日番谷に転生した   作:使い手なない

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第34話「破面再襲撃」

 

 現世、空座町。

 

 浦原商店での特訓から、数日が経過した。

 

「……ふう」

 

 日番谷冬華は、空を見上げながら小さく息を吐いた。

 

 今日も空座町は平和だった。

 

 道行く人々は普段どおりの生活を送り、街には穏やかな時間が流れている。

 

 しかし。

 

(……そろそろ、でしょうか)

 

 冬華は、その翡翠色の瞳を細めた。

 

 先日の破面襲撃。

 

 第六十刃グリムジョー・ジャガージャック。

 

 限定解除後は圧倒できたものの、帰刃した際の実力までは確認できなかった。

 

 そして、藍染惣右介が用意している戦力は、彼だけではない。

 

(……次は、もっと厄介なことになるかもしれませんね)

 

 そんなことを考えていた、その時だった。

 

 ――ズンッ!

 

「……っ!」

 

 冬華が足を止めた。

 

 空気が、震える。

 

 遠く離れた場所から、複数の強大な霊圧が現れた。

 

「……来ましたか!」

 

 冬華はすぐさま伝令機を取り出した。

 

「こちら日番谷です! 破面の霊圧を確認しました!」

 

『こちら技術開発局! 現世に複数の破面が出現したことを確認!』

 

「限定解除の許可をお願いします!」

 

『すでに承認されています! 現世先遣隊の限定解除を許可!』

 

「ありがとうございます!」

 

 通信を切る。

 

 冬華の表情が引き締まった。

 

「……さて!」

 

 背中の二本の氷輪丸へ手を伸ばす。

 

「今度こそ、好きにはさせませんよ!」

 

 次の瞬間。

 

 ――シュンッ!

 

 冬華の姿が、その場から消えた。

 

     ◇

 

 空座町、郊外。

 

 冬華が到着した時には、すでに複数の死神が集まっていた。

 

「――冬華ちゃん!」

 

「松本さん!」

 

 乱菊が手を振る。

 

 その隣には、恋次、一角、弓親の姿もあった。

 

「皆さん、ご無事ですね!」

 

「おう!」

 

 恋次が頷いた。

 

「けど、どうやら今回は前より数が多いみてえだぜ」

 

「……そうですね」

 

 冬華は正面へ視線を向けた。

 

 そこには、複数の破面が立っていた。

 

 巨大な体躯を持つ男。

 

 奇妙な仮面の残骸をつけた少年。

 

 そして、細身の身体に不敵な笑みを浮かべる青年。

 

 さらに、その後方には二体の破面が控えている。

 

「……へえ?」

 

 細身の青年が冬華を見た。

 

「君が、あの日番谷冬華?」

 

「……はい?」

 

 冬華が首を傾げる。

 

「そうですが……」

 

「ふうん」

 

 青年は楽しそうに笑った。

 

「思ってたより、ずいぶん可愛いんだね」

 

「……えっ?」

 

「こんな女の子が隊長だなんて、死神って面白いねぇ」

 

「……ありがとうございます?」

 

 冬華が少し困ったように返す。

 

 すると、青年は声を上げて笑った。

 

「あははっ! 褒めてないんだけど!」

 

「……そうでしたか」

 

 冬華は小さく息を吐いた。

 

「それで、あなたは?」

 

「僕?」

 

 青年は自分の胸を指差した。

 

「ルピ・アンテノール」

 

 そして、楽しそうに笑う。

 

「新しい第六十刃さ!」

 

「……第六十刃」

 

 冬華の瞳がわずかに細められる。

 

「なるほど。グリムジョーさんの後任ですか」

 

「……へえ?」

 

 ルピが目を細めた。

 

「知ってるんだ?」

 

「以前、戦いましたので」

 

「ああ!」

 

 ルピは手を叩いた。

 

「そういえば、君があいつの腕を壊したんだっけ!」

 

「……はい」

 

「おかげで僕が第六になれたんだよねぇ」

 

 ルピは愉快そうに笑った。

 

「感謝した方がいいのかな?」

 

「……必要ありませんよ」

 

 冬華は静かに答えた。

 

「それより、何のために現世へ来たんですか?」

 

「さあ?」

 

 ルピは肩をすくめた。

 

「君たちと遊ぶため、かな?」

 

「……そうですか」

 

 冬華は二本の氷輪丸を抜いた。

 

「では、こちらもお相手します!」

 

「……へえ!」

 

 ルピの笑みが深くなる。

 

「いいねぇ!」

 

 その時。

 

「――おい!」

 

 巨大な破面が前へ出た。

 

「俺の相手はどいつだ!」

 

「……ヤミー」

 

 ルピが面倒そうに振り返る。

 

「好きにすれば?」

 

「けっ!」

 

 ヤミーが不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

 すると。

 

「――おい、デカブツ!」

 

 一角が前へ出た。

 

「お前の相手は俺がしてやる!」

 

「……あ?」

 

 ヤミーが睨みつける。

 

「何だ、てめえ?」

 

「斑目一角だ!」

 

 その隣に、恋次も並んだ。

 

「俺も付き合うぜ!」

 

「……二人がかりか?」

 

 ヤミーが笑った。

 

「雑魚が何人集まろうが同じだ!」

 

「……言ってくれるじゃねえか!」

 

 恋次が蛇尾丸を抜いた。

 

 一方。

 

「……冬華ちゃん!」

 

 乱菊が声をかける。

 

「私たちは、あっちの二人を引き受けるわ!」

 

「……はい!」

 

 冬華は頷いた。

 

「お願いします!」

 

「任せて!」

 

 弓親も優雅に微笑んだ。

 

「美しく片付けてみせるよ」

 

「……ふふっ!」

 

 冬華は小さく笑った。

 

「皆さん、無理はしないでくださいね!」

 

 それぞれが散開する。

 

 そして。

 

「……さて!」

 

 冬華は正面へ向き直った。

 

「ルピさん!」

 

「……ん?」

 

「あなたのお相手は、私です!」

 

「……あはっ!」

 

 ルピが笑った。

 

「いいよ!」

 

 その瞳に、残忍な光が宿る。

 

「どれくらい強いのか、試してあげる!」

 

     ◇

 

 ――ダンッ!

 

 先に動いたのはルピだった。

 

 鋭い踏み込み。

 

 その手が、冬華へ伸びる。

 

 しかし。

 

 ――シュンッ!

 

「……っ!?」

 

 ルピの視界から、冬華が消えた。

 

「……え?」

 

「――こちらです!」

 

 背後から声が響く。

 

 ――キィンッ!

 

 ルピが慌てて刀を抜き、振り返った。

 

 二本の氷輪丸が、左右から迫る。

 

「……っ!」

 

 辛うじて一撃を受け止める。

 

 だが。

 

「――はっ!」

 

 冬華の左手が動いた。

 

 ――ザシュッ!

 

「……ぐっ!?」

 

 ルピの肩口が裂けた。

 

 血が飛び散る。

 

「……なっ!?」

 

 ルピが大きく後退した。

 

「……速っ!」

 

「……まだですよ!」

 

 冬華が踏み込む。

 

 ――キィンッ!

 

 右。

 

 左。

 

 そして、斜め下からの斬撃。

 

 ルピは必死に刀を振るうが、二本の氷輪丸を捌ききれない。

 

「……くそっ!」

 

 ルピの表情から、余裕が消えた。

 

「何なんだよ、君!」

 

「……十番隊隊長です!」

 

「それは知ってるよ!」

 

 ルピが叫ぶ。

 

 冬華は小さく微笑んだ。

 

「では、少し本気でいきますね!」

 

「……は?」

 

 その瞬間。

 

「――霜天に坐せ、氷輪丸!」

 

 ――ゴオオオッ!

 

 二本の氷輪丸から、凄まじい冷気が噴き上がった。

 

 周囲の気温が、一気に下がる。

 

「……っ!?」

 

 ルピが目を見開いた。

 

「二本とも……!?」

 

「……はい!」

 

 冬華は二本の氷輪丸を構えた。

 

「では、続けましょう!」

 

 ――シュンッ!

 

「……っ!」

 

 ルピが反応した時には、冬華はすでに目の前にいた。

 

 ――キィンッ!

 

 刀を受け止める。

 

 しかし。

 

 ――パキパキッ!

 

「……なっ!?」

 

 ルピの刀を握る腕に、氷が広がり始めた。

 

「……くそっ!」

 

 ルピは慌てて距離を取る。

 

 霊圧を放出し、腕の氷を砕いた。

 

「……何だよ、それ!」

 

「氷雪系の斬魄刀ですので!」

 

 冬華はにっこりと微笑んだ。

 

「凍らせるのは得意なんです!」

 

「……っ!」

 

 ルピの額に、青筋が浮かんだ。

 

「……調子に乗るなよ!」

 

     ◇

 

 少し離れた場所。

 

「……いやぁ」

 

 浦原喜助が、扇子を広げていた。

 

「これはまた……」

 

 その視線の先では、冬華がルピを圧倒している。

 

 斬術。

 

 瞬歩。

 

 霊圧制御。

 

 そして、二本の氷輪丸による氷雪能力。

 

 どれも、非常に高い水準に達していた。

 

(……なるほど)

 

 浦原が目を細める。

 

(……先日の特訓では、かなり余裕を残していたわけっスね)

 

 限定状態での戦闘を見た時点でも、その技量には感心していた。

 

 だが、今回は違う。

 

 霊圧制限のない状態。

 

 しかも、相手は十刃。

 

 それでも、冬華の動きには無駄がない。

 

「……いやはや」

 

 浦原は小さく笑った。

 

「本当に、とんでもない隊長さんっスねぇ」

 

 ただし、その瞳は油断なく戦場全体を見渡していた。

 

 戦況が崩れれば、いつでも動けるように。

 

 だが、今のところ。

 

 その必要はなさそうだった。

 

     ◇

 

「――くそっ!」

 

 ルピが叫んだ。

 

 その身体には、すでにいくつもの傷が刻まれている。

 

 一方、冬華の隊長羽織には、傷一つない。

 

「……あり得ない!」

 

 ルピが歯を食いしばった。

 

「僕は第六十刃だぞ!?」

 

「……はい」

 

 冬華は静かに頷いた。

 

「ですが、十刃だからといって、必ず勝てるわけではありませんよ」

 

「……っ!」

 

 ルピの表情が歪んだ。

 

「……だったら!」

 

 その手が、斬魄刀へ伸びる。

 

「――縊れ、蔦嬢!」

 

 ――ドオオオッ!

 

 凄まじい霊圧が噴き上がった。

 

 ルピの背中から、巨大な触手が伸びる。

 

 一本。

 

 二本。

 

 さらに増え続け、合計八本。

 

 その姿は、先ほどまでとは大きく変わっていた。

 

「……あははっ!」

 

 ルピが笑う。

 

「これが僕の本当の力だよ!」

 

「……なるほど」

 

 冬華は興味深そうに見上げた。

 

「八本の触手ですか」

 

「余裕ぶっていられるのも今のうちさ!」

 

 ルピが腕を広げる。

 

「――死んじゃえ!」

 

 ――ゴオオッ!

 

 八本の触手が、一斉に冬華へ襲いかかった。

 

「……!」

 

 冬華が地面を蹴る。

 

 ――ドゴォン!

 

 触手が地面を砕いた。

 

 続けて、別の触手が横薙ぎに迫る。

 

「……よっ!」

 

 冬華は瞬歩で回避した。

 

 しかし。

 

「――甘い!」

 

 さらに三本の触手が、逃げ道を塞ぐ。

 

「……なるほど!」

 

 冬華の瞳が輝いた。

 

「なかなか厄介ですね!」

 

「……っ!」

 

 ルピの笑みが引きつる。

 

「何でそんなに楽しそうなんだよ!」

 

「……いえ!」

 

 冬華は二本の氷輪丸を構え直した。

 

「少し、面白い戦い方だと思いまして!」

 

「……ふざけるな!」

 

 触手が一斉に迫る。

 

 だが。

 

「――はっ!」

 

 冬華が右手の氷輪丸を振るった。

 

 ――ザンッ!

 

 一本の触手が切断される。

 

「……なっ!?」

 

 さらに。

 

 ――ザシュッ!

 

 二本目。

 

 ――ザンッ!

 

 三本目。

 

「……っ!?」

 

 ルピが目を見開いた。

 

「僕の触手が……!」

 

「……ふふっ!」

 

 冬華は軽やかに着地した。

 

「確かに、攻撃範囲は広いですね!」

 

 その翡翠色の瞳が、ルピを捉える。

 

「ですが、動きは見えています!」

 

「……くそっ!」

 

 ルピが残る触手を振り回した。

 

 切断された部分も、再び伸び始める。

 

 しかし、冬華は慌てない。

 

 瞬歩で攻撃をかわしながら、触手へ氷雪をまとわせていく。

 

 ――パキパキッ!

 

「……っ!?」

 

 ルピの触手が、次々と凍り始めた。

 

「……何だよ、これ!」

 

「……氷輪丸の冷気です!」

 

 冬華は静かに答えた。

 

「あなたの触手は、確かに強力です」

 

 右手の刀を構える。

 

「ですが、凍らせてしまえば!」

 

 ――ザンッ!

 

 氷結した触手が砕け散った。

 

「……っ!」

 

 ルピが大きく後退する。

 

 その表情には、明らかな焦りが浮かんでいた。

 

「……あり得ない……!」

 

 新たな第六十刃。

 

 その地位を手にしたばかりの自分が。

 

 たった一人の死神に、ここまで追い詰められている。

 

「……ふざけるなぁ!」

 

 ルピが叫んだ。

 

 残る触手が、凄まじい勢いで伸びる。

 

 冬華の頭上。

 

 左右。

 

 そして、足元。

 

 あらゆる方向から、逃げ道を塞ぐように迫った。

 

「――これならどうだ!」

 

「……!」

 

 冬華は周囲を見渡した。

 

 そして。

 

「……そうですね」

 

 小さく微笑んだ。

 

「そろそろ、終わりにしましょうか!」

 

     ◇

 

 ――ゴオオオッ!

 

 冬華の周囲に、凄まじい冷気が渦巻いた。

 

「……っ!?」

 

 ルピが目を見開く。

 

「……何をする気だ!?」

 

 冬華は答えない。

 

 二本の氷輪丸を、静かに構える。

 

 そして。

 

「――六衣氷結陣!」

 

 ――ドドドドドドッ!

 

 六本の巨大な氷柱が、ルピの周囲に出現した。

 

「……なっ!?」

 

 ルピが振り返る。

 

 右。

 

 左。

 

 前方。

 

 後方。

 

 さらに、残る方向も。

 

 六本の氷柱が、逃げ道を塞ぐように配置されていた。

 

「……何だよ、これ!」

 

 ルピが触手を伸ばす。

 

 しかし。

 

 ――パキィン!

 

「……っ!?」

 

 触手が、氷柱に触れた瞬間に凍りついた。

 

「……くそっ!」

 

 慌てて引き戻そうとする。

 

 だが、もう遅い。

 

「……では!」

 

 冬華は二本の氷輪丸を振り下ろした。

 

「――凍ってください!」

 

 ――ゴオオオオッ!

 

 六本の氷柱から、凄まじい冷気が噴き上がる。

 

「……う、うわあああっ!?」

 

 ルピの悲鳴が響いた。

 

 足元から氷が広がる。

 

 脚。

 

 胴体。

 

 腕。

 

 そして、八本の触手。

 

 すべてが、瞬く間に凍結していく。

 

「……こんな……!」

 

 ルピが必死に抵抗する。

 

 しかし。

 

「……僕が……第六十刃の……!」

 

 ――パキィィィン!

 

 最後の声とともに。

 

 ルピの全身が、巨大な氷の中へ封じ込められた。

 

「…………」

 

 静寂が訪れる。

 

 冬華は二本の氷輪丸を下ろした。

 

「……ふう」

 

 小さく息を吐く。

 

「これで、終わりですね!」

 

 氷の中では、ルピが完全に動きを止めていた。

 

 冬華はしばらく様子を確認する。

 

 そして、周囲へ視線を向けた。

 

「……皆さんは、大丈夫でしょうか?」

 

 その時だった。

 

 ――ドンッ!

 

「……っ!?」

 

 突然、凄まじい衝撃が氷柱へ叩きつけられた。

 

 ――バキィィン!

 

 巨大な氷が砕け散る。

 

「……えっ!?」

 

 冬華が目を見開いた。

 

 そこには。

 

「……あー……」

 

 奇妙な声を漏らす少年が立っていた。

 

 ワンダーワイス・マルジェラ。

 

 その腕には、凍結から解放されたルピが抱えられている。

 

「……あなたは!」

 

 冬華が二本の氷輪丸を構え直した。

 

 だが、ワンダーワイスは冬華を見ようともしなかった。

 

 ただ、ルピを抱えたまま空を見上げる。

 

 その先に。

 

 ――バリバリッ!

 

 黒腔が開いた。

 

「……っ!」

 

 冬華が踏み込もうとする。

 

 しかし。

 

 遠くから、複数の霊圧が急速に移動していくのを感じた。

 

 ヤミー。

 

 そして、他の破面たち。

 

(……撤退ですか!)

 

 冬華は足を止めた。

 

 ここで深追いすれば、別の場所で戦っている仲間たちの安全を確認できない。

 

「……仕方ありませんね」

 

 冬華は小さく息を吐いた。

 

 ワンダーワイスはルピを抱えたまま黒腔へ消えていく。

 

 そして。

 

 ――バタンッ!

 

 黒腔が閉じた。

 

「…………」

 

 冬華は空を見上げた。

 

「……逃げられてしまいましたか」

 

 少し残念そうに呟く。

 

 だが、すぐに表情を引き締めた。

 

「……皆さんのところへ行きましょう!」

 

 ――シュンッ!

 

 冬華の姿が消えた。

 

     ◇

 

 それから、しばらくして。

 

「――皆さん!」

 

 冬華が到着すると、そこには先遣隊の面々が集まっていた。

 

「……冬華ちゃん!」

 

「松本さん!」

 

 冬華は安心したように微笑んだ。

 

「ご無事でしたか!」

 

「ええ!」

 

 乱菊が頷いた。

 

「こっちは何とかなったわ!」

 

「……おう!」

 

 一角が大きく息を吐いた。

 

「けど、あのデカブツ、相当硬かったぜ」

 

「……まったくだ」

 

 恋次も苦笑する。

 

「二人がかりでも、簡単には倒せなかったっスよ」

 

 ヤミーとの戦闘。

 

 恋次が蛇尾丸で間合いを制御し、一角が接近戦を仕掛ける。

 

 第33話の特訓で学んだ連携は、確かに役立っていた。

 

 しかし、ヤミーの耐久力は予想以上だった。

 

 決定打を与える前に、敵が撤退したのだという。

 

「……なるほど」

 

 冬華は頷いた。

 

「でも、お二人とも無事でよかったです!」

 

「……へへっ!」

 

 恋次が笑った。

 

「次はもっと上手くやってみせますよ!」

 

「……はい!」

 

 冬華は嬉しそうに微笑んだ。

 

「期待しています!」

 

 その隣では、弓親が髪を整えていた。

 

「……僕の方も、少々面倒な相手だったよ」

 

「綾瀬川さん!」

 

「でも、以前よりは落ち着いて対応できたかな」

 

 弓親は優雅に微笑んだ。

 

「日番谷隊長の特訓のおかげかもしれないね」

 

「……ふふっ!」

 

 冬華が笑う。

 

「それなら、よかったです!」

 

「……それより!」

 

 乱菊が冬華へ近づいた。

 

「冬華ちゃんこそ、大丈夫だったの?」

 

「……はい!」

 

 冬華は頷いた。

 

「ルピさんという第六十刃と戦いましたが、無事に勝てました!」

 

「……第六十刃!?」

 

 恋次が目を丸くする。

 

「また十刃と戦ったんスか!?」

 

「……はい!」

 

「……で、どうなったんだ?」

 

 一角が興味深そうに尋ねる。

 

「六衣氷結陣で凍結させたのですが、別の破面に救出されてしまいました」

 

「……は?」

 

 恋次が固まった。

 

「……帰刃は?」

 

「使っていましたよ!」

 

「…………」

 

 恋次が額を押さえた。

 

「……マジかよ」

 

 一角が豪快に笑った。

 

「はっ! やっぱり隊長さんは強えな!」

 

「……えへへ」

 

 冬華は少し照れたように笑った。

 

「ありがとうございます!」

 

 すると。

 

「……いやぁ」

 

 浦原が歩いてきた。

 

「皆さん、お疲れさまでした」

 

「……浦原さん!」

 

 冬華が振り返る。

 

「今回は、ありがとうございました!」

 

「いえいえ」

 

 浦原は扇子を広げた。

 

「アタシは何もしてませんからね」

 

「……ふふっ!」

 

 冬華が微笑む。

 

「それでも、見守ってくださっていたのでしょう?」

 

「……おや」

 

 浦原が目を細めた。

 

「バレてましたか」

 

「はい!」

 

 冬華は元気よく頷いた。

 

「浦原さんの霊圧、感じていましたから!」

 

「……いやぁ、参りましたねぇ」

 

 浦原は苦笑した。

 

 そして、冬華へ視線を向ける。

 

「それにしても、帰刃した十刃を始解だけで封じ込めるとは」

 

「……えっ?」

 

「想像以上でしたよ、日番谷隊長」

 

「……あ、ありがとうございます!」

 

 冬華が少し照れたように笑う。

 

 しかし。

 

 浦原の表情は、すぐに真剣なものへ変わった。

 

「……ただ」

 

「……はい?」

 

「今回の襲撃、少し妙なんスよね」

 

「……妙?」

 

「ええ」

 

 浦原は閉じた扇子を顎に当てた。

 

「これだけの戦力を投入しておきながら、引き際が早すぎる」

 

「…………」

 

 冬華の表情が変わった。

 

 確かに、そうだった。

 

 ルピは完全に凍結した。

 

 ヤミーたちも、戦闘を途中で切り上げている。

 

 まるで。

 

(……最初から、別の目的があったような)

 

 冬華の胸に、嫌な予感が広がった。

 

「……浦原さん」

 

「……はい?」

 

「井上さんは、今どちらに?」

 

「……井上サン?」

 

 浦原が目を細める。

 

「確か、尸魂界から現世へ戻る予定だったはずですが……」

 

「……っ!」

 

 冬華の心臓が、大きく跳ねた。

 

 その瞬間。

 

 ――ピピピッ!

 

 伝令機が鳴り響いた。

 

「……こちら日番谷です!」

 

『日番谷隊長!』

 

 通信の向こうから、緊迫した声が響く。

 

『緊急報告です!』

 

「……何がありましたか?」

 

『井上織姫の所在が確認できません!』

 

「…………え?」

 

 冬華の動きが止まった。

 

『尸魂界から現世へ帰還する途中、消息が途絶えました!』

 

「…………」

 

 周囲の音が、遠ざかっていく。

 

 乱菊が何かを言っている。

 

 恋次も驚いた表情を浮かべている。

 

 しかし、冬華の耳には入らなかった。

 

(……井上さんが)

 

 知っていた。

 

 藍染が、織姫の能力に目をつけることを。

 

 だからこそ、警戒していた。

 

 だが。

 

 今回の襲撃。

 

 十刃たちの出現。

 

 そして、突然の撤退。

 

 すべてが、一つにつながっていく。

 

(……陽動)

 

 冬華は、ぎゅっと拳を握り締めた。

 

 敵の戦力を迎え撃つことに集中していた。

 

 その間に、別の場所で本当の目的を果たされていたのだ。

 

「……日番谷隊長?」

 

 浦原が静かに声をかける。

 

 冬華は顔を上げた。

 

 その翡翠色の瞳には、先ほどまでの柔らかな笑みはなかった。

 

「……浦原さん」

 

「……はい」

 

「今回の襲撃について、詳しく調べる必要があります」

 

 冬華は静かに告げた。

 

「……井上さんが、狙われた可能性があります」

 

「…………」

 

 浦原の瞳が細められた。

 

「……なるほど」

 

 冬華は空を見上げた。

 

 先ほどまで、破面たちがいた空。

 

 そこにはもう、黒腔の痕跡すら残っていない。

 

(……井上さん)

 

 胸の奥が、きゅっと締めつけられた。

 

 昨夜まで、同じ家で笑い合っていた少女。

 

 強くて、優しくて、少し不思議なところもある、大切な友人。

 

 その姿が、脳裏に浮かぶ。

 

「…………」

 

 冬華は静かに息を吸った。

 

 そして。

 

「……必ず、見つけます」

 

 小さく呟いた。

 

 その声は、決して大きくなかった。

 

 けれど、確かな決意が込められていた。

 

 破面との戦いは、まだ終わっていない。

 

 むしろ。

 

 本当の戦いは、これから始まるのかもしれない。

 

 ――第34話『破面再襲撃』・完。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
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