ヨロイ島にやってきてから、一年と少しが経過した。
つまり、何が言いたいかというと。
不肖このリン、無事に五歳になりました!
いやぁ、めでたい。
この世界に爆誕して早五年。
最初は寝返りすら打てなかった俺が、今では自分の足で走り回り、ポケモンバトルまでできるようになったのである。
人間の成長とは素晴らしい。
ちなみに現在、俺はマスター道場の中庭を全力疾走している。
「はぁっ……はぁっ……!」
「ほっほっほ! リンちゃん、もうひと踏ん張りじゃ!」
「し、師匠ぉ……!」
「あと一周じゃよ!」
「まだあるのぉ!?」
前言撤回、人間の成長には限界がある。
というか、五歳児に求める運動量じゃないと思うんですよね、これ。
「グソッ! グソッ!」
隣を走るムーちゃんが、こちらを励ましてくれる。
ありがとう、ムーちゃん。
でもね、君は立派なグソクムシャなんですよ。
こっちはまだ五歳児なんですよ。
種族値の暴力はやめていただきたい。
……もっとも、一年前は道場の庭を一周するだけでへばっていた俺も、今では三周走れるようになった。
これもマスタード師匠のおかげである。
ちなみに最初の頃は、筋トレよりもウッウロボに夢中になっていた。
……いや、今も大好きだけどね?
しかし、ミツバさんから「修行が終わらないと研究は禁止」という鉄の掟が制定された結果、俺の修行効率は劇的に向上した。
オシャボのためなら、五歳児だって本気を出す。
人間、目的があると強いのだ。
……ん?
目的と手段が逆転している?
細かいことは気にするな。
♦
もちろん、この一年間で成長したのは俺だけではない。
我が愛しの相棒、ムーちゃんも随分と立派になった。
いや、外見は最初から立派だったんだけどさ。
問題は中身である。
覚えているだろうか。
一年前のムーちゃんは、身体こそグソクムシャに進化していたものの、戦闘となると怖がってしまうことが多かった。
相手が急に近づけば身を縮める。
大きな音がすれば飛び退く。
そして、俺の背中に隠れようとする。
……まあ、隠れられてないんですけどね。
俺より圧倒的にデカいので。
そんなムーちゃんだったが、最近は少しずつ変わってきた。
「ムーちゃん、相手の動きをよく見て!」
「グソッ!」
「コジョフー、ドレインパンチ!」
「コジョッ!」
道場の練習場。
年上の門下生が繰り出したコジョフーが、勢いよく踏み込んでくる。
以前のムーちゃんなら、ここで思わず後退していただろう。
だが、今は違う。
「ムーちゃん、無理に受けなくていい! 右へ!」
「グソッ!」
大きな身体を横へ滑らせ、相手の拳を避ける。
そして、すぐには反撃しない。
……よし、いい判断だ。
「相手が次に動いたら、ふいうち!」
コジョフーが再び拳を構えた瞬間。
「グソォッ!」
ムーちゃんが先に踏み込んだ。
「コジョッ!?」
コジョフーが体勢を崩す。
その隙を逃さず、俺は声を張り上げた。
「シェルブレード!」
「グソォォッ!」
水の刃が振り抜かれる。
コジョフーは倒れ込み、そのまま戦闘不能となった。
「やったぁ! ムーちゃん!」
「グソッ!」
俺が両手を広げると、ムーちゃんが嬉しそうに近づいてくる。
そして。
ぎゅむっ。
「ぐえっ!?」
抱きしめられた。
……待って重い。
いや、嬉しいよ?
嬉しいんだけどさ。
そろそろ自分の体重を自覚していただけませんかね!?
「ははは! 相変わらず仲がいいな、リン!」
対戦相手の門下生が笑っている。
……うむ、仲がいいことは認める。
ただし、命の危険を感じるレベルのスキンシップは如何なものかと思うわけですよ。
そんな俺たちの様子を、少し離れた場所からマスタード師匠が眺めていた。
「ほっほっほ! ずいぶん息が合うようになったのう!」
「でしょ!?」
「うむ。前よりもずっと、ムーちゃんのことを見られるようになったみたいじゃ」
……へへっ。そう言われると、やっぱり嬉しい。
この一年、俺たちはたくさん失敗してきた。
読みが外れて攻撃を受けたり。
ムーちゃんが怖がって動けなくなったり。
逆に、俺が余計な指示を出してしまったり。
でも、そのたびに考えた。
どうすればムーちゃんが安心できるのか。
どんなときに怖くなるのか。
どんな動きが得意なのか。
そして、何より。
ムーちゃん自身は、どうしたいのか。
前世では、ポケモンの能力を最大限に活かすことばかり考えていた。
でも今は、そのポケモンが何を考えているのかも大切にしたい。
……いやぁ、なんというか。
ポケモンバトルって、奥が深いですなぁ。
世界一位だった俺が、こんなことを言う日が来るとは。
人生、何があるかわからないものである。
♦
さて。そんな充実した道場生活にも、とうとう終わりが近づいていた。
「リンちゃん、そろそろお家に帰る日じゃのう」
ある日の夕食後。
マスタード師匠が、そんなことを言い出した。
「……え?」
「ほっほっほ。もう一年以上も経つからのう。コウジちゃんたちも、首を長くして待っとるじゃろうて」
あ~そっか。
もう、そんなに経つのか。
毎日修行して、ムーちゃんと遊んで。
ハイドとウッウロボを回して。
ミツバさんに怒られて。
また修行して。
…………。
なんか怒られてる割合が多くない?
まあ、いいか。
「……そっかぁ」
思わず、そんな言葉が漏れた。
正直、ちょっと寂しい。
だって、この道場は楽しいんだもん。
マスタード師匠は面白いし。
ミツバさんのご飯は美味しいし。
ハイドとの研究は最高だし。
門下生のみんなとも仲良くなれた。
……帰りたくないなぁ。
なんて思っていると。
「じゃが、その前に!」
マスタード師匠が、にっこり笑った。
「最後の修行をしようかの!」
「……最後の?」
「そうじゃ! 卒業試験じゃよ!」
お、卒業試験?
ということは……。
「……バトル!?」
「ほっほっほ! もちろんじゃ!」
マスタード師匠とのバトル!
一年前はコジョフーを相手に勝つことができたが、あれはまだ手加減された練習試合だった。
今回は卒業試験。
つまり……少しは本気を見せてもらえる、ってコト!?
「やる!!」
「ほっほっほ! いい返事じゃ!」
こうして、俺たちの最後の修行が決まったのである。
♦
翌日。
道場の練習場には、門下生たちが集まっていた。
ミツバさんも、ハイドもいる。
……なんか、めちゃくちゃ見られてる。
ちょっと恥ずかしい。
いや、前世では世界ランキング一位まで行った男だぞ?
観客くらいで緊張するわけが――
「リンー! 頑張ってー!」
「ハイド! ありがとー!」
……うん。
やっぱり少し緊張する。
そして、向かい側に立つのはマスタード師匠。
「さてさて、リンちゃん!」
「はい!」
「今日の相手は、この子じゃ!」
マスタードがモンスターボールを投げる。
白い光が弾け、その中から現れたのは――
「コジョォッ!」
しなやかな身体。
長く伸びた腕の毛。
そして、熟練の武闘家を思わせる立ち姿。
……コジョンド。
コジョフーの進化形である。
「うおおお! コジョンドだ!」
「ほっほっほ! 一年前のコジョフーが進化したんじゃよ!」
……マジか!
あのときの子か!
そっかぁ……師匠のポケモンも、ちゃんと成長してるんだな。
「ムーちゃん!」
「グソッ!」
俺の隣に、色違いグソクムシャが立つ。
白い装甲が日の光を反射し、赤い触角が風に揺れる。
うーん、何度見ても最高に格好いい。
「それじゃ、始めるぞい!」
「いつでも!」
マスタード師匠が片手を上げた。
……よし。
まずは先制技で流れを――
「ムーちゃん、であいがしら!」
「コジョンド、ねこだましじゃ!」
……え?
次の瞬間。
パンッ!
「グソッ!?」
コジョンドの両手が、ムーちゃんの目前で打ち鳴らされた。
ムーちゃんが思わず身体をすくませる。
であいがしら、不発。
クッソ、やられた!
ねこだましのほうが優先度高いんだった。
先制技対決で上を取られた!
「ほっほっほ! 一年前と同じ手は通じんぞい!」
「ぐぬぬ……!」
しかもであいがしらは、場に出た直後しか使えない。
つまり、初手の切り札が潰されたわけである。
やるな、師匠!
だがしかし、こっちにだって手はある!
「ムーちゃん、ふいうち!」
「コジョンド、みきり!」
「……あっ」
ムーちゃんが踏み込もうとした瞬間、コジョンドは静かに構え直した。
攻撃してこない。
当然、ふいうちは不発。
うーわ、完全に読まれてるわ。
そりゃ元チャンピオン相手に何回も同じ手は通用せんわな。
「ほっほっほ! どうしたのう、リンちゃん?」
「……やってくれるね!」
「まだまだこれからじゃよ!」
楽しそうに笑いやがって!
これが元チャンピオンの余裕かよ!
「コジョンド、とびはねる!」
「コジョッ!」
コジョンドが地面を蹴り、空高く跳び上がった。
……っ!
ひこうタイプの攻撃!
むしタイプのムーちゃんには効果抜群だ。
落下の勢いまで乗った一撃をまともに受ければ、さすがに危ない。
「ムーちゃん!」
「グソッ!?」
ムーちゃんが空を見上げた。
そして。
……あ。
その身体が、少し震えている。
一年前なら、俺は何を考えただろう。
相手が空中にいるなら、着地を読んで反撃。
あるいは、攻撃を受ける瞬間にこちらの技を合わせる。
そんなことばかり考えていた気がする。
でも、今は。
「ムーちゃん、こっち見て!」
「グソ……?」
「だいじょうぶ!」
俺は笑った。
「こわかったら、よけていいから!」
ムーちゃんが、こちらを見つめる。
「むりにうけなくていい! よく見て、うごこう!」
「……グソッ!」
その瞬間。
空からコジョンドが降ってきた。
「コジョォォッ!」
「ムーちゃん、左!」
「グソッ!」
大きな身体が横へ滑る。
コジョンドの蹴りが、すぐ隣の地面を叩いた。
ドンッ!
砂埃が舞い上がる。
……よし!
避けた!
しかもムーちゃん、ちゃんと落ち着いてる!
「いまだ! シェルブレード!」
「グソォッ!」
ムーちゃんが水の刃を振り抜いた。
コジョンドの身体を捉え、後方へ押し戻す。
「おおっ!」
門下生たちから歓声が上がった。
……へへっ!
見たか!
これが俺たちの一年間の成果だ!
「ほっほっほ! いいぞい、リンちゃん!」
マスタード師匠が嬉しそうに笑った。
しかし。
「じゃが、まだまだ甘いのう!」
「……っ!」
「コジョンド、はどうだん!」
「コジョッ!」
コジョンドが両手を突き出す。
青白いエネルギーが、一気に放たれた。
……速い!
「ムーちゃん!」
「グソォッ!」
直撃。
ムーちゃんが大きく後退する。
その身体が、思わず俺のほうへ向いた。
……あ。
逃げたいんだ。
長い時間を一緒に過ごしてきたから、わかる。
ムーちゃんは今、怖い。
でも同時に、まだ戦いたいとも思っている。
……なら。
「ムーちゃん!」
「グソ……?」
「まだいける?」
俺は、ただそう聞いた。
無理しなくていい。
怖ければ、ここで終わってもいい。
俺たちは、もう十分頑張った。
でも、もし……お前がまだ戦いたいなら。
「……グソッ!」
ムーちゃんが、一歩前へ踏み出した。
……!
そっか。まだ、やれるんだな!
「よし! じゃあ、もういっかい!」
「グソォッ!」
ムーちゃんが駆け出す。
俺は相手の動きを見つめた。
前世で培った知識。
読み合い。
技の選択。
そして、ムーちゃんの気持ち。
その全部を使って、俺たちは最後まで戦った。
……結果?
負けました。
いや、そりゃそうよ。
元ガラルチャンピオンだぞ?
しかも、師匠のコジョンド。
簡単に勝てるわけないじゃん!
……でも。
「……ムーちゃん」
「グソ……」
「たのしかったね!」
「グソッ!」
俺は笑った。
悔しくないと言えば嘘になる。
そりゃ勝ちたかった。
勝ちたかったけど。
それ以上に、嬉しかった。
だって。
ムーちゃんが最後まで、自分の意思で戦ってくれたんだから。
「ほっほっほ!」
マスタード師匠が、俺たちの前まで歩いてきた。
「いやぁ、いい勝負じゃった!」
「……でも、まけちゃった」
「そうじゃのう」
師匠は笑顔のまま頷いた。
「じゃが、リンちゃん」
「ん?」
「勝つことだけが、修行の成果じゃないんじゃよ」
そう言って、ムーちゃんを見つめる。
「一年前のこの子は、怖くなるとすぐに逃げようとしておった」
「……うん」
「じゃが今日は、怖くても自分で考え、リンちゃんの声を聞いて、最後まで戦った」
……。
「それに、リンちゃんもじゃ」
「……おれ?」
「そうじゃ。前は自分の作戦ばかり考えておったが、今日はムーちゃんの気持ちをちゃんと見ておった」
師匠は、俺の頭に大きな手を置いた。
「だからのう――」
そして。
「卒業試験、合格じゃ!」
…………。
「……ほんと!?」
「もちろんじゃ!」
「やったあああああ!!」
俺は思わず飛び跳ねた。
「ムーちゃん! ごうかくだって!」
「グソッ!」
ムーちゃんが嬉しそうに俺へ抱きついてくる。
「ぐえっ!?」
……うん。
やっぱり重い。
卒業したところで、この問題だけは解決しないらしい。
助けて。
♦
その日の夕方。
俺は道場の縁側で、マスタード師匠と並んで座っていた。
夕焼けに染まる一礼野原。
遠くから聞こえてくる、野生ポケモンたちの鳴き声。
その景色を眺めていると、この一年間のことが自然と思い出された。
「……師匠」
「ん?」
「いままで、ありがとう」
マスタード師匠が、少し驚いたようにこちらを見た。
そして。
「ほっほっほ! どういたしましてじゃ!」
いつもの笑顔。
でも、今日は少しだけ違って見えた。
「リンちゃん、よく覚えておくんじゃよ」
「なに、師匠?」
「ポケモンのことを、たくさん知っとるのは立派なことじゃ」
「……うん」
「じゃがのう」
師匠は、隣で休んでいるムーちゃんを見つめた。
「知っていることと、わかってあげられることは違うんじゃよ」
…………。
あ。
その言葉。
一年前にも、聞いた。
「ポケモンは生きとる。ワシらと同じように、嬉しいこともあれば、怖いこともある」
「……うん」
「たとえ同じ種類のポケモンでも、みんな違うんじゃ」
師匠の声は、いつもより少しだけ穏やかだった。
「だから、どれだけ知識が増えても、目の前にいる子のことを、ちゃんと見てあげるんじゃよ」
…………。
俺はムーちゃんを見た。
白い装甲。
赤い触角。
大きな身体。
だけど、その中身は昔と変わらない。
甘えん坊で。
ちょっと怖がりで。
それでも、俺のことを信じてくれる。
……そっか。
俺は、ポケモンのことをたくさん知っている。
でも、ムーちゃんのことはまだまだ知らないことがある。
きっと、これからも。
知らないことが、たくさん出てくるんだろう。
「……師匠」
「ん?」
「おれ、もっとポケモンのこと、しりたい」
「……うむ」
「それで、もっともっと、つよくなりたい!」
マスタード師匠が、嬉しそうに目を細めた。
「ほっほっほ! その気持ちがあれば、きっと大丈夫じゃよ」
そして。
「またいつでも、ここへ来るといい」
「……ほんと?」
「もちろんじゃ! ワシちゃんは、いつでも待っとるからのう!」
……へへっ。
なんだよ。
そんなこと言われたら、また来たくなっちゃうじゃん。
「……うん!」
俺は力いっぱい頷いた。
「つぎにくるときは、もっとつよくなってるからね!」
「ほっほっほ! 楽しみにしとるぞい!」
♦
そして、出発の日。
「リンちゃん! 忘れ物はない?」
「だいじょうぶ!」
ミツバさんが、大きな荷物を抱えてやってきた。
「はい、これ。お菓子と着替え、それから生活用品も入れておいたわ」
「ありがとう、ミツバさん!」
「ふふっ。お家に帰っても、ちゃんとご飯を食べるのよ?」
「はい!」
「あと、早寝早起き!」
「はい!」
「それから、勝手に危ないところへ行かないこと!」
「……はい!」
なんで最後だけ、そんなに念を押すんですかね?
俺、そんなに信用ない?
……ないか、ないわな。
自覚はある。
「リン!」
そこへ、ハイドが駆け寄ってきた。
「ハイド!」
「これ、持っていって!」
そう言って差し出されたのは、大きな箱。
……ん?
なんだこれ。
結構重いぞ?
「開けてみて!」
「……うん?」
俺は箱の蓋を開けた。
そこには。
ムーンボール。
ルアーボール。
ヘビーボール。
ラブラブボール。
フレンドボール。
スピードボール。
レベルボール。
その他諸々。
……。
…………。
オシャボの山である。
「うおおおおおおおお!!」
俺は思わず叫んだ。
「ハイド!! これ、ぜんぶ!?」
「うん! リンと一緒に作った分だよ!」
……神か?
いや、マジで神か?
「ハイドぉぉぉ!!」
「うわっ!?」
思わず抱きついた。
「ありがとぉぉぉ!!」
「わわっ! リン、苦しいって!」
……いやぁ、最高の友達を持ったものである。
ちなみにウルトラボールも、あのマスターボールも、ちゃんと荷物に入れてある。
マスボは例の一個だけ。
ウルボも貴重な試作品。
どちらも大切に保管するつもりだ。
……だがしかし。
俺が本当に嬉しいのは、やっぱりガンテツボールなのである。
オシャボ最高!
オシャボしか勝たん!
「リン、また一緒に研究しようね!」
「もちろん!」
「今度は、もっとすごい機械を作るから!」
「たのしみにしてる!」
俺たちは固い握手を交わした。
ここに、発明家と色違い廃人の友情は不滅であることが証明されたのであった。
……なお。
「……ハイド?」
背後からミツバさんの声がした。
「……はい?」
「そのボール、まさか全部持っていかせるつもり?」
「……え?」
「……研究室、空っぽになってないでしょうね?」
ハイドよ、強く生きろ。
俺は一足先に帰らせてもらう。
……決して逃走ではない。
戦略的撤退である。
♦
こうして、俺は一年と少しを過ごしたヨロイ島を後にした。
マスタード師匠。
ミツバさん。
ハイド。
そして、道場のみんな。
本当にありがとう。
この一年間で、俺はたくさんのことを学んだ。
ポケモンバトルの楽しさ。
相棒を理解することの難しさ。
そして、仲間と一緒に強くなる喜び。
……あと。
ウッウロボの素晴らしさ。
これも忘れてはいけない。
むしろ、かなり重要である。
……いや、冗談だよ?
半分くらいは。
「ムーちゃん、かえるぞ!」
「グソッ!」
俺はムーちゃんのモンスターボールを握り締めた。
……へへっ。
また、いつか。
もっと強くなって、ここへ戻ってこよう。
そのときは、師匠にも驚いてもらいたい。
……もちろん。
ハイドと新しいオシャボも作りたいけどね!
♦
――数時間後。
バウタウンの我が家。
「ママン! ただいまー!」
「リン!」
玄関を開けると、ママンが駆け寄ってきた。
「おかえりなさい! 大きくなったわねぇ!」
「えへへ!」
「ちゃんといい子にしてた?」
「もちろん!」
うん、嘘は言っていない。
タブンネ。
「おお、リン! 帰ってきたか!」
「パパン!」
久しぶりに会うパパンも、嬉しそうに笑っていた。
……いやぁ。
やっぱり我が家は落ち着きますなぁ。
ママン。
パパン。
そして、ムーちゃん。
これぞ家族の団欒というやつである。
……さて、それでは。
そろそろ、俺の一年間の成果をお披露目するとしましょうかね!
「ママン! パパン!」
「ん?」
「なあに?」
「みてみて!」
俺は荷物の中から、大きな箱を取り出した。
そして、蓋を開ける。
そこには、色とりどりのモンスターボールがぎっしりと詰まっていた。
「みてママン! こんなにオシャボが!」
ママン、パパン、沈黙。
……あれ?
なんか反応が薄くない?
「……リン」
「なに?」
「……これ、全部どうしたの?」
「つくった!」
「……作った?」
「うん! ハイドといっしょに!」
ママンが、ゆっくりとパパンを見る。
パパンが、ゆっくりと俺を見る。
この流れ、おれ、知ってる。
「……リン」
「はい」
「あなた、ヨロイ島へ何を習いに行ったの?」
何を習いに行ったのか。
そんなの。
決まっているではないか。
「ポケモン!」
「本当に!?」
ママンの声が、家中に響き渡った。
え?いや、ポケモンの勉強はちゃんとしたよ?
バトルもしたし。
修行もしたし。
ムーちゃんとも仲良くなったし。
……ついでにオシャボの製造技術を確立しただけで。
何か問題でも?
ねぇ、パパン。なんで頭抱えてるの?
ママン。なんでそんな顔してるの?
♦
――その頃、ヨロイ島のマスター道場では。
「……あの子は、また来るじゃろうな」
縁側に座るマスタードが、楽しそうに呟いた。
隣にいたミツバが、ふふっと笑う。
「ええ。きっと来るでしょうね」
「ほっほっほ! 次に会うときが楽しみじゃのう!」
「そうねぇ……」
ミツバは少し考えてから、にっこり笑った。
「でもダーリン」
「ん?」
「今度は道場の倉庫に、ちゃんと鍵をかけておきましょうね」
「……ほっほっほ!」
マスタードは笑った。
どこか、遠い目をしながら。
♦
こうして。
元世界一位の色違い廃人、リン。
五歳にして、マスター道場を無事卒業。
得たものは、ポケモンへの理解と、師匠との絆。
そして、尋常ではない量のオシャボであった。
いやぁ……ヨロイ島って、最高ですね!