日番谷に転生した   作:使い手なない

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第13話「大紅蓮氷輪丸」

 

 瀞霊廷、十番隊隊舎。

 

 日番谷冬華が二本同時の始解に成功してから、三年の月日が流れた。

 

 その間も、冬華は修行を欠かさなかった。

 

 二刀流の練度を高め、斬術と瞬歩を磨き、幼い頃から続けてきた霊圧制御にも取り組んできた。

 

 そして、何より力を注いでいたのが――卍解だった。

 

「……よし!」

 

 訓練場の中央で、冬華は小さく気合を入れた。

 

 背中には二本の氷輪丸。

 

 そのうち一本、自分自身の氷輪丸を抜き放つ。

 

「……ふう」

 

 ゆっくりと息を吐き、刀身へ霊圧を集中させる。

 

 今の目標は、始解ではない。

 

 かつて、草冠宗次郎を守ろうとして発動した力。

 

 あれ以来、幾度となく修行を重ねてきた。

 

 発動も維持も、以前とは比べものにならないほど安定している。

 

 それでも、未だ完全には使いこなせていなかった。

 

 氷雪系最強の斬魄刀、その真の力。

 

「――卍解!」

 

 ――ゴオオオオッ!!

 

 凄まじい冷気が、冬華を中心に吹き荒れた。

 

「大紅蓮氷輪丸!」

 

 ――バキバキバキッ!!

 

 氷が形成される音が響く。

 

 冬華の背中から、巨大な氷の翼が広がった。

 

 さらに、長い氷の尾。

 

 手足にも氷が纏わりつき、背後には氷華が浮かび上がる。

 

「……っ!」

 

 冬華は翡翠色の瞳を細めた。

 

(……発動は、問題ありませんね)

 

 卍解の維持にも、以前ほど苦労はしなくなった。

 

 しかし、力を大きく動かそうとすると、途端に霊圧の消耗が増してしまう。

 

(……まだ、無駄が多いですね)

 

 冬華は自分の翼を見つめた。

 

 卍解の力は強大だ。

 

 始解とは比べものにならないほどの氷雪を操ることができる。

 

 だが、強大な力を持つことと、それを自在に扱うことは別だった。

 

「……もう少し、霊圧の流れを……」

 

 冬華が集中を深めた、その時だった。

 

「おーい! 日番谷!」

 

「……あっ!」

 

 聞き慣れた声が響いた。

 

 訓練場の入口に立っていたのは、十番隊隊長の志波一心だった。

 

「隊長さん!」

 

「おう! 今日も修行か!」

 

「はい!」

 

 冬華は嬉しそうに頷いた。

 

「今日は卍解の修行をしているんです!」

 

「見りゃ分かるっての!」

 

 一心は豪快に笑った。

 

 そして、冬華の姿をじっと見つめる。

 

「……ふむ」

 

「……?」

 

「前に見た時より、随分と安定してるじゃねえか」

 

「本当ですか!?」

 

「おう。だが、まだ霊圧の使い方が荒いな」

 

「……うっ」

 

 冬華は思わず肩を落とした。

 

「やっぱり、分かりますか……」

 

「そりゃあな!」

 

 一心はにやりと笑った。

 

「よし! ちょうどいい!」

 

「……はい?」

 

「日番谷! 俺と一戦やってみねえか?」

 

「……えっ!?」

 

 冬華は目を丸くした。

 

     ◇◆◇

 

「隊長さんと、模擬戦ですか?」

 

「おう!」

 

 一心は楽しそうに頷いた。

 

「卍解ってのは、ただ発動できりゃいいってもんじゃねえ。実際に戦いながら使ってみるのが一番だ!」

 

「……なるほど!」

 

 冬華の瞳が輝いた。

 

 これまでも卍解を使った戦闘訓練は重ねてきた。

 

 だが、隊長格を相手に全力で戦う機会はなかった。

 

「ぜひ、お願いします!」

 

「がはははっ! いい返事だ!」

 

 一心は腰の斬魄刀を抜いた。

 

 しかし、始解する様子はない。

 

「俺はこのままでいくぜ!」

 

「……始解しないんですか?」

 

「おう! まずは今のお前の実力を見てやる!」

 

「……分かりました!」

 

 冬華は氷輪丸を構え直した。

 

 相手は護廷十三隊の隊長。

 

 始解していないからといって、油断できる相手ではない。

 

(……全力でいきましょう!)

 

 一心は肩に斬魄刀を担ぎ、にやりと笑った。

 

「いつでも来い!」

 

「……はい!」

 

 冬華は地面を蹴った。

 

 ――ヒュンッ!

 

 瞬歩。

 

 一瞬で間合いを詰め、氷輪丸を振り下ろす。

 

「――はあっ!」

 

 ――キィン!

 

 一心が斬魄刀で受け止めた。

 

「おっ! いい踏み込みだ!」

 

「まだです!」

 

 冬華は翼を広げる。

 

 ――ゴオッ!

 

 氷の翼が空気を切り裂き、身体が一気に上昇した。

 

 そのまま上空で体勢を整える。

 

「……それなら!」

 

 氷輪丸を振るった。

 

 ――ゴオオオッ!!

 

 巨大な氷塊が形成され、一心へ向かって降り注ぐ。

 

「おおっ!?」

 

 一心が地面を蹴った。

 

 ――ドドドドッ!!

 

 氷塊が訓練場へ突き刺さり、白い霧が舞い上がる。

 

 しかし。

 

「そんなもんじゃ、当たらねえぞ!」

 

「……っ!」

 

 霧の向こうから、一心が飛び出してきた。

 

 瞬歩。

 

 冬華が反応した時には、すでに目の前まで迫っている。

 

 ――キィン!!

 

「……くっ!」

 

 冬華は氷輪丸で斬撃を受け止めた。

 

 しかし、衝撃で身体が後方へ押し飛ばされる。

 

「……わわっ!」

 

 翼を広げ、空中で姿勢を立て直した。

 

「がはははっ! どうした、日番谷!」

 

「……まだまだです!」

 

 冬華は再び氷輪丸を構えた。

 

     ◇◆◇

 

 それから、しばらくして。

 

「――はあっ!」

 

 ――キィン!

 

「……っ!」

 

 ――ガキンッ!

 

 訓練場に、何度も金属音が響いた。

 

 冬華は卍解の力を利用し、空中から連続攻撃を仕掛ける。

 

 氷雪で一心の進路を塞ぎ、瞬歩で側面へ回り込む。

 

 さらに、翼を使って高度を変えながら斬撃を繰り出した。

 

 しかし。

 

「甘い!」

 

「……わっ!?」

 

 一心が冬華の斬撃を弾いた。

 

 続けて、鋭い踏み込み。

 

 ――ドンッ!

 

「……っ!」

 

 一心の蹴りが、冬華の腹部を捉えた。

 

 しかし。

 

 ――バキバキバキッ!!

 

「……お?」

 

 一心が眉を上げた。

 

 冬華の身体を覆っていた霊圧が、幾重にも砕け散ったのだ。

 

 冬華は後方へ吹き飛ばされながらも、氷の翼を広げて体勢を立て直した。

 

「……ふう!」

 

「……今のは何だ?」

 

「えへへ……!」

 

 冬華は少し得意げに微笑んだ。

 

「昔から練習していた、霊圧の膜です!」

 

「霊圧の膜?」

 

「はい!」

 

 冬華は自分の腕へ視線を向けた。

 

「薄い霊圧の膜を、何層も重ねているんです!」

 

「……ほう」

 

「今は最大で六十層まで重ねられるようになりました!」

 

「六十層!?」

 

 一心は目を丸くした。

 

「お前、そんなことまでやってたのか!」

 

「えへへ……!」

 

 冬華は嬉しそうに笑った。

 

「小さい頃から、ずっと練習していましたから!」

 

「がはははっ! とんでもねえ努力家だな!」

 

 一心は豪快に笑った。

 

「だが、今ので結構壊れただろ?」

 

「……はい」

 

 冬華は素直に頷いた。

 

 全身を覆っていた霊圧の膜。

 

 そのうち、腹部を守っていた部分は大きく損傷している。

 

(……やっぱり、隊長さんの攻撃は重いですね)

 

 冬華は静かに霊圧を整えた。

 

 壊れた膜を、少しずつ再形成する。

 

 しかし、その間にも霊圧は消費されていく。

 

(……無駄遣いはできません)

 

 冬華は氷輪丸を構え直した。

 

     ◇◆◇

 

「おい、日番谷!」

 

「……はい!」

 

 一心が声をかけた。

 

「お前、ちょっと力を使いすぎだぞ!」

 

「……え?」

 

「卍解の力が強いのは分かる! だがな、何でもかんでも全力で動かす必要はねえんだ!」

 

「……!」

 

 冬華は目を見開いた。

 

「翼を動かす時も、氷を作る時も、全部に霊圧を注ぎ込みすぎだ!」

 

「……なるほど」

 

 冬華は自分の翼を見つめた。

 

(……確かに)

 

 卍解を維持するための霊圧制御は、三年間で随分と上達した。

 

 それでも、戦闘中は攻撃と移動に意識を取られ、必要以上の霊圧を使ってしまっていた。

 

(……必要なところに、必要なだけ)

 

 冬華の翡翠色の瞳が輝いた。

 

「……そういうことですね!」

 

 冬華は小さく微笑んだ。

 

     ◇◆◇

 

「……よし!」

 

 冬華は静かに息を吐いた。

 

 全身に巡らせていた霊圧を、少しずつ調整する。

 

 翼を維持するための霊圧。

 

 氷の尾を形成するための霊圧。

 

 そして、氷輪丸から氷雪を放つための霊圧。

 

 それぞれの流れを意識する。

 

(……翼は、必要な時だけ強く動かす)

 

 常に全力で羽ばたく必要はない。

 

(……氷雪も、必要な分だけ)

 

 大量に生み出せばいいというものではない。

 

 さらに、身体を覆う霊圧の膜も調整する。

 

(……防御も、同じですね)

 

 全身を均等に守るだけでなく、攻撃を受ける瞬間には必要な場所へ霊圧を集中させる。

 

 冬華は、ゆっくりと霊圧を整えていった。

 

 すると。

 

「……あっ」

 

 背中の翼が、安定した。

 

 先ほどまで感じていた激しい消耗も、少しだけ和らいでいる。

 

「……ふふっ!」

 

 冬華は嬉しそうに笑った。

 

「できました!」

 

「おっ?」

 

 一心が眉を上げた。

 

「……なるほどな!」

 

 にやりと笑う。

 

「いいじゃねえか!」

 

「ありがとうございます!」

 

「だが、まだ終わってねえぞ!」

 

「……はい!」

 

 冬華は氷輪丸を構えた。

 

「もう一度、お願いします!」

 

「おう! 来い!」

 

 ――ヒュンッ!

 

 冬華が瞬歩で飛び出した。

 

 先ほどまでとは違う。

 

 翼を無駄に動かさず、必要な瞬間だけ霊圧を集中させる。

 

 ――キィン!

 

 一心の斬魄刀と氷輪丸がぶつかった。

 

「……っ!」

 

 冬華はすぐさま後退。

 

 今度は小さな氷塊を複数形成し、一心へ放つ。

 

 ――ヒュヒュヒュッ!

 

「おっと!」

 

 一心が斬魄刀で弾く。

 

 その隙に、冬華は側面へ回り込んだ。

 

「――はあっ!」

 

 ――キィン!

 

 再び斬撃がぶつかる。

 

「がはははっ! さっきより動きがいいじゃねえか!」

 

「……えへへ!」

 

 冬華は嬉しそうに笑った。

 

 しかし、すぐに表情を引き締める。

 

(……でも)

 

 まだ、届かない。

 

 一心は余裕を持って攻撃を捌いている。

 

(……それなら)

 

 冬華は小さく息を吸った。

 

(……少し、工夫してみましょう!)

 

     ◇◆◇

 

「――はあっ!」

 

 冬華が正面から斬りかかった。

 

 ――キィン!

 

 一心が受け止める。

 

「おう! いいぞ!」

 

 冬華はすぐさま後退した。

 

 そして、氷輪丸を振るう。

 

 ――ゴオオッ!

 

 白い冷気が広がった。

 

「また氷か!」

 

 一心が笑う。

 

 しかし、今度は違った。

 

 冷気の中から、冬華が飛び出してきたのだ。

 

「――やあっ!」

 

「おっと!」

 

 一心は斬魄刀を振るった。

 

 ――ザシュッ!

 

 刃が冬華の身体を捉える。

 

 しかし。

 

 ――パキンッ!

 

「……あ?」

 

 斬られた冬華の身体が、氷となって砕け散った。

 

「……氷の分身か!」

 

 一心が目を見開く。

 

 その瞬間。

 

 ――ヒュンッ!

 

 本物の冬華が、一心の背後へ現れた。

 

(……今です!)

 

 瞬歩で間合いを詰める。

 

 氷輪丸を振り抜いた。

 

「――はあっ!」

 

 ――シュッ!

 

「……っ!」

 

 一心が咄嗟に顔を逸らした。

 

 しかし、完全には避けきれない。

 

 氷輪丸の切っ先が、一心の頬をかすめた。

 

 ――ツッ。

 

 一筋の赤い線が走る。

 

「…………!」

 

 冬華の翡翠色の瞳が見開かれた。

 

(……当たった!)

 

 しかし、冬華は止まらなかった。

 

 そのまま氷輪丸を振り抜き、足元へ冷気を流し込む。

 

 ――バキバキバキッ!!

 

「……おおっ!?」

 

 一心の足元が、一瞬で凍りついた。

 

 氷が足首から膝へと這い上がる。

 

「……なるほどな!」

 

 一心はにやりと笑った。

 

「一撃入れて終わりじゃねえってわけか!」

 

「はい!」

 

 冬華は翼を広げた。

 

「まだまだ、いきます!」

 

 ――ゴオオオッ!!

 

 巨大な氷の竜が形成された。

 

 氷輪丸から放たれた竜が、一心へ向かって突進する。

 

「おおおっ!」

 

 一心が斬魄刀を振るった。

 

 ――ドガアアアン!!

 

 氷の竜が砕け散る。

 

 しかし、その衝撃で一心の身体が後方へ押し込まれた。

 

「……っ!」

 

 冬華はすぐさま瞬歩。

 

 一心の側面へ回り込む。

 

 ――キィン!!

 

 斬撃がぶつかった。

 

「がはははっ! やるじゃねえか!」

 

「……ありがとうございます!」

 

 冬華は嬉しそうに笑った。

 

 しかし、攻撃の手は緩めない。

 

 ――ヒュンッ!

 

 瞬歩。

 

 ――キィン!

 

 斬撃。

 

 さらに、氷結。

 

 冬華は一心の動きを観察しながら、少しずつ攻撃を組み立てていった。

 

 その度に、一心の表情から余裕が薄れていく。

 

「……ほう」

 

 一心は小さく呟いた。

 

「こいつは……思った以上だな」

 

     ◇◆◇

 

「――はああっ!」

 

 冬華が氷輪丸を振り下ろした。

 

 ――ゴオオオオッ!!

 

 訓練場の地面が、一気に凍りつく。

 

 一心が瞬歩で後退する。

 

 しかし。

 

「……っ!?」

 

 着地した先にも、氷が広がっていた。

 

 さらに、左右から巨大な氷の壁がせり上がる。

 

「……なるほど!」

 

 一心が目を細めた。

 

「退路を塞いできやがったか!」

 

 冬華は上空で氷輪丸を構えた。

 

(……今なら!)

 

 周囲の氷雪を、一点へ集中させる。

 

 ――ゴゴゴゴゴッ!!

 

 巨大な氷の竜が形成された。

 

 先ほどまでとは比べものにならない、強烈な冷気。

 

 冬華の翡翠色の瞳が輝く。

 

「――いきます!」

 

 氷輪丸を振り下ろした。

 

 ――ゴオオオオオッ!!

 

 氷の竜が、一心へ向かって突進する。

 

 左右には氷の壁。

 

 足元も凍りついている。

 

 逃げ道は限られていた。

 

「……がははっ!」

 

 一心は笑った。

 

 しかし、その目は真剣だった。

 

「……こりゃあ、さすがに」

 

 斬魄刀を握り直す。

 

「始解なしじゃ、ちと厳しいな!」

 

 そして。

 

「――燃えろ、剡月!」

 

 ――ゴオオオオッ!!

 

 凄まじい炎が、一心の斬魄刀から噴き上がった。

 

「……っ!!」

 

 冬華は目を見開いた。

 

(……始解!)

 

 次の瞬間。

 

 ――ドガアアアアン!!

 

 炎と氷が激突した。

 

 凄まじい衝撃が訓練場を揺らす。

 

 白い蒸気が爆発的に広がり、視界を覆い尽くした。

 

「……くっ!」

 

 冬華は翼を広げ、衝撃に耐える。

 

 しかし。

 

 ――ヒュンッ!

 

「……っ!?」

 

 蒸気の向こうから、一心が飛び出してきた。

 

 炎を纏った斬魄刀。

 

 先ほどまでとは、明らかに違う霊圧。

 

「――いくぜ、日番谷!」

 

「……はいっ!」

 

 冬華は氷輪丸を構えた。

 

     ◇◆◇

 

 ――キィィン!!

 

 激しい金属音が響いた。

 

「……っ!」

 

 冬華は一心の斬撃を受け止めた。

 

 しかし、今度は衝撃が違う。

 

 ――バキバキバキッ!!

 

 身体を覆う霊圧の膜が、次々と砕け散る。

 

(……重い!)

 

 冬華は歯を食いしばった。

 

 始解した一心の攻撃は、先ほどまでとは比べものにならない。

 

 だが。

 

「……まだです!」

 

 冬華は氷の翼を広げ、後方へ飛び退いた。

 

 そのまま氷輪丸を振るう。

 

 ――ゴオオッ!!

 

 氷の竜が一心へ襲いかかった。

 

「おおっ!」

 

 一心は炎を纏った剡月を振るった。

 

 ――ドガアアン!!

 

 氷の竜が砕け散る。

 

 しかし、冬華はすでに次の攻撃へ移っていた。

 

 ――ヒュンッ!

 

 瞬歩。

 

 一心の背後へ回り込む。

 

「――はあっ!」

 

 ――キィン!!

 

 一心が振り返り、斬撃を受け止めた。

 

「がはははっ! まだ動けるか!」

 

「……もちろんです!」

 

 冬華は力強く答えた。

 

 だが、次の瞬間。

 

「――そらっ!」

 

 ――ゴオッ!!

 

 一心の剡月から炎が噴き上がった。

 

「……っ!」

 

 冬華は咄嗟に霊圧を集中させる。

 

 身体の前面へ、幾重もの霊圧の膜を重ねた。

 

 ――ドガアアアン!!

 

「……きゃあっ!」

 

 衝撃と熱が、冬華を襲った。

 

 ――バキバキバキッ!!

 

 霊圧の膜が次々と破壊される。

 

 六十層。

 

 その大半が、一撃で砕け散った。

 

 冬華は大きく吹き飛ばされ、訓練場の端へと叩きつけられた。

 

「……くっ!」

 

 それでも、倒れない。

 

 氷の翼を広げ、なんとか体勢を立て直す。

 

「……はあ、はあ……!」

 

 息が荒い。

 

 霊圧も大きく消耗している。

 

(……やっぱり、強いですね)

 

 冬華は小さく笑った。

 

 けれど、その瞳から闘志は消えていない。

 

「……もう一度!」

 

 冬華は地面を蹴った。

 

 ――ヒュンッ!

 

 瞬歩。

 

 一心へ向かって突進する。

 

「――はああっ!」

 

 ――キィン!!

 

 氷輪丸と剡月が激突した。

 

「……っ!」

 

 冬華は押し負けそうになりながらも、氷の尾を動かして一心の側面を狙う。

 

「おっと!」

 

 一心が身をひねってかわした。

 

 その隙に、冬華は氷輪丸を振るう。

 

 ――ゴオオッ!!

 

 冷気が一心へ迫る。

 

 しかし。

 

「――甘い!」

 

 ――ドンッ!

 

 一心が一気に間合いを詰めた。

 

「……っ!?」

 

 冬華が反応した時には、すでに剡月が目の前にあった。

 

 ――キィン!!

 

 咄嗟に氷輪丸で受け止める。

 

 しかし、力が違う。

 

 ――ガキィン!!

 

 氷輪丸が大きく弾かれた。

 

「……あっ!」

 

 次の瞬間。

 

 一心の剡月が、冬華の首元でぴたりと止まった。

 

「……!」

 

 冬華は動きを止めた。

 

 数秒の沈黙。

 

 そして。

 

「……俺の勝ちだな!」

 

 一心がにやりと笑った。

 

「……はい」

 

 冬華は小さく息を吐いた。

 

「参りました!」

 

     ◇◆◇

 

「……ふう!」

 

 冬華はゆっくりと氷輪丸を下ろした。

 

 身体を覆っていた冷気が、静かに薄れていく。

 

 背中の氷の翼が砕け、長い氷の尾も消えていった。

 

 一心も剡月の始解を解き、豪快に笑った。

 

「がはははっ! いやあ、驚いたぜ!」

 

「……え?」

 

「まさか、お前相手に始解を使うことになるとはな!」

 

「……えへへ!」

 

 冬華は少し照れくさそうに微笑んだ。

 

「ありがとうございます!」

 

「しかも、ただ力任せに攻撃したわけじゃねえ」

 

 一心は冬華の頭にぽんと手を置いた。

 

「相手の動きを見て、考えて、隙を作った。いい戦い方だったぞ!」

 

「……はい!」

 

 冬華は元気よく頷いた。

 

「それに、あの霊圧の膜も大したもんだ」

 

「……本当ですか!?」

 

「おう! 六十層も重ねて、しかも戦闘中に維持するなんてな!」

 

 一心は感心したように笑った。

 

「お前、もうそこらの副隊長よりずっと強えぞ!」

 

「……ええっ!?」

 

 冬華は目を丸くした。

 

「そ、そんなことありませんよ!」

 

「がはははっ! 謙遜すんな!」

 

 一心は楽しそうに笑った。

 

 そして、少しだけ真剣な表情になる。

 

「……日番谷」

 

「……はい?」

 

「お前、もう隊長を目指せるところまで来てるぞ」

 

「…………えっ?」

 

 冬華は固まった。

 

「……た、隊長ですか!?」

 

「おう!」

 

 一心は力強く頷いた。

 

「まだまだ荒削りだがな。卍解も完全じゃねえし、経験も足りねえ」

 

「……はい」

 

「だが、それでも十分な実力はある」

 

 そして、にやりと笑った。

 

「このまま鍛えりゃ、俺の席も危ねえな!」

 

「……もう!」

 

 冬華は頬を膨らませた。

 

「隊長さんの方が、ずっと強いじゃないですか!」

 

「今はな!」

 

「……むぅ!」

 

 一心は豪快に笑った。

 

「がはははっ! まあ、これからも頑張れよ!」

 

「……はい!」

 

 冬華は、にっこりと微笑んだ。

 

     ◇◆◇

 

 その日の夕方。

 

「冬華ちゃーん!」

 

「……あっ、松本さん!」

 

 隊舎へ戻った冬華を、乱菊が出迎えた。

 

「聞いたわよ! 隊長と模擬戦したんですって?」

 

「はい!」

 

「しかも、隊長に始解まで使わせたって!」

 

「……えへへ!」

 

 冬華は少し照れくさそうに笑った。

 

「でも、最後は負けちゃいました!」

 

「それでもすごいじゃない!」

 

 乱菊は嬉しそうに冬華の頭を撫でた。

 

「もう! 本当にどんどん強くなっちゃうんだから!」

 

「……ふふっ!」

 

 冬華は嬉しそうに笑った。

 

「でも、まだまだですよ!」

 

「そうなの?」

 

「はい!」

 

 冬華は力強く頷いた。

 

「隊長さんには、まだ敵いませんから!」

 

「ふふっ。まあ、隊長だからねえ」

 

 乱菊は楽しそうに笑う。

 

「でも、冬華ちゃんが隊長になったら、私も楽できるかしら?」

 

「……え?」

 

「だって、冬華ちゃんが隊長なら、書類仕事も全部やってくれそうじゃない?」

 

「……松本さん!」

 

 冬華は頬を膨らませた。

 

「副隊長のお仕事は、ちゃんとしてください!」

 

「あははっ! 冗談よ、冗談!」

 

「……もう!」

 

 そんな二人のやり取りが、隊舎に響いた。

 

     ◇◆◇

 

 数日後。

 

 十番隊隊長室。

 

「……ん?」

 

 志波一心が、一枚の報告書に目を通していた。

 

「どうしたんですか、隊長?」

 

 乱菊が首を傾げる。

 

「いや……ちょっと妙な報告があってな」

 

「妙な報告?」

 

「ああ」

 

 一心は報告書を机へ置いた。

 

「現世で、死神の失踪が続いてるらしい」

 

「……失踪、ですか?」

 

 ちょうど書類を届けに来ていた冬華が、思わず聞き返した。

 

「おう。しかも、虚の出現と関係してる可能性がある」

 

「……!」

 

 冬華の表情が、わずかに変わった。

 

(……まさか)

 

 現世。

 

 死神の失踪。

 

 そして、虚。

 

 その組み合わせに、覚えがあった。

 

(……ホワイト)

 

 冬華は、そっと拳を握った。

 

 いずれ起こると知っていた事件。

 

 けれど、いつ始まるのかまでは、正確に覚えていなかった。

 

「……隊長さん」

 

「ん?」

 

「その件、もう少し詳しく教えていただけますか?」

 

 一心は冬華を見た。

 

「おう。まだ詳しいことは分かってねえんだが……」

 

 そう言って、報告書へ視線を戻す。

 

 冬華は静かに息を吐いた。

 

(……いよいよ、ですね)

 

 胸の奥に、緊張が走る。

 

 これまで、何度も考えてきた。

 

 未来を知っている自分が、どこまで行動するべきなのか。

 

 何を変え、何を守るべきなのか。

 

 そして。

 

(……黒崎一護)

 

 まだ生まれていない、未来の死神代行。

 

 彼の誕生へとつながる出来事が、近づいていた。

 

 冬華は一心へ視線を向けた。

 

 豪快で、少しだらしなくて。

 

 けれど、誰よりも部下思いの隊長。

 

(……隊長さん)

 

 冬華は、心の中で呟いた。

 

(……どうか、ご無事で)

 

 窓の外では、夕日が瀞霊廷を赤く染めていた。

 

 そして。

 

 現世では、静かに運命の歯車が動き始めていた。

 

 ――第13話「大紅蓮氷輪丸」・完。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
引き続きよろしくお願いします!
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