色違いタイプ統一縛りニキのポケ界転生日記   作:霜月ルイ

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chapter:8 五歳児、帰宅早々に危険人物認定される。

 ヨロイ島から帰ってきた翌朝。

 俺は、一年ぶりとなる自分のベッドで目を覚ました。

 

 ……うむ、素晴らしい。

 実に素晴らしい朝である。

 

 何が素晴らしいって?

 まず、マスタード師匠の早朝ランニングがない。

 

 門下生たちとの筋トレもない。

 ミツバさんのお掃除当番もない。

 

 つまり、完全なる休日である!

 

 いやぁ、最高っすね。

 

 これが自由。

 これが人権。

 これがホワイトな労働環境というやつか。

 ……まあ、五歳児なので労働者ではないんですけどね。

 

「……ふぁぁ」

 

 俺は布団を頭までかぶり直した。

 

 久しぶりの我が家。

 

 懐かしい匂い。

 柔らかい布団。

 窓の外から聞こえてくる、バウタウンのキャモメたちの鳴き声。

 

 完璧だ……、今日は昼までゴロゴロしてやるぜ。

 

 師匠よ、さらば。

 筋トレよ、さらば。

 これからは悠々自適なスローライフの始まりである。

 

 ……と、そのときだった。

 

 モンスターボールから急にムーちゃんが出てきた。

 

 なんだよぉ、こんな朝っぱらから。

 

「……グソ?」

 

 ……俺ニュータイプだからわかるんだ、この嫌な予感。

 

 俺は恐る恐る布団から顔を出した。

 

 そこには白く巨大な装甲。

 

 赤い触角。

 

 立派な鎌のような前脚。

 

 そして、俺をじっと見つめるつぶらな瞳。

 

 我が愛しの相棒、ムーちゃんである。

 

「……ムーちゃん?」

 

「グソッ!」

 

「いや、今日はお休みで……」

 

「グソッ!」

 

 ムーちゃんは窓の外を指差した。

 

 どうやら、いつもの修行時間だから起きろと言いたいらしい。

 

 ……まぁ、待て落ち着け。

 俺たちは昨日、道場を卒業したんだぞ?

 もう早朝ランニングからは解放されたはずでは?

 

「……ムーちゃん、今日は寝よう?」

 

「グソ?」

 

「ほら、お布団あったかいよ?」

 

「グソッ!」

 

 駄目らしい。

 

 マスタード師匠のスパルタ教育、ムーちゃんにまで感染してんだが!?

 どうしてくれるんだ、あの爺さん!

 

 そして。

 

「グソォッ!」

 

「ぐえっ!?」

 

 ムーちゃんが俺を抱き上げた。

 

 そのまま、ひょいっとベッドから降ろされる。

 

 ……あれ?

 

 もしかして俺、ポケモンに生活習慣を管理されてる?

 立場逆転してない?

 

「……わかったよぉ」

 

「グソッ!」

 

 嬉しそうなムーちゃん。

 

 ……くっ、かわいい。

 かわいいから許す。

 

 こうして、俺の優雅な休日は開始三分で終了した。

 

 南無三。

 

 ♦

 

「おはよう、リン。早いのね」

 

「おはよぉ、ママン……」

 

「あら、どうしたの? 眠そうね」

 

「ムーちゃんが……」

 

「グソッ!」

 

 元気よく返事をするムーちゃん。

 ママンは二人を見比べて、くすりと笑った。

 

「ふふっ。道場でちゃんと生活してたのね」

 

 ……うん、生活してたよ。

 

 してたけどさぁ。

 

 卒業したら自動的に修行習慣が解除されるシステムとか、ないんですかね?

 

 ない?

 

 そうですか。

 

 ちなみに朝食後、庭で軽く身体を動かしていると、パパンが様子を見に来た。

 

「おっ、もう練習してるのか?」

 

「ムーちゃんがやる気まんまんで……」

 

「ははは! いいことじゃないか!」

 

 ……パパン、笑い事じゃないんだよ。

 

 俺のスローライフ計画は、初日から破綻したんだよ。

 

「そうだ、リン。今日はルリナちゃんに挨拶に行かないか?」

 

「……姉さんに?」

 

「ああ。帰ってきたって聞いて、会いたがってたぞ」

 

 ルリナ姉さん!

 

 そういえば、まだ帰ってきた報告をしていなかった!

 

「いく!!」

 

「おお、元気になったな」

 

 あたぼうよ!久しぶりに姉さんに会えるんだぞ!

 

 そうと決まれば、さっそく出発である。

 

「ムーちゃん! いくぞ!」

 

「グソッ!」

 

 そういえば、俺の修行の成果見せてあげなきゃな!

 

 ♦

 

 バウタウン。

 

 潮風の吹く港町は、今日も賑やかだった。

 漁船が行き交い、キャモメが空を飛び、道端では水タイプのポケモンたちがのんびり過ごしている。

 

 うーん。

 やっぱり故郷はいいものですなぁ。

 

 ヨロイ島も最高だったが、この街にはこの街の良さがある。

 

「……あら?」

 

 港の近くを歩いていると、聞き覚えのある声がした。

 

 顔を上げる。

 そこには、見慣れた青い髪の女性が立っていた。

 

「あっ!」

 

「……リン?」

 

 女性が目を丸くする。

 そして、ぱっと笑顔になった。

 

「リン! 帰ってきてたの!?」

 

「姉さぁぁぁん!!」

 

 俺は全力で駆け出した。

 ルリナ姉さんも、しゃがんで両手を広げてくれる。

 

「おかえり、リン!」

 

「ただいま!」

 

 ぎゅっと抱きしめられる。

 

 ……うむ。

 実に素晴らしい。

 

 これが姉属性の包容力というやつか。

 前世の俺が見たら、きっと血涙を流して羨ましがったに違いない。

 

「ふふっ。大きくなったねぇ」

 

「えへへ!」

 

「ヨロイ島は楽しかった?」

 

「すっごく!」

 

「そう。よかったね」

 

「俺ね! いっぱいしゅぎょうしたんだよ!」

 

「へぇ! どんな修行?」

 

「ぼんぐりをあつめたり!」

 

「うん?」

 

「ウッウロボをかいりょうしたり!」

 

「……うん?」

 

「オシャボのレシピをけんきゅうしたり!」

 

「…………」

 

 あれ?

 

 姉さんの笑顔が固まった。

 

「……リン?」

 

「なに?」

 

「それ、修行……なの?」

 

「もちろん!」

 

 だって、ぼんぐりを効率よく集めるためには体力が必要だし、野生ポケモンとの戦闘も発生する。

 

 つまり、実質修行なのである。

 

 Q.E.D.

 

 証明終了。

 

「あとね! マスボもつくった!」

 

「……マスボ?」

 

「マスターボール!」

 

 …………。

 

 ルリナ姉さん、フリーズ。

 

 あれ? なんか最近、俺がマスターボールの話をするとみんな固まるんだけど。

 

 もしかして、そんなに珍しいものなのだろうか。

 

 ……いや、珍しいわ。知ってた。

 

「……リン」

 

「うん?」

 

「マスターボールって、あのマスターボール?」

 

「そう!」

 

「どんなポケモンでも捕まえられるっていう……?」

 

「そうそう!」

 

 姉さんはしばらく俺を見つめた。

 

 そして、隣のパパンへ視線を向ける。

 

「……コウジさん?」

 

「……ああ」

 

「……本当に?」

 

「……本当なんだ」

 

 パパンが遠い目をしていた。

 

 なぜだ。

 

 息子の偉業をもっと誇っていいんだぞ?

 

「……まあ、リンらしいといえばリンらしいけど」

 

 姉さんが苦笑する。

 

「それで? ポケモンバトルのほうはどうなの?」

 

 …………。

 

 おっ。

 

 来たな?

 

 その質問を待っていた!

 

「もちろん! すっごくつよくなったよ!」

 

「ふふっ。じゃあ、お姉さんにも見せてくれる?」

 

「みせる!」

 

 というわけで。

 

 急遽、俺の修行成果発表会が開催されることになった。

 

 ♦

 

 場所は、街外れの練習スペース。

 

 対戦相手はパパンのゴーリキー。

 

 ルリナ姉さんは少し離れたところで、俺たちの様子を見守っている。

 

「リン、準備はいいか?」

 

「いつでも!」

 

「ゴーリキー、今日も頼むぞ!」

 

「ゴーリッ!」

 

 ゴーリキーが構える。

 

 対するムーちゃんも、大きな前脚を広げた。

 

「グソッ!」

 

 ……よし。

 

 相手はかくとうタイプ。

 

 ムーちゃんのむし・みず複合なら、かくとう技は半減。

 

 ただし、だからといって無理に攻撃を受ける必要はない。

 

 ヨロイ島で教わったことを、ちゃんと活かしてみせよう。

 

「それじゃ、始めるぞ!」

 

「ムーちゃん! であいがしら!」

 

「グソォッ!」

 

 ムーちゃんが一気に踏み込む。

 

 白い巨体が、地面を滑るように加速した。

 

「ゴーリキー、受け止めろ!」

 

「ゴーリッ!」

 

 ゴーリキーが両腕を交差させ、攻撃を受け止める。

 

 ずんっ!

 

 重い衝撃。

 

 だが、ゴーリキーは踏みとどまった。

 

「おお、いい威力だな!」

 

 パパンが笑う。

 

 ふっふっふ。

 

 そうでしょうとも!

 

 だが、ここからが本番だ!

 

「ゴーリキー、バレットパンチ!」

 

「ゴーリッ!」

 

 ゴーリキーが拳を突き出す。

 

 以前のムーちゃんなら、ここで怖がって後退していた。

 

 しかし。

 

「ムーちゃん、右によけよう!」

 

「グソッ!」

 

 ムーちゃんは俺の声に反応し、横へ身体を滑らせた。

 

 拳が空を切る。

 

 ……よし!

 

「そのままシェルブレード!」

 

「グソォッ!」

 

 前脚に水の刃が生まれる。

 ゴーリキーが慌てて距離を取ろうとするが、間に合わない。

 水の刃が、ゴーリキーの構えた腕を捉えた。

 

「ゴーリッ!」

 

 ゴーリキーが後退する。

 

「おおっ!」

 

 ルリナ姉さんが小さく声を上げた。

 

 ……ふっ、見たか!

 

 これがヨロイ島で鍛え上げた、俺とムーちゃんの連携である!

 しかし、勝負はまだ終わらない。

 

「ゴーリキー、いくぞ!」

 

 パパンが声を張り上げる。

 

「じならし!」

 

 ……おっと。

 

 じめん技!

 

 ムーちゃんには等倍だが、地面を揺らされると動きを崩される。

 これは少々厄介である。

 

「ムーちゃん、無理しなくていい! 下がろう!」

 

「グソッ!」

 

 ムーちゃんが後退し、ゴーリキーとの距離を取る。

 

 地面が揺れる。

 

 それでも、ムーちゃんは落ち着いていた。

 俺の声を聞き、次の指示を待っている。

 

 ……ああ、やっぱり。

 強くなったなぁ。

 

「……そこまで!」

 

 パパンが手を上げた。

 

「今日はこのくらいにしておこう。お互い、いい練習になったな!」

 

「うん!」

 

「グソッ!」

 

 俺が駆け寄ると、ムーちゃんは嬉しそうに身を屈めた。

 

 その大きな頭を、わしゃわしゃと撫でる。

 

「よくやったな、ムーちゃん!」

 

「グソォッ!」

 

 ……あ、待って。

 

 そのまま抱きつくのは――

 

「ぐえっ!?」

 

 どすん。

 

 俺は地面へと押し倒された。

 

 ……うん、知ってた。

 

 もはや様式美である。

 

「ふふっ!」

 

 ルリナ姉さんが笑いながら近づいてきた。

 

「リン、本当に強くなったね」

 

「えへへ!」

 

「前はムーちゃん、もっと怖がりだったでしょう?」

 

「うん。でも、今はだいじょうぶ!」

 

 ……いや。

 

 正確には、違うか。

 

「……こわいのは、まだこわいんだけどね」

 

「……うん?」

 

「でも、こわいときは、いっしょにかんがえるんだ!」

 

 俺はムーちゃんの頭を撫でた。

 

「むりしてたたかわなくてもいいし、にげてもいい。だけど、がんばれそうならいっしょにがんばる!」

 

 姉さんは少しだけ目を見開いた。

 

 そして、優しく笑った。

 

「……そっか」

 

「うん!」

 

「いい師匠に出会えたんだね」

 

「うん! マスタード師匠、すっごくいい人!」

 

 ……まあ、修行はスパルタだったけど。

 

 あと、ウッウロボの研究をサボり扱いされたことだけは、いまだに納得していない。

 

 あれも立派な研究活動だったのに!

 

 いや、修行をサボったのは事実なんですけどね。

 

 ♦

 

 練習を終えたあと。

 

 俺たちは港のベンチに座り、しばらくおしゃべりをしていた。

 

「リンは、これからどうしたいの?」

 

 姉さんが尋ねてきた。

 

「これから?」

 

「そう。ヨロイ島で修行もしたし、ムーちゃんも立派に育ったでしょう?」

 

 ……ふむ。

 

 これから、か。

 

 そんなもの、決まっている。

 

「ジムチャレンジ!」

 

「……!」

 

「おおきくなったら、ジムチャレンジにでたい!」

 

 俺は力いっぱい宣言した。

 

「それでね! むしタイプだけで、チャンピオンをめざすんだ!」

 

「むしタイプだけ?」

 

「うん!」

 

「……ふふっ。リンらしいね」

 

 姉さんが笑う。

 

「しかもね! ぜんぶ色違い!」

 

「……全部?」

 

「もちろん!」

 

 姉さんが、しばらく沈黙した。

 

 ……あれ? なんか変なこと言った?

 

 タイプ統一で色違い縛り。

 

 最高にロマン溢れる構築じゃないですか!

 

 何か問題でも?

 

「……リン」

 

「なに?」

 

「ジムチャレンジに出るまでに、あと五匹も色違いを見つけるつもりなの?」

 

「そうだよ!」

 

「……そう」

 

 ルリナ姉さんが遠い目をしていた。

 

 解せぬ。

 

「でも、リンなら本当にやっちゃいそうね」

 

「えへへ!」

 

「……そうだ!」

 

 姉さんが、ぽんと手を叩いた。

 

「じゃあ、リンがジムチャレンジに出るときは、お姉さんが本気で相手してあげる!」

 

 マジ?あのルリナ姉さんと?

 

 公式戦で?

 

「やったぁぁぁ!!」

 

「わっ!?」

 

 俺は思わず飛び跳ねた。

 

「やくそくだよ! 姉さん!」

 

「ふふっ。もちろん!」

 

「ぜったい、つよくなってくるから!」

 

「うん。楽しみにしてるね」

 

 ……へへっ、なんだよ。

 

 めちゃくちゃ楽しみじゃん。

 

 前世では、何度も挑戦したジムリーダー。

 でも今は、俺のことを小さい頃から知っている近所のお姉さん。

 そんな人と、いつか本気でバトルできる。

 

 ……最高かよ。

 これは、もっともっと強くなるしかないな!

 

 ちなみに。

 

「その頃には、ムーちゃんももっと強くなってるよ!」

 

「グソッ!」

 

「ふふっ。じゃあ、私も負けないように頑張らないとね」

 

 姉さんがムーちゃんの頭を優しく撫でる。

 

 ……うむ、実に微笑ましい光景である。

 

 そして、俺は思った。

 

 いつか必ず。

 

 この相棒と一緒に、ガラルの頂点へ。

 

 ……まあ、その前に。

 

 あと五匹、色違いを厳選しないといけないんですけどね!

 

 ハードル高すぎワロタ。

 

 ♦

 

 ――その日の夕方。

 

 我が家では、ちょっとした事件が発生していた。

 

 原因?

 

 もちろん俺である。

 

「……リン?」

 

「なに、ママン?」

 

 ママンが、俺の部屋を見つめていた。

 

 そこには。

 

 ムーンボール。

 ルアーボール。

 ヘビーボール。

 ラブラブボール。

 フレンドボール。

 スピードボール。

 レベルボール。

 ゴージャスボール。

 その他諸々。

 

 大量のオシャボが積み上げられていた。

 

 うーん、壮観。

 

「……リン」

 

「はい!」

 

「このボールの山、どうするつもりなの?」

 

「色違いをつかまえる!」

 

「……何匹?」

 

「いっぱい!」

 

「具体的には?」

 

 ……具体的に?

 

 ふむ、そうだな。

 

 前世ではボックスを埋める勢いで色違いを集めていたし。

 

 今世でも、そのくらいは――

 

「……ボックスがいっぱいになるまで?」

 

「そんなに飼えません!!」

 

 そっかぁ……。

 

 そうだった。

 ここ、ゲームじゃないんだった。

 

 ポケモンを捕まえたら、ご飯も必要だし、寝床も必要だし、病気になったら看病もしなきゃいけない。

 

 当然、世話をする時間だって必要になる。

 

 ……なるほど。

 

 前世のボックス管理とは、根本的に違う。

 

「リン。ポケモンは、捕まえたら終わりじゃないのよ?」

 

「……うん」

 

「ムーちゃんみたいに、ちゃんと大切にしてあげないといけないでしょう?」

 

 俺は隣にいるムーちゃんを見た。

 

「グソ?」

 

 首を傾げる相棒。

 

 ……うむ、確かに。

 

 ムーちゃん一匹でも、毎日の世話は結構大変である。

 

 これが六匹になったら?

 

 ……なかなかの重労働ですな。

 

 てか、我が家、物理的に入りきらなくない?

 

 やばい。

 

 今世のポケモン育成、リアル生活コストの概念が存在する。

 

 前世の知識だけじゃ解決できない問題、また一つ発見してしまった。

 

「……じゃあ、六匹!」

 

「……え?」

 

「まずは、六匹だけにする!」

 

 そう、むしタイプ統一。

 

 最初のパーティーは六匹。

 

 まずは、その子たちを大切に育てよう。

 

 ……もちろん、将来的にもっと仲間を増やす可能性はあるけどね。

 

 そこは今後の俺の甲斐性次第ということで。

 

「……六匹ね?」

 

「うん!」

 

「本当に?」

 

「もちろん!」

 

 ママンはしばらく俺を見つめていたが、やがて小さくため息をついた。

 

「……まあ、それなら少しずつ考えていきましょうか」

 

「やった!」

 

「ただし、新しい子を迎えるときは必ず相談すること!」

 

「はい!」

 

「それから、このボールはちゃんと片づけなさい!」

 

「はい!」

 

 ……ふぅ、なんとか交渉成立である。

 

 なお、マスターボールとウルトラボールについては、貴重な試作品ということで、ママンと一緒に保管場所を決めることになった。

 

 これは仕方ない。

 

 さすがに紛失したら、ハイドに顔向けできないからな。

 

「……ところで、リン」

 

「なに?」

 

「この箱、まだ中に何か入ってるみたいだけど?」

 

 ……ん?

 

 ママンが、部屋の隅に置いてあった大きな箱を指差した。

 

 ああ、それか。

 

「それもオシャボ!」

 

「…………」

 

「ハイドがいっぱいくれた!」

 

「…………」

 

「まだ三箱あるよ!」

 

「まだあるの!?」

 

 ママンの叫び声が、我が家に響き渡った。

 

 廊下から様子を見ていたパパンが、そっと扉を閉める。

 

 おいパパン、逃げるな。

 

 父親として、ここは息子を助ける場面では?

 

 しかし、パパンは戻ってこない。

 

 ムーちゃんも、いつの間にか部屋の隅へ退避していた。

 

 お前ら、ききかいひ発動するの早すぎんか!?

 

 結局、俺はその後一時間ほどママンと一緒にオシャボの整理をすることになった。

 

 ……いやぁ、人生って難しい。

 

 ♦

 

 その日の夜。

 

 俺はベッドに寝転びながら、ムーちゃんの頭を撫でていた。

 

「……ムーちゃん」

 

「グソ?」

 

「きょう、たのしかったね」

 

「グソッ!」

 

 久しぶりのバウタウン。

 

 久しぶりの家族。

 

 久しぶりのルリナ姉さん。

 

 そして、いつかジムチャレンジで戦うという約束。

 

 ……へへっ。

 

 なんだか、未来が楽しみになってきた。

 

「これから、もっとなかまをふやそうな」

 

「グソッ!」

 

「もちろん、みんな色違い!」

 

「……グソ?」

 

「ふふん。まかせろ!」

 

 俺は胸を張った。

 

 前世では何百時間も色違い厳選をしてきた男である。

 

 色違いを探すことに関しては、誰にも負ける気がしない。

 

 ……まあ。

 

 この世界にはリセットボタンがないんですけどね。

 

 そこは気合いと根性で何とかするとして。

 

「……まずは、あと五匹かぁ」

 

 俺は天井を見上げた。

 

 どんなポケモンと出会えるだろう。

 

 どんな色違いが待っているだろう。

 

 そして、どんな冒険が始まるのだろう。

 

 ……楽しみだ。

 

 めちゃくちゃ楽しみだ。

 

「ムーちゃん! これからもよろしくな!」

 

「グソッ!」

 

 ムーちゃんが嬉しそうに頭を寄せてくる。

 

 ……うん。

 

 やっぱり、最高の相棒である。

 

 こうして、ヨロイ島から帰ってきた俺の日常は、再び動き始めた。

 

 ちなみに翌朝。

 

 いつもの修行時間になると、ムーちゃんが俺を起こしに来た。

 

 ……あの、ムーちゃん?

 

 もしかして、俺のスローライフ計画、完全に詰んだ?

 

 マスタード師匠。

 

 責任、取ってください。

 

 割とマジで。

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