日番谷に転生した   作:使い手なない

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第20話「花火の夜」

 

 瀞霊廷、十番隊隊舎。

 

「――はっ!」

 

 ――ヒュンッ!

 

 訓練場に、鋭い風切り音が響いた。

 

 銀白色の髪をなびかせながら、日番谷冬華が二本の氷輪丸を振るう。

 

 右手の刀を振り下ろし、左手の刀を横薙ぎに。

 

 続けて、地面を蹴った。

 

 ――シュンッ!

 

 瞬歩。

 

 一瞬で間合いを移動した冬華は、着地と同時に身体をひねった。

 

「――やっ!」

 

 ――ヒュヒュンッ!!

 

 二本の刀が、立て続けに空を斬る。

 

 さらに踏み込む。

 

 今度は両脚へ霊圧を集中。

 

 瞬間的に身体能力を引き上げ、爆発的な加速を生み出した。

 

 ――ドンッ!!

 

「……っと!」

 

 冬華は勢いを殺しながら着地した。

 

 そして、小さく息を吐く。

 

「……ふう!」

 

 額に浮かんだ汗を拭い、二本の氷輪丸を見つめる。

 

(……うん。悪くありませんね!)

 

 最近は融合卍解の修行に時間を割くことが多かった。

 

 しかし、冬華は斬術や瞬歩の鍛錬も欠かしていない。

 

 理由は単純だ。

 

(……どれだけ強力な卍解を使えても、身体がついてこなければ意味がありませんからね)

 

 強敵との戦いでは、ほんの一瞬の判断が生死を分ける。

 

 相手の攻撃を見切る反応速度。

 

 斬撃を受け止める筋力。

 

 瞬時に間合いを詰める脚力。

 

 そして、それらを支える霊圧操作。

 

 どれほど強力な氷雪能力を持っていても、相手の動きを捉えられなければ攻撃は当たらない。

 

 反対に、相手の攻撃へ反応できなければ、卍解を使う前に倒されてしまう可能性だってある。

 

(……藍染隊長を相手にするなら、なおさらです)

 

 冬華は、先日の鏡花水月の披露会を思い出した。

 

 完全催眠。

 

 あの恐ろしい能力への対策は、まだ十分とは言えない。

 

 しかし、仮に完全催眠を防げたとしても、それだけで藍染に勝てるわけではなかった。

 

(……まずは、まともに戦えるだけの実力が必要です!)

 

「……よし!」

 

 冬華は再び刀を構えた。

 

 全身を覆う霊圧多層膜。

 

 八十層。

 

 幾重にも重ねた霊圧の膜を維持しながら、両脚へ霊圧を集中させる。

 

 ――シュンッ!

 

 瞬歩で移動。

 

 右手の氷輪丸を振り抜き、続けて左手の刀を突き出した。

 

 ――ヒュッ!

 

 しかし。

 

「……っ!」

 

 踏み込みが、わずかに鈍った。

 

 冬華は動きを止めた。

 

「……むむ」

 

 霊圧多層膜を維持しながら、身体能力を瞬間的に強化する。

 

 どちらも高度な霊圧制御を必要とするため、同時に行えば霊圧の配分が難しくなる。

 

(……まだ改善の余地がありますね)

 

 防御を厚くすれば、その分だけ攻撃や移動へ回せる霊圧が減る。

 

 逆もまた同じ。

 

 大切なのは、状況に応じて瞬時に切り替えることだ。

 

「……ふふっ!」

 

 冬華は楽しそうに笑った。

 

「まだまだ強くなれそうですね!」

 

 そして、再び刀を構えようとした。

 

 その時だった。

 

「――冬華隊長ー!」

 

「あっ、松本さん!」

 

 訓練場の入口から、松本乱菊が歩いてきた。

 

「もう! また修行してるの?」

 

「はい!」

 

「……本当に好きねえ」

 

「えへへ!」

 

 冬華は嬉しそうに笑った。

 

 乱菊は呆れたように肩をすくめる。

 

「今日はもう十分じゃない? 少し休みましょうよ」

 

「そうですね! ちょうど一区切りついたところです!」

 

「珍しく素直ね」

 

「私だって、ちゃんと休憩しますよ!」

 

「どうだか」

 

「むぅ……!」

 

 頬を膨らませる冬華を見て、乱菊は楽しそうに笑った。

 

     ◇◆◇

 

 十番隊、隊長室。

 

「――ああ、おいしいです!」

 

 冬華は湯呑みを両手で持ちながら、幸せそうに微笑んだ。

 

 机の上には、お茶と茶菓子。

 

 向かいには乱菊が座っている。

 

「ふふっ。修行の後のお茶は格別でしょ?」

 

「はい!」

 

「それにしても、冬華ちゃんって本当に変わらないわねえ」

 

「……そうですか?」

 

「そうよ。昔からずーっと修行ばっかり」

 

「えへへ……!」

 

 冬華は少し照れたように笑った。

 

 乱菊は茶菓子を一つ口に運ぶ。

 

「あっ、そうそう。今度、花火大会があるのよ」

 

「……花火大会?」

 

「ええ! 瀞霊廷で開かれるんですって」

 

「わあっ!」

 

 冬華の翡翠色の瞳が輝いた。

 

「楽しそうですね!」

 

「でしょ? せっかくだし、一緒に行かない?」

 

「はい! ぜひ!」

 

 冬華は元気よく頷いた。

 

「桃ちゃんも誘っていいですか?」

 

「もちろん! 人数が多い方が楽しいもの!」

 

「えへへ! ありがとうございます!」

 

 冬華は嬉しそうに笑った。

 

 そして、ふと思い出す。

 

「……そういえば、松本さん」

 

「ん?」

 

「市丸隊長とは、一緒に行かないんですか?」

 

「……ギン?」

 

 乱菊の手が、ぴたりと止まった。

 

「どうして急に?」

 

「いえ! お二人は昔からのお知り合いなんですよね?」

 

「ああ……そうね」

 

 乱菊は少し懐かしそうに微笑んだ。

 

「もう、随分と昔の話だけど」

 

「……よかったら、聞かせてもらえませんか?」

 

「昔の話?」

 

「はい!」

 

 冬華は興味津々といった様子で身を乗り出した。

 

 乱菊は少し考えた後、ふっと笑った。

 

「……そうねえ」

 

 そして、湯呑みを置く。

 

「あたしね、昔、流魂街で倒れてたことがあるの」

 

「……倒れていたんですか?」

 

「ええ。お腹が空いて、もう動けなくなっちゃって」

 

 乱菊は苦笑した。

 

「そんな時に助けてくれたのが、ギンだったのよ」

 

「……市丸隊長が?」

 

「そう。食べ物を持ってきてくれてね」

 

 乱菊の表情が、少し柔らかくなった。

 

「それから、一緒に暮らしてたの」

 

「……そうだったんですね」

 

「ふふっ。あの頃のギンは、今よりずっと小さかったわ」

 

「今の市丸隊長からは、想像できませんね!」

 

「でしょ?」

 

 二人は顔を見合わせて笑った。

 

 しかし、乱菊はやがて少し遠い目をした。

 

「……でも、ある日突然いなくなっちゃったのよね」

 

「…………」

 

「死神になるって言って、それっきり」

 

 乱菊は湯呑みを見つめた。

 

「まあ、今じゃ立派な隊長様なんだけど」

 

 その声には、どこか寂しさが混じっていた。

 

 冬華は静かに乱菊を見つめた。

 

(……松本さん)

 

 市丸ギン。

 

 藍染の側近として行動し、原作では尸魂界を裏切った人物。

 

 けれど、その行動の裏には、乱菊への想いがあった。

 

 幼い頃、乱菊から奪われたものを取り戻すために、長い年月をかけて藍染へ近づいた。

 

 そして、最後には自らの命を懸けて刃を向けた。

 

(……あの時、松本さんは……)

 

 冬華の脳裏に、原作での乱菊の姿が浮かんだ。

 

 大切な人を失い、涙を流す彼女。

 

「……冬華ちゃん?」

 

「……あっ!」

 

 冬華は顔を上げた。

 

「どうしたの? 急に黙っちゃって」

 

「いえ……!」

 

 冬華は少し微笑んだ。

 

「松本さんにとって、市丸隊長は大切な人なんですね」

 

「……っ!」

 

 乱菊は一瞬、目を見開いた。

 

 そして。

 

「……もう、何言ってるのよ」

 

 少し照れたように笑った。

 

「あんな狐みたいな男、何考えてるか分かったもんじゃないわ」

 

「ふふっ!」

 

「それに、昔から人をからかってばっかりで……」

 

 乱菊はそう言いながらも、どこか楽しそうだった。

 

 冬華も、つられて微笑んだ。

 

「……松本さん!」

 

「ん?」

 

「花火大会、市丸隊長も誘ってみませんか?」

 

「……えっ?」

 

「せっかくですし! みんなで見た方が楽しいですよ!」

 

 乱菊は、ぱちぱちと瞬きをした。

 

 そして。

 

「……ふふっ」

 

 少し困ったように笑った。

 

「そうね。気が向いたら誘ってみようかしら」

 

「はい!」

 

 冬華は嬉しそうに頷いた。

 

     ◇◆◇

 

 数日後。

 

 瀞霊廷の一角。

 

 夕暮れの空の下、花火大会の会場は多くの死神たちで賑わっていた。

 

 通りには屋台が並び、楽しそうな声があちこちから聞こえてくる。

 

「――冬華ちゃーん!」

 

「あっ! 桃ちゃん!」

 

 冬華は大きく手を振った。

 

 人混みの向こうから、雛森桃が小走りで駆け寄ってくる。

 

「お待たせ!」

 

「いえ! 私たちも今来たところです!」

 

「ふふっ。桃ちゃん、いらっしゃい!」

 

「松本副隊長! 今日は誘ってくださってありがとうございます!」

 

「いいのよ! 今日は仕事のことなんて忘れて楽しみましょ!」

 

「はい!」

 

 三人は顔を見合わせて笑った。

 

「それじゃあ、まずは屋台ですね!」

 

 冬華が元気よく宣言する。

 

「ふふっ。冬華ちゃん、張り切ってるわねえ」

 

「だって、いい匂いがするんです!」

 

「もう、食いしん坊なんだから!」

 

「ち、違いますよ!」

 

 冬華は頬を膨らませた。

 

 桃と乱菊が楽しそうに笑う。

 

 そして三人は、賑やかな屋台通りへ歩き出した。

 

     ◇◆◇

 

「――おいしいです!」

 

 冬華は串焼きを一口食べ、満面の笑みを浮かべた。

 

「冬華ちゃん、さっきからそればっかり!」

 

「だって、本当においしいんです!」

 

「ふふっ。よかったね!」

 

 桃も楽しそうに笑った。

 

 乱菊は少し離れた屋台を眺めている。

 

「あっ、あっちにも美味しそうなのがあるわね!」

 

「松本さん! さっきから食べ物ばかり見てませんか?」

 

「それ、冬華ちゃんが言う?」

 

「……あっ」

 

 三人は顔を見合わせ、声を上げて笑った。

 

 そんな時だった。

 

「――おや、雛森君」

 

「……!」

 

 穏やかな声が聞こえた。

 

 振り返ると、そこには眼鏡をかけた男性が立っていた。

 

 五番隊隊長、藍染惣右介。

 

「あっ! 藍染隊長!」

 

 桃が嬉しそうに声を上げた。

 

「こんばんは!」

 

「こんばんは。楽しんでいるようだね」

 

「はい! 冬華ちゃんと松本副隊長と一緒なんです!」

 

「そうか。それはよかった」

 

 藍染は穏やかに微笑んだ。

 

 冬華も明るく挨拶する。

 

「こんばんは、藍染隊長!」

 

「こんばんは、日番谷隊長」

 

「藍染隊長も、花火を見に来られたんですか?」

 

「ああ。少し時間ができたからね」

 

 藍染は周囲を見渡した。

 

「こうして隊士たちが楽しんでいる姿を見るのも、悪くないものだよ」

 

「そうですね!」

 

 冬華はにっこりと笑った。

 

 先日の鏡花水月の披露会が、ふと頭をよぎる。

 

 しかし、冬華はすぐに目の前の祭りへ意識を戻した。

 

「藍染隊長!」

 

 桃が嬉しそうに言った。

 

「よかったら、一緒に花火を見ませんか?」

 

「……私もかい?」

 

「はい!」

 

 藍染は少し考えた後、穏やかに頷いた。

 

「そうだね。せっかくだし、ご一緒させてもらおうかな」

 

「本当ですか!?」

 

 桃の顔がぱっと明るくなった。

 

「よかったですね、桃ちゃん!」

 

「うん!」

 

 冬華も嬉しそうに微笑んだ。

 

     ◇◆◇

 

 花火が始まるまで、あと少し。

 

 四人が会場を歩いていると。

 

「――あれぇ?」

 

 どこか間延びした声が聞こえた。

 

「なんや、えらい賑やかやなぁ」

 

「……!」

 

 冬華が振り返る。

 

 そこには、細い目をした銀髪の男性が立っていた。

 

 三番隊隊長、市丸ギン。

 

「あっ、市丸隊長!」

 

 冬華が声を上げた。

 

 ギンはいつもの笑みを浮かべる。

 

「こんばんは、日番谷隊長」

 

「こんばんは!」

 

「……ギン」

 

 乱菊が呟いた。

 

 ギンは、ゆっくりと乱菊へ視線を向ける。

 

「なんや、乱菊もおったんか」

 

「……何よ。その言い方」

 

「いやぁ、偶然やなぁ思うて」

 

「白々しいわねえ」

 

 乱菊は呆れたように肩をすくめた。

 

 冬華は、そんな二人を見て微笑む。

 

「市丸隊長も、花火を見に来たんですか?」

 

「せやねぇ。たまには、こういうのも悪ないやろ?」

 

「はい!」

 

 冬華は嬉しそうに頷いた。

 

「よかったら、一緒に見ませんか?」

 

「……ボクも?」

 

「はい! みんなで見た方が楽しいですから!」

 

 ギンは少しだけ目を細めた。

 

「……ふぅん」

 

 そして、いつもの笑みを浮かべる。

 

「ほな、お邪魔させてもらおかな」

 

「はい!」

 

 冬華は満面の笑みを浮かべた。

 

     ◇◆◇

 

 花火が始まるまで、もう少し時間があった。

 

 桃と乱菊は、近くの屋台へ飲み物を買いに行っている。

 

 藍染も少し離れた場所で、顔見知りの隊士と言葉を交わしていた。

 

 そのため。

 

「……市丸隊長!」

 

「ん?」

 

 冬華は、隣に立つギンへ声をかけた。

 

「少し、お話ししてもいいですか?」

 

「ええよ」

 

 ギンはいつもの笑みを浮かべた。

 

「なんや、ボクに聞きたいことでもあるん?」

 

「はい!」

 

 冬華は少し微笑んだ。

 

「松本さんとは、昔からのお知り合いなんですよね?」

 

「……乱菊?」

 

「はい!」

 

 ギンは、少しだけ間を置いた。

 

「……まあ、そうやね」

 

「松本さんから、昔のお話を聞いたんです!」

 

「へぇ」

 

 ギンは面白そうに笑った。

 

「乱菊、何話したん?」

 

「市丸隊長に助けてもらったこととか、一緒に暮らしていたこととか!」

 

「……そうなんや」

 

 ギンは静かに呟いた。

 

 その表情は、いつもと変わらない。

 

「……日番谷隊長」

 

「はい?」

 

「乱菊、余計なこと言うてへんかった?」

 

「余計なこと、ですか?」

 

「例えば、ボクの昔の恥ずかしい話とか」

 

「えっ! そんなお話もあるんですか!?」

 

 冬華が目を輝かせる。

 

 ギンはくすりと笑った。

 

「……冗談や」

 

「ええっ!?」

 

「ほんま、からかい甲斐があるわぁ」

 

「もう! 市丸隊長!」

 

 冬華は頬を膨らませた。

 

 ギンは楽しそうに笑う。

 

 そんな彼を見て、冬華も思わず笑ってしまった。

 

「……ふふっ!」

 

「なんや、今度は日番谷隊長が笑う番なん?」

 

「いえ! 市丸隊長って、松本さんの言うとおりの人なんだなって!」

 

「……ほぉ?」

 

「昔から、人をからかってばかりだったそうですよ!」

 

「……乱菊、そんなことまで話したんか」

 

 ギンは困ったように笑った。

 

 冬華は少し首を傾げる。

 

「でも、お二人は仲がいいんですね!」

 

「……どうやろなぁ」

 

 ギンは曖昧に答えた。

 

「長い付き合いやからって、何でも分かるわけやないし」

 

「……そうなんですか?」

 

「せやよ」

 

 ギンは冬華へ視線を向けた。

 

「人の考えなんて、そう簡単には分からへんもんや」

 

 冬華は、静かに瞬きをした。

 

 いつもの笑顔。

 

 けれど、その奥に何を隠しているのかは分からない。

 

「……そうですね」

 

 冬華は小さく頷いた。

 

「だからこそ、ちゃんとお話しするのが大切なのかもしれませんね!」

 

「…………」

 

 ギンは少しだけ黙った。

 

 そして。

 

「……日番谷隊長は、ほんまに面白い人やねぇ」

 

「えっ!? そうですか?」

 

「せやね」

 

 ギンはくすりと笑った。

 

「これからも、そのままでおってな」

 

「……?」

 

 冬華は不思議そうに首を傾げた。

 

 しかし、ギンはそれ以上何も言わなかった。

 

     ◇◆◇

 

「――冬華ちゃーん!」

 

「あっ、桃ちゃん!」

 

 飲み物を手にした桃と乱菊が戻ってきた。

 

「お待たせ!」

 

「いえ!」

 

「何話してたの?」

 

 乱菊が興味深そうに尋ねる。

 

「えへへ! 市丸隊長と昔のお話をしていました!」

 

「……昔の?」

 

「はい!」

 

 乱菊はギンへ視線を向けた。

 

「……ギン?」

 

「なんや?」

 

「変なこと言ってないでしょうね?」

 

「ひどいなぁ。ボクがそんなこと言うわけないやろ?」

 

「どうだか」

 

 乱菊は呆れたように笑った。

 

 ギンも、いつもの笑みを浮かべている。

 

 そんな二人を見て、冬華は小さく微笑んだ。

 

 その時。

 

「――そろそろ始まるようだね」

 

 藍染が戻ってきた。

 

 桃が嬉しそうに顔を上げる。

 

「藍染隊長!」

 

「待たせてしまったかな?」

 

「いえ! ちょうどよかったです!」

 

 藍染は穏やかに微笑んだ。

 

「それならよかった」

 

 そして、ギンへ視線を向ける。

 

「市丸隊長も来ていたんだね」

 

「ええ。たまたま通りかかったんですわ」

 

「そうか」

 

 藍染は静かに頷いた。

 

「せっかくだ。みんなで楽しもう」

 

「はい!」

 

 冬華と桃が元気よく返事をした。

 

 乱菊は飲み物を手に笑い、ギンはいつものように細い目をしている。

 

 五人は、花火がよく見える場所へと移動した。

 

     ◇◆◇

 

 夜空。

 

 星々が瞬く瀞霊廷の上空に、最初の光が昇っていった。

 

 ――ヒュウウウッ!

 

「……あっ!」

 

 冬華が空を見上げる。

 

 次の瞬間。

 

 ――ドォォォン!!

 

 大輪の花火が、夜空いっぱいに咲いた。

 

「わああっ!!」

 

 冬華の翡翠色の瞳が輝いた。

 

「綺麗ですね!!」

 

「うん! すごく綺麗!」

 

 桃も嬉しそうに声を上げた。

 

 乱菊は楽しそうに微笑む。

 

「ふふっ。来てよかったわねえ」

 

「はい!」

 

 冬華は満面の笑みを浮かべた。

 

 次々と打ち上がる花火。

 

 赤。

 

 青。

 

 金。

 

 色とりどりの光が、夜空を鮮やかに染めていく。

 

 その光が、五人の顔を照らした。

 

「藍染隊長! 今の花火、すごかったですね!」

 

「ああ。見事だったね」

 

 桃は嬉しそうに笑っている。

 

 藍染も穏やかな表情で夜空を眺めていた。

 

 少し離れた場所では、乱菊とギンが並んでいる。

 

「……綺麗ね」

 

「せやねぇ」

 

「ギン、ちゃんと見てる?」

 

「見とるよ」

 

「本当かしら」

 

「ほんまやって」

 

 そんな二人のやり取りが聞こえてきた。

 

 冬華は、そっと微笑んだ。

 

(……不思議ですね)

 

 同じ花火を見上げている五人。

 

 けれど、それぞれが何を考えているのかは分からない。

 

 特に、藍染とギン。

 

 二人の未来を知る冬華にとって、今の光景は少し不思議なものだった。

 

 それでも。

 

 桃は楽しそうに笑っている。

 

 乱菊も、どこか嬉しそうだ。

 

 ギンもいつもの笑みを浮かべている。

 

(……市丸隊長も、救えたらいいですね)

 

 冬華は、隣で笑う乱菊とギンを見つめた。

 

 そして、再び夜空へ視線を戻す。

 

 その時だった。

 

「――冬華ちゃん!」

 

「……あっ!」

 

 桃が振り返った。

 

「見て見て! 次の花火、すごいよ!」

 

「……はい!」

 

 冬華は顔を上げた。

 

 ――ヒュウウウウッ!!

 

 幾筋もの光が、夜空へ昇っていく。

 

 そして。

 

 ――ドォォォォン!!

 

 夜空いっぱいに、巨大な花火が咲いた。

 

「……わあっ!!」

 

 冬華は思わず歓声を上げた。

 

「すっごく綺麗です!!」

 

 桃が笑う。

 

 乱菊も笑う。

 

 ギンは小さく微笑み、藍染は穏やかに夜空を見上げている。

 

 冬華も、満面の笑みを浮かべた。

 

 こうして五人で花火を眺める夜は、賑やかに、そして穏やかに過ぎていった。

 

 ――第20話「花火の夜」・完。




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