現世、空座町。
「……井上さんが、虚圏へ?」
日番谷冬華は、伝令機から告げられた報告に眉をひそめた。
『はい。断界の通行記録と残留霊圧を調査した結果、破面による接触があった可能性が極めて高いと判明しました』
「……そうですか」
冬華は静かに目を伏せた。
やはり、そうなってしまった。
藍染惣右介。
彼が井上織姫の能力に目をつけることは、前世の記憶から知っていた。
だからこそ、警戒していたのだ。
しかし、結果は変わらなかった。
(……私が、もう少し注意していれば)
ぎゅっと拳を握り締める。
だが、いつまでも後悔しているわけにはいかない。
「分かりました。引き続き調査をお願いします」
『了解しました!』
通信が切れる。
「……冬華ちゃん」
隣にいた松本乱菊が、心配そうに顔を覗き込んだ。
「大丈夫?」
「……はい」
冬華は小さく頷いた。
「少し、悔しいだけです」
「……そう」
乱菊はそれ以上追及しなかった。
代わりに、冬華の肩へそっと手を置く。
「まだ、助けられないって決まったわけじゃないわ」
「……!」
「織姫ちゃんは強い子よ。きっと、私たちが迎えに行くまで頑張ってくれるわ」
「……そうですね」
冬華は顔を上げた。
その翡翠色の瞳に、再び光が宿る。
「ありがとうございます、松本さん!」
「ふふっ。どういたしまして!」
その時だった。
「――冬華姉ちゃん!」
聞き慣れた声が響いた。
振り返ると、黒崎一護が駆け寄ってくるところだった。
「一護さん!」
「井上がいなくなったって、本当か!?」
「……はい」
冬華は頷いた。
「現在、尸魂界が詳しい状況を調査しています。ただ、破面が関与している可能性が高いそうです」
「……くそっ!」
一護が歯を食いしばった。
「俺が……もっと早く気づいてりゃ……!」
「一護さん」
冬華は静かに声をかけた。
「自分を責めないでください」
「……でもよ!」
「井上さんがいなくなったことは、私も悔しいです」
冬華は一護の目をまっすぐに見つめた。
「ですが、今は助ける方法を考えましょう」
「…………」
一護はしばらく黙っていた。
やがて、ゆっくりと頷く。
「……ああ」
その拳には、強い力が込められていた。
「絶対に助ける」
「……はい!」
冬華も頷いた。
「私も、そのつもりです!」
◇
それから間もなく。
尸魂界から、現世先遣隊に帰還命令が下された。
藍染による破面の活動が活発化していること。
井上織姫が虚圏へ連れ去られた可能性が高いこと。
そして、今後の対応を護廷十三隊全体で協議する必要があること。
それらを理由として、山本元柳斎重國総隊長が先遣隊の帰還を命じたのだ。
「……帰るのかよ」
事情を聞いた一護が、険しい表情を浮かべた。
「井上がいなくなったってのに?」
「……はい」
冬華は申し訳なさそうに頷いた。
「私たちは護廷十三隊の隊士です。総隊長の命令には従わなければなりません」
「……っ!」
一護が拳を握る。
「じゃあ、井上はどうすんだよ!」
「……一護さん」
冬華は一歩近づいた。
「私は、井上さんを見捨てるつもりはありません」
「……!」
「ただ、今すぐ虚圏へ向かっても、敵の戦力や配置が分からない状態では危険です」
「そんなこと言ってる間に、井上が……!」
「……分かっています」
冬華の声が、少しだけ強くなった。
「私だって、今すぐ助けに行きたいです」
「…………」
「ですが、私は隊長です。自分の気持ちだけで、仲間たちを危険にさらすわけにはいきません」
一護は何も言わなかった。
冬華は少しだけ表情を和らげる。
「尸魂界へ戻ったら、私からも総隊長へ進言します」
「……冬華姉ちゃん」
「ですから、もう少しだけ待っていてください」
「…………」
一護はしばらく冬華を見つめていた。
やがて、小さく息を吐く。
「……分かった」
「……!」
「冬華姉ちゃんがそう言うなら、信じる」
その言葉に、冬華は嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます!」
だが。
一護の瞳に宿る決意が、消えていないことにも気づいていた。
(……一護さん)
彼が大切な仲間を見捨てるはずがない。
それは、誰よりもよく知っている。
◇
尸魂界、瀞霊廷。
一番隊隊舎。
広い会議室には、護廷十三隊の隊長たちが集まっていた。
その中央。
日番谷冬華は、山本元柳斎重國の前に立っていた。
「――以上が、現世における破面の活動状況です」
冬華が報告を終える。
山本は静かに目を閉じていた。
「……ふむ」
やがて、ゆっくりと口を開く。
「新たな第六十刃、ルピ・アンテノールか」
「はい」
「帰刃した相手を、始解のみで封じたというのじゃな」
「……はい。ただ、別の破面に救出されてしまいました」
「それでも十分な戦果じゃ」
山本は杖を鳴らした。
「よくぞ現世の被害を抑えた」
「ありがとうございます!」
冬華は頭を下げた。
その隣では、京楽春水が笠の下で微笑んでいた。
「いやぁ、冬華ちゃんもすっかり頼もしくなったねぇ」
「京楽隊長!」
「帰刃した十刃を始解だけで、か。僕も負けていられないなぁ」
「……もう、からかわないでください!」
冬華が少し頬を膨らませる。
京楽は楽しそうに笑った。
だが、山本が杖を鳴らすと、室内は再び静まり返った。
「……問題は、井上織姫の件じゃ」
その言葉に、冬華の表情が引き締まる。
「調査の結果、井上織姫は破面と接触した後、虚圏へ移動した可能性が極めて高い」
山本は隊長たちを見渡した。
「藍染が何を企んでおるかは分からぬ。じゃが、奴の目的が崩玉に関係しておることは間違いあるまい」
「……総隊長」
冬華が口を開いた。
「井上さんの救出については、どのようにお考えでしょうか?」
「現時点で、虚圏への救出部隊は派遣せぬ」
「……!」
「藍染との決戦に備え、戦力を整えることが最優先じゃ」
「……ですが!」
冬華は思わず声を上げた。
「井上さんは、私たちの仲間です!」
「分かっておる」
山本の声は厳しかった。
「じゃが、敵の本拠地へ不用意に踏み込めば、藍染の思う壺となろう」
「…………」
冬華は唇を結んだ。
その判断が、間違っているとは言えない。
藍染は極めて危険な敵だ。
しかも、虚圏には複数の十刃が存在している。
準備もなく突入すれば、甚大な被害が出る可能性がある。
(……それでも)
冬華は拳を握り締めた。
織姫を見捨てるという選択だけは、したくなかった。
しかし、ここで感情的になっても意味はない。
冬華は静かに息を整えた。
「……承知しました」
山本が目を開く。
「……うむ」
「ですが、状況が変わった際には、救出部隊の派遣を再検討していただけますか?」
「必要と判断すれば、当然じゃ」
「……ありがとうございます!」
冬華は深く頭を下げた。
そして。
「総隊長。もう一つ、よろしいでしょうか?」
「……申せ」
「破面への対応について、提案があります」
その言葉に、何人かの隊長が冬華へ視線を向けた。
「……破面への対応?」
砕蜂が眉をひそめる。
「何を提案するつもりだ、日番谷隊長」
「はい」
冬華は背筋を伸ばした。
「今後、藍染との戦闘が本格化すれば、十刃を含む多数の破面と交戦することになると思います」
「当然だろう」
「ですが……」
冬華は一度言葉を区切った。
「藍染を討つことと、その配下の破面を全員殺すことは、必ずしも同じではないと思うのです」
「……ほう?」
京楽が興味深そうに目を細めた。
一方、砕蜂は険しい表情を浮かべる。
「敵を生かせと?」
「無条件に、という意味ではありません」
冬華は首を振った。
「戦意を失った者や、降伏した者については、可能な範囲で捕縛を優先できないかと考えています」
「……理由を聞こう」
山本が告げた。
「はい」
冬華は頷いた。
「虚圏には、数え切れないほどの虚が存在しています。その中でも十刃は、特に強大な力を持つ存在です」
室内を見渡す。
「もし、その上位戦力が一斉に失われれば、虚圏の勢力構造が大きく変化する可能性があります」
「……なるほどねぇ」
京楽が呟いた。
「力の空白ができれば、別の連中が暴れ始めるかもしれないってことかい?」
「はい!」
冬華は頷いた。
「虚圏の混乱が現世に波及する可能性もあります。魂魄の循環や三界の均衡に、どのような影響が出るのかも分かりません」
「……ふむ」
浮竹十四郎が静かに口を開いた。
「確かに、虚圏の秩序が大きく崩れれば、現世にも影響が及ぶかもしれないね」
「ですが」
冬華は続けた。
「もちろん、仲間の命を危険にさらしてまで敵を助けるべきだとは思いません」
その翡翠色の瞳が、まっすぐ山本を見つめる。
「ただ、殺さずに制圧できる相手まで、必ず討伐する必要はないのではないでしょうか」
「…………」
会議室に沈黙が落ちた。
やがて。
「……くだらねえ」
更木剣八が鼻を鳴らした。
「敵が斬りかかってきたら斬る。それだけだろうが」
「……ふふっ」
冬華は少し困ったように笑った。
「更木隊長には、少し難しいお願いかもしれませんね」
「あ?」
「いえ、何でもありません!」
京楽が肩を震わせた。
「……くくっ」
「笑うんじゃねえよ、京楽!」
「いやぁ、ごめんごめん」
そんなやり取りの後。
山本が、静かに口を開いた。
「……日番谷冬華」
「はい!」
「貴様の懸念は理解した」
「……!」
「じゃが、護廷十三隊の使命は三界の守護じゃ。敵への情けによって味方を失うことは、断じて許されぬ」
「……はい」
「その上で」
山本は杖を強く鳴らした。
「戦意を失った者、あるいは降伏した者については、状況に応じて捕縛を認める」
「……!」
「ただし、敵が抵抗を続ける場合は躊躇するな。味方の安全を最優先とせよ」
「……はい!」
冬華の表情が明るくなった。
「ありがとうございます、総隊長!」
「礼を言う必要はない」
山本は静かに目を閉じた。
「貴様も隊長ならば、その判断に責任を持て」
「……承知しました!」
冬華は深く頭を下げた。
(……これで)
少なくとも、道は開けた。
すべての破面を救えるわけではない。
そもそも、救った相手が味方になる保証もない。
それでも。
来たるべき戦いに備えるために。
できることは、一つずつ積み重ねていくしかない。
◇
それから、数日が経過した。
瀞霊廷、十番隊隊舎。
「……はあ」
冬華は机に向かいながら、小さくため息をついた。
目の前には、現世から届いた報告書が置かれている。
黒崎一護。
石田雨竜。
茶渡泰虎。
三人が、浦原喜助の協力によって虚圏へ向かったという報告だった。
「……やっぱり、行ってしまいましたか」
冬華は苦笑した。
予想はしていた。
一護が織姫を見捨てるはずがない。
たとえ尸魂界から止められたとしても、きっと自分の意思で助けに向かう。
(……本当に、一護さんらしいですね)
その行動力は、一護の長所でもあり、危うさでもある。
冬華は報告書を閉じた。
「……無茶だけは、しないでくださいね」
小さく呟く。
しかし、虚圏へ向かった一護たちの戦いは、すでに始まっていた。
やがて、尸魂界にも断片的な情報が届くようになる。
虚夜宮への侵入。
十刃との交戦。
そして、戦況の悪化。
その報告を受けるたび、冬華の胸には焦りが募っていった。
(……そろそろ、ですね)
冬華は窓の外を見つめた。
今、自分ができることは限られている。
だが。
その時は、確実に近づいていた。
◇
さらに時が流れた、ある日。
――コンコン。
「……はい?」
隊長室の扉が叩かれた。
「日番谷隊長! 一番隊より緊急の召集命令です!」
「……!」
冬華は椅子から立ち上がった。
「分かりました! すぐに向かいます!」
背中の二本の氷輪丸を確認する。
そして、白い隊長羽織を翻した。
(……来ましたか!)
◇
一番隊隊舎。
冬華が到着すると、そこにはすでに数人の隊長が集まっていた。
十一番隊隊長、更木剣八。
四番隊隊長、卯ノ花烈。
十二番隊隊長、涅マユリ。
さらに、それぞれの隊に所属する隊士たちの姿もある。
「……おや」
卯ノ花が冬華へ微笑みかけた。
「日番谷隊長。お久しぶりですね」
「卯ノ花隊長!」
冬華も笑顔で頭を下げる。
「お久しぶりです!」
「お元気そうで何よりです」
「はい!」
その隣では、更木が退屈そうに肩を回していた。
「……おい、日番谷」
「はい?」
「てめえも呼ばれたのか」
「そうみたいですね!」
「……へっ」
更木が笑う。
「面白えことになりそうじゃねえか」
「……ふふっ」
冬華は苦笑した。
「更木隊長は、いつも楽しそうですね」
「当たり前だろ」
その時。
「……まったく」
涅マユリが不機嫌そうに口を開いた。
「私の研究を中断させてまで呼び出すとは、よほど重要な用件なのだろうネ」
「……涅隊長」
冬華が挨拶する。
「お久しぶりです!」
「……フン」
マユリは一瞥しただけだった。
その後ろでは、涅ネムが静かに頭を下げる。
「日番谷隊長」
「ネムさん!」
冬華はにっこりと微笑んだ。
「お久しぶりです!」
ネムも小さく頷いた。
やがて。
――ドンッ!
山本の杖が床を打った。
「……揃ったようじゃな」
室内が静まり返る。
「此度、貴様らを召集した理由は一つ」
山本はゆっくりと目を開いた。
「虚圏へ向かった黒崎一護らの救援じゃ」
「……!」
冬華の瞳が輝いた。
「虚圏では、すでに複数の十刃との交戦が確認されておる」
山本は続けた。
「このまま放置すれば、黒崎一護らが全滅する可能性もある」
「……総隊長!」
冬華が一歩前へ出た。
「救援部隊として、私も参加させていただけるのですね?」
「……うむ」
山本が頷いた。
「貴様には、現世での破面との交戦経験がある。十刃を相手にした実績も十分じゃ」
「……はい!」
「更木剣八。卯ノ花烈。涅マユリ。そして、日番谷冬華」
山本は四人を見渡した。
「貴様ら四名を、虚圏救援部隊として派遣する」
「……承知しました!」
冬華は力強く答えた。
その隣で、更木が獰猛に笑う。
「……へっ! ようやく暴れられるぜ!」
「やれやれ」
マユリが肩をすくめる。
「虚圏の研究材料が手に入るのなら、悪い話ではないがネ」
卯ノ花は静かに微笑んでいた。
「負傷者の治療は、お任せください」
山本は頷いた。
「各自、準備を整えよ」
「はい!」
冬華は深く頭を下げた。
そして、胸の奥で小さく呟く。
(……待っていてください)
一護さん。
井上さん。
そして、ルキアさん。
(……今度こそ、助けに行きます!)
◇
出撃準備を終えた冬華が、一番隊隊舎の廊下を歩いていた時だった。
「――日番谷隊長」
「……?」
聞き覚えのある声に、冬華は足を止めた。
振り返る。
そこには、六番隊隊長の朽木白哉が立っていた。
「朽木隊長!」
冬華は笑顔で頭を下げる。
「どうかなさいましたか?」
「……虚圏へ向かうそうだな」
「はい!」
冬華は頷いた。
「これから出発します!」
「……そうか」
白哉は静かに目を伏せた。
しばらく、沈黙が流れる。
「……?」
冬華が首を傾げた。
「朽木隊長?」
「…………」
白哉はゆっくりと口を開いた。
「……ルキアのことだ」
「……!」
冬華の表情が変わる。
「……はい」
「奴は、虚圏へ向かった黒崎一護らに同行している」
「……承知しています」
「……そうか」
白哉は短く答えた。
そして。
「……日番谷隊長」
「はい!」
その鋭い瞳が、冬華をまっすぐに見つめた。
「ルキアのことを、頼む」
「…………!」
冬華は目を見開いた。
朽木白哉。
護廷十三隊六番隊隊長。
常に冷静で、感情を表に出すことの少ない人物。
そんな彼が。
自分に、妹のことを託している。
「……朽木隊長」
冬華は柔らかく微笑んだ。
「はい!」
そして、胸を張る。
「必ず、ルキアさんを連れて帰ります!」
「…………」
「ですから、安心して待っていてください!」
白哉はしばらく冬華を見つめていた。
やがて。
「……頼んだ」
短く告げる。
それだけだった。
だが、その言葉には確かな信頼が込められていた。
「……はい!」
冬華は力強く頷いた。
白哉が背を向ける。
その後ろ姿を見送りながら、冬華は小さく微笑んだ。
(……任せてください、朽木隊長)
大切な妹さんは。
(……必ず、守りますから!)
◇
瀞霊廷、転送施設。
虚圏への出撃準備は、すでに整っていた。
空間には、黒腔へとつながる不気味な裂け目が開いている。
「……おお!」
冬華は目を輝かせた。
「これが、虚圏への入口ですか!」
「……おいおい」
更木が呆れたように笑う。
「遠足じゃねえんだぞ」
「……分かっていますよ!」
冬華は少し頬を膨らませた。
「初めて見るので、少し興味があっただけです!」
「……へっ!」
更木は楽しそうに笑った。
その肩には、草鹿やちるが乗っている。
「ねえねえ、とうか!」
「はい、やちるさん!」
「向こうには強い奴、いっぱいいるかな?」
「……そうですね」
冬華は少し考える。
「少なくとも、更木隊長が満足できそうな相手はいると思いますよ!」
「やったー!」
やちるが嬉しそうに声を上げた。
「けんちゃん! 楽しみだね!」
「……ああ!」
更木も獰猛に笑った。
一方。
「……皆さん」
卯ノ花が穏やかに声をかけた。
「負傷した場合は、無理をせず私たちのところへ来てくださいね」
「はい!」
冬華は元気よく頷いた。
その隣では、虎徹勇音が緊張した表情で立っている。
「日番谷隊長、よろしくお願いします!」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
冬華は笑顔で答えた。
少し離れた場所では、マユリがネムに何かを指示していた。
「……まったく」
マユリが不機嫌そうに呟く。
「無駄話はそのくらいにしたまえヨ」
「……あっ!」
冬華が振り返る。
「すみません!」
「フン」
マユリは鼻を鳴らした。
そして、黒腔へ視線を向ける。
「さっさと行くぞ」
「……はい!」
冬華は頷いた。
背中には、二本の氷輪丸。
右には、自分自身の氷輪丸。
左には、草冠宗次郎から託された氷輪丸。
どちらも、長い年月をともに歩んできた大切な相棒だ。
「…………」
冬華は静かに目を閉じた。
虚圏。
藍染惣右介が支配する、虚たちの世界。
そこには、強大な十刃が待ち受けている。
何が起こるか分からない。
だが、今は迷っている場合ではなかった。
冬華は目を開いた。
翡翠色の瞳に、確かな決意が宿る。
「……よし!」
小さく気合を入れる。
そして。
「――行きましょう!」
冬華は白い隊長羽織を翻した。
その隣で、更木が笑う。
「……へっ! 置いてくんじゃねえぞ!」
「更木隊長こそ、勝手に先へ行かないでくださいね!」
「そいつは約束できねえな!」
「……もう!」
冬華が苦笑する。
卯ノ花は穏やかに微笑み、マユリは呆れたように歩き始めた。
四人の隊長。
そして、彼らに同行する隊士たち。
護廷十三隊の精鋭が、次々と黒腔へ足を踏み入れていく。
冬華も、その後に続いた。
足元に広がるのは、暗い空間。
その先には、未知の戦場が待っている。
(……一護さん)
(……井上さん)
(……ルキアさん)
冬華は静かに微笑んだ。
(……今、行きますからね!)
そして。
その小さな背中が、闇の向こうへ消えていった。
――第35話『虚圏へ』・完。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
引き続きよろしくお願いします!