日番谷に転生した   作:使い手なない

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第3話「出会い」

 

 尸魂界、西流魂街一区――潤林安。

 

 雛森桃が真央霊術院へ旅立ってから、六年あまりが経過した。

 

 桃は無事に霊術院を卒業し、護廷十三隊の五番隊へ入隊したという。

 

 そして、潤林安に残った一人の少女もまた、着実に成長していた。

 

「……よし!」

 

 朝の庭先。

 

 銀白色の髪を揺らしながら、日番谷冬華が木刀を振り下ろした。

 

 振り上げ、振り下ろす。

 

 足を踏み込み、再び振るう。

 

(……うん。少しは様になってきましたね)

 

 冬華は満足そうに頷いた。

 

 剣術の練習を始めたのは、数年前のことだ。

 

 いずれ斬魄刀を扱うことになるのだから、今のうちから慣れておこうと思ったのである。

 

 もっとも、正式に剣術を教わった経験はない。

 

 町で見かけた剣の稽古を参考にしたり、自分なりに足運びを工夫したり。

 

 あくまで見よう見まねだ。

 

(本格的な斬術は、霊術院で教わりましょう)

 

 木刀を置き、冬華は軽く身体をほぐした。

 

 続いて、足元へ霊力を集中させる。

 

(……次は、こっちですね)

 

 瞬歩。

 

 死神が使用する高速移動技術。

 

 原作知識から存在は知っているものの、具体的な方法までは分からない。

 

 それでも、何年も試行錯誤を続けた結果――。

 

「……えいっ!」

 

 タンッ!

 

 地面を蹴った冬華の身体が、一瞬で数メートル先へ移動した。

 

「……っとと!」

 

 勢いを殺しきれず、数歩よろめく。

 

「むぅ……。やっぱり止まるのが難しいですね」

 

 冬華は小さく頬を膨らませた。

 

 瞬間的な加速には成功している。

 

 けれど、原作で見た瞬歩には遠く及ばない。

 

(まあ、独学ですし。これからですよね!)

 

 気を取り直し、今度は自分の身体を覆う霊圧へ意識を向ける。

 

 二十層。

 

 極薄の霊圧膜が、幾重にも重なっていた。

 

 以前は五層が限界だったが、長年の修行でここまで増やすことができた。

 

 とはいえ、全てを完全に独立制御するには、まだ集中が必要だ。

 

(目標の百層までは、あと八十層……)

 

 先は長い。

 

「……ふふっ」

 

 それでも、冬華は楽しそうに微笑んだ。

 

 努力した分だけ、少しずつ成長できる。

 

 それが嬉しかった。

 

「冬華ー! 朝ご飯だよー!」

 

「あっ、はーい!」

 

 おばあちゃんの声に返事をして、冬華は家へ駆け込んだ。

 

     ◇◆◇

 

「それじゃあ、おばあちゃん! 行ってきます!」

 

「ああ。気をつけるんだよ」

 

「はい!」

 

 朝食を終えた冬華は、元気よく家を出た。

 

 今日は瀞霊廷の近くまで足を運ぶ予定だ。

 

 真央霊術院の入学試験について、詳しい案内を確認するためである。

 

(桃ちゃんも、もう立派な死神なんですよね……)

 

 幼い頃から一緒に過ごした友達。

 

 今では五番隊の隊士として働いている。

 

(私も、早く追いつきたいですね)

 

 そんなことを考えながら歩いていると――。

 

「あら?」

 

 不意に、女性の声が聞こえた。

 

「ちょっと、そこの可愛い子!」

 

「……はい?」

 

 振り返った冬華は、思わず目を丸くした。

 

 そこに立っていたのは、長い金髪を持つ、華やかな雰囲気の女性だった。

 

 死覇装を身に纏い、腰には斬魄刀。

 

 そして、何より目を引くのは――。

 

(……松本乱菊さん!?)

 

 冬華は内心で驚いた。

 

 護廷十三隊十番隊副隊長。

 

 松本乱菊。

 

 原作で何度も見た人物が、目の前に立っていた。

 

「ねえ、あなた。この辺りの子?」

 

「あっ、はい! 潤林安に住んでいます!」

 

「そうなのね。ふふっ、可愛いわねえ」

 

 乱菊はにこにこと笑いながら、冬華の顔を覗き込んだ。

 

「綺麗な髪。それに、翡翠色の瞳も素敵ね」

 

「えへへ……ありがとうございます!」

 

 素直に褒められ、冬華は嬉しそうに微笑んだ。

 

「あら、笑った顔も可愛い!」

 

「そ、そんなに褒められると照れちゃいます……!」

 

「ふふふっ!」

 

 乱菊は楽しそうに笑った。

 

 そして、ふと表情を変える。

 

「……ところで、あなた」

 

「はい?」

 

「ずいぶん変わったことをしているわね?」

 

 冬華は首を傾げた。

 

「変わったこと、ですか?」

 

「ええ。身体の周りに霊圧を纏っているでしょう?」

 

「……!」

 

 冬華の翡翠色の瞳が、大きく開かれた。

 

(……気づかれました!)

 

 乱菊は興味深そうに冬華を見つめている。

 

「しかも、ただ纏っているだけじゃないわね。何層にも分けているの?」

 

「は、はい。今は二十層です」

 

「……二十?」

 

 乱菊が目を瞬かせた。

 

「ちょっと待って。二十層って、全部別々に制御しているの?」

 

「まだ完璧ではありませんけど……一応、独立して動かせるように練習しています」

 

「…………」

 

 乱菊はしばらく黙り込んだ。

 

 そして。

 

「……あなた、何者?」

 

「えっ?」

 

「その年で、そんな霊圧制御ができるなんて……」

 

 乱菊は改めて冬華を見つめた。

 

 小柄で華奢な身体。

 

 可愛らしい顔立ち。

 

 しかし、その内側には相当な霊力が秘められている。

 

 しかも、それを無駄に漏らさないよう、精密に制御していた。

 

「……すごいわね、あなた」

 

「そ、そうでしょうか?」

 

「そうよ! 普通、そんなことできないわよ?」

 

「えへへ……毎日練習していたので!」

 

 冬華は照れくさそうに笑った。

 

 乱菊は思わず頬を緩める。

 

(……この子、相当な逸材じゃない)

 

 単に霊力が大きいだけではない。

 

 それを扱うための努力も積み重ねている。

 

 何より、本人がそれを特別なことだと思っていないらしい。

 

「ねえ、あなた。名前は?」

 

「日番谷冬華です!」

 

「冬華ちゃんね。私は松本乱菊。護廷十三隊の十番隊で副隊長をしているの」

 

「松本さんですね! よろしくお願いします!」

 

「ふふっ。よろしくね!」

 

 乱菊は笑顔で頷いた。

 

「ところで冬華ちゃん、死神になる気はない?」

 

「……え?」

 

「あなたなら、きっと立派な死神になれると思うのよ」

 

 その言葉に、冬華はぱっと顔を輝かせた。

 

「実は私、真央霊術院に入ろうと思っているんです!」

 

「あら、そうなの!?」

 

「はい! 今日は入学試験の案内を確認しに行くところで!」

 

「まあ、なんて偶然!」

 

 乱菊は嬉しそうに手を叩いた。

 

「それなら、ちょうどいいわね!」

 

「ちょうどいい、ですか?」

 

「ええ! 私も瀞霊廷へ戻るところなの。一緒に行きましょう!」

 

「いいんですか!?」

 

「もちろんよ!」

 

 乱菊は冬華の頭を優しく撫でた。

 

「それに、こんな可愛い子を一人で歩かせるのも心配だもの」

 

「えへへ……ありがとうございます!」

 

 冬華は嬉しそうに笑った。

 

(……まさか、こんなところで松本さんに会えるなんて)

 

 原作では、日番谷冬獅郎に死神になることを勧めた人物。

 

 その松本乱菊と、こうして出会うことになるとは。

 

(……なんだか、不思議ですね)

 

 冬華は小さく微笑んだ。

 

     ◇◆◇

 

「へえ。じゃあ、冬華ちゃんはおばあちゃんと二人暮らしなのね」

 

「はい! とっても優しいおばあちゃんなんです!」

 

「ふふっ。大好きなのね」

 

「もちろんです!」

 

 瀞霊廷へ向かう道中。

 

 冬華と乱菊は、すっかり打ち解けていた。

 

「そういえば、冬華ちゃん。霊圧を使って何かできたりするの?」

 

「何か、ですか?」

 

「ええ。さっきの霊圧制御以外にも」

 

「……あっ!」

 

 冬華は何かを思いついたように、両手を胸の前へ差し出した。

 

「ちょっと見ていてください!」

 

「ん?」

 

 掌の上に、淡い光が集まる。

 

 光はゆっくりと形を変え――。

 

 やがて、小さな花となった。

 

 五枚の花びら。

 

 繊細に形作られた、淡く輝く霊圧の花。

 

「……わあ!」

 

 乱菊が目を輝かせた。

 

「なにこれ! すっごく綺麗!」

 

「えへへ……!」

 

「これも霊圧で作っているの?」

 

「はい! 私、お花が好きなので!」

 

「へえ……!」

 

 乱菊は興味深そうに花を覗き込んだ。

 

「こんなに細かい形まで作れるなんて……本当に器用なのね」

 

「ありがとうございます!」

 

 冬華は嬉しそうに微笑んだ。

 

「よかったら、松本さんにプレゼントします!」

 

「えっ、いいの?」

 

「はい!」

 

「嬉しい!」

 

 乱菊は楽しそうに笑った。

 

 冬華の掌から、小さな花がふわりと浮かび上がる。

 

 そして、乱菊の目の前で静かに揺れた。

 

「ふふっ。ありがとう、冬華ちゃん」

 

「どういたしまして!」

 

 もっとも、霊圧の花は長く残るものではない。

 

 しばらくすると、光の粒となって消えてしまった。

 

「あら、消えちゃった」

 

「すみません。まだ長くは維持できなくて……」

 

「いいのよ。とっても綺麗だったわ!」

 

 乱菊は冬華の頭を撫でた。

 

「あなた、きっと素敵な死神になるわね」

 

「……!」

 

 冬華は少し驚いたように乱菊を見上げた。

 

 そして、嬉しそうに微笑んだ。

 

「はい! 頑張ります!」

 

     ◇◆◇

 

 それからしばらくして。

 

 真央霊術院の入学試験当日。

 

「……よし!」

 

 冬華は試験会場の前で、小さく拳を握った。

 

(落ち着いて、いつもどおりに……)

 

 周囲には、同じように死神を目指す志願者たちが集まっている。

 

 緊張した表情の者。

 

 自信満々に胸を張る者。

 

 その中で、冬華は静かに順番を待っていた。

 

「次、日番谷冬華!」

 

「はい!」

 

 名前を呼ばれ、元気よく返事をする。

 

 まず行われたのは、霊力の測定だった。

 

「では、こちらへ霊力を流してください」

 

「分かりました!」

 

 試験官の指示に従い、冬華は測定用の器具へ手を添えた。

 

 そして、霊力を流し込む。

 

 次の瞬間。

 

「……っ!?」

 

 試験官が目を見開いた。

 

 測定器具が、強い光を放ったのだ。

 

「こ、これは……!」

 

 周囲の試験官たちも、思わず顔を見合わせる。

 

「……何か問題がありましたか?」

 

 冬華が不安そうに尋ねた。

 

「い、いや……問題はない」

 

 試験官は咳払いをした。

 

「むしろ、非常に優秀だ。これほどの霊力を持つ志願者は珍しい」

 

「……本当ですか!?」

 

「ああ。それに、霊力の流し方も驚くほど安定している」

 

「えへへ……ありがとうございます!」

 

 冬華は嬉しそうに微笑んだ。

 

 続く基礎的な適性確認でも、冬華は落ち着いて課題をこなしていった。

 

 もちろん、正式な斬術や鬼道はまだ習っていない。

 

 それでも、長年積み重ねてきた基礎体力と霊圧制御は、確かな成果となって現れていた。

 

 そして――。

 

「日番谷冬華。合格だ」

 

「……!」

 

 冬華の顔が、ぱっと明るくなった。

 

「ありがとうございます!」

 

 深々と頭を下げる。

 

 こうして。

 

 日番谷冬華は、真央霊術院への入学を認められたのだった。

 

     ◇◆◇

 

「おばあちゃん!」

 

 その日の夕方。

 

 冬華は勢いよく家の戸を開けた。

 

「おや、冬華。おかえり」

 

「ただいまです!」

 

 冬華は満面の笑みを浮かべた。

 

「合格しました!」

 

「……おやまあ!」

 

 おばあちゃんの顔が、嬉しそうに綻んだ。

 

「そうかい、そうかい。よかったねえ」

 

「はい!」

 

 冬華は元気よく頷いた。

 

「これで、桃ちゃんと同じ死神を目指せます!」

 

「ふふふ。頑張った甲斐があったねえ」

 

「えへへ……!」

 

 おばあちゃんは冬華の頭を優しく撫でた。

 

 その温かな手に、冬華は幸せそうに目を細める。

 

 やがて、窓の外へ視線を向けた。

 

 夕日に染まる潤林安。

 

 生まれてからずっと暮らしてきた、大切な町。

 

(……いよいよですね)

 

 真央霊術院。

 

 死神になるための第一歩。

 

 そこには、きっと新しい出会いが待っている。

 

 そして、いつか。

 

 大切な人たちを守れるほど、強くなりたい。

 

「……頑張りますよ!」

 

 冬華は小さく拳を握った。

 

 銀白色の髪が、夕暮れの風にふわりと揺れる。

 

 花のように優しく、氷のように強い。

 

 そんな死神を目指す少女の、新しい日々が始まろうとしていた。

 

 ――第3話「出会い」・完。




【あとがき】

第3話をお読みいただき、ありがとうございます!

今回は松本乱菊との出会いと、真央霊術院への入学を描きました!

長年の修行の成果もあり、冬華は順調に成長していますね!

次回からはいよいよ真央霊術院編!
新たな仲間との出会いや、斬魄刀との物語が始まります!

引き続きよろしくお願いします!
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