日番谷に転生した   作:使い手なない

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第24話「旅禍侵入」

第24話「旅禍侵入」

 

 瀞霊廷、一番隊隊舎。

 

「……市丸隊長が、旅禍と接触したんですか?」

 

 隊首会の開かれる広間へ向かいながら、日番谷冬華は小さく首を傾げた。

 

 先ほど、一番隊から緊急招集の通達が届いた。

 

 理由は、西側の白道門に現れた旅禍について。

 

 門番の兕丹坊が敗北し、門を開けたところに三番隊隊長の市丸ギンが現れたという。

 

 幸い、旅禍の瀞霊廷への侵入は阻止された。

 

 しかし、ギンは侵入者を捕縛せず、そのまま逃がしてしまったらしい。

 

(……ああ、あの場面ですね)

 

 冬華には心当たりがあった。

 

 黒崎一護。

 

 かつて現世で出会った、橙色の髪の少年。

 

 前世の記憶が正しければ、彼が仲間たちとともに白道門へ現れたはずだ。

 

(……一護さん、もう尸魂界に来ているんですね)

 

 懐かしい気持ちが込み上げる。

 

 あの雨の日から、随分と時間が経った。

 

 今の一護は、どれほど成長しているのだろう。

 

「……ふふっ」

 

 冬華は小さく笑った。

 

 しかし、すぐに表情を引き締める。

 

(……いけませんね。今は隊首会です)

 

 冬華は背中の二本の氷輪丸を揺らしながら、広間へ足を踏み入れた。

 

     ◇◆◇

 

 広間には、すでに多くの隊長たちが集まっていた。

 

 八番隊隊長、京楽春水。

 

 十三番隊隊長、浮竹十四郎。

 

 四番隊隊長、卯ノ花烈。

 

 六番隊隊長、朽木白哉。

 

 十一番隊隊長、更木剣八。

 

 そして、ほかの隊長たち。

 

 冬華は自分の立ち位置へ向かう。

 

「おや、冬華ちゃん」

 

「あっ、京楽さん!」

 

 京楽が軽く手を上げた。

 

「相変わらず元気そうだねえ」

 

「はい! 京楽さんもお元気そうで何よりです!」

 

「いやあ、僕はもう少しのんびりしていたいんだけどね」

 

 京楽は苦笑する。

 

「今回は、なかなか面倒なことになりそうだよ」

 

「……そうですね」

 

 冬華は頷いた。

 

 その時。

 

 ――ゴンッ!!

 

 杖が床を打つ音が響き渡った。

 

「――静粛に」

 

 広間の空気が、一瞬で引き締まる。

 

 護廷十三隊総隊長。

 

 山本元柳斎重國。

 

 その鋭い眼差しが、集まった隊長たちを見渡した。

 

「これより、隊首会を始める」

 

 冬華も姿勢を正した。

 

「すでに報告は受けておろう。西側の白道門に旅禍が現れた」

 

 山本の低い声が響く。

 

「門番の兕丹坊は敗北。門が開かれ、瀞霊廷への侵入を許しかけた」

 

「…………」

 

「しかし、現場に居合わせた三番隊隊長、市丸ギンによって侵入は阻止された」

 

 そこで、山本の視線が一人の男へ向けられる。

 

「――市丸ギン」

 

「……はい?」

 

 いつもの薄い笑みを浮かべたギンが、ゆっくりと顔を上げた。

 

「貴様、旅禍を目の前にしながら、何故捕縛せずに逃がした?」

 

「……いやあ」

 

 ギンは困ったように笑う。

 

「申し訳ありまへんなあ」

 

「謝罪を求めておるのではない。理由を聞いておる」

 

「……そう言われましても」

 

 ギンは軽く肩をすくめた。

 

「ちょっと油断してしもうただけですわ」

 

「…………」

 

 冬華は黙ってギンを見つめていた。

 

(……市丸隊長)

 

 白道門での出来事。

 

 原作の流れは覚えている。

 

 ギンが本気で戦っていれば、一護たちを捕らえることもできたはずだ。

 

 それをしなかった理由。

 

(……藍染隊長の計画、でしょうね)

 

 冬華は、そっと視線を動かした。

 

 五番隊隊長、藍染惣右介。

 

 穏やかな表情を浮かべた男が、静かに立っている。

 

 その姿からは、何も読み取れない。

 

「……まったく」

 

 不意に、別の声が響いた。

 

「隊長が旅禍を取り逃がすとは、情けない話だね」

 

 十二番隊隊長、涅マユリだった。

 

 ギンは笑みを崩さない。

 

「いやあ、耳が痛いですわ」

 

「そもそも、捕縛していれば色々と調べられたものを……」

 

 マユリは不満そうに言う。

 

 その横で、更木剣八が退屈そうに鼻を鳴らした。

 

「くだらねえ。そんなに気になるなら、次に現れた時に捕まえりゃいいだろ」

 

「更木隊長。問題は、隊長が職務を果たさなかったことだ」

 

 朽木白哉が静かに告げる。

 

「ああ?」

 

 剣八が白哉を睨む。

 

「てめえ、俺に説教してんのか?」

 

「事実を述べたまでだ」

 

「……へえ」

 

 剣八が笑う。

 

 広間に、わずかな緊張が走った。

 

「まあまあ」

 

 京楽が間に入る。

 

「二人とも、その辺にしておこうよ」

 

「…………」

 

 冬華は小さく息を吐いた。

 

(……皆さん、相変わらずですねえ)

 

 護廷十三隊の隊長たちは、誰もが一筋縄ではいかない。

 

 それでも、いざという時には頼りになる人たちだ。

 

 もっとも。

 

(……全員が味方、とは限りませんけど)

 

 冬華は藍染へ一瞬だけ視線を向けた。

 

 その時。

 

「……市丸隊長」

 

 藍染が口を開いた。

 

「今回の件は、少々軽率だったのではないかな」

 

「……おや」

 

 ギンが顔を向ける。

 

「藍染隊長まで、そないなこと言わはるんですか?」

 

「当然だよ。隊長としての責任は果たさなければならない」

 

「……怖いなあ」

 

 ギンはいつものように笑った。

 

 冬華は、二人のやり取りを静かに見守る。

 

(……よく言いますねえ)

 

 思わず、そんな感想が浮かんだ。

 

 しかし、口には出さない。

 

 今ここで藍染を追及したところで、証拠がない。

 

 それに、鏡花水月の問題もある。

 

 下手に動けば、かえって状況を悪くしかねない。

 

「――もうよい」

 

 山本が杖を床へ打ちつけた。

 

 ――ゴンッ!!

 

「市丸ギン。今回の件については、後日改めて沙汰を下す」

 

「……へえ」

 

 ギンは軽く頭を下げた。

 

「承知しました」

 

「各隊は引き続き警戒を怠るな。旅禍が再び現れた際には、速やかに対処するのじゃ」

 

「「「はっ!」」」

 

「――解散!」

 

 こうして、隊首会は終了した。

 

     ◇◆◇

 

 瀞霊廷、十番隊隊舎。

 

「ただいま戻りました!」

 

「あっ、冬華隊長! お帰りなさい!」

 

 隊長室へ戻った冬華を、松本乱菊が出迎えた。

 

「隊首会はどうでした?」

 

「白道門に現れた旅禍についてのお話でした。市丸隊長が取り逃がしたそうです」

 

「……ギンが?」

 

 乱菊が目を瞬かせる。

 

「珍しいわね。あいつがそんな失敗するなんて」

 

「……そうですね」

 

 冬華は曖昧に微笑んだ。

 

 乱菊とギン。

 

 二人の間にある過去を、冬華は知っている。

 

 だからこそ、今は余計なことを言わなかった。

 

「それより、松本さん」

 

「はい?」

 

「旅禍が再び現れる可能性があります。十番隊の皆さんにも、警戒をお願いできますか?」

 

「もちろんです!」

 

「ありがとうございます!」

 

 冬華は笑顔で頷いた。

 

 そして、自分の机へ向かう。

 

(……さて)

 

 一護たちは白道門からの侵入に失敗した。

 

 ならば、次は志波空鶴の協力を得て、瀞霊廷へ侵入してくるはずだ。

 

(……そろそろ、ですね)

 

 冬華は窓の外を見上げた。

 

 青く澄んだ空。

 

 今はまだ、穏やかな景色が広がっている。

 

 しかし。

 

 その平穏は、長く続かなかった。

 

 ――ドオオオオオオン!!

 

「……っ!?」

 

 突如、遠方から凄まじい轟音が響いた。

 

 続いて、瀞霊廷の上空を巨大な霊圧の塊が横切っていく。

 

「……あっ」

 

 冬華は窓へ駆け寄った。

 

 空を見上げる。

 

 そして。

 

「……来ましたね」

 

 小さく呟いた。

 

 次の瞬間。

 

 ――ドゴオオオオオン!!

 

 轟音とともに、瀞霊廷の各所へ衝撃が走った。

 

「――冬華隊長!!」

 

 乱菊が叫ぶ。

 

「旅禍です! 瀞霊廷内への侵入を確認しました!」

 

「……はい!」

 

 冬華は振り返った。

 

「人数は分かっていますか?」

 

「現在確認されているのは五名です! 侵入後、各方面へ散開した模様です!」

 

「五名……」

 

 冬華は小さく頷いた。

 

(……やっぱり、一護さんたちですね)

 

 懐かしい少年との再会。

 

 それを思うと、少しだけ胸が弾む。

 

 だが、今は隊長としての仕事がある。

 

「松本さん!」

 

「はい!」

 

「隊士の皆さんに警戒態勢を取るよう伝えてください! ただし、侵入者を発見しても無理に交戦せず、まずは報告を優先するように!」

 

「了解です!」

 

「私は、他の隊の状況を確認してきます!」

 

「はい! お気をつけて!」

 

「行ってきます!」

 

 冬華は二本の氷輪丸を背負い直し、隊長室を飛び出した。

 

     ◇◆◇

 

 瀞霊廷。

 

「……随分と騒がしくなりましたね」

 

 冬華は屋根の上へ降り立ち、周囲を見渡した。

 

 各所で隊士たちが慌ただしく動いている。

 

 遠くからは、戦闘によるものと思われる霊圧も感じられた。

 

(……一護さんたち、もう戦っているんでしょうか)

 

 冬華は少し考え込む。

 

 原作では、旅禍の侵入をきっかけに瀞霊廷全体が大きく混乱する。

 

 そして、その混乱に乗じて動き出す人物がいる。

 

(……藍染隊長)

 

 冬華の表情が、わずかに引き締まった。

 

 鏡花水月。

 

 五感すべてを支配する、完全催眠の斬魄刀。

 

 その能力を知っているからこそ、冬華は長年にわたって警戒を続けてきた。

 

 完成形の大紅蓮氷輪丸へも、瞬時に移行できるようになった。

 

 だが、それだけで藍染に勝てるとは限らない。

 

(……まずは、慎重に)

 

 そう考えた、その時だった。

 

「――日番谷隊長!!」

 

「……はい?」

 

 背後から声をかけられ、冬華が振り返る。

 

 駆け寄ってきたのは、慌てた様子の隊士だった。

 

「緊急報告です!」

 

「どうしました?」

 

「五番隊隊長、藍染惣右介隊長が……!」

 

「…………!」

 

 冬華の翡翠色の瞳が、わずかに見開かれる。

 

「……藍染隊長が?」

 

「隊舎付近で、遺体となって発見されました!!」

 

「…………」

 

 冬華は数秒ほど黙り込んだ。

 

(……来ましたか)

 

 ついに。

 

 原作で起こった、あの事件が始まった。

 

「……分かりました」

 

 冬華は静かに頷いた。

 

「現場へ案内してください」

 

「はっ!」

 

 冬華は隊士の後を追い、五番隊隊舎へ向かった。

 

     ◇◆◇

 

 五番隊隊舎付近。

 

「……これは」

 

 現場へ到着した冬華は、思わず足を止めた。

 

 周囲には、多くの隊士たちが集まっている。

 

 その視線の先。

 

 高い壁に、一人の男が串刺しにされていた。

 

 五番隊隊長。

 

 藍染惣右介。

 

 胸元から血を流し、壁に固定されたその姿は、誰が見ても凄惨なものだった。

 

 そして。

 

「……藍染、隊長……!」

 

 震える声が聞こえた。

 

「……桃ちゃん」

 

 冬華が視線を向ける。

 

 そこには、雛森桃が立っていた。

 

 顔色は真っ青。

 

 目には涙が浮かび、今にも崩れ落ちそうになっている。

 

「……そんな……」

 

 雛森は、壁に串刺しにされた藍染を見上げていた。

 

「……嘘、ですよね……?」

 

 その声は、ひどく弱々しかった。

 

 冬華は胸が痛むのを感じた。

 

(……桃ちゃん)

 

 幼い頃から、一緒に過ごしてきた大切な友人。

 

 その雛森が、これほど悲しんでいる。

 

 冬華はそっと近づこうとした。

 

 しかし。

 

「……ん?」

 

 ふと、壁へ視線を戻す。

 

 そして、目を瞬かせた。

 

「…………あれ?」

 

 冬華は、もう一度よく見た。

 

 壁に突き刺さっているもの。

 

 確かに、そこには何かがある。

 

 だが。

 

(……あれ?)

 

 冬華は首を傾げた。

 

(……刀、ですよね?)

 

 壁に突き刺さっているのは、一振りの斬魄刀。

 

 少なくとも、冬華の目にはそう見えていた。

 

 血まみれの遺体など、どこにもない。

 

「…………」

 

 冬華はしばらく考え込んだ。

 

(……もしかして)

 

 氷のコンタクトレンズ。

 

 かつて藍染の始解披露会に参加した際、冬華が密かに使用していた対策。

 

 鏡花水月の完全催眠を回避するために考えた方法だった。

 

 その効果が、本当にあったのかどうか。

 

 今まで確かめる機会はなかった。

 

 だが、もし。

 

(……成功、していたんでしょうか?)

 

 冬華は、もう一度壁を見上げた。

 

 やはり、刀しか見えない。

 

 周囲の隊士たちは、藍染の遺体があると信じている。

 

 雛森も、目の前で泣いている。

 

 その光景を見て、冬華は思わず口を開いた。

 

「……あの」

 

「……?」

 

 近くにいた隊士が振り返る。

 

「どうされました、日番谷隊長?」

 

「……えっと」

 

 冬華は壁を指差した。

 

「これ、刀が刺さっているだけですよね?」

 

「…………え?」

 

 隊士が固まった。

 

「……はい?」

 

「ですから」

 

 冬華は不思議そうに首を傾げる。

 

「藍染隊長の遺体なんて、どこにもありませんよ?」

 

「…………」

 

 周囲が、静まり返った。

 

 そして。

 

「――ええええっ!?」

 

 隊士たちの驚愕の声が響き渡った。

 

「な、何をおっしゃっているんですか!?」

 

「藍染隊長が、あそこに……!」

 

「……え?」

 

 冬華は目を瞬かせた。

 

「でも、どう見ても刀ですよ?」

 

「い、いえ! 遺体です!」

 

「……刀ですけど」

 

「遺体です!!」

 

「…………」

 

 冬華は困ったように眉を下げた。

 

(……どうしましょう)

 

 どうやら、自分と周囲では見えているものが違うらしい。

 

 もっとも、その理由には心当たりがある。

 

(……やっぱり、鏡花水月ですね)

 

 冬華は小さく息を吐いた。

 

 しかし。

 

「……冬華、ちゃん?」

 

「……あっ」

 

 その声に、冬華が振り返る。

 

 雛森桃だった。

 

 雛森は、信じられないものを見るような目で冬華を見つめていた。

 

「……今、何て言ったの?」

 

「……桃ちゃん」

 

「藍染隊長が……死んじゃったんだよ……?」

 

「…………」

 

「それなのに……刀だなんて……」

 

 雛森の声が震える。

 

「……どうして、そんなこと言うの……?」

 

「……それは」

 

 冬華は言葉に詰まった。

 

 雛森の目には、確かに藍染の遺体が映っているのだろう。

 

 その状態で、いくら刀だと説明しても、簡単には信じてもらえない。

 

「……桃ちゃん、落ち着いて聞いてください」

 

「……っ!」

 

「私は、本当に刀が刺さっているようにしか見えないんです」

 

「…………!」

 

「だから、藍染隊長はまだ……」

 

「――やめて!!」

 

「……っ!」

 

 雛森の悲痛な叫びが響いた。

 

「もう……やめてよ……!」

 

 涙が、頬を伝う。

 

「藍染隊長は……あんな姿になってるのに……!」

 

「……桃ちゃん」

 

 冬華は悲しそうに眉を下げた。

 

 だが、ここで引き下がるわけにはいかない。

 

 目の前にあるのは、藍染の遺体ではない。

 

 それだけは、確かだった。

 

 その時。

 

「……おや?」

 

 柔らかな声が響いた。

 

「何や、随分と騒がしいことになってますなあ」

 

「…………!」

 

 冬華が振り返る。

 

 そこに立っていたのは、三番隊隊長。

 

 市丸ギンだった。

 

 いつものように細い目を浮かべ、薄く笑っている。

 

「……市丸隊長」

 

「こんにちは、日番谷隊長」

 

 ギンは軽く手を上げた。

 

「何や、面白い話が聞こえてきましたけど」

 

「……面白い話、ですか?」

 

「ええ」

 

 ギンは壁へ視線を向ける。

 

「藍染隊長の遺体が、刀に見えるとか何とか」

 

「……はい」

 

 冬華は頷いた。

 

「私には、刀が刺さっているようにしか見えません」

 

「…………」

 

 ギンの笑みが、ほんのわずかに止まった。

 

 だが、それも一瞬。

 

「……へえ」

 

 すぐに、いつもの笑顔へ戻る。

 

「そら、不思議なこともあるもんですなあ」

 

「……そうですね」

 

 冬華はじっとギンを見つめた。

 

(……市丸隊長)

 

 藍染の計画に協力している人物。

 

 そして、乱菊にとって大切な幼なじみ。

 

 冬華は、その事情をある程度知っている。

 

 だが、今はそれよりも。

 

「…………!」

 

 隣から、凄まじい怒気が伝わってきた。

 

「……桃ちゃん?」

 

 冬華が振り返る。

 

 雛森が、ギンを睨みつけていた。

 

「……市丸、隊長……!」

 

「……ん?」

 

 ギンが首を傾げる。

 

「何ですの、雛森副隊長?」

 

「……あなたが……!」

 

 雛森の手が、斬魄刀の柄へ伸びた。

 

「あなたが……藍染隊長を……!!」

 

「……桃ちゃん!?」

 

 冬華が声を上げる。

 

 しかし、雛森は止まらなかった。

 

「――あなたが殺したんでしょう!!」

 

 ――シャキィン!!

 

 雛森が斬魄刀を抜き放った。

 

 そして、そのままギンへ斬りかかる。

 

「――はあああっ!!」

 

「……っ!」

 

 冬華は即座に動いた。

 

 ――ヒュン!

 

 瞬歩。

 

 一瞬で雛森とギンの間へ割り込む。

 

 そして。

 

 ――キィィン!!

 

「……っ!?」

 

 雛森の斬魄刀が、冬華の氷輪丸によって受け止められた。

 

「――桃ちゃん!!」

 

「……冬華、ちゃん……!?」

 

 雛森が目を見開く。

 

 冬華は真剣な表情で、雛森を見つめた。

 

「落ち着いてください!」

 

「……どうして……!」

 

「こんなところで、隊長へ斬りかかったら駄目です!」

 

「……っ!」

 

 雛森の表情が歪む。

 

「……どうして、邪魔するの……?」

 

「……桃ちゃん」

 

「藍染隊長が……殺されたんだよ……!?」

 

「…………」

 

「なのに……冬華ちゃんは……!」

 

 雛森の瞳から、涙があふれた。

 

「藍染隊長の遺体を刀だなんて言って……!」

 

「……っ」

 

「今度は、市丸隊長まで庇うの……!?」

 

 冬華は、思わず息を呑んだ。

 

(……違うんです)

 

 ギンを庇いたいわけではない。

 

 雛森が取り返しのつかないことをするのを、止めたいだけだ。

 

 だが。

 

 今の雛森には、その言葉が届かない。

 

「……桃ちゃん」

 

 冬華は静かに告げた。

 

「今は、刀を収めてください」

 

「……っ!」

 

「お願いします」

 

「…………!」

 

 雛森は唇を噛み締めた。

 

 そして、冬華の氷輪丸を押し返そうとする。

 

 しかし。

 

「……っ、く……!」

 

 動かない。

 

 冬華の刀は、まるで巨大な岩のようにびくともしなかった。

 

「……桃ちゃん」

 

 冬華はそっと雛森の斬魄刀を押し下げる。

 

 力の差は、あまりにも大きかった。

 

「……今は、落ち着きましょう」

 

「…………っ!」

 

 雛森の手から、力が抜けた。

 

 冬華はゆっくりと氷輪丸を引く。

 

 その直後。

 

「――雛森!!」

 

「……!」

 

 駆けつけたのは、三番隊副隊長の吉良イヅルだった。

 

「何をしているんだ!?」

 

「……吉良、君……」

 

 吉良は雛森と冬華、そしてギンを見比べる。

 

 抜き放たれた斬魄刀。

 

 周囲の騒然とした様子。

 

 何が起こったのか、すぐに理解したらしい。

 

「……雛森」

 

 吉良は険しい表情になった。

 

「隊長に斬りかかるなんて、正気か!?」

 

「……だって……!」

 

「だってじゃない!」

 

「……っ!」

 

 雛森は俯いた。

 

 冬華は小さく息を吐く。

 

「……吉良さん」

 

「……日番谷隊長!」

 

「桃ちゃんは、今とても混乱しています。少し休ませてあげてください」

 

「……はい」

 

 吉良は頷いた。

 

 そして、雛森へ視線を向ける。

 

「……行こう、雛森」

 

「…………」

 

 雛森は答えなかった。

 

 ただ、冬華を一度だけ見つめる。

 

 その瞳には、悲しみと困惑が入り混じっていた。

 

「……冬華ちゃん」

 

「……はい」

 

「……私、分からないよ……」

 

「…………」

 

「冬華ちゃんが、何を考えてるのか……」

 

 その言葉に、冬華の胸が小さく痛んだ。

 

「……桃ちゃん」

 

 だが、雛森はそれ以上何も言わなかった。

 

 吉良に付き添われ、その場を離れていく。

 

 冬華は、二人の背中を静かに見送った。

 

     ◇◆◇

 

「……いやあ」

 

「……?」

 

 背後から声がした。

 

 冬華が振り返ると、ギンがいつもの笑みを浮かべていた。

 

「助かりましたわ、日番谷隊長」

 

「……いえ」

 

 冬華は氷輪丸を鞘へ収めた。

 

「桃ちゃんを止めただけですから」

 

「それでも、助けてもろたことには変わりませんやろ?」

 

「……そうですね」

 

 冬華は少し考えてから、ギンを見上げた。

 

「……市丸隊長」

 

「はい?」

 

「一つ、聞いてもいいですか?」

 

「何ですの?」

 

「……藍染隊長、本当に亡くなったと思いますか?」

 

「…………」

 

 ギンの笑みが、わずかに深くなった。

 

「……何で、そないなこと聞くんです?」

 

「……だって」

 

 冬華は壁を見上げる。

 

「私には、刀しか見えませんから」

 

「…………」

 

 ギンは何も答えなかった。

 

 ただ、細い目をさらに細める。

 

「……なるほどなあ」

 

「……?」

 

「いや、何でもあらへんよ」

 

 ギンは軽く手を振った。

 

「ほな、ボクはこれで」

 

「……はい」

 

「また会いましょ、日番谷隊長」

 

 そう言い残し、ギンはゆっくりと歩き出した。

 

 冬華は、その背中を見送る。

 

(……さて)

 

 藍染の偽装死。

 

 そして、鏡花水月の完全催眠。

 

 少なくとも、自分には通用していないらしい。

 

(……これは、大きな収穫ですね)

 

 冬華は小さく頷いた。

 

 だが、同時に。

 

(……桃ちゃんには、嫌われちゃったかもしれません)

 

 少しだけ、肩を落とす。

 

「……はあ」

 

 思わずため息がこぼれた。

 

 それでも。

 

 雛森を傷つけずに済んだ。

 

 今は、それでよしとするしかない。

 

「……よし!」

 

 冬華は気持ちを切り替えた。

 

「まずは、松本さんに報告ですね!」

 

 そう呟き、十番隊隊舎へ向かって歩き出した。

 

     ◇◆◇

 

 一方。

 

 五番隊隊舎から少し離れた廊下。

 

「…………」

 

 市丸ギンは、一人で歩いていた。

 

 いつもの笑みを浮かべたまま。

 

 しかし、その足取りは、普段よりも少しだけ遅い。

 

(……刀にしか見えへん、か)

 

 先ほどの冬華の言葉が、頭から離れなかった。

 

 藍染惣右介。

 

 その斬魄刀、鏡花水月。

 

 完全催眠。

 

 一度始解を見た者は、五感すべてを支配される。

 

 そして、日番谷冬華は。

 

 確かに、藍染の始解披露会に参加していた。

 

(……おかしいなあ)

 

 ギンは、ゆっくりと目を細めた。

 

 冬華は、あの場で何を見ていたのか。

 

 なぜ、完全催眠が通じていないのか。

 

 そもそも、どこまで知っているのか。

 

 分からない。

 

 ただ一つ、確かなことがある。

 

 藍染の計画に、予想外の存在が現れた。

 

 それも、護廷十三隊の隊長格。

 

 山本総隊長との模擬戦で、流刃若火を相手に渡り合ったほどの実力者。

 

 そんな人物が、鏡花水月の完全催眠を見破っている。

 

「…………」

 

 ギンは、ふと足を止めた。

 

 そして。

 

「……どないしよ」

 

 ぽつりと呟いた。

 

――第24話『旅禍侵入』・完。




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BLEACHの世界に転生した俺は、初代剣八になるらしい(作者:まいちー)(原作:BLEACH)

刀を愛しながら、本物の刀を振るうことなく死んだ男。▼平安の世に女――卯ノ花清子として転生し、再び生涯を終えた彼が次に目覚めたのは、尸魂界だった。▼そして気づく。▼自分は後に、初代剣八――卯ノ花八千流となる存在なのだと。▼原作の卯ノ花を超えるため、清子は一本の錆びた刀を手に剣を学び始める。▼やがて彼女は、天下にあるあらゆる剣術を求めて歩き出す。▼これは、一人の…


総合評価:3083/評価:8.07/完結:54話/更新日時:2026年10月07日(水) 21:05 小説情報

『2度目の鴉は死神として生きる』(作者:時泥棒)(原作:BLEACH)

弟にすべてを託し忍としての生涯を終えた男▼"うちは イタチ”▼死を受け入れたはずの彼が次に目を覚ました場所は木ノ葉でも、忍の世界でもなかった。▼そこは死した魂たちが暮らす世界――尸魂界。▼病は消え、身体は幼くなりながらも前世の記憶と写輪眼を残したままイタチは二度目の生を歩み始める。▼やがて死神という存在を知った彼はかつての忍としての人生にはなかった…


総合評価:948/評価:8.06/連載:9話/更新日時:2026年10月29日(木) 19:01 小説情報

BLEACHの世界に転生したけど何故かステータス画面があるんだが(作者:最強主人公2)(原作:BLEACH)

気づいたら『BLEACH』の世界に転生していた主人公。▼しかも、目を開けると何故かステータス画面が表示されていた!▼「ステータスがざこすぎる!」▼原作知識とステータスを頼りに、斬魄刀も持っていない状態から少しずつ強くなっていく。▼果たして朔は、この世界でどこまで強くなれるのか。▼これは、そんな少年の成長物語。


総合評価:743/評価:6.85/連載:17話/更新日時:2026年10月26日(月) 21:36 小説情報

その菊、手折られず(作者:もちがゆ)(原作:BLEACH)

もしも、少女乱菊さんがヨン様の部下に魂魄を奪われなかったら……という妄想を元に、原作知識まで持たせて大暴れしてもらい、遂には卍解に至……ったらいいなぁという内容。▼憑依と言うか人格混ざっちゃって本来の乱菊さんとはかけ離れてます。


総合評価:2671/評価:8.68/連載:28話/更新日時:2026年09月14日(月) 19:26 小説情報

TS憑依ゼンゼ(作者:TS好き)(原作:葬送のフリーレン)

幼少期のゼンゼに憑依した。▼とりあえず、死なないように頑張ろう。


総合評価:1927/評価:8.02/連載:15話/更新日時:2026年08月22日(土) 20:13 小説情報


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