幻想交じりの現代社会でTRPGの能力で生き抜いていく   作:社畜だったきなこ餅

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書きたいと思ったら気が付いたら書いていた、そんなネタです。
少しでも皆様のお楽しみになれば幸いです。


1.役割と書いてロールと読む

 

俺は昔から物語が好きだった。

剣を手に取り勇気の炎を胸に燃やした勇者が旅立ち、旅路の中で攫われた姫を救い出し魔王を討ち果たす英雄譚。

残酷な運命に翻弄されながらも運命に導かれた若者たち、そんな彼らが世界を蝕む巨悪を打ち倒し平和を取り戻す幻想譚。

荒れ果てた荒野を駆け抜け無慈悲な世界に苦しみながら、それでも負ける事無く夢を果たす無頼達の話。

 

最初はコンピュータゲームで、やがてその間口からかつての俺はサイコロによって物語が紡がれていく遊戯……テーブルトークRPGと呼ばれるモノにのめりこんだ。

それはもうアホのようにのめりこんだ、学生時代は言うに及ばず社会に出てからものめり込み続けた。

大人になればなるほどオフセッションと呼ばれる実際に顔を突き合わせて遊ぶ機会は減った、だがテクノロジーの進歩のおかげでそれでも遊び続ける事が出来たんだ。

 

だがしかし。

 

 

「TRPGがやりてぇ……」

 

「また透が変なこと言ってる」

 

 

終業を告げる鐘の音と共に俺は机に突っ伏し、魂が抜ける勢いで呟く。

気が付けば転生したこの世界には、TRPGが存在しなかった。

 

異世界から色んなモノが流れ込んだこの世界では、身近に危険と冒険が存在する。

不定期にあちらこちらに出現するダンジョンに、それを探索し踏破し時には間引きをしては宝や資源を持ち帰るクロウラー。

 

平たく言えば身近に冒険と危険が存在する世界、そのせいかどうかはわからんけども。

この世界では小説や漫画は存在するが、前世で慣れ親しんだ冒険を体験するような娯楽がほとんど存在しない。

 

 

「俺にサイコロとキャラシートをくれぇ……」

 

「はいはい、そんなに冒険したいなら透もボクと一緒にクロウラー目指せばいいじゃん」

 

「違う、冒険したいが冒険はしたくないんだぁ……」

 

「意味が解らないよ」

 

 

俺の嘆きと悲しみと葛藤が入り混じった呟きを、いつものことだと言わんばかりに静は狐のような尻尾をゆらゆらと振りながら肩を竦めて受け流す。

 

 

「前に透が作ったっていうボードゲーム? あれも面白いと言えば面白いけどさ、実習でダンジョンに潜った方がもっと楽しいよ?」

 

「わかっちゃいるけど……畜生ぐうの音も出ねえ」

 

 

ダンジョン実習を程ほどにしか頑張らない俺と違って、刀一本で切り込んでいくガチ勢が言うと色んな意味で説得力が酷い。

 

 

「透だってやれば出来るでしょ? 『役割』は冒険に役立たないって嘆いてるけどそんなことないじゃない」

 

「まぁな、自己定義して前衛に徹すれば壁役はそれなりにできるし。後衛って自己定義すりゃ後ろから支援もやれる」

 

「わかってるじゃん! だったらボクと一緒に頑張ろう!」

 

 

席から立ち上がって鞄を手に持つ俺に向けられた静の言葉に、俺は言葉を返す。

静が言う『役割』ってのは、この世界なら誰もが何かしら持っている才能と呼ばれる特殊技能で……俺が持つ『役割』もそれに該当する能力だ。

 

だけどなぁ、頭の上でぴょこんと狐耳を立てた静にゃ悪いが。

これがまぁ絶妙に器用貧乏でなー……早い段階でレベルの頭打ちがある汎用モブと例えるべきか、最低レア汎用モブというべきか。

そんな具合の性能にしかなれない。

 

 

「あくまでそれなりだよ、クロウラーでやってけるようなもんでもないさ」

 

「……そんなことないと思う」

 

「熱心に誘ってくれるのにごめんな」

 

 

無自覚なうちに俺が吐いた溜息から俺の内心を察したのか、静はシュンと俯き尻尾を力なく垂らす。

 

 

「まぁなんだ、俺は俺なりのペースでやってくから気にするなって」

 

「……うんわかった」

 

 

うーむいかん、失敗したかもしれん。

俺はもう大分割り切ったつもりだが、静のやつ大分気にしてるな。

 

 

「あーそういえば、印刷費稼ぐ為にちょっとダンジョン潜りたいんだが手頃な自由実習ダンジョンあったか?」

 

「一緒に潜ってくれるの!?」

 

 

ズズイッ!と言わんばかりに俺に音もなくにじり寄り、大分強い目力で俺を見上げてくる静。

もはや狐というより柴犬である。

 

 

「近い近い、静ステイ!」

 

「じゃあ早速掲示板見に行こう、すぐいこう!」

 

「オーケーわかった落ち着けステイ、ステイプリーズ!」

 

 

小さな手で俺の袖を掴むと勢いよく引っ張り始める静に、何とかついていく俺。

コイツ小柄なのに相変わらず身体能力えぐいな……。

 

 

「そういえば印刷費って、また透何かゲーム作るの?」

 

 

そして急に冷静になる静、君の情緒が俺ちょっと心配だよ。

いやまぁ、うん、最近ずっと静からのダンジョン勧誘をのらりくらり躱してた俺が悪いと言われたらそこまでかもしれんけど。

 

 

「今度はバカ受け間違いなしだ、まず秩序の勢力のドラゴンと混沌の勢力のドラゴンがいてだな……」

 

「うん、すごくルールが複雑そうで受けなさそう」

 

「言葉の刃の切れ味酷くない? 刀の技術をそこに適用しなくてもいいんだよ???」

 

 

情け容赦ない静の言葉にぐうの音も出ない俺、スリードラゴンアンティさんは悪くないんや……!

 

・

 

・

 

・

 

・

 

・

そんなこんなでやってきました自由実習ダンジョン。

しかしダンジョンとは言うが、そんなに危険もなければ実入りもそんなに美味しくない。

クロウラー志望でその手の育成に熱心な高校に入る為の実績や経験、それらを求める学生でも安心して潜れる程度のダンジョンだ。

 

まぁだからと言って油断していい理由にはならないし、慢心などもっと論外だ。

背中に籠を背負い、腰には支給品のつるはしを提げた俺はスマホアプリに表示された実習目標を再確認する。

 

 

「今回の実習達成目標は……鉱石一定量採取か、ならルートも大体決まってるな」

 

「透と一緒だとこういう段取りがとっても楽だから凄い助かるんだよね」

 

「そうは言っても静だってやれるだろうに、こんなの誰だって出来る簡単な事さ」

 

「その簡単な事っていう段取り、完璧に出来るのクロウラー目指してる子でも少ないんだけど……」

 

 

何か静がごにょごにょ言ってるが、ルート選定も固まったので俺は今回の武器でもあり採掘用具でもあるつるはしを肩に担ぐように持って静に声をかける。

 

 

「何か言ったか? 行くぞ静」

 

「あ、うん!」

 

 

他に潜っている学生とルートが被らないよう適時チェックをしながら先へ進む俺と静。

そうして進んでいると、やがて目的地である採掘地点へと到着するのだが……。

 

 

「うわめんどくせぇ、ゴブリン共が陣取ってやがる」

 

「結構数も多いね」

 

 

目的地の採掘地点は少し開けた場所にあり、採掘補助のコンテナやらが置かれたままになっているのだが。

丁度よい野営場所と言わんばかりに、ダンジョンから湧いたであろうゴブリンの一団がそこに陣取っていた。

 

 

「数は1,2の……3、弓兵に呪術師もなし。どうする?」

 

「いつも通りボクが切り込んで注意を引き付けて、そこからは流れで」

 

 

物陰に潜みつつ作戦を練る俺と静、しかしまぁそんなに練れる作戦もない。

 

 

「了解、ほんじゃ……行くぞ」

 

 

足元に転がっていた手頃なサイズの石を拾い上げ、勢いよく振りかぶってゴブリンの内1匹の脳天めがけて俺が投石すると同時に。

静は両手で持った太刀を肩に担ぐように構えながら、まるで地面を這うほどの前傾姿勢で尻尾でバランスを取りながら弾丸のようにゴブリンの一団めがけてすっ飛んでいく。

 

 

「「グギャッ!?」」

 

 

脳天に投石が直撃したゴブリンが崩れ落ちるのとほぼ同時に、静の太刀がスルリと軽やかに薙ぎ払うように振るわれる。

その結果、哀れにももう一匹のゴブリンは上半身を下半身を泣き別れにする形で地面に転がった。

 

 

「相変わらずおっかねえ太刀筋してんなぁ……」

 

 

太刀による薙ぎ払いから体をひねりながら太刀を構えなおす静、そんな彼女に混乱から立ち直ったゴブリンが棍棒を振り下ろす。

しかし静は慌てる事無く太刀を振り、棍棒の軌道と打ち合わせるように太刀を打ち合わせた次の瞬間。

 

戦場となった空間に大きな弾くような音が響き渡る。

 

静の才能である『弾き(パリィ)』によって生じたその音は、言ってみれば武器によるパリィが成功した証だ。

哀れにも弾き(パリィ)によって体勢を崩されたゴブリンはそのまま、成すすべもなく静の太刀で仲間のゴブリンと同じ真っ二つになる末路を辿った。

 

 

「お疲れーい」

 

「ナイス投石、透!」

 

「いやそっちこそ相変わらずの太刀筋だったわ」

 

 

ゲーム的に言うと奇襲で2匹撃破からの、ゴブリンの攻撃に対してのカウンター発動で即殺って感じだ。

敵からしてみたらクソゲーにもほどがある。

 

 

「あ、見て見て透! ゴブリンが宝箱落としてる!」

 

「いつ見てもコレほんと不思議極まりねえ……」

 

 

俺と静が互いの健闘を称え合っている間にゴブリン達の死体も血痕も消失し、ゴブリンの死体があった場所に一つの宝箱が出現していた。

魔物の死体が消えるのは何か小難しい理屈があるらしいが、まぁ死体を剥いだりなんやらしなくて良いから気持ち的には正直有難い。

 

一部の魔物とかは死体そのものが素材になるとかで残るらしいが……まぁ俺には縁がない話だな、うん。

 

 

「実習ダンジョン程度の宝箱なら俺でも開けられるな、少し離れててくれ」

 

「うん! 透も気を付けてね」

 

 

手首をほぐしながら静に告げ、俺は瞑目して脳内のスイッチを切り替えるイメージで自身を前衛から斥候に自己定義し直す。

時間として十秒ちょっと、たかが十秒されど十秒。

 

戦闘中に切り替えるのは厳しいので使い勝手は悪いが、こういう時は便利な才能である。

 

 

「中身は何かな、っと……」

 

 

宝箱の外観チェック、罠チェック、細工チェックと慎重に目と指と耳で情報を集めながら宝箱に向き合う。

注意一秒怪我一生、とどめにまさかのテレポーター……とまではいかないが、慎重にやり過ぎて困る事はない。

 

しかしちょっとばかり様子がおかしい。

 

 

「……てちょっと待て」

 

「どうしたの?」

 

「いや、思った以上にコイツは厄介だ。俺の技術じゃ厳しいかもしれん」

 

 

衝撃程度でどうにかなる罠はかかってなさそうだが、錠前の難易度が斥候に役割変更した程度では厳しそうな難易度だ。

宝箱のサイズは奥行き30cmちょいに幅40cmちょい、か……よし。

 

 

「箱を担いで窓口まで持っていこう」

 

「え、えぇ……いいの? ソレ」

 

「ダメとは規定に書かれてないからな、大丈夫だ問題ない」

 

 

窓口の人に開けてもらう大作戦を決行しよう、中身によっては手間賃取られるけどしょうがない。

無理に開けようとして、場違いな罠にかかるのはアホらしいしなぁ。

 

 

「そうと決まればまずは採掘するぞ採掘、周囲警戒は任せた」

 

「うん、わかったよ!」

 

 

というわけで今度は役割を採掘者に自己定義し直し、つるはしを構えてえっちらおっちらと採掘を行う俺。

我ながら便利なのは間違いなしである、しかし便利でしかないこの悲しみよ。

 

そして採掘の間追加で襲われることもなく指定の量鉱石も集まったので、背負い籠に詰めた後宝箱を両手で抱える。

背中の荷物と合わせての宝箱運搬なので結構重いしまともに戦える状態ではないが、いざとなれば宝箱を投げ捨てればよいから多分問題はない。

 

 

「警戒は任せて!ボク頑張るから!」

 

「頼んだぞー」

 

 

特に大きな危険はなく、それどころか期待していなかったドロップ品まで手に入れた今回のダンジョン探索。

何処からどう見ても大成功と言って良いだろう。

 

俺自身楽しくないかと言われたら嘘になるし、準備を重ねればリスクを抑えられるスリルは娯楽として格別と言われるのも理解できる。

だからこそ、何をするにしても中途半端な役割にしかなれない自分を思い知らされて、その事実が俺の胸をザワつかせてくる。

 

もう随分前に割り切ったつもりだったが、俺もまだ未練を捨てきれないらしい。

 

 

「透、大丈夫?」

 

「ん? ああすまん、すぐに行く」

 

 

無意識に足を止めていた俺へ振り替える静の顔に、慌てて俺は噛みしめていた奥歯を緩め表情を取り繕い足を進める。

今回のダンジョン自由実習は成功した、その上なんか結構なお宝もゲットできるかもしれない。 それでいい。

 

気持ちを切り替えて俺たちは自由実習ダンジョンから無事脱出し、そのまま窓口まで宝箱を持っていく。

擦れ違った学生クロウラーが羨ましそうな顔をしてきているのは、たまにこうやって持ち出される宝箱から出てくるモノは大体外れがないと広く知られているからだろう。

 

 

「宝箱の開錠をお願いします、罠は見たところ無さそうですが錠前の中までは確認出来ていません」

 

「承知しました、それではこちらの番号札を持ってあちらでお待ちください」

 

「わかりました、それとこちら依頼で出ていた鉱石です。こちらの確認もお願いします」

 

 

スマホを操作して内容を証明しつつ、背負っていた籠もついでに窓口へ引き渡す。

まとめて出せよと言わんばかりの視線を窓口の人から受けた、ごめんて。

 

ともあれこの後やる事は割とルーチンワークになる。

俺と静はそれぞれ男女別の更衣室で装備を外した後、俺はつるはしや胸当てなどの装備を返却する。

 

一方で太刀や防具を自前で持ち込んだ静は、不備がないか装備を点検するため少々時間を要する。

その為俺は宝箱の開錠を待つついでに、いつもの待合室の椅子に腰かけて静を待つ形になるわけだ。

 

しかしこう、当たり前だけど学生が多い。

そして自由実習としてダンジョンに潜る学生というのは大体が俺と違って、静のように闘いに向いた何かしらの才能を有する人物ばかりだ。

 

普通に生きていく分には滅茶苦茶潰しが効く才能だから贅沢な悩みかもしれんけど、それでも俺も冒険に向いた才能が欲しかったと思ってしまう。

そんな事をぼんやり考えていると、和やかな空気が満ちている待合室の空気を壊すような声が聞こえてきた。

 

 

「おい浩二見ろよ、幼馴染におんぶ抱っこな無能がいるぜ?」

 

「やめろよ亮太、本当のこと言ったら可哀想じゃねえか」

 

 

周囲の迷惑そうな視線や空気に気づいてないのか無視しているのか、そんなことをやいのやいの言いながら俺に聞こえるかのように視線を向けながら会話に興じる一団がいる。

才能が特にモノをいうクロウラーでは、こういう輩も大分いるのが頭が痛い。相手するのも煩わしいし無視しとこ。

 

 

「無視してんじゃねーぞカス無能が」

 

「そうだぞ」

 

 

そう思ってたら向こうから絡んできた、近寄らないでほしい。

クロウラーってのは強さがあってナンボではあるが、品性も投げ捨てて良いとは誰も言ってないんだよなぁ。

 

 

「おい何だよその目はてめーよぉ、ここでボコっちまってもいいいんだぜ?」

 

「相変わらず血の気が多いなおめーは、けどコイツのスカしたところは前から俺も気に入らなかったんだよな」

 

 

訂正、どうやら俺はどうしようもないアホを見る目をこいつらに向けていたらしい。

俺もまだまだ子供だな、いや身体年齢は子供そのものなんだけど。

 

ちなみにクロウラー同士の揉め事は当事者間の問題と片付けられる事が多い、多いのだが自分を含めここにいる大多数は学生である。

そして学生であるという事は規則に縛られていると同時に規則に守られている、これがどういう事かというと。

 

 

「お前さぁ、なんか宝箱持ち帰ったんだって? ソレよこしたら見逃してやるよ」

 

「露骨にも程があるんじゃねえか亮太、まぁ俺も賛成だけどよ。ついでに狐森(こもり)もこっちに寄越しな」

 

 

こういう脅迫行為は論外だし警告の対象、悪質度合いによっては処罰の対象になるという事だ。

ドロップ品の恐喝、更にパーティメンバーの強請りとまで来たら割と一発でアウトなんだよなぁ。

 

こんなの授業でも言われる範囲なんだけど、なんでこういう輩は……いや、考えてもキリがないしやめとこ。

ちなみに狐森(こもり)というのは静の苗字だ。

 

 

「とりあえず後ろ見ろ」

 

 

これから屠殺場の豚を見る目で目の前で好き放題言葉を投げかけてくる二人に対し、後ろを見るよう指を差しながら促す。

 

 

「バカにしてんじゃねぇぞカス無能!!」

 

 

しかし俺の最後の善意も悲しい事に通じなかったのか、片割れが腕を振り上げて俺を殴りつけようとする。

だがその腕は屈強な係員によって掴まれ、びくとも動く事はなかった。

 

 

「スタァップ! 君達は重大な規約違反をしている!!

 

 

俺を殴ろうとした男を止めたのは装備の手入れが終わって戻ってきた静、ではなく。

屈強極まりない体格をした係員のおじさんである、前に雑談で盛り上がったときに聞いたところバリバリの前衛クロウラーをやっていたが膝に矢を受けて引退したらしい。

 

 

「そっちの君、災難だったね」

 

「……いえ、お疲れ様です」

 

 

顔なじみのおじさんに声をかけられ、俺は軽く頭を下げる。

規約違反者がこれから食らうであろう処分に、俺は内心少し胸がスッキリするのを感じていた。

 

しかし問題は過ぎ去ったとはいえ修理からの視線とひそひそ声、それらが少しばかり煩わしくも感じるので俺は椅子から立ち上がり待合室から出る。

 

 

「透、何かあったの!?」

 

「あー……大丈夫だ、問題ない」

 

 

そして防具を入れたショルダーバッグと、太刀を入れた竹刀袋を抱えて静が駆け寄ってきた。

どうやら慌てて走ってきたらしい彼女に対し、俺はどこから説明すればよいか考え……面倒になったので説明を放棄した。

 

 

「説明になってないよ」

 

「……まぁアレだよ、いつも俺にアホみたいに絡んでくる二人組が明確な規約違反をしてしょっ引かれた。そういう事」

 

「あーー……」

 

 

しかし俺の言いくるめ判定は無残に失敗し、静は視線で説明を求めてくる。

故に俺はなんであんなアホ共の為に説明に苦慮せにゃならんのだと内心悪態を吐きながら、ざっくりと説明をすると静も思い当たる節があるのか眉をハの字にして何とも言えない表情を浮かべた。

 

 

「あの二人かー、前にボクにパーティに入るよう強要してきたんだよね」

 

「マジで? その時は大丈夫だったのか?」

 

「ボクに一撃当てれたら考えてあげるって言ったのに、碌な剣筋じゃなかったから全部弾いたら諦めて帰ったよ」

 

「お、おう……」

 

 

あいつら確か同級生の中でも結構上位の前衛勢だったよな……。

しかしやっぱり静は人気あるなぁ、見た目は小柄でかわいらしい狐耳尻尾の美少女だからそれもわかるっちゃわかるけど。

 

でもコイツ、刀抜いたら修羅なんだよな。

そんな俺の考えを見抜いたのか、静は狐耳をぺたんと後ろに倒してジト目で俺を見上げてくる。

 

 

「何か変なこと考えてない?」

 

「いや何も」

 

 

視線を逸らして追及をかわす俺、そろそろ厳しくなってきたと感じた頃に救いのアナウンスが響いてきた。

どうやら宝箱の開錠と中身の確認が終わったらしい。

 

 

「よし行くぞ静!」

 

「……もう」

 

 

これ幸いとばかりに小走りで逃げ出した俺に対し背後で溜息を吐いた静の声を感じつつ、俺はそそくさと窓口へ向かう。

するとそのまま窓口で説明が始まるのかと思いきや、そのまま別室に俺たち二人は通された。

 

係員に案内されて俺達2人が入った部屋、その部屋の中にあるテーブルの上には。

何かの薬液が入ってると思しきポーションが一つ置いてあった。

 

 

「お待たせしました、こちらが宝箱の中身になります」

 

「詳しく聞いてもよろしいですか?」

 

「はい、それでは説明しますね」

 

 

ポーション瓶の中身は絶えずゆっくりと滞留するように半透明の液体が動いており、時折光の角度が変わるのか色が変化しながら輝いているように見える。

怪我を治すポーションなら純度や濃度は違えど基本赤だし、魔力を回復するなら青だ。

 

 

「こちらは才能を開花させるとても珍しいポーションのようですね」

 

「そんなポーションがあるのですか?」

 

「はい、と言ってもほぼ透明ですから効果は微々たるモノと思われますが」

 

「へぇー……」

 

 

どうやら別室に通されるだけはある、大分貴重なポーションを俺達は引き当てたらしい。

 

係員の人の説明を聞いた静は、机の上に顔を乗せるような姿勢を取りながらマジマジとポーションを見つめている。

一方で俺の心は想定以上の代物を引き当てた事に対する喜びと、もしかすると俺の才能が少しはマシになるのではないかという希望が頭を擡げていた。

 

 

「こちらを窓口で引き取る場合は、そうですね……これぐらいの金額でお引き取りしますが如何でしょうか?」

 

「わっ、凄い金額」

 

「それだけ欲しがる方は多いですからね」

 

 

俺の内心を他所に話を進める係員と静、係員が提示した金額は自由実習ダンジョンで得られるお金とは思えない文字通りの桁違いの金額だった。

 

隠す事のない本音を言えば俺は喉から手が出るほどこのポーションが欲しい。

しかしこのポーションは静と共に潜った事で得られたポーションだ、俺自身が欲しいからと言って独占して良いものじゃない。

 

 

「……あー、どうする? 静」

 

「うーん、そうだねー」

 

 

俺は口の中が急速に乾いていくのを感じながら、視線をポーションと静の間で彷徨わせて若干上ずった声で静へ問いかける。

金額に腰が引けていると静が勘違いしているのを願うぐらいには、俺の心は動揺していた。

 

 

「このポーション、そのままこっちで受け取っても大丈夫ですか?」

 

「ええ大丈夫ですよ、ただ万が一に備えてこの部屋の中で服用していく事をお勧めします」

 

「……別室から出てきたクロウラーが、何かを後生大事に抱えてたら悪い事考える人いそうだもんね」

 

 

静が口にした言葉に係員は特に狼狽えた様子もなく応じつつ、防犯上の理由からここで飲むことを勧めてくる。

内容が内容だけに、静はそりゃそうだと言わんばかりに頷いて見せた。

 

そして静はポーションを手に取るとそのままこちらへと振り返り。

ポーション瓶をこちらに差し出してきた。

 

 

「はい、あげる」

 

「……え? いや待て、落ち着け静」

 

 

突然の幼馴染の行動に今度こそ思考が停止し、俺は言葉を返す。

おそらく俺の声は上ずっていたのだろう、とにかく動揺している事だけしかわからない。

 

 

「だって透さ、さっきから凄いこのポーション欲しそうにしているもん」

 

「……そんなに欲しそうにしていたか?」

 

「うん、目がギラついてたし態度が露骨だったよ」

 

「そうか、まじかぁ……」

 

 

思った以上に幼馴染に丸分かりだった自分の浅ましさを恥じながら、俺は恐る恐る手を伸ばして静からポーションを受け取る。

 

 

「しかしこんなの譲られたら何を返せばいいんだ俺は……」

 

「そうだねー、ボクがピンチの時に助けてくれればそれでいいよ!」

 

「それでいいのか……って、お前がピンチになるってソレ。 ダンジョンくらいしかありえねえじゃねえか」

 

「じゃあ、ポーション代分付き合ってね!」

 

 

震える手でポーションを見つめる俺に構う事無く、静は尻尾をゆらりと振りながら屈託のない笑みを向けてくる。

係員が向けてくる青春を見るような眩しそうな視線を感じながら俺と静は言葉を交わし……。

 

俺は腹を括ると、ポーションの封を切って一息に中身を飲み下した。

そして次の瞬間、凄まじい味覚の暴力と喉越しの悪さが俺の口の中と喉を通り抜けていく。

 

 

「う゛っ……?!」

 

「どうしたの透!」

 

「に、煮詰めたコーヒーに砂糖と蜂蜜ぶちまけたような味がする……!」

 

「た、耐えて透!!」

 

 

静が心配そうにオロオロしながら俺を見上げてくる中。

俺は必死に嘔吐感を堪え、涙を滲ませながら必死に吐かないよう瞑目して堪える。

これで何も効果がなかったら静に申し訳なさすぎる、そう考えていたその時だった。

 

 

いつものように役割を設定する時の感覚の中に、一枚の紙が見えた。

ソレを俺が見間違える事などあるわけのない紙、前世で慣れ親しんだTRPGのキャラクターシートそのものだった。

俺は意識の暗闇の中でその紙に手を伸ばし、その手が届いた次の瞬間。

 

俺の視界は白く染まり、その中で着ていない筈の鎧の重みを感じていく。

そして視界が開けて俺が最初に目にしたのは、心配そうに俺の顔を見上げているであろう静の狐耳だった。

 

 

「……ぬ? 静嬢、急に身長が縮んだか?」

 

「ち、違うよ透!」

 

 

驚きの余り耳をピンと立て尻尾の毛まで若干逆立っている静の言葉に、俺は部屋の中を見渡す。

薬を飲んで意識の中に見えたキャラシートへ触れる前よりも、明らかに視点が高い。

 

俺が口にしたはずのその言葉は、知らない男の声と口調をしていた。

 

 

「何か背負って……コレは両手剣か? それに身に着けてるのはプレートアーマー?」

 

 

明らかに先ほどまでと身に着けているモノが違うばかりか、背負っている長物の柄に触れるだけで感覚的に何か理解できた物体に混乱が深まっていく。

いや、何か首元からもぶら下げて……。

 

鎖で首元から提げられていたソレをチャリ、と音を立てながら目の高さへ持ち上げて確認する。

ソレは銀と思しき金属で作られたウォーハンマーを象った紋章だった。

 

俺はこれを知っている。

知識としてだけではなく、この体が当然のように憶えている。

 

コレは……前世で初めて遊んだTRPGの世界観の中で傭兵やドワーフによく信奉されていた、戦を司る神の聖印だった。

 

 




主人公が変身したキャラクターは平たく言うと。
某SW1.0で前世で使用していた、マイリープリーストファイターです。

感想は無限に欲しいので、質問でも何でも書いてくれると嬉しいです(露骨なアピール)

AIのケツ引っ叩いて描かせるキャライメージ絵は必要ですか?

  • どちらでもよい
  • AI絵じゃないのが好ましいがないよりマシ
  • AI絵ならいらない
  • お前の財布を酷使しろ(断固たる決意)
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