尸魂界、西流魂街一区――潤林安。
「おばあちゃん! それじゃあ、行ってきます!」
「ああ。気をつけて行くんだよ」
「はい!」
朝の柔らかな日差しの中。
日番谷冬華は、大きな荷物を抱えて家の前に立っていた。
今日から、いよいよ真央霊術院での生活が始まる。
「ちゃんとご飯を食べるんだよ。無理な修行ばかりしちゃ駄目だからね」
「もう、おばあちゃん! 分かっていますよ!」
「ふふふ。どうだかねえ」
「むぅ……!」
頬を膨らませる冬華を見て、おばあちゃんは楽しそうに笑った。
そして、そっと冬華の頭を撫でる。
「……頑張っておいで、冬華」
「……はい!」
冬華は嬉しそうに微笑んだ。
「お休みの日には帰ってきますからね!」
「ああ。楽しみに待っているよ」
「えへへ……!」
もう一度、おばあちゃんに手を振る。
そして冬華は、真央霊術院へ向かって歩き始めた。
(……いよいよですね!)
真央霊術院。
死神を育成するための教育機関。
原作で何度も名前を聞いた場所に、今度は自分が通うことになる。
(斬術も、鬼道も、瞬歩も……!)
これまで独学で続けてきた修行。
その先にある技術を、ようやく正式に学べるのだ。
「……ふふっ!」
冬華の足取りは、自然と軽くなっていた。
◇◆◇
「……わあ!」
真央霊術院。
その立派な建物を前に、冬華は思わず感嘆の声を漏らした。
広々とした敷地。
整然と並ぶ建物。
そして、同じように入学したばかりの生徒たち。
(……本当に来ちゃいました!)
胸が高鳴る。
もっとも、いつまでも眺めているわけにはいかない。
「えっと……私の教室は……」
掲示された案内を確認する。
どうやら、入学試験の成績によって組が分けられているらしい。
「……一組?」
冬華は小さく首を傾げた。
案内によれば、成績上位の生徒が集められる組とのこと。
(……なるほど。試験の結果ですね)
確かに、霊力測定では試験官を驚かせてしまった。
とはいえ、正式な斬術も鬼道も未経験だ。
(油断せずに頑張りましょう!)
小さく拳を握り、冬華は教室へ向かった。
◇◆◇
教室には、すでに何人もの生徒が集まっていた。
楽しそうに話している者。
緊張した面持ちで座っている者。
周囲を興味深そうに見回している者。
そんな中、冬華は空いている席を見つけた。
「……ここ、いいですか?」
隣の席に座っていた少年へ声をかける。
「ああ。空いてるよ」
「ありがとうございます!」
冬華は嬉しそうに微笑み、席へ腰を下ろした。
少年は落ち着いた雰囲気をしていた。
年頃は冬華とそれほど変わらないように見える。
整った顔立ちに、穏やかな眼差し。
「君も今日から入学?」
「はい! そうです!」
「そっか。俺もなんだ」
少年は軽く笑った。
「俺は草冠宗次郎。よろしく」
「……!」
その名前を聞いた瞬間。
冬華は、思わず目を見開いた。
(……草冠宗次郎!?)
知っている。
その名前を、冬華は知っていた。
劇場版で、日番谷冬獅郎と同じ斬魄刀を持っていた人物。
そして――。
(……氷輪丸を巡る事件で、命を落とした人……)
胸の奥が、わずかに揺れた。
けれど。
「……どうかした?」
「あっ、いえ!」
冬華は慌てて首を振った。
「すみません! ちょっと考え事をしてしまって!」
「ははっ。そうなんだ」
草冠は気にした様子もなく笑った。
冬華も、改めて笑顔を浮かべる。
「私は日番谷冬華です! よろしくお願いします、草冠さん!」
「冬華、か。いい名前だな」
「えへへ……ありがとうございます!」
素直に褒められ、冬華は嬉しそうに微笑んだ。
「草冠さんは、どちらの出身なんですか?」
「俺? 流魂街だよ。冬華は?」
「私は西流魂街一区の潤林安です!」
「へえ。一区か」
「はい! とってもいいところなんですよ!」
冬華は楽しそうに話し始めた。
おばあちゃんと暮らしていること。
町の人たちが優しいこと。
そして、昔から仲のいい友達が、今は五番隊で死神をしていること。
「五番隊に友達がいるのか?」
「はい! 桃ちゃんっていうんです!」
「へえ。じゃあ、先輩がいるわけだ」
「そうですね!」
草冠は感心したように頷いた。
「俺も早く死神になりたいな」
「私もです!」
「お互い、頑張らないとな」
「はい!」
冬華は満面の笑みを浮かべた。
「一緒に頑張りましょうね、草冠さん!」
「ああ。よろしくな、冬華」
こうして。
冬華に、真央霊術院で初めての友達ができた。
◇◆◇
「静粛に!」
しばらくして、教官が教室へ入ってきた。
生徒たちが一斉に姿勢を正す。
「本日より、諸君らは真央霊術院の生徒となる」
教官は教室を見渡した。
「ここでは、死神として必要な技術と知識を学んでもらう」
黒板に、四つの文字が記される。
斬術。
白打。
歩法。
鬼道。
「これらは死神が扱う基本的な戦闘技術だ。いずれも疎かにしてはならん」
(……おお!)
冬華の翡翠色の瞳が輝いた。
(ついに、本格的な修行が始まるんですね!)
特に楽しみなのは、斬術と歩法だ。
剣術は独学で練習してきたものの、まだまだ未熟。
瞬歩に至っては、数メートル移動するだけでも止まるのに苦労している。
(ちゃんと教われば、もっと上達できるはずです!)
そんな冬華の隣で、草冠が小さく笑った。
「……楽しそうだな、冬華」
「えっ?」
「さっきから、ずっと嬉しそうな顔してる」
「えへへ……分かっちゃいました?」
「ああ。すごく」
「だって、楽しみなんです!」
冬華は声を潜めて答えた。
「今までずっと、一人で練習していましたから!」
「へえ。何かやってたのか?」
「剣術とか、霊圧の制御とか……あとは、歩法の真似事も少し!」
「……歩法?」
草冠が目を丸くした。
「入学前から?」
「はい! でも、まだ全然上手じゃないんです」
「いや、普通は入学前からそんなことしないと思うぞ?」
「……そうなんですか?」
きょとんとする冬華。
草冠は思わず笑った。
「ははっ! 冬華って、結構変わってるな!」
「むぅ……! そんなことありませんよ!」
「悪い悪い!」
笑いを堪える草冠。
頬を膨らませる冬華。
そんな二人に――。
「……そこの二人」
「「……はいっ!?」」
教官の声が飛んできた。
「私語は慎むように」
「す、すみません!」
「すみません……!」
二人は慌てて前を向いた。
そして、顔を見合わせる。
「……ぷっ」
「……ふふっ」
今度は声を出さないように、小さく笑い合った。
◇◆◇
その後も、学院生活についての説明が続いた。
授業の予定。
実技訓練の注意事項。
寮での生活。
そして、卒業までの課程。
「通常、修業年限は六年だ」
教官の言葉に、生徒たちが頷く。
「ただし、成績が極めて優秀な者については、早期卒業が認められる場合もある」
(……早期卒業!)
冬華はぴくりと反応した。
桃は六年間かけて霊術院を卒業した。
けれど、自分には長年積み重ねてきた修行がある。
(……できれば、一年で卒業したいですね)
早く死神になりたい。
それに、原作の未来を考えれば、時間はいくらあっても足りない。
もっと強くならなければ。
大切な人たちを守れるように。
「……冬華?」
「あっ、はい?」
隣から草冠が小声で話しかけてきた。
「もしかして、早期卒業を狙ってる?」
「……!」
冬華は驚いて草冠を見た。
「どうして分かったんですか?」
「いや、すごく分かりやすい顔してたから」
「そ、そんなにですか!?」
「ああ」
草冠は楽しそうに笑った。
「実は、俺も早く卒業したいと思ってるんだ」
「……本当ですか!?」
「ああ。せっかく死神を目指すんだ。できるだけ早く一人前になりたいからな」
その言葉に、冬華は嬉しそうに目を輝かせた。
「じゃあ、一緒ですね!」
「そうだな」
「それなら……!」
冬華は小さく拳を握った。
「二人で一年卒業を目指しましょう!」
「……一年?」
草冠が目を瞬かせた。
「いきなり六年を一年にするのか?」
「はい!」
「……ははっ!」
草冠は思わず笑い出しそうになり、慌てて口元を押さえた。
「冬華って、見た目によらず大胆だな」
「そ、そうでしょうか?」
「ああ。でも……」
草冠は少し考えてから、笑みを浮かべた。
「面白そうだ」
「……!」
「いいぜ。俺も付き合うよ」
「本当ですか!?」
「ああ。どっちが先に卒業できるか、勝負だな」
「ふふっ! 負けませんよ!」
冬華は楽しそうに笑った。
新しい友達。
新しい目標。
そして、これから始まる修行の日々。
(……なんだか、すごく楽しみになってきました!)
◇◆◇
その日の授業が終わった頃。
「ふう……! 今日は説明ばかりでしたね!」
冬華は大きく伸びをした。
「まあ、初日だからな」
草冠も隣で頷く。
「明日からは実技も始まるらしいぞ」
「はい! 楽しみです!」
「本当に修行が好きなんだな、冬華」
「えへへ……!」
二人は並んで教室を出た。
廊下には、同じように授業を終えた生徒たちが行き交っている。
「そういえば、冬華」
「はい?」
「さっき、霊圧の制御を練習してるって言ってたよな?」
「はい!」
「どんなことをしてるんだ?」
「えっと……」
冬華は少し考えた。
そして、掌を上に向ける。
「こんなこともできますよ!」
淡い光が集まった。
光はゆっくりと形を変え、小さな花となる。
「……おお!」
草冠が目を丸くした。
「花?」
「はい! 霊圧で作っているんです!」
「へえ……すごいな」
草冠は興味深そうに覗き込んだ。
「こんなに細かい形まで作れるのか」
「えへへ……練習しましたから!」
「綺麗だな」
「……!」
冬華は嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます!」
そして、掌の花をふわりと浮かべる。
「草冠さんにプレゼントします!」
「えっ、俺に?」
「はい!」
小さな花が、草冠の前へ漂っていく。
草冠は少し驚いたように見つめていたが、やがて笑った。
「……ありがとな、冬華」
「どういたしまして!」
花はしばらくすると、淡い光の粒となって消えていった。
「あ……」
「すみません。まだ長くは維持できなくて……」
「いや、十分すごいよ」
草冠は笑った。
「俺も負けてられないな」
「ふふっ!」
冬華は嬉しそうに頷いた。
「一緒に強くなりましょうね!」
「ああ!」
差し込む夕日が、二人の姿を優しく照らしていた。
真央霊術院での初めての一日。
それは、冬華にとって忘れられない出会いの日となった。
これから始まる、一年間の学院生活。
冬華はまだ知らない。
今日出会った少年と、やがて同じ名の斬魄刀を手にすることを。
そして、その運命が二人を大きく変えてしまうことを。
けれど、今はただ。
「草冠さん! 明日もよろしくお願いしますね!」
「ああ! また明日な、冬華!」
二人は笑顔で手を振り合った。
新しい友情が、ここから始まった。
――第4話「真央霊術院」・完。
【あとがき】
第4話をお読みいただき、ありがとうございます!
今回は真央霊術院への入学と、草冠宗次郎との出会いを描きました!
新しい友達もできて、冬華の学院生活がいよいよスタートです!
次回は本格的な実技授業!
冬華がこれまで積み重ねてきた修行の成果を披露します!
引き続きよろしくお願いします!