日番谷に転生した   作:使い手なない

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第17話「十番隊隊長就任」

 

 瀞霊廷、一番隊隊舎。

 

 日番谷冬華が隊長資格試験に合格してから、数日が経過した。

 

「……ふう」

 

 冬華は小さく息を吐いた。

 

 目の前には、一枚の白い羽織。

 

 背中には、護廷十三隊を示す十の文字が刻まれている。

 

 十番隊隊長羽織。

 

 かつて志波一心が纏っていたものと、同じ役職を示す羽織だった。

 

「……本当に、私が着るんですね」

 

 冬華は少し緊張した面持ちで呟いた。

 

「日番谷冬華」

 

「はい!」

 

 正面に立つ山本元柳斎重國の声に、背筋を伸ばす。

 

「貴様を、本日付で護廷十三隊十番隊隊長に任命する」

 

「……はい!」

 

「隊長とは、単に強き者が就く地位ではない。隊士を率い、規律を守り、尸魂界を護る責務を負う者じゃ」

 

「はい!」

 

「その責務、決して忘れるでないぞ」

 

 冬華は真剣な表情で頷いた。

 

「……分かりました!」

 

 そして、深く頭を下げる。

 

「日番谷冬華、精一杯務めさせていただきます!」

 

「うむ」

 

 山本が静かに頷いた。

 

「では、羽織を纏うがよい」

 

「はい!」

 

 冬華は差し出された隊長羽織を受け取った。

 

 白い布地に袖を通す。

 

 ――ふわり。

 

 真新しい羽織が、小柄な身体を包み込んだ。

 

 背中には、二本の氷輪丸。

 

 銀白色の髪と白い隊長羽織が、柔らかく揺れる。

 

「……どうでしょうか?」

 

 冬華が少し照れくさそうに尋ねる。

 

 山本は静かにその姿を見つめた。

 

「……似合っておる」

 

「……!」

 

 冬華の表情がぱっと明るくなった。

 

「ありがとうございます!」

 

「ただし、見た目だけで満足するでないぞ」

 

「も、もちろんです!」

 

 慌てて答える冬華。

 

 その様子に、山本は小さく息を吐いた。

 

「……まったく」

 

 そして、杖を床へ突く。

 

「これより隊首会を執り行う。新たな十番隊隊長として出席せよ」

 

「――はい!」

 

     ◇◆◇

 

 一番隊隊舎、隊首会の間。

 

 広々とした室内には、護廷十三隊の隊長たちが集まっていた。

 

「……!」

 

 冬華は思わず息を呑んだ。

 

(……すごい)

 

 目の前に並ぶのは、護廷十三隊を代表する死神たち。

 

 いずれも、隊長の名にふさわしい実力者ばかりだ。

 

(……この中に、私も並ぶんですね)

 

 少しだけ緊張する。

 

 しかし。

 

「やあ、冬華ちゃん」

 

「あっ、京楽隊長!」

 

 八番隊隊長、京楽春水が穏やかに手を振っていた。

 

「おやおや。隊長羽織、よく似合ってるじゃないか」

 

「えへへ……ありがとうございます!」

 

「ははっ。ついこの間まで二刀流を教えていた子が、もう隊長とはねえ」

 

「京楽隊長のおかげです!」

 

「いやいや。君自身が頑張った結果だよ」

 

 京楽は嬉しそうに笑った。

 

「おめでとう、日番谷」

 

「浮竹隊長!」

 

 隣に立つ浮竹十四郎も、優しく微笑んでいる。

 

「これからは同じ隊長同士だ。困ったことがあれば、いつでも相談してくれ」

 

「はい! ありがとうございます!」

 

 冬華は嬉しそうに頭を下げた。

 

 その時だった。

 

「……おい」

 

「……?」

 

 低い声が響いた。

 

 振り返ると、そこには大柄な男が立っていた。

 

 十一番隊隊長、更木剣八。

 

 片目を眼帯で覆い、肩には隊長羽織を引っかけている。

 

「てめえが新しい十番隊隊長か?」

 

「は、はい!」

 

 冬華は背筋を伸ばした。

 

「日番谷冬華です! よろしくお願いします!」

 

「……ふん」

 

 更木は冬華を見下ろした。

 

「ちっせえな」

 

「……!」

 

 冬華の頬が、わずかに膨らんだ。

 

「……これから大きくなります!」

 

「ハッハッハ!」

 

 更木が豪快に笑う。

 

「そうかよ!」

 

 そして、口元を吊り上げた。

 

「で、強えのか?」

 

「えっと……それなりには!」

 

「それなり、ねえ」

 

 更木は楽しそうに笑った。

 

「今度、俺と斬り合おうぜ」

 

「……えっ!?」

 

「隊長になったんだろ? だったら遠慮はいらねえよな!」

 

「い、いえ! 遠慮とかではなくてですね!」

 

「ハッ! 楽しみにしてるぜ!」

 

 そう言い残し、更木は笑いながら離れていった。

 

「…………」

 

 冬華は呆然とその背中を見送った。

 

(……怖い人ですね!?)

 

「はははっ!」

 

 京楽が隣で笑っていた。

 

「いやあ、気に入られちゃったみたいだねえ」

 

「……京楽隊長、笑い事じゃありません!」

 

「大丈夫、大丈夫。ああいう人だから」

 

「全然大丈夫な気がしません!」

 

 冬華は思わず頬を膨らませた。

 

 そんなやり取りをしていると。

 

「……日番谷隊長」

 

「……!」

 

 落ち着いた声が響いた。

 

 振り返ると、そこには黒髪の青年が立っていた。

 

 六番隊隊長、朽木白哉。

 

 整った顔立ちに、静かな眼差し。

 

 その佇まいには、名門貴族の当主らしい気品が漂っていた。

 

「朽木隊長!」

 

 冬華は慌てて姿勢を正した。

 

「初めまして! 日番谷冬華です!」

 

「……朽木白哉だ」

 

 白哉は短く答えた。

 

「隊長資格試験に合格したと聞いている」

 

「はい!」

 

「ならば、その実力に相応しい働きを期待する」

 

「……!」

 

 冬華は真剣な表情で頷いた。

 

「はい! 頑張ります!」

 

「……うむ」

 

 白哉はそれだけ告げると、静かに自分の位置へ戻っていった。

 

(……すごく真面目な人ですね)

 

 冬華は小さく息を吐いた。

 

 その時。

 

「日番谷隊長」

 

「……!」

 

 今度は、柔らかな声が聞こえた。

 

 振り返った先には、穏やかな笑みを浮かべる眼鏡の男。

 

 五番隊隊長、藍染惣右介。

 

「隊長就任、おめでとう」

 

「……藍染隊長」

 

 冬華は丁寧に頭を下げた。

 

「ありがとうございます!」

 

「君のような若い死神が隊長になるとは、実に素晴らしいことだね」

 

 藍染は優しく微笑んだ。

 

「これからの活躍を期待しているよ」

 

「はい!」

 

 冬華も笑顔で応える。

 

 けれど。

 

(……藍染惣右介)

 

 胸の奥に、わずかな緊張が走った。

 

 目の前の男が何者なのか。

 

 冬華は知っている。

 

 だが、それを表情に出すわけにはいかない。

 

「……ありがとうございます。精一杯務めます!」

 

「うん。期待しているよ」

 

 藍染は穏やかに頷き、その場を離れた。

 

「…………」

 

 冬華は静かに息を吐いた。

 

(……今は、まだ)

 

 不用意に動くべきではない。

 

 それだけは、分かっていた。

 

 そして。

 

「――静粛に!」

 

 山本総隊長の声が響いた。

 

 室内の空気が、一瞬で引き締まる。

 

 隊長たちが、それぞれの位置へ並んだ。

 

 冬華も慌てて十番隊隊長の位置へ向かう。

 

「……よし」

 

 小さく息を吐き、背筋を伸ばす。

 

 山本が口を開いた。

 

「本日より、十番隊隊長に日番谷冬華が就任した」

 

 静かな室内に、その声が響く。

 

「日番谷冬華」

 

「はい!」

 

「今後は護廷十三隊の隊長として、その責務を果たすがよい」

 

「――はい!」

 

 冬華は力強く返事をした。

 

 そして、並び立つ隊長たちへ向けて深く頭を下げる。

 

「十番隊隊長、日番谷冬華です!」

 

 顔を上げる。

 

 翡翠色の瞳には、確かな決意が宿っていた。

 

「まだ未熟なところもありますが、精一杯頑張ります!」

 

「よろしくお願いします!」

 

 京楽が穏やかに微笑む。

 

 浮竹も嬉しそうに頷いた。

 

 白哉は静かに目を閉じ、更木は退屈そうに笑っている。

 

 藍染は、いつもと変わらない穏やかな表情だった。

 

 こうして。

 

 日番谷冬華は、正式に護廷十三隊の隊長たちの一員となった。

 

     ◇◆◇

 

 瀞霊廷、十番隊隊舎。

 

「……ただいま戻りました!」

 

 冬華が隊舎へ足を踏み入れた、その瞬間。

 

「――冬華隊長ーっ!!」

 

「……わっ!?」

 

 勢いよく飛び込んできたのは、松本乱菊だった。

 

 ――ぎゅうっ!

 

「きゃああっ! 可愛いーっ!」

 

「ま、松本さん!?」

 

 乱菊は冬華を抱きしめながら、嬉しそうに笑った。

 

「もう! 隊長羽織、すっごく似合ってるじゃない!」

 

「えへへ……ありがとうございます!」

 

「それに、とうとう本当に隊長になっちゃったのね!」

 

「はい!」

 

 冬華は嬉しそうに頷いた。

 

「これからも、よろしくお願いします!」

 

「もちろんよ!」

 

 乱菊は満面の笑みを浮かべた。

 

「この松本乱菊、冬華隊長を全力でお支えします!」

 

「……松本さん!」

 

「だから、困ったことがあったら何でも言ってね!」

 

「はい!」

 

 冬華は嬉しそうに微笑んだ。

 

 すると。

 

「日番谷隊長! ご就任おめでとうございます!」

 

「おめでとうございます!」

 

 周囲に集まっていた十番隊の隊士たちから、次々と声が上がった。

 

「……!」

 

 冬華は少し驚いたように目を見開いた。

 

 そして、満面の笑みを浮かべる。

 

「ありがとうございます!」

 

 深く頭を下げた。

 

「これからも、よろしくお願いします!」

 

「「「はい!!」」」

 

 元気な返事が、隊舎に響き渡った。

 

 冬華は嬉しそうに笑った。

 

(……よかった)

 

 隊長になったからといって、急に皆との関係が変わるわけではない。

 

 それが、何より嬉しかった。

 

     ◇◆◇

 

「さて!」

 

 乱菊が隊長室の扉を開けた。

 

「こちらが、今日から冬華隊長のお部屋でーす!」

 

「……!」

 

 冬華はゆっくりと室内へ足を踏み入れた。

 

 見慣れた部屋。

 

 大きな机。

 

 窓から差し込む柔らかな日差し。

 

 かつて、志波一心が仕事をしていた場所。

 

「…………」

 

 冬華は静かに机へ近づいた。

 

(……隊長さん)

 

 あの豪快な笑い声が、今にも聞こえてきそうだった。

 

『よし! 今日も元気にいくぞ!』

 

 そんな声を思い出し、冬華は小さく微笑む。

 

(……私、本当に隊長になりましたよ)

 

 そして、ゆっくりと椅子に座った。

 

「……わあ」

 

 思わず声が漏れる。

 

「なんだか、不思議な気分です」

 

「ふふっ。そうでしょうね」

 

 乱菊が楽しそうに笑った。

 

「でも、これからはここが冬華隊長の席よ!」

 

「……はい!」

 

 冬華は嬉しそうに頷いた。

 

 しかし。

 

「……あれ?」

 

 ふと、机の上に目を向ける。

 

 そこには。

 

 ――ドサッ。

 

 大量の書類が積まれていた。

 

「…………」

 

 冬華は目を瞬かせた。

 

「……松本さん?」

 

「な、なあに?」

 

「……この書類は?」

 

「えっと……隊長のお仕事?」

 

「…………」

 

 冬華はゆっくりと書類の山を見上げた。

 

 一つ。

 

 二つ。

 

 三つ。

 

 かなりの量だった。

 

「……これ、全部ですか?」

 

「うん!」

 

「…………」

 

 冬華は再び乱菊へ視線を向けた。

 

「……松本さん」

 

「は、はい!」

 

「副隊長のお仕事は?」

 

「……え?」

 

「松本さんのお仕事です!」

 

「…………」

 

 乱菊の視線が泳いだ。

 

「え、えっと……」

 

「……松本さん?」

 

「だ、大丈夫よ! ちゃんとやるから!」

 

「本当ですか!?」

 

「もちろん!」

 

 乱菊は胸を張った。

 

「冬華隊長のためだもの!」

 

「……!」

 

 冬華は嬉しそうに微笑んだ。

 

「ありがとうございます!」

 

「ふふっ!」

 

「では、まずはこちらの書類からお願いしますね!」

 

「……えっ?」

 

 冬華は机の上から、分厚い書類の束を持ち上げた。

 

「副隊長の確認が必要なものを分けておきました!」

 

「…………」

 

 乱菊の笑顔が固まった。

 

「……冬華ちゃん?」

 

「はい!」

 

「隊長になった途端、ちょっと厳しくなってない?」

 

「そんなことありませんよ?」

 

 冬華はにっこりと微笑んだ。

 

「これからも、一緒に頑張りましょうね!」

 

「……はーい」

 

 乱菊は肩を落とした。

 

 その様子を見て、冬華はくすくすと笑った。

 

     ◇◆◇

 

 夕暮れ。

 

 十番隊隊舎、隊長室。

 

「……ふう」

 

 冬華は書類から顔を上げた。

 

 窓の外では、瀞霊廷の街並みが夕日に染まっている。

 

 乱菊は先ほど、書類を抱えて副隊長室へ戻っていった。

 

 室内には、静かな時間が流れていた。

 

「…………」

 

 冬華は椅子から立ち上がり、窓辺へ歩み寄った。

 

 白い隊長羽織が、ふわりと揺れる。

 

 背中には、二本の氷輪丸。

 

 冬華はそっと、その柄へ手を伸ばした。

 

(……草冠さん)

 

 真央霊術院で出会った友人。

 

 一緒に剣を振るい、笑い合った日々。

 

 そして、最後に託された氷輪丸。

 

(……私、隊長になりましたよ)

 

 冬華は静かに微笑んだ。

 

(あなたの氷輪丸も、ちゃんと一緒です)

 

 それから。

 

(……隊長さん)

 

 志波一心。

 

 豪快で、自由で、少し困ったところもあった人。

 

 けれど、誰よりも部下を大切にする隊長だった。

 

 何度も稽古をつけてもらった。

 

 頭を撫でてもらった。

 

 自分なら隊長を目指せると、背中を押してもらった。

 

(……私、合格しました)

 

 冬華は、そっと拳を握った。

 

(まだまだ未熟ですけど……)

 

 窓の外へ視線を向ける。

 

 夕日に染まる瀞霊廷。

 

 そして、自分が守るべき十番隊。

 

(……今度は、私が守ります)

 

 その翡翠色の瞳に、確かな決意が宿った。

 

「……よし!」

 

 冬華は小さく気合を入れた。

 

 振り返り、隊長机へ戻る。

 

 そこには、まだまだ大量の書類が残っていた。

 

「……まずは、お仕事ですね!」

 

 冬華は楽しそうに微笑んだ。

 

 こうして。

 

 護廷十三隊十番隊に、新たな隊長が誕生した。

 

 その名は――日番谷冬華。

 

 氷雪系最強の斬魄刀、氷輪丸を二本持つ少女。

 

 彼女の新たな日々が、今、始まろうとしていた。

 

 ――第17話「十番隊隊長就任」・完。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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