日番谷に転生した   作:使い手なない

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第33話「隊長の特訓」

 

 現世、空座町。

 

 破面たちの襲撃から、数日が経過した。

 

「――いらっしゃいませ」

 

 浦原商店。

 

 店の奥から、縞模様の帽子をかぶった男が姿を現した。

 

「……おや?」

 

 男は、店先に立つ少女へ視線を向けた。

 

 銀白色の髪に、翡翠色の瞳。

 

 黒い死覇装の上には、護廷十三隊の隊長羽織。

 

 そして、背中には二本の斬魄刀が収められている。

 

「これはこれは。護廷十三隊の隊長さんじゃないっスか」

 

「……初めまして!」

 

 日番谷冬華は、丁寧に頭を下げた。

 

「十番隊隊長の日番谷冬華と申します!」

 

「……ほう」

 

 男は扇子を広げた。

 

「浦原喜助っス。いやぁ、まさか隊長さんが直々に来てくださるとは」

 

「ふふっ! 浦原さんのお噂は、一護さんから伺っています!」

 

「……黒崎サンから?」

 

「はい!」

 

 冬華はにっこりと微笑んだ。

 

「それに、元十二番隊隊長でいらっしゃることも存じていますよ!」

 

「…………」

 

 浦原の扇子が、ぴたりと止まった。

 

「……へえ」

 

 帽子の影で、その瞳がわずかに細められる。

 

「そこまでご存じとは。なかなか情報通な隊長さんっスね」

 

「……えへへ」

 

 冬華は少し照れたように笑った。

 

「一応、隊長ですから!」

 

「……なるほど」

 

 浦原は再び扇子を動かした。

 

「では、立ち話もなんですし、奥へどうぞ」

 

「ありがとうございます!」

 

     ◇

 

 浦原商店、奥の座敷。

 

 冬華は出されたお茶を一口飲んだ。

 

「……おいしいですね!」

 

「そいつはどうも」

 

 浦原が扇子を揺らす。

 

「それで、今日はどういったご用件で?」

 

「先日の破面襲撃について、少しお話を伺いたくて」

 

「……なるほど」

 

 浦原は頷いた。

 

「グリムジョー・ジャガージャックの件っスね」

 

「……ご存じでしたか」

 

「ええ。黒崎サンからも話を聞いてますよ」

 

 冬華は真剣な表情になった。

 

「彼は第六十刃でした。限定解除後、左腕を破壊することはできましたが、帰刃は使わせていません」

 

「……ほう」

 

 浦原が目を細める。

 

「始解だけで、そこまで?」

 

「はい」

 

 冬華は頷いた。

 

「ですが、まだ本当の実力は分かりません」

 

「……なるほど」

 

 浦原は扇子を閉じた。

 

「確かに、十刃の帰刃は警戒する必要がありますね」

 

「それに、第六ということは、さらに上位の十刃が存在するはずです」

 

「……その通りっス」

 

 浦原の表情が、わずかに真剣なものへ変わった。

 

「藍染さんがどれほどの戦力を揃えているのか、まだ全容は掴めてません」

 

「……そうですよね」

 

 冬華は小さく息を吐いた。

 

 藍染惣右介。

 

 かつて護廷十三隊五番隊隊長を務めていた男。

 

 その正体を知っていながら、完全に止めることはできなかった。

 

 そして今、藍染は虚圏で着実に戦力を整えている。

 

「……浦原さん」

 

「はい?」

 

「今後、さらに強力な破面が現世へ来る可能性は高いですよね?」

 

「……ええ」

 

 浦原は頷いた。

 

「むしろ、今回で終わりとは考えない方がいいでしょうね」

 

「……分かりました!」

 

 冬華は力強く頷いた。

 

「ありがとうございます!」

 

「……おや?」

 

 浦原が首を傾げる。

 

「もういいんスか?」

 

「はい!」

 

 冬華は立ち上がった。

 

「これから、やることができましたので!」

 

「……やること?」

 

「ふふっ!」

 

 冬華は楽しそうに微笑んだ。

 

「仲間たちの特訓です!」

 

「…………」

 

 浦原は一瞬、目を丸くした。

 

 そして。

 

「……なるほど」

 

 口元に笑みを浮かべた。

 

「それは、頼もしい隊長さんっスね」

 

「……えへへ」

 

 冬華は少し照れたように笑った。

 

 すると、浦原が扇子を閉じる。

 

「でしたら、一つご提案があるんスけど」

 

「……はい?」

 

「うちの地下訓練場、使ってみませんか?」

 

「……えっ!?」

 

 冬華が目を丸くした。

 

「いいんですか!?」

 

「もちろん」

 

 浦原はにっこりと笑った。

 

「周囲を気にせず訓練できますし、広さも十分ありますからね」

 

「……ありがとうございます!」

 

 冬華は嬉しそうに頭を下げた。

 

「ぜひ、使わせてください!」

 

「はいはい。じゃあ、準備しておきますよ」

 

 浦原は扇子で口元を隠した。

 

「……いやぁ、楽しみっスねぇ」

 

     ◇

 

 翌日。

 

 浦原商店、地下訓練場。

 

「――というわけで!」

 

 広大な訓練場の中央。

 

 冬華は、集まった先遣隊の面々を見渡した。

 

「今日は、皆さんの特訓をしたいと思います!」

 

「……特訓?」

 

 恋次が首を傾げる。

 

「はい!」

 

 冬華は元気よく頷いた。

 

「次の破面襲撃に備えて、少しでも実力を高めておきたいんです!」

 

「……なるほどな」

 

 恋次が腕を組んだ。

 

 その隣では、一角が楽しそうに笑っている。

 

「はっ! いいじゃねえか!」

 

「一角さん!」

 

「隊長さんが直々に相手してくれるんだろ?」

 

「はい!」

 

 冬華はにっこりと微笑んだ。

 

「もちろんです!」

 

「……へえ!」

 

 一角の笑みが深くなる。

 

「そいつは楽しみだぜ!」

 

 一方。

 

「……ええー」

 

 乱菊が不満そうな声を上げた。

 

「冬華ちゃん、せっかく現世に来てるんだから、もっと遊びましょうよぉ」

 

「松本さん!」

 

「はぁい……」

 

 冬華に見つめられ、乱菊は渋々頷いた。

 

「……ところで、日番谷隊長」

 

 弓親が口を開いた。

 

「訓練内容はどうするつもり?」

 

「まずは、皆さんの戦い方を確認させてください!」

 

 冬華は背中の二本の氷輪丸へ手を伸ばした。

 

「その後、それぞれの長所を活かせるように練習しましょう!」

 

「……ほう」

 

 恋次が笑った。

 

「面白そうじゃねえか」

 

「それと!」

 

 冬華は人差し指を立てた。

 

「今日は私も限定霊印をつけたまま、お相手します!」

 

「……は?」

 

 恋次が目を瞬かせた。

 

「限定状態で?」

 

「はい!」

 

「……隊長、それで大丈夫なんスか?」

 

「ふふっ!」

 

 冬華は楽しそうに微笑んだ。

 

「やってみれば分かりますよ!」

 

 少し離れた場所では、浦原が壁にもたれていた。

 

「……いやぁ」

 

 扇子を広げる。

 

「これは、面白いものが見られそうっスね」

 

     ◇

 

「――まずは、阿散井さんからです!」

 

「……おう!」

 

 恋次が前へ出た。

 

 手には蛇尾丸。

 

「手加減はしませんよ、隊長!」

 

「もちろんです!」

 

 冬華は二本の氷輪丸を抜いた。

 

 ただし、始解はしない。

 

 あくまで斬術と歩法を中心とした訓練だ。

 

「……では!」

 

 冬華が微笑む。

 

「いつでもどうぞ!」

 

「――行くぜ!」

 

 ――ダンッ!

 

 恋次が踏み込んだ。

 

「――咆えろ、蛇尾丸!」

 

 蛇尾丸の刀身が、節を連ねた鞭状へ変化する。

 

 ――ヒュンッ!

 

 鋭い斬撃が冬華へ迫った。

 

 しかし。

 

「……よっ!」

 

 冬華は軽く身を翻した。

 

 蛇尾丸の刃が、すぐ横を通過する。

 

「……っ!」

 

 恋次がさらに刀を振るう。

 

 右。

 

 左。

 

 そして、上段からの斬撃。

 

 だが。

 

「……ふふっ!」

 

 冬華は笑みを浮かべたまま、すべてを回避した。

 

「……くそっ!」

 

 恋次が舌打ちする。

 

「全然当たらねえ!」

 

「阿散井さん!」

 

「……あ?」

 

「蛇尾丸の間合いは、とても優秀です!」

 

「……おう?」

 

「ですが、攻撃を外した後の隙が大きいですね!」

 

 冬華は瞬歩で距離を詰めた。

 

「――例えば!」

 

 ――キィンッ!

 

「……っ!?」

 

 恋次が慌てて刀を引き戻す。

 

 だが、その前に。

 

 冬華の右手の氷輪丸が、恋次の首元で止まっていた。

 

「……こうなります!」

 

「…………」

 

 恋次が固まった。

 

「……マジかよ」

 

 冬華は刀を下ろした。

 

「でも、蛇尾丸の強みを活かせば、もっと戦いやすくなると思います!」

 

「……どうすりゃいい?」

 

「相手との距離を一定に保つだけではなく、近づかれたときの動きも考えてみましょう!」

 

「……なるほどな」

 

 恋次は真剣な表情で頷いた。

 

「……もう一回、お願いします!」

 

「はい!」

 

 冬華は嬉しそうに微笑んだ。

 

     ◇

 

「――次は俺だ!」

 

 一角が前へ出た。

 

「一角さん!」

 

 冬華は元気よく頷いた。

 

「よろしくお願いします!」

 

「おう!」

 

 一角は獰猛に笑った。

 

「遠慮なくいくぜ!」

 

 ――ダンッ!

 

 一角が踏み込む。

 

 鋭い斬撃。

 

 冬華は右手の氷輪丸で受け流した。

 

 ――キィンッ!

 

「……ほう!」

 

 一角が笑う。

 

「やるじゃねえか!」

 

「ありがとうございます!」

 

 冬華は左手の刀を振るった。

 

 ――キィンッ!

 

 一角が弾く。

 

 さらに、踏み込む。

 

「――はあっ!」

 

 激しい斬撃が続いた。

 

 しかし。

 

「……一角さん!」

 

「……ああ!?」

 

「少し、攻め急ぎすぎです!」

 

「……何だと!?」

 

 冬華は一角の斬撃を受け流し、そのまま背後へ回り込んだ。

 

「……っ!」

 

 一角が振り返る。

 

 だが、冬華の刃はすでに肩口で止まっていた。

 

「……相手が強いほど、焦らずに隙を見つけることが大切ですよ!」

 

「…………」

 

 一角はしばらく黙っていた。

 

 そして。

 

「……はっ!」

 

 楽しそうに笑った。

 

「いいねえ!」

 

「……?」

 

「もう一回だ!」

 

「……ええっ!?」

 

 冬華が目を丸くする。

 

「ま、まだやるんですか!?」

 

「当たり前だろ!」

 

 一角は不敵に笑った。

 

「今度こそ一太刀入れてやるぜ!」

 

「……もう!」

 

 冬華は困ったように笑った。

 

「分かりました! でも、無茶はしないでくださいね!」

 

     ◇

 

「――さて!」

 

 冬華は弓親へ視線を向けた。

 

「次は、綾瀬川さんです!」

 

「……僕かい?」

 

「はい!」

 

 弓親は優雅に微笑んだ。

 

「美しく勝ちたいところだね」

 

「ふふっ!」

 

 冬華も笑った。

 

「楽しみにしています!」

 

 ――キィンッ!

 

 弓親の斬撃を、冬華は軽やかに受け流す。

 

 しかし。

 

「……!」

 

 冬華の瞳がわずかに動いた。

 

 弓親の動きは、単純な力押しではない。

 

 相手の反応を見ながら、攻撃の角度を変えてくる。

 

「……上手ですね!」

 

「おや、褒めてもらえるとは光栄だね」

 

 弓親が微笑む。

 

「ですが!」

 

 冬華は踏み込んだ。

 

「――少し、考えすぎです!」

 

「……っ!?」

 

 次の瞬間。

 

 冬華の刀が、弓親の首元で止まった。

 

「……なるほど」

 

 弓親は小さく息を吐いた。

 

「判断が遅れた、ということか」

 

「はい!」

 

 冬華は頷いた。

 

「綾瀬川さんは、相手をよく見ています!」

 

「……ふむ」

 

「ですから、もっと自分の判断を信じてもいいと思いますよ!」

 

「……そうかい」

 

 弓親は微笑んだ。

 

「参考にさせてもらうよ」

 

「はい!」

 

     ◇

 

「――次は松本さんです!」

 

「……ええー?」

 

 乱菊が露骨に嫌そうな顔をした。

 

「冬華ちゃん、私もやるのぉ?」

 

「もちろんです!」

 

「……もう、仕方ないわねぇ」

 

 乱菊はため息をつきながら斬魄刀を抜いた。

 

「――唸れ、灰猫!」

 

 刀身が灰へと変化する。

 

 細かな灰が、訓練場へ広がった。

 

「……ふふっ!」

 

 冬華が微笑む。

 

「では、お願いします!」

 

「はいはい!」

 

 乱菊が指を動かす。

 

 ――ザシュッ!

 

 灰の刃が冬華へ迫った。

 

 しかし。

 

 ――シュンッ!

 

 冬華は瞬歩で回避した。

 

「……あら?」

 

 乱菊が目を丸くする。

 

「相変わらず速いわねぇ!」

 

「ありがとうございます!」

 

 冬華は灰の動きを見ながら距離を詰める。

 

「……でも!」

 

 乱菊が笑った。

 

「そう簡単には近づけないわよ!」

 

 灰猫が広がる。

 

 冬華の周囲を取り囲むように、灰が舞った。

 

「……おお!」

 

 冬華の瞳が輝く。

 

「いいですね!」

 

「……え?」

 

「今の使い方、とてもいいと思います!」

 

 冬華は二本の刀を構え直した。

 

「ですが、灰猫を広く展開すると、松本さん自身の守りが薄くなりやすいですね!」

 

「……あら」

 

 乱菊が目を瞬かせる。

 

「確かに、そうかも」

 

「ですから!」

 

 冬華はにっこりと微笑んだ。

 

「攻撃だけでなく、自分を守るためにも灰猫を使ってみましょう!」

 

「……なるほどねぇ」

 

 乱菊が感心したように頷いた。

 

「冬華ちゃん、すっかり立派な隊長になっちゃって……」

 

「……えっ!?」

 

 冬華が頬を赤くする。

 

「い、今は訓練中ですよ!?」

 

「ふふっ!」

 

 乱菊が笑った。

 

「はいはい!」

 

     ◇

 

 それから、しばらくして。

 

「……ふう」

 

 冬華は訓練場の端へ視線を向けた。

 

 そこには、ルキアの姿があった。

 

「……ルキアさん!」

 

「……日番谷隊長」

 

 ルキアが顔を上げる。

 

「お身体の具合は、いかがですか?」

 

「……だいぶ良くなりました」

 

「……そうですか!」

 

 冬華は安心したように微笑んだ。

 

「よかったです!」

 

 しかし、ルキアは少しだけ表情を曇らせた。

 

「……申し訳ありません」

 

「……はい?」

 

「先日の戦闘では、何もできず……」

 

「……ルキアさん」

 

 冬華は優しく首を振った。

 

「謝る必要はありませんよ」

 

「……ですが」

 

「相手は十刃です」

 

 冬華は静かに続けた。

 

「私だって、限定解除前は苦戦しました」

 

「……!」

 

「ですから、あまり自分を責めないでください」

 

 ルキアはしばらく黙っていた。

 

 そして。

 

「……ありがとうございます」

 

 小さく頭を下げた。

 

 冬華はにっこりと微笑んだ。

 

「それに!」

 

「……?」

 

「ルキアさんの袖白雪、とても綺麗な斬魄刀ですよね!」

 

「……え?」

 

「氷雪系の斬魄刀を使う者同士、いつか一緒に訓練してみたいです!」

 

「……日番谷隊長」

 

 ルキアの表情が、少しだけ和らいだ。

 

「……ぜひ、お願いします」

 

「はい!」

 

 冬華は嬉しそうに頷いた。

 

「でも、今日は見学だけにしてくださいね!」

 

「……はい」

 

 ルキアも小さく微笑んだ。

 

     ◇

 

 午後。

 

 訓練は、再び始まった。

 

「――よし!」

 

 恋次が蛇尾丸を構える。

 

「もう一回だ!」

 

「はい!」

 

 冬華は二本の氷輪丸を構えた。

 

 ――ヒュンッ!

 

 蛇尾丸が伸びる。

 

 冬華は瞬歩で距離を詰めようとした。

 

 しかし。

 

「……!」

 

 恋次はすぐに刀を引き戻さなかった。

 

 代わりに、身体を横へ動かしながら間合いを調整する。

 

「……おっ!」

 

 冬華の瞳が輝いた。

 

「いいですね!」

 

「……まだまだ!」

 

 恋次がさらに攻撃を繰り出す。

 

 今度は、先ほどよりも隙が少ない。

 

「……ふふっ!」

 

 冬華は楽しそうに微笑んだ。

 

「その調子です!」

 

 ――キィンッ!

 

 斬撃を受け流す。

 

 しかし、その直後。

 

「――今だ!」

 

 一角が横から踏み込んだ。

 

「……!」

 

 冬華が振り返る。

 

 さらに。

 

「――こっちも忘れないでよ!」

 

 弓親が反対側から迫った。

 

「……あっ!」

 

 冬華が目を丸くする。

 

「皆さん、連携ですか!?」

 

「当たり前だろ!」

 

 恋次が笑った。

 

「一対一じゃ勝てねえなら、三人でやるまでだ!」

 

「……なるほど!」

 

 冬華は嬉しそうに微笑んだ。

 

「いいですね!」

 

 ――キィンッ!

 

 恋次の斬撃を受け流す。

 

 続いて、一角の攻撃を左手の刀で防ぐ。

 

 しかし。

 

「……!」

 

 弓親の刀が、冬華の肩口へ迫った。

 

「――もらった!」

 

 その瞬間。

 

 ――シュンッ!

 

 冬華の姿が消えた。

 

「……えっ!?」

 

 弓親が目を見開く。

 

 次の瞬間。

 

「――はい!」

 

 三人の背後に、冬華が立っていた。

 

「……残念でした!」

 

「…………」

 

 恋次が固まった。

 

「……マジかよ」

 

 一角が笑う。

 

「はっ! やっぱ強えな!」

 

 弓親は小さくため息をついた。

 

「……まったく、美しくない結果だね」

 

 しかし。

 

「……でも!」

 

 冬華は嬉しそうに微笑んだ。

 

「今の連携、とてもよかったですよ!」

 

「……本当か?」

 

「はい!」

 

 冬華は力強く頷いた。

 

「特に、阿散井さんが私の動きを制限して、一角さんが正面から攻めて、綾瀬川さんが隙を狙う流れ!」

 

 三人を見渡す。

 

「とても上手でした!」

 

「……へえ」

 

 恋次が少し嬉しそうに笑った。

 

「……そうかよ」

 

「はい!」

 

 冬華は微笑んだ。

 

「これなら、次の戦闘でもきっと役に立ちます!」

 

 すると。

 

「……冬華ちゃん!」

 

 乱菊が手を上げた。

 

「私も混ざっていい?」

 

「……もちろんです!」

 

「ふふっ!」

 

 乱菊が楽しそうに笑う。

 

「じゃあ、今度は四人ね!」

 

「……ええっ!?」

 

 冬華が目を丸くする。

 

「ま、まだ続けるんですか!?」

 

「当然だろ!」

 

 一角が笑った。

 

「隊長さんに一太刀入れるまで終われねえ!」

 

「……もう!」

 

 冬華は困ったように笑った。

 

 けれど。

 

「……分かりました!」

 

 その翡翠色の瞳が、楽しそうに輝く。

 

「では、もう一度いきましょう!」

 

     ◇

 

 地下訓練場の片隅。

 

 その光景を、浦原喜助が静かに眺めていた。

 

「……いやぁ」

 

 浦原は扇子を広げた。

 

「これは、なかなか……」

 

 視線の先では、冬華が四人の死神を相手にしていた。

 

 恋次の蛇尾丸。

 

 一角の鋭い斬撃。

 

 弓親の巧みな足運び。

 

 そして、乱菊の灰猫。

 

 それぞれ異なる間合いから繰り出される攻撃を、冬華は最小限の動きで捌いている。

 

「……ふむ」

 

 浦原が目を細めた。

 

(……霊圧を無駄なく使っている)

 

 単純に動きが速いだけではない。

 

 必要な瞬間、必要な箇所へ霊圧を集中させている。

 

 踏み込む瞬間には脚へ。

 

 斬撃を受け流す瞬間には腕へ。

 

 さらに、攻撃を受ける際には、幾重にも重ねた霊圧の膜によって衝撃を分散させていた。

 

(……これは驚いた)

 

 浦原の口元に、わずかな笑みが浮かぶ。

 

(……限定状態で、ここまでやりますか)

 

 隊長格の霊圧を大きく制限された状態。

 

 それでも、冬華の動きにはほとんど無駄がない。

 

 むしろ、限られた霊圧を効率よく使うことで、四人の攻撃を巧みに捌いていた。

 

 そして、何より。

 

「……阿散井さん! 今の動き、とてもよかったです!」

 

「……おう!」

 

「一角さん! 少しだけ踏み込みを抑えてみましょう!」

 

「……分かってるって!」

 

「綾瀬川さん! 松本さんの灰猫をもっと利用してみてください!」

 

「……なるほどね」

 

 冬華は四人を圧倒するだけではなく、それぞれの動きを観察し、的確な助言を与えている。

 

「……なるほど」

 

 浦原は小さく呟いた。

 

「いい隊長さんっスねぇ」

 

 その声には、いつもの軽薄さとは違う、素直な感心が混じっていた。

 

     ◇

 

 さらに、しばらくして。

 

「――はあっ!」

 

 恋次の蛇尾丸が伸びる。

 

 冬華は軽く身を翻した。

 

 しかし。

 

「――今よ!」

 

 乱菊が指を動かす。

 

 灰猫が、冬華の退路へ広がった。

 

「……!」

 

 冬華の瞳が動く。

 

 さらに。

 

「――もらった!」

 

 一角が正面から踏み込む。

 

 その背後には、弓親。

 

「……なるほど!」

 

 冬華が微笑んだ。

 

 四人の動きが、先ほどまでとは明らかに違う。

 

 それぞれが自分の役割を理解し、互いの隙を補い合っている。

 

(……いいですね!)

 

 冬華は二本の氷輪丸を構え直した。

 

 ――キィンッ!

 

 一角の斬撃を受け流す。

 

 同時に、左手の刀で弓親の攻撃を防いだ。

 

 しかし。

 

「――今だ!」

 

 恋次が叫ぶ。

 

 蛇尾丸が、冬華の足元へ迫った。

 

「……っ!」

 

 冬華は瞬歩で回避する。

 

 だが、その先には灰猫。

 

「……あっ!」

 

 冬華が目を見開いた。

 

 ――ザシュッ!

 

 灰の刃が、白い隊長羽織の裾をかすめた。

 

「……!」

 

 冬華は空中で身を翻し、少し離れた場所へ着地する。

 

 そして。

 

「…………」

 

 自分の羽織を見下ろした。

 

 裾に、小さな切れ目が入っている。

 

「……あっ!」

 

 乱菊が目を丸くした。

 

「当たった!」

 

「……おおっ!」

 

 恋次が声を上げる。

 

「やったじゃねえか!」

 

 一角が豪快に笑った。

 

「はっ! ようやく一太刀だ!」

 

「……美しい連携だったね」

 

 弓親も満足そうに微笑んだ。

 

 冬華は、しばらく羽織を見つめていた。

 

 そして。

 

「……ふふっ!」

 

 嬉しそうに笑った。

 

「皆さん!」

 

 四人へ向き直る。

 

「今の、とてもよかったです!」

 

「……へへっ!」

 

 恋次が笑う。

 

「ようやく届いたぜ!」

 

「はい!」

 

 冬華は力強く頷いた。

 

「この調子なら、もっと強くなれますよ!」

 

 その笑顔に、四人も自然と笑みを浮かべた。

 

     ◇

 

 夕方。

 

 長かった訓練が、ようやく終わった。

 

「……つ、疲れた……」

 

 恋次が地面に座り込む。

 

「……さすがに、もう動けねえ……」

 

 一角も大きく息を吐いた。

 

「……くそっ! 最後はもう一回当てたかったぜ!」

 

「……僕も疲れたよ」

 

 弓親がため息をつく。

 

「……冬華ちゃーん」

 

 乱菊がぐったりと座り込んだ。

 

「もう無理ぃ……」

 

「……皆さん!」

 

 冬華は苦笑した。

 

「本当に、お疲れさまでした!」

 

 その手には、人数分の飲み物がある。

 

「はい! どうぞ!」

 

「……おっ!」

 

 恋次が受け取った。

 

「ありがとうございます!」

 

「いえいえ!」

 

 冬華はにっこりと微笑んだ。

 

「今日は、皆さんとても頑張っていましたね!」

 

「……まあな」

 

 恋次が苦笑する。

 

「でも、隊長にはほとんど届かなかったっスけど」

 

「……そんなことありませんよ!」

 

 冬華は首を振った。

 

「最後の連携、とても上手でした!」

 

「……本当か?」

 

「はい!」

 

 冬華は嬉しそうに頷いた。

 

「皆さん、確実に成長しています!」

 

 その言葉に、恋次は少しだけ笑った。

 

「……そっか」

 

 一角も不敵に笑う。

 

「次こそは、もっと派手に一太刀入れてやるぜ!」

 

「……ふふっ!」

 

 冬華は楽しそうに微笑んだ。

 

「楽しみにしています!」

 

 すると。

 

「……いやぁ、お疲れさまでした」

 

 浦原が歩いてきた。

 

「……浦原さん!」

 

 冬華が振り返る。

 

「訓練場を貸していただいて、ありがとうございました!」

 

「いえいえ」

 

 浦原は扇子を広げた。

 

「こちらこそ、いいものを見せてもらいましたよ」

 

「……はい?」

 

「いやぁ、驚きました」

 

 浦原が目を細める。

 

「日番谷隊長、その霊圧制御は相当なものっスね」

 

「……えっ!?」

 

 冬華が目を丸くする。

 

「……ありがとうございます!」

 

「限定状態で、あれだけ無駄なく動けるとは」

 

 浦原は感心したように頷いた。

 

「しかも、二本の斬魄刀を同時に扱うとは……」

 

「……あっ」

 

 冬華は背中の氷輪丸へ視線を向けた。

 

「……大切な刀なんです」

 

「……そうっスか」

 

 浦原はそれ以上、踏み込まなかった。

 

 代わりに、にっこりと微笑む。

 

「それにしても、指導も見事でしたね」

 

「……えっ?」

 

「ただ強いだけじゃなく、相手の長所を見抜いて、それを伸ばしている」

 

 浦原は扇子を揺らした。

 

「いい隊長さんっスよ」

 

「…………」

 

 冬華の頬が、じわじわと赤くなった。

 

「……えへへ」

 

 少し照れたように笑う。

 

「ありがとうございます!」

 

 その隣では、乱菊が優しく冬華を見つめていた。

 

「……本当に、いい隊長になったわね」

 

「……松本さん!?」

 

「ふふっ!」

 

 乱菊が笑った。

 

「昔はあんなに小さかったのにねぇ」

 

「……今も小さいって言いたいんですか!?」

 

「あら、そんなこと言ってないわよ?」

 

「……絶対に思ってます!」

 

「あははっ!」

 

 周囲から笑い声が上がった。

 

「……もう!」

 

 冬華は頬を膨らませた。

 

 しかし、その表情はどこか嬉しそうだった。

 

     ◇

 

 その日の夜。

 

 井上家。

 

「――ただいま戻りました!」

 

「おかえりなさーい!」

 

 織姫が笑顔で迎えてくれた。

 

「日番谷隊長! 松本さん!」

 

「ただいまぁ!」

 

 乱菊がぐったりと手を振る。

 

「……松本さん?」

 

 織姫が首を傾げた。

 

「どうしたんですか?」

 

「……冬華ちゃんに、たっぷり鍛えられちゃったのよぉ……」

 

「……ええっ!?」

 

 織姫が目を丸くする。

 

「日番谷隊長が!?」

 

「……えへへ」

 

 冬華は少し照れたように笑った。

 

「皆さん、とても頑張っていましたよ!」

 

「……すごいです!」

 

 織姫が目を輝かせた。

 

「日番谷隊長って、やっぱり格好いいですね!」

 

「……えっ!?」

 

 冬華の頬が赤くなる。

 

「そ、そんなことありませんよ!」

 

「あります!」

 

 織姫が力強く頷いた。

 

「強くて、優しくて、みんなのことを考えていて……!」

 

「……い、井上さん!?」

 

「それに、とっても可愛いです!」

 

「……か、可愛い!?」

 

 冬華が真っ赤になる。

 

「ふふっ!」

 

 乱菊が笑った。

 

「そうなのよねぇ!」

 

「松本さんまで!?」

 

 冬華は思わず両手で頬を押さえた。

 

「……もう!」

 

 二人の笑い声が、部屋に響く。

 

 冬華は困ったように笑いながらも、どこか嬉しそうだった。

 

 今回の襲撃で、破面たちの脅威を改めて知った。

 

 次に現れる敵は、もっと強いかもしれない。

 

 それでも。

 

 自分一人が強くなるだけでは、守れないものがある。

 

 仲間たちが強くなれば、それだけ多くの人を守ることができる。

 

 そして何より。

 

 仲間たち自身が、生きて帰ってこられる可能性も高くなる。

 

(……皆さんと一緒に、頑張りましょう)

 

 冬華は小さく微笑んだ。

 

「……さて!」

 

 元気よく顔を上げる。

 

「明日も、頑張りましょう!」

 

「……ええっ!?」

 

 乱菊が悲鳴を上げた。

 

「冬華ちゃん! 明日も特訓するの!?」

 

「……ふふっ!」

 

 冬華は楽しそうに笑った。

 

「どうしましょうか?」

 

「……もう、勘弁してぇ!」

 

「あははっ!」

 

 織姫もつられて笑った。

 

 穏やかな夜。

 

 仲間たちとの、何気ない時間。

 

 その温かさを胸に、冬華は明日へと思いを馳せた。

 

 次の戦いが、いつ訪れるかは分からない。

 

 だが、その時は。

 

 今よりも少しだけ強くなった仲間たちとともに、立ち向かうことができるだろう。

 

 ――第33話『隊長の特訓』・完。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
引き続きよろしくお願いします!
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