虚圏、虚夜宮。
――ザッ。
「……ここが、虚圏ですか」
黒腔を抜けた日番谷冬華は、目の前に広がる光景を見つめた。
どこまでも続く白い砂。
頭上には、夜空のような漆黒の空間。
そして、その中央にそびえ立つ巨大な白亜の宮殿。
虚夜宮。
藍染惣右介が本拠地としている、虚たちの城だった。
「……随分と殺風景なところですね」
「へっ。景色なんざどうでもいい」
隣で、更木剣八が獰猛に笑った。
「強え奴がいりゃ、それで十分だ!」
「……更木隊長らしいですね」
冬華は苦笑する。
「ねえねえ、とうか!」
更木の肩に乗った草鹿やちるが、楽しそうに身を乗り出した。
「ここ、すっごく広いね!」
「そうですね!」
「迷子になりそう!」
「……やちるさんは、特に気をつけてくださいね?」
「えへへ!」
そんなやり取りをしていると。
「……皆さん」
卯ノ花烈が穏やかに声をかけた。
「まずは、負傷している方々の救出を優先しましょう」
「はい!」
冬華は表情を引き締めた。
今回の目的は、黒崎一護たちの救援。
そして、井上織姫の保護だ。
敵の本拠地である以上、何が起こるか分からない。
「……それでは、手分けしましょうか」
「そうですね」
卯ノ花が頷く。
その隣では、涅マユリが不機嫌そうに周囲を見渡していた。
「……まったく。随分と趣味の悪い建築物だネ」
「涅隊長?」
「フン。私は私の目的を果たすだけだヨ」
そう言うと、マユリはネムを伴って歩き始めた。
「……あっ、涅隊長!」
「何かネ?」
「お気をつけて!」
「……余計なお世話だヨ」
マユリは振り返ることなく去っていった。
「……ふふっ」
冬華は小さく笑った。
その直後。
「――おい、日番谷!」
「はい?」
更木が肩越しに振り返った。
「てめえはどっちに行く?」
「私は、ルキアさんを探します」
「……そうかよ」
更木は口元を吊り上げた。
「なら、俺は別のところに行くぜ!」
「……更木隊長!」
「あ?」
「救援が目的だということ、忘れないでくださいね!」
「分かってるっての!」
「……本当でしょうか」
冬華が疑わしそうに見つめると、更木は豪快に笑った。
「じゃあな!」
「とうか、またねー!」
「はい! やちるさんもお気をつけて!」
二人が去っていく。
冬華はその背中を見送ってから、卯ノ花へ向き直った。
「卯ノ花隊長」
「はい」
「ルキアさんの霊圧を探してみます。もし重傷を負っていた場合は、治療をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「もちろんです」
卯ノ花は優しく微笑んだ。
「見つけたら、知らせてください」
「ありがとうございます!」
冬華は深く頭を下げた。
そして。
「……では、行ってきます!」
――シュンッ!
銀白色の髪をなびかせ、小さな身体が消えた。
◇
虚夜宮、内部。
白い回廊を、一筋の影が駆け抜けていく。
「……っ!」
冬華は瞬歩を繰り返しながら、周囲の霊圧を探っていた。
広い。
想像以上に、虚夜宮は広大だった。
しかも、あちこちで戦闘が行われているらしく、複数の強い霊圧が入り乱れている。
(……一護さんたちは、どこに……)
その時。
「……!」
冬華の足が止まった。
微かに感じる、覚えのある霊圧。
それは。
「……ルキアさん!?」
冬華の表情が変わった。
弱い。
あまりにも、弱すぎる。
まるで、今にも消えてしまいそうなほどに。
「……っ!」
冬華は床を蹴った。
――ドンッ!
凄まじい速度で回廊を駆け抜ける。
(……お願いです!)
間に合って。
その一心で、冬華は走った。
◇
虚夜宮、ある一室。
白い床に、一人の少女が倒れていた。
朽木ルキア。
十三番隊に所属する死神。
その身体には、深い傷が刻まれている。
アーロニーロ・アルルエリとの戦闘によって負った傷だった。
そして。
その傍らに、一人の破面が立っていた。
褐色の肌。
額に並ぶ奇妙な紋様。
静かな表情を浮かべた男。
第七十刃。
ゾマリ・ルルー。
「……死神か」
ゾマリは倒れたルキアを見下ろした。
「すでに戦闘不能。ならば、ここで始末しておくべきだろう」
ゆっくりと刀を持ち上げる。
その刃が、ルキアへ向けられた。
そして。
――ヒュンッ!
「――そこまでです!」
甲高い金属音が響いた。
――キィンッ!
「……何?」
ゾマリの刀が、弾かれる。
次の瞬間。
倒れたルキアの前に、小柄な少女が立っていた。
銀白色の髪。
翡翠色の瞳。
白い隊長羽織。
そして、両手に握られた二本の斬魄刀。
「……間に合いました」
冬華は小さく息を吐いた。
その視線が、倒れたルキアへ向けられる。
「……ルキアさん」
ひどい傷だった。
すぐに治療が必要だ。
しかし。
今は、目の前の敵を退けなければならない。
「……貴様」
ゾマリが静かに口を開いた。
「何者だ?」
冬華は顔を上げた。
「護廷十三隊、十番隊隊長」
二本の氷輪丸を構える。
「日番谷冬華です!」
「……隊長か」
ゾマリの目が細められた。
「なるほど。救援が来たというわけか」
「はい」
冬華は頷いた。
「その方を連れて帰ります。邪魔をしないでいただけますか?」
「……愚かな」
ゾマリは刀を構え直した。
「ここは藍染様の城。侵入者を見逃す理由などない」
「……そうですか」
冬華は小さく息を吐く。
「でしたら、仕方ありませんね」
翡翠色の瞳が鋭くなる。
「――お相手します!」
◇
――シュンッ!
先に動いたのは、ゾマリだった。
その姿が、一瞬で消える。
「……!」
冬華の瞳が動いた。
右。
――キィンッ!
鋭い斬撃を、右手の氷輪丸で受け止める。
「……ほう」
ゾマリが小さく呟いた。
「私の響転を見切るか」
「……速いですね!」
冬華は微笑んだ。
しかし、次の瞬間。
左手の氷輪丸が閃く。
――ヒュンッ!
「……!」
ゾマリが後方へ跳んだ。
その頬を、一筋の赤い線が走る。
「……何?」
指先で傷に触れる。
血が付着していた。
「……私に傷を?」
「すみません」
冬華は二本の刀を構え直した。
「ですが、こちらも急いでいるので!」
――シュンッ!
冬華が消えた。
「……!」
ゾマリの目が見開かれる。
背後。
――キィンッ!
振り返りざまに刀を合わせる。
しかし。
――ガキンッ!
「……ぐっ!」
二撃目が、ほとんど同時に襲いかかった。
ゾマリの身体が後方へ弾かれる。
「……馬鹿な」
着地したゾマリが、冬華を睨んだ。
「私の響転を……上回るだと?」
「……ふふっ」
冬華は小さく笑った。
「速さには、少し自信があるんです!」
「……思い上がるな!」
ゾマリの姿が揺らぐ。
次の瞬間。
その身体が、二つに分かれた。
「……!」
「――双児響転」
二人のゾマリが、同時に冬華へ迫る。
左右から繰り出される斬撃。
しかし。
――キィンッ! キィンッ!
冬華は二本の氷輪丸で、それぞれの攻撃を受け止めた。
「……なるほど!」
冬華の瞳が輝く。
「面白い技ですね!」
「……何?」
「ですが!」
冬華の足元に、霊圧が集中する。
――ドンッ!
「……っ!?」
次の瞬間。
冬華は、二人のゾマリの間から姿を消した。
そして。
「――こちらです!」
――ガキィンッ!
本体のゾマリが、背後からの斬撃を辛うじて受け止める。
「……ぐっ!」
だが、もう一本。
左手の氷輪丸が、その脇腹を浅く切り裂いた。
「……っ!」
ゾマリが大きく距離を取る。
分身が消えた。
「……あり得ん」
その表情に、初めて明確な動揺が浮かんでいた。
「私の響転は、十刃最速……!」
「……そうなのですか?」
冬華は少し首を傾げた。
「ですが、私の瞬歩の方が速いみたいですね」
「……っ!」
ゾマリの表情が歪む。
冬華は静かに刀を構え直した。
「……まだ、続けますか?」
「……当然だ」
ゾマリが低く答えた。
「藍染様に仕える私が、貴様ごときに敗れるわけにはいかん」
そして。
ゆっくりと刀を持ち上げる。
「……見せてやろう」
その霊圧が、急激に膨れ上がった。
「――鎮まれ、呪眼僧伽」
――ゴオオオオッ!
「……!」
冬華は咄嗟に距離を取った。
凄まじい霊圧が、室内を満たしていく。
ゾマリの身体が変貌する。
下半身が巨大な球根のような形状となり、その全身に無数の眼が現れた。
「……これが、帰刃」
冬華は静かに呟いた。
ゾマリが笑う。
「……終わりだ、死神」
その眼の一つが、冬華へ向けられた。
「――愛(アモール)」
――ギンッ!
「……!」
冬華は瞬歩で横へ跳んだ。
直後。
背後の壁に、奇妙な眼の紋様が浮かび上がる。
「……これは」
冬華が目を細める。
「私の眼が捉えたものは、私の支配下に置かれる」
ゾマリが静かに告げた。
「貴様の身体も、例外ではない」
「……なるほど」
冬華は小さく頷いた。
「随分と厄介な能力ですね」
「理解したところで、逃れられはせん」
複数の眼が、一斉に冬華へ向けられる。
しかし。
「――氷輪丸!」
――ゴオオッ!
冬華の前方に、巨大な氷壁が出現した。
次の瞬間。
その表面に、いくつもの眼の紋様が浮かび上がる。
「……!」
冬華はそれを確認すると、即座に刀を振った。
――パキィンッ!
氷壁が砕け散る。
支配された氷が、無数の破片となって床へ落ちた。
「……ほう」
ゾマリが目を細める。
「私の能力を防いだか」
「……防いだというより」
冬華は静かに答えた。
「代わりに、氷を支配されたみたいですね」
氷を操るのは、冬華自身。
だが、アモールを受けた氷は、ゾマリの支配下に置かれる。
ならば。
(……支配された部分を、すぐに切り離せばいい)
冬華は二本の氷輪丸を構えた。
「……では、続けましょう!」
◇
――ゴオオオッ!
氷雪が吹き荒れる。
冬華は氷壁を次々と展開し、ゾマリの眼から放たれる支配攻撃を遮断していた。
しかし。
「……無駄だ!」
ゾマリが叫ぶ。
無数の眼が、異なる方向へ向けられる。
壁。
床。
天井。
次々と眼の紋様が浮かび上がっていく。
「……っ!」
冬華は瞬歩で移動しながら、周囲を見渡した。
支配された物体が増えている。
このままでは、戦場そのものがゾマリの武器になりかねない。
「……ならば!」
冬華が左手の氷輪丸を振るう。
「――竜霰架!」
――ゴオオオッ!
巨大な氷竜が、ゾマリへ向かって突進した。
「……愚かな!」
ゾマリの眼が、氷竜へ向けられる。
その頭部に、眼の紋様が浮かんだ。
だが。
「……今です!」
冬華が右手の氷輪丸を振り下ろす。
――パキィンッ!
氷竜の頭部が砕け散った。
支配された部分だけが切り離され、残る氷がゾマリの周囲へ広がる。
「……何!?」
ゾマリが目を見開く。
その瞬間。
冬華の姿が消えた。
――シュンッ!
「……っ!」
ゾマリが慌てて眼を動かす。
しかし、遅い。
「――縛道の八十一、断空!」
――ドンッ!
透明な障壁が、ゾマリの眼と冬華の間に出現した。
直後、障壁の表面に眼の紋様が浮かぶ。
「……!」
冬華は即座に障壁の維持を解き、さらに瞬歩で移動した。
(……鬼道の障壁でも、完全には防げませんか)
だが、攻撃を受け止める時間は稼げる。
それだけで十分だった。
「……貴様!」
ゾマリが声を荒らげる。
「なぜ、そこまで動ける!」
「……ふふっ」
冬華は微笑んだ。
「ずっと、修行してきましたから!」
――シュンッ!
再び姿が消える。
ゾマリの眼が追う。
だが、捉えられない。
右。
左。
背後。
天井。
冬華は瞬歩を繰り返しながら、ゾマリの周囲に氷を展開していく。
「……っ!」
ゾマリはようやく気づいた。
自分が、追い込まれていることに。
「……貴様、何を……!」
「……そろそろ、終わりにしましょうか」
冬華は静かに告げた。
その直後。
ゾマリの眼の一つが、倒れたルキアへ向けられた。
「……!」
冬華の表情が変わる。
「――させません!」
――ドンッ!
ルキアの前に、厚い氷壁が出現する。
その表面に、眼の紋様が浮かんだ。
冬華はすぐさま氷壁を砕き、別の氷壁を展開した。
「……貴様!」
ゾマリが叫ぶ。
「そこまでして、その死神を守るか!」
「……当然です!」
冬華はまっすぐに答えた。
「ルキアさんは、私の大切な仲間です!」
「……くだらん!」
ゾマリの眼が、一斉に冬華へ向けられる。
「ならば、まとめて支配してやろう!」
だが。
「……残念ですけど」
冬華は小さく微笑んだ。
「もう、準備はできています!」
――ゴゴゴゴッ!
「……何!?」
ゾマリの周囲で、床が凍りつき始めた。
壁。
天井。
そして、足元。
先ほどから冬華が展開していた氷が、一斉に成長する。
「……これは!」
ゾマリが目を見開いた。
逃げようとする。
しかし。
「――双竜氷獄!」
――ゴオオオオオッ!!
二匹の巨大な氷竜が、左右から襲いかかった。
「……馬鹿な!?」
ゾマリが眼を向ける。
だが、氷竜は複数の氷柱を巻き込みながら、その巨体でゾマリを包囲していた。
一部が支配されても、すべてを止めることはできない。
「……っ!」
逃げ道はない。
そして。
――ドォォォンッ!!
二匹の氷竜が、ゾマリを挟み込んだ。
「……ぐあああっ!!」
凄まじい冷気が爆発する。
床から伸びた氷柱が、ゾマリの身体を固定。
さらに、天井から降り注いだ氷が、その周囲を覆い尽くした。
――パキパキパキッ!
「……っ!?」
ゾマリが必死に身体を動かそうとする。
しかし、動かない。
巨大な氷の牢獄。
その中央に、ゾマリは完全に捕らえられていた。
「……終わりです」
冬華は静かに告げた。
そして、右手の氷輪丸を掲げる。
「……もう一つ」
――パキィンッ!
「……なっ!?」
ゾマリの全身に存在する眼。
その一つ一つを、薄い氷が覆い始めた。
額。
胸。
腕。
球根状の下半身。
すべての眼が、次々と氷によって塞がれていく。
「……や、やめろ!」
ゾマリが叫んだ。
「私の眼を……!」
「……安心してください」
冬華は静かに答えた。
「眼を傷つけるつもりはありません。ただ、能力を使えないようにしているだけです」
「……っ!」
最後の眼が、氷に覆われる。
――パキンッ!
そして。
静寂が訪れた。
◇
「……さて」
冬華は氷の牢獄へ近づいた。
ゾマリは身体を拘束されたまま、歯を食いしばっている。
「……もう勝負はつきました」
冬華は穏やかに告げた。
「降伏してください」
「……何?」
「これ以上、戦う必要はありません」
「……ふざけるな!」
ゾマリが怒鳴った。
「私に、死神へ降伏しろと言うのか!」
「……はい」
冬華は頷いた。
「あなたがこれ以上抵抗しないのであれば、命まで奪うつもりはありません」
「……戯言を!」
ゾマリが激しく身体を動かそうとする。
しかし、氷の拘束はびくともしない。
「私は……藍染様に忠誠を誓った身!」
「…………」
「貴様ら死神などに、屈するものか!」
冬華は静かにゾマリを見つめた。
その表情に、怒りはない。
「……そうですか」
小さく息を吐く。
「でしたら、しばらくそのままでいてください」
「……何?」
「降伏していただけない以上、拘束は解除できません」
冬華は氷輪丸を構え直した。
「ですが、すでに戦闘不能の相手を殺す必要もありませんから」
「……貴様!」
ゾマリが声を荒らげる。
「私を愚弄するつもりか!」
「いいえ」
冬華は首を振った。
「あなたが強いことは、十分に分かりました」
「……!」
「だからこそ、これ以上戦う必要はないと思うんです」
ゾマリは何も答えなかった。
ただ、悔しそうに歯を食いしばる。
冬華はその様子を確認すると、氷の拘束をさらに補強した。
能力を封じたとはいえ、相手は十刃。
油断するわけにはいかない。
「……これで、よし」
そして。
冬華は振り返った。
「――ルキアさん!」
◇
「……ルキアさん!」
冬華は倒れたルキアの傍らへ駆け寄った。
膝をつき、傷の状態を確認する。
「……ひどい」
胸元には深い傷。
霊圧も、著しく弱まっている。
しかし。
「……よかった」
冬華は小さく息を吐いた。
まだ、生きている。
すぐに治療すれば、助かるはずだ。
「……ルキアさん」
そっと肩へ手を添える。
「もう大丈夫ですよ」
その時。
「……う……」
「……!」
ルキアの唇が、微かに動いた。
「……にい……さま……」
冬華の目が見開かれる。
「……ルキアさん!」
「……にい……さま……?」
うっすらと、ルキアの目が開いた。
しかし、そこにいたのは兄ではなかった。
銀白色の髪。
翡翠色の瞳。
見覚えのある、可憐な少女。
「……ひつ……がや……隊長……?」
「……はい!」
冬華は嬉しそうに微笑んだ。
「助けに来ました!」
「……なぜ……ここに……」
「救援部隊として、虚圏へ来たんです」
「……そう……か……」
ルキアの表情が、僅かに和らいだ。
「……すま……ない……」
「……謝らないでください!」
冬華は首を振った。
「今は、ゆっくり休んでください」
「…………」
「必ず、助けますから」
ルキアは何かを言おうとした。
しかし、そのまま再び意識を失った。
「……ルキアさん」
冬華は静かに目を伏せた。
そして、伝令機を取り出す。
「――こちら、日番谷冬華です!」
通信をつなぐ。
「卯ノ花隊長、聞こえますか!」
『……はい。日番谷隊長』
穏やかな声が返ってきた。
「ルキアさんを発見しました!」
『……!』
「ですが、重傷です。すぐに治療が必要です!」
『分かりました。現在地を教えてください』
「はい!」
冬華は周囲の構造と霊圧の位置を確認し、場所を伝える。
『承知しました。勇音とともに向かいます』
「ありがとうございます!」
『日番谷隊長』
「はい?」
『それまで、朽木さんをお願いしますね』
「……はい!」
冬華は力強く頷いた。
「お任せください!」
通信が切れる。
冬華はルキアの傍らへ座り、傷口の状態を確認しながら、できる範囲で霊圧を安定させた。
回道の専門家ではない。
だが、応急処置程度なら行える。
「……もう少しだけ、頑張ってくださいね」
静かに声をかける。
その視線が、ふと氷の牢獄へ向けられた。
ゾマリは、依然として拘束されたままだ。
冬華は伝令機を操作し、捕縛した十刃についても報告を送った。
そして。
しばらくして。
「――日番谷隊長!」
「……!」
聞き慣れた声が響いた。
振り返ると、卯ノ花烈と虎徹勇音が駆け寄ってくるところだった。
「卯ノ花隊長!」
冬華は立ち上がった。
「こちらです!」
卯ノ花はすぐにルキアの傍らへ膝をついた。
「……これは」
その表情が、僅かに険しくなる。
「勇音」
「はい!」
「すぐに治療を始めます」
「承知しました!」
二人が回道を発動する。
淡い光が、ルキアの身体を包み込んだ。
「……卯ノ花隊長」
冬華が心配そうに声をかける。
「ルキアさんは……」
「……大丈夫です」
卯ノ花は優しく微笑んだ。
「間に合いましたよ」
「……!」
冬華の表情が明るくなる。
「……よかった!」
胸の奥から、安堵の息が漏れた。
その時。
「……ところで」
卯ノ花が、部屋の奥へ視線を向けた。
「日番谷隊長。あちらは……?」
「……あっ!」
冬華が振り返る。
そこには、巨大な氷の牢獄。
そして、その中に捕らえられたゾマリの姿があった。
「第七十刃、ゾマリ・ルルーです!」
「……十刃を?」
「はい!」
冬華は頷いた。
「戦闘不能にして、捕縛しました!」
「……まあ」
卯ノ花が僅かに目を見開く。
そして、穏やかに微笑んだ。
「さすがですね、日番谷隊長」
「……えへへ」
冬華は少し照れたように笑った。
「ありがとうございます!」
だが、すぐに表情を引き締める。
「能力が厄介なので、全身の眼を氷で封じています。拘束を解除する際は、十分に注意してください」
「分かりました」
卯ノ花が頷いた。
「こちらでも監視しておきましょう」
「ありがとうございます!」
冬華は深く頭を下げた。
そして、倒れたルキアへ視線を向ける。
「……ルキアさん」
その表情が、柔らかくなる。
(……約束、守れましたよ)
朽木隊長。
大切な妹さんは、無事です。
◇
ルキアの治療が始まったことを確認した冬華は、立ち上がった。
「……卯ノ花隊長」
「はい?」
「私は、他の皆さんを探しに行きます」
「……そうですね」
卯ノ花は頷いた。
「こちらは私たちに任せてください」
「はい!」
冬華は二本の氷輪丸を背中へ収めた。
そして、部屋の出口へ向かう。
だが。
その足が、ふと止まった。
「……!」
遠くから、強大な霊圧が伝わってきた。
一つではない。
複数の霊圧が、虚夜宮の奥で激しくぶつかり合っている。
その中に。
「……一護さん!」
冬華の瞳が見開かれた。
間違いない。
黒崎一護の霊圧だ。
しかし、その近くには、もう一つ。
冷たく、重く、底知れない霊圧が存在していた。
「……これは」
冬華の表情が引き締まる。
明らかに、これまでの破面とは違う。
相当な実力者だ。
「……卯ノ花隊長!」
「はい」
「一護さんの霊圧を見つけました!」
「……!」
「かなり強い敵と交戦しているようです。私、向かいます!」
卯ノ花は静かに頷いた。
「お気をつけて」
「はい!」
冬華は笑顔を見せた。
そして。
「――行ってきます!」
――シュンッ!
銀白色の髪が翻る。
白い隊長羽織をなびかせ、小さな身体が回廊の向こうへ消えていった。
向かう先は、虚夜宮の奥。
そこでは今、一護たちの新たな戦いが始まろうとしていた。
(……待っていてください、一護さん!)
冬華は速度を上げた。
(……すぐに行きますから!)
――第36話『呪眼僧伽』・完。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
引き続きよろしくお願いします!