日番谷に転生した   作:使い手なない

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第4話「真央霊術院」

 

 尸魂界、西流魂街一区――潤林安。

 

「おばあちゃん! それじゃあ、行ってきます!」

 

「ああ。気をつけて行くんだよ」

 

「はい!」

 

 朝の柔らかな日差しの中。

 

 日番谷冬華は、大きな荷物を抱えて家の前に立っていた。

 

 今日から、いよいよ真央霊術院での生活が始まる。

 

「ちゃんとご飯を食べるんだよ。無理な修行ばかりしちゃ駄目だからね」

 

「もう、おばあちゃん! 分かっていますよ!」

 

「ふふふ。どうだかねえ」

 

「むぅ……!」

 

 頬を膨らませる冬華を見て、おばあちゃんは楽しそうに笑った。

 

 そして、そっと冬華の頭を撫でる。

 

「……頑張っておいで、冬華」

 

「……はい!」

 

 冬華は嬉しそうに微笑んだ。

 

「お休みの日には帰ってきますからね!」

 

「ああ。楽しみに待っているよ」

 

「えへへ……!」

 

 もう一度、おばあちゃんに手を振る。

 

 そして冬華は、真央霊術院へ向かって歩き始めた。

 

(……いよいよですね!)

 

 真央霊術院。

 

 死神を育成するための教育機関。

 

 原作で何度も名前を聞いた場所に、今度は自分が通うことになる。

 

(斬術も、鬼道も、瞬歩も……!)

 

 これまで独学で続けてきた修行。

 

 その先にある技術を、ようやく正式に学べるのだ。

 

「……ふふっ!」

 

 冬華の足取りは、自然と軽くなっていた。

 

     ◇◆◇

 

「……わあ!」

 

 真央霊術院。

 

 その立派な建物を前に、冬華は思わず感嘆の声を漏らした。

 

 広々とした敷地。

 

 整然と並ぶ建物。

 

 そして、同じように入学したばかりの生徒たち。

 

(……本当に来ちゃいました!)

 

 胸が高鳴る。

 

 もっとも、いつまでも眺めているわけにはいかない。

 

「えっと……私の教室は……」

 

 掲示された案内を確認する。

 

 どうやら、入学試験の成績によって組が分けられているらしい。

 

「……一組?」

 

 冬華は小さく首を傾げた。

 

 案内によれば、成績上位の生徒が集められる組とのこと。

 

(……なるほど。試験の結果ですね)

 

 確かに、霊力測定では試験官を驚かせてしまった。

 

 とはいえ、正式な斬術も鬼道も未経験だ。

 

(油断せずに頑張りましょう!)

 

 小さく拳を握り、冬華は教室へ向かった。

 

     ◇◆◇

 

 教室には、すでに何人もの生徒が集まっていた。

 

 楽しそうに話している者。

 

 緊張した面持ちで座っている者。

 

 周囲を興味深そうに見回している者。

 

 そんな中、冬華は空いている席を見つけた。

 

「……ここ、いいですか?」

 

 隣の席に座っていた少年へ声をかける。

 

「ああ。空いてるよ」

 

「ありがとうございます!」

 

 冬華は嬉しそうに微笑み、席へ腰を下ろした。

 

 少年は落ち着いた雰囲気をしていた。

 

 年頃は冬華とそれほど変わらないように見える。

 

 整った顔立ちに、穏やかな眼差し。

 

「君も今日から入学?」

 

「はい! そうです!」

 

「そっか。俺もなんだ」

 

 少年は軽く笑った。

 

「俺は草冠宗次郎。よろしく」

 

「……!」

 

 その名前を聞いた瞬間。

 

 冬華は、思わず目を見開いた。

 

(……草冠宗次郎!?)

 

 知っている。

 

 その名前を、冬華は知っていた。

 

 劇場版で、日番谷冬獅郎と同じ斬魄刀を持っていた人物。

 

 そして――。

 

(……氷輪丸を巡る事件で、命を落とした人……)

 

 胸の奥が、わずかに揺れた。

 

 けれど。

 

「……どうかした?」

 

「あっ、いえ!」

 

 冬華は慌てて首を振った。

 

「すみません! ちょっと考え事をしてしまって!」

 

「ははっ。そうなんだ」

 

 草冠は気にした様子もなく笑った。

 

 冬華も、改めて笑顔を浮かべる。

 

「私は日番谷冬華です! よろしくお願いします、草冠さん!」

 

「冬華、か。いい名前だな」

 

「えへへ……ありがとうございます!」

 

 素直に褒められ、冬華は嬉しそうに微笑んだ。

 

「草冠さんは、どちらの出身なんですか?」

 

「俺? 流魂街だよ。冬華は?」

 

「私は西流魂街一区の潤林安です!」

 

「へえ。一区か」

 

「はい! とってもいいところなんですよ!」

 

 冬華は楽しそうに話し始めた。

 

 おばあちゃんと暮らしていること。

 

 町の人たちが優しいこと。

 

 そして、昔から仲のいい友達が、今は五番隊で死神をしていること。

 

「五番隊に友達がいるのか?」

 

「はい! 桃ちゃんっていうんです!」

 

「へえ。じゃあ、先輩がいるわけだ」

 

「そうですね!」

 

 草冠は感心したように頷いた。

 

「俺も早く死神になりたいな」

 

「私もです!」

 

「お互い、頑張らないとな」

 

「はい!」

 

 冬華は満面の笑みを浮かべた。

 

「一緒に頑張りましょうね、草冠さん!」

 

「ああ。よろしくな、冬華」

 

 こうして。

 

 冬華に、真央霊術院で初めての友達ができた。

 

     ◇◆◇

 

「静粛に!」

 

 しばらくして、教官が教室へ入ってきた。

 

 生徒たちが一斉に姿勢を正す。

 

「本日より、諸君らは真央霊術院の生徒となる」

 

 教官は教室を見渡した。

 

「ここでは、死神として必要な技術と知識を学んでもらう」

 

 黒板に、四つの文字が記される。

 

 斬術。

 

 白打。

 

 歩法。

 

 鬼道。

 

「これらは死神が扱う基本的な戦闘技術だ。いずれも疎かにしてはならん」

 

(……おお!)

 

 冬華の翡翠色の瞳が輝いた。

 

(ついに、本格的な修行が始まるんですね!)

 

 特に楽しみなのは、斬術と歩法だ。

 

 剣術は独学で練習してきたものの、まだまだ未熟。

 

 瞬歩に至っては、数メートル移動するだけでも止まるのに苦労している。

 

(ちゃんと教われば、もっと上達できるはずです!)

 

 そんな冬華の隣で、草冠が小さく笑った。

 

「……楽しそうだな、冬華」

 

「えっ?」

 

「さっきから、ずっと嬉しそうな顔してる」

 

「えへへ……分かっちゃいました?」

 

「ああ。すごく」

 

「だって、楽しみなんです!」

 

 冬華は声を潜めて答えた。

 

「今までずっと、一人で練習していましたから!」

 

「へえ。何かやってたのか?」

 

「剣術とか、霊圧の制御とか……あとは、歩法の真似事も少し!」

 

「……歩法?」

 

 草冠が目を丸くした。

 

「入学前から?」

 

「はい! でも、まだ全然上手じゃないんです」

 

「いや、普通は入学前からそんなことしないと思うぞ?」

 

「……そうなんですか?」

 

 きょとんとする冬華。

 

 草冠は思わず笑った。

 

「ははっ! 冬華って、結構変わってるな!」

 

「むぅ……! そんなことありませんよ!」

 

「悪い悪い!」

 

 笑いを堪える草冠。

 

 頬を膨らませる冬華。

 

 そんな二人に――。

 

「……そこの二人」

 

「「……はいっ!?」」

 

 教官の声が飛んできた。

 

「私語は慎むように」

 

「す、すみません!」

 

「すみません……!」

 

 二人は慌てて前を向いた。

 

 そして、顔を見合わせる。

 

「……ぷっ」

 

「……ふふっ」

 

 今度は声を出さないように、小さく笑い合った。

 

     ◇◆◇

 

 その後も、学院生活についての説明が続いた。

 

 授業の予定。

 

 実技訓練の注意事項。

 

 寮での生活。

 

 そして、卒業までの課程。

 

「通常、修業年限は六年だ」

 

 教官の言葉に、生徒たちが頷く。

 

「ただし、成績が極めて優秀な者については、早期卒業が認められる場合もある」

 

(……早期卒業!)

 

 冬華はぴくりと反応した。

 

 桃は六年間かけて霊術院を卒業した。

 

 けれど、自分には長年積み重ねてきた修行がある。

 

(……できれば、一年で卒業したいですね)

 

 早く死神になりたい。

 

 それに、原作の未来を考えれば、時間はいくらあっても足りない。

 

 もっと強くならなければ。

 

 大切な人たちを守れるように。

 

「……冬華?」

 

「あっ、はい?」

 

 隣から草冠が小声で話しかけてきた。

 

「もしかして、早期卒業を狙ってる?」

 

「……!」

 

 冬華は驚いて草冠を見た。

 

「どうして分かったんですか?」

 

「いや、すごく分かりやすい顔してたから」

 

「そ、そんなにですか!?」

 

「ああ」

 

 草冠は楽しそうに笑った。

 

「実は、俺も早く卒業したいと思ってるんだ」

 

「……本当ですか!?」

 

「ああ。せっかく死神を目指すんだ。できるだけ早く一人前になりたいからな」

 

 その言葉に、冬華は嬉しそうに目を輝かせた。

 

「じゃあ、一緒ですね!」

 

「そうだな」

 

「それなら……!」

 

 冬華は小さく拳を握った。

 

「二人で一年卒業を目指しましょう!」

 

「……一年?」

 

 草冠が目を瞬かせた。

 

「いきなり六年を一年にするのか?」

 

「はい!」

 

「……ははっ!」

 

 草冠は思わず笑い出しそうになり、慌てて口元を押さえた。

 

「冬華って、見た目によらず大胆だな」

 

「そ、そうでしょうか?」

 

「ああ。でも……」

 

 草冠は少し考えてから、笑みを浮かべた。

 

「面白そうだ」

 

「……!」

 

「いいぜ。俺も付き合うよ」

 

「本当ですか!?」

 

「ああ。どっちが先に卒業できるか、勝負だな」

 

「ふふっ! 負けませんよ!」

 

 冬華は楽しそうに笑った。

 

 新しい友達。

 

 新しい目標。

 

 そして、これから始まる修行の日々。

 

(……なんだか、すごく楽しみになってきました!)

 

     ◇◆◇

 

 その日の授業が終わった頃。

 

「ふう……! 今日は説明ばかりでしたね!」

 

 冬華は大きく伸びをした。

 

「まあ、初日だからな」

 

 草冠も隣で頷く。

 

「明日からは実技も始まるらしいぞ」

 

「はい! 楽しみです!」

 

「本当に修行が好きなんだな、冬華」

 

「えへへ……!」

 

 二人は並んで教室を出た。

 

 廊下には、同じように授業を終えた生徒たちが行き交っている。

 

「そういえば、冬華」

 

「はい?」

 

「さっき、霊圧の制御を練習してるって言ってたよな?」

 

「はい!」

 

「どんなことをしてるんだ?」

 

「えっと……」

 

 冬華は少し考えた。

 

 そして、掌を上に向ける。

 

「こんなこともできますよ!」

 

 淡い光が集まった。

 

 光はゆっくりと形を変え、小さな花となる。

 

「……おお!」

 

 草冠が目を丸くした。

 

「花?」

 

「はい! 霊圧で作っているんです!」

 

「へえ……すごいな」

 

 草冠は興味深そうに覗き込んだ。

 

「こんなに細かい形まで作れるのか」

 

「えへへ……練習しましたから!」

 

「綺麗だな」

 

「……!」

 

 冬華は嬉しそうに微笑んだ。

 

「ありがとうございます!」

 

 そして、掌の花をふわりと浮かべる。

 

「草冠さんにプレゼントします!」

 

「えっ、俺に?」

 

「はい!」

 

 小さな花が、草冠の前へ漂っていく。

 

 草冠は少し驚いたように見つめていたが、やがて笑った。

 

「……ありがとな、冬華」

 

「どういたしまして!」

 

 花はしばらくすると、淡い光の粒となって消えていった。

 

「あ……」

 

「すみません。まだ長くは維持できなくて……」

 

「いや、十分すごいよ」

 

 草冠は笑った。

 

「俺も負けてられないな」

 

「ふふっ!」

 

 冬華は嬉しそうに頷いた。

 

「一緒に強くなりましょうね!」

 

「ああ!」

 

 差し込む夕日が、二人の姿を優しく照らしていた。

 

 真央霊術院での初めての一日。

 

 それは、冬華にとって忘れられない出会いの日となった。

 

 これから始まる、一年間の学院生活。

 

 冬華はまだ知らない。

 

 今日出会った少年と、やがて同じ名の斬魄刀を手にすることを。

 

 そして、その運命が二人を大きく変えてしまうことを。

 

 けれど、今はただ。

 

「草冠さん! 明日もよろしくお願いしますね!」

 

「ああ! また明日な、冬華!」

 

 二人は笑顔で手を振り合った。

 

 新しい友情が、ここから始まった。

 

 ――第4話「真央霊術院」・完。




【あとがき】

第4話をお読みいただき、ありがとうございます!

今回は真央霊術院への入学と、草冠宗次郎との出会いを描きました!

新しい友達もできて、冬華の学院生活がいよいよスタートです!

次回は本格的な実技授業!
冬華がこれまで積み重ねてきた修行の成果を披露します!

引き続きよろしくお願いします!
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