とハイドの共同研究が始まった。

 まずは、ぼんぐりを使ったボール製造の可能性について。

 

「昔はぼんぐりからモンスターボールを作ってたんだよね?」

 

「うん。ジョウト地方では今でも職人さんが作ってるって聞いたよ」

 

「じゃあ、これでもできるんじゃない?」

 

「……なるほど。材料の性質を調べれば、もしかしたら……」

 

 ハイドが研究ノートに何やら書き込み始めた。

 

 うむ、実にいい反応だ。

 

 話が早くて助かるゾ~これ。

 

 俺は前世で知っていたボールの種類や特徴を、思いつきの仮説として伝えていった。

 

 ムーンボール。

 ルアーボール。

 ヘビーボール。

 ラブラブボール。

 フレンドボール。

 スピードボール。

 レベルボール。

 

 いわゆるガンテツボール。

 通称、オシャボ!

 

 ポケモンを捕まえるなら、性能だけじゃなく見た目にもこだわりたい。

 それがオシャボ厨の性というもの。

 

「リンって、ボールのことすごく詳しいんだね!」

 

「えへへ!」

 

「でも、なんでそんなに珍しいボールが欲しいの?」

 

 愚問だな、ハイド君。

 

「かっこいいから!」

 

「……それだけ?」

 

「かわいいのもある!」

 

「……そっかぁ」

 

 ハイドが微妙な顔をした。

 

 なんだその反応は。

 重要だろ、見た目!

 

 色違いポケモンを捕まえるなら、ボールのデザインだって合わせたいじゃないか!

 ちなみにムーちゃんは普通のモンスターボールに入っている。

 

 これはこれで気に入っている。

 最初の相棒だしね。

 

 さて、実験開始である。

 ぼんぐりを四つ投入。

 

 スイッチオン!

 

 ガコンッ!

 

 ウィィィン!

 

 ……ぽんっ。

 

「……モンスターボール」

 

「おお! できた!」

 

 ハイドが喜んでいる。

 

 しかし、俺としてはまだまだ。

 

 二回目。

 

 スーパーボール。

 

 三回目。

 

 モンスターボール。

 

 四回目。

 

 ハイパーボール。

 

 五回目。

 

 …………。

 

「……なんでキズぐすり?」

 

「わ、わかんない!」

 

 ウッウロボ。

 お前、相変わらずだな。

 

 だが、ここで諦める俺ではない。

 前世で色違い厳選に何百時間も費やしてきた男だぞ?

 試行回数で殴ることに関しては、そこらの人間に負ける気がしない。

 

「ハイド!」

 

「なに?」

 

「もっとぼんぐりあつめよう!」

 

「えっ、まだやるの!?」

 

「とうぜん!」

 

 こうして、俺たちのぼんぐり地獄が幕を開けたのである。

 

 ♦

 

 翌日。

 

「リンちゃん、今日も修行するぞい!」

 

「はい!」

 

「おお、元気じゃのう!」

 

「師匠! きょうはどこまでいく!?」

 

「ん? 今日は鍛錬平原まで行こうかのう」

 

 ……鍛錬平原。

 

 たしか、あの辺にはぼんぐりの木があったはず。

 

「師匠! はやくいこう!」

 

「ほっほっほ! 今日はやる気満々じゃのう!」

 

 ふっふっふ。

 任せてください、師匠。

 

 俺には崇高な目的があるのです。

 

 そして、修行が始まった。

 

 ムーちゃんとの連携練習。

 野生ポケモンとの模擬戦。

 体力作りのための散歩。

 

 その合間に。

 

「……あっ!」

 

 ぼんぐり発見!

 

「師匠! ちょっとまって!」

 

「ん?」

 

 俺は木の下へ駆け寄った。

 

 落ちていたぼんぐりを拾い、リュックへ放り込む。

 

 一個。

 

 二個。

 

 三個。

 

 ……うむ、実にいい収穫だ。

 

「リンちゃん、何を集めとるんじゃ?」

 

「ぼんぐり!」

 

「ほう? 何に使うんじゃ?」

 

「ひみつ!」

 

「ほっほっほ。そうかそうか」

 

 師匠は楽しそうに笑っていた。

 

 ……ちなみに。

 この頃までは、まだ修行のついでにぼんぐりを集めていた。

 

 だが、数日後。

 

「師匠! きょうは集中の森にいこう!」

 

「ん? 今日は別の修行を考えとったんじゃが……」

 

「あそこ、ぼんぐりがいっぱいあるんだ!」

 

「……リンちゃん?」

 

「ムーちゃんのれんしゅうもできるし!」

 

「……ほっほっほ」

 

 あれ?なんか師匠の笑顔が怖い。

 

 しかし、そんなことを気にしている余裕はない。

 

 今の俺に必要なのは、ぼんぐり。

 圧倒的物量のぼんぐりである。

 

 修行のついでにぼんぐりを集める。

 

 それがいつの間にか。

 

 ぼんぐりを集めるついでに修行する。

 完全に手段と目的が逆転していた。

 

 ……うん、知ってる。

 

 でも、やめられないんだよなぁ!

 

 ♦

 

 実験開始から一週間ほど。

 ウッウロボの試行回数は、すでに五十回を超えていた。

 

 そして。

 

「……出ない」

 

「……出ないね」

 

 俺とハイドは、床に並んだ大量のモンスターボールを見つめていた。

 

 普通のモンスターボール。

 

 スーパーボール。

 

 ハイパーボール。

 

 たまにキズぐすり。

 

 ……いや、違う。

 

 欲しいのはこれじゃない!

 

 オシャボだ!オシャボを寄越せ!

 

「リン、これ以上やっても難しいんじゃないかな……」

 

「まだだ!」

 

「えぇ……」

 

「まだ五十かいだぞ!」

 

「もう五十回だよ!?」

 

 ふっ、甘いなハイド。

 

 たかが五十回で音を上げるとは。

 

 色違い厳選の世界では、五十回など誤差である。

 

 誤差。そう、誤差なんですよ。

 

 ……と言いたいところだが。

 

 実は、一つ問題が発生していた。

 

 ウッウロボの開発費である。

 

「……ハイド?」

 

 背後から、優しい声がした。

 

 ……あ、この声。

 嫌な予感しかしない。

 

 振り返ると、そこにはミツバさんが立っていた。

 

 にっこり。

 

 実に美しい笑顔である。

 

 ただし、手には帳簿。

 

 …………。

 

 あ~これ、終わったわ。

 

「この出費は何かしら?」

 

「け、研究費です……」

 

「研究費?」

 

「は、はい……」

 

「リンちゃん?」

 

「……将来への投資です」

 

「二人とも、そこに座りなさい」

 

 ……はい。

 

 正座確定。

 

 なお、隣にいたムーちゃんは、ものすごい速度で部屋の隅へ退避していた。

 

 おい、相棒。俺を置いていくな。

 

 しかし、ムーちゃんは賢い。

 今のミツバさんに逆らってはいけないことを、本能で理解しているのだ。

 

 ……くっ。

 これが、ききかいひの真髄か。

 

 ♦

 

 その日の夜。

 

 俺たちには、新たなルールが課せられた。

 

 一つ。修行と家事を終わらせてから研究すること。

 

 二つ。材料は基本的に自分たちで集めること。

 

 三つ。道場の設備を勝手に改造しないこと。

 

 四つ。危険な実験は、必ず大人に相談すること。

 

 ぐうの音も出ない。

 

 しかし、俺はこの程度では諦めない男である。

 

 むしろ燃えてきた。

 

「ハイド!」

 

「……なに?」

 

「やるぞ!」

 

「……まだやるの!?」

 

「とうぜん!」

 

 なぜなら、今の俺たちには明確な目標がある。

 

 『狙ったオシャボを、確実に作る』

 

 これである。

 

 運任せではない。

 素材と配合を研究し、再現性のあるレシピを完成させる。

 

 目指すは、オシャボ製造の完全自動化!

 ……まあ、材料を集めるのは手動なんですけどね。

 

 そこはまぁ、気合いと根性である。

 

 ♦

 

 それからというもの。

 俺たちは、毎日のように研究を続けた。

 

 修行を終えたら、ぼんぐり採集。

 家事を手伝ったら、実験。

 

 夕食後には、ハイドと一緒に研究ノートを確認。

 

 いやぁ充実している。

 忙しすぎて、寝る時間が惜しいくらいだ。

 

 ……なお、ミツバさんに見つかると強制就寝である。

 

 母は強し。

 

 さて、試行回数が百回を超えた頃。

 

 ついに、変化が訪れた。

 

「……あれ?」

 

 ウッウロボの口から、いつもとは違うボールが転がり出てきた。

 

 黒い本体。

 

 金色の装飾。

 

 そして、独特の高級感。

 

 ……おお?

 

 ゴージャスボールじゃねぇか!!

 

「ハイド!!」

 

「な、なに!?」

 

「でたぞ!!」

 

「え!?」

 

「ゴジャボ!!」

 

「ご、ゴジャボ?」

 

「ゴージャスボール!!」

 

 俺は思わず、その場で飛び跳ねた。

 

 ついにキタ!オシャボ第一号!

 

 ……いや、ゴージャスボールは一般流通もしているけど!

 

 それはそれ、これはこれ!

 

 自分たちで作れたことに意味があるのだ!

 

「……すごい」

 

 ハイドも目を輝かせていた。

 

「今までと違う構造になってる……!」

 

「でしょ!?」

 

「素材の組み合わせで、内部の仕組みまで変わるんだ!」

 

「そういうこと!」

 

 ……あれ?

 

 俺たち、喜んでいる理由が違う気がする。

 

 まあいいか!

 

 喜びを分かち合えるなら、それでよし!

 

 ♦

 

 そして、試行回数が二百回を突破した頃。

 

 ついに。

 

 ついに、その瞬間が訪れた。

 

「リン! 見て!」

 

「ん?」

 

「これ! 昨日と同じ組み合わせ!」

 

 ハイドが研究ノートを広げた。

 そこには、細かい数字と素材の名前がびっしりと書き込まれている。

 

「この組み合わせで、もう一回やってみよう!」

 

「おっけー!」

 

 四つの素材を投入。

 

 スイッチオン。

 

 ガコンッ!

 

 ウィィィン!

 

 ぽんっ。

 

「……ムーンボール」

 

「……うん」

 

「昨日もムーンボールだったよね?」

 

「……うん!」

 

 俺たちは顔を見合わせた。

 

 そして。

 

「「うおおおおおおお!!」」

 

 叫んだ。

 

 なぜなら、ついに同じレシピで同じオシャボが完成したからである。

 

 しかも、ハイドが装置の内部を調整したことで、素材ごとの出力が安定し始めていた。

 

 そこからは早かった。

 

 ムーンボール。

 ルアーボール。

 ヘビーボール。

 ラブラブボール。

 フレンドボール。

 スピードボール。

 レベルボール。

 

 一つ、また一つ。

 

 試行錯誤を重ねるたびに、再現できるレシピが増えていく。

 

 そして、ある日。

 

「リン……」

 

「……うん」

 

「できたよ」

 

「……うん」

 

 ハイドが、震える手で研究ノートを掲げた。

 

 そこには、数十種類の素材の組み合わせと、完成するボールの一覧。

 オシャボ確定レシピ、完成。

 

「勝ったな」

 

「……何に?」

 

「物欲センサーに、だよ」

 

「……???」

 

 ハイドは首を傾げていた。

 

 だが、俺にはわかる。

 これは歴史的勝利である。

 ランダム要素に振り回され続けてきた、すべてのオシャボ厨に捧げたい。

 

 ありがとう、ハイド。

 ありがとう、ウッウロボ。

 そして、ありがとう。

 二百回以上の試行錯誤。

 

 いやぁ……長かった。

 ……本当に長かった。

 

 これで好きなボールを作れる。

 色違いポケモンを、好きなボールに入れられる。

 最高じゃないか。

 

 もう俺、ここに永住してもいいのでは?

 

 ♦

 

 しかし、俺たちの研究はそこで終わらなかった。

 

 ある日のこと。

 

 ハイドが、アローラ地方の研究資料を持ってきたのである。

 

「リン、これ知ってる?」

 

「ん?」

 

 差し出された資料には、見慣れない形のモンスターボールが描かれていた。

 

 青と黒、黄色を基調にした、独特な模様。

 

「……ウルトラボール?」

 

「知ってるの!?」

 

「……うん」

 

 当然知ってる。

 

 ウルトラビーストを捕まえるためだけの、特殊なボール。

 

 通称ウルボ。

 

 オシャボ厨としても、ぜひ確保しておきたい一品である。

 

「これ、普通の材料じゃ作れないんだけどね」

 

 ハイドが机の上に、小さな部品を置いた。

 

「研究者の人から、特殊な捕獲装置の部品を分けてもらったんだ」

 

 ……ほう。

 

「これを使えば、もしかしたら作れるかもしれない」

 

 ……ハイド、君というやつはなんて恐ろしいことを言うんだ。

 

「……やろう」

 

「うん!」

 

「いまからやろう」

 

「うん!」

 

 もはや、迷いはなかった。

 

 俺たちは完全に同類である。

 

 そこから数日。

 

 特殊な部品を組み込み、装置を調整。

 

 何度も失敗し、そのたびに研究ノートを確認する。

 

 そして。

 

 ガコンッ!

 

 ウィィィン!

 

 ……ぽんっ。

 

 ウッウロボの口から、一つのボールが転がり出た。

 

 青と黒の、不思議な模様。

 

「リン、見て! できた!」

 

「……え?」

 

「ウルトラボール!」

 

「……は?」

 

「だから、ウルトラボール!」

 

 ………………。

 

「ハイド」

 

「うん?」

 

「お前、天才か?」

 

「……えへへ!」

 

 ハイドが照れくさそうに笑う。

 

 いや、マジで天才だと思う。

 

 こんな小さな少年が、ここまでのものを作ってしまうなんて。

 

 ……俺?

 

 俺はただのオシャボ廃人ですが何か?

 

 とにもかくにもウルトラボール、ゲットだぜ!

 

 これは大切に保管しておこう。

 

 いつか、何かの役に立つかもしれないしね。

 

 ♦

 

 そして、ウッウロボ騒動はついに最終局面を迎える。

 

 ある日、ハイドが古い研究用の部品を持ってきた。

 

「リン! これ、使えるかもしれない!」

 

「なにそれ?」

 

「特殊な捕獲制御装置の部品なんだけど、もう使われてない試作品らしいんだ」

 

 ……ふむ。

 

 なんだか、ものすごく重要そうな代物である。

 

 しかも一つしかないらしい。

 

「これをウッウロボに組み込めば、もっとすごいボールが作れるかもしれない!」

 

「……すごいボール?」

 

「うん!」

 

 ……まさか。

 

 いやいや。

 

 そんなわけないよな?

 

 でも、もし。もしもだぞ?

 

 俺は、ハイドと顔を見合わせた。

 

「……やる?」

 

「……あったりめぇよ!」

 

 こうして、最後の実験が始まった。

 ただし、今回は特殊な部品を使うため、ミツバさんにも事前に相談済みである。

 

 さすがに前回の反省は活かしている。

 俺たちだって成長するのだ。

 

 ……なお、ミツバさんには「絶対に爆発させないこと」と念を押された。

 

 非常に怖い。

 

 が、材料を投入。

 

 特殊な制御装置を接続。

 

 スイッチオン。

 

 ガコンッ!

 

 ウィィィィン!!

 

 ガガガガガガッ!!

 

 ……ん?

 

 なんか音がおかしくない?

 

「ハイド?」

 

「……あれ?」

 

「……これ、だいじょうぶ?」

 

「……たぶん?」

 

 …………。

 

 たぶん!?

 

 おいおいおい! それ、一番信用ならない回答なんですが!?

 

 次の瞬間。

 

 バチッ!

 

「うわっ!?」

 

 装置から火花が散った。

 

 慌ててハイドが停止スイッチを押す。

 

 ……ガコン。

 

 機械が静かになった。

 

 …………。

 

 ……失敗?

 

 そう思った、そのとき。

 

 ぽとん。

 

 ウッウロボの口から、一つのボールが転がり落ちた。

 

 紫色の上部。

 

 赤紫の装飾。

 

 そして。

 

 中央に描かれた、大きな『M』の文字。

 

 ………………は?

 

「……ハイド」

 

「……なに?」

 

「ちょっときいていい?」

 

「……うん」

 

「これ……マスターボールじゃない?」

 

「……え?」

 

 …………。

 

 …………。

 

 ………………。

 

「師匠ぉぉぉぉぉ!!」

 

 俺は叫んだ。

 

「なんかやばいの出たぁぁぁぁ!!」

 

 ♦

 

 その後、マスタード師匠とミツバさんが駆けつけた。

 

 事情を説明すると、二人とも目を丸くした。

 

「……ほっほっほ。まさか、こんなものができるとはのう」

 

「ダーリン、笑い事じゃないわよ!?」

 

 ミツバさんが、ハイドの研究ノートを確認する。

 

 そして、深いため息。

 

「……本当に、あなたたちは……」

 

 あ、また怒られるやつだ。

 

 しかし、今回ばかりは事情が違う。

 

 俺たちはちゃんと許可を取ったのだ!

 

 ……結果が想定外すぎただけで。

 

「それにしても、すごいのう」

 

 マスタードがマスターボールを手に取った。

 

「捕獲制御の仕組みも、なかなか精巧じゃ。少なくとも、ただの飾りではなさそうじゃのう」

 

 ハイドが嬉しそうに頷く。

 

「ただ、特殊な部品は全部使っちゃったし……」

 

「うん?」

 

「制御装置も壊れちゃったから、もう一個作るのは難しいと思う」

 

 なるほど。

 

 一品物、というわけか。

 まあ、そりゃそうだよな。

 

 マスターボールを量産できたら、世界の捕獲事情が根底から変わってしまう。

 

 それに正直、俺としては別に構わない。

 

 なぜなら俺が本当に欲しいのはオシャボだからである。

 

 マスボ?

 

 一個あれば十分っしょ!

 

 それよりムーンボールを百個ください。

 

「リンちゃん」

 

「はい!」

 

 マスタードが俺を呼んだ。

 

「このボール、チミが持っておくかい?」

 

「……え?」

 

「ハイドと一緒に作ったものじゃろ?」

 

 ……マ?

 

「でも、こんなすごいもの……」

 

「ほっほっほ! 大切に使えばよいんじゃよ!」

 

 師匠はにっこり笑った。

 

「ただし、まだ試作品じゃからのう。実際に使う前には、ちゃんと大人に確認してもらうんじゃぞ?」

 

「……うん!」

 

 俺は両手でマスターボールを受け取った。

 

 ……重い。

 

 いや、物理的な重さというより。

 

 なんというか。

 

 すごいものを手に入れてしまったという実感がある。

 

 ……でも、やっぱりさぁ。

 

 オシャボのほうがテンション上がるなぁ。

 

 ……今のは内緒ね?

 

 ♦

 

 さて。こうして、俺たちの研究は大成功を収めた。

 

 狙ったオシャボを作れるレシピを確立。

 

 ウルトラボールの製造にも成功。

 

 おまけに、マスターボールまで手に入れた。

 

 完璧では?

 

 これ、もう大勝利でしょ。

 

 俺は完成したボールを机の上に並べた。

 

 ムーンボール。

 ルアーボール。

 ヘビーボール。

 ラブラブボール。

 フレンドボール。

 スピードボール。

 レベルボール。

 ゴージャスボール。

 そして、ウルトラボールにマスターボール。

 

 実に壮観である。

 

「ハイド……」

 

「……うん」

 

「やったな」

 

「……うん!」

 

 俺たちは固い握手を交わした。

 

 ここに、歴史的な共同研究が完了したのである。

 

 ……いやぁ。

 

 いい仕事したわ。

 

 さてと、この成果をぜひ師匠にも見せてあげなければ。

 

「師匠ぉぉぉ!!」

 

 俺は完成したボールを抱えて、道場へ駆け込んだ。

 

「きょうのせいかを見てくれ!!」

 

「んお?」

 

 マスタード師匠が顔を上げた。

 

 俺は机の上に、ずらりとボールを並べる。

 

「どう!? すごいでしょ!!」

 

「……ほっほっほ」

 

 師匠が、一つずつボールを眺める。

 

「こりゃあ、たいしたもんじゃのう」

 

「でしょ!?」

 

「リンちゃんもハイドも、よく頑張ったぞい!」

 

「えへへ!」

 

 褒められた!

 

 しかも元チャンピオンに!

 

 これは実質世界一位と言っても過言では――

 

「……ところで、リンちゃん」

 

 ん?なんだろう。

 

 なんか嫌な予感。

 

「今日のバトル修行は?」

 

 しまった、完全に忘れてた。

 

 いや、忘れてたわけではない。

 

 ちゃんと覚えてはいた。

 

 覚えてはいたんだけど……。

 

 研究が楽しすぎたのである。

 

「……師匠」

 

「ん?」

 

「……あしたから、ほんきだす!」

 

「今日からじゃ!!」

 

 道場中に、マスタード師匠の声が響き渡った。

 

 はい。

 

 すみません。

 

 完全に調子に乗りました。

 

 なお、その日の夕方。

 

 俺はムーちゃんと一緒に、道場の周囲を走らされることになった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「グソッ!」

 

「ムーちゃん……まって……」

 

「グソ?」

 

 元世界一位の色違い廃人。

 

 四歳にして、オシャボ製造技術を確立。

 

 ウルトラボールとマスターボールの入手にも成功。

 

 しかし。

 

 本人の体力は、まったく成長していなかった模様。

 

 おかしい……こんなはずでは。

 

 俺はただ、オシャボを作りたかっただけなのに。

 

 なぜ今、地獄のランニングをしているのだろうか。

 

 

 ……まあ、いいか。

 

 とりあえず。

 

 修行は明日から本気出す。

 

 ……え?

 

 今日から?

 

 無理ですって。

 

 もう足が動きません。

 

 誰か、たすけて。

 

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