虚圏、虚夜宮。
――ドォォォンッ!!
凄まじい轟音とともに、白亜の壁が砕け散った。
「――ぐあっ!!」
黒崎一護の身体が、瓦礫の中へ叩きつけられる。
その顔には、白い仮面。
手には、漆黒の斬魄刀――天鎖斬月。
卍解と虚化。
現在の一護が持つ、最大限の力だった。
しかし。
「……その程度か」
冷たい声が響いた。
崩れた壁の向こう。
巨大な黒い翼を広げた、一人の破面が宙に浮かんでいる。
頭部には角を思わせる兜。
白い衣装を纏った身体。
そして、その手には緑色の光の槍。
第四十刃。
ウルキオラ・シファー。
帰刃――黒翼大魔。
「……くそっ!」
一護が瓦礫を押しのけて立ち上がる。
しかし、足元がふらついた。
全身には無数の傷。
呼吸も荒い。
すでに限界が近づいていた。
「……まだだ!」
一護は天鎖斬月を握り直した。
「俺は……井上を連れて帰るんだ!」
「……無意味だ」
ウルキオラが静かに告げる。
「貴様が何を望もうと、力の差は埋まらない」
その姿が消えた。
「……っ!?」
――シュンッ!
次の瞬間。
ウルキオラは、一護の眼前に現れていた。
「……終わりだ」
緑色の光の槍が、一護の胸へ向けられる。
「――黒崎くん!!」
少し離れた場所で、井上織姫が悲鳴を上げた。
しかし。
一護には、もう避ける余裕がなかった。
(……くそっ!)
その時だった。
「――させません!!」
――キィィィンッ!!
「……!?」
甲高い金属音が響いた。
ウルキオラの光の槍が、横から弾かれる。
そして。
一護の前に、小柄な少女が降り立った。
銀白色の髪。
鮮やかな翡翠色の瞳。
白い隊長羽織。
両手には、二本の斬魄刀。
「……間に合いました!」
少女が小さく息を吐く。
一護は、その背中を呆然と見つめた。
「……え?」
見覚えがある。
いや、見間違えるはずがない。
「……冬華、姉ちゃん……?」
日番谷冬華。
護廷十三隊、十番隊隊長。
その少女が、振り返った。
「一護さん!」
いつもの、優しい笑顔。
「助けに来ました!」
「……なんで、ここに……!?」
「救援部隊として来たんです!」
冬華は一護の身体を見て、表情を曇らせた。
「……ひどい傷ですね」
「いや、俺はまだ……!」
「無理をしないでください!」
冬華はきっぱりと言った。
「ここからは、私が引き受けます!」
「……でも!」
「一護さん」
冬華は穏やかに微笑んだ。
「井上さんを、お願いします」
「……!」
一護が目を見開く。
冬華は続けた。
「私が戦っている間、一護さんは傷を治してください。井上さんも、お願いしますね!」
「……日番谷隊長……!」
織姫が頷いた。
「はい!」
一護は悔しそうに拳を握った。
だが、自分の身体が限界に近いことも分かっていた。
「……分かった」
そして。
「冬華姉ちゃん……頼む!」
「はい!」
冬華は力強く頷いた。
「お任せください!」
◇
「……隊長か」
ウルキオラが静かに口を開いた。
その緑色の瞳が、冬華を捉える。
「護廷十三隊、十番隊隊長。日番谷冬華」
「……!」
冬華が僅かに目を細める。
「私をご存じなのですか?」
「……藍染様から聞いている」
ウルキオラは淡々と答えた。
「二本の斬魄刀を操る、氷雪系の死神」
「……なるほど」
冬華は小さく頷いた。
「随分と詳しいですね」
「……貴様も侵入者であることに変わりはない」
ウルキオラが光の槍を構え直す。
「ここで排除する」
「……できれば、戦いたくはないのですが」
冬華は小さく息を吐いた。
「一護さんたちを見逃していただけませんか?」
「断る」
即答だった。
「……そうですか」
冬華の翡翠色の瞳が鋭くなる。
「でしたら、仕方ありませんね」
二本の氷輪丸を構える。
「――お相手します!」
――シュンッ!
冬華の姿が消えた。
「……!」
ウルキオラの目が動く。
右。
――キィンッ!!
光の槍と氷輪丸が衝突した。
しかし。
――ヒュンッ!
もう一本の氷輪丸が、間髪入れずに襲いかかる。
「……っ!」
ウルキオラが身体を捻った。
刃が白い衣装を切り裂く。
「……ほう」
ウルキオラが小さく呟く。
「速いな」
「……ありがとうございます!」
冬華は微笑んだ。
だが、攻撃は止まらない。
――キィンッ! キィンッ!
右。
左。
さらに踏み込み、斜め下から斬り上げる。
ウルキオラは光の槍で応戦する。
しかし。
「……!」
冬華の攻撃は、単純な速度だけではなかった。
左右の刀が、異なる軌道を描く。
一撃を受け止めれば、次の刃が別の角度から迫る。
反撃しようとすれば、もう一本の刀がその動きを妨げる。
そして。
――ザシュッ!
「……っ!」
ウルキオラの肩に、鋭い傷が走った。
鮮血が飛び散る。
「……!」
ウルキオラが後退する。
しかし、冬華は逃さない。
――シュンッ!
「――こちらです!」
背後へ回り込む。
――キィンッ!
光の槍が、辛うじて右手の氷輪丸を受け止めた。
だが。
――ザシュッ!
左手の氷輪丸が、ウルキオラの脇腹を切り裂いた。
「……っ!」
ウルキオラが大きく距離を取る。
冬華も追撃を止め、二本の刀を構え直した。
「……やはり、強いですね」
冬華が静かに告げる。
「今の攻撃も、もう少し深く入ると思ったのですが」
「…………」
ウルキオラは無言で自分の傷へ視線を向けた。
そして。
――シュウウッ。
「……!」
冬華の瞳が僅かに見開かれる。
傷が、塞がっていく。
切り裂かれた肉体が再生し、流れていた血が止まった。
「……超速再生ですか」
冬華が呟いた。
「厄介ですね」
「……驚かんのか」
「少しは驚いていますよ?」
冬華は苦笑する。
「せっかく傷をつけたのに、治ってしまいましたから」
「…………」
ウルキオラは、静かに冬華を見つめた。
◇
「……嘘だろ」
少し離れた場所。
一護は、目の前で繰り広げられる戦闘を呆然と見つめていた。
織姫の双天帰盾が、一護の傷を治療している。
しかし、その視線は冬華から離れない。
「……冬華姉ちゃん、あいつと普通に戦えてんのかよ……!」
自分は、虚化しても歯が立たなかった。
それなのに。
冬華は二本の刀を操り、ウルキオラを押している。
しかも、卍解すら使用していない。
「……すごい」
織姫も思わず呟いた。
「日番谷隊長……あんなに強かったんだ……」
「……ああ」
一護が頷く。
「強いのは知ってたけどよ……」
その目が、さらに大きく見開かれる。
「……ここまでとは思わなかったぜ」
その時。
ウルキオラが、ゆっくりと右手を持ち上げた。
◇
「……!」
冬華は、ウルキオラの指先へ視線を向けた。
そこに、霊圧が集まり始めている。
だが、先ほどまでとは色が違った。
漆黒。
周囲の空気を呑み込むような、黒い霊圧。
「……ならば、これはどうだ」
ウルキオラが静かに告げる。
「――黒虚閃」
――ドォォォンッ!!
黒い奔流が、冬華へ襲いかかった。
「……っ!」
冬華は咄嗟に瞬歩を発動した。
直後。
――ズガァァァンッ!!
先ほどまで立っていた場所が、黒い虚閃に呑み込まれる。
白い床が消し飛び、背後の壁が崩壊した。
「……危ないですね!」
冬華は空中で体勢を整えた。
しかし。
「……余所見か」
「……!」
――シュンッ!
ウルキオラが眼前に現れた。
光の槍が、鋭く振り下ろされる。
――ガキィンッ!!
「……っ!」
冬華は二本の氷輪丸を交差させた。
強烈な衝撃。
足元の床が砕ける。
だが、冬華は踏みとどまった。
「――はあっ!」
――キィンッ!
右手の刀で光の槍を弾く。
同時に、左手の氷輪丸を振り抜いた。
――ザシュッ!
「……!」
ウルキオラの胸元に傷が走る。
しかし、今度はすぐに反撃が来た。
――ドンッ!
黒い翼が、冬華へ叩きつけられる。
「……っ!」
冬華は咄嗟に後方へ跳んだ。
だが、翼の先端が隊長羽織を掠める。
――ビリッ!
「……あっ」
冬華が一瞬、目を丸くした。
白い隊長羽織の裾が、僅かに裂けている。
「……羽織が」
小さく呟く。
「破れてしまいました……」
「…………」
ウルキオラは無言で冬華を見つめた。
「……戦闘中に気にすることか」
「……すみません」
冬華は少し困ったように笑った。
「大切なものなので」
そして。
すぐに表情を引き締める。
「ですが、今は戦闘に集中します!」
――シュンッ!
冬華が再び踏み込んだ。
――キィンッ!
光の槍と氷輪丸が激突する。
さらに。
「――竜霰架!」
――ゴオオオッ!!
氷雪がウルキオラの周囲に広がり、鋭い氷の柱となって突き出した。
「……!」
ウルキオラは翼を広げ、上空へ逃れる。
しかし。
冬華はすでに、その動きを読んでいた。
――シュンッ!
「……!」
ウルキオラの頭上。
冬華が、二本の氷輪丸を振り下ろす。
――ガキィンッ!!
「……ぐっ!」
ウルキオラの身体が、地面へ叩き落とされた。
――ドォォンッ!!
白い床が砕け散る。
さらに。
――パキパキパキッ!
周囲の床から、巨大な氷柱が突き出した。
ウルキオラの退路を塞ぐ。
「……!」
冬華が着地する。
そして、二本の氷輪丸を構え直した。
「……そろそろ、終わりにしませんか?」
「…………」
ウルキオラは、ゆっくりと立ち上がった。
傷は再生している。
しかし、その表情には僅かな変化があった。
「……なるほど」
静かに呟く。
「貴様の実力は理解した」
「……ありがとうございます」
冬華は小さく頷いた。
「ですが、これ以上戦う必要はありません」
「……必要がない?」
「はい」
冬華は穏やかに答えた。
「私たちを見逃していただければ、それで終わりです」
「…………」
ウルキオラは、しばらく冬華を見つめていた。
そして。
「……思い上がるな」
低い声が響いた。
「貴様は、まだ俺のすべてを見たわけではない」
「……!」
冬華の表情が引き締まる。
ウルキオラが、ゆっくりと翼を広げた。
「……見せてやろう」
その周囲で、霊圧が膨れ上がっていく。
「俺の、もう一つの姿を」
◇
――ゴオオオオオッ!!
「……っ!?」
凄まじい霊圧が、虚夜宮を揺るがした。
黒い奔流が、ウルキオラの身体を包み込む。
――ドォォォンッ!!
床が砕け散る。
壁が軋み、天井が震える。
「……これは!」
冬華は両足に霊圧を集中させた。
吹き荒れる霊圧の中、二本の氷輪丸を構え続ける。
「……何だよ、これ……!」
離れた場所で、一護が目を見開いた。
織姫も、思わず身を縮める。
「……黒崎くん……!」
「……ああ」
一護が歯を食いしばった。
「……まだ、こんな力を隠してやがったのか……!」
その時。
ウルキオラの声が響いた。
「――刀剣解放第二階層」
――ゴオオオオオオッ!!
黒い霊圧が、さらに膨れ上がった。
そして。
ゆっくりと、その奔流が晴れていく。
「…………」
冬華は息を呑んだ。
そこにいたのは、先ほどまでとは異なる姿のウルキオラだった。
頭部から伸びる、長く鋭い角。
漆黒の翼。
黒い毛皮に覆われた四肢。
そして、細長い尾。
胸元には、虚の孔。
まるで、悪魔そのもの。
「……これが」
冬華は静かに呟いた。
「第二階層……」
「……そうだ」
ウルキオラが答える。
「この姿を、藍染様にもお見せしたことはない」
「……!」
「貴様には、特別に見せてやろう」
その緑色の瞳が、冬華を捉えた。
「……絶望を」
――シュンッ!
「……!?」
冬華の目が見開かれた。
速い。
先ほどまでとは、比較にならない。
次の瞬間。
――ドォンッ!!
「……ぐっ!」
強烈な蹴りが、冬華の腹部へ迫った。
咄嗟に二本の氷輪丸を交差させる。
さらに、腕と腹部へ霊圧を集中。
幾層もの霊圧の膜を形成した。
しかし。
――ガキィンッ!!
「……がはっ!」
衝撃が、防御を貫いた。
小柄な身体が、後方へ吹き飛ばされる。
――ドォォンッ!!
冬華は白い壁に激突した。
壁が大きく陥没し、無数の亀裂が走る。
そのまま床へ崩れ落ちた。
「――冬華姉ちゃん!!」
一護が叫ぶ。
しかし。
――パラパラッ。
瓦礫の中から、冬華が立ち上がった。
「……っ、はあ……!」
口元から、鮮血が滴る。
腹部に鈍い痛みが走っていた。
(……肋骨が……)
折れてはいない。
だが、何本か痛めたらしい。
霊圧の膜で衝撃を和らげたはずだった。
それでも、ここまでの損傷を受けている。
(……防御していなければ、危なかったですね)
冬華は血を拭い、二本の氷輪丸を握り直した。
「……なるほど」
苦しげに息を吐く。
「これは、相当ですね……」
「……まだ立てるか」
ウルキオラが無表情で告げる。
「だが、いつまで耐えられる?」
「……そうですね」
冬華は呼吸を整えた。
「少し、厳しそうです」
「……ならば」
ウルキオラの姿が消えた。
「……終わりだ」
――シュンッ!
「……!」
冬華は咄嗟に瞬歩を発動した。
――ドォンッ!!
直後。
先ほどまで立っていた場所が、凄まじい衝撃で粉砕される。
だが。
「……遅い」
「……!?」
背後。
――ドンッ!!
ウルキオラの拳が、冬華の左肩へ叩き込まれた。
「――ああっ!!」
鈍い衝撃が走る。
左腕から、一瞬だけ力が抜けた。
――ドォォンッ!!
冬華の身体が、床を跳ねる。
転がりながら、辛うじて体勢を立て直す。
しかし。
――シュンッ!
「……っ!」
ウルキオラが、すでに眼前にいた。
鋭い爪が、冬華へ迫る。
――ザシュッ!!
「……あっ!」
左肩から、鮮血が散った。
隊長羽織が切り裂かれ、白い布が赤く染まる。
冬華は歯を食いしばり、右手の氷輪丸を振り抜いた。
「――はあっ!」
――キィンッ!!
ウルキオラは片腕で、その刃を弾いた。
そして。
――ドンッ!!
「……ぐっ!」
腹部へ、さらに一撃。
冬華の身体が大きく吹き飛ばされる。
――ドォォンッ!!
床へ叩きつけられた冬華は、苦しげに咳き込んだ。
「……ごほっ!」
口元から、血が零れる。
左肩が熱い。
腹部も痛む。
呼吸をするたび、肋骨が軋んだ。
それでも。
冬華は、二本の氷輪丸を手放さなかった。
「…………」
ウルキオラが静かに見下ろす。
「……貴様の技量は認めよう」
その声に、感情はない。
「だが、それだけでは埋まらない差がある」
「……ええ」
冬華は、ゆっくりと身体を起こした。
「……そのようですね」
額から流れた血が、頬を伝う。
白い隊長羽織は破れ、左肩は赤く染まっていた。
それでも、翡翠色の瞳から闘志は消えていない。
「……ですが」
冬華は刀を構え直した。
「まだ、終わっていません!」
◇
「――冬華姉ちゃんッ!!」
一護の叫びが響いた。
目の前で、冬華が血を流している。
あの冬華が。
幼い頃から、自分を気にかけてくれていた少女が。
何度も助けてくれた、大切な人が。
傷だらけになっていた。
「……くそっ!」
一護は天鎖斬月を握り直した。
そして、立ち上がろうとする。
「黒崎くん!?」
織姫が慌てて声を上げた。
「まだ傷が治りきってないよ!」
「分かってる!」
一護は歯を食いしばった。
「けど……!」
その視線が、冬華へ向けられる。
「……あんなの見て、黙ってられるかよ!!」
「……黒崎くん……」
「冬華姉ちゃんが……!」
一護の声が震えた。
「殺されちまうだろうが!!」
再び立ち上がろうとする。
しかし、膝が折れた。
「……っ!」
まだ身体が言うことを聞かない。
それが、どうしようもなく悔しかった。
「……くそっ……!」
その時だった。
「――一護さん!」
冬華の声が響いた。
「……!」
一護が顔を上げる。
少し離れた場所。
冬華が、こちらを見ていた。
左肩から血を流しながら。
それでも。
いつものように、優しく微笑んでいた。
「……大丈夫です」
「……冬華姉ちゃん……!」
「私を、信じてください」
冬華は穏やかに告げた。
「一護さんは、井上さんのそばにいてあげてくださいね」
「……っ!」
一護は唇を噛んだ。
助けたい。
今すぐ、あの場所へ飛び出したい。
だが。
冬華の瞳は、まっすぐだった。
恐怖に屈しているわけでも、無理に強がっているわけでもない。
自分の力を信じて、戦おうとしている。
「……分かった」
一護は、拳を握りしめた。
「……でも!」
声を張り上げる。
「絶対に死ぬなよ!!」
冬華は、一瞬だけ目を丸くした。
そして。
「……はい!」
嬉しそうに微笑んだ。
「もちろんです!」
◇
「……茶番は終わったか」
ウルキオラが静かに告げた。
「……すみません」
冬華は、ゆっくりと振り返った。
「お待たせしました」
「……貴様は、まだ戦うつもりか」
「はい」
即答だった。
冬華は、二本の氷輪丸を握り直す。
「一護さんたちを、守らなければなりませんから」
「……理解できんな」
ウルキオラが目を細めた。
「そこまで傷ついてなお、他人のために戦う理由があるのか」
「……ありますよ」
冬華は、静かに答えた。
「大切な人たちですから」
「…………」
ウルキオラは、無言で冬華を見つめた。
「……くだらん」
そして、冷たく告げる。
「そんなものが、力の差を埋めることはない」
「……そうですね」
冬華は小さく頷いた。
「気持ちだけで、勝てるとは思っていません」
「……ほう」
「ですから」
冬華は、ゆっくりと息を吐いた。
傷ついた左肩へ霊圧を巡らせる。
痛みは消えない。
だが、刀を握ることはできる。
「……私も、まだ全力ではありませんから」
その翡翠色の瞳が、鋭く輝いた。
「ここからは、こちらも本気でお相手します」
「……まだ何かあるというのか」
「はい」
冬華は、穏やかに微笑んだ。
「お見せします」
そして。
二本の氷輪丸を、胸の前で交差させた。
◇
「……冬華姉ちゃん?」
一護が、目を見開いた。
冬華の周囲で、霊圧が膨れ上がり始めている。
それも、先ほどまでとは比較にならないほどに。
「……何だ?」
一護が呟く。
「……この霊圧……!」
織姫も、思わず顔を上げた。
「……日番谷隊長……?」
その視線の先。
冬華は、静かに二本の氷輪丸を構えていた。
そして。
「……氷輪丸」
小さく呟く。
二本の刀が、淡い氷雪の光に包まれ始めた。
――パキパキパキッ!
「……!」
一護の目が見開かれる。
二本の氷輪丸が、互いに引き寄せられていく。
そして。
――キィィンッ!!
一つに、融合した。
「……なっ!?」
一護が思わず声を上げる。
「二本の刀が……!?」
その瞬間。
冬華の周囲で、凄まじい冷気が渦を巻いた。
――ゴオオオオッ!!
白い床が凍りつく。
壁に霜が広がる。
空気中に、無数の氷の結晶が舞い始めた。
「……まさか」
一護が息を呑む。
隊長である冬華が、卍解を使えることは知っていた。
しかし。
実際に、その力を目にしたことはなかった。
「……冬華姉ちゃん……!」
冬華は、静かに刀を握り直した。
そして。
その小さな唇が、ゆっくりと開く。
「――卍解」
――ゴオオオオオオオッ!!
凄まじい氷雪の霊圧が、爆発した。
「……っ!?」
一護が思わず腕で顔を庇う。
織姫も、目を見開いた。
「……すごい……!」
氷雪が、冬華の身体を包み込む。
背中から、巨大な氷の翼が広がっていく。
肩には、氷の竜を思わせる装甲。
背後には、長く伸びる氷の尾。
そして。
その周囲に、四枚の氷華が浮かび上がった。
銀白色の髪が、冷気の中で揺れる。
翡翠色の瞳が、静かにウルキオラを見据えた。
「――大紅蓮氷輪丸!」
――ドォォォォンッ!!
凄まじい霊圧が、虚夜宮を揺るがした。
「……何だよ、あれ……!」
一護が呆然と呟く。
目の前に広がる、圧倒的な氷雪の力。
先ほどまでとは、まるで違う。
「……冬華姉ちゃん……」
その声が、僅かに震えた。
「……まだ、こんな力を隠してたのかよ……!」
織姫も、言葉を失っていた。
美しい。
そう思った。
だが、それ以上に。
恐ろしいほどの霊圧。
まるで、巨大な氷の竜が目覚めたかのようだった。
「……これが」
織姫が小さく呟く。
「日番谷隊長の……卍解……」
◇
「…………」
ウルキオラは、無言で冬華を見つめていた。
その緑色の瞳が、僅かに細められる。
「……なるほど」
静かに呟く。
「それが、貴様の切り札か」
「……はい」
冬華は穏やかに頷いた。
「これが、私の卍解です」
巨大な氷の翼が、ゆっくりと広がる。
周囲の空気が、さらに冷え込んでいく。
「……大紅蓮氷輪丸」
冬華は、静かに刀を構えた。
「ここからは、私も全力でお相手します」
「……面白い」
ウルキオラが、ゆっくりと翼を広げた。
「ならば、その力がどこまで通用するか……」
その手に、緑色の霊圧が集まり始める。
「……試してやろう」
「……はい!」
冬華は、まっすぐにウルキオラを見据えた。
銀白色の髪が、冷気になびく。
氷の翼が、静かに広がった。
そして。
「――参ります!」
――第37話『黒翼大魔』・完。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
ウルキオラとの戦闘中ではありますが、作者はここで長考に入ります。
再開時期は未定です。次の一手が決まりましたら、またひょっこり戻ってくるかもしれません。
いつも応援してくださる皆様、本当にありがとうございます!