日番谷に転生した   作:使い手なない

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第23話「さらなる高みへ」

 

 瀞霊廷、十番隊隊舎。

 

「――卍解!」

 

 ――ゴオオオオッ!!

 

 訓練場に、凄まじい冷気が吹き荒れた。

 

「――大紅蓮氷輪丸!」

 

 日番谷冬華の背中に、巨大な氷の翼が広がる。

 

 腕や脚を覆う氷の装甲。

 

 鋭く伸びる氷の尾。

 

 そして、背後に浮かぶ幾輪もの氷華。

 

 山本元柳斎重國との模擬戦で、初めて完成形の大紅蓮氷輪丸へ到達してから、約六年。

 

 冬華は、さらなる高みを目指して修行を続けていた。

 

「……ふう」

 

 氷輪丸を構え、静かに呼吸を整える。

 

(……あの時とは、違います)

 

 六年間。

 

 十番隊隊長としての仕事をこなしながら、冬華は霊圧を鍛え続けてきた。

 

 斬術、瞬歩、白打、鬼道。

 

 基礎的な戦闘技術を磨くことはもちろん、特に力を入れたのが霊圧総量の増強と、氷輪丸への霊力供給だった。

 

 二本の氷輪丸。

 

 本来、一人の死神が所有するはずのない、二振りの同一斬魄刀。

 

 冬華は長い年月をかけて、その二本へ霊力を送り込み、自在に操る技術を磨いてきた。

 

 そして、卍解では二本が融合する。

 

(……必要なのは、ただ氷華を壊すことじゃありません)

 

 冬華は背後の氷華へ意識を向けた。

 

 六年前。

 

 完成形へ到達した瞬間の、あの圧倒的な力。

 

 四界氷結によって、山本総隊長の左腕の一部を凍結させた。

 

 しかし、あの力を引き出すには、氷華がすべて消えるまで待たなければならなかった。

 

 そこで考えたのが、氷華の強制破砕。

 

 だが、実際に試してみると、そう簡単にはいかなかった。

 

 氷華を無理に砕こうとしても、卍解の霊力が乱れるだけ。

 

 完成形へ移行することはできなかった。

 

 何度も試し、何度も失敗した。

 

 その過程で、冬華は一つの答えに辿り着いた。

 

(……完成形を発動するための霊力が、足りなかったんです)

 

 氷華は、ただの飾りではない。

 

 完成形へ至るまでの過程を示すもの。

 

 必要な霊力が満たされていない状態で氷華だけを破壊しても、意味がない。

 

 だからこそ、冬華は自分自身の霊圧総量を鍛え、氷輪丸へ送り込む霊力の量と精度を高め続けた。

 

 そして、今日。

 

(……今なら、きっと!)

 

 冬華は氷輪丸を握り直した。

 

 その翡翠色の瞳に、強い決意が宿る。

 

「……いきます!」

 

 ――ゴオオオオッ!!

 

 冬華の霊圧が、一気に膨れ上がった。

 

     ◇◆◇

 

「……っ!」

 

 訓練場の外。

 

 松本乱菊が、思わず足を止めた。

 

「……また、凄い霊圧ね」

 

 冬華が修行を続けていることは知っていた。

 

 しかし、最近の成長は目を見張るものがある。

 

 六年前と比べても、霊圧の密度が明らかに違う。

 

「……本当に、どこまで強くなるつもりなのかしら」

 

 乱菊は苦笑した。

 

 もっとも、その努力を誰よりも近くで見てきたのも自分だ。

 

 毎日のように修行を重ね、隊長としての仕事も決して疎かにしない。

 

 休暇を取らせようとしても、少し目を離せば訓練場へ向かってしまう。

 

「……もう」

 

 乱菊は小さく息を吐いた。

 

「今日こそ、成功するといいわね」

 

     ◇◆◇

 

(……集中!)

 

 冬華は目を閉じた。

 

 全身を流れる霊力。

 

 それを、一振りに融合した氷輪丸へ送り込んでいく。

 

 ――キィィン!

 

 刀身が、澄んだ音を響かせた。

 

 氷の翼が大きく広がり、足元から冷気が噴き上がる。

 

 ――パキパキパキッ!!

 

 訓練場の地面が、次々と凍結していった。

 

(……まだ!)

 

 さらに霊力を送り込む。

 

 だが、無理に押し込むのではない。

 

 流れを整え、必要な場所へ、必要な量だけを送り届ける。

 

 幼い頃から磨き続けてきた霊圧制御。

 

 百層の霊圧多層膜を形成するほどの精密な操作技術。

 

 そのすべてを、今は氷輪丸へ向けていた。

 

「……っ!」

 

 額に汗が浮かぶ。

 

 膨大な霊力が、刀身を通じて循環していく。

 

 そして。

 

 ――キィィィン!!

 

「……!」

 

 冬華は目を見開いた。

 

(……満たされた!)

 

 感覚で分かった。

 

 これまで、どれほど霊力を注ぎ込んでも届かなかった領域。

 

 その境界を、今、確かに越えた。

 

 氷輪丸が、応えている。

 

「……よし!」

 

 冬華は氷輪丸を掲げた。

 

 そして、背後の氷華へ意識を集中させる。

 

(……今です!)

 

 霊力の流れを維持したまま、氷華を形成する氷雪へ干渉する。

 

 これまでなら、ここで霊力が乱れていた。

 

 だが。

 

 ――ピシッ!

 

 氷華に、小さな亀裂が走った。

 

「……っ!」

 

 冬華は息を呑む。

 

 さらに霊力を集中させた。

 

 ――ピシピシピシッ!!

 

 亀裂が、すべての氷華へ広がっていく。

 

(……いける!)

 

 そして。

 

「――砕けてください!」

 

 ――パキィィィン!!

 

 すべての氷華が、同時に砕け散った。

 

 その瞬間。

 

 ――ゴオオオオオッ!!

 

 訓練場を、凄まじい冷気が駆け抜けた。

 

「……っ!」

 

 冬華の身体が、眩い氷雪の光に包まれる。

 

 小柄だった身体が成長し、手足が伸びていく。

 

 身長百五十センチだった身体は、百六十五センチほどの姿へ。

 

 銀白色の髪が舞い上がり、翡翠色の瞳が輝いた。

 

 氷の翼が砕け散り、周囲に純白の冷気が広がっていく。

 

 ――キィィィン!!

 

 そして。

 

 静寂。

 

「…………」

 

 冬華は、ゆっくりと目を開いた。

 

 視線を落とす。

 

 先ほどまでとは違う、成長した身体。

 

 手足の長さも、目線の高さも変わっている。

 

 何より。

 

 全身を満たす、圧倒的な氷雪の力。

 

「……あ」

 

 冬華は小さく声を漏らした。

 

 そして。

 

「……できた」

 

 翡翠色の瞳が、大きく見開かれる。

 

「……できました!」

 

 思わず笑みがこぼれた。

 

「やりましたーっ!!」

 

 ――ゴオオオッ!!

 

 喜びに反応するように、周囲の冷気が大きく渦を巻いた。

 

「……わわっ!?」

 

 冬華は慌てて霊圧を抑える。

 

 すると、冷気はすぐに収まった。

 

「……ふう!」

 

 そして、改めて自分の手を見つめる。

 

(……本当に、できたんですね)

 

 六年間。

 

 何度も失敗し、そのたびに原因を考え、修行を重ねてきた。

 

 ようやく、その努力が実を結んだ。

 

 冬華は氷輪丸を胸の前へ掲げた。

 

「……ありがとうございます、氷輪丸」

 

 その声は、いつもより少しだけ穏やかだった。

 

     ◇◆◇

 

「――冬華隊長ーっ!」

 

「あっ!」

 

 訓練場の入口から、乱菊が駆け込んできた。

 

「今の霊圧、いったい何が……」

 

 そして、冬華の姿を見た瞬間。

 

「…………え?」

 

 ぴたりと足を止めた。

 

「……冬華、隊長?」

 

「はい!」

 

 冬華は嬉しそうに微笑んだ。

 

「松本さん!」

 

「……えっ? ちょっと待ってください」

 

 乱菊は目を瞬かせた。

 

 目の前に立っているのは、銀白色の髪と翡翠色の瞳を持つ女性。

 

 見慣れた顔立ちの面影はある。

 

 だが、普段より明らかに背が高く、大人びた姿になっていた。

 

「……もしかして」

 

「えへへ!」

 

 冬華は嬉しそうに頷いた。

 

「完成形です!」

 

「……完成形?」

 

「はい!」

 

 そして、満面の笑みを浮かべる。

 

「氷華を、自分で全部壊せるようになりました!」

 

「…………」

 

 乱菊は数秒ほど固まった。

 

 そして。

 

「――ええええっ!?」

 

 訓練場に、大きな声が響いた。

 

「つ、ついに成功したんですか!?」

 

「はい!」

 

「本当に!?」

 

「本当です!」

 

「……っ!」

 

 乱菊の表情が、ぱっと明るくなる。

 

「やりましたね、冬華隊長!」

 

「えへへ! ありがとうございます!」

 

 乱菊は嬉しそうに冬華の両手を握った。

 

「もう! 何年も頑張ってましたもんね!」

 

「はい!」

 

 冬華も大きく頷く。

 

「やっと成功しました!」

 

「……ふふっ!」

 

 乱菊は笑った。

 

 そして、改めて冬華の姿を見つめる。

 

「それにしても……」

 

「はい?」

 

「こうして見ると、本当に大人っぽいですねえ」

 

「……えっ?」

 

 冬華は目を瞬かせた。

 

「そ、そうですか?」

 

「ええ! いつもの冬華隊長も可愛いですけど、今はすっかり綺麗なお姉さんですよ!」

 

「……えへへ!」

 

 冬華は照れたように笑った。

 

「ありがとうございます!」

 

 しかし、次の瞬間。

 

「……あっ!」

 

「どうしました?」

 

「そういえば、完成形を解除したら元に戻るんですよね!」

 

「……まあ、そうでしょうね」

 

「……ちょっと残念です」

 

「ふふっ! いつもの冬華隊長も十分可愛いですよ!」

 

「……本当ですか!?」

 

「もちろん!」

 

「えへへ!」

 

 冬華は嬉しそうに笑った。

 

 そして、氷輪丸へ意識を向ける。

 

 ――キィン!

 

 冷気が収まり、完成形が解除された。

 

 成長していた身体も、元の百五十センチへ戻る。

 

 同時に、一振りだった氷輪丸が二本へ分かれた。

 

「……よし!」

 

 冬華は二本の氷輪丸を背中へ収めた。

 

「これで、いつでも完成形になれます!」

 

「……本当に凄いですねえ」

 

 乱菊は感心したように呟いた。

 

 だが、すぐに表情を変える。

 

「……ところで、冬華隊長?」

 

「はい?」

 

「今日の書類仕事、終わってます?」

 

「…………」

 

 冬華の笑顔が、ぴたりと止まった。

 

「……えっと」

 

「……冬華隊長?」

 

「……あと、少しだけ?」

 

「……はあ」

 

 乱菊は額に手を当てた。

 

「もう! 修行が成功したのは嬉しいですけど、仕事もちゃんとしてください!」

 

「は、はいっ!」

 

 冬華は慌てて頷いた。

 

「すぐに終わらせます!」

 

「……ふふっ!」

 

 乱菊は思わず笑った。

 

「まったく。どんなに強くなっても、そこは変わりませんね」

 

「……えへへ!」

 

 冬華も、少し照れたように笑った。

 

     ◇◆◇

 

 その日の午後。

 

 十番隊隊長室。

 

「……よし!」

 

 冬華は最後の書類へ判を押した。

 

「終わりましたーっ!」

 

「お疲れ様です、冬華隊長」

 

 向かいの机で書類を整理していた乱菊が微笑む。

 

「えへへ! これで今日はゆっくりできますね!」

 

「そうですねえ。せっかくですし、お祝いでも……」

 

 ――バタンッ!!

 

「――失礼します!!」

 

「……っ!?」

 

 突然、隊長室の扉が開かれた。

 

 飛び込んできたのは、十番隊の隊士だった。

 

「どうしたんですか?」

 

 冬華は顔を上げる。

 

 隊士は息を切らしながら、慌てた様子で敬礼した。

 

「緊急報告です!」

 

「……緊急報告?」

 

 冬華の表情が引き締まる。

 

「はい!」

 

 隊士は大きく息を吸った。

 

 そして。

 

「――瀞霊廷内に、旅禍が侵入しました!!」

 

「…………!」

 

 冬華の翡翠色の瞳が、わずかに見開かれた。

 

「……旅禍?」

 

「はい! 現在、各隊へ緊急連絡が回されています!」

 

「……分かりました」

 

 冬華は静かに立ち上がった。

 

 その背中には、二本の氷輪丸。

 

 六年間の修行を経て、ついに完成形への瞬時移行を習得したばかり。

 

 そして今。

 

 瀞霊廷に、侵入者が現れた。

 

(……まさか)

 

 冬華の脳裏に、前世の記憶がよぎる。

 

 朽木ルキア。

 

 死神の力の譲渡。

 

 そして、尸魂界へ乗り込んでくる少年たち。

 

(……もう、そんな時期なんですね)

 

 冬華は小さく息を吐いた。

 

「松本さん」

 

「はい!」

 

「状況を確認しましょう」

 

「了解です!」

 

 冬華は隊長羽織を翻し、扉へ向かって歩き出した。

 

 その表情からは、先ほどまでの無邪気な笑みが消えている。

 

 護廷十三隊十番隊隊長。

 

 日番谷冬華。

 

 長い修行の年月を経て、氷雪系最強の斬魄刀を極めつつある少女。

 

 その前に、今、新たな事件が幕を開けようとしていた。

 

 ――第23話『さらなる高みへ』・完。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
引き続きよろしくお願いします!
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