日番谷に転生した   作:使い手なない

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第12話「双竜」

 

瀞霊廷、十番隊隊舎。

 

 日番谷冬華が第三席に昇進してから、数週間が経過した。

 

「――霜天に坐せ、氷輪丸!」

 

 ――ゴオオオッ!

 

 訓練場に、冷たい風が吹き荒れた。

 

 銀白色の髪を揺らしながら、冬華が二本の氷輪丸を構える。

 

 右手には、自分自身の氷輪丸。

 

 左手には、草冠宗次郎から託された氷輪丸。

 

 二本の刀身から、凄まじい冷気が噴き出した。

 

「……っ!」

 

 冬華は両手に霊圧を集中させる。

 

 一本ずつなら、問題なく始解できる。

 

 しかし、二本同時となると話は別だった。

 

 ――バキンッ!

 

「……あっ!?」

 

 右手の氷輪丸から伸びた氷が砕け散った。

 

 続いて、左手の氷輪丸から放たれていた冷気も消えてしまう。

 

「……むぅ」

 

 冬華は頬を膨らませた。

 

「また失敗です……」

 

 これで何度目だろう。

 

 二本同時の始解。

 

 十番隊へ配属されて以来、何度も挑戦してきた課題だった。

 

 通常状態での二刀流は、かなり上達した。

 

 京楽春水から指導を受けたことで、二本の刀をより自由に扱えるようにもなっている。

 

 しかし。

 

(……やっぱり、始解は難しいですね)

 

 冬華は二本の氷輪丸を見つめた。

 

 どちらも同じ名を持つ斬魄刀。

 

 けれど、それぞれが独立した刀だ。

 

 二本へ同時に霊圧を流し込もうとすると、どうしても制御が乱れてしまう。

 

「……うーん」

 

 冬華は首を傾げた。

 

 そして、ふと思い出す。

 

『二本あるからって、両方で斬らなきゃいけないわけじゃないんだよ』

 

「……あっ」

 

 京楽の言葉だった。

 

 冬華は、ぱちぱちと瞬きをした。

 

(……そういえば)

 

 これまで、二本の氷輪丸へ同じように霊圧を流そうとしていた。

 

 右手にも、左手にも。

 

 同じ量を、同じタイミングで。

 

 けれど。

 

(……別に、同じようにする必要はありませんよね?)

 

 冬華の翡翠色の瞳が輝いた。

 

「……よし!」

 

 もう一度、二本の氷輪丸を構える。

 

 今度は、やり方を変えてみることにした。

 

     ◇◆◇

 

「……まずは、右手から」

 

 冬華は静かに息を吐いた。

 

 右手の氷輪丸へ、ゆっくりと霊圧を流す。

 

「霜天に坐せ、氷輪丸!」

 

 ――ゴオオッ!

 

 刀身から冷気が噴き出した。

 

 氷雪が渦を巻き、巨大な氷の竜が姿を現す。

 

「……うん!」

 

 ここまでは、いつも通り。

 

 冬華は右手の氷輪丸を構えたまま、左手へ意識を向ける。

 

(……右手の霊圧を維持しながら)

 

 左手にも、少しずつ霊圧を流し込む。

 

 最初から同じ量を流す必要はない。

 

 まずは、右手の始解を安定させる。

 

 そのうえで、左手の氷輪丸の力を引き出す。

 

「……霜天に坐せ、氷輪丸!」

 

 ――ゴオオオッ!

 

「……っ!」

 

 左手の氷輪丸からも、冷気が噴き出した。

 

 空気中の水分が凍りつき、白い霧が広がる。

 

 そして。

 

 ――ゴオオオオッ!!

 

 二頭目の氷竜が、ゆっくりと姿を現した。

 

「…………!」

 

 冬華は目を見開いた。

 

 右手の氷輪丸から生まれた氷竜。

 

 左手の氷輪丸から生まれた氷竜。

 

 二頭の巨大な氷竜が、訓練場の上空に浮かんでいる。

 

「……で、できました!」

 

 冬華の顔がぱっと輝いた。

 

「二本同時の始解、成功です!」

 

 思わず飛び跳ねそうになる。

 

 しかし。

 

 ――ピシッ!

 

「……あっ!?」

 

 片方の氷竜に亀裂が走った。

 

 冬華は慌てて霊圧を調整する。

 

「わわっ! 駄目です、駄目です!」

 

 右手の氷竜を維持しながら、左手の氷竜にも霊圧を送る。

 

 すると、今度は右手の氷竜が揺らいだ。

 

「……むむむ!」

 

 冬華は必死に集中した。

 

 しばらくして。

 

「……ふう!」

 

 ようやく二頭の氷竜が安定した。

 

 冬華は額の汗を拭う。

 

(……なるほど)

 

 二本同時の始解そのものは成功した。

 

 けれど、維持するだけでも相当な集中力が必要だ。

 

(……これを動かすとなると、もっと難しそうですね)

 

 冬華は上空の氷竜を見上げた。

 

 そして。

 

「……でも!」

 

 にっこりと微笑む。

 

「せっかく成功したんですから、頑張りましょう!」

 

     ◇◆◇

 

 それから、しばらくして。

 

「……右!」

 

 ――ゴオッ!

 

 一頭の氷竜が、訓練場の上空を旋回した。

 

「……左!」

 

 ――ゴオオッ!

 

 もう一頭の氷竜が、反対方向へ動く。

 

「……よし!」

 

 冬華は嬉しそうに頷いた。

 

 しかし、二頭を同時に動かそうとした瞬間。

 

 ――ガキンッ!

 

「……あっ!」

 

 二頭の氷竜がぶつかってしまった。

 

 氷の破片が、ぱらぱらと地面へ落ちる。

 

「……うぅ」

 

 冬華は肩を落とした。

 

「難しいです……」

 

 二頭の氷竜を生み出すことはできた。

 

 一頭ずつなら、自由に動かせる。

 

 しかし、同時に別々の動きをさせようとすると、途端に制御が難しくなる。

 

(……頭の中が、こんがらがってしまいます)

 

 右の氷竜を前へ。

 

 左の氷竜を後ろへ。

 

 そんな単純な動きでさえ、思うようにいかない。

 

「……うーん」

 

 冬華は考え込んだ。

 

 そして、再び京楽との稽古を思い出す。

 

『二本あるってのは、それだけ選べることが多いってことさ』

 

「……選べること」

 

 冬華は、二頭の氷竜を見上げた。

 

(……そうですよね)

 

 二頭いるからといって、必ず同時に動かす必要はない。

 

 片方を動かし、もう片方は待機させる。

 

 必要になった時だけ、役割を切り替える。

 

(……二刀流と、同じです!)

 

 冬華は微笑んだ。

 

「……それなら!」

 

 右手の氷輪丸を振る。

 

 ――ゴオッ!

 

 一頭の氷竜が、勢いよく前方へ飛び出した。

 

 左手の氷竜は、その場で待機。

 

「……次!」

 

 今度は左手の氷輪丸を動かす。

 

 ――ゴオオッ!

 

 二頭目の氷竜が、上空へ舞い上がった。

 

 右手の氷竜は、ゆっくりと旋回する。

 

「……ふふっ!」

 

 冬華は嬉しそうに笑った。

 

(……できています!)

 

 完全に同時操作できているわけではない。

 

 けれど、二頭を別々に動かせるようになってきた。

 

 ならば。

 

「……もう少し!」

 

 冬華は両手の氷輪丸を構え直した。

 

 右手の氷竜を前方へ。

 

 左手の氷竜を上空へ。

 

 それぞれ異なる方向へ動かす。

 

 ――ゴオオオッ!!

 

 二頭の氷竜が、訓練場の上空を駆け抜けた。

 

「……やった!」

 

 冬華の声が弾む。

 

 二頭の氷竜が、それぞれ別の軌道を描いている。

 

 右の氷竜が大きく旋回し、左の氷竜がその内側を通り抜けた。

 

 ――ゴオオオオッ!

 

 冷たい風が吹き荒れる。

 

 銀白色の髪が、ふわりと舞い上がった。

 

「……ふふっ!」

 

 冬華は満面の笑みを浮かべた。

 

「双竜操作、成功です!」

 

     ◇◆◇

 

「……おいおい」

 

 その時だった。

 

「何だ、こりゃあ!?」

 

「……あっ!」

 

 聞き慣れた声に、冬華が振り返る。

 

 訓練場の入口に、志波一心と松本乱菊が立っていた。

 

 二人とも、上空を飛ぶ氷竜を見上げている。

 

「隊長さん! 松本さん!」

 

 冬華は嬉しそうに手を振った。

 

「見てください!」

 

 右手の氷輪丸を動かす。

 

 ――ゴオッ!

 

 一頭の氷竜が旋回した。

 

 続いて、左手。

 

 ――ゴオオッ!

 

 もう一頭が、反対方向へ飛んでいく。

 

「……おおっ!?」

 

 一心が目を丸くした。

 

「お前、二本同時に始解できるようになったのか!?」

 

「はい!」

 

 冬華は元気よく頷いた。

 

「今日、初めて成功したんです!」

 

「すげえじゃねえか!」

 

 一心が豪快に笑った。

 

「がはははっ! まさか氷輪丸の竜が二頭も飛ぶとはな!」

 

 乱菊も目を輝かせる。

 

「冬華ちゃん! すごいじゃない!」

 

「……えへへ!」

 

 冬華は嬉しそうに笑った。

 

「まだ練習中ですけど、少しずつ動かせるようになってきました!」

 

「もう! 本当に頑張り屋さんなんだから!」

 

 乱菊が冬華へ駆け寄ろうとする。

 

 しかし。

 

「……っと、待て待て」

 

 一心が片手を上げた。

 

「日番谷。ちょっといいか?」

 

「……はい?」

 

「その二頭、どれくらい維持できる?」

 

「……えっと」

 

 冬華は首を傾げた。

 

「まだ、そんなに長くは……」

 

「だろうな」

 

 一心は上空の氷竜を見上げた。

 

「霊圧の消費が、かなり激しいぞ」

 

「……あっ」

 

 言われてみれば、確かにそうだった。

 

 二本の氷輪丸へ霊圧を流し続けているため、一本だけの始解とは比べものにならないほど消耗している。

 

 しかも、二頭を別々に動かすには、常に細かな制御が必要だった。

 

「……そうですね」

 

 冬華は素直に頷いた。

 

「まだまだ、改善しないといけません」

 

「おう!」

 

 一心は満足そうに笑った。

 

「でも、今日のところは十分だろ!」

 

「……え?」

 

「新しいことができるようになったんだ。無理してぶっ倒れる必要はねえ!」

 

 冬華は少し考えた。

 

 そして。

 

「……はい!」

 

 にっこりと微笑んだ。

 

「今日は、ここまでにします!」

 

 冬華は二本の氷輪丸を下ろした。

 

 すると、上空の氷竜がゆっくりと崩れ、無数の氷の粒となって消えていく。

 

 冷たい風が収まった。

 

「……ふう」

 

 冬華は大きく息を吐いた。

 

 さすがに、少し疲れた。

 

 けれど。

 

(……できました)

 

 胸の奥が、じんわりと温かくなる。

 

 ずっと挑戦してきた二本同時の始解。

 

 それが、ようやく形になったのだ。

 

「冬華ちゃーん!」

 

「……わっ!?」

 

 次の瞬間。

 

 乱菊が勢いよく抱きついてきた。

 

「おめでとうーー!」

 

「ま、松本さん!?」

 

「もう! また一つ成長しちゃったわねえ!」

 

「く、苦しいですぅ……!」

 

 冬華は乱菊の腕の中で、じたばたと手を動かした。

 

 一心が腹を抱えて笑う。

 

「がはははっ! よかったな、日番谷!」

 

「た、隊長さん! 助けてください!」

 

「いやあ、めでたいめでたい!」

 

「隊長さーん!!」

 

 十番隊の訓練場に、賑やかな声が響いた。

 

     ◇◆◇

 

 その日の夕方。

 

 冬華は隊舎の縁側に座っていた。

 

「……ふう」

 

 夕日に染まる空を見上げる。

 

 今日、二本同時の始解に成功した。

 

 二頭の氷竜も、まだぎこちないながら別々に動かせるようになった。

 

(……京楽隊長のおかげですね)

 

 あの時、二刀流の考え方を教わっていなければ、もっと時間がかかっていたかもしれない。

 

 冬華は嬉しそうに微笑んだ。

 

「……ふふっ!」

 

 けれど。

 

 これで終わりではない。

 

 二頭の氷竜を自在に操るには、まだまだ訓練が必要だ。

 

 霊圧の消費も大きい。

 

 そして、何より。

 

(……次は、卍解ですね)

 

 冬華は、そっと背中の氷輪丸へ視線を向けた。

 

 大紅蓮氷輪丸。

 

 かつて、草冠を守ろうとして発動した力。

 

 あの時は、制御することさえできなかった。

 

 今でも、長時間の維持は難しい。

 

 けれど。

 

(……今なら、もう少し上手に扱えるかもしれません)

 

 三年間、斬術と瞬歩を鍛えてきた。

 

 霊圧制御も、以前よりずっと上達した。

 

 そして今日、二本同時の始解にも成功した。

 

 少しずつ。

 

 確実に。

 

 自分は強くなっている。

 

「……よし!」

 

 冬華は小さく拳を握った。

 

「明日からは、卍解の修行も頑張りましょう!」

 

 その時。

 

「冬華ちゃーん! ご飯よー!」

 

「……あっ!」

 

 隊舎の中から、乱菊の声が響いた。

 

「はーい! 今行きます!」

 

 冬華は元気よく返事をした。

 

 そして、立ち上がる。

 

「……ふふっ!」

 

 銀白色の髪を揺らしながら、少女は楽しそうに笑った。

 

 まだまだ、強くなれる。

 

 そう思うだけで、明日が楽しみだった。

 

 十番隊第三席、日番谷冬華。

 

 二本の氷輪丸を操る少女は、新たな力を手に入れた。

 

 そして、その先には。

 

 さらなる高みが待っている。

 

 ――第12話「双竜」・完。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
引き続きよろしくお願いします!
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