日番谷に転生した   作:使い手なない

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第31話「現世先遣隊」

 

 瀞霊廷、十番隊隊舎。

 

「――よし!」

 

 日番谷冬華は、机の上に置かれた書類を確認すると、満足そうに頷いた。

 

 現世への先遣隊派遣。

 

 山本元柳斎重國から正式な命令を受けてから、数日。

 

 ようやく出発の準備が整ったのだ。

 

「松本さん! 準備はできましたか?」

 

「もちろんよぉ!」

 

 元気な返事が返ってくる。

 

 冬華が振り返ると、そこには大きな荷物を抱えた松本乱菊が立っていた。

 

「…………」

 

「ん? どうしたの、冬華ちゃん?」

 

「……松本さん」

 

「なぁに?」

 

「その荷物、何ですか?」

 

「え? 着替えとか、お化粧道具とか、色々よ?」

 

「……任務ですよね?」

 

「もちろん!」

 

「……旅行じゃないんですよ?」

 

「分かってるわよぉ!」

 

 乱菊は楽しそうに笑った。

 

「でも、せっかく現世に行くんだもの! 色々楽しみたいじゃない!」

 

「……まったく」

 

 冬華は呆れたようにため息をついた。

 

 けれど、その口元には小さな笑みが浮かんでいた。

 

 久しぶりの現世。

 

 そして、久しぶりに会える友人たち。

 

 冬華自身も、少しだけ楽しみにしていたのだから。

 

「……さて!」

 

 冬華は背中の二本の氷輪丸を確認する。

 

「それでは、行きましょう!」

 

「はーい!」

 

 こうして、護廷十三隊の現世先遣隊が動き始めた。

 

     ◇

 

 現世、空座町。

 

「――到着です!」

 

 穿界門を抜けた冬華は、軽やかに地面へ降り立った。

 

 銀白色の髪が、ふわりと揺れる。

 

 その後ろから、乱菊たちも次々と姿を現した。

 

「いやぁ、久しぶりの現世ねぇ!」

 

 乱菊が大きく伸びをする。

 

「相変わらず賑やかなところだわ!」

 

「……観光に来たんじゃねえぞ」

 

 呆れた声を上げたのは、阿散井恋次だった。

 

「分かってるわよぉ」

 

「絶対分かってねえだろ……」

 

「まあまあ!」

 

 冬華は二人の間に入って微笑んだ。

 

「まずは、皆さんの行動を確認しましょう!」

 

 今回の先遣隊は六名。

 

 十番隊隊長、日番谷冬華。

 

 同副隊長、松本乱菊。

 

 六番隊副隊長、阿散井恋次。

 

 十三番隊所属、朽木ルキア。

 

 十一番隊第三席、斑目一角。

 

 同第五席、綾瀬川弓親。

 

 いずれも実力のある死神たちだ。

 

「今回の任務は、破面の動向調査と現世の防衛です」

 

 冬華は全員を見渡した。

 

「敵の能力は未知数です。単独での無理な交戦は避け、異常があればすぐに連絡してください」

 

「了解した」

 

 ルキアが頷く。

 

「ま、敵が出てきたらぶっ倒しゃいいんだろ?」

 

 一角が不敵に笑った。

 

「一角さん!」

 

「分かってるって!」

 

 冬華は頬を膨らませる。

 

「もう……!」

 

「ふふっ。相変わらず可愛い隊長さんだね」

 

 弓親が楽しそうに微笑んだ。

 

「か、可愛いは関係ありません!」

 

 冬華の頬が少し赤くなる。

 

 そんな様子を見て、乱菊がくすくすと笑った。

 

「さて、冬華ちゃん!」

 

「はい?」

 

「まずは黒崎君のところに行くんでしょ?」

 

「はい!」

 

 冬華は嬉しそうに頷いた。

 

「一護さんたちの無事も確認したいですから!」

 

     ◇

 

 空座町、黒崎医院。

 

「――一護さーん!」

 

「……ん?」

 

 玄関先で聞き覚えのある声が響いた。

 

 黒崎一護が顔を出すと、そこには見覚えのある銀白色の髪の少女が立っていた。

 

 黒い死覇装。

 

 白い隊長羽織。

 

 そして、背中に二本の氷輪丸。

 

「……え?」

 

 一護は目を丸くした。

 

「……冬華姉ちゃん!?」

 

「はい!」

 

 冬華はぱっと笑顔になった。

 

「お久しぶりです、一護さん!」

 

「お、おう! 久しぶり!」

 

 一護は驚きながらも笑みを浮かべた。

 

「なんでここにいるんだよ!?」

 

「現世への派遣任務です!」

 

「派遣任務?」

 

「はい! 私が先遣隊の指揮を任されまして!」

 

「……マジかよ」

 

 一護は冬華の後ろを見た。

 

 乱菊。

 

 恋次。

 

 ルキア。

 

 一角。

 

 弓親。

 

「……ずいぶん大所帯だな」

 

「それだけ、今回の敵が危険ということです」

 

 冬華の表情が少し真剣になる。

 

「……一護さん」

 

「ん?」

 

「先日、破面と戦ったと聞きました」

 

「……ああ」

 

 一護は表情を引き締めた。

 

「とんでもねえ奴らだった」

 

「……怪我はありませんか?」

 

「もう大丈夫だ」

 

「……本当ですか?」

 

 冬華がじっと顔を覗き込む。

 

「……ほ、本当だって!」

 

「……なら、よかったです!」

 

 冬華は安心したように微笑んだ。

 

 その様子に、一護も少しだけ表情を緩める。

 

「……相変わらずだな、冬華姉ちゃん」

 

「……?」

 

「いや、何でもねえ」

 

 そう言って、一護は小さく笑った。

 

「それにしても、親父がいなくてよかったかもな」

 

「……一心さんですか?」

 

「ああ。今、往診に出てるんだ」

 

「そうなんですね」

 

 冬華は小さく頷いた。

 

 かつての十番隊隊長。

 

 志波一心。

 

 今は黒崎一心として、この現世で暮らしている。

 

 そのことは、冬華も以前から知っていた。

 

「……また、ゆっくりご挨拶したいですね」

 

「……ん?」

 

「いえ、何でもありません!」

 

 冬華はにっこりと微笑んだ。

 

「それより、一護さん!」

 

「なんだ?」

 

「しばらく現世に滞在しますので、よろしくお願いしますね!」

 

「……おう!」

 

     ◇

 

 それから、先遣隊はそれぞれの滞在先を探すことになった。

 

 そして。

 

「――井上さん!」

 

「……あれ?」

 

 夕方。

 

 自宅へ戻ってきた井上織姫は、玄関前に立つ二人の女性を見つけて目を丸くした。

 

「松本さん!?」

 

「やっほー、織姫!」

 

「それに……!」

 

 織姫の視線が、乱菊の隣へ向けられる。

 

 銀白色の髪。

 

 翡翠色の瞳。

 

 白い隊長羽織をまとった、小柄な美少女。

 

「……日番谷隊長!?」

 

「お久しぶりです、井上さん!」

 

 冬華はにっこりと微笑んだ。

 

「お元気でしたか?」

 

「は、はい!」

 

 織姫は嬉しそうに頷いた。

 

「日番谷隊長も、お元気そうでよかったです!」

 

「ありがとうございます!」

 

 冬華は嬉しそうに笑った。

 

 すると、乱菊が織姫の肩へ手を回した。

 

「ねえねえ、織姫!」

 

「はい?」

 

「お願いがあるんだけどぉ……」

 

「お願い、ですか?」

 

「私たち、しばらく現世に滞在することになったのよ」

 

「はい!」

 

「それでね……」

 

 乱菊はにっこりと微笑んだ。

 

「――泊めてくれない?」

 

「……えっ?」

 

 織姫は一瞬、きょとんとした。

 

 そして。

 

「もちろんです!」

 

「やったぁ!」

 

「……ええっ!?」

 

 冬華が思わず声を上げた。

 

「い、井上さん! 本当にいいんですか!?」

 

「はい!」

 

 織姫は満面の笑みを浮かべた。

 

「お二人なら大歓迎です!」

 

「……ありがとうございます!」

 

 冬華は深々と頭を下げた。

 

「ご迷惑をおかけしないようにしますね!」

 

「そんな、迷惑だなんて!」

 

 織姫は慌てて首を振った。

 

「むしろ嬉しいです!」

 

 そして、冬華の顔をじっと見つめる。

 

「……それにしても」

 

「……はい?」

 

「日番谷隊長って、本当に可愛いですねぇ……!」

 

「……えっ!?」

 

 冬華の頬が、ぽっと赤くなった。

 

「い、いきなり何ですか!?」

 

「だって、すっごく綺麗な髪ですし! 目も宝石みたいで!」

 

「そ、そんな……!」

 

「ねえ、松本さん!」

 

「でしょー?」

 

 乱菊が得意げに頷いた。

 

「うちの隊長、すっごく可愛いのよ!」

 

「松本さんまで!?」

 

 冬華は真っ赤になって抗議した。

 

 しかし、二人は楽しそうに笑っている。

 

「……もう!」

 

 冬華は頬を膨らませた。

 

「二人とも、からかわないでください!」

 

「からかってないわよぉ!」

 

「本当ですよ!」

 

「……うぅ」

 

 冬華は恥ずかしそうに俯いた。

 

 そんな様子を見て、織姫はますます嬉しそうに微笑んだ。

 

     ◇

 

 夜。

 

 井上家の食卓には、三人分の夕食が並んでいた。

 

「――いただきます!」

 

 冬華は元気よく手を合わせた。

 

「はい! どうぞどうぞ!」

 

 織姫が嬉しそうに笑う。

 

 冬華は箸を手に取り、目の前の料理へ視線を向けた。

 

「……これは?」

 

「特製あんこクリームシチューです!」

 

「…………」

 

 冬華の動きが止まった。

 

「……あんこ?」

 

「はい!」

 

「……シチューに?」

 

「はい!」

 

 織姫は満面の笑みで頷いた。

 

「甘さとまろやかさが絶妙なんですよ!」

 

「……そ、そうなんですね」

 

 冬華は料理を見つめた。

 

 隣では乱菊が楽しそうに笑っている。

 

「ほらほら、冬華ちゃん! 食べてみなさいよ!」

 

「……松本さんも食べてくださいね?」

 

「もちろんよ!」

 

 冬華は小さく息を吸った。

 

 そして。

 

「……いただきます!」

 

 ぱくり。

 

「…………」

 

 もぐもぐ。

 

「……あれ?」

 

 冬華は目を瞬かせた。

 

「……意外と、おいしいです!」

 

「本当ですか!?」

 

 織姫の顔がぱっと明るくなる。

 

「はい!」

 

 冬華は嬉しそうに頷いた。

 

「不思議な味ですけど、甘くておいしいですね!」

 

「やったぁ!」

 

 織姫が両手を上げて喜ぶ。

 

「冬華ちゃん、優しいわねぇ」

 

「……松本さん?」

 

「何でもないわよぉ!」

 

 三人の笑い声が、部屋に響いた。

 

 久しぶりの現世。

 

 久しぶりの友人たちとの交流。

 

 そして、温かな食卓。

 

 冬華は、心から楽しいと思っていた。

 

 藍染との戦いを終えてから、ずっと修行ばかりの日々だった。

 

 こうして誰かと笑い合う時間も、やはり大切なのだ。

 

「……井上さん」

 

「はい?」

 

「泊めていただいて、本当にありがとうございます!」

 

 冬華は柔らかく微笑んだ。

 

「こちらこそです!」

 

 織姫も嬉しそうに笑った。

 

「また明日も、色々お話ししましょうね!」

 

「はい!」

 

 冬華は元気よく頷いた。

 

 ――そのときだった。

 

     ◇

 

「――っ!?」

 

 冬華の表情が、一瞬にして変わった。

 

 翡翠色の瞳が鋭くなる。

 

「……冬華ちゃん?」

 

 乱菊も異変に気づいた。

 

 次の瞬間。

 

 ――ズンッ!

 

 空座町の各地に、複数の強大な霊圧が出現した。

 

「……これは!」

 

 織姫が息を呑む。

 

「……破面!」

 

 冬華は即座に立ち上がった。

 

「松本さん!」

 

「ええ!」

 

 乱菊も真剣な表情で頷く。

 

「皆さんにも連絡を!」

 

「了解!」

 

 冬華は背中の二本の氷輪丸へ手を伸ばした。

 

「井上さん!」

 

「は、はい!」

 

「ここから動かないでください! 私たちが対処します!」

 

「……分かりました!」

 

 織姫が頷く。

 

 冬華は小さく微笑んだ。

 

「大丈夫です!」

 

 そして。

 

「――行きましょう!」

 

 二人は夜の空座町へ飛び出した。

 

     ◇

 

 空座町、上空。

 

 冬華は瞬歩で建物の屋根を駆け抜けていた。

 

 隣には乱菊。

 

「……冬華ちゃん!」

 

「はい!」

 

「敵の霊圧、かなり強いわ!」

 

「……分かっています!」

 

 冬華は周囲の霊圧を探った。

 

 複数の破面。

 

 それぞれが異なる場所へ移動している。

 

「松本さん!」

 

「なに!?」

 

「各隊員に連絡してください! 無理な交戦は避けるようにと!」

 

「了解!」

 

 乱菊が伝令を送る。

 

 その直後。

 

「――ほう」

 

 頭上から声が響いた。

 

「死神か」

 

「……!」

 

 冬華は足を止めた。

 

 夜空に、一人の男が立っていた。

 

 仮面の残骸を持つ、長身の破面。

 

 シャウロン・クーファン。

 

「……隊長格、か」

 

 シャウロンが冬華の羽織を見つめる。

 

「これは面白い」

 

「……松本さん」

 

 冬華は静かに口を開いた。

 

「先に行ってください」

 

「……冬華ちゃん?」

 

「ここは私が引き受けます」

 

「……分かったわ!」

 

 乱菊は頷いた。

 

「気をつけてね!」

 

「はい!」

 

 乱菊が瞬歩で離れていく。

 

 シャウロンは、その背中を見送った。

 

「……逃がしてよかったのか?」

 

「……問題ありません」

 

 冬華は背中の氷輪丸へ手を伸ばした。

 

「あなたの相手は、私ですから」

 

「……ふっ」

 

 シャウロンが笑う。

 

「随分と自信があるようだな」

 

「……そう見えますか?」

 

「隊長とはいえ、現世では力を制限されているはずだ」

 

「……よくご存じですね」

 

 冬華は静かに二本の氷輪丸を抜き放った。

 

「ですが」

 

 翡翠色の瞳が、鋭く細められる。

 

「――それだけで勝敗が決まるわけではありませんよ」

 

     ◇

 

 ――キィィン!

 

 夜空に、鋭い金属音が響いた。

 

 シャウロンの斬撃を、冬華は右手の氷輪丸で受け流す。

 

 そして、左手の刀を振るった。

 

「……っ!」

 

 シャウロンが素早く身を引く。

 

 刃が、その胸元をかすめた。

 

「……ほう!」

 

 シャウロンが目を細める。

 

「なかなか速いな」

 

「……ありがとうございます!」

 

 冬華は小さく微笑んだ。

 

 しかし、その足は止まらない。

 

 ――シュンッ!

 

 瞬歩。

 

 一瞬でシャウロンの側面へ回り込む。

 

「……!」

 

 右手の斬撃。

 

 それを防がせた瞬間、左手の刀が別の角度から迫る。

 

 ――キィン!

 

 シャウロンが辛うじて受け止める。

 

「……二刀流か!」

 

「はい!」

 

 冬華は軽やかに身体を回転させた。

 

 連続する斬撃。

 

 右。

 

 左。

 

 そして、再び右。

 

 シャウロンは次々と迫る刃を防ぎながら、少しずつ後退していった。

 

(……妙だ)

 

 シャウロンは眉をひそめる。

 

 霊圧そのものは、想定していた隊長格ほどではない。

 

 しかし。

 

(……動きが読めん!)

 

 斬撃の角度。

 

 踏み込みの速さ。

 

 そして、霊圧の使い方。

 

 どれも異常なほど洗練されている。

 

「……なるほど」

 

 シャウロンが笑みを消した。

 

「どうやら、見くびっていたようだ」

 

「……そうですか?」

 

 冬華は静かに刀を構え直した。

 

「でしたら、もう少し本気でお願いします!」

 

「……言ってくれる!」

 

 シャウロンが踏み込んだ。

 

 鋭い斬撃。

 

 冬華は左手の氷輪丸で受け止める。

 

 ――ギィン!

 

 火花が散った。

 

 その瞬間。

 

 冬華は右足へ霊圧を集中させた。

 

 ――ドンッ!

 

「……なっ!?」

 

 爆発的な加速。

 

 シャウロンの視界から、冬華の姿が消えた。

 

「……後ろか!」

 

 振り返る。

 

 だが。

 

「――違いますよ!」

 

 声は、真下から響いた。

 

「……っ!?」

 

 冬華はすでに懐へ潜り込んでいた。

 

 右手の氷輪丸が閃く。

 

 ――ザシュッ!

 

「ぐっ……!」

 

 シャウロンの身体に、浅い傷が走った。

 

 鮮血が散る。

 

 シャウロンは大きく後退した。

 

「……貴様!」

 

 冬華は追撃せず、静かに刀を構える。

 

「……そろそろ、終わりにしましょうか」

 

「……ふざけるな!」

 

 シャウロンの霊圧が膨れ上がる。

 

「ならば、こちらも本来の力を――!」

 

 刀を構え直す。

 

 帰刃。

 

 破面が真の力を解放するための能力。

 

 しかし。

 

「――霜天に坐せ、氷輪丸!」

 

 ――ゴオオオッ!

 

「……っ!?」

 

 シャウロンが目を見開いた。

 

 冬華の二本の氷輪丸から、凄まじい冷気が噴き上がる。

 

 周囲の空気が、一瞬にして凍りついた。

 

「……何!?」

 

 足元。

 

 そこから氷が伸びる。

 

 ――バキバキバキッ!

 

「……っ!?」

 

 シャウロンの両脚が、瞬く間に氷に包まれた。

 

「……小細工を!」

 

 力任せに氷を砕こうとする。

 

 だが。

 

「――遅いです!」

 

 冬華が踏み込んだ。

 

 ――シュンッ!

 

 霊圧操作による瞬間加速。

 

 そして、二本の氷輪丸が交差する。

 

 ――ザンッ!

 

「……がっ……!」

 

 シャウロンの身体に、深い斬撃が刻まれた。

 

 次の瞬間。

 

 ――パキィィン!

 

 傷口から氷が広がる。

 

 シャウロンの身体が、瞬く間に凍りついていった。

 

「……ば、馬鹿な……!」

 

 その言葉を最後に。

 

 ――パリンッ!

 

 凍りついた身体が砕け散った。

 

 夜空に、細かな氷の欠片が舞い落ちる。

 

「……ふう」

 

 冬華は小さく息を吐いた。

 

 二本の氷輪丸を静かに下ろす。

 

「……やっぱり、強かったですね」

 

 冬華は砕け散った氷を見つめた。

 

 限定霊印によって、霊圧は大きく制限されている。

 

 それでも、斬術や瞬歩の技量まで失われるわけではない。

 

 ましてや、霊圧操作の精度も。

 

 山本総隊長との修行で磨いてきた技術。

 

 それらを組み合わせれば、限られた力でも戦うことはできる。

 

「……さて!」

 

 冬華は顔を上げた。

 

「松本さんたちは……」

 

 周囲の霊圧を探る。

 

 乱菊。

 

 恋次。

 

 一角。

 

 弓親。

 

 そして。

 

「……っ!?」

 

 冬華の表情が凍りついた。

 

 遠く離れた場所。

 

 そこにあったはずの霊圧が、急激に弱まっていた。

 

「……ルキアさん!?」

 

 冬華は息を呑んだ。

 

 さらに、その近くには。

 

「……一護さん!?」

 

 黒崎一護の霊圧。

 

 そして、それを上回るほどの、凶暴な霊圧。

 

「…………!」

 

 冬華は即座に刀を構え直した。

 

 迷っている時間はない。

 

「……待っていてください!」

 

 翡翠色の瞳が鋭く輝く。

 

「――今、行きます!」

 

 ――シュンッ!

 

 冬華の姿が、夜空から消えた。

 

 全力の瞬歩。

 

 目指す先は、ルキアと一護のいる場所。

 

 そこでは今、想像を超える強敵が待ち受けていた。

 

 ――第31話『現世先遣隊』・完。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
引き続きよろしくお願いします!
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