「顔60点、体100点」と評価されている幼馴染と同棲することになった俺。彼女は無防備なうえに甘やかしてくるので、毎日が刺激的すぎるんだが…! 作:白井ムク
小晴はスーパーの入口にいた。買い物かごを手にしたまま、店内へ入らずにスマホを眺めている。
「小晴」
声をかけると、小晴はゆっくりと顔を上げた。
「律くん……帰らなかったの?」
「悪かった」
「え?」
「さっきの。虫の居所が悪くて」
「……べつに、気にしてないよ。ぜんぜん平気」
予想した通りの答えだった。
「嘘つけ」
「嘘じゃないって」
「俺の『なんでもない』は、なんでもなくないんだろ?」
小晴が目を瞬く。
「だったら、小晴の『ぜんぜん平気』だって、本当はぜんぜん平気じゃないってわかる」
小晴は視線を逸らした。
「でも、なにも知らないくせに、私がわかったふりをしたのが悪いから」
「それでも、俺があんな言い方する必要はなかった。小晴がなにも知らないのは当たり前だ。俺がなにも話してないんだから」
「……うん」
「だから、ごめん。本当に悪いと思ってるよ」
律が頭を下げると、小晴はしばらく黙っていた。やがて小さな声で言う。
「……傷ついた。律くんに関係ないって言われたの、ちょっと嫌だった」
「うん」
「何年も会ってなかったのは本当だけど、私はずっと律くんのこと、大事な幼馴染だと思ってたから」
「……うん」
「今の律くんを知らないって言われたのも、寂しかった」
胸が痛んだ。だが律は、誤魔化さずに小晴の言葉を聞き続けた。
——と。
小晴は少しだけ、困ったように笑った。
「でも……怒ってくれたのは、ちょっと嬉しかったよ」
「え? なんで?」
「だって、昨日からずっと私に遠慮してたでしょ?」
「いや、遠慮なんて……」
「してたよ。私が急に家に住むことになっちゃったから、困ってても嫌だって言えなかったんでしょ?」
否定できなかった。小晴の同居を嫌だとは思っていない。それでも突然すぎて戸惑ってはいた。だが、その気持ちを小晴や紀子へ素直に言えなかった。
「でも、さっきは……あんな言い方は嫌だったけど、律くんが感情をぶつけてくれたことは嬉しかったんだ」
「ただの八つ当たりだけど」
「うん。それはちゃんと反省してください」
「……はい」
律が素直に謝ると、小晴は少しだけ笑った。
「それで、なにがあったの?」
律は迷った。だが、ここで話さなければまた同じことになる。
「……ここ、暑いし。中に入るか」
二人はスーパーの中へ入り、日用品売り場へ向かった。シャンプーなどが並ぶ棚に着くと、律は棚を見ながら言う。
「一昨日、カノジョにフラれた」
「……え?」
「小晴がうちに来た日」
「じゃあ、玄関で泣きそうな顔してたのって……」
「再会に感動したわけじゃない」
「ほんとに違ったんだ……ショックー……」
「そこで残念そうにするなよ。いや、再会には感動したって。ちょっとは」
そこで若干空気がほぐれ、小晴に笑みが戻る。
「それで、元カノさんはどんな子だったの?」
「学校で一番ってくらい可愛い子」
「それ……盛ってない?」
「残念なことに、ぜんぜん盛ってないんだ、これが」
律はスマホを取り出し、陽依のインストのプロフィール画面を見せた。途端に小晴の目が大きく見開かれる。
「えっ、モデルさん!? フォロワー十万人!?」
「まあ……モデルはやってないけど、スカウトならされたことあるって」
「この子と付き合ってたの!?」
「一ヶ月だけな」
「嘘……」
「いや、ちゃんと二人で撮った写真もあるぞ」
「AIでつくったやつ?」
「さっきから俺への信用スコアが低すぎるだろ……」
今度はツーショットの写真を見せると、小晴は何度も画面と律を見比べた。
「……律くん、やるじゃん」
「どういう意味だよ?」
「だって、すっごく可愛いから。でも、どうして別れちゃったの?」
「まあ……いい人なんだけど、なんか違うって」
言葉にすると胸がまた痛んだ。
「恋人っていうより、友達の延長みたいだって。俺がずっと陽依に合わせてるだけに見えたらしい」
「……そっか」
「だから、小晴にいい人って言われたとき、思い出した。勝手に腹が立って、つい八つ当たりしたんだ」
「そうだったんだ」
「ほんとに、ごめん」
「ううん。理由、話してくれてありがと」
そう言って、小晴は目当てのシャンプーとコンディショナーをカゴへ入れた。